説明

水性樹脂分散体の製造方法、並びに不織布及び/又は繊維加工用バインダー組成物。

【課題】重合後の未反応モノマーの含有量が低減し、バインダー性能が向上し、遊離ホルムアルデヒドが低減し、更に、低臭気である水性樹脂分散体及びその水性樹脂分散体を含む不織布及び/又は繊維加工用バインダー組成物を提供する。
【解決手段】水性樹脂分散体の製造方法であって、
(1)エチレン性不飽和結合を有する化合物を含む単量体、並びにN−メチロール(メタ)アクリルアミド及び/又はN−アルコキシメチル(メタ)アクリルアミドを含む単量体混合物を、反応系のpHを4〜7の範囲に制御しながら、過酸化物、又は過酸化物及び有機酸若しくはそれらの塩の存在下で重合する第1重合工程、並びに
(2)未反応の前記単量体を更に過酸化物及び有機酸若しくはそれらの塩の存在下で重合する第2重合工程を
順次、含むことを特徴とする水性樹脂分散体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性樹脂分散体の製造方法、並びに不織布及び/又は繊維加工用バインダー組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
各種繊維を機械的処理等する際に、バインダー樹脂を用いて、不織布が製造されている。
【0003】
この様な不織布及び繊維加工用途に用いられるバインダー樹脂には、成形時の破断強度及び耐熱性等を向上させるために、N−メチロールアクリルアミド及びN−メトキシメチルアクリルアミド等のメチロール系の架橋性モノマー(架橋剤)が共重合される。
【0004】
一方で、これらの架橋性モノマーは、加熱加工を伴う架橋時にホルムアルデヒドを副生する欠点がある。そうして副生したホルムアルデヒドは、不織布及び繊維中に遊離ホルムアルデヒドとして残留するため、その不織布及び繊維を、特に食品用途及び衣料用途等に使用する場合には、安全上好ましくない。そこで、ホルムアルデヒドの遊離を抑制する検討が行われている(特許文献1〜5)。しかしながら、遊離ホルムアルデヒドの低減とバインダー性能(成形時の破断強度及び耐熱性等)の向上とのバランス化には検討の余地がある。
【0005】
また、従来、乳化重合により得られるラテックス等のエマルションには、通常、未反応モノマー(残留モノマー)が含まれている。この未反応モノマーが、最終製品であるエマルション、又は、これを用いた組成物に含まれていると、最終製品を使用する際に作業環境上の問題が生じる場合がある。そのため、未反応モノマーを低減する方法が検討されている。そこで、一般的にラジカル重合では、重合終期に一部残存した未反応モノマーを消費する目的で、酸化剤と還元剤をもちいたレドックス開始剤系による重合反応が行われる。この際、酸化剤としては各種過硫酸塩及び過酸化物が用いられ、還元剤には亜硫酸系、亜リン酸系及び有機酸系等の種々の化合物が使用される。更に、臭気低減及び安全性向上等の観点から、未反応モノマーを低減するための重合方法等についても検討されている(特許文献6及び7)。しかしながら、これらはホルマリン低減の観点からは検討されておらず、また使用する開始剤系によっては開始剤に由来する臭気が感じられる場合がある等、検討の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平05−310841号公報
【特許文献2】特開2007−269982号公報
【特許文献3】特開2001−151975号公報
【特許文献4】特開2008−75038号公報
【特許文献5】特開2007−138325号公報
【特許文献6】特開2002−212207号公報
【特許文献7】特開2008−274026号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、重合後の未反応モノマーの含有量が低減し、バインダー性能(成形時の破断強度及び耐熱性等)が向上し、遊離ホルムアルデヒドが低減し、更に、低臭気である水性樹脂分散体及びその水性樹脂分散体を含む不織布及び/又は繊維加工用バインダー組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、エチレン性不飽和結合を有する化合物を含む単量体、並びにN−メチロール(メタ)アクリルアミド及び/又はN−アルコキシメチル(メタ)アクリルアミドを含む単量体混合物を重合して得られる水性樹脂分散体の製造方法において、反応系を特定のpHに制御しながら、過酸化物等の存在下で重合を開始した後、未反応単量体を更に、過酸化物及び有機酸等の存在下で重合を開始する場合には、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、下記の水性樹脂分散体の製造方法、並びに不織布及び/又は繊維加工用バインダー組成物に関する。
1. 水性樹脂分散体の製造方法であって、
(1)エチレン性不飽和結合を有する化合物を含む単量体、並びにN−メチロール(メタ)アクリルアミド及び/又はN−アルコキシメチル(メタ)アクリルアミドを含む単量体混合物を、反応系のpHを4〜7の範囲に制御しながら、過酸化物、又は過酸化物及び有機酸若しくはそれらの塩の存在下で重合する第1重合工程、並びに
(2)未反応の前記単量体を更に過酸化物及び有機酸若しくはそれらの塩の存在下で重合する第2重合工程を
順次、含むことを特徴とする水性樹脂分散体の製造方法。
2. 前記第1重合工程の反応系のpHが、4.5〜6であることを特徴とする、前記項1に記載の水性樹脂分散体の製造方法。
3. 前記第2重合工程の反応系のpHが、4〜7であることを特徴とする、前記項1又は2に記載の水性樹脂分散体の製造方法。
4. 前記有機酸若しくはそれらの塩が、アスコルビン酸、エリソルビン酸、酒石酸、クエン酸及びシュウ酸、並びにそれらの塩から選ばれた少なくとも一種であることを特徴とする、前記項1〜3のいずれかに記載の水性樹脂分散体の製造方法。
5. 前記項1〜4のいずれかに記載の製造方法により得られた水性樹脂分散体を含むことを特徴とする、不織布及び/又は繊維加工用バインダー組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明の製造方法によれば、エチレン性不飽和結合を有する化合物を含む単量体、並びにN−メチロール(メタ)アクリルアミド及び/又はN−アルコキシメチル(メタ)アクリルアミドを含む単量体混合物を重合して得られる水性樹脂分散体において、重合後の未反応モノマーの含有量が低減し、バインダー性能(成形時の破断強度及び耐熱性等)が向上し、遊離ホルムアルデヒドが低減し、更に、低臭気である水性樹脂分散体及びその水性樹脂分散体を含む不織布及び/又は繊維加工用バインダー組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳しく説明する。
【0012】
本発明の水性樹脂分散体の製造方法は、
(1)エチレン性不飽和結合を有する化合物を含む単量体、並びにN−メチロール(メタ)アクリルアミド及び/又はN−アルコキシメチル(メタ)アクリルアミドを含む単量体混合物を、反応系のpHを4〜7の範囲に制御しながら、過酸化物、又は過酸化物及び有機酸若しくはそれらの塩の存在下で重合する第1重合工程、並びに
(2)未反応の前記単量体を更に過酸化物及び有機酸若しくはそれらの塩の存在下で重合する第2重合工程を
順次、含むことを特徴とする。
【0013】
この様に、本発明の水性樹脂分散体の製造方法は、重合反応をpH4〜7に制御しながら、開始剤として過酸化物及び有機酸を使用することで、遊離ホルムアルデヒドを低減でき、また重合後の残存モノマー量も十分低く、且つ加工品に不快な臭気が残存することもない水性樹脂分散体を得ることができる。そして、本発明により得られた水性樹脂分散体は、モノマー及びアルコール等による臭気も少なく、安全性に優れるため、不織布、繊維及び紙加工に好適なバインダー組成物を提供することができる。
【0014】
尚、本明細書において、「(メタ)アクリル」とは、アクリル及びメタクリルを意味する。
【0015】
(1)第1重合工程
第1重合工程は、エチレン性不飽和結合を有する化合物を含む単量体、並びにN−メチロール(メタ)アクリルアミド及び/又はN−アルコキシメチル(メタ)アクリルアミドを含む単量体混合物を、反応系のpHを4〜7の範囲に制御しながら、過酸化物、又は過酸化物及び有機酸若しくはそれらの塩の存在下で重合する工程である。
【0016】
第1重合工程において用いる単量体は、エチレン性不飽和結合を有する化合物を含む。このエチレン性不飽和結合を有する化合物としては、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、不飽和カルボン酸、不飽和酸無水物、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル、芳香族ビニル化合物、含窒素不飽和化合物、不飽和スルホン酸、不飽和アミド、ポリアルキレンオキシド骨格を含む(メタ)アクリル酸のエステル等が挙げられる。これらは、単独で用いてよいし、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0017】
(1−1)単量体混合物の成分等
(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、アルキル基が、炭素数1〜18の炭化水素基であるものが好ましく、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸sec−ブチル、(メタ)アクリル酸tert−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n−ノニル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸オクタデシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、アルキル基が、炭素数1〜12であるものがより好ましく、炭素数4〜12の炭化水素基であるものが特に好ましい。不織布の風合いが柔らかく、コストが安いという理由から、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル及びメタクリル酸メチルを用いることが好ましく、アクリル酸メチル及びアクリル酸ブチルを用いることがより好ましい。
【0018】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルの含有割合は、多すぎると乾燥強度及び湿潤強度が不足し、少なすぎると不織布の風合いが調整しづらいという理由から、エチレン性不飽和結合を有する化合物を含む単量体、並びにN−メチロール(メタ)アクリルアミド及び/又はN−アルコキシメチル(メタ)アクリルアミドを含む単量体混合物の合計(以下、「単量体混合物の合計」と記す。)を100質量%とした場合、30〜99.8質量%が好ましく、40〜95質量%がより好ましく、50〜90質量%が更に好ましい。
【0019】
不飽和カルボン酸(カルボキシル基含有単量体)としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。重合時の安定性が高いという理由から、アクリル酸及びメタクリル酸を用いることが好ましく、メタクリル酸を用いることがより好ましい。
【0020】
不飽和カルボン酸の含有割合は、多すぎると不織布の湿潤強度が低下し、風合いが硬くなり、重合中にゲル化の危険性があること、また、少なすぎると不織布の吸水速度が低下するという理由から、前記単量体混合物の合計を100質量%とした場合、0.1〜5質量%が好ましく、0.5〜4質量%がより好ましく、1〜3質量%が更に好ましい。
【0021】
(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルとしては、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチル等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0022】
芳香族ビニル化合物としては、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ビニルトルエン、β−メチルスチレン、エチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、ビニルキシレン、ビニルナフタレン等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0023】
含窒素不飽和化合物としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、ビニルピリジン、N−ビニルピロリドン等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0024】
不飽和アミドとしては、(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−(2−ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0025】
不飽和酸無水物としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0026】
不飽和スルホン酸としては、アリルスルホン酸、メタリルスルホン酸、ビニルスルホン酸、p−スチレンスルホン酸、アクリロキシベンゼンスルホン酸、メタクリロキシベンゼンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、スルホエチルアクリレート等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0027】
ポリアルキレンオキシド骨格を含む(メタ)アクリル酸のエステルとしては、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリブチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールポリブチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールポリブチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールポリブチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等の、ポリアルキレングリコール(アルキレングリコール単位数は、2以上。)のモノ(メタ)アクリル酸エステル;メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリブチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、エトキシポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、エトキシポリブチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等の、アルコキシポリアルキレングリコールのモノ(メタ)アクリル酸エステル等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0028】
重合体の強度を維持でき、及び重合体の生産コストが優れるという理由から、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、スチレン及びアクリロニトリルを用いることがより好ましい。
【0029】
これら(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル、芳香族ビニル化合物、含窒素不飽和化合物、不飽和アミド、不飽和酸無水物、不飽和スルホン酸及びポリアルキレンオキシド骨格を含む(メタ)アクリル酸のエステルから選ばれる化合物の含有割合は、多すぎると不織布の風合いが調整しづらいという理由から、前記単量体混合物の合計を100質量%とした場合、60質量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましく、40質量%以下が更に好ましい。
【0030】
本発明において、前記単量体混合物は、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを含むことが好ましい。従って、前記単量体混合物は、(メタ)アクリル酸アルキルエステルのみであってよいし、(メタ)アクリル酸アルキルエステルと、他の単量体とを含む混合物であってもよい。
【0031】
重合工程1では、架橋剤として、N−メチロール(メタ)アクリルアミド及び/又はN−アルコキシメチル(メタ)アクリルアミドを用いる。
【0032】
架橋剤としては、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、N−アルコキシメチルアクリルアミド(N−メトキシメチルアクリルアミド、N−エトキシメチルアクリルアミド、N−イソプロポキシメチルアクリルアミド、N−ブトキシメチルアクリルアミド、N−イソブトキシメチルアクリルアミド等)、N−アルコキシメチルメタクリルアミド(N−メトキシメチルメタクリルアミド、N−エトキシメチルメタクリルアミド、N−イソプロポキシメチルメタクリルアミド、N−ブトキシメチルメタクリルアミド、N−イソブトキシメチルメタクリルアミド等)等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。また、これらのうち、重合体の調製コストが安く、乾燥強度及び湿潤強度に優れる点から、N−メチロールアクリルアミド、N−メトキシメチルアクリルアミド、N−ブトキシメチルアクリルアミド等が好ましい。更に、残留するホルムアルデヒドが少ないという理由から、N−メトキシメチルアクリルアミドを用いることがより好ましい。
【0033】
架橋剤の使用量は、多すぎると重合体の調製コストが高く、重合中に架橋が進みすぎて樹脂がゲル化の危険性があり、また、少なすぎると乾燥強度及び湿潤強度が不足するとう理由から、前記単量体混合物の合計を100質量%とした場合、0.1〜5質量%が好ましく、0.5〜4質量%がより好ましく、1〜3質量%が更に好ましい。
【0034】
第1重合工程では、重合開始剤として過酸化物を用いて単量体の重合を行う。
【0035】
過酸化物としては、過酸化水素;過硫酸塩(過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム等)等の無機過酸化物;ハイドロパーオキサイド(クメンハイドロパーオキサイド、パラメンタンハイドロパーオキサイド、tert−ブチルハイドロパーオキサイド等)、ジアルキルパーオキサイド(tert−ブチルクミルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド等)、ジアシルパーオキサイド、パーオキシエステル(tert−ブチルパーオキシラウレート、tert−ブチルパーオキシベンゾエート等)、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、過酢酸、過コハク酸等の有機過酸化物が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0036】
更に、アゾ化合物を、組み合わせて用いても良い。アゾ化合物としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0037】
重合安定性が良い点から、過硫酸アンモニウム及びtert−ブチルハイドロパーオキサイドを用いることが好ましい。
【0038】
過酸化物(ラジカル重合開始剤)の使用量(アゾ化合物を併用する時はその合計使用量)は、その種類、重合条件等により選択されるが、安定に重合を行うために、前記エチレン性不飽和結合を有する化合物を含む単量体、並びにN−メチロール(メタ)アクリルアミド及び/又はN−アルコキシメチル(メタ)アクリルアミドを含む単量体混合物の合計(以下、「単量体混合物の合計」と記す。)100質量部に対して、0.01〜10質量部が好ましく、0.1〜3質量部がより好ましい。
【0039】
第1重合工程では、反応系に、前記過酸化物に、更に有機酸若しくはそれらの塩を組み合わせて使用することができる。
【0040】
有機酸若しくはそれらの塩としては、遊離ホルムアルデヒドを効果的に低減できるという理由から、アスコルビン酸、エリソルビン酸、酒石酸、クエン酸及びシュウ酸、並びにそれらの塩が挙げられ、その塩としては、アルカリ金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩等)又はアンモニウム塩が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることが好ましい。
【0041】
有機酸及び/又はそれらの塩の使用量は、少なすぎると未反応モノマーを低減する効果が不足し、多すぎるとコスト高となる。その種類、重合条件等により選択されるが、前記単量体混合物の合計100質量部に対して、0.01〜10質量部が好ましく、0.1〜3質量部がより好ましい。
【0042】
(1−2)重合工程
第1重合工程は、反応系のpHを4〜7の範囲に制御しながら、重合する工程である。
【0043】
本発明においては、重合工程1における重合は、反応中の遊離ホルムアルデヒドの生成を抑制することができるという理由から、反応系のpHを4〜7の範囲に、好ましくは4.5〜6.5、より好ましくは4.5〜6の各範囲に制御しながら進められる。また、反応系のpHを上記範囲に調整することで、水性樹脂分散体の遊離ホルムアルデヒドの量を効率よく低減することができる。
【0044】
従って、各原料が反応器内で混合されたときのpHが、第1重合工程の終始、上記範囲内となるように制御させながら重合を行うものである。尚、反応系のpHが4.5〜6の範囲にある場合には、ホルムアルデヒド生成の抑制効果に特に優れる。
【0045】
反応系のpHを上記範囲に調整する際には、通常、塩基性材料が用いられる。この塩基性材料としては、水溶性物質であれば、特に限定されないが、アルカリ金属化合物(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等)、アルカリ土類金属化合物(水酸化カルシウム、炭酸カルシウム等)、アンモニア、有機アミン化合物(モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、メチルエチルアミン、トリエチルアミン、モノプロピルアミン、ジメチルプロピルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン等)等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。尚、これらの化合物は、単独で用いてもよいが、水に溶解させてなる水溶液として用いてもよい。また、これらのうち、アンモニアが特に好ましい。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。また、これらのうち、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム及びトリエチルアミンが好ましく、特に、製造後、加熱等により飛散させやすいアンモニアを用いることが好ましい。
【0046】
反応系のpHを調整するときの反応系の温度は、特に限定されない。
【0047】
塩基性物質の使用方法としては、水に溶解させ、10〜90質量%の濃度の水溶液を用いることが好ましい。
【0048】
また、反応系のpHを所定範囲に制御するために、上記塩基性物質と、ポリアクリル酸、クエン酸、ホウ酸及びリン酸等の酸成分を含む緩衝剤とを併用する方法、及び、この緩衝剤のみを用いる方法等もが挙げられる。
【0049】
反応系のpHを所定範囲に制御するためには、これらの中でも、臭気の点から塩基性化合物単独の使用が好ましい。
【0050】
第1重合工程における重合温度は、単量体の種類、ラジカル重合開始剤の種類等により、適宜、選択されるが、通常、40〜95℃である。重合は、この温度範囲において、一定温度で進めてもよいし、昇温及び/又は降温を組み合わせて進めてもよい。
【0051】
第1重合工程に要する重合時間は、好ましくは1時間以上、より好ましくは2時間以上である。但し、上限は、通常、8時間である。
【0052】
第1重合工程における単量体の重合は、通常、撹拌及び還流冷却しながら、水系媒体中、加熱された反応系で行われ、具体的な方法は、以下に例示される。
〔1〕水系媒体に、単量体(モノマー成分及び架橋剤)、乳化剤、過酸化物(ラジカル重合開始剤)及び必要に応じて有機酸若しくはそれらの塩を、個別に添加しながら、若しくは、これらのうちの2種又は3種を組み合わせて添加しながら重合する方法。
〔2〕水系媒体、並びに、一部又は全ての単量体及び/もしくは一部又は全ての乳化剤の混合物に、過酸化物(ラジカル重合開始剤)及び必要に応じて有機酸若しくはそれらの塩、並びに、残りの単量体及び/又は残りの乳化剤を添加しながら重合する方法。
【0053】
上記各態様において、原料成分(単量体、過酸化物、有機酸(塩)及び乳化剤等)の添加方法は、一括添加法、連続添加法及び分割添加法のいずれでもよい。連続添加法の場合、供給速度は、一定でも不定でもよい。また、分割添加法の場合、原料成分の添加間隔は、一定でも、不定でもよい。
【0054】
過酸化物(ラジカル重合開始剤)及び有機酸若しくはそれらの塩の使用に際しては、通常は水溶液、又は水及びアルコール等を溶媒とする水性溶液として用いられるが、乳化剤等と併含する分散液を用いてもよい。過酸化物及び有機酸(塩)の添加方法は、一括式、分割式及び連続式のいずれでもよい。
【0055】
更に、上記第1重合工程の初期において、反応系における単量体及び水系媒体の質量比は、水系媒体の量を100質量部としたときに、単量体量が30〜300質量部であることが好ましい。
【0056】
上記水系媒体としては、水のみを、あるいは、水と、水溶性有機溶媒(アルコール、ケトン、エーテル、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド等)とからなる混合物を用いることができる。この水系媒体が混合物である場合、水の含有量は、水系媒体を100質量%としたときに、通常、30質量%以上である。
【0057】
第1重合工程では、乳化剤及び分子量を調節するための連鎖移動剤等を併用してもよい。
【0058】
乳化剤としては、アニオン性界面活性剤及びノニオン性界面活性剤等を用いることができる。アニオン性界面活性剤としては、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸ナトリウム、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム等が挙げられる。また、ノニオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレン高級アルコールエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリカルボン酸系高分子界面活性剤及びポリビニルアルコール等が挙げられる。
【0059】
乳化剤の使用量は、その種類、重合条件等により選択されるが、前記単量体混合物の合計100質量部に対して、好ましくは0.1〜10質量部程度、より好ましくは0.1〜5質量部程度である。
【0060】
連鎖移動剤としては、メルカプト基含有化合物(エタンチオール、ブタンチオール、ドデカンチオール、ベンゼンチオール、トルエンチオール、α−トルエンチオール、フェネチルメルカプタン、メルカプトエタノール、3−メルカプトプロパノール、チオグリセリン、チオグリコール酸、2−メルカプトプロピオン酸、3−メルカプトプロピオン酸、α−メルカプトイソ酪酸、メルカプトプロピオン酸メチル、メルカプトプロピオン酸エチル、チオ酢酸、チオリンゴ酸、チオサリチル酸、オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、tert−ドデシルメルカプタン、n−ヘキサデシルメルカプタン、n−テトラデシルメルカプタン、tert−テトラデシルメルカプタン等)、キサントゲンジスルフィド化合物(ジメチルキサントゲンジスルフィド、ジエチルキサントゲンジスルフィド、ジイソプロピルキサントゲンジスルフィド等)、チウラムジスルフィド化合物(テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラブチルチウラムジスルフィド等)、ハロゲン化炭化水素(四塩化炭素、臭化エチレン等)、芳香族炭化水素(ペンタフェニルエタン、α−メチルスチレンダイマー等)等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0061】
連鎖移動剤の使用量は、その種類、重合条件等により異なるが、前記単量体混合物の合計100質量部に対して、好ましくは0.01〜2質量部程度である。
【0062】
第1重合工程において、その終了時における重合転化率は、好ましくは95%以上であり、より好ましくは97%以上、更に好ましくは98%以上である。この重合転化率を上記範囲に調整することにより、未反応モノマー(残留モノマー)の含有量を効率よく低減することができる。
【0063】
重合転化率は、単量体の全仕込み量と、第1重合工程終了時における反応液中の固形分質量とを用いて算出された計算値であり、下記式により求められる。
【0064】
重合転化率(%)=100×{反応液中の固形分濃度(実測値)−単量体以外の原料成分の固形分濃度(計算値)}/{単量体の全仕込み量の、全原料成分に対する濃度(計算値)}
【0065】
第1重合工程後の反応液には、主として、上記単量体及び上記架橋剤からなる、架橋された共重合体が含まれている。但し、単量体の種類、重合条件等によって、未反応の単量体、この単量体が加水分解して生成したアルコール等が含まれることがあり、このような場合には、公知の方法により、除去又は低減化を図ることが好ましい。
【0066】
(2)第2重合工程
第2重合工程は、前記第1重合工程の後、未反応の前記単量体を更に過酸化物及び有機酸若しくはそれらの塩の存在下で重合する工程である。
【0067】
(2−1)過酸化物及び有機酸若しくはそれらの塩
第2重合工程において使用する過酸化物は、上述の第1重合工程で例示した過酸化物と同じものを使用することができる。
【0068】
過酸化物の使用量は、少なすぎると未反応モノマーを低減する効果が不足し、多すぎるとコスト高となる。その種類、重合条件等により選択されるが、前記エチレン性不飽和結合を有する化合物を含む単量体、並びにN−メチロール(メタ)アクリルアミド及び/又はN−アルコキシメチル(メタ)アクリルアミドを含む単量体混合物の合計100質量部に対して、0.001〜1質量部が好ましく、0.01〜0.5質量部がより好ましい。
【0069】
第2重合工程では、反応系に、前記過酸化物に、有機酸若しくはそれらの塩を組み合わせて使用する。この様に、第2重合工程の反応系に、有機酸若しくはそれらの塩を添加することで、未反応の単量体を更に重合することができ、重合後の未反応単量体の含有量を低減することができる。
【0070】
有機酸若しくはそれらの塩としては、遊離のホルムアルデヒドを効果的に低減できるという理由から、アスコルビン酸、エリソルビン酸、酒石酸、クエン酸及びシュウ酸、並びにそれらの塩が挙げられ、その塩としては、アルカリ金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩等)又はアンモニウム塩が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることが好ましい。
【0071】
有機酸若しくはそれらの塩の使用量は、少なすぎると未反応モノマーを低減する効果が不足し、多すぎるとコスト高となる。その種類、重合条件等により選択されるが、前記エチレン性不飽和結合を有する化合物を含む単量体、並びにN−メチロール(メタ)アクリルアミド及び/又はN−アルコキシメチル(メタ)アクリルアミドを含む単量体混合物の合計100質量部に対して、0.001〜1質量部が好ましく、0.01〜0.5質量部がより好ましい。
【0072】
(2−2)重合工程
前述の第1重合工程と同じように、例えば、塩基性材料を用いて、第2重合工程の反応系のpHを調整することができる。
【0073】
第2重合工程における重合は、反応中の遊離ホルムアルデヒドの生成を抑制するために、反応系のpHを4〜7の範囲に、好ましくは4.5〜6.5、より好ましくは4.5〜6の各範囲に制御しながら進められる。従って、上記の各方法において、各原料が反応器内で混合されたときのpHが、第2重合工程の終始、上記範囲内となるように制御させながら重合を行うものである。尚、反応系のpHが4.5〜6の範囲にある場合には、ホルムアルデヒド生成の抑制効果に特に優れる。
【0074】
反応系のpHを上記範囲に調整する方法及びその反応系の温度は、上述の第1重合工程と同じ範囲で良く、特に限定されない。この温度は、通常、上記第1重合工程終了時の反応系の温度以下とすることができる。
【0075】
第2重合工程における未反応の単量体の重合は、通常、撹拌及び還流冷却しながら、加熱された反応系で行われる。重合温度は、未反応の単量体の種類、過酸化物及び有機酸及び/又はそれらの塩の種類等により、適宜、選択されるが、通常、30〜95℃である。この第2重合工程における重合温度は、第1重合工程における重合温度と同一でも、異なってもよい。
【0076】
第2重合工程に要する重合時間は、好ましくは1時間以上、より好ましくは2時間以上である。但し、上限は、通常、5時間である。
【0077】
過酸化物及び有機酸若しくはそれらの塩の使用に際しては、通常は水溶液、又は水及びアルコール等を溶媒とする水性溶液として用いられるが、乳化剤等と併含する分散液を用いてもよい。過酸化物及び有機酸(塩)の添加方法は、一括式、分割式及び連続式のいずれでもよい。
【0078】
更に、上記第1重合工程の初期において、反応系における単量体及び水系媒体の質量比は、水系媒体の量を100質量部としたときに、単量体量が30〜300質量部であることが好ましい。
【0079】
第2重合工程終了後の水性樹脂分散体(重合体(固形分)の濃度50質量%)中における未反応の単量体の含有量は、好ましくは300質量ppm以下、より好ましくは200質量ppm以下である。従って、第2重合工程後に、低臭気の水性樹脂組成物とすることができ、各種用途への作業性及び安全性に優れる。
【0080】
第2重合工程後の反応液には、主として、上記単量体及び上記架橋剤からなる、架橋された共重合体が含まれている。但し、単量体の種類、重合条件等によって、未反応の単量体、この単量体が加水分解して生成したアルコール等が含まれることがあり、このような場合には、公知の方法により、除去又は低減化を図ることが好ましい。
【0081】
上記第1及び第2重合工程における重合装置としては、通常、温度計と、攪拌機と、反応器と、還流冷却機と、を備える装置が用いられる。従って、重合は、反応器内において、単量体、架橋剤等の原料を、加熱、撹拌及び還流冷却しながら進められる。
【0082】
(3)水性樹脂分散体
本発明により製造される水性樹脂分散体は、上記単量体により形成された単量体単位からなる重合体が、水系媒体に分散してなるものである。
【0083】
水性樹脂分散体が含有する未反応モノマー(残留モノマー)の濃度は、ガスクロマトグラフにより測定することができる。水性樹脂分散体が含有する未反応モノマー(残留モノマー)の濃度は、300ppm以下であることが好ましく、200ppm以下であることがより好ましい。水性樹脂分散体が含有する未反応モノマー(残留モノマー)の濃度が、300ppm以下であることで、水性樹脂分散体を含浸加工した不織布に未反応モノマーに由来する臭いを低減させること(低臭気性)ができる。
【0084】
水性樹脂分散体のpHは、低すぎると水性樹脂分散体の安定性が不十分であり、高すぎるとアンモニアを塩基として用いている場合では臭気の問題が生じる可能性がある。通常、4〜10にあることが好ましく、4〜8の範囲にあることがより好ましい。
【0085】
水性樹脂分散体の粘度は、不織布及び繊維等への塗工適性の観点から通常、1,000mPa・s以下であることが好ましく、500mPa・s以下であることがより好ましい。
【0086】
水性樹脂分散体は、固形分として、上記重合体を主として含み、その濃度は、通常、30〜75質量%であることが好ましい。
【0087】
本発明により製造される水性樹脂分散体は、それに含まれる共重合体が架橋されており、更に、未反応モノマー(残留モノマー)の含有量が低減されたものであるから、各種用途への作業性及び安全性に優れるものである。
【0088】
(4)不織布及び/又は繊維加工用バインダー組成物
本発明の不織布及び/又は繊維加工用バインダー組成物は、上記水性樹脂分散体を含むことを特徴とする。不織布及び/又は繊維加工用バインダー組成物の態様は、例えば、(i)水性樹脂分散体のみからなるもの、(ii)水性樹脂分散体に他の重合体(分散安定剤等)を組み合わせたもの、(iii)水性樹脂分散体に添加剤を組み合わせたもの、(iv)水性樹脂分散体に他の重合体(分散安定剤等)及び添加剤を組み合わせたもの等がある。
【0089】
例えば、不織布及び/又は繊維加工用バインダー組成物を用いて得られる不織布が、柔軟性及びウェット強度に優れ、肌触りも良好であるものとするためには、上記水性樹脂組成物の製造に用いる単量体として、(メタ)アクリル酸エステルが(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル及び(メタ)アクリル酸n−ブチルから選ばれた少なくとも1種を含み、且つ、カルボキシル基含有ビニル化合物がメタクリル酸及び/又はアクリル酸を含むことが好ましい。
【0090】
水性樹脂分散体に配合可能な上記他の重合体としては、水性樹脂分散体に含まれる共重合体の分散安定性を向上させるものが好ましく、例えば、ポリビニルアルコール、澱粉、マレイン化ポリブタジエン、マレイン化アルキッド樹脂、ポリアクリルアミド、水性ポリエステル樹脂、水性ポリアミド樹脂及び水性ポリウレタン樹脂等が挙げられる。これら他の重合体は、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0091】
水性樹脂分散体に配合可能な上記添加剤としては、pH調整剤、被膜形成助剤、レベリング剤、増粘剤、撥水剤、消泡剤、防腐剤及び着色剤等が挙げられる。
【0092】
不織布及び/又は繊維加工用バインダー組成物の固形分濃度は、通常、30〜70質量%、好ましくは40〜60質量%である。
【0093】
不織布及び/又は繊維加工用バインダー組成物のpHは、通常、4〜10が好ましく、4.5〜8がより好ましい。
【0094】
本発明により製造された水性樹脂分散体を、不織布等の繊維加工製品及び加工紙等の紙製品等の製造に用いる不織布及び/又は繊維加工用バインダー組成物として用いた場合、塗工後の乾燥により架橋点が更に増加し、原料繊維の触感及び風合いを損なうことなく、隣接する繊維どうしが十分に接合した製品、即ち、強度及び耐熱性が向上した製品を得ることができる。
【0095】
不織布及び/又は繊維加工用バインダー組成物は、パルプ、綿、麻、ジュート及びレーヨン等のセルロース系繊維;ポリエステル、ポリアミド、ポリプロピレン及びアクリル等の合成繊維;羊毛等の動物繊維等からなる原料繊維を含む不織布、特に、キッチンペーパー等食品用の不織布、おしぼり等衛生用の不織布等の製造に好適である。本発明においては、原料繊維としては、セルロース系繊維が好ましく、特に、パルプ、綿及び麻が好ましい。これらの原料繊維を用いてなる不織布は、柔軟性及びウェット強度に優れ、肌触りも良好である。繊維の集合体としては、一定の形状を有するものであってよいし、不定形状を有するものであってもよい。一定の形状を有する場合、例えば、原料繊維からなる繊維シート、この繊維シートを積層してなる積層シート等が挙げられる。
【0096】
不織布及び/又は繊維加工用バインダー組成物を不織布等の繊維加工製品及び加工紙等の紙製品等に塗布する方法としては、浸漬法、スプレー法及びロール法等の方法が適用され、上記繊維集合体の少なくとも繊維どうしの交叉部分に塗布される。塗布工程において、繊維集合体に付着した繊維加工用バインダー組成物の量(固形分換算)は、上記繊維集合体を構成する原料繊維の種類、不織布の用途等により選択され、繊維どうしの結合が十分であり、毛羽立ちが抑制され、原料繊維の特徴を生かした不織布を得ることができる。
【0097】
乾燥工程においては、繊維どうしの交叉部分に塗布された繊維加工用バインダー組成物を乾燥し、繊維集合体を一体化させる。乾燥工程において、繊維加工用バインダー組成物の乾燥は、通常、常圧下で行われ、その温度は、原料繊維の種類により選択される。尚、必要に応じて、加圧下又は減圧下に加熱してもよい。
【0098】
不織布の製造方法においては、必要に応じて、表面加工(エンボス加工等)工程、裁断工程等を備え、シート、袋等とすることができる。不織布の製造方法において、繊維加工用バインダー組成物中のホルムアルデヒド濃度が小さく、アルコール等による臭気が少ないことから、不織布製造上の安全性にも優れる。
【0099】
不織布は、吸水、濾過、保護、洗浄、防臭、防湿、防塵等の目的で用いられる。具体的な用途としては、キッチンペーパー、各種フィルター、衣料品等の、乾燥状態で用いられる製品;おしぼり、ウェットティッシュ、ワイピングクロス等の、湿った状態で用いられる製品等が挙げられる。これらのうち、キッチンペーパーとして用いる場合には、食材(野菜、魚等)及び食品の水切り、天ぷら等の油切り、使用後の天ぷら油等の油こし等の際にも、高い強度を維持し、水、油等を効率よく分離することができること、変質しないこと、及び、繊維がほつれないことから油等の再利用が可能である、等といった利点がある。また、本発明の繊維加工用バインダー組成物を用いて製造された不織布は、キッチンペーパー、各種フィルター、衣料品等の、乾燥状態で用いられる製品;おしぼり、ウェットティッシュ、ワイピングクロス等の、湿った状態で用いられる製品等、吸水、濾過、保護、洗浄、防臭、防湿及び防塵等の用途に好適である。
【0100】
加工繊維(不織布)中のホルムアルデヒドの含有量(遊離ホルムアルデヒド量)は、水性樹脂分散体に含まれる重合体を構成する単量体成分である架橋剤(N−メチロール(メタ)アクリルアミド及び/又はN−アルコキシメチル(メタ)アクリルアミド)に由来するものである。加工繊維(不織布)中のホルムアルデヒドの含有量(遊離ホルムアルデヒド量)は、昭和49年厚生省令34号(乳幼児用)に準拠して求めることができる。不織布中のホルムアルデヒドの含有量は、試料1g当たりの溶出量が16μg/g以下であれば厚生省令34号で定める乳幼児基準に合格となる。
【実施例】
【0101】
以下、本発明について、実施例を挙げて具体的に説明する。尚、本発明は、これらの実施例に何ら制約されるものではない。尚、下記において、「部」は、特に断らない限り、質量基準である。
【0102】
(1)実施例1−1
<第1重合工程>
撹拌機、還流冷却器、滴下槽および温度計を装着した反応容器に、水45質量部を投入し、87℃で維持した。
【0103】
滴下槽には、水30質量部、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.3質量部(乳化剤)、アクリル酸メチル15質量部、アクリル酸ブチル47質量部、スチレン34質量部、アクリル酸2−ヒドロキシエチル2質量部、メタクリル酸1質量部、架橋剤としてN−メトキシメチルアクリルアミド(NMMA)1質量部を投入し撹拌して乳化液を作成した(表1の単量体欄)。
【0104】
この乳化液と過硫酸アンモニウム5質量%水溶液10質量部、そして25質量%アンモニア水0.27質量部を、反応容器に4時間かけて連続的に滴下して乳化重合させた後、さらに1.5時間熟成した。前記熟成中に、過硫酸アンモニウム5質量%水溶液2質量部、25質量%アンモニア水0.07質量部を添加した(表1の開始剤欄)。
【0105】
<第2重合工程>
更に冷却しながらアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.36質量部(乳化剤)、t−ブチルハイドロパーオキシド70質量%水溶液(パーブチルH)0.1質量部、エリソルビン酸ナトリウム0.1質量部を添加し、未反応モノマーの低減処理を実施した(表1の開始剤欄)。
【0106】
最後に25質量%アンモニア水でpH調整を行い、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム1.0質量部を添加し固形分50質量%の水性樹脂分散体を得た。
【0107】
(2)実施例1−10
<第1重合工程>
撹拌機、還流冷却器、滴下槽および温度計を装着した反応容器に、水45質量部を投入し、75℃で維持した。
【0108】
滴下槽には、水30質量部、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.3質量部(乳化剤)、アクリル酸メチル15質量部、アクリル酸ブチル47質量部、スチレン34質量部、アクリル酸2−ヒドロキシエチル2質量部、メタクリル酸1質量部、架橋剤としてN−メトキシメチルアクリルアミド(NMMA)1質量部を投入し撹拌して乳化液を作成した(表1の単量体欄)。
【0109】
この乳化液とt−ブチルハイドロパーオキシド3.5質量%水溶液1.6質量部、及びエリソルビン酸ナトリウム5質量%水溶液1.6質量部を、反応容器に4時間かけて連続的に滴下して乳化重合させた後、さらに1.5時間熟成した。前記熟成中に、t−ブチルハイドロパーオキシド3.5質量%水溶液0.4質量部、及びエリソルビン酸ナトリウム5質量%水溶液0.4質量部を添加した(表1の開始剤欄)。
【0110】
<第2重合工程>
更に冷却しながらアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.36質量部(乳化剤)、t−ブチルハイドロパーオキシド70質量%水溶液(パーブチルH)0.1質量部、エリソルビン酸ナトリウム0.1質量部を添加し、未反応モノマーの低減処理を実施した(表1の開始剤欄)。
【0111】
最後に25質量%アンモニア水でpH調整を行い、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム1.0質量部を添加し固形分50質量%の水性樹脂分散体を得た。
【0112】
その他の実施例及び比較例については、以下の表1の配合組成(単量体欄、第1重合工程の開始剤欄及び第2重合工程の開始剤欄)に従って、前記実施例1と同様に操作を行い、夫々、水性樹脂分散体を得た。
【0113】
(3)試験方法
上記にて得られたバインダー組成物を、蒸留水を使用して、固形分濃度が20%になるように希釈し、ローラーカードを用いて作成したパルプウェブ(NBKPパルプ、目付け量:45g/m2、大きさ10cm×10cm)に均一になるように、4.5g/m2の割合で、スプレー法により塗布し、温度155℃、5分間の条件で乾燥した(架橋工程)。
【0114】
次いで未塗布面に対して4.5g/mなるようにスプレー塗布を行い、温度155℃、5分間乾燥し(架橋工程)、乾式パルプ不織布を得た。
【0115】
次いで、得られた乾式パルプ不織布に、蒸留水を5倍量含浸させ、湿潤状態のパルプ不織布を得た。
【0116】
乾燥強度、湿潤強度、及び遊離ホルマリン量を、以下の方法により測定した。
【0117】
<乾燥強度>
乾式パルプ不織布を、幅2.5cm、長さ10cmの長方形に裁断することにより、乾燥強度測定用の試験片を作製した。
【0118】
次いで、得られた試料を、引張り試験機により、荷重5kg、チャック間距離5cm、引張速度200mm/分の条件で、乾燥時の破断強度を測定した。なお、本実施例においては、破断強度の測定は、1種類の試料につき、8つのサンプルについて行い、その測定結果を平均することにより、乾燥強度を求めた。
【0119】
パルプ不織布の乾燥強度は、0.5N/25mm以上であれば合格とした。
【0120】
<湿潤強度>
湿潤状態(蒸留水含浸)のパルプ不織布を、幅2.5cm、長さ10cmの長方形に裁断することにより、湿潤強度測定用の試験片を作製した。その他は乾燥強度の測定と同様に実施した。
【0121】
パルプ不織布の湿潤強度は、0.2N/25mm以上であれば合格とした。
【0122】
<不織布中のホルムアルデヒド量>
昭和49年厚生省令第34号(乳幼児用)に準拠して測定した。パルプ不織布に含まれる遊離ホルムアルデヒド量は、試料1g当たりの溶出量が16μg/g以下であれば厚生省令34号で定める乳幼児基準に合格とした。
【0123】
<不織布の臭気>
不織布の臭気は、(i)スプレー法で作成した不織布をジップ付きポリエチレン袋に入れ、一日保管し、(ii)1日後にジップ袋中の臭気を判定することで、評価した。評価基準は以下の通りである。
○:臭気を感じない。
△:やや臭気を感じるが、不快ではない。
×:不快な臭気を感じる。
不織布の臭気は、評価結果が○又は△であれば合格とした。
含硫黄系還元剤を使用している場合は、不織布に硫黄系の不快な臭気が残った。
【0124】
水性樹脂分散体に含まれる未反応モノマー(残存モノマー)の量が、300ppm未満であれば、不織布にモノマー臭が残らず、300ppm以上でれば、不織布にややモノマー臭が残った。
【0125】
【表1】

【0126】
【表2】

【0127】
比較例1−1及び1−2は、第1及び第2重合工程において、開始剤に、有機酸若しくはそれらの塩を添加しなかった条件で水性樹脂分散体を製造したものであり、不織布に含まれる遊離ホルムアルデヒド量が多く、また不織布からは残存モノマー及び硫黄系の臭気が感じられた、
【0128】
比較例1−3及び1−4は、第1及び第2重合工程において、反応系のpHが4〜7を満たさない条件で水性樹脂分散体を製造したものであり、不織布に含まれる遊離ホルムアルデヒド量が多い結果となった。
【0129】
比較例1−5は、第1重合工程において、架橋剤として、N−メチロール(メタ)アクリルアミド及び/又はN−アルコキシメチル(メタ)アクリルアミドを含まない条件で水性樹脂分散体を製造したものであり、乾燥強度及び湿潤強度が劣っていた。
【0130】
一方、実施例1−1〜実施例1−10は、(1)エチレン性不飽和結合を有する化合物を含む単量体、並びにN−メチロール(メタ)アクリルアミド及び/又はN−アルコキシメチル(メタ)アクリルアミドを含む単量体混合物を、反応系のpHを4〜7の範囲に制御しながら、過酸化物、又は過酸化物及び有機酸若しくはそれらの塩の存在下で重合する第1重合工程、並びに(2)未反応の前記単量体を更に過酸化物及び有機酸若しくはそれらの塩の存在下で重合する第2重合工程を順次、含む水性樹脂分散体の製造方法により製造した水性樹脂分散体であり、重合後の未反応モノマーの含有量が低減しており、不織布のバインダー性能(乾燥強度及び湿潤強度)を良好に維持でき、不織布中の遊離ホルムアルデヒドが低減しており、更に不織布の臭気も改善できた水性樹脂分散体を製造することができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性樹脂分散体の製造方法であって、
(1)エチレン性不飽和結合を有する化合物を含む単量体、並びにN−メチロール(メタ)アクリルアミド及び/又はN−アルコキシメチル(メタ)アクリルアミドを含む単量体混合物を、反応系のpHを4〜7の範囲に制御しながら、過酸化物、又は過酸化物及び有機酸若しくはそれらの塩の存在下で重合する第1重合工程、並びに
(2)未反応の前記単量体を更に過酸化物及び有機酸若しくはそれらの塩の存在下で重合する第2重合工程を
順次、含むことを特徴とする水性樹脂分散体の製造方法。
【請求項2】
前記第1重合工程の反応系のpHが、4.5〜6であることを特徴とする、請求項1に記載の水性樹脂分散体の製造方法。
【請求項3】
前記第2重合工程の反応系のpHが、4〜7であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の水性樹脂分散体の製造方法。
【請求項4】
前記有機酸若しくはそれらの塩が、アスコルビン酸、エリソルビン酸、酒石酸、クエン酸及びシュウ酸、並びにそれらの塩から選ばれた少なくとも一種であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の水性樹脂分散体の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法により得られた水性樹脂分散体を含むことを特徴とする、不織布及び/又は繊維加工用バインダー組成物。


【公開番号】特開2012−246358(P2012−246358A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−117607(P2011−117607)
【出願日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【出願人】(000003034)東亞合成株式会社 (548)
【Fターム(参考)】