説明

椅子

【課題】複雑なロッキング機構を用いる必要がなく安定した通常姿勢と真後ろ及び左右後方へのリクライニング姿勢とをとることができる椅子を提供する。
【解決手段】前部領域5に対して後部領域6が弾性変形により下方に沈み込み可能な板状をなす座2と、この座2の前部領域5を前後方向に傾動しないように支持する支持体とを備えた椅子1であって、前記支持体が、前記座2の後部領域6の下方に、この座2から後方に向かって漸次離れる傾斜部分90を有したものであり、前記座2の後部領域6に荷重を作用させた場合に当該後部領域6が沈み込んで座2が前記傾斜部分90に沿って変形するように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、学校用または事務用等として好適に使用される椅子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の椅子として、リクライニング感を出すために、座が後傾動作するようにしたものが種々開発されている。ところが、従来のものは、座を後傾動作させるために複雑なロッキング機構を採用しており、構成が複雑であり、部品点数が多くなるという問題があった。
【0003】
また、簡略な構成のものとして、座の前部のみを支持体により支持させ、座や支持体の弾性変形を利用して座が後傾動作するようにしたものも知られている(例えば、特許文献1を参照)。このようなものは、体重が重い人の着座によって大きな荷重がかかった場合にも耐え得るよう、例えば、椅子全体が剛性を有するように椅子の各部を設定せざるを得ない。ところが、そのようにすると、体重の軽い人が着座した場合に十分なリクライニング感が得られない、という問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−342377号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、以上のような事情に着目してなされたものであり、複雑なロッキング機構を用いる必要がなく安定した通常姿勢と真後ろ及び左右後方へのリクライニング姿勢とをとることができる椅子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以上のような課題を解決するために、次のような構成を採用したものである。すなわち、本発明に係る椅子は、前部領域に対して後部領域が弾性変形により下方に沈み込み可能な板状をなす座と、この座の前部領域を前後方向に傾動しないように支持する支持体とを備えたものであって、前記支持体が、前記座の後部領域の下方に、この座から後方に向かって漸次離れる傾斜部分を有したものであり、前記座の後部領域に荷重を作用させた場合に当該後部領域が沈み込んで座が前記傾斜部分に沿って変形するように構成されている。
【0007】
ここで、「前部領域」とは、座の前端から後端までの間の任意の箇所よりも前側に形成される領域を示しており、無負荷状態で、支持体により座が支持され、着座者が安定して着座することのできる領域であれば、その大きさや形状、支持体への取付方法等はどのようなものであってもよい。また、「後部領域」とは、座の前端から後端までの間の任意の箇所よりも後側に形成される領域を示しており、無負荷状態で、支持体により座が直接支持されていない領域を指し、その大きさや形状、沈み込み量等はどのようなものであってもよい。
【0008】
「支持体」とは、例えば、パイプ材で作られた4本足タイプのフレームを備えたもの、パイプ材で作られたカンチレバータイプのフレームを備えたもの、回転椅子タイプの脚羽根と、脚支柱と、支基とを備えたもの等持ち運びやキャスタ付きで移動可能なもののほか、床面や起立壁から伸びる脚等の床に固定されたタイプのものであってもよい。
【0009】
「傾斜部分」とは、前記座の後部領域が沈み込んだ場合に座が沿うようなものであればどのようなものであってもよく、支持体のうち前記後部領域の下面側に配される部分が、傾斜部分のみから構成されているものや、傾斜部分とそれ以外の水平部分等とから構成されているもの等であってもよい。また、傾斜部分は、座にかかった荷重を直接受けるものに限られず、この傾斜部分に隣接した他の部分で荷重を直接受けるものであってもよい。
【0010】
また、本件で「前」、「後」、「左」、「右」とは、着座者が本発明に係る椅子に着座した状態で着座者から見た「前」、「後」、「左」、「右」を指すものとする。
【0011】
このようなものであれば、座の前部領域が支持体により支持されているので通常姿勢時に安定して着座できるとともに、後部領域は弾性変形により後傾するのでリクライニング姿勢時に真後ろ及び左右後方への好適なリクライニング感を得ることができる。また、リクライニング姿勢から安定姿勢に戻る場合には、着座者の荷重が集中する箇所が後部領域から前部領域に漸次移動するが、座面がこれに追随して弾性変形するため、座の後部領域が着座者の意識に従って通常姿勢方向へと弾性復帰するようになっている。そのため、複雑なロッキング機構を用いる必要なしに安定した通常姿勢と真後ろ及び左右後方へのリクライニング姿勢とをとることができる。
【0012】
前記座及び支持体の少なくとも一方が、前記座の後部領域の座面が左右方向にも傾くことができるように構成されているものが好ましい。
【0013】
前記支持体の好適な一態様としては、座の前部領域における前縁側を左右に亘って支持するとともに後縁側を左右方向中央付近でのみ支持しているものが挙げられる。
【0014】
前記支持体は、前記座の後部領域の沈み込み動作を制御する受止め部を備えているものが好ましい。
【0015】
ここで「受止め部」とは、座の前後方向への沈み込み動作を制御するものや、左右方向への沈み込み動作を制御するもの、またはその両方向への沈み込み動作を制御するもの等が挙げられる。また、座を支持体で受け止める方法としては、ストッパ等により一定位置で座の沈み込み動作を停止させるもののほか、弾性変形する部材の変形を利用して座のたわみ量を漸次変化させながら一定位置で座の沈み込み動作を停止させるものや、曲面等により座と支持体との接触位置及び座のたわみ量を漸次変化させながら座の一定以上の沈み込み動作を抑制するもの等であってもよい。
【0016】
前記座に支持された背凭れを備えているもの、または、前記支持体に支持された背凭れを備えているものが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、以上のような構成であるから、複雑なロッキング機構を用いる必要がなく安定した通常姿勢と真後ろ及び左右後方へのリクライニング姿勢とをとることができる椅子を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態の椅子を示す全体斜視図。
【図2】同実施形態の椅子を示す正面図。
【図3】同実施形態の椅子を示す底面図。
【図4】同実施形態の椅子を示す右側面図。
【図5】図2におけるX−X線断面図。
【図6】本発明の変形例の椅子を示す全体斜視図。
【図7】同変形例の椅子を示す底面図。
【図8】同変形例の椅子を示す右側面図。
【図9】本発明のさらに他の変形例の椅子を模式的に示す後方から見た全体斜視図。
【図10】同変形例の椅子を模式的に示す背面図。
【図11】同変形例の椅子を模式的に示す右側面図。
【図12】本発明のさらに他の変形例の椅子を模式的に示す右側面図。
【図13】同変形例の椅子を模式的に示す背面図。
【図14】本発明のさらに他の変形例の椅子を模式的に示す右側面図。
【図15】本発明のさらに他の変形例の椅子を模式的に示す正面図。
【図16】同変形例の椅子を模式的に示す底面図。
【図17】同変形例の椅子を模式的に示す右側面図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態について図1ないし図5を参照して説明する。
【0020】
この椅子1は、図1ないし図5に示すように、前部領域5に対して後部領域6が弾性変形により下方に沈み込み可能な板状をなす合成樹脂製の座2と、この座2の前部領域5を前後方向に傾動しないように支持する支持体3と、前記座2に支持された背凭れ4と具備してなるもので、前記支持体3が、前記座2の後部領域6の下方に、この座2から後方に向かって漸次離れる傾斜部分90を有したものであり、前記座2の後部領域6に荷重を作用させた場合に当該後部領域6が沈み込んで座2が前記傾斜部分90に沿って変形するように構成されている。
【0021】
座2は、図1ないし図5に示すように、合成樹脂等により作られた弾性変形可能な板状のもので、その前部領域5が前記支持体3により支持されており、後部領域6は沈み込む前の初期状態(f)と最も沈み込んだ沈下状態(s)との間で沈み込み動作を行い得るようになっている。すなわち、後部領域6は、前記初期状態(f)において前記支持体3の上面と離間しており、座面21に作用する荷重に応じて座2の弾性変形を利用して適宜沈み込むようになっている。そして、後部領域6は、最も沈み込んだ前記沈下状態(s)において前記支持体3の上面と接触するように構成されている。この座2は、後部領域6の座面21が左右方向にも傾くことができるように構成されている。なお、図4及び図5では、初期状態(f)を実線で示すとともに、沈下状態(s)を二点鎖線で示している。また、図1ないし図5では座2を平板状に描いているが、着座者の座り心地を良くするために、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で曲面状にする等種々変更可能である。
【0022】
支持体3は、図1ないし図5に示すように、コ字形をなすベース7と、このベース7の左右両端から起立させた脚8と、この脚8の上端から後方に延出する座受け部9とを備えたもので、この実施形態においては、前記ベース7、脚8、座受け部9とは、1本のパイプを折り曲げ加工して作られている。前記座2は、後部領域6の座面21が左右方向にも傾くことができるように前記支持体3の座受け部9に支持されている。
【0023】
前記座受け部9は、図2ないし図5に示すように、左右の脚8の上端から座2の中心部22に向かってほぼ水平に伸びる前部分91と、この前部分91の後端から座2の後方に向かってほぼ水平に伸びる中間部分92と、座2の下面から漸次離間しつつ前記中間部分92の後端から後方に伸びる後部分93とを備えたものである。本実施形態では、この後部分93は、前記座2の後部領域6の下方に、この座2から後方に向かって漸次離れる傾斜部分90を有したものであり、前記座2の後部領域6に荷重を作用させた場合に当該後部領域6が沈み込んで座2が前記傾斜部分90に沿って変形するように構成されている。そして、支持体3の座受け部9が、座2の前部領域5における前縁51側を左右に亘って支持するとともに後縁52側を左右方向中央付近でのみ支持している。詳述すれば、座受け部9における左右の前部分91の各前端近傍に前取付部94を設けるとともに、座受け部9における左右の中間部分92に後取付部95を設けている。そして、前記左右の前取付部94と前記後取付部95とにおいて、座2の前部領域5を支持体3に取り付けている。前記後部分93は、前記座2の後部領域6の沈み込み動作を制御する受止め部96を備えている。すなわち、本実施形態では、前記傾斜部分90に受止め部96を備えている。
【0024】
背凭れ4は、図1ないし図5に示すように、合成樹脂等により作られた弾性変形可能な板状のもので、前記座2と一体に成形されている。なお、図1ないし図5では背凭れ4を平板状に描いているが、着座者の座り心地を良くするために、曲面状にする等種々変更可能である。
【0025】
このような椅子1であれば、執務姿勢で座2に着座した場合には着座者の体重に起因した荷重は、座2の前部領域5に作用するため、座2は変形せず、支持体3に安定した状態で支持されることになる。また、着座者が背凭れ4に凭れかかり座2の後部領域6に荷重が移行した場合には、座2が弾性変形をして座2の後部領域6が沈み込むことになる。
【0026】
着座者が右方向に傾いた状態でリクライニング動作を行うと、座2の前部領域5が前2点と後1点で支持されていることと相俟って、座2が捻れ変形を起こし、座2の後部領域6の座面21が右側に傾く。すなわち、座2の後部領域6の右側の沈み込み量が左側の沈み込み量よりも大きくなる。同様に、着座者が左方向に傾いた状態でリクライニング動作を行うと、座2の前部領域5が前2点と後1点で支持されていることと相俟って、座2が捻れ変形を起こし、座2の後部領域6の座面21が左側に傾く。すなわち、座2の後部領域6の左側の沈み込み量が右側の沈み込み量よりも大きくなる。
【0027】
なお、座2の後部領域6は、前記受止め部96によって一定位置以上下方に沈み込まないように受け止められているにもかかわらず、左右方向にはねじれ動作が可能である。すなわち、受止め部96が左右方向中央部のみに設けられているので、座2の後部領域6は、着座者の荷重が右側後端に集中して右側が下方に沈むように傾くと、着座者の荷重が集中しない左側が上がり、逆に、着座者の荷重が左側後端に集中して左側が下方に沈むように傾くと、着座者の荷重が集中しない右側が上がるようなシーソー動作が行われる。
【0028】
そして、着座者が座2の前部領域5に荷重を移行させて執務姿勢に戻ると、座2の後部領域6は、座2自身の弾性反発力により沈み込む前の初期状態(f)に自己復帰する。
【0029】
このように本実施形態の椅子1は、前部領域5に対して後部領域6が弾性変形により下方に沈み込み可能な板状をなす合成樹脂製の座2と、この座2の前部領域5を前後方向に傾動しないように支持する支持体3とを備えたものであって、前記座2の後部領域6に荷重を作用させた場合にだけリクライニング感を出すために当該後部領域6が沈み込むように構成されているので、複雑なロッキング機構を用いる必要がなく、簡単な構造で、リクライニング感を得ることができる。しかも、前部領域5は支持体3によりしっかり支持されているので、作業姿勢時には着座者による荷重の重心が前部領域5に集中することによって、安定して作業姿勢が維持できるとともに、休息姿勢時には着座者による荷重の重心が後部領域6に集中することによって、座2の後部領域6が下方に落ち込んで座面21が後側に傾斜するため、好適なリクライニング姿勢をとることができる。
【0030】
特に、本実施形態の椅子1は、前記座2に支持された背凭れ4を備えているので、座2と背凭れ4とを一連の傾動動作をさせることができる。すなわち、着座者がリクライニング姿勢をとった際、座2の後部領域6が下方に沈み込むとともに、この座2の沈み込み動作に伴って背凭れ4も後方に傾動する。
【0031】
従来、作業姿勢時の座2の安定性を求めると座2を支持体3で強固に支持することとなり、リクライニング姿勢をとりにくくなるという問題があったが、本実施形態のようなものであれば、座2の前部領域5が支持体3により支持されているので通常姿勢時に安定して着座できるとともに、後部領域6は弾性変形により後傾するのでリクライニング姿勢時に真後ろ及び左右後方への好適なリクライニング感を得ることができる。そのため、複雑なロッキング機構を用いる必要なしに通常姿勢時に安定姿勢をとることができるとともに、後傾時にリクライニング感を安定して発揮させることができる。
【0032】
また、リクライニング姿勢から安定姿勢に戻る場合には、着座者の荷重が集中する箇所が後部領域6から前部領域5に漸次移動するが、座面21がこれに追随して弾性変形するため、座2の後部領域6が着座者の意識に従って通常姿勢方向へと弾性復帰するようになっている。換言すれば、再び作業姿勢に戻る際には、着座者の荷重の重心が座2の前部領域5へと移動するため、自然に作業姿勢へと移行させることができる。すなわち、この場合にも、着座者の体重の軽重にかかわらず、着座者の姿勢変化に座面21が自然に追随することとなる。そのため、着座者の意志で座2の傾きを変更できるような感覚が得られる。
【0033】
また、この椅子1は、着座者の荷重の集中をより多く受けた側に座面21が後傾し、左右方向に傾く。換言すれば、前記座2及び支持体3が、前記座2の後部領域6の座面21が左右方向にも傾くように構成されているので、着座者が背凭れ4や座2の左右いずれか一方に傾いて凭れた場合には、凭れた側の背凭れ4及び座2が、反対側の背凭れ4及び座2よりも大きな傾動動作を行って下方に沈み込む。すなわち、左右に傾いて座面21や背凭れ面が捩れながら後傾することができる。そのため、着座者の後方左右への傾動動作に座2及び背凭れ4が容易に追随し得る。換言すれば、座2が、ねじれ方向に弾性変形可能な合成樹脂製のものであり、前記支持体3が、座2の前部領域5における前縁51側を左右に亘って支持するとともに後縁52側を左右方向中央付近でのみ支持しているので、座2に無理な応力を作用させることなく、左右方向に傾きながら前後方向にも沈み込み動作を行うことも容易にできる。特に、この椅子1は、座2の中心部22、すなわち座2の前部領域5の後縁52を左右方向中央の1点のみで支持体3に取り付けた構造をなしているので、座2の後部領域6のうち特に左右後端部分の沈み込み量を大きくすることができる。
【0034】
前記支持体3が、前記座2の後部領域6の沈み込み動作を制御する受止め部96を備えているので、座2が必要以上に傾くことを防止でき、着座者に安心感を与えることができる。特に、本実施形態では、受止め部96が、前記座受け部9の後部分93に形成されたものであるため、ベース7や脚8と一体に成形することができ、取付工数や部品点数を削減することができる。また、本実施形態のようなカンチレバータイプの椅子1であると、支持体3を構成するパイプ材も弾性変形することとなる。そのため、座2の後部領域6の弾性変形に伴って受止め部96が形成される座受け部9の後部分93も弾性変形を行い、より大きな沈み込み動作を実現することができる。
【0035】
また、前記座2が、弾性変形可能な板状をなす合成樹脂製のものであるので、座り心地を良好なものとすることができる。さらに、本実施形態の椅子1は、背凭れ4及び座2が合成樹脂により一体に形成されたものであるので、これらを容易に形成することができるとともに、支持体3への取り付けも簡単に行うことができる。
【0036】
なお、本発明は以上に述べた実施形態に限られない。
【0037】
支持体は、上述した実施形態のようないわゆるカンチレバータイプのものに限られず、図6ないし図17に示すようなものであってもよい。以下、上述した実施形態に対応する部分には同じ符号を付した上で、詳細な説明を省略する。
【0038】
<4本脚タイプ(図6ないし図8、図12、図13)>
図6ないし図8、図12及び図13に示す椅子1の支持体3は、左右にそれぞれ、前後の脚81、82と、これら前後の脚81、82の上端同士をつなぐ座受け部9とを備えたものである。この変形例においては、前後の脚81、82と、前記座受け部9とは、1本のパイプを折り曲げ加工して作られている。この支持体3は、前記座2の後部領域6の座面が左右方向にも傾くことができるように構成されている。
【0039】
前記座受け部9は、左右の前脚81の上端から座2の中心部22に向かってほぼ水平に伸びる前部分91と、この前部分91の後端から座2の後方に向かってほぼ水平に伸びる中間部分92と、座2の下面から漸次離間しつつ前記中間部分92の後端から左右の後脚82の上端に伸びる後部分93とを備えたものである。本変形例では、この後部分93は、前記座2の後部領域6の下方に、この座2から後方に向かって漸次離れる傾斜部分90を有したものであり、前記座2の後部領域6に荷重を作用させた場合に当該後部領域6が沈み込んで座2が前記傾斜部分90に沿って変形するように構成されている。そして、支持体3の座受け部9が、座2の前部領域5における前縁51側を左右に亘って支持するとともに後縁52側を左右方向中央付近でのみ支持している。詳述すれば、座受け部9における左右の前部分91の各前端近傍に前取付部94を設けるとともに、座受け部9における左右の中間部分92に後取付部95を設けている。そして、前記左右の前取付部94と前記後取付部95とにおいて、座2の前部領域5を支持体3に取り付けている。前記後部分93は、前記座2の後部領域6の沈み込み動作を制御する受止め部96を備えている。すなわち、本実施形態では、前記傾斜部分90に受止め部96を備えている。
【0040】
<事務用回転椅子タイプ(図9ないし図11)>
また、図9ないし図11に示す椅子1は、本発明を事務用回転椅子に適用した場合のものであり、この支持体3は、脚羽根71と、この脚羽根71から立設された脚支柱72と、この脚支柱72の上端に支持され前記脚支柱72の軸心まわりに旋回可能な支基99とを備えたものである。前記脚支柱72は、ガススプリングにより構成されており、このガススプリングのシリンダ軸73の上端に前記支基99が固定されている。
【0041】
前記支基99は、前記シリンダ軸73に固定されており、前記シリンダ軸73とともに水平方向に旋回し得るようになっている。この支持体3の支基99は、前記座2の後部領域6の座面が左右方向にも傾くことができるように構成されている。この支基99は、前端から後端に向かって漸次幅狭となる平面視略三角形状をなすもので、この前端から座2の中心部22に向かってほぼ水平に伸びる前部分91と、座2の下面から漸次離間しつつ前記前部分91の後端から該支基99の後端に伸びる後部分93とを備えたものである。本実施形態では、この後部分93は、前記座2の後部領域6の下方に、この座2から後方に向かって漸次離れる傾斜部分90を有したものであり、前記座2の後部領域6に荷重を作用させた場合に当該後部領域6が沈み込んで座2が前記傾斜部分90に沿って変形するように構成されている。そして、支持体3の座受け部9が、座2の前部領域5における前縁51側を左右に亘って支持するとともに後縁52側を左右方向中央付近でのみ支持している。前記後部分93は、前記座2の後部領域6の沈み込み動作を制御する受止め部96を備えている。すなわち、本実施形態では、前記傾斜部分90に受止め部96を備えている。なお、図9では、座2の前部領域5を前後方向に傾動しないように支持する支持体3の上面、より具体的には、支基99の前部分91の上面を、パターンを付して示している。
【0042】
本実施形態の受止め部96は、前記後部分93の上面を上方に突出させた湾曲面としており、前記座2に荷重がかかった際に、座2と受止め部96との接触位置及び座2のたわみ量を漸次変化させながら支持するようにしている。また、前記受止め部96が左右方向にも湾曲しているので、図10に二点鎖線で示すように、着座者が右方向に傾いた状態でリクライニング動作を行うと、座2の前部領域5が後方に漸次幅狭となる状態で支持されていることと相俟って、座2が捻れ変形を起こし、座2の後部領域6の右側の沈み込み量が左側の沈み込み量よりも大きくなる。すなわち、座2の左右方向にも、座2と受止め部96との接触位置及び座2のたわみ量を漸次変化させることができる。同様に、着座者が左方向に傾いた状態でリクライニング動作を行うと、座2の前部領域5が後方に漸次幅狭となる状態で支持されていることと相俟って、座2が捻れ変形を起こし、座2の後部領域6の左側の沈み込み量が右側の沈み込み量よりも大きくなる。すなわち、座2の左右方向にも、座2と受止め部96との接触位置及び座2のたわみ量を漸次変化させることができる。
【0043】
以上説明した図9ないし図11に示すようなものであれば、簡単な構造で安全性の高い支持体3を実現することができる。なお、図9ないし図11に示すものは、背凭れ4及び座2として、例えば、ガラス等の繊維で強化された合成樹脂等で構成されたものによって形成されることが好ましい。また、座2は、後傾動作に対して反発力を蓄積し得るような適切な剛性を有するとともに、背凭れ4は、柔軟性を有したものとし、これら座2と背凭れ4との接続部分は、他の部分よりも厚み寸法を大きくして剛性を高め、変形しにくくすることが好ましい。このようなものであれば、リクライニング姿勢において背凭れ4及び座2が適切に弾性変形するとともに、前記接続部分の剛性が高いことにより、リクライニング姿勢時にも安心感が得られる。
【0044】
<弾性体付きタイプ(図14)>
また、図14に示すように、支持体3の上面に弾性体97を設けたものであってもよい。この図14に示す椅子1は、いわゆるカンチレバータイプの椅子1の支持体3における座受け部9の後端部分98に、弾性体2を取り付けたものである。
【0045】
この弾性体97は、例えば、発泡体等の合成樹脂やゴム等弾性変形可能な種々の材料により作られるもので、本変形例では、前述した実施形態における座受け部9の後部分93に形成された受止め部96の代わりに、座2の後部領域6を受け止めるものである。すなわち、この弾性体97は、その上面に受止め部96を形成したものであって、座2の後部領域6の沈み込み動作に伴って厚み方向に弾性変形して弾性反発力を蓄積するとともに、座2の後部領域6にかかる荷重が小さくなると蓄積された弾性反発力により座2の後部領域6をもとの初期状態(f)に復帰させる。本実施形態では、支持体2における座受け部9の後部分93は、前記座2の後部領域6の下方に、この座2から後方に向かって漸次離れる傾斜部分90を有したものであり、前記座2の後部領域6に荷重を作用させた場合に当該後部領域6が沈み込んで座2が前記傾斜部分90に沿って変形するように構成されている。そして、前記傾斜部分90には受止め部を備えておらず、この傾斜部分90の上面に添設された弾性体97に受止め部96を備えている。
【0046】
このようなものであれば、前記実施形態のように座2の後部領域6が沈み込んだ際に、金属製のパイプ材である座受け部9に座2の下面が直接当たることを防止でき、リクライニング姿勢における底付き感を軽減させることができる。また、本変形例にかかる受止め部96は、着座面にかかる荷重に応じて弾性変形するものであるので、前記座2に荷重がかかった際に、座2のたわみ量を漸次変化させながら支持することができ、真後ろ及び左右後方への好適なリクライニング感を得ることができる。なお、弾性体97を備えた支持体を有する椅子として、カンチレバータイプの椅子1の後部分93に弾性体2を設けたものを図示したが、これに限られず、いわゆる4本足タイプの椅子や、回転椅子に適用してもよいのはもちろんである。
【0047】
なお、この弾性体97は、座2の裏面に取り付けまたは一体に設けたものであってもよく、この場合にも同様の効果が得られる。
【0048】
<張地タイプ(図15ないし図17)>
また、図15ないし図17に示すような椅子であってもよい。この椅子1は、本発明を事務用回転椅子に適用したものであり、前部領域5に対して後部領域6が弾性変形により下方に沈み込み可能な板状をなす合成樹脂製の座2と、この座2の前部領域5を前後方向に傾動しないように支持する支持体3と、前記座2に支持された背凭れ4とを備えたものである。
【0049】
支持体3は、先端にキャスタを取り付けた脚羽根71と、この脚羽根71から立設された脚支柱72と、この脚支柱72の上端に支持され前記脚支柱72の軸心まわりに旋回可能な支基99とを備えたものであり、この支基99に前記左右のフレーム3A、3Bを天秤動作可能に支持させている。前記脚支柱72は、ガススプリングにより構成されており、このガススプリングのシリンダ軸73の上端に前記支基99が固定されている。この支基99は、前記シリンダ軸73に固定された支基本体991と、この支基本体991の左右両端から上方に起立させたアーム992とを具備してなるもので、前記シリンダ軸73とともに水平方向に旋回し得るようになっている。
【0050】
前記左右のフレーム3A、3Bは、厚み方向に弾性変形可能な板状のものであり、支基99のアーム992の上端に一体的に連続されたものであり、例えば、繊維で強化された合成樹脂等により作られており、座受け部9はこれら左右のフレーム3A、3Bを主体に構成されている。この座受け部9は、前端から座2の中心部に向かってほぼ水平に伸びる前部分91と、座2の下面から漸次離間しつつ前記前部分91の後端から後方に伸びる後部分93とを備えたものである。本実施形態では、この後部分93は、前記座2の後部領域6の下方に、この座2から後方に向かって漸次離れる傾斜部分90を有したものであり、前記座2の後部領域6に荷重を作用させた場合に当該後部領域6が沈み込んで座2が前記傾斜部分90に沿って変形するように構成されている。そして、前記後部分93は、前記座2の後部領域6の沈み込み動作を制御する受止め部96を備えている。すなわち、本実施形態では、前記傾斜部分90に受止め部96を備えている。
【0051】
座2は、前記左右の座フレーム2A、2B間にメッシュ状の張地23を張設したものである。この座2は、前記アーム992よりも前側の前部領域8と、前記アーム992よりも後側の後部領域9とを備えている。左右の座フレーム2A、2Bは、それぞれ合成樹脂等により作られた弾性変形可能な杆状のもので、その前部領域5が前記座支持部材たる左右のフレーム3A、3Bにより支持されており、後部領域6は沈み込む前の初期状態(f)と最も沈み込んだ沈下状態(s)との間で沈み込み動作を行い得るようになっている。すなわち、後部領域6は、前記初期状態(f)において前記左右のフレーム3A、3Bの上面と離間しており、座面21に作用する荷重に応じて座2の弾性変形を利用して適宜沈み込むようになっている。そして、後部領域6は、最も沈み込んだ前記沈下状態(s)において前記左右のフレーム3A、3Bの上面と接触するように構成されている。この座2は、後部領域6の沈み込み量を左右で異ならせることができるように構成されている。なお、図17では、初期状態(f)を実線で示すとともに、沈下状態(s)を二点鎖線で示している。
【0052】
背凭れ4は、前記左右の座フレーム2A、2Bに一体に形成された左右の背フレーム4A、4B間にメッシュ状の張地41を張設したものである。前記左右の座フレーム2A、2Bと左右の背フレーム4A、4Bとはそれぞれ、例えば、繊維で強化された合成樹脂等により一体に成形されている。本実施形態の椅子1は、この背凭れ4と前記座2とを連動させるようにしている。
【0053】
このようなものであれば、上述した実施形態に準じた効果が得られる。特に、この座2は、前記アーム992よりも前側の前部領域8を左右のフレーム3A、3Bで下方から支持する安定領域としているので、通常姿勢時には安定して着座できる。また、前記アーム992よりも後側の後部領域9を初期状態(f)で左右のフレーム3A、3Bで直接支持していないので、座面21が後方及び左右方向に傾くように設定でき、真後ろ及び左右後方への好適なリクライニング姿勢をとることができる。
【0054】
支持体は、図6ないし図17に図示したものに限られず、種々変更可能である。例えば、支持体の座受部が、座の前部領域における前縁側を左右両端付近でのみで支持するとともに後縁側を左右両端付近でのみ支持するものであってもよい。また、座の前部領域における前縁側を左右方向中央付近でのみ支持するとともに後縁側を左右方向中央付近でのみ支持するものや、座の前部領域における前縁側を左右に亘って支持するとともに後縁側を左右方向中央付近でのみ支持する場合に、座の前部領域が前2点と、この前2点の離間距離よりも小さく離間させた後2点で支持されるものであっても、上述した実施形態と同様の効果が得られる。すなわち、このようなものであれば、座の前部領域の後縁における左右両端付近を支持していないので、座の後部領域における左右方向への沈み込み動作を許容することができる。また、支持体は、座と一体に形成されるものであってもよい。
【0055】
座は、図6ないし図17に図示したものの他に、例えば、フレームにシェルを設けたもの等であってもよい。また、樹脂製の座は、上述した実施形態で示したような座の全体が弾性変形可能に形成されたものには限られず、例えば、座の前部領域と座の後部領域との境界部分に樹脂ヒンジを設けて後部領域のみが沈み込むように構成されているものや、座の前部領域は変形しにくい樹脂によって形成し、座の後部領域は変形しやすい樹脂によって形成する等、座の前部領域と座の後部領域とを異なる特性を有する樹脂で形成して後部領域のみが沈み込むように構成されているもの、また、座の前部領域と座の後部領域とを厚みを異ならせたり、座裏に設けたリブの有無またはリブの配置の方法を異ならせて後部領域のみが沈み込むように構成されているものであってもよい。座の素材も、合成樹脂製のものに限られず、合板製のもの等木材で作られたものであってもよい。
【0056】
また、背凭れ4は、上述した実施形態のような座2に支持されたものに限られず、図12及び図13に示すように、前記支持体3に支持されたものであってもよい。このような場合、背凭れ4の取付箇所や取り付け方法は適宜変更可能である。このようなものであれば、背凭れ4と座2とを連動させたような大きな傾動に比べて小さい傾動感を出したい場合に効果的である。なお、背凭れ4は、リクライニング姿勢をとった時に後方に傾動するものであっても、傾動しないものであってもよい。
【0057】
本実施形態では、座の後部領域は、座自身の弾性反発力により沈み込む前の初期状態に自己復帰するものとしていたが、座の弾性反発力に代えて、または、補助的に復帰機構を設けてもよい。復帰機構は、前記座の後部領域に作用していた荷重が消勢した際に、前記座の後部領域を沈み込む前の状態に復帰させることができるものであればどのようなものであってもよく、例えば、支持体と座との間に配された樹脂ばね、金属製のコイルばねや板ばね等種々のものを採用できる。また、復帰機構の取り付け位置も、座の前部、中央部、後部のどの位置に取り付けてもよい。
【0058】
その他、本発明の趣旨を損ねない範囲で種々に変更してよい。
【符号の説明】
【0059】
1…椅子
2…座
3…支持体
4…背凭れ
5…前部領域
51…前縁
52…後縁
6…後部領域
90…傾斜部分
96…受止め部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前部領域に対して後部領域が弾性変形により下方に沈み込み可能な板状をなす座と、この座の前部領域を前後方向に傾動しないように支持する支持体とを備えた椅子であって、
前記支持体が、前記座の後部領域の下方に、この座から後方に向かって漸次離れる傾斜部分を有したものであり、
前記座の後部領域に荷重を作用させた場合に当該後部領域が沈み込んで座が前記傾斜部分に沿って変形するように構成されていることを特徴とする椅子。
【請求項2】
前記座及び支持体の少なくとも一方が、前記座の後部領域の座面が左右方向にも傾くことができるように構成されている請求項1記載の椅子。
【請求項3】
前記支持体が、座の前部領域における前縁側を左右に亘って支持するとともに後縁側を左右方向中央付近でのみ支持している請求項2記載の椅子。
【請求項4】
前記支持体が、前記座の後部領域の沈み込み動作を制御する受止め部を備えている請求項1、2または3記載の椅子。
【請求項5】
前記座に支持された背凭れを備えている請求項1、2、3または4記載の椅子。
【請求項6】
前記支持体に支持された背凭れを備えている請求項1、2、3または4記載の椅子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2013−444(P2013−444A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−136263(P2011−136263)
【出願日】平成23年6月20日(2011.6.20)
【出願人】(000001351)コクヨ株式会社 (961)
【Fターム(参考)】