説明

椅子

【課題】背凭れのロック手段を、誤操作されにくく、かつ目立たない位置に設けることにより、不用意にロックが解除されたり、体裁が損なわれたりするのを防止しうるようにした椅子を提供する。
【解決手段】左右の脚柱2間に、座3を設けるとともに、背凭れ4を、座3の後方において前方に倒伏しうるように設けてなる椅子において、起立位置とした背凭れ4の下端部の前方において、左右の脚柱2同士を、左右方向を向く連結杆6により連結し、この連結杆6と背凭れ4の下端部との間に、背凭れ4を起立位置にロックしうるロック手段17を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば劇場や公共施設等で用いられる椅子に係り、特に、背凭れを前方に倒伏可能とした椅子に関する。
【背景技術】
【0002】
背凭れを前方に倒伏可能とした従来の椅子には、例えば特許文献1〜3に記載されているものがある。
【特許文献1】実公昭47−11335号公報
【特許文献2】特公昭58−121915号公報
【特許文献3】特許第3533115号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記特許文献1に記載されている椅子においては、手動操作により、背凭れを起立位置にロックしたり、ロックを解除したりする手段が、背凭れの後面の中央部に露出して設けられているので、体裁が悪く、かつ誤操作等により、簡単に背凭れのロックが解除される恐れがある。
【0004】
特許文献2に記載の椅子は、単に背凭れの両側面が、長短二つのリンク片により脚柱に起倒可能に支持されているのみで、背凭れを使用状態にロックする手段が設けられていないため、背凭れを不用意に前方に強く押すと、前方に倒伏してしまう恐れがある。
【0005】
特許文献3に記載の椅子は、背凭れの両側部に突設したロックピンを、脚支柱の内側面に設けた、上端部が後方に開口する上下方向を向く長孔に、ロックピンの上昇に抵抗を付与するようにして係合させることにより、背凭れを起立位置にロックし、かつロックピンを長孔の上端部の開口より離脱させることにより、ロックが解除されて、背凭れを前方に倒伏しうるようになっている。
そのため、ロックを解除する際に、重量のある背凭れ全体を持ち上げる必要があり、その作業が面倒である。
また、床面に固定されていない椅子を移動させる際に、背凭れを手で持ち上げると、ロックが自動的に解除されて、背凭れが前方に倒伏してしまう恐れもある。
【0006】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたもので、背凭れのロック手段を、誤操作されにくく、かつ目立たない位置に設けることにより、不用意にロックが解除されたり、体裁が損なわれたりするのを防止し、かつ背凭れを確実に起立位置にロックしうるようにした、操作性に優れるロック手段を備える椅子を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によると、上記課題は、次の各項のようにして解決される。
(1)左右の脚柱間に、座を設け、かつ背凭れを、座の後方において前方に倒伏しうるように設けてなる椅子において、起立位置とした前記背凭れの下部の前方において、前記左右の脚柱同士を、左右方向を向く連結杆により連結し、この連結杆と前記背凭れの下端部との間に、背凭れを起立位置にロックしうるロック手段を設ける。
【0008】
このような構成とすると、背凭れを起立位置にロックするロック手段が、左右の脚柱同士を連結する連結杆と、背凭れの下部との間に設けられているので、ロック手段が外部に露呈せず、従って、それが誤操作されてロックが解除され、不用意に背凭れが前方に倒伏するのを防止しうるとともに、体裁もよくなる。
【0009】
(2)上記(1)項において、ロック手段は、連結杆と背凭れの下部とのいずれか一方に設けられ、下端部に下方に開口する上下方向を向く係合溝を有する停止部材と、同じく他方に上下に移動可能に設けられ、上向付勢手段に抗して下方に操作可能な把手と、この把手に設けられ、前記係合溝に下方より係脱可能な左右方向を向くロックピンとを備えるものとする。
【0010】
このような構成とすると、停止板に設けた下方に開口する係合溝に、把手に設けた左右方向を向くロックピンを係合させることにより、背凭れを起立位置に確実にロックすることができ、かつ把手を上向付勢手段に抗して下方に操作するだけでロックを解除しうるので、操作性もよい。特に、把手を背凭れ側の下部前面に設けると、その下方への操作がし易く、かつ把手によるロック解除と背凭れの倒伏とを、背凭れの下端部を把持したまま、連続した動作で行うことができる。
【0011】
(3)上記(2)項において、停止部材を、左右方向に離間させて複数設ける。
【0012】
このような構成とすると、ロックピンの左右方向の複数箇所が、複数の停止板の係合溝と係合してロックされるので、背凭れを起立位置に安定して停止保持することができる。
【0013】
(4)上記(2)または(3)項において、把手を、上向付勢手段としての左右1対の引張りコイルばねにより吊支する。
【0014】
このような構成とすると、把手を上向きに付勢する左右1対の引張りコイルばねが、把手の吊支部材も兼ねているので、部品点数や組付工数が削減することができる。
【0015】
(5)上記(2)〜(4)項のいずれかにおいて、連結杆の後面と背凭れの下部前面とのいずれか一方に、左右1対の側片を有するガイド部材を取付け、このガイド部材の両側片間に、把手を、上下に摺動可能に収容するとともに、把手の両側端より突出させたロックピンの両端部を、前記左右の側片に設けた上下方向を向くガイド孔に、上下に摺動可能に嵌合する。
【0016】
このような構成とすると、把手は、ガイド部材の両側片により案内されて上下方向に移動するとともに、ロックピンの両端部も、ガイド部材の両側片の上下方向を向くガイド孔に上下に摺動可能に嵌合されているので、把手の前後左右方向のぐらつきを防止して、安定よく操作することができ、ロックピンを係合溝より円滑に離脱させることができる。
【0017】
(6)上記(2)〜(5)項のいずれかにおいて、停止部材の遊端下部に、背凭れの起立時においてロックピンが当接することにより、これを係合溝の下端まで誘導可能な斜め上下方向を向くガイド面を形成する。
【0018】
このような構成とすると、背凭れを起立させると、ロックピンが停止板のガイド面に誘導されて係合溝と自動的に係合するので、把手を操作する必要がない。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、背凭れを起立位置にロックするロック手段が外部に露呈しないので、それが誤操作されてロックが解除され、不用意に背凭れが前方に倒伏したり、体裁が損なわれたりするのを防止しうる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を、図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の一実施形態である、劇場等で使用される連結椅子の側面図、図2は、同じく、背凭れを前方に倒伏したときの後方斜視図、図3は、同じく、座を跳ね上げた状態の中央縦断拡大側面図である。
【0021】
連結椅子1は、前後の下端(以下、図1の左方を前とする)を床面にアンカボルトにより固定しうるようにした3個の脚柱2における互いに隣接するものの間に、座3と背凭れ4を取付けて構成され、これらの座3と背凭れ4、及び互いに隣接する左右の脚柱2、2により、左右2脚の単体椅子5、5が構成されている。
【0022】
各脚柱2は、後上方を向く前脚2aと、その上端に連結されたほぼ垂直の後脚2bと、それらの上下方向の中間部の対向面同士を連結している連結板2cとを備え、側面形が概ねA状を呈している。
左右に隣接する脚柱2同士は、それらの連結板2cの後端部の対向面に、左右方向を向く連結杆6の両側端に固着した固定片7を、ねじ8をもって固定することにより、互いに連結されている。
【0023】
前脚2aにおける上下方向の中間部前面と、前脚2aと後脚2bとの連結部の上面には、倒立三角形状の開口9を有する肘掛け支柱10が一体的に架設され、その上端における前後方向を向く水平片10aの上面には、肘当て11が取付けられている。
【0024】
左右の単体椅子5の座3は、その後部寄りの左右両側面が、左右方向を向く支軸12により、左右の脚柱2、2の対向面に上下に回動可能に枢着され、図3に示すように、不使用時には、上向きに跳ね上げておくことができるようになっている。
【0025】
背凭れ4は、下端部が連結杆6よりも下方に位置し、上半部を、脚柱2の上端よりも上方に延出させて、後向きに折曲してなる背板13と、その下端部を除く前面に取付けられた、クッション材よりなる背当て14とからなり、背板13の下部の両側端部前面に取付けた左右1対の支持片(一方のみ図示する)15の上端部を、左右方向を向く支軸16により、脚柱2における後脚2bの上端部の内側面に枢着することにより、起立位置と、前面上部が座3の上面に当接する倒伏位置とに回動させることができるようになっている。
【0026】
左右の椅子5における連結杆6の左右方向の中央部後面と、背板13の下端部における左右方向の中央部前面とには、背凭れ4を起立位置にロックするロック手段17が設けられている。
図4〜図7に詳細を示すように、ロック手段17は、連結杆6と直交する前後方向を向き、前端が連結杆6の後面に溶接された、左右両方向と下方に開口する側面視倒立U字状の係合溝18を下端部に有する左右2枚の平板状の停止板19、19と、両停止板19と対向する背板13の前面に取付けられ、手動操作により両停止板19の係合溝18と係脱可能な操作機構20とからなっている。
両停止板19における遊端側である後端下部には、後記するロックピン23の前部外周面が当接することにより、これを係合溝18の下端まで誘導し、ロックピン23を係合溝18に自動的に係合させうる、斜め上下方向に向かって円弧状に傾斜するガイド面19aが形成されている。なお、このガイド面19aは、単に、斜め上下方向を向く傾斜面としてもよい。
【0027】
操作機構20は、平面視前向コ字状をなすガイド部材21と、このガイド部材21内に上下に移動可能に収容された把手22と、この把手22と共に上下動し、上記両停止板19の係合溝18に下方より係脱可能な左右方向を向くロックピン23と、把手22を常時上方に付勢する左右1対の引張りコイルばね24、24とを備え、ガイド部材21における正面視方形をなす取付板21aを、背板13の下端部の中央部前面に、上下左右4本の止めねじ25により固定することにより、操作機構20全体が、背板13の中央部前面に、後方から目視し得ないように取付けられている。
【0028】
把手22は、上下方向を向く板状の基片26aの両側端に、左右1対の側片26b、26bが連設された平面視前向コ字状の把手本体26と、両側端が左右の側片26bの対向面に近接または当接するようにして、基片26aの前面にスポット溶接された、下端部に前方に突出する後向きコ字状断面の手掛け部27aが折曲形成された板状の引手部材27とからなり、把手22は、把手本体26の側片26b、26bの外側面が、ガイド部材21の左右の側片21b、21bの内側面と近接するようにして、ガイド部材21内に上下に移動可能に収容されている。
【0029】
把手本体26の基片26aと引手部材27の上端部には、左右の停止板19、19が凹入しうる大きさの、正面視上向コ字状の切欠き28が形成されている。
引手部材27における切欠き28の両側の上端部は、把手本体26の基片26aの上端より斜め後ろ上方に延出し、その上端の後面を、ロックピン23よりも上方において、ガイド部材21の前面に、基片26aの上端部との間に隙間が形成されるようにして当接させてある。このようにすると、把手22を引張りコイルばね24に抗して引き下げた際に、その下端部がロックピン23を中心として前向きに回動し難くなり、把手22の下端部をガイド部材21の前面に当接させた状態で、安定よく下方に操作することができるようになる(図5参照)。
なお、把手本体26の基片26aと引手部材27の中央部には、下部の左右2本の止めねじ25と、それを螺合する工具とを前方より挿入しうる大きさをなすとともに、把手22を止めねじ25の頭部と干渉させずに引き下げうる上下寸法の長孔29、29が穿設されている。
【0030】
上述したロックピン23の両側端部は、把手本体26における左右の側片26b、26bの上端部に穿設された軸孔30、30に挿通され、両軸孔30より突出する両端部は、ガイド部材21の左右の側片21b、21bに形成された上下方向を向くガイド孔31、31に、上下に摺動可能に嵌合されている。ロックピン23の両側端部の外周面に形成された環状溝(図示略)には、スナップリング32、32が嵌着され、ガイド孔31からロックピン23が抜け外れるのが防止されている。
【0031】
上記引張りコイルばね24、24より下方へ延出する円弧状の下端24aは、把手本体26の両側片26bと近接する内方において、ロックピン23の両側端部に掛止され、同じく上方へ延出する逆U字状の上端24bは、ガイド部材21における左右の側片21b、21bの後端部に形成した切欠き凹部33に掛止されている。これにより、把手22は、ガイド部材21内において、左右の引張りコイルばね24、24により吊支され、かつ斜め後ろ上方に向かって付勢されることにより、下方に移動するのが阻止されている(図4、図6参照)。
【0032】
起立位置にある背凭れ4を前方に倒伏させるには、把手22における引手部材27の手掛け部27aに手を掛けて、把手22全体を、図5の矢印のように、引張りコイルばね24の付勢力に抗して引き下げる。すると、ロックピン23が左右の停止板19の係合溝18より離脱して、ロックが解除され、背凭れ4を前方に倒伏させることができる。
【0033】
倒伏させた背凭れ4を起立させ、ロックピン23を停止板19の係合溝18に係合させると、背凭れ4は起立位置にロックされる。この背凭れ4の起立時において、左右の停止板19の後端下部に形成された、斜め上下方向に向かって円弧状に傾斜するガイド面19aに、ロックピン23の前部外周面が当接し、ガイド面19aに案内されて前下方に誘導されることにより、ロックピン23は、係合溝18に自動的に係合してロックされるので、把手22を操作する必要がない。
【0034】
以上説明したように、上記実施形態の単体椅子5においては、背凭れ4のロック手段17を、左右の脚柱2を連結している連結杆6と、背凭れ4における背板13の下端部との対向面に設けてあり、外部に露呈していないので、ロック手段17が誤操作されて、不用意に背凭れ4が前方に倒伏するおそれはなく、かつ体裁もよい。
【0035】
また、把手22を下方に操作しなければ、背凭れ4のロックが解除されないようになっているので、移動可能な椅子に適用した際に、背凭れ4の下端に手を掛けて持ち上げたとしても、ロックが解除される恐れはなく、安全である。
【0036】
さらに、連結杆6に、左右2個の停止板19を固着し、それらに設けた下方に開口する係合溝18に左右方向を向くロックピン23を係合させているので、背凭れ4を確実にロックすることができ、かつ手掛け部27aに手を掛けて、把手22を引き下げるだけでロックを解除しうるので、操作性もよい。しかも、把手22によるロック解除と背凭れ4の倒伏とを、背板13の下端部を把持したまま、連続した動作で行うことができる。
【0037】
上記実施形態では、連結杆6に停止板19を、背凭れ4に操作機構20を設けたが、それとは逆に、背凭れ4側に停止板19を、連結杆6側に操作機構20を、それぞれ上記実施形態と前後反対向きとして設けることもできる。
【0038】
また、上記実施形態では、左右1対の引張りコイルばね24の下端を、ロックピン23の両端部に掛止し、ロックピン23を介して把手22を吊支しているが、把手22の上端部に掛止孔を設けるなどして、これに引張りコイルばね24の下端を掛止し、把手22を直接吊支するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明を適用した連結椅子の側面図である。
【図2】同じく、背凭れを前方に倒伏させた状態の斜視図である。
【図3】同じく、座を跳ね上げた状態の中央縦断拡大側面図である。
【図4】図3のA部の拡大図である。
【図5】同じく、背凭れのロックを解除したときの拡大図である。
【図6】図4のVI-VI線拡大縦断正面図である。
【図7】図6のVII-VII線拡大横断平面図である。
【符号の説明】
【0040】
1 連結椅子
2 脚柱
2a 前脚
2b 後脚
2c 連結板
3 座
4 背凭れ
5 単体椅子
6 連結杆
7 固定片
8 ねじ
9 開口
10 肘掛け支柱
10a 水平片
11 肘当て
12 支軸
13 背板
14 背当て
15 支持片
16 支軸
17 ロック手段
18 係合溝
19 停止板
19a ガイド面
20 操作機構
21 ガイド部材
21a 取付板
21b 側片
22 把手
23 ロックピン
24 引張りコイルばね
24a 下端
24b 上端
25 止めねじ
26 把手本体
26a 基片
26b 側片
27 引手部材
27a 手掛け部
28 切欠き
29 長孔
30 軸孔
31 ガイド孔
32 スナップリング
33 切欠き凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右の脚柱間に、座を設け、かつ背凭れを、座の後方において前方に倒伏しうるように設けてなる椅子において、起立位置とした前記背凭れの下部の前方において、前記左右の脚柱同士を、左右方向を向く連結杆により連結し、この連結杆と前記背凭れの下端部との間に、背凭れを起立位置にロックしうるロック手段を設けたことを特徴とする椅子。
【請求項2】
ロック手段は、連結杆と背凭れの下部とのいずれか一方に設けられ、下端部に下方に開口する上下方向を向く係合溝を有する停止部材と、同じく他方に上下に移動可能に設けられ、上向付勢手段に抗して下方に操作可能な把手と、この把手に設けられ、前記係合溝に下方より係脱可能な左右方向を向くロックピンとを備えるものである請求項1記載の椅子。
【請求項3】
停止部材を、左右方向に離間させて複数設けてなる請求項2記載の椅子。
【請求項4】
把手を、上向付勢手段としての左右1対の引張りコイルばねにより吊支してなる請求項2または3記載の椅子。
【請求項5】
連結杆の後面と背凭れの下部前面とのいずれか一方に、左右1対の側片を有するガイド部材を取付け、このガイド部材の両側片間に、把手を、上下に摺動可能に収容するとともに、把手の両側端より突出させたロックピンの両端部を、前記左右の側片に設けた上下方向を向くガイド孔に、上下に摺動可能に嵌合してなる請求項2〜4のいずれかに記載の椅子。
【請求項6】
停止部材の遊端下部に、背凭れの起立時においてロックピンが当接することにより、これを係合溝の下端まで誘導可能な斜め上下方向を向くガイド面を形成してなる請求項2〜5のいずれかに記載の椅子。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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