説明

歩行分析

垂直方向の頭部加速度を測定することによって、被験者の歩行パターンを分析する方法及びシステムを提供する。このシステムは、被験者の頭部に設けられる加速度計を具える。この分析は、フーリエ変換を用いて、最初の高調波のエネルギを含む、加速度データからシグニチャを計算すること、及び、基準線シグニチャとシグニチャを比較すること、を含む。基準線シグニチャは、前もって記憶されたシグニチャを示す。このような比較は、所定時間に亘って歩行シグニチャにおける変化を観察するために行われる。このシグニチャのエントロピは、比較を行うために用いることができる。自己組織化マップを、測定した歩行信号を分類するために用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歩行分析方法及びシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
歩行分析において、ビデオカメラの前のトレッドミル(単調な歩行用機械の上を歩く被験者が歩くのに対して、自然な状態(環境)における被験者の全体の歩行パターンを観察することが必要とされることが多い。周知の全体的な歩行分析システムは、一般的に、足の動きから歩行パターンを得る目的で、被験者のくるぶし、ひざ又はウエストにセンサを配置する。しかしながら、センサの配置に関するばらつきにより、このようなシステムは、精密な測定ができず、例えば、負傷後の異常な歩行パターンなど、予測可能な歩行パターンを検出するためには多くの較正を必要とする。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、例えばイヤピース(ear piece)を用いて、被験者の頭部に配置された加速時計を用いて効率的な歩行分析を実施可能であるという驚くべき発見によりなされた。このようなイヤピースは、全体的に装着することができ、例えば、負傷後の回復又はスポーツ調査の研究において、被験者の歩行を精密に測定することが可能となった。
【0004】
本発明は、独立請求項1及び10に記載されている。さらに、選択的な特徴を、本発明の実施例の従属請求項に記載した。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の分析は、1つ又はそれ以上の基準線シグニチャに対して、検知した頭部加速度から抽出したシグニチャを比較することによって歩行パターンのいくつかのタイプを検出するステップを具える。さらに、本発明は、加速度信号から抽出したシグニチャを記憶し、1つ又はそれ以上の記憶したシグニチャに対して、未来のシグニチャを比較することによって(従って、記憶されたシグニチャを基準として用いる)、被験者の歩行パターンの時間経過(historical)による展開を観察するステップを具える。
【0006】
好ましくは、加速度センサは、被験者が直立した位置にあるときの、実質的に垂直方向における頭部加速度を検知する。これは、歩行又は走行中、地面への被験者の足のインパクトとして、背骨から頭部にかけて走る衝撃波を測定すると考えられる。
【0007】
加速度センサは、例えば、外耳の内側に配置されるイヤピース、耳の周囲及び後側に装着される補聴器型クリップ、又は、耳たぶに装着されるイヤクリップ又はイヤリングなど、多数の方法で頭部に装着可能である。代替としては、加速度センサは、例えば、ヘッドバンド又は帽子、補聴器や眼鏡などの他の形状のヘッドギアに固定可能であり、いくつかの応用例においては、外科的な埋め込み(インプラント)も可能である。
【0008】
シグニチャは、フーリエ変換や波長分析など、多くの技術を用いて、加速度信号から得ることができる。このシグニチャは、エントロピの計算を含む多数の方法で分析され、自己組織化マップ(SOM)又は空間−時間自己組織化マップ(STSOM)に対する入力として計算したエントロピを利用する。詳細については以下に記載する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
図1A−Cは、頭部加速度を測定する加速度センサ用の3つの異なるハウジングを例示する(A:イヤプラグ;B:耳後側クリップ;C:イヤクリップ又はイヤリング)。ハウジングの内側において、加速度センサが設けられ、信号が分析されるプロセシングユニットに、加速度信号を送る手段に連結されている。さらに、このハウジングは、以下に詳述するように、加速度信号を処理する手段を有する。この処理の結果は、次いで、さらなる処理のために処理ユニットに送られるか、ハウジング内のフラッシュメモリなどのデジタル記憶手段に記憶してもよい。図1A−Cは、加速度センサを被験者の耳に装着する様々な方法を示す一方、頭部にセンサを装着する代替の手段は、例えば、ヘッドバンド、帽子、一体化された一対の眼鏡、又は、ヘッドフォン、などが考えられる。
【0010】
加速度センサは、例えば、被験者が直立している場合、1つの軸は水平方向を向き、1つの軸は、垂直方向を向くなど、1つ又はそれ以上の軸に沿って、加速度を測定することができる。当然、3軸の加速度計も、使用することができる。
【0011】
ハウジングは、さらに、ジャイロスコープ、ボール又はレバースイッチセンサなど、さらなる運動センサを具えることができる。さらに、頭部運動を検出する運動センサのいずれかのタイプを用いた歩行分析も、考えられる。
【0012】
図2A−Cは、上述のように装着された加速度センサなど、2つの軸の各々に関する出力を示しており、暗い方のトレースは水平方向成分を示し、比較的明るい方のトレースは垂直方向成分を示す。図2A−Cにおけるグラフのy軸は、任意のユニットにおける測定された加速度を示し、x軸は、50Hzのサンプリングレートでの連続的なサンプルを示す。トレースの周期的な性質から明らかなように、各図は、いくつかのフットステップサイクルを示す。
【0013】
本実施例は、頭部加速度の垂直成分(図2A−Cにおいて比較的明るい方のトレース)を使用して歩行分析を行う。このような加速度信号は、歩行又は走行中に、足が地面にインパクトを与える際、背骨を伝わって上がってくる衝撃波の代表例である。この衝撃波は、被験者の歩行パターンに関する多くの情報があることがわかった。
【0014】
例えば、健康な被験者においては、健康な被験者の加速度トレースを示す図2Aにみられるように、歩行パターンは、反復性が高い傾向となる。それに比べ、くるぶしを怪我した後の被験者の加速度トレースを示す図2Bで、怪我した後、特に垂直方向の加速度(明るい方のトレース)に関して、加速度トレースのばらつきがよりいっそう大きくなることがわかる。これは、被験者が、怪我した足で歩く際、例えば、かかとが先ではなくつま先の方が早く着地して、通常の歩行のようにこれに足の回転が続くといった、保護行動に関連していると考えられる。
【0015】
図2Cは、回復後の同一被験者からの加速度トレースを示し、規則的な特に垂直方向の加速度の反復的性質が記憶されていることは明らかである。
【0016】
上記の発見に基づいて、怪我した者の歩行パターンの代表例の検出(もしくは、一般的に、基準歩行パターンと異なる歩行パターンの検出)は、上述した加速度信号の適宜な分析によって得られる。一実施例において、垂直方向の加速度信号は、例えば、1024サンプルのスライディングウィンドウを有する高速フーリエ変換(FFT)アルゴリズムを用いて計算されたフーリエ変換を用いて分析される。次いで、異常な歩行パターンを、周波数の内容から検出可能である。
【0017】
図3A−Cは、図2A−Cの各々の加速度の測定値のFFTを示す。このy軸は、任意の単位であり、x軸は、単位が(25/512)Hz、すなわち約0.05Hzである。(y軸に沿ってプロットされた)FFTのエネルギの絶対値は、背骨から頭部にある加速度センサの位置まで伝わる衝撃波に関する加速度センサの正確な方向付け(オリエンテーション)、ならびに、全体的な歩行ペース、などの要因に依存する一方、プロットは、様々な周波数でFFTのエネルギの相対的大きさにおける、所定の歩行パターンの情報を含むのは明確である。FFTピークの相対的大きさが変化するのは明らかである。
【0018】
図3Aからわかるように、健康な被験者の加速度信号のFFTは、複数の減衰する高調波(ハーモニクス)を示す。一方、足を負傷した被験者のデータ(図3B)は、スペクトラムに、図3Aの明確に画定されたピークがなく、不均一な高調波が異常な歩行を示唆しているより広域の周波数成分を示す。図3Cは、回復後の同一被験者の加速度データのFFTを示しており、怪我する前のパターンがかなりの程度まで、回復したことがわかる。
【0019】
要約すると、歩行パターンを示すシグニチャは、加速度データから得られ、例えば、上記データによって示されるように、例えば、正常又は怪我したなど、歩行パターンを分類するのに使用される。上記の例においては、シグニチャはフーリエ変換である。シグニチャを計算する他の方法も同等であると考えられると理解されたい。例えば、ウェーブレット(wavelet)分析を用いて、データをウェーブレット変換(例えば、第1のオーダのDebaubechies)にかけ、シグニチャを計算可能であり、次いで、例えばSOMなどの分類器への入力として変換データを使用する。例えば、ウェーブレット変換の一次の高周波数の成分のみを分類器の入力として使用することができる。
【0020】
上記のようにシグニチャが得られると、歩行パターンにおける変化を検出するために自動的に分析がなされる。一方、歩行パターンが、所望の歩行パターンに近いかどうか検出することが望ましい。これは、例えば、トレーニングしている運動選手には有効である。この目的のために、例えば、運動選手などの被験者の加速度データから得られたシグニチャを得て、所望する動作を示す基準線データから得られた基準線シグニチャと比較する。次いで、トレーニングしている運動選手を支援するために得られた情報を使用し、例えば、長距離ランナの足の動きを調整するように支援することができる。
【0021】
一方、所定時間に亘って被験者内の変化を検出するために上記分析を使用することが望ましい。例えば、これは、広範囲の健康モニタリングにおいて有利であり、ここでは患者の歩行パターンを観察して怪我を示す歩行パターンに変化が検出された場合、医師又は健康管理の専門家に知らせるようにする。
【0022】
例えば、シグニチャにおける変化を検出するのに使用できる1つの測定は、シグニチャのエントロピを計算することがである。図3A−3Cを参照して述べたFFTの例においては、怪我したデータを示すエントロピ値は、通常のエントロピ値よりもはるかに大きい。
【0023】
シグニチャを比較して分類する1つの方法は、自己組織化マップ(SOM)用の入力としてこれらを使用することである。例えば、4つの一次高調波でのFFTのエネルギは、SOMへの入力ベクタとして使用できる。当業者であれば、データの分析及び分類用にSOMを使用することに気付くし、上記のようにシグニチャを分析するためにSOMを実装することは、当業者が通常に想達する範囲内である。すなわち、SOMは、SOMが安定するのに十分に長いトレーニング期間中に、上述したシグニチャから得られる入力ベクタを用いて表される。続いて、SOMの出力ユニットを活性化(アクチベーション)して、データを分類するために使用できる。例えば、トレーニングされたSOMにおいて、図2及び図3の被験者のデータは、怪我する前の第1サブセットのユニット、及び怪我した後の第2サブセットのユニットを活性化させることがわかった。
【0024】
上記の実施例においては、スライディングウィンドウFFTを用いてシグニチャを計算する。得られたシグニチャが、時変シグニチャであり、一ユニット以上のSOMが、所定時間に亘って活性化される。このシグニチャから得られる入力ベクタの時変性を分析したい場合は、参照することで本願に組み込まれる同時係属中の特許出願(WO2006/097734)に記載されている、代替の分析技術を使用することができる。この出願は、空間−時間的SOM(STSOM)と呼ぶ、SOM装置について開示しており、この装置において、第1層のSOMの出力の時間的ばらつきの測定に依存して、第2層のSOMを、もとの入力ベクタ中の時間的ばらつき特性を測定する変換された入力ベクタに送る。従来のSOMにおいては、第2の時間層SOMの出力を使用して、時間的構造に基づいてデータを分類することができる。
【0025】
簡単には、STSOMを用いてデータの記録を分類するステップは:
(a)時間ウィンドウ内のセンサ信号の時間的ばらつきを示す選択変数を決定するステップ;
(b)選択変数用の選択基準を決定するステップ;
(c)選択基準に対して選択変数の値を比較して、自己組織化マップに対して入力表示(representation)を選択するステップと、選択された入力表示に従って、時間ウィンドウ内のデータサンプルから入力を抽出するステップ;
(d)この入力を、選択された入力表示に対応する自己組織化中のマップに与え、自己組織化マップの勝者(ウィニング)出力ユニットに基づいてデータ記録を分類するステップ;とを含む。
【0026】
例えば、選択変数は、SOMの出力ユニットの時間的ばらつきに基づいて計算することができる。
【0027】
STSOMをトレーニングするステップは、
(a)時間ウィンドウ内の動的データ記録の特性の時間的ばらつきを表す、抽出した表示を計算すること;
(b)第2の自己組織化マップ用の入力として、得られた表示を用いるステップ;
(c)トレーニングアルゴリズムに従って自己組織化マップのパラメータを更新するステップ;
を具えることができる。
【0028】
このようなトレーニングは、時間的ばらつきの測定に基づいてトレーニングデータを、静的及び動的記録に分割する予備ステップを具える。さらに、STSOMのトレーニングの詳細、及び、分類にSTSOMを用いることは、上述した公開された特許出願に開示されている。
【0029】
上述された実施例のセンサ信号を、ヒトの姿勢分析及び活性認証用に使用してもよい。さらに、上記のシステムは、センシング装置の身体センサネットワークの統合部分であってもよい。さらに、このシステムは、センシング装置の身体センサネットワークの一部であってもよく、ここでは上述の身体中に配置された複数のセンシング装置が、ワイヤレス伝達リンクによって、リンクしている。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】図1のA−Cは、被験者の頭部に対して加速度センサを付着させる様々な方法を概略的に示す。
【図2A】図2Aは、怪我する前の被験者に本発明の実施例を用いて得た加速度データを示す。
【図2B】図2Bは、被験者の怪我する前に本発明の実施例を用いて得た加速度データを示す。
【図2C】図2Cは、被験者が回復した後、本発明の実施例を用いて得た加速度データを示す。
【図3】図3のA−Cは、フーリエ変換に対応するプロットを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
歩行分析される被験者の頭部加速度を示す信号を測定するステップと、
測定された信号に変換を適用し、前記被験者の歩行を示す歩行シグニチャを計算するステップと、
を具える歩行分析方法。
【請求項2】
前記歩行シグニチャと基準線シグニチャとを比較して、これらの間の差異を検出するステップを具えることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
1つ又はそれ以上のシグニチャを所定時間に亘って記憶し、前記基準線シグニチャは、所定時間に亘り歩行シグニチャにおける変化を観察するための1つ又はそれ以上の記憶されたシグニチャを表すことを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記測定されたシグニチャは、被験者が直立位置にある場合、実質的に垂直方向における加速度を示すことを特徴とする請求項1、2又は3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記変換がフーリエ変換であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記シグニチャが、n個の一次高調波のエネルギ値を含むことを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記変換が、ウェーブレット変換であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記シグニチャが、自己組織化マップ又は空間−時間の自己組織化マップに対する入力として使用されることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
シグニチャのエントロピを計算するステップと、計算されたエントロピを用いてシグニチャを比較するステップと、を具えることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
ヒトの頭部に固定するように構成したセンサハウジングに設けられた加速度センサと:
センサに動作可能に接続され、かつ頭部加速度を示す出力を受信するように動作可能で、変換を適用して歩行パターンを示す歩行シグニチャを計算する、分析器と、
を具えることを特徴とする歩行分析システム。
【請求項11】
基準線シグニチャとシグニチャとの差を検出するために、シグニチャを基準線シグニチャと比較するように動作可能なコンパレータを具えることを特徴とする請求項10に記載のシステム。
【請求項12】
前記コンパレータを用いて、所定時間に亘りシグニチャの変化を観察できるように、前記基準が1つ又はそれ以上の記憶されたシグニチャを示す1つ又はそれ以上のシグニチャを記憶するメモリを具えることを特徴とする請求項11に記載のシステム。
【請求項13】
前記ハウジングが、装着されるように構成され、前記被験者が直立位置にある場合、前記出力が実質的に垂直方向の頭部加速度を示すことを特徴とする請求項10乃至12のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項14】
前記ハウジング内に含まれることを特徴とする請求項10乃至13のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項15】
前記ハウジングが、イヤプラグ、耳の後側に装着するクリップ、イヤリング、イヤクリップ、補聴器または一対の眼鏡を具えることを特徴とする請求項10乃至14のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項16】
前記ハウジングが、ヘッドバンド、ハットまたは他の帽子に固定されていることを特徴とする請求項10乃至15のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項17】
前記変換が、フーリエ変換であることを特徴とする請求項10乃至16のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項18】
前記シグニチャが、n個の一次高調波のエネルギ値を含むことを特徴とする請求項17に記載のシステム。
【請求項19】
前記変換が、ウェーブレット分析であることを特徴とする請求項10乃至16のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項20】
入力としてシグニチャを受信するよう動作可能な、自己組織化マップ又は空間−時間自己組織化マップを具えるさらなる分析器を具える請求項10乃至19のいずれか1項に記載のシステム。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図3】
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【公表番号】特表2009−525107(P2009−525107A)
【公表日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−552886(P2008−552886)
【出願日】平成19年2月2日(2007.2.2)
【国際出願番号】PCT/GB2007/000358
【国際公開番号】WO2007/088374
【国際公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【出願人】(508077506)インペリアル イノベーションズ リミテッド (7)
【Fターム(参考)】