説明

正面フライスおよび加工方法

【課題】水溶性切削油剤が残留した被削材を正面フライス加工したときの切刃の寿命低下を防止する。
【解決手段】本正面フライス(1)は、軸心(CL)まわりに回転する工具本体(2)の先端外周部に、周方向に略等間隔に複数の切刃(11)が配設されており、前記工具本体(2)内部には、外部から供給された流体を導入するための第1供給穴(60)が少なくとも1つ形成され、前記第1供給穴(60)は、工具外周側に向けて延びる開口部(62)を有し、且つ、前記開口部(62)において少なくとも任意の1つの切刃(11)の工具回転方向(K)前方を指向し、さらに、前記第1供給穴(60)を流通し前記開口部(62)から噴射された圧縮空気により、切削しようとする部分に残留する水溶性切削油剤が除去されるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工具本体の内部に供給穴を備えた正面フライスおよび加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、マシニングセンタで正面フライス加工する場合、ドリル加工は水溶性切削油剤等の液体を使用するのが通常である。このため、被削材の表面や加工穴および鋳穴などの凹部には前記液体が残留する。この後工程で正面フライスを使用すると残留する前記液体が切削中の切刃に接触する。
【0003】
正面フライス加工で水溶性切削油剤等の液体が接触すると切刃の寿命が極端に短くなる。その理由は、正面フライスは断続切削であり、切刃は切削中に高温になり、空転中に残留する前記液体に接触すると切刃は急冷される。これを繰り返すと切刃は温度差の大きい熱サイクルを受け、この結果、切刃に熱クラックが早期に発生し、この熱クラックを起点とする欠損が生じる。これにより切刃は極度に短寿命になる。
【0004】
従来の正面フライスでは、外部に設けたノズルまたは正面フライスの工具本体内部に設けた切刃冷却用もしくは切屑除去用の流体の供給穴から圧縮空気等の気体を噴射することにより被削材に残留する水溶性切削油剤等の液体を吹き飛ばす例があった。
【0005】
工具本体内部に供給穴を設けた従来正面フライスを図9に例示する。この従来正面フライスは、円盤状の工具本体1の先端外周部に切刃を設けてなるものである。さらに、前記工具本体1に流体の供給穴16を形成し、この供給穴16を前記切刃に連なるすくい面6Aの工具内周側において当該すくい面6Aの直前に臨むように開口し、かつこの開口部において前記切刃に向けて延びる方向に形成されていることを特徴とするものである(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2000−5923号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、外部に設けたノズルから圧縮空気等の気体を噴射する場合には、前記気体が正面フライスの工具本体に遮られるため残存する水溶性切削油剤等の液体を充分に除去することができなかった。
【0007】
特許文献1に開示された正面フライスにおいては、供給穴16は切刃に指向しているため、噴射された圧縮空気等の気体によって残留する水溶性切削油剤等の液体の跳ね上がりが切削中の切刃に接触する可能性が高い。また、残留する前記液体を一時的に吹き飛ばしても、工作機械の送りや切削振動により前記液体が切削部分に戻る場合が多く、結局、前記液体が切削中の切刃に作用することになり切刃の寿命が低下する。
【0008】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、水溶性切削油剤等の液体が残留した被削材を正面フライス加工したときに切刃の寿命低下を防止した正面フライスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、本発明の正面フライスは、軸心まわりに回転する工具本体の先端外周部に、周方向に沿って略等間隔に複数の切刃が配設された正面フライスにおいて、前記工具本体内部には、外部から供給された気体を導入するための第1供給穴が少なくとも1つ形成され、前記第1供給穴は、工具外周側に向けて延びる開口部を有し、且つ、前記開口部において少なくとも任意の1つの切刃よりも工具回転方向前方を指向し、さらに、前記第1供給穴を流通し前記開口部から噴射された気体により、切削しようとする部分に残留する液体が除去されることを特徴とする正面フライスである。
【0010】
上記の正面フライスにおいて、工具回転方向からみたとき、前記第1供給穴の開口部が工具本体の軸心に直交する直線に対して工具先端側に3°〜45°の範囲の傾斜角度でもって傾斜する方向に形成されていることが好ましく、さらに、前記第1供給穴は、前記切刃と同数且つ前記切刃と対をなすように設けられ、それぞれの第1供給穴の開口部において対応する切刃の工具回転方向前方を指向していることが好ましい。
【0011】
さらに、上記の正面フライスにおいて、前記工具本体内部には、外部から供給された気体を導入するための第2供給穴が少なくとも1つ形成され、前記第2供給穴は、工具先端側に向けて延びる開口部を有し、且つ、前記開口部において切刃よりも工具内周側を指向し、さらに、前記第2供給穴を流通し前記開口部から噴射された気体により、工具先端側に残留する液体が除去されることが好ましい。さらに、前記第2供給穴の開口部が前記工具本体の軸心から距離の異なる複数の位置に配置されていることが好ましい。
【0012】
本発明の加工方法は、上記の正面フライスを用いた加工方法において、前記正面フライスの第1供給穴を流通する気体が前記第1供給穴の開口部から噴射されることにより、切刃が切削しようとする部分に残留する液体を除去しながら切削することを特徴とする加工方法である。
【0013】
上記の加工方法において、前記正面フライスの第2供給穴を流通する気体が前記第2供給穴の開口部から噴射されることにより、工具先端側に残留する液体を除去しながら切削することが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の正面フライスおよび加工方法によれば、工具外周側に向けて延びる第1供給穴の開口部から気体が噴射されることにより、当該正面フライスの切刃が切削しようとする部分に残存する液体を除去し前記切刃に前記液体が接触することを防止するため、前記切刃に生じる熱サイクルが軽減され切刃の寿命が大幅に延長する。
【0015】
工具本体の軸心方向からみて、第1供給穴の開口部が切刃の工具回転方向前方を指向していることから、噴射された気体による液体の跳ね上がりが切削中の切刃にかからないので、切刃寿命の延長効果がいっそう高くなる。
【0016】
工具回転方向からみて、第1供給穴の開口部は、工具本体の軸心に直交する直線に対して工具先端側に向かって傾斜させてあるが、前記傾斜角度が3°未満になると凹部に残留する液体の除去効果が充分に得られないおそれがあり、45°を超えると残留する液体を工具外周側へ吹き飛ばす効果が低くなるとともに液体の跳ね上がりが切刃にかかるおそれがある。
【0017】
さらに、前記第1供給穴を、前記切刃と同数設け且つ前記切刃と対をなすように設けると、それぞれの切刃において残留する液体を除去する効果が均一且つ高くなる。
【0018】
当該正面フライスが例えば横型マシニングセンタのように工具軸心を水平にした状態で使用される場合には、切削しようとする部分に残留する液体は除去された後、切削振動により切削しようとする部分に戻ってしまうおそれがあるが、工具先端側に向けて延びる第2供給穴の開口部から噴射される気体により、上記の切削しようとする部分に戻ろうとする液体を除去するため、切刃寿命の延長効果がいっそう高くなる。
【0019】
上記の工具先端側に向けて延びる開口部が、工具本体の軸心から異なる距離に複数設けられると、上記の切削しようとする部分に戻ろうとする液体を除去する効果がきわめて高くなる。
【0020】
本発明において、第1および第2供給穴を流通し、それぞれの開口部から噴射される気体とは、圧縮空気、窒素ガス、アルゴンガス等の公知の気体である。供給設備やコストの点で圧縮空気を用いるのが好ましい。また、液体とは、主に切削加工に用いられる水溶性又は不水溶性切削油剤や被削材の洗浄に用いられる洗浄剤等の液体である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
次に、本発明を適用した第1の実施の形態について図を参照しながら説明する。図1は第1の実施の形態に係る正面フライスの要部の正面図である。図2は図1に示す正面フライスの要部の先端視側面図である。図3は図1に示す正面フライスのS1−S1線切断部端面図である。図4は図1に示す正面フライスの加工状態の模式図である。図1および図2に例示したように本正面フライス1において、工具本体2は軸心CLを中心とした略円盤状をなし、アーバを介して工作機械の主軸端(図示しない)に取付けられる。すなわち、工具本体2の中心部には前記軸心CLに沿ってフライス穴3が貫設されるとともに、工具本体2の後端面2bにはこのフライス穴3の開口部から前記軸心CLに対する直径方向に延びるキー溝4が形成されており、工具本体2は、フライス穴3にアーバの軸部(図示しない)を嵌入させるとともに、キー溝4を前記アーバのフランジ部端面側に設けられたキー(図示しない)に嵌合させ、フライス穴3に挿通される取付けボルト(図示しない)によって前記アーバに取付けられ、前記軸心CLまわりに工具回転方向Kに回転させられて切削加工に供される。
【0022】
図1および図2には全体を示していないが、工具本体2の先端外周部には、外周面2cを切欠くようにして工具本体2の軸心CL側に向かって凹曲面状をなす切屑ポケット5が周方向に間隔をあけて8箇所に形成され、これら切屑ポケット5の工具回転方向K後方側には、それぞれの切屑ポケット5よりもさらに凹むように凹部7が形成されており、それぞれの凹部7には工具回転方向K前方側に向かって順に楔挿入溝7bとチップ取付け溝7aとが形成されていて、楔挿入溝7bおよびチップ取付け溝7aにはそれぞれ楔部材30および粗用チップ10が挿入され、楔部材30に挿入されたクランプねじ31を前記楔挿入溝7bの工具外周側を向く底面に設けられた雌ねじ穴にねじ込むことにより、粗用チップ10はチップ取付け溝7aの底面および工具回転方向K前方側の壁面に押圧されて工具本体2に固定される。
【0023】
工具本体2の軸心CLを基準として略回転対称的な位置にある2つの切屑ポケット6には、上述の凹部7とは形態の異なる別の凹部8が形成されている。すなわち、当該凹部8には工具回転方向K前方側に向かって順にチップ取付け溝8aと楔挿入溝8bとが形成されるとともに、前記チップ取付け溝8aの工具後端側に調整楔挿入溝8cが形成されていて、チップ取付け溝8a、楔挿入溝8bおよび調整楔挿入溝8cにはそれぞれ仕上げ加工に供する仕上げ用チップ20、楔部材40、調整楔部材50が挿入され、楔部材40に挿入されたクランプねじ41を楔挿入溝8bの工具外周側を向く底面に設けられた雌ねじ穴にねじ込むことにより、仕上げ用チップ20はチップ取付け溝8aの底面および工具回転方向K後方側の壁面に押圧されて工具本体2に固定される。調整楔部材50に挿入された締付けねじ51を調整楔挿入溝8cの工具外周側を向く底面に設けられた雌ねじ穴にねじ込むことにより、仕上げ用チップ20はチップ取付け溝8aに沿って工具先端側にせり出されて切刃位置の微調整が行われる。
【0024】
本実施の形態において、上述したように工具本体2には、仕上げ加工に供する仕上げ用チップ20が2個取付けられ、その他に粗加工に供する粗用チップ10が8個取付けられる。図3中2点鎖線(粗用チップに重複しないように直径方向の位置をずらして示してある。)で示すように、仕上げ用チップ20は、変形した五角形平板状をなすチップ基材22の上面の一稜線部に切欠段部22aが設けられており、この切欠段部22aに略直方体をなす切刃部材23が例えばロウ付けにより固着されてなる。前記チップ基材22は超硬合金等の硬質材料からなり、前記切刃部材23は立方晶窒化硼素焼結体からなる。
【0025】
仕上げ用チップ20は、そのすくい面20aとなる切刃部材23およびチップ基材22の上面と、逃げ面20bとなる切刃部材23の長辺側の側面との交差稜線部に切刃21が形成されていて、前記すくい面20aを工具回転方向Kに向けて工具本体2に取付けたとき、前記切刃21は、工具先端側に最も突出し直線状又は大きな曲率半径の円弧状をなすワイパー21aと、このワイパー21aの工具外周側端部に連なるコーナー切刃21bと、工具内周側端部に連なる逃げ部21cとからなる。さらに、仕上げ用チップ20は、その厚みが一定ではなく下面20cがすくい面20aに対してわずかに傾斜していて、工具外周側に向かって厚みが小さくなるように工具本体2に取付けられることにより、工具本体2の回転時に生じる遠心力によって工具外周側に移動するのを阻止されている。
【0026】
また、本実施の形態において、図3中2点鎖線で示すように、粗用チップ10は略正方形平板状をなすポジチップであり、セラミックスからなり、そのすくい面10aとされる上面と、逃げ面10bとされる側面との交差稜線部に形成された主切刃11aと、前記すくい面10aのコーナー部に形成された円弧状のコーナー切刃11bとから切刃11が構成されている。そして、この粗用チップ10は、前記すくい面10aを工具回転方向Kに向けてチップ取付け溝7aに挿入され、工具外周側に位置する主切刃11aの回転軌跡が工具後端側にいくにしたがって工具外周側に向かうようにわずかに傾斜して工具本体2に取付けられている。ここで、上述した仕上げ用チップ20のワイパー21aとの関係において、粗用チップ10は、その主切刃11aが前記ワイパー21aよりも工具外周側に突出するとともに、コーナー切刃11bが前記ワイパー21aよりも工具後端側に引っ込んでいる。
【0027】
図1〜図3に示すように、工具本体2の内部には、上述したようにアーバに取付けられたとき、アーバ側に設けられた供給穴(図示しない)に連通するように、粗用チップ10および仕上げ用チップ20の総数と同数の第1供給穴60が形成されている。本実施の形態において、それぞれの第1供給穴60は、工具本体2のフライス穴3の内壁面に開口した導入部61から放射状に工具外周側を向けて直線状に延び、それぞれの切屑ポケット5、6を構成する凹曲面に開口する開口部62が形成されている。
【0028】
それぞれの第1供給穴60は断面円形状に形成されており、その開口部62の軸心CL1は、工具回転方向Kからみた場合には、当該正面フライス1の送り方向(矢印Fの方向)、すなわち工具本体2の軸心CLに直交する直線に対して工具先端側に傾斜し、その傾斜角度αが3°〜45°の範囲の角度に設定される。さらに、前記開口部62は、工具本体2の軸心CL方向からみて、粗用チップ10および仕上げ用チップ20のそれぞれのすくい面10a、20aに対して工具回転方向K前方を指向している。好ましくは、前記開口部62の軸心CL1は、それぞれの前記すくい面10a、20aに対して工具回転方向K前方側に向かって傾斜し、その傾斜角度βが0°〜90°の範囲の角度に設定される。
【0029】
上述した構成をもつ正面フライス1は、鋳鉄製のエンジンブロック100を加工するためのものであり、工作機械の主軸とともに軸心CLまわりに工具回転方向Kに回転させられ、前記軸心CLに対して直交する方向(矢印Fの方向)の送りを与えられることにより、粗用チップ10の主切刃11aおよびコーナー切刃11bがエンジンブロック100の表面101から所定の切込み深さの部分を粗切削し、前記粗用チップ10により切削した加工面から所定の切込み深さの部分を、さらに仕上げ用チップ20のワイパー21aが仕上げ切削して、平滑な加工表面103を形成する。
【0030】
図4に模式的に示すように、エンジンブロック100の正面フライス加工においては、穴あけ加工、リーマ加工、タップ加工、ボーリング加工等で用いられた水溶性切削油剤(液体)が前記エンジンブロックの表面101および貫通穴や止まり穴等の凹部102に残留した状態となり、断続切削となる正面フライスの切刃においては、温度差の大きい熱サイクルを受け熱クラックが早期に発生するため、この熱クラックを起点とする欠損により極度に短寿命になる。特に、当該正面フライス1は比較的高い切削速度で仕上げ加工を行うため切刃11、21への熱衝撃が非常に大きくなることに加え、粗用チップ10および仕上げ用チップ20の切刃11、21を構成するセラミックスおよび立方晶窒化硼素焼結体は超硬合金にくらべ靭性が低いことから、切刃11、21はいっそう欠損しやすくなる。
【0031】
本正面フライス1およびこれを用いた加工方法によれば、アーバ側に設けられた供給穴(図示しない)から第1供給穴60に導入された圧縮空気(気体)が前記第1供給穴60の開口部62から工具外周側且つ本正面フライス1の送り方向(矢印Fの方向)に対して工具先端側に向けて噴射され、エンジンブロック100の表面101や凹部102に残留している水溶性切削油剤を吹き飛ばすことにより除去する。しかも圧縮空気はそれぞれの切刃11、21のすくい面10a、20aに対して工具回転方向K前方の被加工部に向けて噴射されるので、切削しようとする部分に残留する水溶性切削油剤を効果的に除去することができる。そのため、前記切刃11、21に生じる熱サイクルが軽減することから前記切刃11、21の寿命が大幅に延長する。
【0032】
そのうえ、圧縮空気はそれぞれの切刃11、21およびすくい面10a、20aに向かず工具回転方向K前方に向けて噴射されるので、跳ね上がった水溶性切削油剤が前記切刃11、21に接触することがない。そのため、切刃寿命の延長効果がいっそう高くなる。第1供給穴60が粗用チップ10および仕上げ用チップ20の総数と同数設けられ、且つ、それぞれの第1供給穴60がこれらチップ10、20の切刃11、21と対をなすように設けられると、残留する水溶性切削油剤を除去する効果がきわめて高くなるが、上記の効果を奏する点では、第1供給穴60を少なくとも1つだけ設け、それぞれの第1供給穴60が任意の1つの切刃11、21と対をなすように設けられてもよい。
【0033】
工具回転方向Kからみて、第1供給穴60の開口部62と、工具本体2の軸心CLに直交する直線との傾斜角度αが3°未満になると凹部102に残留する水溶性切削油剤の除去効果が充分に得られないおそれがあり、45°を超えると残留する水溶性切削油剤を工具外周側へ吹き飛ばす効果が低くなるとともに水溶性切削油剤の跳ね上がりが切刃11、21にかかるおそれがある。
【0034】
工具本体2の軸心CL方向からみて、第1供給穴60の開口部62と、粗用チップ10および仕上げ用チップ20のそれぞれのすくい面10a、20aとの傾斜角度βが0°未満、すなわち前記開口部62が前記すくい面10a、20a側に向けられると、圧縮空気によって吹き飛ばした水溶性切削油剤が切刃11、21に接触するおそれがあり、前記傾斜角度βが90°を超えると、吹き飛ばした水溶性切削油剤が工具回転方向K前方側に位置する他の切刃11、21に接触するおそれがある。
【0035】
次に本発明を適用した第2の実施の形態について図を参照しながら説明する。図5は第2の実施の形態に係る正面フライスの要部の正面図である。図6は図5に示す正面フライスの要部の先端視側面図である。図7は図5に示す正面フライスのS2−S2線切断部端面図である。図8は図5に示す正面フライスの加工状態の模式図である。本正面フライスは、上述した第1の実施の形態に係る正面フライスに、後述する第2供給穴を追加したものである。すなわち、図5〜図7に示すように、工具本体2の内部には、上述した第1供給穴60と同様にアーバに取付けられたとき、アーバ側に設けられた供給穴(図示しない)に連通する複数の第2供給穴70が形成されている。本実施の形態において、それぞれの第2供給穴70は、第1供給穴60に連通する導入部71から工具先端側に向けて直線状に延び、工具本体2の先端面2aに開口する開口部72が形成されている。第2供給穴70の数は第1供給穴60と同数となっている。
【0036】
それぞれの第2供給穴70は断面円形状に形成されており、それぞれの開口部72の軸心CL2は、工具回転方向Kからみて、工具本体2の軸心CLに対して略平行に延びており、さらに、前記軸心CLからの距離が異なる複数の位置に設けられている。また、前記軸心CL方向からみたとき、それぞれの開口部72は工具回転方向K前方側にいくにしたがって前記軸心CLとの距離が長くなるように配置される。
【0037】
例えば横型マシニングセンタ等の主軸に第1の実施の形態に係る正面フライス1がその軸心CLを水平に取付けられた場合、上述したように第1供給穴60の開口部62から噴射される圧縮空気によって切削しようとする部分に残留する水溶性切削油剤は一旦除去されるものの、エンジンブロック100の凹部102に残存する水溶性切削油剤がテーブル送り、切削振動、重力等により切削しようとする部分に戻ってしまうおそれがあるが、上述したように第2供給穴70を追加した本正面フライス1によれば、第2供給穴70の開口部72から噴射される圧縮空気によって上記の切削しようとする部分に戻る水溶性切削油剤が除去されて切刃11、21に接触しないため、切刃寿命の延長効果がいっそう高くなる。
【0038】
さらに、第2供給穴70の開口部72は、工具本体2の軸心CLから距離が異なる位置に複数設けられているため、工具先端側に残存する水溶性切削油剤を工具内周側から工具外周側にわたってまんべんなく除去することができるため高い切刃延長効果が確実に得られる。第2供給穴70の数は、切刃11、21と同数に限定されるものではなく、上記の効果を奏する点では少なくとも1つだけ設けられればよく、逆に工具本体2の強度に悪影響のない範囲で切刃11、21よりも多く設けられてもよい。
【0039】
以上に説明した本発明を適用した正面フライス1の実施例について以下に説明する。使用した正面フライスは、工具径が160mmであり、上述したようにセラミックスからなる8個の粗用チップ10と立方晶窒化硼素焼結体からなる2個の仕上げ用チップ20とを用いており、工具回転方向Kからみて工具本体2の軸心CLに直交する直線に対して30°の傾斜角度αをなし、チップ10、20と同数の第1供給穴60を備えたもの(以下、本発明品Aという。)、前記第1供給穴60に加え、チップ10、20と同数設けられ工具本体2の軸心CLに平行且つ前記軸心CLからの距離を異ならせ工具内周側から工具外周側にわたってまんべんなく第2供給穴70を備えたもの(以下、本発明品Bという。)並びに供給穴を一切備えていない従来のもの(以下、従来品という。)の3種類である。
【0040】
図8に示すように、これら正面フライスを横型マシニングの主軸に取付け、エンジンブロック100の前後面の正面フライス加工を行った。前記エンジンブロック100は普通鋳鉄FC250(JIS G 5501)からなり、被加工面となる前後面の表面101には、鋳造素材の凹みおよび加工穴等の凹部102があり、当該正面フライス加工以前のドリル、リーマ、タップ等による湿式加工によって前記表面(101)および前記凹部(102)は水溶性切削油剤が残留した状態となっている。当該正面フライス加工はエンジンブロック(100)の前後面の仕上げ加工であることから、切削速度は通常の粗加工よりも高めの500m/min.とし、1刃当り送り0.15mm/刃および切込み0.5mmに設定した。以上の切削条件で前後面を連続加工し、各正面フライスの切刃が欠損に至るまでのエンジンブロックの加工個数を比較した。
【0041】
従来品においては、切削中の切刃は残留する水溶性切削油剤に接触し、温度差の非常に大きい熱サイクルを受けるため、熱クラックを起点とした早期の欠損が生じ48個の加工しか行えなかった。一方、本発明品Aでは、第1供給穴60の開口部62から噴射される圧縮空気により、切削しようとする部分に残留する水溶性切削油剤が除去され切刃11、21に接触しなくなることから、切刃11、21に生じる熱サイクルが軽減された結果、従来品の約4倍にあたる203個の加工が行えた。本発明品Bでは、さらに第2供給穴70の開口部72から噴射された圧縮空気により、エンジンブロック100に設けられた凹部102に残留した水溶性切削油剤が切削点に戻ってこないように除去され確実に切刃11、21に接触しなくなることから、従来品の約10倍、本発明品Aの約2.5倍にあたる498個の加工が行えた。
【0042】
本発明を適用した正面フライスにおいて、第1および第2供給穴60、70の導入部61、71および開口部62、72の位置、断面形状および工具回転方向Kからみた形状、チップの構成(粗用および仕上げ用)、形態、材質、並びに、被削材の形態、材質等は、以上に説明した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において変更、削除並びに追加が可能であることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明を適用した第1の実施の形態に係る正面フライスの要部の正面図である。
【図2】図1に示す正面フライスの要部の先端視側面図である。
【図3】図1に示す正面フライスのS1−S1線切断部端面図である。
【図4】図1に示す正面フライスの加工状態の模式図である
【図5】本発明を適用した第2の実施の形態に係る正面フライスの要部の正面図である。
【図6】図5に示す正面フライスの要部の先端視側面図である。
【図7】図5に示す正面フライスのS2−S2線切断部端面図である。
【図8】図5に示す正面フライスの加工状態の模式図である。
【図9】従来の正面フライスの要部の先端視側面図である。
【符号の説明】
【0044】
1 正面フライス
2 工具本体
5,6 切屑ポケット
7,8 凹部
7a,8a チップ取付け溝
7b,8b 楔挿入溝
8c 調整楔挿入溝
10 粗用チップ
20 仕上げ用チップ
30,40 楔部材
50 調整楔部材
60 第1供給穴
70 第2供給穴
61,71 導入部
62,72 開口部
100 エンジンブロック
102 凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸心(CL)まわりに回転する工具本体(2)の先端外周部に、周方向に沿って略等間隔に複数の切刃(11、21)が配設された正面フライスにおいて、
前記工具本体(2)内部には、外部から供給された気体を導入するための第1供給穴(60)が少なくとも1つ形成され、前記第1供給穴(60)は、工具外周側に向けて延びる開口部(62)を有し、且つ、前記開口部(62)において少なくとも任意の1つの切刃(11、21)よりも工具回転方向(K)前方を指向し、さらに、前記第1供給穴(60)を流通し前記開口部(62)から噴射された気体により、切削しようとする部分に残留する液体が除去されることを特徴とする正面フライス。
【請求項2】
工具回転方向(K)からみたとき、前記第1供給穴(60)の開口部(62)が工具本体(2)の軸心(CL)に直交する直線に対して工具先端側に3°〜45°の範囲の傾斜角度(α)でもって傾斜する方向に延びるように形成されていることを特徴とする請求項1記載の正面フライス。
【請求項3】
前記第1供給穴(60)は、前記切刃(11、21)と同数且つ前記切刃(11、21)と対をなすように設けられ、それぞれの第1供給穴(60)の開口部(62)において対応する切刃(11、21)の工具回転方向(K)前方を指向していることを特徴とする請求項1又は2記載の正面フライス。
【請求項4】
前記工具本体(2)内部には、外部から供給された気体を導入するための第2供給穴(70)が少なくとも1つ形成され、前記第2供給穴(70)は、工具先端側に向けて延びる開口部(72)を有し、且つ、前記開口部(72)において切刃(11、21)よりも工具内周側を指向し、さらに、前記第2供給穴(70)を流通し前記開口部(72)から噴射された気体により、工具先端側に残留する液体が除去されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の正面フライス。
【請求項5】
前記第2供給穴(70)の開口部(72)が前記工具本体(2)の軸心(CL)から距離の異なる複数の位置に配置されていることを特徴とする請求項4記載の正面フライス。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項記載の正面フライス(1)を用いた加工方法において、
前記正面フライス(1)の第1供給穴(60)を流通する気体が前記第1供給穴(60)の開口部(62)から噴射されることにより、切刃(11、21)が切削しようとする部分に残留する液体を除去しながら切削することを特徴とする加工方法。
【請求項7】
請求項6記載の加工方法において、
前記正面フライス(1)の第2供給穴(70)を流通する気体が前記第2供給穴(70)の開口部(72)から噴射されることにより、工具先端側に残留する液体を除去しながら切削することを特徴とする加工方法。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−281385(P2006−281385A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−105775(P2005−105775)
【出願日】平成17年4月1日(2005.4.1)
【出願人】(000221144)株式会社タンガロイ (185)
【Fターム(参考)】