説明

樹脂成形品及びその製造方法

【課題】注型成形にて多層の樹脂成形品を成形するに当たり、構造を簡略化した金型により成形することができ、且つ煩わしい作業を省略させることができる樹脂成形品及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の樹脂成形品は、第1の樹脂成形層1と、注型成形により成形された第2の樹脂成形層2とを備えた樹脂成形品である。前記第1の樹脂成形層1が、前記第2の樹脂組成物を前記キャビティ38内に注入する際に当該キャビティ38内のエアを抜くためのエア抜き用溝13の痕跡であるエア抜き用溝跡16を背面に有し、当該エア抜き用溝跡16が、第1の樹脂成形層1と第2の樹脂成形層2との境界部分に位置すると共に前記第1の樹脂成形層1及び前記第2の樹脂成形層2からなる成形品端面86に露出している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂成形品及びその製造方法に関し、特に、樹脂成形品を注型成形により成形する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、注型成形により成形された樹脂成形品が知られている(例えば、特許文献1参照)。この特許文献1記載の樹脂成形品は、金型により形成されたキャビティ内に樹脂組成物を注入することで形成される。金型は、上型と、下型と、この上型及び下型との間に介装されるガスケットとを備え、この上型及び下型及びガスケットでキャビティを形成する。ガスケットにはキャビティ内外を連通するエア抜き用のチューブが取り付けられている。
【0003】
この金型を用いて樹脂成形品を成形するには、キャビティ内に樹脂組成物を注入しながら、同時に当該キャビティ内のエアをエア抜き手段により排気する。キャビティ内に樹脂組成物が注入されると、その樹脂組成物が、キャビティ内のエアを押し出し、チューブを介して排気させる。そのまま樹脂組成物の注入を継続することで、キャビティ内に樹脂組成物が完全に充填されると、この樹脂組成物がそのままチューブ内にまで入り込む。
【0004】
その後、キャビティ内に充填された樹脂組成物を硬化させる。樹脂組成物が硬化した後、型開し、硬化した樹脂成形品を金型から取り出す。
【0005】
ところで近年、複数の樹脂成形層が厚み方向に積層された樹脂成形品が製造されるようになった。この複数層の樹脂成形品を注型成形にて成形するには、例えば、次のようにして成形される。
【0006】
この方法は、図9に示されるように、予め成形された第1の樹脂成形層90を下型91に配置した状態で上型92を型閉し、この第1の樹脂成形層90と上型92とによりキャビティ94を形成する。このキャビティ94内に、第2の樹脂成形層を形成するための第2の樹脂組成物を注入する。第2の樹脂組成物の注入に際し、上述の単一層の樹脂成型品を成形する注型成形と同様、キャビティ94内のエアを抜く必要がある。そのため第2の樹脂成形層を成形するための金型にもエア抜き手段95が取り付けられている。
【0007】
このエア抜き手段95は、図9に示されるように、キャビティ94内外を連通する貫通路96を有するゴムブロック97と、このゴムブロック97の貫通路96に連通接続されたチューブ98とを備えている。このゴムブロック97は、ガスケット93と同じように上型92と下型91との間に介装されて、水密的に取り付けられる。
【0008】
金型は、ゴムブロック97及びガスケット93をリテーナブロック99により保持する。このリテーナブロック99は、上型92のガスケット当接面100との間の距離が変更可能となるよう取り付けられており、ゴムブロック97及びガスケット93の外側の面に圧接させることができる。このリテーナブロック99とガスケット当接面100とにより、ゴムブロック97及びガスケット93が挟持され、金型に保持される。
【0009】
このような金型により複数層の樹脂成形品を成形するには、第2の樹脂成形層を成形するためのキャビティ94内に第2の樹脂組成物を注入しながら、同時に当該キャビティ94内のエアを排気する。キャビティ94内に樹脂組成物が注入されると、その樹脂組成物が、キャビティ94内のエアを押し出し、チューブ98を介して排気させる。そのまま樹脂組成物の注入を継続することで、キャビティ94内に樹脂組成物が完全に充填されると、この樹脂組成物がゴムブロック97の貫通路96を通過してチューブ98内にまで入り込む。
【0010】
そしてこの後、キャビティ94内に充填された樹脂組成物を硬化させる。樹脂組成物が硬化した後、型開し、硬化した樹脂成形品を金型から取り出す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特公平07−20622号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところでこのような金型を用いて第2の樹脂成形層を成形すると、上記のように、注入された樹脂組成物がゴムブロック97の貫通路96及びチューブ98に入り込む。すなわち成形毎にゴムブロック97の貫通路96及びチューブ98が詰まってしまうため、このゴムブロック97及びチューブ98を成形の度に交換する必要がある。
【0013】
しかしながら、このゴムブロック97及びチューブ98を成形の度に交換するのは非常に煩わしい作業であった。すなわち作業者は、金型からゴムブロック97を取り外し、新たなゴムブロック97に新たなチューブ98を差し込み、その後このチューブ98の取り付けられたゴムブロック97を金型に装着しなおす作業を行なう必要がある。そのうえ作業者は、これらの作業を、成形を行なう度に行なう必要がある。つまり、煩わしい上記作業を成形毎に行なわなければならなかった。
【0014】
しかもリテーナブロック99は、それぞれ形状の異なるゴムブロック97とガスケット93とをガスケット当接面100側に圧接する必要があるため、ゴムブロック97及びガスケット93の外側の形状にあわせて、図9(b)のように段違い形状となっている。しかもリテーナブロック99には、ゴムブロック97に装着されたチューブ98との干渉を避けるための溝101が形成されている。このようにリテーナブロック99の形状は複雑となっており、このことが金型製作費の高くなる要因の一つとなっていた。
【0015】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、注型成形にて多層の樹脂成形品を成形するに当たり、構造を簡略化した金型により成形することができ、且つ煩わしい作業を省略させることができる樹脂成形品及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の樹脂成形品は、第1の樹脂組成物から形成された第1の樹脂成形層と、予め形成された前記第1の樹脂成形層の背面及び金型により形成されたキャビティ内に第2の樹脂組成物を注入することで注型成形された第2の樹脂成形層とを備えた樹脂成形品であって、前記第1の樹脂成形層が、前記第2の樹脂組成物を前記キャビティ内に注入する際に当該キャビティ内のエアを抜くためのエア抜き用溝の痕跡であるエア抜き用溝跡を背面に有し、当該エア抜き用溝跡が、第1の樹脂成形層と第2の樹脂成形層との境界部分に位置すると共に前記第1の樹脂成形層及び前記第2の樹脂成形層からなる成形品端面に露出していることを特徴とする。
【0017】
またこの樹脂成形品において、前記成形品端面が、第2の樹脂成形層の成形後の母材の端部が切除されて形成された切断面であり、前記エア抜き用溝跡が当該切断面に露出していることが好ましい。
【0018】
またこの樹脂成形品において、前記切断面に露出した前記エア抜き用溝跡の溝内に、前記第2の樹脂成形層が充填されていることが好ましい。
【0019】
また本発明の樹脂成形品の製造方法は、第1の樹脂成形層と第2の樹脂成形層とが積層された樹脂成形品を注型成形により製造する方法であって、第1の樹脂組成物により前記第1の樹脂成形層を成形すると共に、当該第1の樹脂成形層における前記第2の樹脂成形層が積層される面に凹設され且つ当該第1の樹脂成形層の端面にその長手方向の端部が開放するエア抜き用溝を形成する第1の工程と、前記エア抜き用溝に交差するようにガスケットを載設し、前記第1の樹脂成形層及び前記ガスケット及び金型にてキャビティを形成し、前記ガスケット及びエア抜き用溝によってキャビティ内外を連通する連通口を形成し、当該連通口に、空気の流通を許容し且つ樹脂の流出を防ぐための漏れ防止材を配設し、当該漏れ防止材を介して前記キャビティ内のエアを抜きながら前記第2の樹脂組成物を当該キャビティ内に注入することで前記第2の樹脂成形層を形成する第2の工程とを含むことを特徴とする。
【0020】
またこの樹脂成形品の製造方法において、前記エア抜き用溝が、前記漏れ防止材が配設される配設用溝部と、前記配設用溝部に連通して当該配設用溝部にキャビティ内のエアを導入するための導入用溝部とを備え、前記第2の工程は、前記第2の樹脂組成物を注入する際に、前記導入用溝部に導入された前記キャビティ内のエアを前記漏れ防止材を介して排気し、前記第2の樹脂成形層を形成するものであることが好ましい。
【0021】
またこの樹脂成形品の製造方法において、前記漏れ防止材が、前記第2の樹脂成形層を成形するキャビティの内外を連通するチューブであることが好ましい。
【0022】
またこの樹脂成形品の製造方法において、前記漏れ防止材が、前記第2の樹脂成形層を成形するキャビティの内外を連通する連通口に配設された不織布であることが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明の樹脂成形品及びその製造方法によれば、注型成形にて多層の樹脂成形品を成形するに当たり、構造を簡略化した金型により成形することができ、且つ煩わしい作業を省略することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】同上の実施形態の樹脂成形品における第2の工程を説明する図であり、(a)は側断面図であり(b)は(a)におけるA−A断面図である。
【図2】本発明の一実施形態の樹脂成形品における第2の樹脂成形層を成形する直前の金型を省略した斜視図である。
【図3】同上の実施形態の樹脂成形品の金型の側断面図であり、(a)は下型と上型を型閉した状態の図であり(b)は第1の樹脂組成物を注入した状態の図である。
【図4】同上の実施形態の樹脂成形品における第1の工程を説明するための側断面図である。
【図5】同上の実施形態の樹脂成形品の第1の樹脂成形層の背面側からみた斜視図である。
【図6】漏れ防止部材として、不織布を用いた場合の第1の樹脂成形層の斜視図である。
【図7】同上の実施形態における第2の工程の図であり、(a)は側断面図であり(b)は(a)におけるB−B断面図である。
【図8】図1〜図5の実施形態の樹脂成形品を説明するための図であり(a)は浴槽の断面図であり(b)は(a)におけるD矢視図である。
【図9】背景技術を説明するための参考図であり、(a)は側断面図であり(b)は(a)におけるC−C断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態について添付図面に基づいて説明する。
【0026】
本実施形態の樹脂成形品8は、注型成形により成形された浴槽80である。この浴槽80は、図8(a)に示されるように、二層構造となっており、当該浴槽80の内面側を構成する第1の樹脂成形層1と、当該浴槽80の外面側を構成する第2の樹脂成形層2とを備えている。浴槽80は、金型3に形成されたキャビティ37,38内に樹脂組成物を注入し、これを硬化させることで成形される。
【0027】
金型3は、図3に示されるように、下型31と、上型32と、この下型31と上型32との間に介装されたガスケット33と、上型32及び下型31及びガスケット33で形成されたキャビティ37,38内に樹脂組成物を注入する注入口34とを備えている。さらに金型3は、キャビティ37,38へ充填した後の樹脂組成物を加熱して硬化させるための加熱手段(図示せず)を備えている。
【0028】
上型32は、第1の樹脂成形層1を成形するための第1の上金型35と、第2の樹脂成形層2を成形するための第2の上金型36とを有し、第1の樹脂成形層1を成形する場合と第2の樹脂成形層2を成形する場合とでこれらを使い分ける。金型3は、下型31と第1の上金型35とを型閉すると、図3に示されるように、これらの間に第1の樹脂成形層1を成形するための第1のキャビティ37を形成する。また成形された第1の樹脂成形層1が下型31の下面に沿って配置された状態で、下型31と第2の上金型36とを型閉すると、下型31と第2の上金型36との間のクリアランス部分に、第2の樹脂成形層2を成形するための第2のキャビティ38を形成する。
【0029】
金型3は、図3に示されるように、浴槽80の貯水部分81を成形するための本体成形部39と、フランジ部82を成形するためのフランジ成形部40と、フランジ部82先端から直角方向に連設された縦片部83を成形するための縦片成形部41とを備えている。さらに金型3は、この縦片部83の下端から外側方に向けて突設された横片部84を成形するための横片成形部42を備えている。また金型3は、エア抜き手段60,61を有している。本実施形態の金型3には、エア抜き手段60,61が本体成形部39とガスケット33部分との2箇所に設けられている。
【0030】
第1の上金型35は、図4に示されるように、縦片成形部41と横片成形部42とに跨るようにして連設された溝成形突条44を有している。この溝成形突条44は、縦片成形部41の下部から第1の上金型35の横片成形部42の外側の端部に至るまで形成されている。この溝成形突条44は、図5に示されるように、第1の樹脂成形層1に、縦片部83におけるフランジ部82側の端部から横片部84の端面に亘ってエア抜き用溝13を成形する。
【0031】
第1の上金型35の横片成形部42の外側の端部には、略全周に亘ってガスケット33が装着されており、さらにこのガスケット33の一部を切欠し、その切欠した部分にエア抜き手段61が装着されている。このエア抜き手段61は、図4に示されるように、第1のキャビティ37の内外を連通する貫通路46を有するゴムブロック45と、貫通路46に着脱自在に連通接続されたチューブ47とを備えている。
【0032】
第1の上金型35は、このガスケット33及びゴムブロック45を保持するリテーナブロック48を有している。第1の上金型35は、横片成形部42の外側の端部に当該横片成形部42に直角なガスケット当接面49を有しており、リテーナブロック48がこのガスケット当接面49に対向するよう設けられている。リテーナブロック48は、このガスケット当接面49に対し接離方向にスライド自在となっており、ガスケット当接面49とで、ガスケット33及びゴムブロック45を挟持固定する。リテーナブロック48にはチューブ47を挿通するための挿通溝50が形成されている。
【0033】
注入口34は、図3に示されるように、ガスケット33部分のエア抜き手段61が位置する部分とは反対側の端部に設けられており、すなわちガスケット33部分のエア抜き手段61から最も離れた位置に設けられている。
【0034】
第2の上金型36は、図1に示されるように、横片成形部42の外側の端部にガスケット33が装着される。第2の上金型36は、横片成形部42の外側の端部に当該横片成形部42に直角なガスケット当接面51を有している。この第2の上金型36のガスケット当接面51は、第1の樹脂成形層1の端面よりも内側に位置している。第2の上金型36は、ガスケット33を保持するリテーナブロック52を有している。このリテーナブロック52は、第1の上金型35と同様に、ガスケット当接面51に対向するよう設けられており、このガスケット当接面51に対し接離方向にスライド自在となっている。これによりリテーナブロック52は、ガスケット当接面51とでガスケット33を挟持固定する。なおこのリテーナブロック52は、その挟持面が平面となっており、またチューブを挿通するための挿通溝50も形成されていないため、単純な形状となっている。つまり第1の上金型35のリテーナブロック48のように複雑な形状とはなっていない。
【0035】
このような構成の金型3を用いて樹脂成形品8を成形するには、次のようにして行なう。本実施形態の樹脂成形品8は、第1の樹脂成形層1を成形する第1の工程と、第2の樹脂成形層2を成形する第2の工程とを、この順に実施することで成形される。さらに本実施形態の樹脂成形品8は、第2の工程によって成形された母材を加工する第3の工程を経ることで完成する。
【0036】
第1の工程は、第1の樹脂組成物11により第1の樹脂成形層1を成形するための工程である(図3,4参照)。まず下型31と第1の上金型35を型閉し、第1のキャビティ37を形成する。この第1のキャビティ37内に注入口34から第1の樹脂組成物11を注入する。すると第1の樹脂組成物11は、第1のキャビティ37内に下方から順に注入され、それと同時にキャビティ37内のエアをエア抜き手段60,61から排出させる。そのまま第1の樹脂組成物11の注入を継続し、第1のキャビティ37内が完全に充填されるまで注入する。
【0037】
その後、加熱手段により金型3の温度を上昇させて第1の樹脂組成物11を硬化させ、第1の樹脂成形層1を形成する。第1の樹脂成形層1が完全に硬化した後、第1の上金型35を離型させる。このとき第1の樹脂成形層1は、下型31の内面に残置されたままである。
【0038】
第1の工程で成形された第1の樹脂成形層1は、図5に示されるように、その背面12(第2の樹脂成形層2との境界となる面)におけるフランジ部82よりも外側の部分にエア抜き用溝13が凹設される。このエア抜き用溝13は、縦片部83から第1の樹脂成形層1の端面にまでその長手方向が連続しており、したがって当該エア抜き用溝13は、背面12側だけでなく第1の樹脂成形層1の端面にも開口する。
【0039】
またエア抜き用溝13は、横片部84に設けられた配設用溝部14と、縦片部83に設けられると共に配設用溝部14に滑らかに連続するよう連通する導入用溝部15とを有している。この導入用溝部15は、図5に示されるように、その溝深さが、配設用溝部14に近づく程漸次深くなるよう構成されている。
【0040】
次いで、第2の工程を実施する(図1参照)。第2の工程は、第2のキャビティ38内に第2の樹脂組成物を注入し、第1の樹脂成形層1と積層一体となった第2の樹脂成形層2を成形するための工程である。まず離型した第1の上金型35と第2の上金型36とを入れ替える。このとき第2の上金型36にはガスケット33をあらかじめ装着しておく。そして、第1の樹脂成形層1のエア抜き用溝13に、漏れ防止材7としてのチューブ71を嵌入する。この状態で第2の上金型36と下型31とを型閉すると、図2に示されるように、ガスケット33が第1の樹脂成形層1の配設用溝部14に交差するよう載置される。これにより、第2の上金型36と第1の樹脂成形層1の背面12とガスケット33とにより第2のキャビティ38が形成される。このとき、図2に示されるように、ガスケット33の下面とエア抜き用溝13の配設用溝部14とで第2のキャビティ38の内外を連通する連通口43が形成され、この連通口43内にチューブ71が配設された状態となる。
【0041】
この漏れ防止材7としてのチューブ71は、空気の流通を許容し且つ樹脂の流出を防ぐものであり、長手方向に貫通する小径の連通孔73を有している。チューブ71の外径は、エア抜き用溝13の対向する側壁間の寸法と略同じか又はそれよりも僅かに大きく形成されている。このチューブ71は、連通口43に装着されると、連通口43にぴったり嵌め込まれるようになっており、連通口43側面とチューブ71外面との間に隙間ができないようになっている。チューブ71は、連通口43に沿って配設されており、第2のキャビティ38の内外を連通する。
【0042】
なお漏れ防止材7として、図6,7に示すように、チューブの替わりに空気の流通を許容し且つ樹脂の流出を防ぐ不織布72を用いてもよい。この場合、不織布72は、連通口43を閉塞するようにして配設される。
【0043】
この後、第2のキャビティ38内に第2の樹脂組成物を注入する。第2の樹脂組成物が注入されると、第2のキャビティ38内のエアは、第2の樹脂組成物に徐々に押し出され、エア抜き手段60,61から排気される。
【0044】
ここで、ガスケット33部分のエア抜き手段61においては、第2の樹脂組成物が注入されると、第2のキャビティ38内のエアは導入用溝部15に導入される。導入用溝部15に入り込んだエアは、配設用溝部14内にスムーズに導入される。そして配設用溝部14内に到達したエアは、漏れ防止材7を介して外部に排出される。
【0045】
このようにエア抜き手段60,61により第2のキャビティ38内のエアを抜きながら第2の樹脂組成物を注入することで、第2のキャビティ38内に完全に第2の樹脂組成物が充填される。次いで、加熱手段により金型3の温度を上昇させ、第2の樹脂組成物を硬化させる。これにより第2の樹脂成形層2が形成され、第1の樹脂成形層1と第2の樹脂成形層2とが積層一体となった母材が形成される。
【0046】
次いで、第3の工程を実施する。第3の工程は、第2の樹脂成形層2の成形後の母材における縦片部83を水平方向に切断し、横片部84を含む側の部材を取り除く工程である。第3の工程は、縦片部83のエア抜き用溝13を含んだ断面で切断する。つまり、第3の工程後の樹脂成形品8は、エア抜き用溝13がその切断面85に露出する。この切断面85が、本実施形態の浴槽80の成形品端面86となる。
【0047】
このようにして形成された樹脂成形品8は、第1の樹脂成形層1の背面12側に、エア抜き用溝13の痕跡である図8(b)に示されるようなエア抜き用溝跡16が形成されている。このエア抜き用溝跡16は、第1の樹脂成形層1と第2の樹脂成形層2との境界部分に位置しており、第1の樹脂成形層1及び第2の樹脂成形層2からなる成形品端面86に露出している。またこのエア抜き用溝跡16の溝内には、第2の樹脂成形層2が充填されている。
【0048】
このように本実施形態の樹脂成形品8は、第1の樹脂成形層1の背面12側にエア抜き用溝13の痕跡であるエア抜き用溝跡16が形成されており、したがって第2の樹脂成形層2を注型成形する際にエア抜き用溝13が利用されたものである。このためエア抜き用溝13に漏れ防止材7を配設して、当該漏れ防止材7を介してエアを抜きながら第2の樹脂組成物を注入するようにすれば、第2の樹脂成形層2を成形する際のゴムブロックが不要となる。これにより第2の樹脂成形層2を成形するための上型32のリテーナブロック52の形状を単純な形状とすることができ、リテーナブロック52に複雑な加工を施す必要がなくなるから、金型製作費のコストを低減することができる。
【0049】
またエア抜き用溝13が形成されていることにより、第2の樹脂組成物の注入の際、ゴムブロックを使用する必要がない。そのため、ゴムブロックへチューブを差し込むという煩わしい作業や、チューブ装着後のゴムブロックを金型に取り付ける作業にかかる手間を省くことができる。とくに本実施形態の第2の樹脂組成物の注入の際には、漏れ防止材7をエア抜き用溝13に上方から押し込むだけでよいから、従来のようにゴムブロックへチューブを差し込むような手間の掛かる作業に比べて、作業効率を向上させることができる。
【0050】
また本実施形態は、第3の工程が、漏れ防止材7が配設された部分ではなく、エア抜き用溝跡16の溝内に第2の樹脂成形層2が充填された部分で切断するものである。このため本実施形態の樹脂成形品8は、漏れ防止材7が配設された断面で切断するものに比べて見栄えのよい成形品端面86とすることができる。
【0051】
また本実施形態の樹脂成形品8の製造方法では、エア抜き用溝13が配設用溝部14と導入用溝部15とで構成されているから、キャビティ38内から漏れ防止材7に向けてスムーズにエアを導入することができる。これにより、エア抜きが不十分となることに起因する不良成形品の数を減らすことができる。
【0052】
なお、本実施形態の第1の樹脂組成物11としては、例えば、熱硬化性樹脂に、充填剤・柄材・補強材・内部離型剤・硬化剤などの添加剤が配合された人造大理石用の樹脂組成物が挙げられる。またその他、不飽和ポリエステル樹脂やエポキシ樹脂等を使用してもよい。
【0053】
また、本実施形態の第2の樹脂組成物としては、柄材の配合されていない熱硬化性樹脂や、ポリエステル樹脂等が挙げられる。
【0054】
また第2の樹脂組成物として、第1の樹脂組成物11よりも安価なものが用いられることが好ましい。外観を形成する第1の樹脂成形層1に高価な樹脂組成物を使用し、目立たない部分を構成する第2の樹脂成形層2に安価な樹脂組成物を使用することで、外観を良好に保ちつつコストダウンを図ることができる。
【0055】
なお、本実施形態の樹脂成形品8は浴槽80であったが、本発明の樹脂成形品は浴槽に限られず、例えば、洗面ボウルや樹脂シンクといった種々のものに広く適用可能である。また、本発明の樹脂成形品は、人造大理石カウンタのような平坦な形状のものであってもよい。
【0056】
また本実施形態の樹脂成形品8は、第3の工程を経て完成するものであったが、本発明の樹脂成形品は、第3の工程を必ずしも経る必要はない。このため本発明の樹脂成形品の製造方法においては、第3の工程は必ずしも必要な構成ではない。また本実施形態の樹脂成形品8は、エア抜き用溝跡16の溝内に第2の樹脂成形層2が充填されている部分にて切断したが、本発明の樹脂成形品は、漏れ防止材を含む断面で切断してもよい。つまり本発明の樹脂成形品においては、切断の有無や切断する部位は特に限定されない。
【符号の説明】
【0057】
1 第1の樹脂成形層
11 第1の樹脂組成物
12 背面
13 エア抜き用溝
14 配設用溝部
15 導入用溝部
16 エア抜き用溝跡
2 第2の樹脂成形層
3 金型
31 下型
32 上型
33 ガスケット
34 注入口
35 第1の上金型
36 第2の上金型
37 第1のキャビティ
38 第2のキャビティ
43 連通口
44 溝成形突条
60 エア抜き手段
61 エア抜き手段
7 漏れ防止材
71 チューブ
72 不織布
8 樹脂成形品
85 切断面
86 成形品端面


【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の樹脂組成物から形成された第1の樹脂成形層と、
予め形成された前記第1の樹脂成形層の背面及び金型により形成されたキャビティ内に第2の樹脂組成物を注入することで注型成形された第2の樹脂成形層と
を備えた樹脂成形品であって、
前記第1の樹脂成形層が、前記第2の樹脂組成物を前記キャビティ内に注入する際に当該キャビティ内のエアを抜くためのエア抜き用溝の痕跡であるエア抜き用溝跡を背面に有し、
当該エア抜き用溝跡が、第1の樹脂成形層と第2の樹脂成形層との境界部分に位置すると共に前記第1の樹脂成形層及び前記第2の樹脂成形層からなる成形品端面に露出している
ことを特徴とする樹脂成形品。
【請求項2】
前記成形品端面が、第2の樹脂成形層の成形後の母材の端部が切除されて形成された切断面であり、
前記エア抜き用溝跡が当該切断面に露出している
ことを特徴とする請求項1記載の樹脂成形品。
【請求項3】
前記切断面に露出した前記エア抜き用溝跡の溝内に、前記第2の樹脂成形層が充填されている
ことを特徴とする請求項2記載の樹脂成形品。
【請求項4】
第1の樹脂成形層と第2の樹脂成形層とが積層された樹脂成形品を注型成形により製造する方法であって、
第1の樹脂組成物により前記第1の樹脂成形層を成形すると共に、当該第1の樹脂成形層における前記第2の樹脂成形層が積層される面に凹設され且つ当該第1の樹脂成形層の端面にその長手方向の端部が開放するエア抜き用溝を形成する第1の工程と、
前記エア抜き用溝に交差するようにガスケットを載設し、前記第1の樹脂成形層及び前記ガスケット及び金型にてキャビティを形成し、前記ガスケット及びエア抜き用溝によってキャビティ内外を連通する連通口を形成し、当該連通口に、空気の流通を許容し且つ樹脂の流出を防ぐための漏れ防止材を配設し、当該漏れ防止材を介して前記キャビティ内のエアを抜きながら前記第2の樹脂組成物を当該キャビティ内に注入することで前記第2の樹脂成形層を形成する第2の工程と
を含む
ことを特徴とする樹脂成形品の製造方法。
【請求項5】
前記エア抜き用溝が、
前記漏れ防止材が配設される配設用溝部と、
前記配設用溝部に連通して当該配設用溝部にキャビティ内のエアを導入するための導入用溝部と
を備え、
前記第2の工程は、前記第2の樹脂組成物を注入する際に、前記導入用溝部に導入された前記キャビティ内のエアを前記漏れ防止材を介して排気し、前記第2の樹脂成形層を形成するものである
ことを特徴とする請求項4記載の樹脂成形品の製造方法。
【請求項6】
前記漏れ防止材が、前記第2の樹脂成形層を成形するキャビティの内外を連通するチューブである
ことを特徴とする請求項4又は請求項5のいずれかに記載の樹脂成形品の製造方法。
【請求項7】
前記漏れ防止材が、前記第2の樹脂成形層を成形するキャビティの内外を連通する連通口に配設された不織布である
ことを特徴とする請求項4又は請求項5のいずれかに記載の樹脂成形品の製造方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−111082(P2012−111082A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−260358(P2010−260358)
【出願日】平成22年11月22日(2010.11.22)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】