説明

樹脂ピストンの成形方法及び樹脂ピストン

【課題】樹脂廃棄材料を低減させることができ、また、樹脂ピストンの外周面に対して円筒研磨等の追加工を不要にすることができる樹脂ピストンの成形方法を得る。
【解決手段】予熱した樹脂タブレット63を成形型21のキャビティ22に投入し、加熱しつつ圧縮成形する樹脂ピストンの成形方法であって、成形型21における加圧代分を加圧しキャビティ22内圧が所定圧に到達した時点で、キャビティ内圧をこの所定圧範囲に維持しつつ、成形型21から溢れ出す樹脂をピストン外周面を除く領域に設定した通路53から排出して、熱成形サイクル終了後に成形型21を開放する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば車両のディスクブレーキ装置に使用される樹脂ピストンの成形方法及び樹脂ピストンに関する。
【背景技術】
【0002】
これまで、車両のディスクブレーキ装置に使用される樹脂ピストンは、通常、材料の充填密度を高めて機械的強度を確保するため、圧縮成形方法により製造される。
【0003】
図3は、樹脂ピストンを圧縮成形により形成する従来の一般的な製造方法を示したものである。なお、この製造方法は、下記特許文献1に記載された樹脂成形方法に類似するものである。
圧縮成形で使用する成形型1は、下型2と、該下型2に対して昇降可能な上型3とから構成されている。
樹脂ピストンの製造時は、まず図3(a)に示すように、下型2のキャビティ4内に、熱硬化性樹脂材料としての樹脂タブレット5が予熱された状態で投入される。次いで、図3(b)に示すように、上型3を下型2に降下させ、上型3に一体に装備されている圧力パンチ部6をキャビティ4内に押し入れ、樹脂タブレット5を潰していく。上型3の降下が進むと、図3(c)に示すように、キャビティ4内の樹脂タブレット5の一部が、キャビティ外周囲の下型上面7と上型下面8とで区画される通路9に溢れ出す。
【0004】
なお、図3(c)のように通路9に樹脂タブレット5が排出される状況では、上型下面8と下型上面7との間の隙間が徐々に狭まることで、材料の流出が抑制されて、キャビティ4内の圧力が徐々に上昇する。そして、図3(d)に示すように、最終の加圧代分まで上型3が降下すると、キャビティ内圧が設定圧に到達する。この状況では、通路9の開口断面積が規定値まで狭められ、樹脂の通路9への流出が抑止されることによって、キャビティ内圧が維持される。また、この状況では、通路9は、余分な樹脂材料の排出を実現するため、閉じきらずにキャビティ4に連通した状態が維持される。
【0005】
図3(d)に示した状態で、予め所定温度に加熱保温された成形型1において、キャビティ4内の樹脂材料を熱硬化させる熱硬化処理が実施される。そして、熱型より取り出した後の寸法変化がなくなる程度まで熱硬化処理を行った後、成形型1を開いて、成形品を取り出す。
【0006】
キャビティ4内の樹脂材料を熱硬化させる際の加熱は、通常、成形型1を外部から加熱昇温させることで行われており、効率良く型内の材料を加熱することが難しい。
そこで、下記特許文献1には、成形型に高周波誘導加熱用コイルを追加し、樹脂の熱硬化工程の所要時間の短縮を実現する圧縮成形方法が提案されている。
【0007】
また、下記特許文献2には、予熱した樹脂タブレットを成形型のキャビティに投入し、加熱しつつ圧縮成形する樹脂ピストンの成形方法であって、樹脂ピストンの凹部を形成する可動側コアがブレーキピストンの最終成形品形状を構成するための所定位置より一定距離だけ後退した状態で金型を閉じ、キャビティの外周部と射出用ゲートとを連通させる連通路からキャビティ内に樹脂を射出充填し、前記連通路にゲートシールピンを前進させてゲートシールを行い、その後可動側コアを前記所定位置まで前進させて最終成形品形状を形成する成形方法が提案されている。
【0008】
上記特許文献2に記載の圧縮成形方法は、圧縮成形方法に射出成形方法を組み合わせたもので、樹脂材料の充填が容易で、且つ複雑な形成の成形にも適するという射出成形方法の利点を圧縮成形方法に付加することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−35077号公報
【特許文献2】特開平08−300430号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところが、図3に示した特許文献1に類似の従来の圧縮成形方法の場合、余分な樹脂材料を排出する通路9は狭められてキャビティ内の圧力を保持しつつ樹脂材料の摺動抵抗を高めて型内の充填性を確保しているが、閉じきらないため、樹脂材料の流出を抑制することが難しく、樹脂廃棄材料が増大した。
更に、成形品としての樹脂ピストンの外周面には、通路9に流出した樹脂材料11がバリとして残っており、このバリを除去する追加工が必要となるため、コストアップを招くという問題もあった。
【0011】
一方、特許文献2に記載された圧縮成形方法では、キャビティへの樹脂材料の投入を射出用ゲートから行うため、成形品としての樹脂ピストンの外周には、従来の圧縮成形方法の場合に生じていたような大きなバリは生じない。
しかし、射出用ゲートがキャビティの外周部に連通しているため、成形品である樹脂ピストンの外周面に射出成形用のゲート痕が残る。従って、成形型から取り出した成形品に対して、ゲート痕を除去するための円筒研磨等の追加工が必要となり、やはり、追加工がコストアップを招くという問題があった。
【0012】
本発明の目的は上記課題を解消することに係り、樹脂廃棄材料を低減させることができ、また、円筒研磨等の追加工を不要にすることができる樹脂ピストンの成形方法及び樹脂ピストンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
(1)予熱した樹脂タブレットを成形型のキャビティに投入し、加熱しつつ圧縮成形する樹脂ピストンの成形方法であって、
前記成形型における加圧代分を加圧しキャビティ内圧が設定圧に到達した時点で、前記キャビティ内圧を所定圧範囲に維持しつつ前記成形型から溢れ出す樹脂をピストン外周面を除く領域に設定した通路から排出し、熱成形サイクル終了後に前記成形型を開放することを特徴とする樹脂ピストンの成形方法。
【0014】
(2)前記成形型は少なくとも上型、下型及び前記上型を挿通し上下型で形成するキャビティ内に嵌入される圧力パンチを備え、
前記通路が前記圧力パンチと前記上型との摺動面に設定されることを特徴とする上記(1)に記載の樹脂ピストンの成形方法。
【0015】
(3)前記成形型は少なくとも上型、下型及び前記上型を挿通し上下型で形成するキャビティ内に嵌入される圧力パンチを備え、
前記通路が前記樹脂ピストンの油圧作用面となる下面に設定されることを特徴とする上記(1)に記載の樹脂ピストンの成形方法。
【0016】
(4)前記通路がイジェクトピンの挿通路を兼ねていることを特徴とする上記(3)に記載の樹脂ピストンの成形方法及び樹脂ピストン。
【0017】
(5)上記(1)乃至(4)の何れか一つに記載の樹脂ピストンの成形方法により製造したことを特徴とする樹脂ピストン。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る樹脂ピストンの成形方法によれば、圧縮成形工程で成形型のキャビティから溢れ出す樹脂を、ピストン外周面を除く領域に設定した通路から排出するので、シリンダに摺接するピストン外周面には、バリが生じない。また、キャビティへの材料の投入に射出ゲートを用いていないため、ゲート痕も生じない。よって、バリ取りやゲート痕の除去等の追加工が不要となる。さらにキャビティから溢れ出した樹脂の排出通路は実質的に閉じきった状態とすることができるため、樹脂廃棄材料を低減させることもできる。
また、熱成形サイクル終了後に成形型を開放するため、成形品に寸法のばらつきが生じ難く、寸法精度の高い安定した製品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係る第1の実施形態において一連の圧縮成形工程を示す概略図で、(a)は成形型が開いた状態、(b)は上型が閉じた状態、(c)は圧縮成形中の状態、(d)は圧縮成形中に、余分な樹脂(バリ)が排出されている状態をそれぞれ示す。
【図2】本発明に係る第2の実施形態において一連の圧縮成形工程を示す概略図で、(a)は成形型が開いた状態、(b)は上型が閉じた状態、(c)は圧縮成形中の状態、(d)は圧縮成形中に、余分な樹脂(バリ)が排出されている状態をそれぞれ示す。
【図3】従来の樹脂ピストンの成形方法の工程を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る樹脂ピストンの成形方法及び樹脂ピストンの好適な実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
(第1の実施形態)
図1は本発明に係る第1の実施形態において一連の圧縮成形工程を示した概略図で、(a)は上型と下型とが開いた状態の縦断面図、(b)は上型と下型とを閉じた状態の縦断面図、(c)は圧力パンチによって圧縮成形を開始した状態の縦断面図、(d)は圧力パンチによる圧縮によって内圧を所定圧範囲に調整している状態の縦断面図である。
【0021】
第1の実施形態で使用する成形型21は、キャビティ22を有した下型23と、該下型23の上に昇降可能に設けられてキャビティ22を閉じる上型25と、上型25を挿通して先端がキャビティ22内に進入可能に設けられた圧力パンチ28と、成形品をキャビティ22から取り出すため下型23を貫通してキャビティ22内に挿通される不図示のイジェクトピンと、を備えている。
また、成形型21には、図示はしていないが、熱硬化処理のために、型を所定温度に加熱する加熱手段が装備されている。加熱手段は樹脂タブレットを短時間かつ均一に加温するために高周波誘電加熱またはマイクロ波加熱が望ましい。
【0022】
下型23は、キャビティ22を形成して上方を開放したブロック体として構成されている。そして、このブロック体の中心部には、先に述べたイジェクトピンをキャビティ22内に挿通させるための不図示のノックアウト穴が貫通形成されている。
【0023】
上型25は、下型23上に押圧されてキャビティ22を閉じるブロック体として構成されている。
上型25は、図1(a)に示すように当該上型25の上方に距離Lだけ離間して配置されたパンチ取り付け板44に対し弾性付与する可動支持部材45を介して取り付けられている。可動支持部材45は、上型25をパンチ取り付け板44から離間する方向に変位可能に弾性支持する部材で、例えば、圧縮コイルばねや、エアーシリンダ等のアクチュエータが利用される。
【0024】
パンチ取り付け板44は、不図示のプレス機構により、下型23に向かって昇降可能に支持されている。従って、本実施形態の成形型21では、プレス機構の動作によるパンチ取り付け板44の昇降に伴って、上型25が下型23に向かって昇降する。
【0025】
パンチ取り付け板44の降下によって、上型25の下面が下型23の上面に密着して、キャビティ22が閉じられた状態になった以後も、上型25とパンチ取り付け板44との当初の離間距離Lの減少分に応じて、パンチ取り付け板44は、降下することができる。
この時、パンチ取り付け板44の降下に伴い、上型25とパンチ取り付け板44との間の離間距離が徐々に減少するが、可動支持部材45が上型25を下型23に押圧していて、上型25と下型23との間には所定の密着圧力(型閉じ力)が維持される。
【0026】
圧力パンチ28は、上型25を挿通してパンチ取り付け板44に固定した状態に組付けられる。また圧力パンチ28は、この組付け初期状態で、図1(a)に示すように上型25とパンチ取り付け板44との間に当初の離間距離Lが確保され、先端面が上型25の下面から一定寸法だけ突出した状態になっている。
また、図1(d)に示すように、可動支持部材45の圧縮により上型25とパンチ取り付け板44との間の離間距離が減少した状態では、圧力パンチ28の先端面が上型25の下面から大きく突出して、突出した先端部がキャビティ22内に嵌入する。キャビティ22内に嵌入した圧力パンチ28の先端部は、キャビティ22内の樹脂タブレット63を圧縮する。即ち、上型25とパンチ取り付け板44との間の離間距離Lは、圧力パンチ28による加圧代相当として設定されている。
【0027】
なお、具体的な機構は図示していないが、上型25とパンチ取り付け板44との間の離間距離Lは、樹脂材料の特性や、成形品の形状等に応じて調整可能になっている。
【0028】
本実施形態の場合、上型25には、圧力パンチ28が挿通するパンチ挿通孔46が貫通形成されている。パンチ挿通孔46は内周面が圧力パンチ28を摺動可能に保持する摺動面となっていて、圧力パンチ28の外径に近い穴径に設定されている。また、パンチ挿通孔46の上端開口部48は、圧力パンチ28との間に、適宜大きさの空間49を画成するように、圧力パンチ28の外径よりも大きく設定されている。
【0029】
パンチ挿通孔46の下端開口部47寄り摺動面は、圧力パンチ28がキャビティ22内の樹脂材料を圧縮したときに、余分な樹脂材料を空間49側に排出する通路53(図1(c)参照)が圧力パンチ28との間に確保されるように、圧力パンチ28との間の公差が隙間嵌めに設定されている。
【0030】
上記の空間49は、下端開口部47と圧力パンチ28との間の隙間から流入する樹脂を貯留する空間となる。
【0031】
次に、上記の成形型21による樹脂ピストンの成形方法について説明する。
先ず、図1(a)に示すように、予め所定温度に加熱保温された下型23のキャビティ22に、予熱した樹脂タブレット(樹脂材料塊)63を投入する。次いで、図1(b)に示すように、上型25を降下させて、キャビティ22を閉じる。次いで、図1(c)に示すように、上型25が可動支持部材45の付勢力で下型23に押圧されている状態で、更にパンチ取り付け板44を降下させて、圧力パンチ28をキャビティ22に嵌入させて、圧縮成形を開始していく。
【0032】
圧力パンチ28がキャビティ22に嵌入されると、余分な樹脂材料は、圧力パンチ28とパンチ挿通孔46の下端開口部(摺動面)47との間に確保された通路53から空間49に溢れる。また、圧力パンチ28のキャビティ22への進入に伴って、キャビティ内の圧力が徐々に上昇していく。
【0033】
次いで、図1(d)に示すように、パンチ取り付け板44が規定の押し込み位置まで下がることによって、圧力パンチ28が最終の成形位置までキャビティ22内に嵌入されると、キャビティ22内は所定の加圧代分の加圧が完了した状態となり、キャビティ内圧が所定圧に到達する。この所定圧への到達により、キャビティ22内に満遍無く樹脂材料が充填された状態になる。
【0034】
また、キャビティ内圧が所定圧に到達した時点で、キャビティ内圧をこの所定圧範囲に維持しつつ、樹脂材料の熱硬化に必要な温度に成形型21の温度を維持して熱硬化処理する。この熱硬化処理時に、余分な樹脂材料64は、パンチ挿通孔46と圧力パンチ28との摺動面に確保された通路53から空間49に導出され、キャビティ22内の充填密度が設定した充填密度に調整される。
【0035】
熱硬化処理(熱成形サイクル)が終了したら、成形型21を開放し、不図示のイジェクトピンを下型23の穴に挿通して、成形品をキャビティ22から取り出す。
【0036】
以上に説明した樹脂ピストンの成形方法では、圧縮成形工程で成形型21のキャビティ22から溢れ出す樹脂を、ピストン外周面を除く領域に該当する圧力パンチ28の摺動面に設定した通路53から排出する。従って、シリンダに摺接するピストン外周面には、排出する樹脂によるバリが生じない。また、キャビティ22への材料の投入に射出ゲートを用いていないため、ゲート痕も生じない。
従って、ピストン外周面に対してバリ取りやゲート痕の除去等の追加工が不要となる。さらに、キャビティ22から溢れ出した樹脂を排出する通路53は実質的に閉じきった状態とすることができるため、樹脂廃棄材料を低減させることもできる。
また、熱成形サイクル終了後に成形型21を開放するため、成形品に寸法のばらつきが生じ難く、寸法精度の高い安定した製品を得ることができる。
【0037】
詳述すれば、上記の第1の実施形態の樹脂ピストンの成形方法では、成形型21は、上型25、下型23、及び上型25を挿通し上下型23,25で形成するキャビティ22内に嵌入される圧力パンチ28を備え、通路53が圧力パンチ28と上型25との摺動面に設定される。
そのため、キャビティ22から溢れ出した樹脂を排出する通路53は、樹脂ピストンの先端側の内周縁に連通する構造となり、ピストン外周面にバリが発生することを確実に防止することができる。
また、圧力パンチ28の摺動面は、該圧力パンチ28が挿通する上型のパンチ挿通孔46の内周面であり、圧力パンチ28とパンチ挿通孔46との嵌め合い公差を隙間嵌めに設定するだけで、余分な樹脂を排出するための通路53を簡単に確保することができる。
【0038】
なお、通路53は、嵌め合い公差の設定ではなく、パンチ挿通孔46又は圧力パンチ28の何れか一方の摺動面に形成した溝(本数、形状は任意)等によって確保するようにしても良い。
【0039】
そして、上記の第1の実施形態の樹脂ピストンの成形方法により製造した樹脂ピストンでは、シリンダとの摺動のために寸法精度や表面の滑らかさが高度に要求されるピストン外周面に、従来技術で述べたようなバリやゲート痕が発生せず、ピストン外周面に対してバリ取りやゲート痕の除去等の追加工が不要となる。また、熱成形サイクル終了後まで成形型21が開放されないため、成形品の寸法精度を向上させることもできる。従って、製造コストの低減と、高精度化を実現することができる。
【0040】
(第2の実施形態)
図2は、本発明に係る樹脂ピストンの成形方法の第2の実施形態において一連の圧縮工程を示す概略図で、(a)は上型と下型とが開いた状態の縦断面図、(b)は上型と下型とが閉じた状態の縦断面図、(c)は圧力パンチによって圧縮成形を開始した状態の縦断面図、(d)は内圧を所定圧範囲に維持しつつ余分な樹脂材料を外部に排出している状態の縦断面図である。
【0041】
第2の実施形態で使用する成形型21Aは、第1の実施形態の成形型21の一部を改良したもので、成形型21と共通する部位又は相当する部位には、同番号又は類似する番号を付与する。
【0042】
成形型21Aは、成形用のキャビティ22を有した下型23Aと、該下型23Aの上に昇降可能に設けられてキャビティ22を閉じる上型25Aと、下型23Aの下面に着脱可能に設けられた圧力調整ピン55と、上型25Aを挿通して先端がキャビティ22内に進入可能に設けられた圧力パンチ28と、成形品をキャビティ22から取り出すための不図示のイジェクトピンと、を備えている。
また、成形型21Aには、図示はしていないが、熱硬化処理のために、型を所定温度に加熱する加熱手段が装備されている。
【0043】
下型23Aは、キャビティ22を形成して上方を開放したブロック体として構成されている。
そして、このブロック体の中心部には、圧力調整ピン55が着脱可能に装着される圧力調整穴31が貫通形成されている。圧力調整穴31は、キャビティ22に連通していて、圧力調整ピン55の嵌合状態を調整することで、キャビティ22内に連通する通路の断面積を調整することができる。
【0044】
本実施形態の場合、圧力調整穴31は、圧力調整ピン55によって閉じきった状態にすることもできる。圧力調整穴31は、図2(d)に示すように圧力調整ピン55により適度に開口度を調整した状態では、成形型21Aによる圧縮成形時又は熱成形サイクル中に、余分な樹脂材料を排出する通路53Aとして機能する。従って、本実施形態では、圧縮成形時又は熱形成サイクル中に余分な樹脂材料を成形型21Aの外部に排出する通路が、キャビティ22により成形する樹脂ピストンの油圧作用面となる下面に設定された構成になっている。
【0045】
圧力調整穴31は、圧力調整ピン55を取り外した状態では、不図示のイジェクトピンを挿通するノックアウト穴としても機能する。
【0046】
上型25Aは、下型23A上に押圧されてキャビティ22を閉じるブロック体として構成されている。
【0047】
上型25Aは、図2(a)に示すように当該上型25Aの上方に距離Lだけ離間して配置されたパンチ取り付け板44に対し弾性付与する可動支持部材45を介して取り付けられている。可動支持部材45は、上型25Aをパンチ取り付け板44から離間する方向に変位可能に弾性支持する部材で、例えば、圧縮コイルばねや、エアーシリンダ等のアクチュエータが利用される。
【0048】
パンチ取り付け板44は、不図示のプレス機構により、下型23Aに向かって昇降可能に支持されている。従って、本実施形態の成形型21Aでは、プレス機構の動作によるパンチ取り付け板44の昇降に伴って、上型25Aが下型23Aに向かって昇降する。
【0049】
本実施形態の成形型21Aでは、パンチ取り付け板44の降下によって、上型25Aの下面が下型23Aの上面に密着して、キャビティ22が閉じられた状態になった以後も、上型25Aとパンチ取り付け板44との当初の離間距離Lの減少分に応じて、パンチ取り付け板44は、降下することができる。
この時、パンチ取り付け板44の降下に伴い、上型25Aとパンチ取り付け板44との間の離間距離が徐々に減少するが、可動支持部材45が上型25Aを下型23Aに押圧していて、上型25Aと下型23Aとの間には所定の密着圧力(型閉じ力)が維持される。
【0050】
圧力パンチ28は、上型25Aを挿通してパンチ取り付け板44に固定した状態に組付けられる。また圧力パンチ28は、この組付け初期状態で、図2(a)に示すように上型25Aとパンチ取り付け板44との間に当初の離間距離Lが確保され、先端面が上型25Aの下面から一定寸法だけ突出した状態になっている。
【0051】
また、図2(d)に示すように、可動支持部材45の圧縮により上型25Aとパンチ取り付け板44との間の離間距離が減少した状態では、圧力パンチ28の先端面が上型25Aの下面から大きく突出して、突出した先端部がキャビティ22内に嵌入する。キャビティ22内に嵌入した圧力パンチ28の先端部は、キャビティ22内の樹脂タブレット63を圧縮する。即ち、上型25Aとパンチ取り付け板44との間の離間距離Lは、圧力パンチ28による加圧代相当として設定されている。
【0052】
なお、具体的な機構は図示していないが、上型25Aとパンチ取り付け板44との間の離間距離Lは、樹脂材料の特性や、成形品の形状等に応じて調整可能になっている。同じく、圧力調整ピン55の開放量は樹脂材料の特性や成形品の形状等に応じて調整可能になっている。圧力調整ピン55は下型23Aの下面に任意の位置及び任意の数量、設置することができる。
【0053】
不図示のイジェクトピンは下型23Aの下方に昇降可能に配置され、熱成形サイクル終了後に成形型21Aが開放され、更に下型23Aの下面から圧力調整ピン55が取り外された状態で、ノックアウト穴を兼ねる圧力調整穴31に挿通されて、成形品をキャビティ22の上方に押し出す。
【0054】
次に、上記の成形型21Aによる樹脂ピストンの成形方法について説明する。
予め下型23Aの圧力調整穴31は圧力調整ピン55により閉じきった状態にしておき、図2(a)に示すように、下型23Aのキャビティ22に、予熱した樹脂タブレット(樹脂材料塊)63を投入する。次いで、図2(b)に示すように、上型25Aを降下させて、キャビティ22を閉じる。
【0055】
次いで、図2(c)に示すように、上型25Aが可動支持部材45の付勢力で下型23Aに押圧されている状態で、予め所定温度に加熱保温した成形型21Aにおいて、更にパンチ取り付け板44を降下させて、圧力パンチ28をキャビティ22に嵌入させて、圧縮成形を開始していく。
【0056】
圧力パンチ28がキャビティ22に嵌入されるときには、圧力パンチ28の嵌入に伴ってキャビティ22内の圧力が徐々に上昇する。そのため、図2(d)に示すように、圧力調整ピン55を調整して、圧力調整穴31を適宜量(少量)だけ開いて、余分な樹脂材料を排出するための通路53Aを確保しておく。
【0057】
パンチ取り付け板44が規定の押し込み位置まで下がることによって、圧力パンチ28が最終の成形位置までキャビティ22内に嵌入されると、キャビティ22内は所定の加圧代分の加圧が完了した状態となり、キャビティ内圧が所定圧に到達する。この所定圧への到達により、キャビティ22内に満遍無く樹脂材料が充填された状態になる。
【0058】
また、キャビティ内圧が所定圧に到達した時点で、キャビティ内圧をこの所定圧範囲に維持しつつ、樹脂材料の熱硬化に必要な温度に成形型21Aの温度を維持して熱硬化処理する。この熱硬化処理時に、余分な樹脂材料64は、図2(d)に示すように、成形品である樹脂ピストンの油圧作用面となる下面に設定された通路53Aから外部に導出され、キャビティ22内の充填密度が設定した充填密度に調整される。
【0059】
熱硬化処理(熱成形サイクル)が終了したら、成形型21Aを開放し、不図示のイジェクトピンを下型23Aの圧力調整穴31に挿通して、成形品をキャビティ22から取り出す。
【0060】
以上に説明した樹脂ピストンの成形方法では、圧縮成形工程で成形型21Aのキャビティ22から溢れ出す樹脂を、ピストン外周面を除く領域に設定した通路53Aから排出する。従って、シリンダに摺接するピストン外周面には、排出する樹脂によるバリが生じない。また、キャビティ22への材料の投入に射出ゲートを用いていないため、ゲート痕も生じない。
従って、ピストン外周面に対してバリ取りやゲート痕の除去等の追加工が不要となる。さらに、成形型21Aの内部圧力が所定圧力に到達する前の圧縮成形工程の途中では、圧力調整ピン55により余分な材料を排出する通路53Aは閉じきった状態とすることができるため、樹脂廃棄材料を低減させることもできる。
また、熱成形サイクル終了後に成形型21Aを開放するため、成形品に寸法のばらつきが生じ難く、寸法精度の高い安定した製品を得ることができる。
【0061】
詳述すれば、上記の第2の実施形態の樹脂ピストンの成形方法では、成形型21Aは少なくとも上型25A、下型23A、及び上型25Aを挿通し上下型23Aで形成するキャビティ22内に嵌入される圧力パンチ28を備え、通路53Aが樹脂ピストンの油圧作用面となる下面に設定される。
そのため、キャビティ22から溢れ出した樹脂を排出する通路53Aは、樹脂ピストンの油圧作用面に連通する構造となり、ピストン外周面にバリが発生することを防止することができる。
【0062】
また、キャビティ22から溢れ出した樹脂を排出する通路53Aが不図示のイジェクトピンの挿通路を兼ねている。
そのため、成形型21Aに樹脂排出専用の通路を形成しないため、成形型21Aの構造の複雑化を防止することができる。
【0063】
なお、本発明の樹脂ピストンの成形方法及び樹脂ピストンは、前述した各実施形態に限定されるものでなく、適宜な変形,改良等が可能である。
例えば、圧縮成形時あるいは熱硬化成形時に余分な樹脂材料の排出を行う通路は、ピストン外周面を除く領域であれば、上記実施形態に示した領域以外に設定することも可能である。
また、本発明は、利用できる技術分野が車両関係に限定されるものではなく、同じ技術思想であれば異業種での利用も可能である。
【符号の説明】
【0064】
21,21A 成形型
22 キャビティ
23,23A 下型
25,25A 上型
28 圧力パンチ
31 圧力調整穴(ノックアウト穴)
44 パンチ取り付け板
45 可動支持部材(圧縮コイルばね)
46 パンチ挿通孔
47 下端開口部
49 空間
53,53A 通路
55 圧力調整ピン
63 樹脂タブレット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
予熱した樹脂タブレットを成形型のキャビティに投入し、加熱しつつ圧縮成形する樹脂ピストンの成形方法であって、
前記成形型における加圧代分を加圧しキャビティ内圧が設定圧に到達した時点で、前記キャビティ内圧を維持するようにしつつ前記成形型から溢れ出す樹脂をピストン外周面を除く領域に設定した通路から排出し、熱成形サイクル終了後に前記成形型を開放することを特徴とする樹脂ピストンの成形方法。
【請求項2】
前記成形型は少なくとも上型、下型及び前記上型を挿通し上下型で形成するキャビティ内に嵌入される圧力パンチを備え、
前記通路が前記圧力パンチと前記上型との摺動面に設定されることを特徴とする請求項1に記載の樹脂ピストンの成形方法。
【請求項3】
前記成形型は少なくとも上型、下型及び前記上型を挿通し上下型で形成するキャビティ内に嵌入される圧力パンチを備え、
前記通路が前記樹脂ピストンの油圧作用面となる下面に設定されることを特徴とする請求項1に記載の樹脂ピストンの成形方法。
【請求項4】
前記通路がイジェクトピンの挿通路を兼ねていることを特徴とする請求項3に記載の樹脂ピストンの成形方法。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れか一項に記載の樹脂ピストンの成形方法により製造したことを特徴とする樹脂ピストン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−148159(P2011−148159A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−10329(P2010−10329)
【出願日】平成22年1月20日(2010.1.20)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)
【Fターム(参考)】