説明

水勾配層の厚さ測定方法及び防水シートの施工方法

【課題】発泡性合成樹脂板からなり部位によって厚さが異なる水勾配層の厚さを容易に測定することができる厚さ測定方法、及び該厚さ測定方法を利用した防水シートの施工方法を提供する。
【解決手段】発泡性合成樹脂板4a〜cが平坦なスラブA1に敷設されて水勾配層A3が形成された屋根Aにおいて、水勾配層A3の外周部に沿って長尺防水鋼板22を配置し、長尺防水鋼板21のビス孔21aに測定具Bを水勾配層A3に貫入しその先端がスラブに接触した時点で測定具Bの目盛13を読み取って水勾配層A3の厚さを測定し、その厚さに対応したビスを選択し、測定具Bを貫入したビス孔21aにビスを挿通して長尺防水鋼板21を水勾配層A3に固定するとともに、該ビスと同じ長さのビスを用いてビス孔21a位置に等しい等高線に沿って、円形防水鋼板22を所定の間隔で水勾配層A3に固定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラットなスラブに対し水勾配を有する発泡性合成樹脂板が敷設されて水勾配層が構成された陸屋根における、水勾配層の厚さ測定方法及び防水シートの施工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えばALC(軽量気泡コンクリート)パネルによって形成されたフラットなスラブ(陸屋根)に防水処理を施す方法として、特許文献1に記載のように、スラブにフラットな発泡性合成樹脂板と上面に所定の角度の傾斜面が形成された発泡性合成樹脂板とを組み合わせて配置することによって片流れ屋根状あるいは両流れ屋根状に水勾配層を形成し、その上面にいわゆる絶縁工法にて防水シートを敷設する方法がある。
【0003】
絶縁工法とは、例えば特許文献2に記載のように、所定の間隔で円形の防水鋼板(表面に防水シート片が固着された防水鋼板)をビスにて固定し、屋根周縁部には断面L字状の長尺の防水鋼板をビス固定し、これらの防水鋼板に防水シートを溶着や融着等の手段にて防水鋼板に対し固着することで、温度変化による防水シートの伸縮を許容し、防水シートの性能を維持しようとする工法である。
【0004】
発泡性合成樹脂板にはビスが効かないので、防水鋼板の固定に使用するビスはスラブに到達させる必要がある。しかし、その際にビスがスラブを貫通、あるいはスラブ裏面が近傍まで到達してしまうと、ALCは比較的脆弱な素材であるので、スラブ裏面がビスを頂点としたすり鉢状に欠落してしまう虞がある。また、ALCパネルからなるスラブに限らず、ビスがスラブを貫通してしまうと、スラブ下の配線、配管等を傷つけてしまう虞もある。従って、ビス先端を適度な位置に留めておく必要がある。
【0005】
上記構成の屋根の防水シートを改修する際には、既存の防水鋼板は防水シートもろとも撤去し、改めて防水鋼板を固定することになるが、この際、発泡性合成樹脂板の厚さが新築時の施工図に記載がない、あるいは施工図とは異なる厚さで施工がなされていることがあり、発泡性合成樹脂板の厚さの確認作業に手間取るという問題があった。
【0006】
なお、特許文献3には防水シートの改修に関する記載があるが、上記課題の解決につながるものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平04−060047号公報
【特許文献2】特開2008−115549号公報
【特許文献3】特開2007−247283号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような従来技術における課題を解決するものであり、発泡性合成樹脂板からなり部位によって厚さが異なる水勾配層の厚さを容易に測定することができる厚さ測定方法、及び該厚さ測定方法を利用した防水シートの施工方法を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記従来技術の有する課題を解決するための、本発明に係る水勾配層の厚さ測定方法は、平坦なスラブに発泡性合成樹脂板が敷設され水勾配層が形成された陸屋根において、軸方向に目盛が記された棒状の測定具を水勾配層に貫入し、測定具の先端がスラブに接触した時点で測定具の目盛を読み取って厚さを測定することを特徴としている。
【0010】
また、本発明に係る防水シートの施工方法は、発泡性合成樹脂板が平坦なスラブに敷設されて片流れ屋根状あるいは両流れ屋根状の水勾配層が形成された陸屋根における絶縁工法による防水シートの施工方法であって、水勾配層の外周部に沿って所定の間隔で複数のビス孔が穿たれた長尺防水鋼板を配置する工程と、長尺防水鋼板のビス孔に軸方向に目盛が記された棒状の測定具を挿通するとともに水勾配層に貫入し、測定具の先端がスラブに接触した時点で測定具の目盛を読み取って水勾配層の厚さを測定する工程と、測定された厚さに対応したビスを選択し、測定具を貫入した長尺防水鋼板のビス孔に該ビスを貫入して長尺防水鋼板を水勾配層に固定するとともに、該ビスと同じ長さのビスを用い、長尺防水鋼板のビス孔位置の高さに等しい等高線に沿って、円形防水鋼板を所定の間隔で水勾配層に固定する工程と、を有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る水勾配層の厚さ測定方法によれば、場所によって厚さが異なる発泡性合成樹脂板からなる水勾配層の厚さを容易に測定し、防水鋼板の固定に必要なビスの長さを求めることができ、更に本発明に係る防水シートの施工方法によれば、水勾配層の厚さに適したビスを選択して屋根スラブ等に悪影響を与えることなく防水シートを施工することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】防水工事着手前の屋根Aの構成を示す平面図及び断面図である。
【図2】水勾配層の厚さの測定の様子を示す断面図である。
【図3】長尺防水鋼板及び円形防水鋼板を固定した状態を示す平面図である。
【図4】防水工事完成後の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明の一実施形態を、図を参照しながら具体的に説明する。図1に示す建物の屋根Aは、305mmの平面モジュールを有する鉄骨造の工業化住宅の陸屋根である。H形鋼からなる鉄骨梁1の上にALC(軽量気泡コンクリート)からなる床パネル2が載置されて屋根のスラブA1が形成されており、スラブA1の上面には、フラットな発泡性合成樹脂板(長さ1820mm×幅910mm×厚さ20mm)4aと、上面に所定の角度の傾斜面が形成された2種類の発泡性合成樹脂板(長さ910mm×幅910mm×厚さ27−37mmのタイプ、及び、長さ910mm×幅910mm×厚さ37−47mmのタイプ)4b、4cが組み合わされて配置され、両流れ屋根状の100分の1強の水勾配層A3が形成されている。屋根Aの外周部からはALCからなる最上階の外壁パネル3が突出されてパラペットA2が形成されており、スラブA1の目地部分及び発泡性合成樹脂板4a〜cと外壁パネル3との間の部分にはモルタル5が充填されている。
【0014】
上記構成の屋根Aにおける防水工事の手順は以下の通りである(図2乃至4を参照のこと)。
(1)外周部のパラペットA2に沿って、断面L字状の長尺防水鋼板21を配置する。防水鋼板とは、表面に防水シート片が固着された鋼板であり、防水シート片と防水シートとを溶着あるいは融着することによって防水シートを屋根面に貼設するものである。長尺防水鋼板21の水平片には予め皿状のビス孔21aが所定の間隔で穿たれている。
【0015】
(2)測定具Bを用いて長尺防水鋼板21のビス孔21a位置での水勾配層A3の厚さを測定する。厚さ測定治具は、ドライバー(ねじ回し)状であり、軸部11と柄部12とからなる。軸部11の最大外寸は、後述する長尺防水鋼板21のビス孔21aの径よりも小さなものである。軸部11には、先端部からの距離(=水勾配層A3の厚さ)を示す目盛13が刻まれている。具体的な測定は、長尺防水鋼板21のビス孔21aに測定具Bの軸部11を挿し込んで水勾配層A3に貫入し、軸部11の先端がスラブA1に到達した時点で水勾配層A3の表面位置が示す測定具Bの目盛13を読みとることで行なう。スラブA1を構成する床パネル2は水勾配層A3を形成する発泡性合成樹脂板4a〜cよりも硬い材質であるので、軸部11の先端がスラブA1に到達したか否かは測定具Bを把持する手に伝わる感触で判断することができる。なお、水下側または水上側の長尺防水鋼板21については、水勾配層A3の厚さは一律なので1箇所のみを測定すればよい。
【0016】
(3)測定具Bから読み取った数値に対応する長さ(水勾配層A3の厚さに50mm程度加算した長さ)のビス23を選択し、長尺防水鋼板21のビス孔21aにビス23を挿し込み、ビス23の先端をスラブA1にねじ入れることによって長尺防水鋼板21を水勾配層A3の上面に固定する。
【0017】
(4)水勾配方向に配置され、位置によって水勾配層A3の厚さが変化するビス孔21aと、対向する側の長尺防水鋼板21の同じ高さのビス孔21aとを結ぶ墨Cを打つ。この墨Cは同一の高さを示す等高線となる。
【0018】
(5)中心部にビス孔22aが穿たれた円形防水鋼板22を、墨Cに沿って、同一高さの長尺防水鋼板21のビス孔21aに用いたビス23と同一長さのビス24を用いて、所定の間隔をあけて、長尺防水鋼板21と同様の方法で水勾配層A3の上面に固定する。
【0019】
(6)防水シート25を長尺防水鋼板21及び円形防水鋼板22に溶着あるいは融着して防水層A4を形成する。
【0020】
以上、一連の手順を説明したが、水勾配層A3の厚さの測定作業、長尺防水鋼板21のビス23での固定作業、墨Cを打つ作業は、水勾配方向に配置された長尺防水鋼板21の全てのビス孔21aについて行う必要はなく、長尺防水鋼板21や円形防水鋼板22の固定間隔が、吹き上げ強度の検討等から算出された所定の値(以下)となるように行なえばよい。
【0021】
また、測定具Bの軸部11の目盛13は、水勾配層A3の厚さを示すものにかえて、水勾配層A3の厚さに対応するビスの長さを示すものであってもよい。このようにすることで、所定の位置におけるビスの必要長さを直接的に求めることができる。
【0022】
上記方法によれば、場所によって厚さが異なる水勾配層A3の厚さを容易に測定し、水勾配層A3の厚さに適したビス23、24を選択して、スラブA1等に悪影響を与えることなく防水シートを施工することができる。また、測定具Bの貫入によって形成された孔は長尺防水鋼板21固定用のビス23の挿入路として使用されるので、厚さを測定した後補修する必要がなく、手間を省くことができる。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明は屋根以外に、発泡性合成樹脂からなる断熱層を有する壁面等にも適用することができる。
【符号の説明】
【0024】
A 屋根
A1 スラブ
A2 パラペット
A3 水勾配層
A4 防水層
B 測定具
C 墨
1 鉄骨梁
2 床パネル
3 外壁パネル
4a、4b、4c 発泡性合成樹脂板
5 モルタル
11 軸部
12 柄部
13 目盛
21 長尺防水鋼板
21a ビス孔
22 円形防水鋼板
22a ビス孔
23、24 ビス
25 防水シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平坦なスラブに発泡性合成樹脂板が敷設され水勾配層が形成された陸屋根において、軸方向に目盛が記された棒状の測定具を水勾配層に貫入し、測定具の先端がスラブに接触した時点で測定具の目盛を読み取って厚さを測定することを特徴とする水勾配層の厚さ測定方法。
【請求項2】
発泡性合成樹脂板が平坦なスラブにに敷設されて片流れ屋根状あるいは両流れ屋根状の水勾配層が形成された陸屋根における絶縁工法による防水シートの施工方法であって、
水勾配層の外周部に沿って所定の間隔で複数のビス孔が穿たれた長尺防水鋼板を配置する工程と、
長尺防水鋼板のビス孔に軸方向に目盛が記された棒状の測定具を挿通するとともに水勾配層に貫入し、測定具の先端がスラブに接触した時点で測定具の目盛を読み取って水勾配層の厚さを測定する工程と、
測定された厚さに対応したビスを選択し、測定具を貫入した長尺防水鋼板のビス孔に該ビスを貫入して長尺防水鋼板を水勾配層に固定するとともに、該ビスと同じ長さのビスを用い、長尺防水鋼板のビス孔位置の高さに等しい等高線に沿って、円形防水鋼板を所定の間隔で水勾配層に固定する工程と、を有することを特徴とする防水シートの施工方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate