説明

水産加工廃物を含有するペットフード香味料

ほ乳類のペット向けの小包のドライタイプのペットフードのための噴霧可能な風味向上剤であって、蒸発により濃縮された商業的な水産加工作業からの調理水を含む風味向上剤、およびその調製方法が開示されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、市販のペットフードの製造分野に関する。本発明は、特に、商業的な魚類の缶詰作業からの廃水の加工により得られる、市販のペットフード用香味料に関する。
【背景技術】
【0002】
より美味しい製品を提供するという、ほ乳類のペット向けの市販のペットフードの製造業者に対する課題が引き続き存在する。穀物を主成分とする非常に美味しい小包の乾燥ペットフードを提供するという特別な課題がある。しかしながら、多くの場合、ペットフードの美味しさを高めることが知られている原料は高すぎて、そのようなペットフードに商業的に実施可能に含ませることができない。したがって、市販のペットフードの製造業者は、そのような製品に含ませるのに適した低コストの美味しさ向上食材を特定しなければならない。
【0003】
ほ乳類のペット、特にネコは、魚ベースの食材を非常に美味しいとみなすことが知られている。しかしながら、これらの性質を有するこの産業から得られる魚ベースの食材の多くは、市販のペットフードのレシピに含ませるのには高すぎる。さらに、低コストのために市販のペットフードに実施可能に含ませられるであろう廃棄食材または不良食材は、それでも、通常はそれらが収集される厳しい条件または未制御の条件のために、ペットフードの美味しさにどのような価値も与えない傾向にある。
【0004】
魚類の缶詰産業において、水産加工作業の様々な段階で多量の水が使用される。例えば、マグロ加工において、切り落としプロセスの前に、マグロの骨から赤身と白身の肉を容易に分離できるようにするために、マグロ全体を蒸している。この蒸しプロセスに用いられる水は、魚類の食材上に凝縮する傾向にあり、それゆえ、魚肉に関連する多くの可溶性化学物質を吸収する傾向にある。蒸しプロセスからの凝縮物を収集し、水中のBOD量(生物化学的酸素要求量)を減少させ、それによって、廃水のさらなる処理のコストを減少させるために、様々なプロセスを用いて水から固形物を除去してもよい。
【0005】
そのような廃水は、当該技術分野において、「調理水(cook water)」として一般に知られている。参照をし易くするために、「調理水」という用語は、この明細書で用いられる場合、上述したような商業的な魚類缶詰作業から生じる廃水蒸気を称する。
【0006】
そのような処理様式の一つが、エビッチ(Evich)等の特許文献1(「エビッチ」)に開示されている。この文献において、マグロの缶詰作業からの廃水の固形物は、汚泥として廃水中の油分とタンパク質の浮選により濃縮される。汚泥は脱水され、固体支持体と混合され、乾燥される。この文献は動物向け食品に添加物としてこの材料を使用することを示唆しているが、市販の小包のペットフードに使用する場合、押出食材の塊にそのような食材を含ませる必要性と乾燥操作の両方により、その食材の潜在的な美味しさの利点は減少するであろうことが当業者には明らかである。
【0007】
同様のコメントが、キース(Keys)等の特許文献2の内容にも当てはまる。この文献には、エビッチの文献と類似の水処理プロセスが開示されているが、ここでも、乾燥されたか調理された回収固形物を動物向け食餌に含ませてもよいことが示唆されている。一般的に言えば、これらの文献の両方とも、多かれ少なかれ、固形物の都合のよい「処分」としての動物向け食餌中に回収材料の使用を示唆する傾向にある。それらの文献は、市販のペットフードのために着手される製品の風味を開発するという専門の性質の認知は示していない。したがって、これらの文献は、商業的に実行可能なペットフードの美味しさ向上剤に関する当業者の研究には貢献しない。
【特許文献1】米国特許第4282256号明細書
【特許文献2】米国特許第4966713号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
それゆえ、本発明の目的は、魚類食材由来の、比較的低コストである、市販の小包のペットフード用の風味向上剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のある態様によれば、蒸発により濃縮された商業的な水産加工作業からの調理水を含む、ほ乳類のペット向けの小包ペットフード用の噴霧可能な風味向上剤が提供される。意外なことに、この材料は、ほ乳類のペットにとって非常に美味しく、市販の小包のペットフードの全体の美味しさを著しく高めることが分かった。
【0010】
蒸発プロセスの利点は、水中の風味豊かな化合物が、従来技術の方法において破壊され易いようには破壊されないことである。また、これらの化合物は液体状態で供給されるので、押し出されたペットフードのキブルに液体スプレーとしてそれらを塗布し、香味化合物に押出機の潜在的に過酷な条件を経る必要をなくすことができる。同様に、従来技術の方法において必要とされるような乾燥工程を避けることにより、ペットフードのキブル上に塗布する前の香味料の変性が減少する。
【0011】
調理水は、風味向上機能を達成する上で特に良好に働くことが分かっているので、マグロの缶詰作業から生じることが好ましい。この優先傾向にもかかわらず、もちろん、他の種類の魚についての処理作業からの廃水流を考えてもよい。
【0012】
調理水が、重量基準で60%から70%の固形物まで蒸発させられることが都合よい。調理水を製造する好ましい方法は、約5重量%の初期固形分から約65重量%の固形分まで調理水を蒸発させることである。これを、キブルの重量基準で2.5%から10%の間の重量比率でペットフードのキブルに塗布することが好ましい。
【0013】
この製品は、そのままで、または他の風味向上噴霧材料と一緒に加えてもよい。特に好ましい実施の形態において、乾燥ペットフード用の風味向上スプレーは、約65重量%の固形分を有する蒸発させられたマグロ調理水を、水、リン酸、および必要に応じての還元糖と混合することにより調製される。市販の酸化防止剤の混合物などの他の成分を、必要に応じて含ませて、スプレーの寿命を改善してもよい。
【0014】
別の態様において、本発明は、商業的な魚類缶詰作業からの濃縮調理水から少なくともある程度由来する風味向上スプレーコーティングを含む美味しい市販の小包のペットフード製品を提供する。
【0015】
さらに別の態様において、本発明は、商業的な魚類缶詰作業からの濃縮調理水から少なくともある程度由来する風味向上スプレーを市販の小包のペットフード製品に含ませる工程を有してなる、その製品の美味しさを高める手段を提供する。
【0016】
さらに別の態様において、本発明は、ほ乳類のペット向け小包ペットフードのための風味向上スプレーを調製する方法を提供する。市販の小包ペットフード製品のための風味向上スプレー・コーティングを調製する方法は、商業的な水産加工作業からの調理水を、約60重量%から約70重量%の間、好ましくは約65重量%の固形分まで濃縮し、濃縮された調理水をペットフード製品の表面に噴霧する各工程を有してなる。
【0017】
蒸発は二段階操作として行うことが好ましく、第1の蒸発段階を約100℃の温度で行い、第2の蒸発段階を約60℃から約80℃の温度範囲で行うことが都合よい。これらの比較的低温の操作は、調理水中の望ましい風味化合物の分解を防ぐのに役立つ。
【実施例】
【0018】
本発明の性質を、本発明による風味向上剤を含む美味しいペットフード製品の特別な非限定的実施例を用いてさらに説明する。
【0019】
実施例1−ネコ用の市販の小包ペットフード
当該技術分野においてよく知られている成分の混合および食品押出プロセスにより、ネコ用の市販の小包ペットフードを調製した。マグロ缶詰工場からの濃縮調理水(約65重量%の固形分)を調製し、風味向上スプレーの一部として押出キブル内に含ませた。マグロ缶詰工場からの濃縮調理水は、タイ国のインターナショナル・シーフード・アソシエート社(International Seafood Associate Co. Ltd.)から得た。マグロ缶詰工場からの濃縮調理水を調製する一般的なプロセスが図1に示されている。
【0020】
マグロの調理水を混合して、表1の配合によるスプレーを調製した。
【表1】

【0021】
次いで、この液体スプレーを、7重量%の比率で市販のドライタイプのキャットフード・キブルに塗布した。マグロの調理水を添加した製品および標準的な製品の配合の詳細が以下の表2に示されている。
【表2】

【0022】
両方のキャットフード製品を、179匹のネコのパネル群に与えた。それぞれのネコに、5日に亘り一日当たり60gの製品を与えた。給餌に対するネコの応答を記録した。給餌したもの全てをネコが実際に食べた場合の各給餌の全体のパーセント(完食%)、および1から100の尺度で評価した、ネコがペットフードを食べるのをどれだけ楽しんでいるかのネコの飼い主の認識(満喫)が以下の表3に示されている。
【表3】

【0023】
これらの結果に、事後比較に関するANOVAモデルにより統計分析を行った。上記結果により、マグロの調理水を含有する製品のほうが、標準的な製品よりも多い容積で食べられ、ネコは、標準的な製品よりもマグロの調理水を含有する製品を食べるほうがずっと楽しんでいるようであったことが示される。このことは、マグロの調理水に基づく風味向上スプレーの美味しさの増大効果を明らかに示している。
【0024】
実施例2−ネコ用の市販の小包ペットフード
上述したマグロ調理水を再度混合して、表4の配合によるスプレーを調製した。
【表4】

【0025】
次いで、この液体スプレーを、7重量%の比率で市販のドライタイプのキャットフード・キブルに塗布した。マグロの調理水を添加した製品および標準的な製品の配合の詳細が、市販のペットフード用の香味料として当該技術分野においてよく知られた種類の、鶏の内臓ベースの消化物から調製した風味スプレーが塗布された市販のペットフードの配合と共に、以下の表5に示されている。
【表5】

【0026】
全てのキャットフード製品を、179匹のネコのパネル群に与えた。それぞれのネコに、5日に亘り一日当たり60gの製品を与えた。給餌に対するネコの応答を記録した。給餌したもの全てをネコが実際に食べた場合の各給餌の全体のパーセント(完食%)、5%未満しか食べられなかった給餌の数(拒絶%)、実際に食べられた給餌のパーセント(食べた%)、および1から100の尺度で評価した、ネコがペットフードを食べるのをどれだけ楽しんでいるかのネコの飼い主の認識(満喫)が以下の表6に示されている。
【表6】

【0027】
これらの結果に、事後比較に関するANOVAモデルにより統計分析を行った。上記結果により、マグロの調理水を含有する製品のほうが、標準的な製品よりも多い容積で食べられ、ネコは、標準的な製品よりもマグロの調理水を含有する製品を食べるほうがずっと楽しんでいるようであったことが示される。このことは、マグロの調理水に基づく風味向上スプレーの美味しさの増大効果を明らかに示している。また、これにより、マグロ調理水の美味しさへのポジティブな効果は、従来からの鶏の内臓ベースの消化物に関する効果と少なくとも同じくらい強いことが示されている。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明による濃縮されたマグロ缶詰工場の調理水を調製するプロセスの流れ図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ほ乳類のペット向けのドライタイプの小包のペットフードのための噴霧できる風味向上剤であって、蒸発により濃縮された、商業的な水産加工作業からの調理水を含むことを特徴とする風味向上剤。
【請求項2】
前記調理水がマグロ缶詰作業から生じることを特徴とする請求項1記載の風味向上剤。
【請求項3】
前記調理水が、前記風味向上剤に含まれる前に、約60重量%から約70重量%の固形分まで蒸発されていることを特徴とする請求項1または2記載の風味向上剤。
【請求項4】
前記調理水が、前記風味向上剤に含まれる前に、約65重量%の固形分まで蒸発されていることを特徴とする請求項3記載の風味向上剤。
【請求項5】
蒸発せしめられた前記調理水がリン酸および必要に応じての還元糖と混合されていることを特徴とする請求項3または4記載の風味向上剤。
【請求項6】
水、ソルビン酸カリウム、および酸化防止剤からなる群より選択される一種類以上の材料をさらに含むことを特徴とする請求項5記載の風味向上剤。
【請求項7】
ほ乳類のペット向けの穀物ベースの押出キブルに塗布されることを特徴とする請求項1から6いずれか1項記載の風味向上剤。
【請求項8】
市販の小包ペットフード製品に塗布するための風味向上スプレーを調製する方法であって、
商業的な水産加工作業からの調理水を蒸発により、約60重量%から約70重量%の間、好ましくは約65重量%の固形分まで濃縮し、
濃縮した前記調理水を前記ペットフード製品の表面に噴霧する、
各工程を有してなる方法。
【請求項9】
前記蒸発を二段階操作で行うことを特徴とする請求項8記載の方法。
【請求項10】
第1の蒸発段階を約100℃の温度で行い、第2の蒸発段階を約60℃から約80℃の温度範囲で行うことを特徴とする請求項9記載の方法。
【請求項11】
前記濃縮した調理水を、水、還元糖、ソルビン酸カリウム、酸化防止剤、およびリン酸からなる群より選択される一種類以上の材料と混合する工程をさらに含むことを特徴とする請求項8から10いずれか1項記載の方法。
【請求項12】
請求項1から6いずれか1項記載の噴霧できる風味向上剤を有してなる美味しい市販の小包ペットフード製品。
【請求項13】
前記風味向上剤が、約2.5重量5から約10重量%の間、好ましくは約7重量%の重量比で前記ペットフード製品に含まれていることを特徴とする請求項12記載のペットフード製品。
【請求項14】
前記ペットフード製品が穀物ベースの押出キブルであることを特徴とする請求項12または13記載のペットフード製品。
【請求項15】
市販の小包ペットフード製品の美味しさを増す方法であって、前記ペットフード製品に請求項1から6いずれか1項記載の風味向上剤を噴霧する工程を有してなる方法。
【請求項16】
実質的に実施例を参照してここに説明したような、ほ乳類のペット向けのドライタイプの小包ペットフードのための噴霧できる風味向上剤。
【請求項17】
実質的に実施例を参照してここに説明したような、ほ乳類のペット向けのドライタイプの小包ペットフードのための噴霧できる風味向上剤を調製する方法。
【請求項18】
市販の小包ペットフード製品であって、実質的に実施例を参照してここに説明したような噴霧できる風味向上剤を含むことを特徴とするペットフード製品。
【請求項19】
実質的に実施例を参照してここに説明したような、市販の小包ペットフード製品の美味しさを増す方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ほ乳類のペット向けのドライタイプの小包のペットフードのための噴霧できる風味向上剤であって、蒸発により濃縮された、商業的な水産加工作業からの調理水を含むことを特徴とする風味向上剤。
【請求項2】
前記調理水がマグロ缶詰作業から生じることを特徴とする請求項1記載の風味向上剤。
【請求項3】
前記調理水が、前記風味向上剤に含まれる前に、約60重量%から約70重量%の固形分まで蒸発されていることを特徴とする請求項1または2記載の風味向上剤。
【請求項4】
前記調理水が、前記風味向上剤に含まれる前に、約65重量%の固形分まで蒸発されていることを特徴とする請求項3記載の風味向上剤。
【請求項5】
蒸発により濃縮された、商業的な水産加工作業からの前記調理水がリン酸および必要に応じての還元糖と混合されていることを特徴とする請求項1から4いずれか1項記載の風味向上剤。
【請求項6】
水、ソルビン酸カリウム、および酸化防止剤からなる群より選択される一種類以上の材料をさらに含むことを特徴とする請求項5記載の風味向上剤。
【請求項7】
ほ乳類のペット向けの穀物ベースの押出キブルに塗布されることを特徴とする請求項1から6いずれか1項記載の風味向上剤。
【請求項8】
市販の小包ペットフード製品に塗布するための風味向上スプレーを調製する方法であって、
商業的な水産加工作業からの調理水を蒸発により、約60重量%から約70重量%の間、好ましくは約65重量%の固形分まで濃縮し、
濃縮した前記調理水を前記ペットフード製品の表面に噴霧する、
各工程を有してなる方法。
【請求項9】
前記蒸発を二段階操作で行うことを特徴とする請求項8記載の方法。
【請求項10】
第1の蒸発段階を約100℃の温度で行い、第2の蒸発段階を約60℃から約80℃の温度範囲で行うことを特徴とする請求項9記載の方法。
【請求項11】
前記濃縮した調理水を、水、還元糖、ソルビン酸カリウム、酸化防止剤、およびリン酸からなる群より選択される一種類以上の材料と混合する工程をさらに含むことを特徴とする請求項8から10いずれか1項記載の方法。
【請求項12】
請求項1から6いずれか1項記載の噴霧できる風味向上剤を有してなる美味しい市販の小包ペットフード製品。
【請求項13】
前記風味向上剤が、約2.5重量5から約10重量%の間、好ましくは約7重量%の重量比で前記ペットフード製品に含まれていることを特徴とする請求項12記載のペットフード製品。
【請求項14】
前記ペットフード製品が穀物ベースの押出キブルであることを特徴とする請求項12または13記載のペットフード製品。
【請求項15】
市販の小包ペットフード製品の美味しさを増す方法であって、前記ペットフード製品に請求項1から6いずれか1項記載の風味向上剤を噴霧する工程を有してなる方法。

【図1】
image rotate


【公表番号】特表2006−506997(P2006−506997A)
【公表日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−555163(P2004−555163)
【出願日】平成15年11月21日(2003.11.21)
【国際出願番号】PCT/NZ2003/000258
【国際公開番号】WO2004/047555
【国際公開日】平成16年6月10日(2004.6.10)
【出願人】(390037914)マーズ インコーポレイテッド (80)
【氏名又は名称原語表記】MARS INCORPORATED
【Fターム(参考)】