説明

検品システムにより検品可能な物品

【課題】 検品対象品が真正品か否かを判定する検品システムにより検品可能で、且つ、出荷時に取り扱い易い物品を提供する。
【解決手段】 検品システム2は、真正品に強磁性体17を予め取り付け、強磁性体の磁気特性を検出して検品対象品が真正品か否かを判定する。システムは、検品対象品8に対し所定の周波数で変化する磁界を印加する励磁コイル4と、磁界変化による磁束密度の変化を検出する検出コイル6と、磁束密度変化に対応する周波数スペクトルを取得するFFT演算部20と、周波数スペクトルに基づいて検品対象品が真正品か否かを判定する判定部22と、を備える。強磁性体はその保磁力を越える磁界が印加された際に急峻な磁化反転を生じる。この強磁性体は、低い周波数で変化する磁界に対し磁束密度の変化に対応する周波数スペクトルが振幅の大きな高周波成分を有する。強磁性体は検針システムにより検出可能となる針の重量より小さな上限値を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バッグ、鞄、財布、衣類など、模造品や横流しを発見するなどの目的で検品を行うシステムにより検品可能な物品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ブランド品などの模造や横流し(真正品を正規ルートとは別のルート、例えば製造の委託を受けた工場で販売許諾を持っていないところが販売)が増大する傾向にある。これを取り締まるため、税関などで検品が行われているが、実際には、模造の高度化により税関職員などが偽造品を見破るのは困難であり、また、横流し品に到っては真正品と品質が同じであるため摘発は実質不可能である。
【0003】
検品の負担を軽減するために、真正品に予めICチップを組み込ませておき、税関などにおいて読み取り機でICチップに含まれる情報、例えば生産業者、生産国などを読み取り、これにより税関職員などが検品対象品が横流し品であるか否かを判断できるようにするとともに、ICチップが組み込まれていない検品対象品を偽造品と判断できるようにした検品システムが知られている。
【0004】
なお、特許文献1には、証券類などの安全保護紙に強磁性体を埋め込み、安全保護紙に対し交番磁界を印加し、これにより生じた磁束密度の変化を検出し、該磁束密度変化に対応する周波数スペクトルを求め、該周波数スペクトルと予め用意した周波数スペクトルが一致するか否かにより、上記安全保護紙が真正か否かを判定する真偽判定装置が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、鉄を80重量%以上含有する合金を溶融紡糸してなる円形断面の結晶質金属繊維を監視すべき対象物に取り付けておき、該対象物が励磁コイルおよび検出コイルを内蔵した対象物検出部を通過することにより生じる金属繊維の急峻な磁化反転により検出コイルに誘起される出力信号の高周波成分を検出する監視システムが開示されている。
【特許文献1】特開平8−199498号公報
【特許文献2】特開平3−198195号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ICチップは高価でありしたがって物品の価格に反映されることになるとともに、使用する検品システムも複雑なものにならざるを得ない。
【0007】
そこで、本発明は、比較的安価な強磁性体を取り付けて検品を容易に行えるようにした検品システムにより検出可能で、且つ、出荷時などに取り扱いのし易い物品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明に係る物品の第1の態様は、真正品に強磁性体を取り付けておき、該強磁性体の磁気特性を検出することにより検品対象品が真正品か否かを判定する検品システムにより検出可能となる重量の下限値を有する強磁性体が取り付けられた物品である。検品システムは、検品対象品に対し所定の周波数で変化する磁界を印加する磁界印加手段と、上記磁界変化による磁束密度の変化を検出する磁束検出手段と、上記磁束密度変化に対応する周波数スペクトルを取得する周波数スペクトル取得手段と、周波数スペクトル取得手段により取得された周波数スペクトルに基づいて検品対象品が真正品か否かを判定する判定手段と、を備える。強磁性体は、保磁力を越える磁界が印加された際に急峻な磁化反転を生じ、検針対象品内に針が存在するか否かを検出する検針システムにより検出可能となる針の重量より小さな値を重量の上限値とする。
【0009】
本発明に係る物品の第2の態様は、複数の同一物品に対し、物品の属性が異なる場合に同一材質で形状の異なる強磁性体をそれぞれ取り付けておき、検品対象物の属性を判定する検品システムにより検出可能となる重量の下限値を有する強磁性体が取り付けられた物品である。検品システムは、検品対象品に対し所定の周波数で変化する磁界を印加する磁界印加手段と、上記磁界変化による磁束密度の変化を検出する磁束検出手段と、上記磁束密度変化に対応する周波数スペクトルを取得する周波数スペクトル取得手段と、上記磁界変化と同一の磁界変化を上記各強磁性体と同一材質・形状のサンプルに印加して取得した周波数スペクトルと該強磁性体が取り付けられる物品の属性との関係を記憶する記憶部を有し、周波数スペクトル取得手段により取得した周波数スペクトルに基づいて検品対象物の属性を判定する判定手段と、を備える。強磁性体は、検針対象品内に針が存在するか否かを検出する検針システムにより検出可能となる針の重量より小さな値を重量の上限値とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る物品の第1の態様によれば、保磁力を超える磁界が印加されると急峻な磁化反転が生じる強磁性体を真正品に予め取り付けておく。検品システムは、検品対象品に交番磁界を印加することで周波数スペクトルを取得する。この強磁性体は、常磁性体や反磁性体のみならず、比較的なだらかな磁化反転が生じる一般的な強磁性体と異なり、低い周波数で変化する磁界に対し、磁束密度の変化に対応する周波数スペクトルが振幅の大きな高周波成分を有する。その結果、検品対象品が真正品であるか否かを容易に判定できる。さらに、物品に取り付ける強磁性体は、物品の製造時に縫製工程が含まれる場合に用いられる針よりも重量が小さいため、物品の出荷時に検品工程で針と誤認することはなく、物品の取り扱いが容易である。
【0011】
本発明に係る物品の第2の態様によれば、複数の同一物品に対し、物品の属性(例えば生産者)が異なる場合に同一材質で形状の異なる強磁性体をそれぞれ取り付けておく。検品システムは、検品対象品に交番磁界を印加することで周波数スペクトルを得て、各強磁性体と同一材質・形状のサンプルについて予め取得しておいた周波数スペクトルサンプルと比較して、検品対象物の属性を判定する。その結果、システムの使用者は、判定結果に基づき検品対象品が横流し品でないかどうかを確認することができる。さらに、第1の態様と同様に、物品に取り付ける強磁性体は、物品の出荷時に検品工程で針と誤認することはない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して本発明に係る実施の形態を説明する。
【0013】
第1の実施形態
図1は、本発明に係る物品の第1の実施形態を検品するための検品システムを示す。このシステム2は、真正品に予め所定の強磁性体を取り付けておき、検品対象品の磁気特性を検出することで該対象品が真正品であるか否かを判定するためのシステムである。具体的に、検品システム2は、磁界を生成するための励磁コイル(磁界発生手段)4と、励磁コイル4に並列して配置され励磁コイル4により生成された磁界により生成される磁束密度を検出するための検出コイル(磁束検出手段)6とを備え、励磁および検出コイル4,6は、検品対象品8全体またはその一部が載置される領域10に対向するように配置されている。励磁コイル4の中心には透磁率の大きなコアを挿入してもよい。載置領域10を挟むように励磁および検出コイル4,6を配置してもよい。励磁コイル4は低周波発振器12に接続されており、これにより励磁コイル4に交流電流が印加されて周期的に変化する磁界Hが発生するようになっている。
【0014】
検出コイル6は、増幅器14を介して周波数分析器16に接続されている。仮に領域10に検品対象品8が載置されていない場合に励磁コイル4に交流電流を印加すると、検出コイル6は、周期的に変化する磁束密度B=μH(μは真空の透磁率)に対応する電圧信号(アナログ信号)を増幅器14に出力することになる。一方、領域10に載置される検品対象品8に強磁性体17が取り付けてある場合、強磁性体17には、磁化M=χH(χは磁化率)で表される磁気的な分極が生じ、磁化Mは周期的に変化する。磁界Hと磁化Mとの関係を表す曲線を磁化曲線というが、一般に、強磁性体ではχは定数でなく(すなわちχはHにより異なる)、磁化曲線は、周期的に変化する磁界Hに対して図2(a),(b)に示すようなヒステリシスループと呼ばれる非線形の閉曲線となる。このため、検出コイル6は、周期的に変化する磁束密度B=M+μH(MKSAのE−H対応単位系)に対応する電圧信号を増幅器14に出力することになる。
【0015】
本実施形態では、真正品に取り付けられる強磁性体17は、鉄を80重量%以上含有する合金を溶融紡糸してなる円形断面の結晶質金属繊維である。この金属繊維には、例えば図2(a)に示すように、その保磁力を越える磁界が印加された際に急峻な磁化反転を生じる(本出願人により出願された特開平3−198195参照)。
【0016】
周波数分析器16は、増幅器14で増幅されたアナログ電圧信号をデジタル電圧信号に変換するA/D変換器18、および、該デジタル電圧信号をフーリエ変換して周波数スペクトルデータを求めるFFT(fast Fourier transform)演算部(周波数スペクトル取得手段)20を備える。周波数スペクトルデータを横軸を周波数、縦軸を振幅としたグラフで表す場合、例えば図3(a),(b)で示すように、低周波発振器12の周波数(励磁周波数)(例えば60Hz)およびその倍数の周波数で振幅ピークが現れる。但し、常磁性体や反磁性体などはMがHに比例するため(磁化率χが一定)、励磁周波数以外の周波数は現れず、また、例えば図2(b)で示すような比較的なだらかな磁化反転が生じる一般的な強磁性体でも、図3(b)に示すように周波数スペクトルは振幅が一定以上となる高周波成分を有さない(励磁周波数の倍数の周波数での振幅ピークが低い。)。これに対し、上記金属繊維では、図3(a)に示すように周波数スペクトルは高周波成分を有する。
【0017】
周波数分析器16には、検品対象品8が真正品か否かを判定するための判定部22が接続されている。判定部22は、真正品に取り付ける強磁性体と同一材質・形状のサンプルに関して検品に先立って同一の励磁周波数の磁界を印加することで獲得した周波数スペクトルサンプルデータを記憶した記憶部(データベース)23を備えており、該サンプルデータを周波数分析器16のFFT演算部20から出力された周波数スペクトルデータと比較することにより、検品対象品8が真正品か否かを判定する。判定部22は、例えば、記憶部23に記憶された周波数スペクトルサンプルデータと新たに取得した周波数スペクトルデータの高周波成分の振幅の大きさが略等しい場合に、検品対象品8が真正品であると判定する。判定部22には、判定結果を検品システム2の使用者(例えば税関職員)に例えばブザーなどを介して知らせるための判定結果出力部24が接続されている。
【0018】
代わりに、判定部22は、例えば遮断周波数が例えば10kHzのハイパスフィルタを備え、フィルタリング後の周波数スペクトルデータに振幅が閾値以上の高周波成分が含まれている場合に、検品対象品8が真正品であると判定してもよい。
【0019】
かかる構成を備えた検品システム2において、検品対象品8全体またはその一部を領域10に載置した状態で、低周波発振器12から励磁コイル4に低周波の交流電流を印加させると、交番磁界Hが発生する。その結果、検出コイル6は、周期的に変化する磁束密度Bに対応するアナログ信号を増幅器14に出力する。このアナログ信号は、増幅器14で増幅され、A/D変換器18でデジタル変換され、次いでFFT演算部20でフーリエ変換され、その結果、周波数スペクトルデータが得られる。判定部22は、このデータと、予め取得した周波数スペクトルサンプルデータとを比較して、検品対象品8が真正品か否かを判定する。判定結果は、判定結果出力部24を介してシステム2の使用者に提供される。
【0020】
本実施形態によれば、保磁力を超える磁界が印加されると急峻な磁化反転が生じる金属繊維17を真正品に取り付けることにより、常磁性体や反磁性体のみならず、比較的なだらかな磁化反転が生じる一般的な強磁性体と異なり、低い周波数で変化する磁界に対し、磁束密度の変化に対応する周波数スペクトルが振幅の大きな高周波成分を有するため、検品対象品8が真正品であるか否かを容易に判定できる。
【0021】
金属繊維17の物品への取り付け位置・向きは一定にし、金属繊維の位置と向きをシステム使用者に予め知らせておくのが好ましい。例えば上着に取り付ける場合、図1に示すように袖口と平行に袖に沿って金属繊維17を取り付け、使用者が検品対象品8を領域10に載置する際に、励磁および検出コイル4,6に対する金属繊維17が所定の向きをとるようにする。この状態で周波数スペクトルを取得し、予め上記所定の向きでサンプルに関して記憶部23に記憶させた周波数スペクトルと比較する。これは、金属繊維の向きが異なると周波数スペクトルのピーク値が異なるためである。但し、検品に先立ってサンプルを種々の向きにした上で周波数スペクトルデータを取得しておけば、記憶部23に記憶させるデータ量は増大するが、使用者が検品対象品8を励磁および検出コイル4,6に対する向きを考慮せずに領域10に置いても、検品を行うことは可能である。
【0022】
上記金属繊維が取り付けられる対象は、繊維製品、衣類、鞄、財布、ベルト、雑貨、テープ、容器、工具など、あらゆる物品が可能である。特に、繊維製品の場合、極少量の金属繊維を繊維製品に縫い込むことにより、繊維製品自体に模倣防止機能を持たせることができ、品質や価格の表示ラベルなどに金属繊維を取り付ける場合よりもさらに模倣防止を困難にする効果がある。金属繊維は屈曲性があるため、繊維製品本来の機能や風合いを損なうことはない。金属繊維として長繊維(フィラメント)を用いる場合、モノフィラメントでもマルチフィラメントでもよい。長繊維は鞄、財布、ベルト、雑貨などではミシン糸の代用としても使用でき、補強効果がある。
【0023】
物品の生産を委託する場合、金属繊維を物品の生産個数に対応した量だけ生産者に提供するのが望ましい。生産者が資材の余り分で真正品と同じ品質の偽造品を作ってもこの偽造品には金属繊維を取り付けることができないため、該偽造品を検品システム2を用いて発見できる。生産者が金属繊維の物品への取り付け向きを不正に変更しないよう、表示ラベルなどに用いるシート状の布帛であって物品に取り付け位置・向きが固定されるものに金属繊維を縫い込んだ状態で生産者に提供してもよい。
【0024】
繊維製品に縫い込む場合、金属繊維の繊維径は、縫い込む位置により異なるが200μm以下、好ましくは100μm以下が好ましい。200μmより大きくなると剛直性が発現し、金属繊維をシート状の布帛に縫い込む場合、風合いが変化し少し硬く感じられるようになる。なお、1μm以下になると、細くなりすぎて取り扱いが困難であるため、1μmより大きいのが好ましい。金属繊維の繊維長さは、縫い込む位置により異なるが40mm以上、好ましくは50mm程度であれば十分である。しかしながら、金属繊維を長繊維として使用することも可能である。この場合、風合いが変わらないのであればマルチフィラメントとして使用することも可能である。
【0025】
上述のように保磁力を越える磁界が印加された際に急峻な磁化反転を生じる強磁性体として、上記金属繊維の代わりに、角形ヒステリシス特性を有するアモルファス繊維(非結晶金属繊維)を用いてもよい。
【0026】
ところで、保磁力を越える磁界が印加された際に急峻な磁化反転を生じる強磁性体が取り付けられた物品に対し、出荷前に検針装置(検針システム)により物品の縫製時に使用した針(手縫い針、ミシン針、待ち針などで、本願では残針ともいう。)が残っていないかどうかの検査が行われる(検針工程)。検針システムは、鋼(鉄と2%以下の炭素を含むFe−C合金、および、必要ならさらに第3の元素を添加した合金)からなる所定の重量以上の針を検出するためのものである。物品に取り付けられる上記強磁性体の大きさは、検針システムにより検出可能で物品の縫製に使用される針よりも小さな値を上限値としてあり、これにより、物品を検針システムで検針する際に強磁性体が検針システムに反応しない(言い換えれば、検針工程において強磁性体が針と誤認されるのを防止する)ようにしてある。他方、物品に取り付けられる強磁性体が小さすぎると該強磁性体が検品システム2に反応しなくなるため、強磁性体の重量は、検品システム2により検出可能となるような値を下限値としてある。
【0027】
図4は検針システムの一例を示す。検針システム30は、検針対象品32(図の例では鞄)を搬送するための搬送ベルト34と、搬送ベルト34に対向して配置した永久磁石36とを備える。永久磁石36は、搬送ベルト34側がN極あるいはS極(図ではN極)となるよう、搬送ベルト34に直交する方向(図の上下方向)に磁化されている。永久磁石36のN極側の空間に所定の磁界強度を有する直流磁界が形成されるよう、永久磁石36は、N極側を除いて高透磁率の磁気シールド37により包囲されている。なお、直流磁界を発生する手段として永久磁石36の代わりに電磁石を用いてもよい。永久磁石36のN極側の空間に形成される直流磁界内には検出コイル38が配置されており、永久磁石36で発生した直流磁界の磁束が鎖交するようになっている。検出コイル38は、増幅器40を介して判定部42に接続されている。検出コイル38は、永久磁石36で発生して検出コイルに鎖交する磁束数に対応する電圧信号(アナログ信号)を増幅器40に出力する。検針対象品32に残針が含まれているとすると、検針対象品32を搬送ベルト34に沿って永久磁石36と検出コイル38との対向領域を搬送させると、永久磁石36により発生した直流磁界の磁束の分布状態は、移動する検針対象品32中に残針があれば残針により変化する(言い換えれば、検出コイル38に鎖交する磁束数が変化する。)。増幅器40は、検出コイル38で検出した電圧信号を増幅して判定部42に出力する。判定部42は、検針対象品32に残針が含まれているか否かを判定するためのもので、増幅器40で増幅した電圧信号の大きさのピークが所定の閾値以上であれば、検針対象品32に針が残っていると判定する。判定部42には、判定結果を検針システム30の使用者(例えば出荷管理者)に例えばブザーなどを介して知らせるための判定結果出力部44が接続されている。
【0028】
一般に物品の生産には縫製工程が含まれるが、縫製時に用いられる針は、手縫い針(木綿針、ガス針、紬針、絹針、メリケン針)、ミシン針、待ち針がある。手縫い針の各針に関し、最も小さなもので木綿針が約170mg(JIS規格No.5)、ガス針が約170mg(JIS規格No.9)、紬針が約98mg(JIS規格No.5)、絹糸が約39mg(JIS規格No.13)、メリケン針が約45mg(JIS規格No.9)である。待ち針は手縫い針と同程度の大きさである。ミシン針は手縫い針より大きく、ミシン針が折れたとしてもその折損片は、通常手縫い針の最も小さいものより大きい。そこで、物品に取り付ける強磁性体の重量の上限値を30mg程度にすることで、強磁性体に関して増幅器40で増幅された電圧信号の大きさのピークは所定の閾値より小さくなり、検針システム30の判定部42が検針対象品32に針が存在すると誤認するのを防止できる。なお、強磁性体として上述した金属繊維を用いる場合、鉄の重量比は80%以上である。鉄の重量比が100%に近い値であれば鉄の重量は30mgより小さいので針との誤認が確実に防止される。鉄の重量比がさらに小さい上記金属繊維の場合、金属繊維の重量を30mg程度にすれば鉄の重量は30mgより小さいので針との誤認が確実に防止されるが、30mgよりある程度大きくしても(例えば35〜40mg程度)にしても、鉄の重量がせいぜい30mg程度であるので針との誤認を防止できる。
【0029】
第2の実施形態
本発明に係る物品の第2の実施形態を検品するための検品システムは、図1に示す検品システム2と実質的に同一の構成を備えるが、検品対象品の属性(例えば生産者や生産国)を判定し、これによりシステムの使用者が該対象品が正規のルートを通って流通されたものであるか否かを判断できるようにするためのものである。
【0030】
具体的に、複数の同一物品(例えば繊維製品)に強磁性体として鉄を80重量%以上含有する合金を溶融紡糸してなる円形断面の結晶質金属繊維を予めそれぞれ取り付けておく。各物品には、物品の属性(例えば生産者)が異なると(材質は同一で)形状の異なる強磁性体を取り付ける。図5を参照して、例えば、生産者に応じて、(a),(b)に示すように1本の金属繊維を直線状やL字状にしたり、(c),(d)に示すように金属繊維に1つまたはそれ以上の切り欠きを入れたり、(e),(f)に示すように金属繊維に1つまたはそれ以上の結び目を付けたり、(g),(h)に示すように2本の金属繊維を直線平行にしたり交差させたりした状態で、物品に取り付ける。なお、金属繊維として短繊維が好適に用いられるが、長繊維でもよく、この場合モノフィラメントでもマルチフィラメントでもよい。このような金属繊維と同一材質・形状のサンプルに対し周波数スペクトルサンプルを取得し、物品の属性とともに、判定部22の記憶部23に記憶させる。周波数スペクトルは、励磁周波数およびその倍数の周波数で振幅ピークが現れるが、金属繊維の形状に応じてピーク値が異なる。検品時には、第1の実施形態で説明したのと同様にして検品対象品8の周波数スペクトルを取得し、判定部22は、このスペクトルに基づいて、サンプルに関して予め取得しておいた周波数スペクトルとサンプルと同一材質・形状の強磁性体が取り付けられる物品の属性との関係を記憶した記憶部23を参照することにより、検品対象物8の属性を判定する。判定結果出力部24として生産者などの物品の属性を表示するモニタが例示できる。
【0031】
このように、本実施形態によれば検品対象品の属性を判定できるため、使用者は、判定結果に基づき、例えば検品対象品の生産者が誰かを確認し、その結果、検品対象品が横流し品か否かを確認することができる。また、強磁性体として同じ材質のものを用いているため(各物品にそれぞれ別の材質のものを取り付けていない。)、物品に取り付ける強磁性体の製造コストを下げることができる。
【0032】
本実施形態では、第1の実施形態と異なり、強磁性体は、その保磁力を越える磁界が印加された際に急峻な磁化反転を生じる必要はなく、なだらかな磁化反転が生じる一般的な強磁性体も可能である。
【0033】
本実施形態も第1の実施形態と同様に、記憶部23に記憶させる周波数スペクトルサンプルデータの量を少なくするために、強磁性体の物品への取り付け位置・向きは一定とし、強磁性体の位置・向きを使用者に予め知らせておくのが好ましい。
【0034】
本実施形態も第1の実施形態と同様に、物品に取り付けられる強磁性体の重量として、検針システム(例えば図4の検針システム30)により検出不可能となるような値を上限値とし、これにより、物品を検針システムで検針する際に強磁性体が検針システムに反応しないようにする。他方、物品に取り付けられる強磁性体の小さくなりすぎると該強磁性体が本実施形態に係る検品システムに反応しなくなるため、強磁性体の重量は、検品システムにより検出可能となるような値を下限値としてある。
【0035】
以上、本発明に係る具体的な実施形態について説明したが、本発明はこれらに限らず種々改変可能である。例えば、上記実施形態では、検品システム2において、磁束密度の変化を検出する磁束検出手段として磁気コイル6を用いたが、代わりにホール素子やMR(magneto-resistive)素子などを用いてもよい。
【0036】
検針システム30に関し、検針対象品32のどの位置に針が残っているかは未知であり、(特に検品対象品32が比較的厚みが大きいと)残針と搬送ベルト34の相対位置(重心の位置および向きも含む)が異なると検出コイル38の出力する電圧信号の大きさのピークも異なる。そこで、縫製工程時に使用される針で最も小さなもの(例えば、1本が約39mgの絹糸(JIS規格No.13))の搬送ベルト34に対する相対位置を種々設定して、検針システム30で検針を行い、検出コイル38の出力する電圧信号の大きさのピークを種々求め、これらピークのうち最も小さなものを判定部22の判定基準となる閾値とするようにしてもよい。
【0037】
強磁性体が金属を含む場合、検針システムは上述した磁気誘導型に限らず、電磁誘導型(いわゆる金属探知器)も可能である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明に係る物品の第1の実施形態を検品するための検品システムを示す構成図。
【図2】(a)円形断面直径が70μm、長さが50mmのFe93.5重量%−Si6.5重量%金属繊維について室温下での磁化曲線を示す。(b)比較例として、円形断面直径が120μm、長さが50mmのFe20重量%−Ni80重量%金属繊維について室温下での磁化曲線を示す。
【図3】(a),(b)はそれぞれ、図2(a),(b)の特性を有する金属繊維に対し励磁周波数60Hz、磁界振幅5Oe(エルステッド)の磁界を室温下で印加したときに得られる周波数スペクトルを示す(振幅0dBmは、インピーダンスが600Ωで1mWの電力を消費する場合に対応する。)。
【図4】本発明に係る物品の第1の実施形態を検針するための検針システムの一例を示す構成図。
【図5】本発明に係る物品の第2の実施形態を検品するための検品システムにおいて、物品に取り付けられる強磁性体の形状の例を示す図。
【符号の説明】
【0039】
2 検品システム
4 励磁コイル(磁界発生手段)
6 検出コイル(磁束検出手段)
8 検品対象品
16 周波数分析器
17 強磁性体
22 判定部
30 検針システム
32 検針対象品


【特許請求の範囲】
【請求項1】
真正品に強磁性体を取り付けておき、該強磁性体の磁気特性を検出することにより検品対象品が真正品か否かを判定する検品システムにより検出可能となる重量の下限値を有する強磁性体が取り付けられた物品において、
検品システムは、
検品対象品に対し所定の周波数で変化する磁界を印加する磁界印加手段と、
上記磁界変化による磁束密度の変化を検出する磁束検出手段と、
上記磁束密度変化に対応する周波数スペクトルを取得する周波数スペクトル取得手段と、
周波数スペクトル取得手段により取得された周波数スペクトルに基づいて検品対象品が真正品か否かを判定する判定手段と、
を備え、
上記強磁性体は、保磁力を越える磁界が印加された際に急峻な磁化反転を生じ、
上記強磁性体は、検針対象品内に針が存在するか否かを検出する検針システムにより検出可能となる針の重量より小さな値を重量の上限値とすることを特徴とする物品。
【請求項2】
上記強磁性体の重量の上限値は30mgであることを特徴とする請求項1記載の物品。
【請求項3】
上記強磁性体は、鉄を80重量%以上含有する合金からなる円形断面の結晶質金属繊維であることを特徴とする請求項1または2記載の物品。
【請求項4】
上記判定手段は、上記磁界変化と同一の磁界変化を上記強磁性体と同一材質・形状のサンプルに印加して取得した周波数スペクトルサンプルを記憶する記憶部を備え、該周波数スペクトルサンプルを周波数スペクトル取得手段により取得した周波数スペクトルと比較することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の物品。
【請求項5】
上記磁界印加手段は低周波数で変化する磁界を印加し、
上記判定手段は、ハイパスフィルタを備え、ハイパスフィルタによるフィルタリング後の検品対象品に関する周波数スペクトルに振幅が閾値以上の高周波成分が含まれる場合に、該検品対象品が真正品と判定することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の物品。
【請求項6】
物品は繊維製品で、上記金属繊維が繊維製品に縫い込まれることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一つに記載の物品。
【請求項7】
複数の同一物品に対し、物品の属性が異なる場合に同一材質で形状の異なる強磁性体をそれぞれ取り付けておき、検品対象物の属性を判定する検品システムにより検出可能となる重量の下限値を有する強磁性体が取り付けられた物品において、
検品システムは、
検品対象品に対し所定の周波数で変化する磁界を印加する磁界印加手段と、
上記磁界変化による磁束密度の変化を検出する磁束検出手段と、
上記磁束密度変化に対応する周波数スペクトルを取得する周波数スペクトル取得手段と、
上記磁界変化と同一の磁界変化を上記各強磁性体と同一材質・形状のサンプルに印加して取得した周波数スペクトルと該強磁性体が取り付けられる物品の属性との関係を記憶する記憶部を有し、周波数スペクトル取得手段により取得した周波数スペクトルに基づいて検品対象物の属性を判定する判定手段と、
を備え、
上記強磁性体は、検針対象品内に針が存在するか否かを検出する検針システムにより検出可能となる針の重量より小さな値を重量の上限値とすることを特徴とする物品。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−47046(P2006−47046A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−226763(P2004−226763)
【出願日】平成16年8月3日(2004.8.3)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】