説明

歩行型草刈機

【課題】走行機体の走行方向が切換えられた場合にも車輪に動力を伝えるチェーンの弛みを取り除く歩行型草刈機を構成する。
【解決手段】出力軸8に備えた出力スプロケット50と、前車輪に動力を伝える前部入力スプロケット52と、後車輪に動力を伝える後部入力スプロケット54とに主駆動チェーン59を巻回している。前部テンションスプロケット56を有した前部テンションアーム55と、後部テンションスプロケット58を有した後部テンションアーム57とを出力軸8に遊転支承している。そして、前部テンションスプロケット56と後部テンションスプロケット58とを主駆動チェーン59に接触させる位置に配置し、前部テンションアーム55と後部テンションアーム57を引き寄せるスプリング60を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前車輪と後車輪とを有したハウジングが備えられ、原動部からの駆動力でハウジング内の刈刃を駆動し、前記原動部からの駆動力を走行伝動機構により前記前車輪及び後車輪に伝える歩行型草刈機に関し、詳しくは、走行駆動系の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
上記のように構成された歩行型草刈機として特許文献1には、歩行型草刈機において、エンジンの駆動力を前後位置の走行車輪に伝える伝動系にチェーンを備え、このチェーンに対してテンションを作用させる構成が記載されている。
【0003】
具体的に説明すると特許文献1には、エンジンの駆動力が伝えられる走行用出力軸のスプロケットと、車輪側のスプロケットとに亘ってチェーンが巻回され、このチェーンに張力を作用させるタイトナーと、一対のテンションローラとが備えられ、一対のテンションローラを支持するアーム同士に亘って単一のバネを備えている。この構成では、バネの付勢力により一対のテンションローラをチェーンに押し付けるように変位させることで張力の作用によってチェーンの弛みを抑制できるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005‐138718号公報(段落番号〔0039〕、図10)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
チェーン伝動系では、スプロケットに巻回するチェーンのうち、張力が低い領域においてテンションローラやテンションスプロケット等を、他方の領域(張力が強い領域)より大きく変位させることで弛みを取る構成が採用されている。
【0006】
特許文献1に記載されるように、前後の車輪に対してチェーンを介して駆動力を伝える伝動系を備えている歩行型草刈機で機体の走行方向を前進と後進とに切換を行えるものでは、チェーンに強く作用する張力の領域が切り換わるものである。特に、特許文献1に記載されるように、前車輪用のスプロケットと、後車輪用のスプロケットと、駆動源となるスプロケットとに亘って単一の無端チェーンが巻回するものでは、機体の走行方向を切り換えた場合にチェーンの回動方向が切り換わり、必然的にチェーンに張力が作用する領域も変化する。
【0007】
また、特許文献1に記載された伝動系では、2つのテンションローラを備えているため、走行機体の前進時と後進時とでは、2つのテンションローラのうち張力が低下する領域のものが張り出す方向に変位する。しかしながら、特許文献1ではテンションローラを有したアームを2つ備え、夫々のアームを異なる軸芯周りで揺動自在に支持する構造であるため、構造の複雑化を招きやすく改善の余地がある。
【0008】
本発明の目的は、走行機体の走行方向が切換えられた場合にも車輪に動力を伝えるチェーンの弛みを取り除く歩行型草刈機を合理的に構成する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の特徴は、前車輪と後車輪とを有したハウジングが備えられ、原動部からの駆動力でハウジング内の刈刃を駆動し、前記原動部からの駆動力を走行伝動機構により前記前車輪及び後車輪に伝える歩行型草刈機であって、
前記原動部の駆動力を正転駆動力又は逆転駆動力に変換して出力軸に伝える前後進切換機構を備え、
前記走行伝動機構が、前記出力軸に備えた出力スプロケットと、前記前車輪に動力を伝える前部入力スプロケットと、前記後車輪に動力を伝える後部入力スプロケットと、これらに巻回する無端チェーンとを備えると共に、
前記無端チェーンのうち、前記出力スプロケットから前記前部入力スプロケットに亘る領域に張力を作用させる前部テンション部材と、前記出力スプロケットから前記後部入力スプロケットに亘る領域に張力を作用させる後部テンション部材とを備え、
前記前部テンション部材が前記出力軸の出力軸芯を中心にして揺動自在な前部テンションアームに支承され、前記後部テンション部材が前記出力軸の出力軸芯を中心にして揺動自在な後部テンションアームに支承され、前記前部テンション部材と前記後部テンション部材とから前記無端チェーンに張力を作用させるように、前記前部テンションアームと前記後部テンションアームとに亘って付勢手段を備えている点にある。
【0010】
この構成によると、走行機体を前進させる場合と後進させる場合との何れかの場合には、出力スプロケットを基準にして前部入力スプロケットに至る無端チェーンの領域、又は、出力スプロケットを基準にして後部入力スプロケットに至る無端チェーンの領域の一方の張力が増大し、他方の領域の張力が低下する。また、前部テンションアームと後部テンションアームとが出力軸芯を中心にして揺動自在に支持され、夫々の間に付勢手段の付勢力が作用するため、前部テンション部材と後部テンション部材とのうち、張力が高まる領域に対応するものの張り出しが抑制されると同時に、張力が低下した領域に対応するものの張り出しが許され無端チェーンの弛みが取り除かれる。特に、前部テンションアームと後部テンションアームとが出力軸芯を中心にして揺動自在に支持されているので、複数の支軸を必要としないだけではなく、出力軸をテンションアームの支軸に兼用できる。
従って、走行機体の走行方向が切換えられた場合にも車輪に動力を伝えるチェーンの弛みを取り除く歩行型草刈機が簡素に構成された。
【0011】
本発明は、前記出力スプロケットを前記出力軸芯の方向から挟む位置に、前記前部テンションアームのボス部と、前記後部テンションアームのボス部とが遊転支承されても良い。
【0012】
これによると、出力スプロケットに巻回する無端チェーンに対して近接する位置に前部テンションアームと後部テンションアームとを配置することが可能になる。特に、この構成では前部テンションアームと後部テンションアームとに同じ形状の部材を用いることも可能となり、部品の兼用化も実現する。
【0013】
本発明は、前記出力スプロケットと、前記前部入力スプロケットと、前記後部入力スプロケットと、これらに巻回する前記無端チェーンと、前記前部テンション部材と、前記後部テンション部材とが密封構造の主チェーンケースに収容され、
前記前部入力スプロケットからの駆動力を前記前車輪に伝えるチェーン式の伝動機構が密封構造の前部チェーンケースに収容され、前記後部入力スプロケットからの駆動力を前記後車輪に伝えるチェーン式の伝動機構が密封構造の後部チェーンケースに収容されても良い。
【0014】
これによると、原動部の駆動力を主チェーンケースと前部チェーンケースと後部チェーンケースとを介して前後車輪に伝えることが可能となる。夫々のチェーンケースが密封構造であるため、潤滑油を封入して円滑な伝動を継続する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】歩行型草刈機の全体側面図である。
【図2】歩行型草刈機の全体平面図である。
【図3】前進時における伝動ケースの傾斜姿勢を示す側面図である。
【図4】後進時における伝動ケースの傾斜姿勢を示す側面図である。
【図5】ハウジングとハンドル支持部との縦断面図である。
【図6】伝動構造を模式的に示す図である。
【図7】ハウジングの構成を示す斜視図である。
【図8】規制部材の第3開口幅に規制ピンを導入して機体を前進させた状態の刈高さ調節機構の断面図である。
【図9】規制部材の第3開口幅に規制ピンを導入して機体を後進させた状態の刈高さ調節機構の断面図である。
【図10】規制部材の第2開口幅に規制ピンを導入した状態を示す断面図である。
【図11】規制部材の第1開口幅に規制ピンを導入した状態を示す断面図である。
【図12】刈高さ調節機構の平面図である。
【図13】刈高さ調節機構の分解斜視図である。
【図14】車輪の支持構造を示す側面図である。
【図15】車輪の支持構造を示す断面図である。
【図16】主駆動チェーンを有した駆動機構を示す断面図である。
【図17】切換レバーと前後進切換レバーとの連係を示す図である。
【図18】ロックボルトによってロックされた切換レバーと前後進切換レバーとの連係を示す図である。
【図19】機体の前進時と停止時と後進時とにおけるテンションアームの姿勢を示す図である。
【図20】ディスクと刈刃とを示す平面図である。
【図21】ガイド壁を備えたハウジングの構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
〔基本構成〕
図1〜図5に示すように、走行機体を構成するハウジングAの前端位置に前車輪1を備え、後端位置に後車輪2を備えると共に、ハウジングAの側部位置のハンドル支持部Bに操縦ハンドル3の基端部を支持し、原動部としてのエンジン4を上部に備えた伝動ケース5をハウジングAに対して上下に貫通する状態で備え、伝動ケース5の下端の駆動軸6からの駆動力により縦向きの駆動軸芯Y周りで回転する複数の刈刃7を有する刈取機構Cをハウジング内に備え、また、伝動ケース5からの駆動力を前車輪1及び後車輪2に伝える走行伝動機構Dを備えて歩行型草刈機が構成されている。
【0017】
図1〜図5及び図7に示すように、ハウジングAは、上側に滑らかに突出するように湾曲する上壁を有する天板20Aと、天板20Aの両側部において縦壁状の側板20Bと、天板20Aの前後端部において縦壁状となる端部板20Cを一体的に形成した構造のフレーム20を有している。このフレーム20の天板20Aの中央位置には開口Hが穿設され、この開口Hを上下方向に挿通する位置関係で、かつ、左右向き水平姿勢の揺動軸芯X周りで揺動自在に伝動ケース5がハウジングAに支持されている。前述した操縦ハンドル3のハンドル支持部BはハウジングAの一方の側板20Bから外方に突出する形態で形成されている。特に、伝動ケース5は、駆動軸芯Yが地面に対して垂直となる中立姿勢を基準にして、駆動軸芯Yの上端が走行機体の前側の方向と、後側の方向とに等しく揺動できるように揺動領域が設定されている。
【0018】
原動部としてのエンジン4は、リコイル式のスタータ4Aと、燃料タンク4Bとを備えている。図6に示すように、伝動ケース5の上部位置には、主クラッチMCを備え、この主クラッチMCからの駆動力を駆動力下端の駆動軸6に伝える刈取用の伝動系に刈取クラッチCCを介装している。また、主クラッチMCからの駆動力を前車輪1及び後車輪2に伝える走行用の伝動系には、駆動速度(単位時間あたりの回転数)を高低2段に切り換える速度切換機構SMと、この速度切換機構SMからの駆動力を前進のための正転駆動力、又は、後進のための逆転駆動力に変換して出力軸8に伝える前後進切換機構FRMとを備えている。
【0019】
刈取クラッチCCは、エンジン4からの駆動力が伝えられる駆動回転体101に対し、駆動軸6にスプライン嵌合するクラッチ部材102を駆動軸芯Yに沿ってシフトすることにより伝動状態と動力遮断状態とを現出するドッグクラッチ式に構成されている。
【0020】
速度切換機構SMは、エンジン4からの駆動力がウオームギヤ機構Wによって減速されて伝えられる減速軸103と動力取出軸104とが平行姿勢で配置されると共に、減速軸103に遊転支承した減速側の第1ギヤ105と、これに噛合することで動力取出軸104に動力を伝える第2ギヤ106と、減速軸103に遊転支承した増速側の第3ギヤ107と、これに噛合することで動力取出軸104に動力を伝える第4ギヤ108とを備え、更に、減速軸103にスプライン嵌合し、シフト作動により第1ギヤ105又は第3ギヤ107の何れかに噛合するシフト部材109を備えている。
【0021】
前後進切換機構FRMは、動力取出軸104と一体回転するベベルギヤ110と、このベベルギヤ110に噛合するように出力軸8に遊転支承した一対の切換ギヤ111と、出力軸8にスプライン嵌合し、シフト作動により一対の切換ギヤ111の何れかに噛合する切換部材112とを備えている。
【0022】
前述した出力軸8が、揺動軸芯Xと同軸芯上で、かつ、前述したハンドル支持部Bと反対側に突出する形態で配置されている。走行伝動機構Dとして、出力軸8からの駆動力が伝えられる主チェーンケース10と、この主チェーンケース10の前端側からの駆動力を前車輪1に伝える前部チェーンケース11と、主チェーンケース10の後端部からの駆動力を後車輪2に伝える後部チェーンケース12とを備えている。
【0023】
操縦ハンドル3は、その基端部がハンドル支持部Bに対し縦向き姿勢の切換軸芯Pを中心として回動自在に支持されると共に、横向きの横軸芯Qを中心として姿勢変更自在に支持され、延出端にループ状のグリップ3Gが備えられている。また、基端部には、切換軸芯Pを中心とした回動姿勢を保持する第1ロック機構L1と、横軸芯Qを中心とした揺動姿勢を保持する第2ロック機構L2とを備えている。
【0024】
操縦ハンドル3の延出端のグリップ3Gの近傍には主クラッチレバー13と、前述した前後進切換機構FRMを変速操作する前後進切換レバー14と、第1ロック機構L1の解除操作を行う第1ロック解除レバー15と、第2ロック機構L2の解除操作を行う第2ロック解除レバー16とを備えている。尚、エンジン4の回転速度を設定するスロットル操作具と、速度切換機構SMを操作する変速操作具と、刈取クラッチCCを操作するクラッチ操作具は図面に示していない。
【0025】
主クラッチレバー13は、横向き姿勢の軸芯周りで揺動自在に支持されると共に、切り方向にバネ付勢されている。このような構成から、作業者が主クラッチレバー13をバネの付勢力に抗して握る操作を行うことにより主クラッチMCが入り状態に達し、刈刃7と前車輪1及び後車輪2に駆動力が伝えられる。また、作業者が主クラッチレバー13から手を離す等の動作により主クラッチMCがバネの付勢力で切り位置に達し、刈刃7と走行とに対する動力の伝達が遮断され作業が停止する。
【0026】
また、前後進切換レバー14は、縦向き姿勢の軸芯周りでの操作で前進位置Fと中立位置Nと後進位置Rとに切換自在に構成され、作業者の操作により走行方向の切り換えを可能にする。第1ロック解除レバー15と第2ロック解除レバー16とは、ロック状態を維持する方向にバネ付勢され、作業者の握り操作によりロック解除を行い操縦ハンドル3の姿勢の調節が可能となる。
【0027】
〔刈取作業の概要〕
このような構成から歩行型草刈機で草を刈り取る作業を行う際には、切換軸芯Pを中心として回動量と、横軸芯Qを中心とした揺動量との設定により操縦ハンドル3の延出方向と延出端の高さとを作業に適した位置に設定できる。そして、エンジン4を始動し、走行速度と走行方向を設定して主クラッチMCと刈取クラッチCCとを入り操作して走行を開始することで、エンジン4からの駆動力が前車輪1と後車輪2とに伝えられると同時に、刈刃7に伝えられる。これにより走行に伴い刈取機構Cの刈刃7によって草の刈り取りが行われる。また、このような刈り取り時には出力軸8の回転に伴う反作用(後述する)により、図3又は図4に示すように揺動軸芯Xを中心として伝動ケース5が揺動し、この傾斜量が刈高さ調節機構Eによって規制された値に達する。つまり、刈刃7の先端の軌跡と地面との相対距離が刈高さ調節機構Eによって設定され、刈高さの調節が可能となる。このような形態での刈取を実現するため歩行型草刈機の構成の詳細を以下に説明する。
【0028】
〔車輪〕
ハウジングAを構成するフレーム20の左右の側板20Bの前端位置にブラケット21Aを介して丸パイプ状の前車軸フレーム21を連結し、この前車軸フレーム21に対して前車輪1に連結する前車軸1Aがボールベアリング等の軸受により回転自在に支持されている。これと同様に左右の側板20Bの後端位置にブラケット22Aを介して丸パイプ状の後車軸フレーム22を連結し、この後車軸フレーム22に対して後車輪2に連結する後車軸2Aがボールベアリング等の軸受により回転自在に支持されている。
【0029】
図14及び図15に示すように、前車輪1と後車輪2とも、前車軸1A又は後車軸2Aに外嵌する筒状のボス軸23に対して、車輪状のホイル体24を溶接等により固設し、このホイル体24の外周部分に金属板の複数のラグ板25をスポット溶接等により備え、ボス軸23と車軸(前車軸1A又は後車軸2A)とに亘って固定ピン26を挿通することで、車軸(前車軸1A又は後車軸2A)と車輪(前車輪1又は後車輪2)とを一体回転させる。尚、ホイル体24は金属板のプレス加工によりホイル状に成形された一対のディスク状部材の外周のフランジ部分をスポット溶接等により連結することで、一対のディスク状部材の中間に空間を形成した構造を有している。
【0030】
特に、前車軸1Aと後車軸2Aとのうちボス軸23が外嵌する部位の外端部を小径化してグリス空間Gを形成してグリスを充填しており、このグリス空間Gを挟む位置にOリング27を備えている。このような構造から長期に亘る使用によって外部に錆が発生する状況であっても、一対のOリング27と、これに挟まれる位置のグリス空間Gの部位とが前車軸1Aと後車軸2Aとのボス軸23との間への錆の侵入を阻止することになり、錆による固着を阻止して、ボス軸23と一体的に前車軸1A又は後車軸2Aを取り外せるように構成している。
【0031】
また、前車輪1又は後車輪2の外周の上方を覆うフェンダー28を、ハウジングAに備えても良い。このようにフェンダー28を備えることで、前車輪1又は後車輪2の部位からの塵埃の発生を抑制し、前車輪1又は後車輪2に対する草の巻き付きを抑制できる。
【0032】
〔ハウジング〕
ハウジングAは、図3、図5、図7に示すように、フレーム20の内部の中央位置において開口Hより下方側で両側の側板20Bに貫通する状態で夫々の側板20Bに連結する丸パイプ状の一対の横フレーム30が横長姿勢で平行姿勢で備えられている。一対の横フレーム30のうちハンドル支持部Bに近い側で開口Hに露出する部位に対して上方に突出する形状の第1ブラケット31を連結し、フレーム20の天板20Aの上面のうち主チェーンケース10に近い側に対して上方に突出する形状の第2ブラケット32を連結している。また、第1ブラケット31の筒状軸受31Aの軸芯と、第2ブラケット32に支持されるボールベアリング32Aの軸芯とを前記揺動軸芯Xと一致させている。
【0033】
そして、第1ブラケット31の筒状軸受31Aに対して伝動ケース5に備えた軸体33を回転自在に挿通し、第2ブラケット32のボールベアリング32Aに対して伝動ケース5の出力軸8を回転自在に支持している。これにより、ハウジングAに対して伝動ケース5が揺動軸芯Xを中心として揺動自在に支持される。
【0034】
ハウジングAは、鋼板をプレス加工することで天板20Aと、この天板20Aの左右端部を下方に折り曲げて形成した側板20Bと、この天板20Aの前後端部を下方に折り曲げて形成して端部板20Cを一体的に形成した構造のフレーム20として構成されている。このため、フレーム自体が高い強度を有する。そして、このフレーム20の中央部を横方向に貫通する一対の横フレーム30を連結し、更に、このフレーム20の前後両端に前車軸フレーム21、後車軸フレーム22を固設しているので、ハウジングAの強度を一層高め、外力が作用した際にも変形や歪みを招かない構造を現出している。
【0035】
特に、次に説明するように、一対の横フレーム30の端部を側板20Bより外方に突出し、この突出部位にハンドル支持部Bを形成することにより、ハウジングAに対して特別にフレーム類を付加しない構造でありながら、強固なハンドル支持部Bを作り出している。尚、この歩行型草刈機では、ハウジングをFRP等の樹脂によって構成しても良く、横フレーム30を3つ以上備えても良く、横フレーム30として丸パイプ材以外に、例えば、角パイプ材やアングル材を採用しても良い。
【0036】
〔ハウジング:ハンドル支持部〕
横フレーム30のうち走行伝動機構Dと反対側(出力軸8と反対側)の端部を側板20Bより突出させ、この突出部位にハンドル支持部Bが形成されている。このハンドル支持部Bは、切換軸芯Pと同軸芯で配置される縦向き姿勢の筒状体35と、この筒状体35の上端部に備えた水平姿勢の支持プレート36と、筒状体35に対して回転自在に挿入された回転軸37と、支持プレート36の上面に摺接して移動可能となるように回転軸37に連結固定された回転プレート38と、回転軸37の上端において横軸芯Qを中心として揺動自在に支持され操縦ハンドル3に連結する揺動フレーム39と、横軸芯Qを中心とする円弧面を有し回転プレート38に支持されたロックフレーム40とを備えている。
【0037】
前述した第1ロック機構L1は、支持プレート36に対して切換軸芯Pを中心とする円弧状の領域上に穿設された多数の係合孔36Aと、これらの係合孔36Aに係入する方向にバネ付勢され回転プレート38に支持された第1ロックピン41と、前述した第1ロック解除レバー15の操作力で第1ロックピン41を係合孔36Aから引き出す方向に操作する第1操作ワイヤW1とを備えている。この構成から第1ロック解除レバー15を作業者が握り操作することにより、切換軸芯Pを中心とした操縦ハンドル3の回動姿勢を任意に設定することが可能となり、握り操作を解除することで、第1ロックピン41が係合孔36Aに係入し、切換軸芯Pを中心とした操縦ハンドル3の姿勢が維持される。
【0038】
前述した第2ロック機構L2は、ロックフレーム40に穿設された多数の係合孔40Aと、これらの係合孔40Aに係入する方向にバネ付勢され揺動フレーム39に支持された第2ロックピン42と、前述した第2ロック解除レバー16の操作力で第2ロックピン42に対して係合孔40Aから引き出す方向に作用させる第2操作ワイヤW2とを備えている。この構成から第2ロック解除レバー16を作業者が握り操作することにより、横軸芯Qを中心とした操縦ハンドル3の揺動姿勢を任意に設定することが可能となり、握り操作を解除することで、第2ロックピン42が係合孔40Aに係入し、横軸芯Qを中心とした操縦ハンドル3の姿勢が維持される。
【0039】
特に、ハウジングAの一方側(右側)に主チェーンケース10と前部チェーンケース11と後部チェーンケース12とで成る走行伝動機構Dが配置され、ハウジングAの他方側(左側)に操縦ハンドル3が配置されることから、重量物を左右に対称的に配置することになり、走行機体の左右方向での重量バランスを良好にしている。
【0040】
〔ハウジング:下部構造等〕
ハウジングAの下部位置で伝動ケース5の直下位置で一対の横フレーム30の下面に対して左右一対の補助フレーム43を備え、この一対の補助フレーム43の下面には下側に開放する椀状の巻き付き防止体44を備え、この巻き付き防止体44の中央位置の中央開口44Aに伝動ケース5の下端部を挿通させている。また、刈刃7の先端回転軌跡の外方に位置を設定して防塵カバー45を左右の側板20Bに備え、ハウジングAの前端と後端とには保護ロッド46を備えている。
【0041】
この歩行型草刈機では、操縦ハンドル3がハウジングAの一方の側部に配置されていることから、この側部の近傍に作業者が位置することも多く、前述した左右の防塵カバー45のうち、操縦ハンドル3が配置された側(左側)のものの下端位置と地面との距離を他方側(右側)のものより短くすることで、作業者に対する塵埃の飛散を抑制できるように構成しても良い。
【0042】
〔走行伝動機構〕
前述したように走行伝動機構Dは、主チェーンケース10と前部チェーンケース11と後部チェーンケース12とに内蔵されたチェーン式の伝動機構(後述する主駆動チェーン59と、伝動チェーン63とで構成されている)を備えている。図6、図16、図19に示すように、主チェーンケース10の内部には、出力軸8と一体回転する出力スプロケット50と、前端側の前部入力軸51と一体回転する前部入力スプロケット52と、後端側の後部入力軸53と一体回転する後部入力スプロケット54とを備え、これらに亘って無端チェーンとしての主駆動チェーン59が巻回されている。
【0043】
この走行伝動機構Dでは、主チェーンケース10はアルミニウム合金の成形物をボルト等で連結することで主駆動チェーン59が収容される密封空間を形成しており、この密封空間にオイルやグリス等の潤滑油が封入されている。また、前部チェーンケース11と後部チェーンケース12とは金属板のプレス成形物の外周を溶接固定することで伝動チェーン63が収容される密封空間を形成しており、この密封空間にオイルやグリスが封入されている。更に、この前部チェーンケース11と後部チェーンケース12とは共通した構造のものを用いることにより、部品点数の低減を実現している。
【0044】
出力軸8にボス部55Aが遊転支承される前部テンションアーム55と、出力軸8にボス部57Aが遊転支承される後部テンションアーム57とが、出力スプロケット50を揺動軸芯X(出力軸8の出力軸芯と一致する)に沿う方向で出力スプロケット50を挟む位置に配置されている。出力スプロケット50と前部入力スプロケット52とに亘る領域の主駆動チェーン59に張力を作用させる前部テンション部材としての前部テンションスプロケット56が前部テンションアーム55の延出端に遊転支承されている。また、出力スプロケット50と後部入力スプロケット54とに亘る領域の主駆動チェーン59に張力を作用させる後部テンション部材としての後部テンションスプロケット58が後部テンションアーム57の延出端に遊転支承されている。
【0045】
前部テンションアーム55と後部テンションアーム57との延出端同士を引き寄せる方向に付勢力を作用させる付勢手段としてスプリング60が備えられている。このスプリング60を備えることにより、前部テンションスプロケット56と後部テンションスプロケット58とは揺動軸芯Xを中心にした揺動により夫々が近接する方向に付勢力が作用する。尚、前部テンションアーム55と後部テンションアーム57とは同形状のものを用いることで兼用化が図れ、コストの低減を実現している。この走行伝動機構Dでは前部テンションスプロケット56、後部テンションスプロケット58に代えて、テンションローラを用いても良い。
【0046】
前部チェーンケース11の一方の端部に前述した前部入力軸51が貫通し、他方の端部に前車軸1Aが貫通している。この前部チェーンケース11の内部には前部入力軸51と一体回転する第1スプロケット61を備え、前車軸1Aと一体回転する第2スプロケット62を備え、これらに巻回する伝動チェーン63を備えている。後部チェーンケース12の一方の端部に後部入力軸53が貫通し、他方の端部に後車軸2Aが貫通しており、この後部チェーンケース12の内部には後部入力軸53と一体回転する第1スプロケット61を備え、後車軸2Aと一体回転する第2スプロケット62を備え、これらに巻回する伝動チェーン63を備えている。また、前車軸1Aと後車軸2Aとは、長さ方向の中央部位の一部が切削されることにより軽量化が図られている。
【0047】
このような構成から、走行機体の前進時にも後進時にも出力軸8からの駆動力が主チェーンケース10の伝動系に伝えられ、更に、前部チェーンケース11から前車輪1に伝えられると共に、後部チェーンケース12から後車輪2に伝えられる。更に、主チェーンケース10において図19に示す如く主駆動チェーン59と、前部入力スプロケット52と、後部入力スプロケット54との位置関係が設定されているものでは、走行が停止している際には、同図(b)に示すように、前部テンションスプロケット56と後部テンションスプロケット58とが等しい量だけ揺動して主駆動チェーン59に張力を作用させる。
【0048】
そして、走行機体の前進走行時には、出力スプロケット50を基準にして前部テンションスプロケット56と後部テンションスプロケット58との間のうち張力が上昇する領域のテンションスプロケット(同図(a)では後部テンションスプロケット58)が主駆動チェーン59の直線的な経路と接する位置まで移動すると同時に、張力が低下する領域のテンションスプロケット(同図では前部テンションスプロケット56)が主駆動チェーン59の弛みを取る位置まで移動する。
【0049】
これとは逆に後進時には、主駆動チェーン59のうち、出力スプロケット50を基準にして逆方向の領域の張力が上昇するため、同図(c)に示すように前部テンションスプロケット56と後部テンションスプロケット58の姿勢が変化し、主駆動チェーン59の弛みを取ることになる。これにより走行機体の前進と後進とを頻繁に行っても、前部テンションスプロケット56と後部テンションスプロケット58とが主駆動チェーン59から外れることなく、この主駆動チェーン59の張力が低下する領域の弛みを取り除くことが可能となり、この主駆動チェーン59の出力スプロケット50に巻回する長さを低下させず良好な伝動を実現する。尚、走行機体の走行が停止している状態では、同図(b)に示す如く、前部テンションスプロケット56と後部テンションスプロケット58との揺動量は等しくなる。
【0050】
〔刈取機構〕
刈取機構Cは、図3〜図5、図20に示すように、伝動ケース5の下端に突出する駆動軸6の下端のフランジ部6Aの下端に対して駆動軸芯Yと直交する姿勢で連結されたディスク65と、このディスク65の外周位置に縦向き姿勢のピン66を介して揺動自在に連結された刈刃7と、ディスク65の上面に備えた複数の起風板67と、前述した巻き付き防止体44とを備えている。
【0051】
ディスク65は、全体が円盤状で中央部が上方に膨出する連結部が形成されると共に、周囲を僅かに上方に折り曲げた構造を有している。連結部に駆動軸6のフランジ部6Aがボルト連結し、このディスク65の外周位置に対し周方向で等間隔(駆動軸芯Yを中心として90度の角度)で4つのピン66が上下に貫通して支持されている。
【0052】
刈刃7は、短冊状の金属板で構成され、連結部を挟んで対向する1組の刈刃7の基端をディスク65の下面側に揺動自在に支持し、連結部を挟んで対向する他方の1組の刈刃7の基端をピン66の上端側に揺動自在に支持している。また、下面側の刈刃7は先端側を下方に向けて僅かに折曲げ、上端側の刈刃7は先端側を上方に向けて僅かに折曲げている。これにより、ディスク65の周方向で4つの刈刃7がディスク65の下面側の低レベルと、ピン66の上端側の高レベルとに交互に配置されることになる。
【0053】
起風板67の上端縁を切り欠いた凹部67Aを形成することで、この凹部67Aに対して前述した巻き付き防止体44の下端縁が入り込む空間が確保されている。この起風板67は、ハウジングAに形成された開口Hを介してハウジングAの上方の外気(空気)を吸引し、このように吸引した空気をディスク65の上面に沿って円周方向に送り、ハウジングAの下端からハウジングAの外方に送り出す気流を作り出す機能を有している。このように作り出された気流がエンジン4の外面や伝動ケース5の外面に接触することにより、エンジン4と伝動ケース5の冷却を行い、伝動ケース5の内部のオイルの温度上昇を抑制する。
【0054】
特に冷却を効果的に行うために、天板20Aの開口Hに吸引される外気を、できるだけ伝動ケース5に接近した領域に流動させるように、図21に示すように、開口Hの外周から上方に向けて立ち上がる姿勢のガイド壁29を設けても良い。同図では開口Hの前部側と後部側とに備えたものを示しているが、このガイド壁29を両側部に備えても、開口Hの外周部の全周に亘って備えると一層効率的に冷却を行える。
【0055】
〔刈高さ調節機構〕
刈高さ調節機構Eは、図2に示すように、ハウジングAの上面でハウジングAの横幅方向での中央位置に配置され、この刈高さ調節機構Eから伝動ケース5の横幅方向での中央位置に対して規制力を作用させる。具体的な構成として、図8〜図13に示すように、刈高さ調節機構Eは、ハウジングAの上面でハウジングAの横幅方向での中央位置に固定された支持体71と、シャフト72と、規制部材73と、人為操作具としての調節レバー74と、コイルバネ75と、接当部材としての規制ピン76とを備えると共に、リンク体77を備えている。
【0056】
支持体71は、一対の側壁部71Aとレバーガイド壁71Bとを有すると共に、一対の側壁部71Aにはシャフト72が挿通する貫通孔71Cと、規制ピン76が挿通する長孔状のガイド孔71Dが形成され、レバーガイド壁71Bにはスリット状のレバーガイド71Eが形成されている。
【0057】
規制部材73は、支持体71の一対の側壁部71Aの内面に摺接する一対の側壁板73Aと、これに連なる端壁板73Bとを有すると共に、一対の側壁板73Aには規制領域としての規制開口73Cと、シャフト72が挿通する貫通孔73Dとが形成され、端壁板73Bにはレバー孔73Eが形成されている。規制開口73Cは図8〜図11に示す如く、複数の領域幅として最も狭い第1開口幅e1と、中間の第2開口幅e2と、最も広い第3開口幅e3との3種の開口幅が設定され、最も狭い第1開口幅e1では接当部材としての規制ピン76が密接する状態で嵌り込み、最も大きい第3開口幅e3では、規制ピン76が最も大きく変位でき、中間の第2開口幅e2では、最も大きい第3開口幅e3より小さく規制ピン76が変位できる。
【0058】
リンク体77の一方の端部には規制ピン76が挿通する孔部が形成され、他方の端部には伝動ケース5に備えたブラケット78と連結する連結ピン79が挿通する孔部が形成されている。尚、リンク体77はブラケット78を介して伝動ケース5の横幅方向での中央位置に連結する。
【0059】
刈高さ調節機構Eは、支持体71の内部に規制部材73を嵌め込み、レバー孔73Eとレバーガイド71Eとに挿通するように調節レバー74を配置し、貫通孔71C、73Dと、調節レバー74の基端と、コイルバネ75とにシャフト72を挿通させている。また、支持体71のガイド孔71Dと、規制部材73の規制開口73Cと、リンク体77の一方の孔部とに規制ピン76を挿通している。更に、リンク体77の他方の孔部と伝動ケース5のブラケット78とに亘って連結ピン79を挿通している。尚、コイルバネ75は、調節レバー74をレバーガイド71Eの3つの係合凹部の何れかに係合させる方向に付勢力を作用させる。
【0060】
このような構成から、調節レバー74の操作により規制開口73Cのうち最も狭い第1開口幅e1に規制ピン76を導入した場合には、調節レバー74がレバーガイド71Eの上端の凹部に係合し、図11に示すように駆動軸芯Yが地面に対して垂直となる中立姿勢に維持される。走行機体を走行させても伝動ケース5が揺動軸芯Xを中心として揺動することがなく刈取機構Cの姿勢が変化しないため刈り高さが最も高い値に維持される。
【0061】
また、調節レバー74の操作により規制開口73Cのうち開口幅の最も広い第3開口幅e3に規制ピン76を導入した場合には、調節レバー74がレバーガイド71Eの下端の凹部に係合し、図3、図8、図9に示すように第3開口幅e3において規制ピン76の変位が可能であるため、伝動ケース5は揺動軸芯Xを中心として最大の揺動が許される。
【0062】
更に、調節レバー74の操作により規制開口73Cのうち中間の第2開口幅e2に規制ピン76を導入した場合には、調節レバー74がレバーガイド71Eの中間の凹部に係合し、図10に示すように第2開口幅e2において規制ピン76の変位が可能であるため、伝動ケース5は揺動軸芯Xを中心として前述した最大の揺動より小さい揺動が許される。
【0063】
この刈高さ調節機構Eでは、走行機体の走行時において、出力軸8の回転力が第2ブラケット32のボールベアリング32Aを介してフレーム20と伝動ケース5との間に作用する際の反力が伝動ケース5を揺動させ、この揺動により駆動軸芯Yを傾斜させて刈高さが設定される。具体的には、例えば、第3開口幅e3に規制ピン76が導入されている状況において走行機体を前進させた場合には、図3に示すように、出力軸8が矢印の回転し、この回転に伴う反作用がボールベアリング32Aから伝動ケース5に対して矢印の方向に作用する。このように反力が作用した場合には、エンジン4と伝動ケース5と刈取機構Cとが揺動軸芯Xを中心にして一体的に矢印の方向に揺動することになり、刈取機構Cが前下がり方向に揺動する。
【0064】
これとは逆に、走行機体を後進させた場合には図4及び図9に示すように、出力軸8が矢印の方向に回転し、この回転に伴う反作用がボールベアリング32Aから伝動ケース5に対して矢印の方向に作用する。このように反力が作用した場合には、エンジン4と伝動ケース5と刈取機構Cとが揺動軸芯Xを中心にして一体的に矢印の方向に揺動することになり、刈取機構Cが後下がり方向に揺動する。
【0065】
このように刈高さ調節機構Eは、調節レバー74の操作により規制開口73Cのうち第2開口幅e2又は第3開口幅e3に規制ピン76を導入した状態において走行機体を走行させることにより、出力軸8から前車輪1と後車輪2とに伝えられる回転駆動力に起因する反作用を伝動ケース5に伝えることにより、作業者が伝動ケース5を揺動させる操作を行わずとも、エンジン4と伝動ケース5と刈取機構Cとが揺動軸芯Xを中心にして一体的に揺動する結果、調節レバー74で設定した刈高さでの刈取作業を行えるのである。
【0066】
〔刈高さ調節機構の別実施形態〕
この刈高さ調節機構Eは、支持体71、規制部材73と、この規制部材73の規制開口73Cに挿入される接当部材としての規制ピン76とを伝動ケース5に支持し、規制ピン76に一方の端部が連結するリンク体77の他方の端部をハウジングAに支持しても良い。このように構成する場合、規制開口73Cに規制ピン76を導入するよう規制部材73を操作する人為操作具としての調節レバー74を伝動ケース5に備えても良い。
【0067】
また、規制部材73に対して規制開口73Cに代えて領域幅を有した溝を形成しても良い。更に、領域幅が段階的に変化するものに代えて、例えば、規制開口73Cの対向する内面同士を傾斜する(非平行となる)姿勢に設定することにより、領域幅が無段階(連続的)に変化するように構成しても良い。
【0068】
〔前後進操作系〕
図17に示すように、前後進切換レバー14は、縦向き姿勢のレバー軸14Aを中心とした揺動により前進位置F、中立位置N、後進位置Rの夫々の操作位置に設定自在に支持され、基端部には一対のアーム14Bが形成されている。伝動ケース5には前後進切換機構FRMの切換部材112の切換操作を行う切換軸81を回動操作する切換レバー82が備えられ、一対のアーム14Bと切換レバー82の揺動端の対向する位置とに亘って2本の変速操作ワイヤ83が備えられている。
【0069】
具体的な構造として、変速操作ワイヤ83のうち伝動ケース側の端部のアウタ部83Aは、伝動ケース5のホルダ84に対してナット83Nによって締付により固定され、インナ部83Bは連結ピン85を介して切換レバー82に連結されている。また、変速操作ワイヤ83のうち操縦ハンドル3のグリップ側のアウタ部83Aは、操縦ハンドル3の支持フレーム86に対して一対のナット83Nの締付により固定され、インナ部83Bはコイルバネ83Sを介してアーム14Bに連結されている。
【0070】
この前後進操作系では、前後進切換レバー14が前進位置F、中立位置N、後進位置Rの夫々の操作位置に対応する変速状態を適正に現出するための調節機構を備えている。この調節機構は、伝動ケース5の支持片87に備えられたロックボルト88と、切換レバー82の揺動端に形成された係合凹部82Aとで構成されている。この係合凹部82Aは、前後進切換機構FRMが中立位置にある姿勢においてロックボルト88と向かい合うように位置関係が設定されている。
【0071】
この調節機構によって調節を行う際には、図18に示すように、切換レバー82を中立位置に設定し、ロックボルト88の操作により、このロックボルト88の先端を係合凹部82Aに係合させておく。この状態において操縦ハンドル3のグリップ側のナット83Nを操作して前後進切換レバー14を中立位置Nに調節する。具体的には、アウタ部の82Aの端部を移動させることで、インナ部83Bに作用する張力が変化し、張力に対応して前後進切換レバー14の位置も変化する。このような調節により前後進切換レバー14が中立位置Nにあるようナット83Nの操作を行うことになる。この調節の後には、ロックボルト88の係合を解除することで前後進切換レバー14の操作で適正な前後進の切換が実現する。
【0072】
この調節機構を備えることにより、操縦ハンドル3のグリップ3Gの部位から前後進切換レバー14の位置の確認を行いながらナット83Nの調節を行うことが可能となり、前後進切換機構FRMの切換レバー82と前後進切換レバー14とを適正に連係できる。尚、調節を行う際に、変速操作ワイヤ83のうち伝動ケース側の端部のナット83Nの操作を行っても良い。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は、原動部からの駆動力をチェーン式の伝動機構を介して前車輪と後車輪とに伝える歩行型草刈機全般に利用することができる。
【符号の説明】
【0074】
1 前車輪
2 後車輪
3 操縦ハンドル
4 原動部(エンジン)
7 刈刃
8 出力軸
10 主チェーンケース
11 前部チェーンケース
12 後部チェーンケース
50 出力スプロケット
52 前部入力スプロケット
54 後部入力スプロケット
55 前部テンションアーム
55A ボス部
56 前部テンション部材(前部テンションスプロケット)
57 後部テンションアーム
57A ボス部
58 後部テンション部材(後部テンションスプロケット)
59 無端チェーン(主駆動チェーン)
60 付勢手段(スプリング)
63 伝動機構
A ハウジング
D 走行伝動機構
FRM 前後進切換機構
X 出力軸芯(揺動軸芯)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前車輪と後車輪とを有したハウジングが備えられ、原動部からの駆動力でハウジング内の刈刃を駆動し、前記原動部からの駆動力を走行伝動機構により前記前車輪及び後車輪に伝える歩行型草刈機であって、
前記原動部の駆動力を正転駆動力又は逆転駆動力に変換して出力軸に伝える前後進切換機構を備え、
前記走行伝動機構が、前記出力軸に備えた出力スプロケットと、前記前車輪に動力を伝える前部入力スプロケットと、前記後車輪に動力を伝える後部入力スプロケットと、これらに巻回する無端チェーンとを備えると共に、
前記無端チェーンのうち、前記出力スプロケットから前記前部入力スプロケットに亘る領域に張力を作用させる前部テンション部材と、前記出力スプロケットから前記後部入力スプロケットに亘る領域に張力を作用させる後部テンション部材とを備え、
前記前部テンション部材が前記出力軸の出力軸芯を中心にして揺動自在な前部テンションアームに支承され、前記後部テンション部材が前記出力軸の出力軸芯を中心にして揺動自在な後部テンションアームに支承され、前記前部テンション部材と前記後部テンション部材とから前記無端チェーンに張力を作用させるように、前記前部テンションアームと前記後部テンションアームとに亘って付勢手段を備えている歩行型草刈機。
【請求項2】
前記出力スプロケットを前記出力軸芯の方向から挟む位置に、前記前部テンションアームのボス部と、前記後部テンションアームのボス部とが遊転支承されている請求項1記載の歩行型草刈機。
【請求項3】
前記出力スプロケットと、前記前部入力スプロケットと、前記後部入力スプロケットと、これらに巻回する前記無端チェーンと、前記前部テンション部材と、前記後部テンション部材とが密封構造の主チェーンケースに収容され、
前記前部入力スプロケットからの駆動力を前記前車輪に伝えるチェーン式の伝動機構が密封構造の前部チェーンケースに収容され、前記後部入力スプロケットからの駆動力を前記後車輪に伝えるチェーン式の伝動機構が密封構造の後部チェーンケースに収容されている請求項1又は2記載の歩行型草刈機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2011−167132(P2011−167132A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−34641(P2010−34641)
【出願日】平成22年2月19日(2010.2.19)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【出願人】(599118768)株式会社斎藤農機製作所 (47)
【Fターム(参考)】