説明

椅子の配列構造

【課題】 着座者の体格の如何に拘らず前方視界を十分に確保できるとともに、通路部分における退避スペースの確保を容易とした椅子の配列構造を提案する。
【解決手段】前後方向及び左右方向のそれぞれに椅子が多列配置されたものにおいて、該椅子2,2,・・を、左右方向において、前側横列Pfに属する各椅子2,(2),・・の中間位置に、後側横列Prに属する各椅子2,2,・・が位置するように配置する。係る構成とすることで、常に後席着座者は、前席着座者の中間に位置し、該位置から前方を臨むことができ、例えば、前席着座者の体格が大きく、後席着座者の体格が小さくても、係る体格の相違に影響されることなく、常に後席着座者の前方視界が確保される。さらに、前側横列Pfの側端に位置する椅子2と後側横列Prの側端に位置する椅子2の間における左右方向のズレによって、退避スペースとして機能する遊休スペースSが形成されることで、上記通路3を通しての人の移動が容易ならしめられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、劇場等のように、多数の椅子が前後左右の多列配置される場合における椅子の配列構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、劇場等の多人数が一堂に会して着座する場所においては、椅子を設置する床面を前方下がりの傾斜面とし、この床面上に多数の椅子を配列するのが通例である(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このように椅子を設置する床面を前方下がりの傾斜面としたのは、前席と後席の高さを異ならせることで、前席に着座した人の体が邪魔になって後席に着座した人の前方視界が妨げられるのを回避するためである。
【0004】
【特許文献1】特開2004−293079号公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような従来一般的な椅子の配列構造を図3及び図4に示している。ここで、椅子2が設置される床面1は、水平線L0に対して所定角度だけ前傾した傾斜線L1に沿った傾斜面とされ、この傾斜面で構成される床面1上に、多数の椅子2,2,・・が、縦横に多列設置されている。
【0006】
この場合、図4に示すように、前側横列Pfに属する各椅子2,2,・・と後側横列Prに属する各椅子2,2,・・は、全て前後方向に延びる同一の直線Lp上に位置するように設置されるのが通例である。
【0007】
このような前後方向における椅子同士の重なりは、上述のように床面1を前下がりの傾斜面として、前席よりも後席の高さを高くすることで、ある程度は解消できる。即ち、前席着座者による後席着座者の前方視界の阻害防止を、椅子の設置高さの調整によって実現するものである。
【0008】
ところが、係る椅子の配列構造は、一般的な基準、即ち、着座者の体格が同じであることを前提とする基準に基づくものであるため、係る一般的な基準から逸脱するような状態が生じた場合、例えば、前席着座者の体格が大きく、後席着座者の体格が小さいような場合には、最早、前席と後席間の高さ調整のみでは解消できず、後席着座者は前席着座者の体によって前方視界が妨げられる、という事態も発生し得る。
【0009】
一方、図4に示すように、通常、各横列の両側方には、建屋壁面4が位置し、該建屋壁面4と横列側端に位置する椅子2との間に、前後方向へ延びる通路3が設定されるが、この通路3の幅寸法は、限られたスペース内により多くの椅子2を設置するという観点から、比較的狭く設定されており、人の退避スペースは殆ど確保されていない。このため、例えば、この通路3を後方側へ移動する人と前方側へ移動する人がすれ違う場合とか、該通路3から横列の椅子2側へ人が出入りする場合等においては、その移動がスムーズに行なわれず、混雑を招来するという問題もあった。
【0010】
そこで本発明では、着座者の体格の如何に拘らず前方視界を十分に確保できるとともに、通路部分における退避スペースの確保を容易とした椅子の配列構造を提案することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明では、所定間隔で前後方向及び左右方向のそれぞれに椅子2,2,・・が多列配置された椅子の配列構造において、上記椅子2,2,・・を、左右方向において、前側横列Pfに属する各椅子2,(2),・・の中間位置に、後側横列Prに属する各椅子2,2,・・が位置するように配置したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本願発明に係る椅子の配列構造によれば、常に後席着座者は、左右方向に隣接する二人の前席着座者の中間の後方に位置し、これら二人の前席着座者間の空隙部分を通して前方を臨むことになる。このため、例えば、前席着座者の体格が大きく、後席着座者の体格が小さくても、係る体格の相違に影響されることなく、常に後席着座者の前方視界が確保され、座席位置に拘らず着座者全員が良好な視界状態で前方を臨むことができる。
【0013】
即ち、この発明は、座席の左右方向(横方向)への位置調整によって後席着座者の前方視界を確保するものであり、これに床面1を傾斜面とする高さ方向の位置調整による前方視界の確保作用を組み合わせることで、上記効果がより一層確実ならしめられる。
【0014】
さらに、上記椅子2,2,・・を、左右方向において、前側横列Pfに属する各椅子2,2,・・の中間位置に、後側横列Prに属する各椅子2,2,・・が位置するように配置したことで、前側横列Pfの側端に位置する椅子2と後側横列Prの側端に位置する椅子2の間において左右方向に所定のズレ(即ち、椅子2,2,・・の設置間隔の略半分に相当するズレ)が生じ、このズレによってここに所定の遊休スペースが形成される。このため、例えば、各横列の側端のさらに外側に位置する部分を前後方向へ延びる通路として利用する場合、この通路の途中に上記遊休スペースが通路方向に所定間隔で点在し、該遊休スペースは上記通路を通って移動する人のすれ違い時とか、該通路から各横列の椅子2,2,・・側への出入り時における退避スペースとして機能することになり、それだけ上記通路を通しての人の移動が容易ならしめられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を好適な実施形態に基づいて具体的に説明する。
【0016】
図1及び図2には、例えば劇場用の椅子の配列を示しており、この配列に本発明の配列構造が適用されている。
【0017】
即ち、水平線L0に対して所定角度だけ前傾した傾斜線L1に沿った傾斜面で構成される床面1上に、多数の椅子2,2,・・をそれぞれ所定間隔で縦横多列に設置している。この場合、図2に示すように、奇数の横列に属する各椅子2,2,・・は第1配列線Lp1上に位置し、偶数の横列に属する各椅子2,2,・・は第2配列線Lp2上に位置しており、且つこれら第1配列線Lp1と第2配列線Lp2の間隔hは、横列における椅子の配置間隔Hの略半分(H/2)に設定されている。
【0018】
従って、この配列構造においては、全横列のうち、前後に位置する二つの横列のそれぞれについてみれば、前側横列Pfに属する各椅子2,2,・・と後側横列Prに属する各椅子2,2,・・は、左右方向(横方向)に間隔hだけ偏位して配置されることになる。
【0019】
このため、後列着座者Mrは、常に左右方向に隣接する二人の前列着座者Mf,Mfの中間に位置し、これら二人の間の空隙を通して前方へ臨むことになり、前列着座者Mfの存在によって後列着座者Mrの前方視界が阻害されるということはない。
【0020】
この結果、椅子2の配置位置の如何に拘らず、後列着座者Mrは前方の舞台の様子を良好な前方視界の下で見ることができる。また、例えば、前列着座者Mfの体格が大きく、後列着座者Mrの体格が小さいような場合であっても、この体格差に何等影響されることなく、後列着座者Mrは前方の舞台の様子を良好な前方視界の下で見ることができる。
【0021】
尚、このような椅子の配列構造を採用することで、例え上記床面1が水平面に近いような場合であっても、後列着座者Mrの前方視界を確保することができるが、特にこの実施形態のように、上記床面1を前下がりの傾斜面として前側横列Pfと後側横列Prの間に高さ方向の差をつけた場合には、上記効果がより一層顕著となる。
【0022】
一方、図2に示すように、一般に劇場等の施設においては、左右の建屋壁面4,4間に観客スペースを設定し、この観客スペース内に上記各椅子2,2,・・を縦横に列設するようになっているが、その場合、上記建屋壁面4と各横列Pf,Prのそれぞれの側端に位置する椅子2,2,・・との間に、幅Wをもって前後方向へ延びるスペースを設け、ここを通路3として利用するようにしている。
【0023】
この場合、この実施形態では、上記椅子2,2,・・を、左右方向において、前側横列Pfに属する各椅子2,2,・・の中間位置に、後側横列Prに属する各椅子2,2,・・が位置するように配置したことで、前側横列Pfの側端に位置する椅子2と後側横列Prの側端に位置する椅子2の間において左右方向に所定のズレ(即ち、椅子2,2,・・の設置間隔Hの略半分の寸法hに相当するズレ)が生じ、このズレによって、ここに所定の遊休スペースSが形成される。
【0024】
そして、この遊休スペースSは、上記通路3の側縁に連続して且つ通路方向において所定間隔(即ち、各横列Pf,Prの前後方向における配置間隔の2倍の寸法)で点在することから、例えば、上記通路を通って移動する人のすれ違い時とか、該通路から各横列の椅子2,2,・・側への出入り時における退避スペースとして機能することになる。この結果、上記通路3の他に上記退避スペースが設けられたことで、上記通路3を通しての人の移動が容易となる。
【0025】
尚、この実施形態では、各椅子2が単体構成の場合を例にとって説明しているが、本発明は係る構成に限定されるものではなく、例えば、複数の椅子2を一連に固定し、この一連構成の椅子を多数設置するような場合にも適用できることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施形態に係る椅子の配列構造の適用例を示す斜視図である。
【図2】図1の平面図である。
【図3】従来の椅子の配列構造を示す斜視図である。
【図4】図3の平面図である。
【符号の説明】
【0027】
1 ・・床面
2 ・・椅子
3 ・・通路
4 ・・建屋壁面
P ・・椅子列
S ・・遊休スペース(退避スペース)
Lp ・・配列線
Lp1 ・・第1配列線
Lp2 ・・第2配列線
Mf ・・前列着座者
Mr ・・後列着座者
Pf ・・前側横列
Pr ・・後側横列

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定間隔で前後方向及び左右方向のそれぞれに椅子(2),(2),・・が多列配置された椅子の配列構造であって、
上記椅子(2),(2),・・が、左右方向において、前側横列(Pf)に属する各椅子(2),(2),・・の中間位置に、後側横列(Pr)に属する各椅子(2),(2),・・が位置するように配置されていることを特徴とする椅子の配列構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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