説明

植栽用マットの形成方法

【課題】苗の定植作業の省力化と植栽用マット形成期間の短縮を可能にする。
【解決手段】本発明は、トレイ40の底に通根性を有する厚さの厚いシートからなる下層50を形成し灌水する工程、及び下層50上にクマツヅラ科イワダレソウ属植物の苗と培土との混合物からなる上層60を形成する工程を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植栽用マットの形成方法に関するものである。より詳細には、クマツヅラ科イワダレソウ属植物の植栽に好適なマットの形成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
クマツヅラ科イワダレソウ属植物としては、イワダレソウ(Lippia nodiflora)、ヒメイワダレソウ(Lippia canescens)及びそれらの改良種が知られている。
【0003】
かかる植物の植栽用マットの形成方法としては、ネット上に積層された培土の上に苗(茎を切断したもの)を蒔き、その上を培土により覆土する方法が知られている(例えば、実用新案登録第3103289号公報参照)。
【0004】
しかし、従来の方法では、培土を2回に分けて積層し、さらにその間に苗を蒔く工程を要するため、マットを形成するための苗の定植に多くの時間と労力を必要とする。また、苗とネットの間に培土による層が介在するため、根がネットに根付くまでに多くの時間を要する。さらに、イワダレソウ属植物は、地下茎を持たない植物であるため、苗の上を覆土することにより、苗の上に培土による層が形成されると、発芽するまでに長時間を要するという問題がある。
【0005】
【特許文献1】実用新案登録第3103289号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、植栽用マットの形成に要する期間の短縮と、植栽用マットを形成するための苗の定植に要する作業の省力化を図ることができる植栽用マットの形成方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の方法を提供する。
(1)トレイの底に通根性を有する厚さの厚いシートからなる下層を形成し灌水する工程、及び前記下層上にクマツヅラ科イワダレソウ属植物の苗と培土との混合物からなる上層を形成する工程を含むことを特徴とする植栽用マットの形成方法。
(2)トレイの底に培土からなる下層を形成する工程、前記下層上に通根性を有する厚さの薄いシートからなる中間層を形成し灌水する工程、及び前記中間層上にクマツヅラ科イワダレソウ属植物の苗と培土との混合物からなる上層を形成する工程を含むことを特徴とする植栽用マットの形成方法。
【発明の効果】
【0008】
前記(1)記載の本発明によれば、イワダレソウ属植物の苗と培土とを混ぜ合わせた混合物をシートからなる下層上に積層するため、1回の積層作業で培土と苗の両方を積層することができる。また、苗とシートとの間に培土のみによる層が介在せず、混合物に含まれる苗の中には、シートに接しているもの、あるいはシートに近い位置に存するものが多分にあることから、苗から発根した根を短時間でシートに根付かせることが可能となる。また、苗の上を覆土することがなく、混合物に含まれる苗の中には、露出しているもの、あるいは露出に近い状態で存するものも多分にあることから、短時間での発芽が可能となる。従って、植栽用マットの形成に要する期間を短縮することができる。
前記(2)記載の本発明によれば、イワダレソウ属植物の苗と培土とを混ぜ合わせた混合物をシートからなる中間層上に積層するため、苗を蒔く工程と、苗の上に培土を積層する工程を要する従来の方法よりも苗の定植作業を効率的に行うことができる。また、苗とシートとの間に培土のみによる層が介在せず、混合物に含まれる苗の中には、シートに接しているもの、あるいはシートに近い位置に存するものが多分にあることから、苗から発根した根を短時間で下層の培土に根付かせることが可能となる。また、苗の上を覆土することがなく、混合物に含まれる苗の中には、露出しているもの、あるいは露出に近い状態で存するものも多分にあることから、短時間での発芽が可能となる。従って、植栽用マットの形成に要する期間を短縮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、通根性を有しかつ所定の厚さを有するシート上に、クマツヅラ科イワダレソウ属植物の苗と培土との混合物を積層することにより、植栽用マットの形成に要する期間の短縮と、植栽用マットを形成するための苗の定植に要する作業の省力化を実現した。
【0010】
ここで、クマツヅラ科イワダレソウ属植物としては、イワダレソウ(Lippia nodiflora)、ヒメイワダレソウ(Lippia canescens)及びそれらの改良種、例えば、イワダレソウの改良種である、品種名「Sヒトシ」(品種登録第12041号、2004年3月15日登録)などが含まれる。
【0011】
イワダレソウ属植物は、節から発芽・発根するため、その苗は、節を含むように茎を所定長さに切断したものである。
【0012】
苗の採取方法としては、イワダレソウ属植物の茎は、地上を這うように伸びる性質を有することから、このように水平方向に延びる茎を切断して採取する方法が一般的である。本発明においても、かかる採取方法により採取された苗を除外するものではないが、かかる採取方法には、以下の問題点がある。
【0013】
すなわち、茎を伸長させるために大きな栽培面積を必要とすることとなる。また、茎が伸長する過程で、各節から発根してしまうため、苗を採取する際に傷つきやすくなり、また、採取される苗も大きくなるという問題がある。さらに、茎は曲がりながら生長するため、真っ直ぐな苗を採取することが困難である。
【0014】
そこで、苗の採取方法としては、所定高さに設置された苗床から垂れ下がる茎を所定長さに切断して採取する方法が好ましい。この方法では、図1に示したように、苗床20を所定高さに設置し、その苗床20にイワダレソウ属植物10の苗を植え付ける。苗床20に植え付けられた苗から伸びる茎30は、苗床20から溢れ出て鉛直方向に生長する。そして、採苗時には、苗床20から垂れ下がる鉛直方向に伸びる茎30を、節を含むように所定長さに切断し、苗を採取する。
【0015】
かかる採取方法によれば、茎30が鉛直方向に伸長するため、茎30を伸長させるために大きな栽培面積を必要としないという利点がある。また、苗床20から垂れ下がる茎30は、空中に存して、各節からの発根が非常に少ないため、発根がない小さな良質な苗を採取することが可能となる。また、鉛直方向に伸びる茎30は、水平方向に伸びる茎と比較して、真っ直ぐに伸長するため、曲がりの少ない真っ直ぐな苗を採取することが可能となる。さらに、茎30の切断時において節が見やすいため、切断作業が容易であり、また、茎30を切断して得られる苗も、切断後に落下するため、苗の回収作業も容易である。
【0016】
なお、苗床20は、例えば、図2(a)に示したように、階段状に複数設置したり、あるいは図2(b)に示したように、階層状に複数設置したりすることができる。このように苗床20を設置すれば、より小さな面積で多量の栽培が可能となり、より多くの苗を採取することが可能となる。
【0017】
シートとしては、通根性を有するもの、すなわち、苗から発根した根がシート表面からその内部に入り込むことができるもの、又は苗から発根した根がシートを貫通することができるものが用いられる。
【0018】
本発明で採用される「厚さの厚いシート」とは、苗から発根した根がシートに絡み付くように根付くのに必要十分な厚みを有するものをいう。また、「厚さの薄いシート」とは、苗から発根した根がシートを貫通することができる厚みを有するものをいう。そして、いずれのシートも、天然繊維、生分解性プラスチック繊維又はそれらの繊維を組み合わせたものからなることが好ましい。このような繊維材料からなるシートによれば、シートが経年変化により土壌化するため、自然環境を維持する上で有利である。
【0019】
シートは、所定の形状に裁断されたものが用いられる。特に厚さの薄いシートは、本発明に係る方法により形成される植栽用マットに保形性を付与する役割を果たしている。
【0020】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、以下に述べる実施例に何等限定されるものではない。
【実施例1】
【0021】
本実施例では、まず、トレイ40の底に通根性を有する厚さの厚いシートからなる下層50を形成し灌水する(図3(a)参照)。次に、下層50上にクマツヅラ科イワダレソウ属植物の苗と培土との混合物からなる上層60を形成する(図3(b)参照)。
【0022】
本実施例によれば、上記した2つの工程により、植栽用マットを形成するための苗の定植作業が終了する。そして、その後は、適宜灌水を行う(図3(c)参照)。
【0023】
上記のように、本実施例によれば、イワダレソウ属植物の苗と培土とを混ぜ合わせた混合物をシートからなる下層40上に積層するため、1回の積層作業で培土と苗の両方を積層することができる。従って、苗の定植作業を従来の方法よりも少ない時間と労力で行うことができる。
【0024】
また、苗を含む混合物(上層60)とシート(下層50)との間に培土のみによる層が介在せず、混合物に含まれる苗の中には、シートに接しているもの、あるいはシートに近い位置に存するものが多分にあることから、苗から発根した根を短時間でシートに根付かせることができる。さらにこの点について言及すれば、本実施例によれば、苗から発根する根を直接シートに根付かせる構成であるため、培土による層を経てネットに根付かせる従来の方法よりも短時間でシートに根を根付かせることができる。
【0025】
また、従来の方法のように苗上を覆土する工程がなく、混合物(上層60)に含まれる苗の中には、露出しているもの、あるいは露出に近い状態で存するものも多分にあることから、従来の方法よりも短時間で発芽させることができる。従って、植栽用マットの形成に要する期間を従来の方法よりも短縮することができる。
【実施例2】
【0026】
本実施例では、まず、トレイ40の底に培土からなる下層70を形成する(図4(a)参照)。次に、下層70上に通根性を有する厚さの薄いシートからなる中間層80を形成し灌水する(図4(b)参照)。次に、中間層80上にクマツヅラ科イワダレソウ属植物の苗と培土との混合物からなる上層90を形成する(図4(c)参照)。
【0027】
本実施例によれば、上記した3つの工程により、植栽用マットを形成するための苗の定植作業が終了する。そして、その後は、適宜灌水を行う(図4(d)参照)。
【0028】
上記のように、本実施例によれば、イワダレソウ属植物の苗と培土とを混ぜ合わせた混合物をシートからなる中間層80上に積層するため、苗を蒔く工程と、苗の上に培土を積層する工程を要する従来の方法よりも苗の定植作業を効率的に行うことができる。
【0029】
また、苗を含む混合物(上層90)とシート(中間層80)との間に培土のみによる層が介在せず、混合物に含まれる苗の中には、シートに接しているもの、あるいはシートに近い位置に存するものが多分にあることから、苗から発根した根を短時間で下層の培土に根付かせることが可能となる。さらにこの点について言及すれば、本実施例によれば、苗から発根した根がシート(中間層80)を貫通して培土(下層70)に到達する構成であるため、その根が培土に十分に根付く前の段階でも、シートにより根が支持され、定植された苗の脱落を防止することができる。
【0030】
また、従来の方法のように苗上を覆土する工程がなく、混合物(上層90)に含まれる苗の中には、露出しているもの、あるいは露出に近い状態で存するものも多分にあることから、従来の方法よりも短時間で発芽させることができる。従って、植栽用マットの形成に要する期間を短縮することができる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明によれば、イワダレソウ属植物の植栽に用いられるマットを短期間で供給することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】採苗に好適な栽培装置の一例を示す概略図である。
【図2】採苗に好適な栽培装置の他の例を示す概略図である。
【図3】本発明の一実施例を示す工程図である。
【図4】本発明の他の実施例を示す工程図である。
【符号の説明】
【0033】
10 イワダレソウ属植物
20 苗床
30 茎
40 トレイ
50 シートからなる下層
60 苗と培土との混合物からなる上層
70 培土からなる下層
80 シートからなる中間層
90 苗と培土との混合物からなる上層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレイの底に通根性を有する厚さの厚いシートからなる下層を形成し灌水する工程、及び前記下層上にクマツヅラ科イワダレソウ属植物の苗と培土との混合物からなる上層を形成する工程を含むことを特徴とする植栽用マットの形成方法。
【請求項2】
トレイの底に培土からなる下層を形成する工程、前記下層上に通根性を有する厚さの薄いシートからなる中間層を形成し灌水する工程、及び前記中間層上にクマツヅラ科イワダレソウ属植物の苗と培土との混合物からなる上層を形成する工程を含むことを特徴とする植栽用マットの形成方法。
【請求項3】
前記シートが天然繊維、生分解性プラスチック繊維又はそれらの繊維を組み合わせたものからなることを特徴とする請求項1又は2に記載の植栽用マットの形成方法。
【請求項4】
前記苗が、所定高さに設置された苗床から垂れ下がる茎を所定長さに切断して採取されたものであることを特徴とする請求項1から3のいずれか1に記載の植栽用マットの形成方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2006−333708(P2006−333708A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−158433(P2005−158433)
【出願日】平成17年5月31日(2005.5.31)
【出願人】(503034766)
【Fターム(参考)】