説明

椅子の座又は背もたれ

【課題】インナーシェルにその表面側からナットが嵌め込み装着されている椅子用座又は背もたれにおいて、ナットが取付け容易でしかも抜け不能及びビスに連れ回りしない構造を提供する。
【解決手段】ナット21はねじ筒25と張り出し部26とを有する。インナーシェル11には、ナット21を所定姿勢で嵌め込みできる平面視で細長いナット収納凹所22と、ナット21に連続した一対の袋状部32とが形成されている。ナット収納凹所22に嵌め込んだナット21を左回転させると、ナット21は張り出し部26の一部が袋状部32の内部に嵌まり込み、ビス20をねじ込みできるように抜け不能で回転不能に保持される。ナット収納凹所22の内周面29には、ビス20のねじ戻し時にナット21を戻り回転不能に保持する突起34が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、椅子の座又は背もたれに関するものであり、より正確には、合成樹脂製のインナーシェルの表面にクッションを張った構造でビスで支持部材に締結されるようになっている椅子用座又は椅子用背もたれに関するものである。
【背景技術】
【0002】
事務用等の椅子において、座又は背もたれを合成樹脂製のインナーシェルにクッションを張った構造にすることが広く行われている(なお、インナーシェルは、座板や背板、或いは芯板、基板等の名称で呼ぶことも可能である。)。インナーシェルは支持部材に固定する必要があり、この固定手段としては、ビスによる固定や、弾性変形する爪類を利用したスナップ係合などが採用されているが、ビスによる固定は、高い締結強度を得ることができる利点や取り外しが容易である利点がある。
【0003】
座板を脚装置に固定する方法として特許文献1には、角頭付きボルトとナットとを使用して、座板の表面(上面)にボルトの角頭が回転不能に嵌まる座ぐり穴を形成して、座板と脚装置とに上方から挿通したボルトに下方からナットをねじ込むことが開示されている。特許文献1は、座板の表面が常に露出しているものを対象にしており、従って、ボルトを座板及び脚装置に上方から差し込むことも可能であり、また、ナットのねじ込みやねじ戻し作業に際して人がボルトの頭を座ぐり穴に押さえておくことでボルトを回転不能に保持することもできる。
【0004】
他方、座や背もたれがクッションを備えている場合は、ボルト(ビス)をインナーシェルに上方から差し込んでおくとは引っ掛かりの問題や、組立に際して位置合わせが行いにくいと言った問題があり、従って、クッションが張られている場合は、インナーシェルには予めナットを取付けておいてビス(ボルト)を下方からねじ込むのが好適であり、また、ナットはインナーシェルに回転不能に保持されている必要がある。
【0005】
そして、ナットをインナーシェルに回転不能に配置する方法としては、インナーシェルの成形時に予めナットをインサートしておく方法(例えば特許文献2参照)と、インナーシェルを成形してからナットを取り付ける方法とがある。
【特許文献1】実開平5−34947号公報
【特許文献2】特公昭52−28065号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、環境負荷の低減や資源再利用のため、廃棄物は同種素材ごとに分別することが社会的要請になっているが、ナットをインサート成形によってインナーシェルに取り付けると、座又は背もたれの廃棄後の分別が厄介になるという問題がある。従って、リサイクル促進や廃棄処理コスト抑制のためにはナットをインナーシェルに後付けすることが好ましいが、ナットは、ビスのねじ込みを可能ならしめるために回転不能及び抜け不能に保持されている必要がある。また、取付けの容易性も必要である。
【0007】
更に、椅子の座や背もたれは、例えば張地が汚れたり擦り切れたりすることで交換することがあるが、この交換も確実かつ容易に行える必要がある。特に、座や背もたれの交換をユーザーが行う場合は、ドライバのみで簡単にしかも確実に交換できるように配慮されるべきである。
【0008】
本願発明は、このような要請に応えるべく成されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明は椅子の座又は背もたれに係るもので、この座又は背もたれは、合成樹脂製のインナーシェルの表面にクッションを張った構造であり、前記インナーシェルにはその表面側からナットが嵌め込み装着されており、前記インナーシェルは、その裏側に配置された支持部材に対して、前記支持部材に裏側から挿通したビスを前記ナットにねじ込むことによって締結されるようになっており、前記ナットは、雌ねじ穴を挟んだ両側に突出した板状の張り出し部を有していて雌ねじ穴の軸心方向から見て細長い形態になっている。
【0010】
そして、本願発明において、前記インナーシェルには、前記ナットを所定の姿勢でのみ嵌め込みできるナット収納凹所が表面側に開口するように形成されており、前記ナット収納凹所はナットの張り出し部が重なる底板を有していてこの底板に前記ビスが貫通する取付け穴が形成されており、更に、前記インナーシェルのうちナット収納凹所に連続した部位には、ナット収納凹所に所定姿勢で嵌め入れたナットをビスのねじ込み方向に適宜角度回転させることを許容する袋状部が、インナーシェルの裏側とナットとに向けて開口するように形成されており、前記袋状部には、ナットをインナーシェルの表面側に移動不能に保持する天板と、前記ナットをビスのねじ込み方向に回転させると張り出し部の端面が当たって回転不能に保持するストッパー面とが形成されている。
【0011】
さて、市販されているナットとして、円筒形のねじ筒を備えていてこのねじ筒の一端部に一対の張り出し部が形成されているものがある。このナットは「Tナット」と称されており、本願発明はこのタイプのナットを使用したより好適な構成も含んでおり、これは請求項2に記載している。
【0012】
すなわち請求項2の発明は、請求項1において、先ず、ナットは上記したTナットであり、更に、前記ナット収納凹所の内周面には、前記ナットの張り出し部が袋状部に入り込んだ状態から戻り回転するに際してその先端部の端面が当接し得る戻り止め用突起が、取付け穴の軸心を挟んだ対象の位置に一対形成されている。
【0013】
更に、前記取付け穴の軸心から突起までの間隔寸法を前記ナットにおける張り出し部の半径と略同じか僅かに小さい寸法に設定しており、更に、前記取付け穴の内周面とナットにおけるねじ筒との間には、ナットが芯ずれしてその張り出し部の先端部の側端面が前記突起に当たることを許容する隙間が空いており、ナットの張り出し部の側端面が突起に当接した状態でナットの張り出し部は部分的に袋状部に入り込んだ状態に保持されている。
【発明の効果】
【0014】
本願発明によると、ナットは、インナーシェルのナット収納凹所に嵌め入れてからビスのねじ込み回転方向にある程度の角度だけ回転させるというワンタッチ的な作業により、ビスをねじ込み可能でかつ抜け不能の状態に取付けられる。従って、ナットの取付け作業は極めて簡単であり、また、廃棄後におけるインナーシェルとナットとの分別作業も頗る簡単である。
【0015】
さて、インナーシェルを支持部材から取り外すためにビスをドライバ(レンチ)でねじ戻す場合、ナットがビスと連れ回転して張り出し部が袋状部から抜け出ることが想定され、また、ビスをドライバでねじ戻すに際してドライバはビスとの係合状態(嵌合状態)を保持するために押し勝手になっているため、ナットの張り出し部がインナーシェルのナット収納凹所から外れることが想定され、すると、ナットが空回りしてインナーシェルを取り外しにくくなる虞がある。
【0016】
これに対して請求項2の構成を採用すると、ビスのねじ戻しに際して突起によってナットを逆回転不能に保持できるため、インナーシェルの取り外しを的確に行える利点である。
【0017】
つまり、ナットのねじ筒とインナーシェルの取付け穴との間に隙間(クリアランス)があると、ビスをねじ戻すに際してナットのねじ筒が取付け穴と同心ということは有り得ず、ねじ筒は取付け穴の内周面のどこかに当たることで安定した状態に保持されるのであるが(つまり、ナットは取付け穴に対して芯ずれするのであるが)、すると、ナットにおける一対の張り出し部のうち何れか一方がナット収納凹所の内周面に近接又は当接して、ビスのねじ戻し方向に逆回転しようとするとその逆回転が収納凹所の突起によって阻止され、しかも、ナットの張り出し部はその一部が袋状部に入り込んだ状態であるためナットはナット収納凹所から抜け不能に保持されるのである。
【0018】
そして、一対の突起の間隔寸法はナットにおける張り出し部の外径寸法と略同じか僅かに小さい寸法であるため、ナットをナット収納凹所に嵌め込むことは容易に行える(一対の突起の間隔寸法がナットにおける張り出し部の外径寸法よりも多少大きくても、突起を弾性変形させることで容易に嵌め込みできる。)。
【0019】
従って、請求項2の構成を採用すると、ナットの取付けの容易性を損なうことなくインナーシェルを簡単にしかも確実に取り外すことができるのであり、このため、ユーザーが座や背もたれを取り外しできる椅子に適用すると特に好適であると言える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
次に、本願発明の実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態は、児童・生徒が学習机とセットで使用する椅子に適用しているが、勿論、事務用椅子のような成人用の椅子にも使用できる。
【0021】
(1).椅子の概要
図1は椅子を前方から見た斜視図、図2は主要部材の分離斜視図であり、両図に示すように、椅子は、脚支柱(ガスシリンダ)2を有する脚装置1と、脚支柱2の上端に固定したベース3とベース3の上方に配置された座4と、座4の後方及び上方に配置された背もたれ5とを備えている。
【0022】
椅子は、更に、左右のフレーム6をフロント軸7及びリア軸8で連結した中間金具9を備えており、中間金具9のフロント軸7はベース3に形成した前後長手で側面視後傾姿勢のスライド穴に挿通している。また、ベース3には背もたれ5が取り付く傾動フレーム10が後傾可能に連結されており、傾動フレーム10と中間金具9のリア軸8とが連結されている。このため、背もたれ5が後傾すると座4も一緒に後傾しつつ後退動する。ベース3の内部にはロッキング用ばね等の部材が配置されているが、本願との関係はないので説明は省略する。
【0023】
図2に示すように、座4は、インナーシェル11と、インナーシェル11の上面に張ったクッション12と、インナーシェル11の下方に配置したアウターシェル14とから成っており、アウターシェル14は中間金具9に前後位置調節可能に取付けられている。
【0024】
クッション12はクロス15で覆われている。また、クッション12のうち周囲の部分は弾性変形率(圧縮率)が低い縁部材12aから成っている。これは、座4の周縁部を角張った形態と成すための処置であり、デザイン上の要請に基づいている。なお、本実施形態ではクッション12はシート状のものを裁断してインナーシェル11に接着しているが、インサート成形によってインナーシェル11に一体化することも可能である。
【0025】
インナーシェル11及びアウターシェル14は、共にポリプロピレンのような樹脂を合成素材として射出成形法によって製造されており、インナーシェル11は上向き凹状に反っている。他方、アウターシェル14も略平坦状の底部14aとこれに連続した左右の傾斜状サイド部14b及び傾斜状のリア部14cとを有して基本的には上向き凹状に浅く凹んだ形態になっており、凹みの程度はインナーシェル11よりも大きくなっている。そして、インナーシェル11の左右側部をアウターシェル14の左右サイド部14bの上部に締結することにより、インナーシェル11が着座した人の体圧で伸びて下向きに沈み込み変形することを許容している。
【0026】
インナーシェル11にはその下向き延び変形(沈み込み変形)を助長するためのスリット16の群が形成されている。また、アウターシェル14の前半部には、底面から上向きに突出した下向き枠状部17が形成されており、インナーシェル11と下向き枠状部17との間には僅かの隙間しか空いていない。なお、背もたれ5も座4と同様にインナーシェル18にクッション19を張った構造になっているが、以下の説明では、インナーシェルの文言は専ら座4のものに限定して使用している。
【0027】
(2).インナーシェルの締結構造
インナーシェル11は左右側部が3箇所ずつビス20及びナット21によってアウターシェル14に締結されており、このため、インナーシェル11の左右側部には3箇所ずつのナット収納凹所22が形成されており、他方、アウターシェル14の左右サイド部14bにはナット収納凹所22に対応した3箇所ずつの台座部23が形成されている。
【0028】
以下、インナーシェル11とアウターシェル14との締結構造を主として図3以下に基づいて説明する。図3はインナーシェル11とアウターシェル14とをずらして配置した状態での平面図、図4のうち(A)は要部の平面図、(B)はナット21とインナーシェル11との分離斜視図、(C)は(A)のC−C視分離断面図、(D)は(A)のD−D視断面図、図5はナット21の装着手順を示す平面図、図6は図5(B)のVI−VI視断面図、図7はナット21の逆回転防止機能を示す平面図である。
【0029】
図4(B)に明示するように、ナット21は、内周に雌ねじが形成されている円筒形のねじ筒25と、ねじ筒25の一端部に一体に設けられた一対の板状張り出し部26とから成っている。張り出し部26は直線状に延びており、ねじ筒25の外径寸法よりやや大きい幅寸法でかつ外周はねじ筒25の軸心を曲率半径の中心とする円弧状に形成されている。このため一対の張り出し部26は全体として小判形に近い形状になっている。なお、ナット21は市販品である。
【0030】
インナーシェル11の左右側部は正断面視で中間部に向けて高さが徐々に低くなるように僅かの角度で傾斜しており、スリット16の群の外側に部位に、下面を水平面と成した下向き突条部27が段落ち状に形成されており、この下向き突状部27の箇所にナット収納凹所22が形成されている(下向き突状部27はナット収納凹所22の箇所だけに形成することも可能である。)。
【0031】
ナット収納凹所22は、ナット21の張り出し部26がすっぽり嵌まる細長い形状であり、ナット21の張り出し部26が重なる底板28と平面視で円弧形の内周面29とを有しており、底板28に、ナット21のねじ筒25が嵌まる取付け穴30が貫通している。本実施形態は、ナット収納凹所22は、左右のナット収納凹所22が平面視でハの字の姿勢となるように(正確には、左右一対のナット収納凹所22の間隔が後ろに行くに従って狭まるように)、インナーシェル11の前後長手線31に対して傾斜させており、傾斜角度θは約45度に設定している。
【0032】
インナーシェル11の左右側部は正断面視で緩く傾斜しているので、ナット収納凹所22の深さもインナーシェル11の中心線に向けて徐々に浅くなっているが、最も浅い部分においてもナット21における張り出し部26の板厚寸法よりは大きい深さ寸法になっている。そして、インナーシェル11のうち各ナット収納凹所22に連続した部位には、ナット21をその張り出し部26が前後長手姿勢まで回転することを許容する袋状部32が取付け穴30を挟んだ対称の位置に一対ずつ形成されている。
【0033】
袋状部32は、平面視でナット21の張り出し部26と部分的に重なる天板32aと、ナット21の張り出し部26が平面視で左回転することを阻止するストッパー面32bとを備えており、これにより、ナット21は左回転不能及び上向き抜け不能に保持されており、その結果、ビス20を下方からねじ込むことが可能ならしめられている。袋状部32はナット収納凹所22に連通していると共に下方にも開口している。下方に開口しているのは、密着・離反する一対の金型を使用して射出成形法によって製造するに際して、容易に型抜きできる状態で袋状部32を成形するためである。
【0034】
取付け穴30は閉じてはおらずに取付け穴30と一対の袋状部32とは互いに連通している。これは金型の加工の容易性のためであるが、取付け穴30の周囲に底板28が存在する形態と成すことは可能である。また、例えばナット収納凹所22には、図5(A)において符号33で示すように、ナット21の張り出し部26が右回転する方向に向いて入り込んだ入隅部33が形成されているが、図5(A)に一点鎖線で示すように、ナット収納凹所22の側面22aを全長にわたって直線状に形成することも可能である。
【0035】
ナット収納凹所22における2つの内周面29の曲率半径R1はナット21における張り出し部26の外周面の曲率半径R2よりも例えば1〜2mm程度大きい寸法になっており、この内周面に、半径内側に突出した平面視山形(矩形でも良い)の突起34を設けている(突起34は底板28にも連続している)。取付け穴30の中心から突起34の先端までの間隔寸法(言い換えると突起の先端が当たる仮想円の半径)R3は張り出し部26の半径R2よりやや小さい寸法(0.数mm程度小さい)に設定している。
【0036】
従って、ナット21は突起34を弾性変形させることで袋状部32に押し込み回動させられ、また、ビス20を戻し回転させるに際してナット21は簡単には連れ回転しない。そして、本実施形態のようにナット収納凹所22に入り隅部33を形成しておくと、ナット21をセットするに際して、この入り隅部33にマイナスドライバのような工具を差し入れることにより、テコ作用を利用して張り出し部26を袋状部32に押し込み回転させることができる利点がある。
【0037】
更に、図7(A)に示すように、ナット21のねじ筒25を取付け穴30と同心に配置した状態でねじ筒25と取付け穴30との間にある寸法Eの隙間25が空いているが、隙間25の寸法(正確には、取付け穴30の半径寸法とねじ筒25の半径寸法との差)Eは例えば0.5〜1mm程度に設定している。
【0038】
アウターシェル14の台座部23は水平状でかつ平坦板になっており、台座部23の下面箇所にはビス20の頭20aが入り込む凹所23aが形成されている。言うまでもないが、台座部23にビス挿通穴36が貫通している。図6に示すように、インナーシェル11の左右側端には下向きリブ37が全長にわたって延びるように形成されており、クロス15は下向きリブ37を巻き込んで更に内側に延びている(クロス15は、下向きリブ37の内側においてタッカーでインナーシェル11に固定されている。)。
【0039】
また、インナーシェル11の下向きリブ37がアウターシェル14の左右側端面に当たり得るようになっており、このため、着座した人の体圧によってインナーシェル11が内側に引っ張られる傾向を呈してもビス20に過大な負担がかかることはない。すなわち、インナーシェル11の左右端部の内向きずれ防止は主として下向きリブ37によって担保されている。図示の形態ではアウターシェル14の左右両端とインナーシェル11の下面との間に隙間が空いているが、アウターシェル14の左右両端に上向きリブを形成して隙間を詰めること可能である。
【0040】
(3).まとめ
既述のとおり、ナット21はナット収納凹所22に嵌め入れてから平面視で左回転させることにより、袋状部32で抜け不能及び左回転不能に保持されている。そして、ビス20は右ねじであるため、ナット21にビス20のねじ込みに際して回転不能に保持されており、このためビス20を支障なくねじ込んでインナーシェル11をしっかりと締結することができる。
【0041】
ところで、インナーシェル11の左右側部は着座による荷重によって正面視で傾きが大きくなるような傾向を対する。従って、ナット21が左右方向に長く伸びているとインナーシェル11がナット21の張り出し部26によって突き上げられるような現象を生じる虞がある。これに対して本実施形態のようにナット21をセット状態で前後方向に延びる姿勢にすると、インナーシェル11が荷重によって傾く傾向を呈してもナット21の張り出し部26によってインナーシェル11を下方から突き上げる現象は生ぜず、このためインナーシェル11への負担を軽減して耐久性を向上できる。この点も本実施形態の利点である。
【0042】
インナーシェル11の交換等に際してビス20をドライバでねじ戻す場合、図7(B)に示すように、ナット21のねじ筒25は安定のために必ず芯ずれして取付け穴30の内周面のどこかに当たるものであり、すると、いずれか一方の張り出し部26の端面の先端部がいずれか一方の突起34に当接し、その結果、ナット21はビス20のねじ戻しに連れ回転しない。そして、この状態でナット21における一対の張り出し部26はその端部が共に袋状部32の内部に部分的に入ったままであるため、仮にドライバでナット21が上向きに押されてもナット21がナット収納凹所22から抜け出ることはない。
【0043】
既述のようにR3がR2より小さいため、本実施形態ではナット21の張り出し部26は突起34によって戻り回転が効果的に抑止される(ナット21が芯ずれすると張り出し部26の外周面がナット収納凹所22の内周面29に当接するように設定しておくのが好ましい。)。
【0044】
なお、R3はR2と同じかやや大きい寸法に設定することもよい。また、本実施形態では突起34は平面視で山形に形成しているが、平面視で右回転方向に連続した状態(すなわちナット収納凹所22の内周面29が段違いになっている状態)に形成することも可能である。また、内周面29と張り出し部26の半径差を取付け穴30とねじ筒25との半径差と同じにしたり、内周面29と張り出し部26の半径差を取付け穴30とねじ筒25との半径差より小さくしたりすることも可能である。
【0045】
更に、本実施形態ではナット21はナット収納凹所22に嵌め入れてから約45度回転させることで袋状部32の内部に嵌まり込むが、ナット21を抜けない状態に回転させる角度θは任意に設定できる。
【0046】
(4).その他
上記の実施形態は本願発明の具体例の一つに過ぎず、本願発明は更に様々の形態に展開できる。例えばナット21はねじ筒25を備えていない板ナットを使用することも可能である。また、ビスは六角穴タイプや六角頭タイプなど様々のものを使用できる。更に、本願発明は背もたれにも適用できることは言うまでなく更に、椅子には、ロッキングしないタイプや固定式タイプ、ソファ、ベンチなどの様々のものが含まれている。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本実施形態に係る椅子の斜視図である。
【図2】主要部材の分離斜視図である。
【図3】インナーシェルとアウターシェルとをずらした状態での平面図である。
【図4】(A)は要部の平面図、(B)はナット21とインナーシェル11との分離斜視図、(C)は(A)のC−C視断面図分離断面図、(D)は(A)のD−D視断面図である。
【図5】ナットの装着手順を示す平面図である。
【図6】図5(A)のVI−VI視断面図である。
【図7】ナットの逆回転防止機能を示す平面図である。
【符号の説明】
【0048】
4 座
5 背もたれ
11 座のインナーシェル
12 座きクッション
13 座に対する支持部材の一例としての座用アウターシェル
15 クロス(表皮材)
21 ナット
22 ナット収納凹所
23 台座部
25 ナットのねじ筒
26 ナットの張り出し部
28 ナット収納凹所の底板
29 ナット収納凹所の内周面
30 ナット収納凹所の取付け穴
32 袋状部
32a 天板
32b ストッパー面
34 突起
35 取付け穴とねじ筒との間の隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂製のインナーシェルの表面にクッションを張った構造であり、前記インナーシェルにはその表面側からナットが嵌め込み装着されており、前記インナーシェルは、その裏側に配置された支持部材に対して、前記支持部材に裏側から挿通したビスを前記ナットにねじ込むことによって締結されるようになっている、
という椅子の座又は背もたれであって、
前記ナットは、雌ねじ穴を挟んだ両側に突出した板状の張り出し部を有していて雌ねじ穴の軸心方向から見て細長い形態である一方、
前記インナーシェルには、前記ナットを所定の姿勢でのみ嵌め込みできるナット収納凹所が表面側に開口するように形成されており、前記ナット収納凹所はナットの張り出し部が重なる底板を有していてこの底板に前記ビスが貫通する取付け穴が形成されており、更に、前記インナーシェルのうちナット収納凹所に連続した部位には、ナット収納凹所に所定姿勢で嵌め入れたナットをビスのねじ込み方向に適宜角度回転させることを許容する袋状部が、インナーシェルの裏側とナットとに向けて開口するように形成されており、前記袋状部には、ナットをインナーシェルの表面側に移動不能に保持する天板と、前記ナットをビスのねじ込み方向に回転させると張り出し部の端面が当たって回転不能に保持するストッパー面とが形成されている、
椅子の座又は背もたれ。
【請求項2】
前記ナットは、円筒形のねじ筒を備えていてこのねじ筒の一端部に一対の張り出し部が形成されている一方、
前記ナット収納凹所の内周面には、前記ナットの張り出し部が袋状部に入り込んだ状態から戻り回転するに際してその先端部の端面が当接し得る戻り止め用突起が、取付け穴の軸心を挟んだ対象の位置に一対形成されており、
前記取付け穴の軸心から突起までの間隔寸法を前記ナットにおける張り出し部の半径と略同じか僅かに小さい寸法に設定しており、更に、前記取付け穴の内周面とナットにおけるねじ筒との間には、ナットが芯ずれしてその張り出し部の先端部の側端面が前記突起に当たることを許容する隙間が空いており、ナットの張り出し部の側端面が突起に当接した状態でナットの張り出し部は部分的に袋状部に入り込んだ状態に保持されている、
請求項1に記載した椅子の座又は背もたれ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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