説明

樹皮防護用シート材及びそれを用いた樹皮防護具

【課題】本発明は、樹木に巻き付けた状態での耐久性を有するとともに取付作業が容易な樹皮防護用シート材及びそれを用いた樹皮防護具を提供することを目的とするものである。
【解決手段】樹皮防護用シート材Aは、生分解性合成樹脂材料からなる糸により経方向に編成された複数の鎖編列1を所定間隔空けて配列するとともに生分解性合成樹脂材料からなるテープ状の連結糸2を隣接する鎖編列の間に間隔を空けて緯方向に交互に掛け渡してメッシュ状に編成された編成体Bを二重に重ねた状態で互いの鎖編列1を交絡させて一体形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、山林等において造林された樹木に対して鹿や熊等の野生動物が樹皮を剥がして食い荒らされる被害から樹木を防護するために使用する樹皮防護用シート材及びそれを用いた樹皮防護具に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、造林により生育した樹木に対して野生動物が樹皮を剥がして食い荒らす被害が増加している。樹木は、樹皮を剥がされてしまうと再生されずに枯れてしまうため、深刻な被害が生じることから、野生動物に対する樹木の防護対策が必要となる。
【0003】
樹木の防護対策としては、野生動物の補殺、忌避剤の散布、金網や荒縄等の巻き付けといった方法が提案されているが、野生動物の補殺は野生動物の保護の観点から好ましいものではなく、忌避剤の散布については降雨等により流れてしまい、長期間の効果を望めない。また、金網の巻き付けはコスト負担が大きく広範囲にわたって設置することは現実的でない。荒縄等の巻き付けは低コストではあるが、樹木の生長により幹が太くなると切れてしまうため3年程度で再度巻き付ける必要があることから、作業負担が大きい。
【0004】
こうした従来の方法の問題点に対応するため、防護用ネットを巻き付ける方法が提案されている。特許文献1では、光触媒として二酸化チタンを含むポリエチレンからなる素材で構成されたネットを樹木に巻き付ける植林用剥皮被害防除具が記載されている。光触媒を含むポリエチレンを用いることで長期間にわたって太陽光に晒されてポリエチレンが劣化して分解するため、樹木の生長とともに崩れ落ちて土壌に吸収され、ゴミとして回収する必要がなくなる、といったメリットがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−095081号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では、樹木の防護用にネットを用いているものの、樹木の生長による幹の大径化に十分対応することができない。また、積雪の多い地域では、樹木に巻き付けたネットがずり落ちるおそれがあり、長期間にわたる耐久性に難点がある。また、樹木の幹部分から根張り部分まで1枚のネットで覆うことは伸縮性の点で難しく、複数枚で覆う必要があり、作業効率が悪くなるといった課題がある。
【0007】
そこで、本発明は、樹木に巻き付けた状態での耐久性を有するとともに取付作業が容易な樹皮防護用シート材及びそれを用いた樹皮防護具を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る樹皮防護用シート材は、生分解性合成樹脂材料からなる糸により経方向に編成された複数の鎖編列を所定間隔空けて配列するとともに生分解性合成樹脂材料からなるテープ状の連結糸を隣接する鎖編列の間に間隔を空けて緯方向に交互に掛け渡してメッシュ状に編成された編成体を二重に重ねた状態で互いの鎖編列を交絡させて一体形成されていることを特徴とする。緯方向の引張破断伸度が130%〜150%であることを特徴とする。
【0009】
本発明に係る樹皮防護具は、上記の樹皮防護用シート材を前記鎖編列が樹木の幹方向に沿うように巻き付けて幹部分から根張り部分までを覆うように止着部材により取り付けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、経方向に所定間隔空けて鎖編列を配列し、隣接する鎖編列の間をテープ状の連結糸で所定間隔を空けて緯方向に交互に掛け渡してメッシュ状に編成した編成体を用いているので、緯糸方向に伸長することができ、樹木の周囲に密着して巻き付けた状態で設置しても樹木の生長に伴う大径化に対応して緯方向に拡がることが可能となる。そして、幹部分に巻き付けた状態で根張り部分に対して拡げるようにして覆うことができ、1枚のシート材で簡単に取付作業を行うことができる。
【0011】
また、編成体を二重に重ねて互いの鎖編列を交絡させているので、十分な強度を備えており、樹木に巻き付けた状態でも長期間にわたって破断することのない耐久性を有している。そして、二重に重ねることで厚みのあるシート材となり、高い防護効果を奏することができる。
【0012】
また、緯方向に掛け渡したテープ状の連結糸は、糸長方向の引張強度が大きいが、引き裂き強度が小さいため、樹木に巻き付けた場合に樹皮の表面の突起やささくれにテープ状の連結糸が引っ掛かり、引き裂かれて樹皮全体に密着して保持されるようになる。テープ状の連結糸は容易に引き裂かれるものの引張強度が大きいため破断することはなく、樹皮から容易に外れることはない。そのため、積雪が多い地域に設置した場合でも樹木からずれることがなく、また野生動物が引っ張ったり強風によるばたつきに対しても耐久性があり、長期間にわたって樹木に密着した状態で保持することができる。
【0013】
また、生分解性を有する材料でシート材を構成しているので、シート材は最終的に分解して土壌内に取り込まれていき、自然環境に対して悪影響を及ぼすことはない。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る樹皮防護用シート材に関する平面図である。
【図2】編成体に関する平面図である。
【図3】樹皮防護用シート材に関する編組織図である。
【図4】樹皮防護用シート材に関する別の編組織図である。
【図5】樹皮防護用シート材を緯方向に引張った状態を示す模式図である。
【図6】樹皮防護用シート材を樹木Tの周囲に巻き付けた状態を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について詳しく説明する。図1は、本発明に係る樹皮防護用シート材に関する平面図である。樹皮防護用シート材Aは、メッシュ状の編成体Bが二重に重ね合わされて構成されている。図2は、編成体Bに関する平面図である。編成体Bは、経方向に編成された複数の鎖編列1が所定間隔を空けて配列されており、隣接する鎖編列1の間には、鎖編列1に間隔を空けて編み込まれた連結糸2が緯方向に交互に掛け渡されることでメッシュ状に編成されている。そして、編成体Bの鎖編列1を互いに交絡させて一体形成して樹皮防護用シート材Aが構成されている。
【0016】
鎖編列1を編成する糸は、生分解性合成樹脂材料からなるものが好ましく、例えば、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリカプロラクトン、ポリブチレンテレフタレートアジペート、ポリブチレンテレフタレートサクシネートといった脂肪族ポリエステル又は芳香脂肪族ポリエステルが挙げられる。こうした加水分解型の生分解性合成樹脂材料以外にも、酸化型の生分解性合成樹脂材料を用いてもよい。そして、モノフィラメント、マルチフィラメント、フラットヤーン、スリットヤーンといった形態の糸を使用することができる。
【0017】
連結糸2としては、生分解性合成樹脂材料からなるものが好ましく、例えば、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリカプロラクトン、ポリブチレンテレフタレートアジペート、ポリブチレンテレフタレートサクシネートといった脂肪族ポリエステル又は芳香脂肪族ポリエステルが挙げられる。こうした加水分解型の生分解性合成樹脂材料以外にも、酸化型の生分解性合成樹脂材料を用いてもよい。特に、ポリブチレンサクシネート系樹脂材料(例;三菱化学株式会社製PBS系樹脂材料)や酸化促進剤を含むポリオレフィン系樹脂材料(例;ピーライフ・ジャパン・インク株式会社製生分解性プラスチック)が好ましい。
【0018】
また連結糸2は、フラットヤーンのような細幅のテープ状に形成された形態のものが好ましい。上述した生分解性合成樹脂材料は、テープ状に形成することで、糸長方向の引張強度が大きいが、糸長方向と直交する方向には引き裂き強度が小さくなり、連結糸2も糸長方向と直交する幅方向に容易に引き裂かれて、ささくれだった状態になる。
【0019】
テープ状の連結糸2は、事前に撚糸することなく編み込まれており、編み込む際に幅方向に潰されて細幅に形成されるが、編み込んだ後でも幅方向に簡単に引き裂くことができるようになっている。
【0020】
図3は、樹皮防護用シート材Aに関する編組織図である。糸L1及びL2によりそれぞれ編成体Bの鎖編列が編成され、糸L3及びL4は鎖編列に編み込まれて隣接する鎖編列の間に交互に掛け渡されてそれぞれメッシュ状の編成体Bが編成されて二重に重ね合わされて一体形成される。また、糸L5及びL6により両側の耳部が編成される。
【0021】
図4は、樹皮防護用シート材Aに関する別の編組織図である。図4では、図3と同様の糸を用い、鎖編列の間隔を2倍に拡げたメッシュ状の編成体Bが編成されるようになる。
【0022】
図5は、樹皮防護用シート材Aを緯方向に引張った状態を示す模式図である。樹皮防護用シート材Aは、経方向に編成された鎖編列1が所定間隔を空けて配列され、連結糸2が所定間隔を空けて鎖編列1に編み込まれて隣接する鎖編列1の間に緯方向に交互に掛け渡されてメッシュ状に編成されている(図5(a))が、緯方向に引張られると、連結糸2が鎖編列1から引き出されて鎖編列1が経方向に縮んだ状態となって緯方向に伸長した状態となる(図5(b))。こうしたメッシュ状に編成することで、樹皮防護用シート材Aは、緯方向の引張破断伸度が130%〜150%にすることができる。
【0023】
図6は、樹皮防護用シート材Aを樹木Tの周囲に巻き付けた状態を示す概略図である。樹皮防護用シート材Aは、樹木Tの幹の周長よりも広い幅で、幹部分の所定の高さから根張り部分まで覆うのに十分な長さで切断して用いる。
【0024】
樹皮防護用シート材Aを取り付ける場合には、鎖編列1を縦方向に沿うように配置し樹木Tの幹の取付位置に合せて周囲に巻き付け、重なり合った両側部を結束バンド等の止着部材3により結合する。止着部材3は、樹皮防護用シート材Aの両側部が開かないように所定間隔で複数箇所に取り付ける。根張り部分には、樹皮防護用シート材Aを拡げて覆い、めくれ上がらないように止着部材4により複数箇所で固定する。1枚のシート材で樹木の幹部分から根張り部分までを覆うことができ、取り付け作業を効率的に行うことが可能となる。
【0025】
樹皮防護用シート材Aを巻き付けた状態では、樹木表面の突起やささくれに横方向に配列された連結糸2が引き裂かれて引っ掛かった状態となり、容易に外れることがない。また、樹木が生長していくに従い大径化していくが、それに合せて樹皮防護用シート材Aが横方向に伸長していくため、長期間にわたって巻き付けた状態を維持することができる。そして、シート材全体が生分解性の材料からなるので、最終的に分解して土壌に取り込まれていき、メンテナンス作業を行なう必要がなくなる。
【0026】
また、連結糸2として白色のテープ状糸を用いることで、巻き付けたシート材全体が白色の縞模様となって樹皮表面が見えにくくなり、野生動物に対して樹皮を隠すように作用して防護効果をさらに高めることができる。
【符号の説明】
【0027】
1 鎖編列
2 連結糸
3 止着部材
4 止着部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生分解性合成樹脂材料からなる糸により経方向に編成された複数の鎖編列を所定間隔空けて配列するとともに生分解性合成樹脂材料からなるテープ状の連結糸を隣接する鎖編列の間に間隔を空けて緯方向に交互に掛け渡してメッシュ状に編成された編成体を二重に重ねた状態で互いの鎖編列を交絡させて一体形成されていることを特徴とする樹皮防護用シート材。
【請求項2】
緯方向の引張破断伸度が130%〜150%であることを特徴とする請求項1に記載の樹皮防護用シート材。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の樹皮防護用シート材を前記鎖編列が樹木の幹方向に沿うように巻き付けて幹部分から根張り部分までを覆うように止着部材により取り付けたことを特徴とする樹皮防護具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−188828(P2011−188828A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−58621(P2010−58621)
【出願日】平成22年3月16日(2010.3.16)
【出願人】(598058874)
【Fターム(参考)】