説明

極薄マグネシウムナノブレード

ナノ構造は、1つの縁が基板上に配置された複数の金属ナノブレードを含む。複数の金属ナノブレードの各々は、大きい表面積対質量比および長さより小さい幅を有する。水素を貯蔵する方法は、複数のマグネシウムナノブレードを水素貯蔵触媒でコーティングする工程、および複数のマグネシウムナノブレードを用いて水素化マグネシウムを化学的に生成することにより水素を貯蔵する工程を含む。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、国立科学財団により認められた契約番号0506738の下、政府支援でなされた。政府は本発明においてある権利を有する。
【0002】
本出願は、2007年4月2日に出願され、その全体が参照により本明細書で組み入れられる米国特許出願第60/921,329号に対し優先権の恩典を主張する。
【0003】
本発明は、全体としてナノ構造に関し、より詳細には金属ナノブレードに関する。
【背景技術】
【0004】
斜方蒸着は、3次元ナノ構造、例えばナノスプリングおよびナノロッドを製造するのに有効な技術として実証されている。例えば、Robbie et al., J. Vac. Sci. Technol. A, 15, 1460(1997)(非特許文献1);Zhao et al., SPIE Proceedings 5219, 59(2003)(非特許文献2)を参照されたい。物理シャドーイング効果のために、斜め入射蒸気は、最も高い表面特徴上に優先的に堆積される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Robbie et al., J. Vac. Sci. Technol. A, 15, 1460(1997)
【非特許文献2】Zhao et al., SPIE Proceedings 5219, 59(2003)
【発明の概要】
【0006】
概要
ナノ構造は、1つの縁が基板上に配置された複数の金属ナノブレードを含む。複数の金属ナノブレードの各々が、大きい表面積対質量比および長さより小さい幅を有する。
【0007】
別の態様では、水素を貯蔵する方法は、
(i)複数のマグネシウムナノブレードを水素貯蔵触媒でコーティングする工程;および
(ii)複数のマグネシウムナノブレードを用いて水素化マグネシウムを化学的に生成することにより水素を貯蔵する工程
を含む。
【図面の簡単な説明】
【0008】
(図1)(a)Mgナノブレードの平面SEM画像および(b)Mgナノブレードの側面SEM画像を示す。
(図2)基板法線に対し75°の入射角で、斜方蒸着により成長させたMgナノブレードの1つのSEM上面画像を示す。
(図3)水素化の概略図を提供する:(a)連続Mg膜上のPd、(b)円柱状Mg膜/Pd上のPd。(a)および(b)に対する表面積対質量比は10-2m2/gのオーダーである。(c)60m2/gのオーダーの表面積対質量比を有するMgナノブレード上でのPdの原子層堆積。
(図4)(a)0°、(b)30°、(c)59°、および(d)75°の蒸気入射角αで堆積させたMg膜の上面SEM画像を示す。アルファ(α)は、基板法線から測定した蒸気入射角である。各図面における挿入図はより高倍率の図を示す。テクスチャ解析から得られた結晶軸を(d)およびその挿入図で白色の矢印として示す。挿入図内のスケールバーは、(d)では100nmであることを除き、200nmである。
(図5)(a)75°の蒸気入射角αで堆積させたMgナノブレードの断面SEM像を示す。黒色の矢印は、成長開始時の傾斜したナノブレードを示す。αおよびβはそれぞれ、基板法線から測定した蒸気入射角およびナノブレード傾き角である。(b)蒸気入射角の関数としてのナノブレード膜の垂直高さのプロットである。
(図6)(a)75°の蒸気入射角で堆積させたMgナノブレードのTEM明視野像を示す。黒色矢印は、詳細分析のために選択された特別なナノブレードを示す。(a)の挿入図は、ナノブレードの制限視野電子回折(SAED)パターンの1つを示す。結晶Mgからの回折点に加えて、MgOからのリング構造が存在する。(b)ナノブレードの縁近くでの格子縞像。

面および

面に対する面間距離を測定すると、それぞれ、1.67Åおよび2.91Åである。試料を空気中で曝露させた後、結晶マグネシウムに隣接する約2〜4nmの厚さの酸化領域(MgO)が観察された。
(図7)(a)0°、(b)30°、(c)59°、および(d)75°の蒸気入射角で堆積させたMgナノブレード膜のインサイチューRHEED像を示す。

二軸(II-O)テクスチャに対するシミュレートした回折パターンを、(d)において測定した回折パターンの上に重ね合わせた。αおよびβ’はそれぞれ、基板法線から測定した蒸気入射角およびテクスチャ傾き角である。
(図8)(a)高さ約630nmで、75°の蒸気入射角で堆積させた薄いMgナノブレード膜の上面SEM像を示す。黒色の矢印は、成長中に形成された表面ステップを示す。(b)高い表面拡散を有する結晶成長に対する成長モダリティの概略。

方向に沿った拡散は、原子の運動により示される。

方向に沿った成長速度Vは、垂直および平行成分、それぞれVおよびVに分けることができる。α、βおよびβ’はそれぞれ、基板法線から測定した蒸気入射角、ナノブレード傾き角、およびテクスチャ傾き角である。
(図9)(a)約49.7分の堆積時間を有するナノブレードの上面SEM像である(約2.1μmの厚さ)。基板が方位角φ=0°(または180°)にある場合のRHEED測定の幾何学的形状が示される。入射電子ビーム方向及び入射フラックス方向は互いに対し90°である。φは基板法線周りの方位角である。電子ビームは、ナノブレードのより広い幅方向に平行である。(b)入射フラックス方向に垂直な方向から見たナノブレードの側面SEM像。βは基板法線から測定したナノブレード傾き角である。様々な堆積時間に対応する厚さは、水平矢印により表示する。(c)このページから飛び出す(out of the page)入射フラックス方向に平行な方向から見たSEM像の側面図である。フラックスから外方にまたはフラックスの方に向かっているナノブレードの大きな表面は(0001)面である。ナノブレードの上方に向かう成長方向はおおよそ、

軸に沿っている。
(図10)電子ビームがナノブレードのより広い幅方向に平行[φ=0°(または180°)の試料位置]である、およびナノブレードのより広い幅方向に垂直[φ=90°(または270°)の試料位置]である場合のMgナノブレードのRHEEDパターンを示す。ファイ(φ)は基板法線周りの方位角である。部分(a)および(b)は0.5分の堆積時間に対するものであり(約22nmの厚さ)、部分(c)および(d)は13.7分の堆積時間に対するものであり(約589nmの厚さ)、部分(e)および(f)は34.7分の堆積時間に対するものである(約1.49μmの厚さ)。

面の法線および[0001]軸は(e)において白色の矢印つき長破線により示される。(e)における矢印つき短破線は、

面の法線を示す。
(図11)(a)49.7分間堆積させたMgナノブレード膜(約2.1μmの厚さ)のRHEEDパターンから得られた逆格子空間の3D構成を示す。Sz軸上の点Aは、

円弧の交差点である。極角θは基板法線Sz軸から測定する。φは基板法線周りの方位角である。(b)点Aの強度対方位角φのプロットである。
(図12)約49.7分の堆積時間によるMgナノブレード膜の

RHEED極点図を示す。(a)正規化前および(b)正規化後;(c)および(d)正規化前後の対応する

RHEED極点図を示す。破線は方位位置を示し、この場合φ=0°(または180°)である。φ=0°は入射蒸気フラックスに向かう方向を意味し、φ=180°は入射蒸気フラックスから離れる方向を意味する。
(図13)(a)約0.5分(約22nmの厚さ)、(b)約8.5分(約365nmの厚さ)、(c)約24.5分(約1.05μmの厚さ)、および34.7分(約1.49μmの厚さ)の堆積時間での

RHEED極点図を示す。図面の極の位置は膜の成長に伴い入射蒸気フラックスに向かって移動する。方位角プロット強度は、図(d)で示されるように、

極を通過する白色の破線の円の周りである。円の中心は[0001]軸の幾何学的位置である。
(図14)(a)約8.5分(約365nmの厚さ)、13.7分(約589nmの厚さ)、24.5分(約1.05μmの厚さ)、34.7分(約1.49μmの厚さ)、および49.7分(約2.1μmの厚さ)に対するMgナノブレードのφ=0°(または180°)での

極強度プロファイルを示す。φ=0°は入射蒸気フラックスに向かう方向を意味し、φ=180°は入射蒸気フラックスから離れる方向を意味する。最大強度を有するピーク位置は、膜が成長して厚くなるに従い入射蒸気フラックスに向かって移動する。この傾向は破線の矢印により示されており、これは、

極位置の移動に対応する。(a)の挿入図は、テクスチャ軸傾き角

対堆積時間tのプロットである。(b)異なる堆積時間での強度対[0001]軸(φ[0001])周りの方位角を示す。曲線の両側にある平らな強度は、RHEEDパターンにおけるシャドーイング縁を越えた領域を示し、これは零強度を有する。矢印により示されている中央ピークでのスパイクは表面上に存在する粒子によるものである。(a)および(b)における強度プロファイルのベースラインは、明確にするためにシフトされている。
(図15)(a)

軸が結晶の垂直成長方向に沿っている場合、(b)

軸が結晶の上方成長方向に沿っている場合の、方位角配向を有する結晶の[0001]軸に沿った図面の概略を示す。水平破線上方の2つの斜線部分は、2つの異なる方位角整合におけるフラックス捕捉断面を計算するための例として使用される。結晶の辺長はlである。最終膜では、[0001]軸は、斜方蒸着下では基板法線から離れるように傾斜する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
詳細な説明
本明細書で引用した参考文献は全て、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。
【0010】
序論
斜方蒸着(「OAD」)は、三次元ナノ構造、例えばナノスプリングおよびナノロッドを製造するのに有効な技術であることが証明されており;例えば、Robbie et al., J. Vac. Sci. Technol. A, 15, 1460(1997);Zhao et al., SPIE Proceeding, 5219, 59(2003)を参照されたい。この技術では、基板が固定され、または表面法線周りに回転している間に、蒸気フラックスが基板法線に対し斜角αで入射する。物理的シャドーイング効果の結果、斜め入射蒸気は最も高い表面特徴上に優先的に堆積される。この優先的成長力により十分に分離したナノ構造が形成される。これらのナノ構造の寸法は一般に、堆積材料、堆積速度および基板温度によって、数十〜数百nmの範囲である。高い拡散率を有する材料では、最初の核形成密度が低く、これにより、より分離した構造が得られる。この場合、堆積構造の寸法はより大きくなることが一般に信じられている。シャドーイング効果および拡散に加えて、堆積材料の本質的な微細構造はまた、ナノ構造の形成にも影響する。
【0011】
本発明の1つの態様では、基板を回転しない斜方蒸着によるマグネシウム(Mg)ナノブレードの成長が観察された。これらのナノブレードは、ほとんど垂直に立っており、このため、図1で示されるように、斜方蒸着により成長させた柱状構造に対する周知の正接および余弦規則から逸脱し;例えば、Dirks et al., Thin Solid Films 47, 219(1997);Tait et al., Thin Solid Films, 226, 196(1993)を参照されたい。図2は、75°の入射角でOADにより成長させたMgナノブレードの1つのSEM上面像を示す。入射蒸気方向に沿ったMgナノブレードの幅は、約15〜約80nmの間;例えば、約15〜約30nmの間とすることができ、一方、入射蒸気方向に垂直な寸法、または長さは、数百nmもの大きさ、例えば約200nm〜約2000nmとすることができる。厚さ、または垂直高さは、材料の関数であり、約10μm〜約500mmの間とすることができる。幅は、堆積中の蒸気フラックスの角度の関数であり、約15nm〜約60nmの間とすることができる。ナノメートルスケールの特徴を有するこれらの非常に異方性の構造の形成は、拡散性が高いMgの成長が、過去の実験結果および理論予測から著しく逸脱することを示す。異方性ブレード形態の他に、インサイチュー反射高エネルギー電子回折(RHEED)を用いると二軸(II-O)テクスチャが観察できる。そのようなテクスチャの例示的な説明が、例えば、Bauer, Fiber Texture, The Ninth Nat. Vacuum Symp. Am. Vac. Soc., H. George and Bancroft編, Macmillan, NY (1963);Brewer et al., J. Appl. Phys. 93, 205(2003)において提供されている。表面積対質量比は、約15〜約30nm、例えば約22nmの平均幅を用いて、約40m2/g〜約60m2/g、例えば、52m2/gに到達することができる。この値は、ナノ微結晶を含むボールミル処理したMg粉末よりも約2桁高く;例えば、Zaluska et al., Appl. Phys. A72, 157(2001) を参照されたい。ナノブレードは、この高い比のために、多くの領域において潜在用途を有する。例えば、ナノブレードは、図3に示されるように、水素貯蔵のための金属水素化物として、または光電陰極材料として使用することができる。
【0012】
三次元スプリングおよびロッドとは異なり、ナノブレードは、非常に薄く、非常に大きな表面積を有する。表面積が大きいという特徴により、ナノブレードはエネルギー貯蔵用途、特に水素貯蔵に対しとりわけ魅力的である。水素を貯蔵するためには、大きな表面積は、より多くの水素原子を貯蔵されるにつれ材料が膨張する余地を提供することが望ましい。各ナノブレードの広い表面積は、各ブレード間の大きな空間と結合され、ナノブレードをこの用途に対し望ましいものとすることができる。
【0013】
OADは好ましい堆積法であるが、他の適した堆積法もまた、使用してもよい。Mgが好ましいが、別の金属または合金のナノブレードもまた形成させることができる。
【0014】
非制限的実施例
斜方蒸着により形成させたマグネシウム結晶ナノブレード
1.1 実験の詳細
超高真空(UHV)熱蒸発システムを使用して、Mgナノブレードを堆積させた。Mgペレット(純度99.95%)を酸化アルミニウムるつぼに入れ、蒸発のために約653Kの所望の温度まで抵抗加熱した。蒸気入射角の効果を研究するために、α=0°、30°、59°および75°でマルチアングル試料ホルダ上に載置された4つの基板上で堆積を同時に実施した。角αは入射フラックスと基板表面法線との間である。基板は、p型Si(100)であり、表面上に存在する自然酸化物の薄膜を有する。蒸発源と基板ホルダとの間の距離は約10cmとした。真空チャンバの基底圧は約3×10-10Torrとした。Mg源は約25分間、完全に脱気、蒸発させ、その後に堆積させた。堆積中、圧力は約1.2×10-10Torrまで上昇した。蒸発速度は、水晶モニタ(QCM)により示されるように、0.9〜1.1nm/sの間で維持した。K型熱電対を基板ホルダに取り付けると、堆積中に303Kから310Kまでの温度増加が示された。総堆積時間は90分であった。堆積膜の表面上の結晶構造はRHEEDによりインサイチューで特徴づけた。Mg膜の微細構造は、電界放射型走査電子顕微鏡法(SEM)および透過電子顕微鏡法(TEM)によりエクスサイチュー(ex situ)で研究した。
【0015】
1.2 結果およびデータ分析
ナノブレードのSEMおよびTEM像
図4(a)〜(d)および挿入図は、異なる蒸気入射角での堆積Mg膜のSEM上面像を提供する。垂直蒸気入射では、膜は連続であり、多角形状結晶を含んだ。結晶サイズは数μmのオーダーであった。図4(a)の右上挿入図で示した高解像度SEM像から測定した結晶の縁間の角度は約125°であった。これは、これらの大きな結晶が複数のHCP(0001)配向結晶の合一の結果であることを示唆する。基板温度対Mg溶融温度の比をとると、約0.34の相同温度が得られた(Th=Ts/Tm=310K/923K)。約0.34のこの値は、堆積膜の構造帯モデルによれば、Mgの成長がゾーンII領域(0.3<Th<0.5)にあることを示し;例えば、Thornton, J. Vac. Sci. Technol. 12,830(1975);Barna et al., Growth Mechanisms of Polycrystalline Thin Films, Science and Technology of Thin Films、Matacotta and Ottaviani編, World Scientific(1995)を参照されたい。ゾーンII領域での成長は、高い原子移動度を意味し、これは、図4(a)で観察された大きな結晶と一致する。30°の蒸気入射角では、膜は蒸気入射方向に垂直な筋状構造を形成し始めた(図4(b)を参照されたい)。蒸気入射方向に沿った筋の幅は約250〜300nmであった。堆積角が増加すると、蒸気入射方向に沿った筋の幅は、劇的に減少し、薄いナノブレードを形成した。1つの態様では、59°の蒸気入射角で、蒸気入射方向に沿ったナノブレードの幅は約30〜約150nmまで変動した。75°の蒸気入射角では、ナノブレードは極薄となり、約15〜約30nmの幅を有した。蒸気入射方向に垂直な寸法、または長さは数百nmのオーダーであった。典型的なナノブレードを図4(d)の右上挿入図で示すが、ここでは、ナノブレードの幅に沿った表面ステップを見ることができる。
【0016】
図5(a)は、75°で堆積させたMgナノブレード膜の断面SEM像を示す。ナノブレードは、ほとんど垂直であり、基板付近を除き、膜の厚さ全体に突き通っていた。成長の初期段階で(約1μm未満)、いくつかのナノブレードがフラックスから離れて傾斜した。ナノブレードの傾き角はβとして規定したが、これは図5(a)で示されるように基板法線から測定した。このナノブレードの傾いた垂直成長は、斜方蒸着中にβを入射フラックス角αに関連づける正接および余弦規則から逸脱した。蒸気入射角に対する膜の高さの説明を図5(b)で提供する。基板法線に沿う高さは、入射フラックス角が0°から75°まで増加するにつれ、数μm〜約21μmの間で変動した。2つの最大入射蒸気角で堆積させた膜は、受理したフラックスが少ないにも関わらず、垂直蒸気入射で堆積させた膜よりもずっと高かった。垂直蒸気入射で堆積させたCoなどの膜は斜角で堆積させた膜よりも厚いことが観察されており;例えば、Tang et al., J. Appl. Phys. 93, 4194(2003)を参照されたい。不一致は、斜方蒸着におり成長させた垂直配向ナノブレード対従来の傾斜ナノロッドに由来した。ナノブレードの予期せぬ高さは、膜の非常に多孔質な性質を伴った。ナノブレードは、図4(c)および(d)で示されるように、約0.5〜3μm、例えば約1〜2μmだけ、互いに分離させることができる。
【0017】
単一Mgナノブレードの単結晶性質を、TEMを用いて調べた。図6(a)は、約75°の入射蒸気角で堆積させたMgナノブレードの明視野TEM像を示す。黒色矢印は詳細分析のために選択したナノブレードを示す。(0001)晶帯軸に沿った1つの代表的な制限視野電子回折(SAED)パターンを図6(a)の右上挿入図で示す。スポットパターンの他に、多結晶MgO由来の2つの弱い回折輪が、回折パターンにおいて白色矢印により示されている。試料の酸化が、空気に曝露させた後に起きた。図6(b)はナノブレードの縁付近でとられた高解像度透過電子顕微鏡(HRTEM)像である。Mg格子縞が画像において見られる。2つの直交方向の格子縞間の測定した距離は、約2.91Åおよび約1.67Åであった。これらの2つの値は、Mg六方最密(HCP)構造の(1010)および(1210)面間距離に近く、それぞれ約2.78Åおよび1.61Åであった。さらに、図6(b)は、約2〜約4nmの厚さを有する酸化層がMg結晶に隣接し、Mg結晶と酸化物との間の界面は拡散性であることを示す。
【0018】
RHEEDパターンおよびテクスチャ解析
Mg膜のエクスサイチュー特性解析に加えて、インサイチューRHEEDを使用してその結晶配向を研究した。SEM上面像で示されるように、ナノブレードはうまく整合され、より広い側が蒸気フラックス方向におおよそ垂直であり、薄い側が蒸気フラックス方向に平行であった。これにより、Mgナノブレードが2つの好ましい結晶配向(すなわち、二軸またはII-Oテクスチャ)を有したことが示唆される。斜方蒸着により成長させた膜では二軸テクスチャがしばしば観察されており;例えば、Alouach et al., J. Vac. Sci. Technol. A 22, 1379(2004);Tang et al., Phys. Rev. B. 72, 035430(2005);Morrow et al., J. Vac. Sci. Tech. A 24, 235(2006)を参照されたい。図7(a)〜(d)は、異なる角度で堆積させたMg膜のインサイチューRHEED像を提供する。斜角で成長させた膜の回折パターンはよく発達したテクスチャを示す分散型円弧により構成された。1つの態様では、図7(d)で示されるように、α=75°に対する回折パターンを調べた。図7(d)における回折円弧の様々な半径間の比は1:1.13:1.46:1.72:1.88であり、回折円弧が

面に由来したことが示される。回折パターンから測定した格子定数aおよびcは3.18±0.10Åおよび5.20±0.17Åであった。測定した値は、どちらもMg結晶のものに近く、それぞれ3.21Åおよび5.21Åであった。異なる回折円弧間の角度の分析により、

二軸テクスチャがMg膜内で形成することがわかった。この二軸構造では、好ましい配向は、

面の表面法線および[0001]軸であった。この二軸テクスチャに対しシミュレートした回折パターンを図7(d)における回折パターンの上面に重ねた。

テクスチャ軸、すなわち

軸は基板に対しほとんど垂直であるが、[0001]軸は角β’=85°で蒸気フラックス方向に沿って向いている。ベータダッシュ(β’)は基板法線から測定した[0001]軸の傾き角である。このβ’角(85°)は、フラックス方向に垂直なナノブレードの側面が(0001)結晶面であることを示唆する。

軸は、[0001]軸および

軸に直交する。これらの3つの結晶軸は、空間的基準として機能することができる。これらの軸はまた図4(d)で示される矢印により示される。入射フラックス角αが約59°から約30°まで減少するにつれ、それぞれ、β’は79°および45°まで減少した。垂直蒸気入射では、図7(a)における回折パターンは、弱い垂直

ファイバーテクスチャと基板に平行な{0001}面の欠如とを示した。
【0019】
RHEED分析は、フラックスに面したナノブレードの側面が(0001)面であることを示す。この面は、六方最密(HCP)構造において最もコンパクトな結晶面であり、最も低い表面エネルギーを有する。ナノブレードは垂直に立っているので、(0001)表面は蒸気フラックスに面し、結果的に、ほとんどのフラックスを受理する。これらの長く、薄いナノブレードの形成は、(0001)表面上に堆積された原子が容易にこの面の端まで拡散し、蒸気フラックスに平行である隣接する表面まで輸送されることを意味し;例えば、Gilmer et al., Thin Solid Films 365, 189(1999);Liu et al., Appl. Phys. Lett. 80, 3295(2002)を参照されたい。隣接表面は平衡結晶構造によれば、

面などのより高い表面エネルギー面であり;例えば、Bauer, Growth of Oriented Films on Amorphous Surfaces in Single-Crystal Films、FrancombeおよびSatoによる編集、Macmillan, NY(1964)を参照されたい。さらに、図4(d)のSEM像は結晶表面上のステップ構造を示す。これらのステップは、結晶の初期成長においてより明確に見られる。図8(a)は75°の蒸気入射角で堆積させた約630nmの厚い膜の上面SEM像を示す。この像では、

方向に沿った一連のステップがナノブレード表面上で視認可能であり、黒色矢印により示されている。ステップ構造は、(0001)面に平行な積層欠陥などの高密度の面欠陥を示す可能性があり;例えば、Seryogin et al., Nanotechnology 16, 2342(2005);Levin et al., Appl. Phys. Lett. 87, 103110(2005)を参照されたい。
【0020】
入射蒸気フラックス方向に沿ったナノブレードの厚さ
実験的観察に基づき、図8(b)では提案された成長モデルの概略を提供する。原子が(0001)表面上に付着した後、原子は等方的に拡散する。これにより

方向に沿った結晶の成長が引き起こされる。

方向に沿った成長により、蒸気フラックスに垂直な方向のナノブレードの不均衡な幅が得られる。

方向に沿った成長はナノブレードの垂直成長に寄与する。原子が、隣接する

表面に輸送されるにつれ、拡散は(0001)面上でよりも遅くなる。この拡散の低下により、ナノブレードの厚さの減少が引き起こされる。しかしながら、これらの面上での拡散の違いは通常小さい。ナノブレードの形態において観察されるステップなどの表面欠陥は、極薄ナノブレードの形成を説明する際の重要な因子となる可能性がある。

面はより高い表面エネルギーを有するので、輸送された原子は、図8(b)で示されるようにむしろこれらの面上に留まることを選択する。これらの原子は、近隣のステップを越えて(0001)面上に移動するのに十分な熱エネルギーを有していない可能性がある。[0001]軸(すなわち、蒸気フラックス方向)に沿ったステップ平坦域の幅は、フラックス方向のナノブレードの幅を決定することができる。体系的な分子動力学(MD)シミュレーションは、表面拡散の詳細なメカニズムおよび表面ステップの形成を理解するのに役立つ可能性がある。
【0021】
テクスチャ軸およびナノブレードの傾き角
特別な理論に縛られることは望まないが、(0001)面の傾き角と蒸気入射角との間の関係は、高拡散性表面に対するファンデルドリフト理論を用いて理解することができ;例えば、van der Drift, Philips res. Rep. 22, 267(1967)を参照されたい。この理論に基づき、最高の垂直成長速度を有するナノブレードが存続することができる。ナノブレードに対しては、垂直成長速度は、

方向に沿った拡散の結果である。結晶により受理される総材料は〜cos(α-β’)であり、そのため、

方向に沿った成長速度Vもまた〜cos(α-β’)である。成長の垂直成分Vは〜cos(α-β’)sinβ’である。Vはβ’=45°+1/2αである場合に最大となる。α=30°、59°および75°を使用し、β’を計算すると、それぞれ、60°、74.5°および82.5°である。高角度の蒸気入射角α(すなわち、59°および75°)では、予測されるβ’値74.5°および82.5°は79°および85°の実験β’値に近いことが観察された。しかしながら、α=30°では、実験β’値は45°であり、これは60°の予測値よりもずっと小さかった。これは、より小さいα角ではシャドーイングの影響が減少するためである可能性がある。シャドーイング効果が弱くなるにつれ、より小さい傾き角を有する結晶が抑制されなくなった。ナノブレードは、[0001]軸に沿ってゆっくりと成長するので、

軸に沿った成長により、ブレードは、フラックスから角β=90-β’で離れるように傾斜し、ここで、βは基板法線から測定したものである。存続した背の高いナノブレードは大きなβ値を有し、これらのナノブレードは、ほとんど垂直に立っていることが示される。しかしながら、成長の初期段階で、大きな傾き角β(すなわち、小さいβ’)を有するナノブレードもまた、図5(a)の断面SEM像で示されるように、存在することができる。Markus Bauerらは、斜方電子ビーム蒸着下では、MgOロッドは蒸気フラックスからわずかに離れるように傾斜することを観察しており;この異常な傾き角は入射蒸気原子の運動量に起因する方向性拡散によるものであると論じた。例えば、Bauer et al., Mat. Res. Soc. Symp. 587, O2.2.1(2000)を参照されたい。1つの態様では、75°の入射に対し、Mgフラックスは、ナノブレードの(0001)表面上の垂直入射に近かった。さらに、Mg蒸気原子の運動エネルギーは約0.056eVでは非常に小さく、そのため、方向性拡散は無視されるべきであり;例えば、Sanders et al., Surface Science 254, 341(1991);Sanders et al.,J. Vac. Sci., Tech. A 10, 1986(1992)を参照されたい。
【0022】
いくつかの態様では、パラジウム(Pd)を、蒸気蒸発によりインサイチューで、または原子層堆積によりエクスサイチューでナノ触媒としてナノブレード上にコーティングし、水素吸着/脱着温度を低下させることができる。他のいずれの液体または気相堆積法も使用することができる。このアプローチにより、非常に高い貯蔵能力を有する、中程度の温度および圧力での水素の可逆の吸収および脱離のための新しいクラスの材料を開発することができる。水素貯蔵のために適した他の触媒、例えば、バナジウム、白金、ニオブ、またはコバルトもまた使用することができる。このクラスの材料を使用して、他の適用、例えば、電子エミッタ、光子放出電子陰極もまた作製することができる。
【0023】
1つの態様では、OADにより形成されたMgナノブレード(図2を参照されたい)は、約60m2/gの表面積対質量比を有した。この推定値は、これらのパラメータに由来した:ナノブレードの長さ、約20μm、ナノブレードの体積、630nm×18nm×20μm=2.26×10-13cm3、密度:1.738g/cm3、および質量:3.928×10-13g。これらの数値から約630nm×20μm×2=2.5×10-11m2の表面積が得られた。表面積/質量の比=63m2/g。いくつかの他の態様では、この比は、45m2/gまたはそれ以上とすることができ、約50m2/g〜約70m2/gの範囲とすることができることに注意されたい。この表面積対質量比はおおよそ、ナノブレードの幅(約18nm)により決定された。この値は、垂直蒸気入射蒸着により作製された連続Mg膜に比べ少なくとも約3桁高く、ナノサイズ粒子を含むボールミル処理したMg粉末よりも約2桁高かった。さらに、Mgナノブレードは60nm未満、例えば約20nmの幅を有するので、ナノ触媒Pdにより解離された水素は、ナノブレードの厚さ全体を通って拡散し、Mg水素化物を生成することができ、これらのナノブレードにおける水素化および脱水素化過程において必要とされる時間は短くすることができる(図3を参照されたい)。Mgナノブレードは理論的には7.6wt.%までの水素を吸収することができる。垂直に立っている、孤立したナノブレード間のギャップは、サイクル中のMgと水素化マグネシウムとの間の、約20%〜約40%の間、例えば30%の体積膨張を収容することができる。これにより耐久性およびサイクル寿命が延びる可能性がある。原子層堆積(ALD)は、図3で示されるように、金属に対する正確に制御された堆積技術であるので、材料の均一なコンフォーマルコーティングのための所望の技術である。1つの態様では、エクスサイチューALDを使用してMgナノブレードをPdでコンフォーマルコーティングする。Pdは、この方法により金属および酸化金属表面、例えば空気に曝露されたTaおよびSi上に、プラズマを使用せずに堆積させることができる。
【0024】
2. RHEED表面極点図研究
2.1 実験の詳細
超高真空(UHV)熱蒸発システムを使用してMg膜を堆積させた。基板は、表面に自然酸化物薄層が存在するp-型Si(100)とした。基板法線に対する蒸気入射角αは約75°とした。蒸発源と基板ホルダとの間の距離は約10cmとした。該源は、抵抗加熱し、蒸発のために望ましい約600Kの温度に維持した。真空チャンバの基底圧は約4×10-9Torrであった。堆積中、圧力は約2.0×10-8Torrまで上昇した。RHEED銃を8kVおよび0.2mAの放出電流で動作させた。1.8°のステップを有し、360°の方位角をカバーする合計200のRHEEDパターンを極点図測定に対し記録したが、約20分かかった。RHEEDの設定および動作の詳細は、例えば、Tang et al., Appl. Phys. Lett. 89, 241903(2006)において見出すことができる。インサイチューRHEED極点図測定では、Mg堆積を0.5分、4.5分、8.5分、13.7分、24.5分、34,7分、および49.7分で中断させた。最終Mg膜の形態および構造は電界放出SEMによりエクスサイチューで画像化された。SEM像の側面図から得られたMg膜の高さは約2.1μmであり、約43nm/分の成長速度が示された。高さは基板とMg膜表面の間の垂直距離を示す。厚さ、または垂直高さは一般に最大値をとらず、例えば約500nm〜約25μmの間とすることができる。幅は蒸気フラックス方向に沿った寸法を示し、一般に約15nm〜約80nm、例えば約15nm〜約30nmの範囲とすることができる。長さは、厚さおよび幅の両方に垂直な寸法を示し、一般に約200nm〜約2000nmの範囲とすることができる。
【0025】
2.2 結果およびデータ分析
SEM像
Mg膜のOADは一般に、Mg原子の迅速な拡散のために、他の材料とは著しく異なるものとすることができる。図9(a)〜(c)は、75°の蒸気入射角で49.7分堆積させた最終Mg膜のSEM像を示す。膜は多くのナノブレードから構成される(図9(a)を参照されたい)。入射蒸気方向に沿った典型的なMgナノブレードの幅は約15〜約30nmの範囲であったが、入射蒸気に垂直な長さは数百nmと広くすることができる。図9(b)の側面像は、ナノブレードが入射フラックスから離れて傾斜していることを示している。様々な堆積時間に対応する厚さが図9(b)において水平矢印により示されている。ナノブレード間での競争成長が堆積中に起こり、この場合、傾き角が小さいナノブレードの方が有利であった。傾きが小さいナノブレードの上面はより明るいコントラストを有し(図9(a)を参照されたい)、これらのナノブレードがより高く成長し、シャドーイング効果下で存続したことが示されている。図9(c)はこのページから飛び出す入射フラックス方向に平行なSEM断面像を示す。この像から、ナノブレードの形状は多角形であることがわかる。ナノブレードのまさに上部は、複数の部分六角形の組みあわせを示し、破線により強調されている。これにより、フラックスから離れ、またはフラックスの方を向いているナノブレードの大きな表面は(0001)面であることが示唆される。さらに、ナノブレードの上方成長はおおよそ、

方向に沿って整合されていた。

軸に沿った

面の表面法線は、別の好ましい結晶方位であった。SEM像の分析により、

二軸テクスチャの形成が示され、これは極点図分析と一致する。
【0026】
RHEEDパターンおよび極点図分析
RHEEDパターン
RHEED極点図測定では、基板を方位角法により角φで基板法線周りに回転させ、その間、蒸気フラックスおよび電子ビームの方向を互いに90°で固定した。0°(または180°)の方位角φでのRHEED測定の幾何学的形状を図9(a)に示すが、図では、0°(または180°)の方位角φが入射フラックス方向に平行であると規定され、入射電子ビームの方向は90°(または270°)のφとして、フラックス方向に対し90°である。この幾何学的形状では、電子ビーム方向はナノブレードのより広い幅に平行であった。基板を回転させると、φ角度は入射電子ビーム方向に対し変化し、ナノブレードのより広い幅方向が電子ビーム方向に対し回転されたことが示される。図10は、0.5分(約22nmの厚さ)、13.7分(約589nmの厚さ)、および49.7分(約2.1μmの厚さ)の選択した堆積時間でのRHEED像を示す。図10(a)、10(c)、および10(e)はナノブレードの広い幅の方向が電子ビーム方向に平行である場合[基板はφ=0°(または180°)で配置]のパターンである。基板がφ=90°(または270°)まで回転された場合、ナノブレードの広い幅の方向は電子ビーム方向に垂直となった。対応するRHEED像を図10(b)、10(d)、および10(f)に示す。図10(a)および10(b)は、0.5分未満の非常に初期の段階(約22nmの厚さ)で現れるほとんど連続した均一の回折輪を示し、ほとんどランダムな核形成が示される。さらに堆積させると、図10(c)および10(e)で示されるように、回折輪はより鋭くなり、より多くの部分に分かれ、テクスチャ形成が示される。成長のより後の段階では、ナノブレードのより広い幅の方向が電子ビームに平行である場合、パターンが基板法線について非対称となることがわかる(図10(c)および10(e)を参照されたい)。この非対称は斜角入射蒸気に起因した。図10(e)における回折円弧の様々な半径間の比は、1:1.14:1.45:1.72:1.87であり、図7(d)で示されたものと同様である。この比は、回折円弧が

面由来であることを示す。回折パターンから測定した格子定数aおよびcはそれぞれ、3.2±0.1および5.2±0.2Åであった。これらの測定した値は、Mgバルク結晶の格子定数に近く、それぞれ、3.21および5.21Åであった。RHEED像分析から、(0002)回折円弧が消失していることがわかる。これは、結晶の内部ポテンシャルに由来する電子屈折効果のためである可能性がある。(0002)回折円弧の強度は主に、(0001)結晶表面に平行な電子ビームに由来した。しかしながら、電子ビームが結晶表面にほぼ平行となった場合に、屈折効果が最も強くなった。例示的な説明が例えば、Thomson et al., Theory and Practice of electron Diffraction, Macmillan, NY(1939)において提供されている。G2(0002)/4κ2<φ/Pでは、反射はほとんど不可能であり、式中、κは電子ビームの波動ベクトルであり、G(0002)は(0002)面の逆波動ベクトルであり、φは内部ポテンシャルであり、Pは電子ポテンシャルである。上記不等式にP=8000V、κ=45.82Å-1、およびG(0002)=2.41Å-1を代入すると、Mgの内部ポテンシャルが5.5eVより大きくなることが示された。Mgの内部ポテンシャルの値は、現存する文献には見出されていないが、ほとんどの金属が10eVを越える内部ポテンシャル値を有することが示されており;例えば、Vainshtein, Structure Analysis by Electron Diffraction, Macmillian, NY(1964)を参照されたい。
【0027】
RHEED極点図の正規化
Mg膜の形態は一般に異方性である。この異方性形態は、異なる方位角での極点強度プロファイルから構成される、RHEED極点図を著しく歪める。強度正規化法は、この幾何学的形状効果を説明するために開発されたものである。RHEEDでは、入射電子ビームの典型的な波動ベクトルκは、対象の逆格子ベクトルGよりもずっと大きく;そのため、エワルド球は面として近似することができる。図11(a)は49.7分(約2.1μmの厚さ)で堆積させたMg膜のRHEEDパターンから構成した逆格子空間の三次元(3D)図を示す。エワルド球が面として近似されるという仮定の下、異なる方位角でのRHEEDパターンは基板法線(すなわち、Sz軸)に沿った共通の交線を有する可能性がある。特に、Sz軸上の点Aは、

円弧の間の交差点である。理論では、異なる方位角でのRHEEDパターンから得られる点Aの強度は同じ強度を有するべきであるが、この強度は、図11(b)で示されるように方位角に対し著しく変動した。強度プロットの谷は約φ=0°(または180°)にあり、一方、ピーク強度は約φ=90°(または270°)にあった。方位角におけるこの強度変調は膜の異方性形態による可能性があった。SEM像から、膜は、より広い表面(面)が蒸気フラックスに垂直である、よく整合されたナノブレードを含むことがわかる。測定中、電子ビームがナノブレードのより広い幅の方向に平行に入射する場合、ナノブレードの列の間のギャップが入射電子に曝露され、材料の奥底までより多くの電子チャネリングが可能になる。チャネリング電子はバルクに捕捉され、またはバックグラウンドに寄与することができ、φ=0°(または180°)で弱い強度が得られる。しかしながら、電子ビームがナノブレードのより広い表面に垂直、φ=90°(または270°)である場合、電子はチャネリングギャップに垂直となり、回折強度は最も強くなる。どちらの議論も図11(b)からの観察結果と一致する。
【0028】
図11(b)で示される、方位角周りでの強度変調を補償するために、異なるRHEED像由来の点Aの強度を正規化し一定値とした。図12(a)および12(b)はそれぞれ、正規化前後の、49.7分で堆積させた膜の

RHEED極点図を示す。破線で示される約φ=0°(または180°)での強度は、電子ビームがナノブレードのより広い表面に平行に入射した場合のRHEED像から得られた。正規化前では、この強度は、上記強度変調のため、周囲よりも著しく低かった。正規化後、中心極は破線に沿って視認可能となった。極構造は二軸テクスチャの形成を示唆する。異なる回折極間の角度の分析により、

二軸テクスチャ形成がMgナノブレード膜において観察された。例示的な分析法は例えば、Tang et al., Appl. Phys. Lett. 89, 241903(2006)において提供されている。この二軸テクスチャに対する回折強度の計算した位置を黒四角として図12(b)の上面に重ねた。
【0029】
同様の正規化過程に続いて、別の極点図を作成した。図12(c)および12(d)はそれぞれ、正規化前後の

RHEED極点図を示す。正規化後、図12(c)で示される分割した中心極は融合され、図12(d)で示される単一極とされる。個々の極の位置は、

二軸テクスチャの理論的位置と厳密に一致する。

回折輪の回折強度は、テクスチャ発展中、常に強いので、分析は、

極点図に集中する。
【0030】
正規化されたRHEED極点図の発展
図13(a)〜13(d)は0.5、8.5、24.5、および34.7分の堆積後の一連の正規化

RHEED極点図を示す。0.5分の堆積の始めに、極点図強度における強度分布は、ほとんど均一であり、アモルファス基板上でのランダムな初期核形成が示される。8.5分のより長い堆積を用いると、図13(b)の極点図の左側で強いバンドが示された。明確に分離された極が24.5分のより長い堆積時間(約1.05μmの厚さ)で現れた。図中の極の位置は膜が成長するにつれフラックスに向かって移動した。これは、テクスチャ軸がフラックスに向かってより大きく傾斜したことを示す。このテクスチャ軸の変化は、φ=0°(または180°)でのRHEED像から測定した極強度プロファイルの発展により定量的に特徴づけることができる。プロットを図14(a)に示す。8.5分の堆積時間では(約365nmの厚さ)、最大強度を有するピークの位置はφ=180°の側では約θ=43°であった。膜が成長してより厚くなるにつれ、ピーク位置は徐々に中心に移動した。49.7分の堆積時間では、テクスチャ軸はφ=0°の側ではθ=1°まで傾斜した。図14(a)の挿入図は、テクスチャ軸の傾き角

対堆積時間tを示す。マイナス記号は、テクスチャ軸が入射蒸気フラックスに向かって傾斜することを示す。図から、テクスチャ軸の傾き角が成長の初期段階で最も劇的に変化することがわかる。
【0031】
極位置の移動の他に、

極は、図13(d)で観察されるように(破線)環状バンド上に存在する。この環状バンドは、方位角配向の変動が主に[0001]軸周りであることを示す。これは、(0001)面が主なフラックス受理表面であることを考慮すれば自然な結論である。図14(b)は、異なる堆積時間での強度対[0001]軸周りの方位角またはφ[0001]を示す。φ[0001]は、

極を通過した破線円周りであった。例を図13(d)で提供する。円の中心は[0001]軸の幾何学的位置である。この方位角プロットは極点図の中心周りのものとは異なる。方位角プロットにおける3つのピークはこれらの3つの極に対応する。表面に存在する粒子からの散乱のために、狭い方位角領域内のいくつかのRHEED像は著しく歪められた。これにより、中心ピークで観察されたスパイクが生じ、これは、矢印で示された成長の初期段階の曲線で最も明らかとなった。しかしながら、サイドピークは、膜成長中に約44°から約27°にピーク幅が収縮することを明確に表しており、[0001]軸周りの方位角配向がより制限されたことを示す。
【0032】
テクスチャ軸傾き角
極点図分析により、膜が成長するにつれ、テクスチャ軸が入射蒸気フラックスに向かって傾斜したことが示される。テクスチャ軸配向の同様の変化が、OADにより、CdS膜においても観察された。例えば、Laermans et al., Thin Solid Films 15, 317(1973);Hussain, Thin Solid Films 22 S5(1974)を参照されたい。ナノブレードの六角形状は、個々のナノブレードが単結晶構造を有することを示す。この単結晶性質はまた、透過型電子顕微鏡法(TEM)分析により確認された。例えば、Tang et al., Journal of Nanoscience and Nanotechnology 7, 3239(2007)を参照されたい。そのため、テクスチャ軸傾き角の変動は、ナノブレード傾き角に相関させることができる。これは、最終堆積膜の形態における観察結果と一致する。図9(b)のSEM側面図から、ナノブレード間での競争的成長が明らかになる。堆積の初期段階では、ナノブレードは明らかに基板から離れて傾斜した。大きな傾斜角を有するナノブレードでは、成長方向は基板法線から著しく逸脱し、そのため、その垂直成長速度は減少し、最終的には成長が中止する。結果として、テクスチャ軸は成長中に入射蒸気フラックスに向かってより傾斜し始める。ナノブレードの傾き角βは、

テクスチャ軸の傾き角、

に等しいと仮定することができる。

は、

から

までに関連させることができる。28.7°は、結晶

面間の角度である。図13(a)から得られた

の最終値は、-1である。そのため、

の最終値は、〜-1°+28.7°=27.7°である。図9(b)から測定したナノブレードの最終傾き角は〜(22±6)°であり、これは27.7°の

に匹敵する。さらに、[0001]テクスチャ軸は、表面法線から〜-(1°±61.3°)=-62.3°だけ傾斜し、この場合、61.3°という値は結晶

および(0001)面間の角度である。ここで、マイナス記号は、テクスチャ軸が入射蒸気フラックスに向かって傾斜することを意味する。

面の法線および[0001]軸が図10(e)のRHEEDパターンにおいて矢印つき長破線として示されている。(e)における矢印つき短破線は、

面の法線を示す。
【0033】
方位角配向の整合
結晶構造(例えば、Tang et al., Phys. Rev. B 72, 035430(2005);van der Drift, Philips res. Rep. 22, 267(1974)を参照されたい)、フラックス捕捉断面(受理フラックス)(例えば、Chudzil et al., IEEE Trans. Appl. Supercond. 11, 3469(2001)を参照されたい)、および非対称表面拡散(例えば、Karpenko et al., J. Appl. Phys. 82, 1397(1997)を参照されたい)を含む、多くの議論が、OADにより堆積された膜における方位角選択を説明するために文献において示されているが、配向選択を正確に予測する一般的な理論は現れていない。1つの態様では、図15(a)および15(b)で示されるように、[0001]軸周りに方位角配向が整合された2つの極端な場合が存在する。ナノブレードは、六角形形状結晶、および[0001]軸に沿った図として単純化されている。1つは、結晶の垂直成長方向に沿った

軸を有するものであり[図15(a)];もう一方は、結晶の垂直成長方向に沿った

軸であり[図15(b)]、これは1つの態様で観察された。[0001]軸はOAD下では基板法線から離れるように傾斜した。第1の場合は、上向きの鋭い先端を有する。幾何学的形状を考慮することにより、鋭い先端(すなわち、

軸)に沿った成長は、結晶の縁(すなわち、

軸)に垂直な方向よりも早い成長速度を有することができ;例えば、Tang et al., Phys Rev. B72, 035430(2006)を参照されたいが、これは1つの態様における観察結果と逆であった。これらの2つの幾何学的形状のフラックス捕捉断面間の違いを考慮すれば、この不一致は解決することができる。シャドーイング効果のために、結晶のまさに上方の部分のみ、例えば、水平破線上方の斜線領域を受理フラックスの計算において考慮してもよい。この場合、図15(b)の結晶は、図15(a)で示した結晶よりもずっと大きな蒸気フラックス捕捉断面を有する。受理フラックスは、薄いブレード構造の側面に輸送されたので、垂直成長方向に沿った

軸を有する結晶がより高速の垂直成長速度を有し、存続することができる。例として、蒸気フラックスのカットオフ位置を計算した場合の捕捉断面は、図15では水平破線により標識づけされている。結晶の最高点から破線までの距離はl/2であり、ここで、lは結晶辺長である。計算したフラックス捕捉断面積(斜線領域)はそれぞれ、図15(a)および15(b)では、

である。図15(b)の面積は、図15(a)の面積よりも約1.49高い。
【0034】
そのため、斜方蒸着により大きな表面積を有する金属ナノブレードを作製することができる。これらの垂直に独立して立っているナノブレードは、

二軸テクスチャを示す。これらのナノブレードの形態は、材料の特性および堆積条件の関数とすることができる。これらのナノブレードはさらに、水素貯蔵などの用途のための触媒でコーティングすることができる。
【0035】
本発明の態様の前記の説明は、例示および説明のために示したものである。包括的である、または本発明を開示した厳密な形態に限定するつもりはなく、改変および変更は、上記教示に鑑みれば可能であるか、または本発明の実施から得られる場合がある。態様は、本発明の原理を説明するために、および実際の適用として選択し、記載したものであり、このため、当業者は様々な態様において本発明を使用することができ、様々な改変が企図された特別な用途に適している。本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲およびその等価物により規定されるものである。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】

【図14】

【図15】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つの縁が基板上に配置された複数の金属ナノブレードを含む、ナノ構造。
【請求項2】
複数の金属ナノブレードが、長さより小さい幅を有するマグネシウムナノブレードを含む、請求項1記載のナノ構造。
【請求項3】
複数の金属ナノブレードが、パラジウム、コバルト、白金、ニオブまたはバナジウムから選択される水素貯蔵触媒でコーティングされている、請求項1記載のナノ構造。
【請求項4】
各ナノブレードの表面積対質量比が約50〜約70m2/gの間である、請求項1記載のナノ構造。
【請求項5】
各ナノブレードの表面積対質量比が約45m2/gより大きい、請求項1記載のナノ構造。
【請求項6】
各ナノブレードの幅が約15nm〜約30nmの間である、請求項1記載のナノ構造。
【請求項7】
各ナノブレードの長さが約100nm〜約2000nmの間である、請求項1記載のナノ構造。
【請求項8】
複数の金属ナノブレードの各々が、少なくとも10μmの厚さを有する、請求項1記載のナノ構造。
【請求項9】
長さ対幅の比が少なくとも2である、請求項1記載のナノ構造。
【請求項10】
複数の金属ナノブレードが異方性である、請求項1記載のナノ構造。
【請求項11】
複数の金属ナノブレードが二軸テクスチャを示す、請求項1記載のナノ構造。
【請求項12】
複数の金属ナノブレードの各々が、別のナノブレードから約1〜約2μmだけ分離される、請求項1記載のナノ構造。
【請求項13】
電子エミッタである、請求項1記載のナノ構造を含む装置。
【請求項14】
光子放出電子陰極である、請求項1記載のナノ構造を含む装置。
【請求項15】
水素貯蔵装置である、請求項1記載のナノ構造を含む装置。
【請求項16】
斜方蒸着により基板上に複数のナノブレードを形成する工程を含む、ナノ構造の製造方法。
【請求項17】
斜方蒸着が60〜85°の間の入射角で実施される、請求項16記載の方法。
【請求項18】
ナノブレードの各々を水素貯蔵触媒でコーティングする工程をさらに含む、請求項16記載の方法。
【請求項19】
基板上の複数のマグネシウムナノブレードを用いて水素化マグネシウムを化学的に生成することにより水素を貯蔵する工程を含む、水素を貯蔵する方法。
【請求項20】
パラジウム、コバルト、白金、ニオブまたはバナジウムから選択される水素貯蔵触媒で各マグネシウムナノブレードをコーティングする、請求項19記載の方法。
【請求項21】
水素を貯蔵する工程が、約7.6wt%までの水素を貯蔵する、請求項17記載の方法。

【公表番号】特表2010−523354(P2010−523354A)
【公表日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−502091(P2010−502091)
【出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【国際出願番号】PCT/US2008/003907
【国際公開番号】WO2008/123935
【国際公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【出願人】(591117594)レンセラー・ポリテクニック・インスティチュート (6)
【氏名又は名称原語表記】RENSSELAER POLYTECHNIC INSTITUTE
【Fターム(参考)】