説明

水白化耐性コーティングのためのコポリマー分散物

【課題】水白化耐性の有意な向上を伴う、ストーン塗料のようなコーティングのためのコポリマー分散物の提供。
【解決手段】コポリマーは(メタ)アクリラートC−C22アルキルエステルまたはバーサティックビニルエステルから選択される少なくとも1種の非イオン性モノマーを共重合単位として含み;前記非イオン性モノマーの量が15%から50%未満の範囲であり;並びに、前記ポリアミンの量が前記コポリマーの乾燥重量を基準にした乾燥重量パーセンテージで0.1〜2%の範囲である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は概して、インストア塗料に、または優れた水白化耐性を必要とする他の建築用屋外もしくは屋内コーティングに使用するための水性コポリマー分散物に関する。
【背景技術】
【0002】
水白化(water whitening)耐性は多くの建築用コーティングに必要とされる。通常、水性ラテックスエマルションが乾燥する際に、ラテックス粒子は合体して膜を形成する。コーティング中の他の成分、例えば、界面活性剤、開始剤、緩衝剤、造膜助剤および防腐剤(これらは、イオン的に帯電していてよくかつ水可溶性であってよい)が膜の隙間領域に捕捉される。これら成分はその親水的化学的特性のせいで水を引き付ける傾向があり、この特性は水が膜表面から隙間領域に容易に移動することができる駆動力を膜に与え、よって水白化問題を引き起こす。
【0003】
ラテックス組成物の水白化耐性は親水性成分を除去し、特定のモノマーをポリマーラテックスに導入し、またはポリマーラテックスを架橋することにより向上されうる。しかし、これらの方法はプロセスの単純さ、コスト効果性および性能バランスという点で依然として理想的ではない。
【0004】
ポリアミンは、水性コーティング組成物のためのアクリル系コポリマー分散物中で添加剤として使用されている。特開平7−026194A号は、−20℃以上のガラス転移温度を有するアクリル系コポリマー(A)とポリアミン添加剤(B)とを重量比0.05〜40(B)/100(A)で配合することにより、基体への接着性、硬度および防汚特性の向上を伴うコーティングのための水系分散物を提供する。(a)0.1〜40重量%のエチレン性不飽和カルボン酸、(b)50〜99.9重量%の(メタ)アクリル酸アルキル、および(c)0〜49.9重量%の他の共重合性モノマー((a)+(b)+(c)=100重量%)のモノマーは共重合にかけられて、コポリマー(A)を製造する。水系分散物は性能評価における良好な耐水性を示す。しかし、この分散物の水白化耐性特性はその文献においては言及されていない。本発明者は驚くべきことに、配合コポリマー組成、並びにコポリマーとポリアミン添加剤との含量を調節することにより、それから得られる乾燥塗膜の水白化耐性特性が明らかに向上させられうることを見いだした。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−026194号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
よって、本発明によって取り組まれる課題は、コーティングから得られる乾燥塗膜の、より高水準の水白化耐性を示すコーティングにおける適用のためのコポリマー分散物を見いだすことである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明はコポリマーが(メタ)アクリラートC−C22アルキルエステルまたはバーサティック(Versatic)ビニルエステルから選択される少なくとも1種の非イオン性モノマーを共重合単位として含み、非イオン性モノマーの量が15%から50%未満の範囲であり、ポリアミンの量がコポリマーの乾燥重量を基準にした乾燥重量パーセンテージで0.1〜2%の範囲である、コポリマーおよびポリアミンを含む水性コポリマー分散物に関する。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の組成物もしくはコポリマー中の成分を記載する目的のために、丸括弧を含む全ての語句は挿入事項を含むものとそれがないもののいずれかまたは双方を示す。例えば、語句「(メタ)アクリラート」は、アクリラート、メタクリラートおよびこれらの混合物を意味する。
【0009】
水性コポリマー分散物は少なくとも1種のコポリマーおよび少なくとも1種のポリアミンを本質的に含む。ポリアミンの量はコポリマーの乾燥重量を基準にした乾燥重量パーセンテージで0.1〜2%の範囲である。
【0010】
本明細書において使用される場合、用語「重量%」は重量基準のパーセントを意味するものとする。他に示されない限りは、コポリマー分散物の全乾燥重量を基準にした乾燥重量パーセンテージに基づくことを意味するものとする。コポリマーは、共重合単位として、少なくとも1種のエチレン性不飽和非イオン性モノマーa)を含む。本明細書においては、「非イオン性モノマー」とは、(メタ)アクリラートC−C22アルキルエステルまたはバーサティックビニルエステルモノマーをいい、これはpH=1〜14でイオン性電荷を有しない。適切な非イオン性モノマーには、(メタ)アクリルエステル、例えば、2−エチルヘキシル(メタ)アクリラート、シクロヘキシル(メタ)アクリラート、テトラデシル(メタ)アクリラート、オレイル(メタ)アクリラート、パルミチル(メタ)アクリラート、ステアリル(メタ)アクリラート、デシル(メタ)アクリラート、ラウリル(メタ)アクリラートおよびイソデシル(メタ)アクリラートなど;スクシナート、例えば、ジヘキシルスクシナートおよびジデシルスクシナートなど;並びにバーサティックビニルエステル(ベオバ;Veova)、例えば、ベオバ8、ベオバ9、ベオバ10、およびベオバ11などが挙げられる。好ましくは、エチレン性不飽和非イオン性モノマーは2−エチルヘキシル(メタ)アクリラート、デシル(メタ)アクリラート、ラウリル(メタ)アクリラート、イソデシル(メタ)アクリラート、ベオバ8、ベオバ9、ベオバ10、ベオバ11およびこれらの組み合わせからなる群から選択される。より好ましくは非イオン性モノマーは2−エチルヘキシル(メタ)アクリラート、ラウリル(メタ)アクリラート、ベオバ9、ベオバ10、ベオバ11およびこれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0011】
コポリマー中の非イオン性モノマーの量は15重量%から50重量%未満、好ましくは20重量%から50重量%未満、より好ましくは30重量%から50重量%未満の範囲である。コポリマーが多量の、例えば、50重量%以上、または70重量%以上の非イオン性残基を含む場合には、特に2重量%を超えるポリアミンが組成物中に使用される場合に、乾燥塗膜は水白化耐性だけではなく他の性能、例えば、耐スクラブ性および粘着性においても悪影響を示す。
【0012】
コポリマーは場合によっては、10重量%以下、好ましくは2重量%〜10重量%、より好ましくは2重量%〜8重量%の自己架橋性モノマーb)を共重合単位として含む。この「自己架橋性モノマー」は、本明細書においては、アセトアセトキシもしくはアセトアセタミド、またはN−ヒドロキシルメチル基を含むモノマーをいう。自己架橋性モノマーのいくつかは非イオン性であるが、それらは本発明における上記「非イオン性モノマー」カテゴリーとして見なされない。適切な自己架橋性モノマーには、ヒドロキシルメチルアミドモノマー、例えば、N−ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミドなど;アセトアセトキシもしくはセトアセタミド官能性モノマー、例えば、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリラート、アセトアセトキシプロピル(メタ)アクリラート、アセトアセトキシブチル(メタ)アクリラート、および2,3−ジ(アセトアセトキシ)プロピル(メタ)アクリラートなど;アリルアセトアセタート;ビニルアセトアセタート;並びに式Iのアセトアセタミド
【化1】

(式中、RはHまたはメチルである)が挙げられる。好ましいアセトアセトキシ官能性モノマーは、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリラート、アセトアセトキシプロピル(メタ)アクリラート、アリルアセトアセタート、アセトアセトキシブチル(メタ)アクリラート、2,3−ジ(アセトアセトキシ)プロピル(メタ)アクリラートおよびこれらの組成物からなる群から選択される。
【0013】
共重合された自己架橋性モノマーの付加が観察され、水白化耐性および他の特性、例えば、耐スクラブ性、ダートピックアップ耐性、乾燥塗膜の硬度を向上させる。
【0014】
コポリマーは、少なくとも1つのアルコキシシラン官能基、好ましくは加水分解性アルコキシシラン官能基を有するエチレン性不飽和モノマーc)を共重合単位として、3重量%以下、好ましくは0.05重量%〜1.5重量%、より好ましくは0.1重量%〜1重量%で、さらに含むことができる。アルコキシシラン官能化モノマーには、例えば、ビニルトリアルコキシシラン、例えば、ビニルトリメトキシシランなど;アルキルビニルジアルコキシシラン;(メタ)アクリルオキシアルキルトリアルコキシシラン、例えば、(メタ)アクリルオキシエチルトリメトキシシランおよび(メタ)アクリルオキシプロピルトリメトキシシラン;並びにこれらの誘導体が挙げられる。本明細書においては、アルコキシシラン官能性モノマーは上記「非イオン性モノマー」カテゴリーには属さない。
【0015】
アルコキシシラン官能性モノマーは、コポリマーの共重合中にまたは少なくとも1種のエチレン性不飽和非イオン性モノマーと少なくとも1種のアルコキシシラン形成可能な(alkoxysilane−capable)前駆体モノマーとの重合後に加えられうる。「アルコキシシラン形成可能な前駆体モノマー」とは、本明細書においては、共重合後にアルコキシシラン含有化合物と反応することができ、コポリマー、例えば、シラン含有コポリマーを形成するためのアミノシランもしくはエポキシシランを共重合単位として含むコポリマー、に結合したアルコキシシラン含有官能基を生じさせることができる反応性基を有するモノマーをいう。
【0016】
コポリマーは、カルボキシル、無水カルボキシル、ヒドロキシルおよびアミドから選択される少なくとも1種の官能基を含む少なくとも1種のエチレン性不飽和モノマーd)を共重合単位として、5重量%以下、好ましくは0.5重量%〜3重量%、より好ましくは0.5重量%〜2重量%で、さらに含むことができる。このモノマーカテゴリーの例には、エチレン性不飽和カルボン酸、特に、(メタ)アクリル酸;ジカルボン酸、例えば、イタコン酸およびマレイン酸など;アミド、特に、上記カルボン酸のN−アルキロールアミドまたはヒドロキシアルキルエステル、例えば、(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド;ヒドロキシエチル(メタ)アクリラートおよびヒドロキシプロピル(メタ)アクリラートが挙げられる。好ましいのはカルボン酸モノマーである。本明細書におけるアミドモノマーは上記「非イオン性モノマー」カテゴリーに属さない。
【0017】
コポリマーにおけるモノマーのパーセンテージの合計は100%である。選択的モノマーがコポリマー中に存在する場合には、他のモノマーは上限をより低くすることによりそのスケールを低減させうる。選択的な非イオン性自己架橋性モノマー、アルコキシシラン官能性モノマー、またはカルボキシル、無水カルボキシル、ヒドロキシルおよびアミドから選択される少なくとも1種の官能基を含む他のモノマーが存在する場合には、組成物中のアルキル(メタ)アクリラートの合計量は50重量%未満であるべきである。
【0018】
本発明の水性コポリマー分散物は添加剤として、少なくとも2つのアミノ基を有する少なくとも1種のポリアミンを0.1重量%〜2重量%、好ましくは0.3重量%〜2重量%、より好ましくは0.5重量%〜2重量%含む。適切なポリアミンには、例えば、(共)重合単位として、ビニルアミン、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ポリエチレンイミンおよびポリプロピレンイミンなど;エチレンオキシドアミン付加物、プロピレンオキシド付加物、シクロヘキサンジアミン、キシリレンジアミン、アミノトリメチルシクロヘキサンアミン、2,2,4−トリメチルヘキサンジアミン、2,2−ジメチルプロパンジアミン、トリアミノノナン、ジェフアミン(JEFF(商標)アミン;ハンツマン、米国、ユタ州、ソルトレークシティー)、N−(2−アミノエチル)エタノールアミン ジアミノメチルシクロヘキサン、およびその組成物、トリメチレンジアミン、1,2−ブチレンジアミン、イソブチレンジアミン、ジアミン、N−エチルエチレンジアミン、N,N’−ジメチルエチレンジアミン;1,2−ジアミノシクロブタン、1,3−ジアミノシクロヘキサン、N−エチル−1,4−ジアミノシクロヘキサン;o−,m−フェニレンジアミン、2,4−ジアミノトルエン、o−,m−アミノメチルアニリン、N−フェニルアミノエチルアミン、3,9−ビス(3−アミノプロピル)−2,4,8,10−テトラオキソスピロ[5,5]ウンデカン;3−アザヘキサン−1,6−ジアミン、4,7−ジアザデカン−1,10−ジアミン、イミノビスプロピルアミン;およびこれらの組成物を含むホモポリマーもしくはコポリマーが挙げられる。
【0019】
本発明のある実施形態においては、水性コポリマー分散物は75〜99.9重量%の少なくとも1種のコポリマーおよび0.1〜2重量%の、エタンジアミン、プロパンジアミン、ジエチレンジアミン、トリエチレンテトラミン、ジエチレントリアミン、ジェフアミン、N−(2−アミノエチル)エタノールアミンおよびこれらの組成物からなる群から選択される少なくとも1種のポリアミンを含み、このコポリマーは共重合単位として以下のものを含む:
a)2−エチルヘキシル(メタ)アクリラート、デシル(メタ)アクリラート、ラウリル(メタ)アクリラート、イソデシル(メタ)アクリラート、ベオバ8、ベオバ9、ベオバ10、ベオバ11およびこれらの組成物からなる群から選択される1種以上の非イオン性モノマーを20重量%から50重量%未満;
b)N−ヒドロキシルメチル(メタ)アクリルアミド、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリラート、アセトアセトキシプロピル(メタ)アクリラート、アセトアセトキシブチル(メタ)アクリラート、2,3−ジ(アセトアセトキシ)プロピル(メタ)アクリラート;アリルアセトアセタート;ビニルアセトアセタートおよびこれらの組成物からなる群から選択される1種以上の自己架橋性モノマーを10重量%以下;
c)メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、(メタ)アクリルアミドおよびこれらの組成物からなる群から選択される1種以上のモノマーを0.5重量%〜5重量%;
d)ビニルトリメトキシシラン、アルキルビニルジアルコキシシラン、(メタ)アクリルオキシエチルトリメトキシシラン、(メタ)アクリルオキシプロピルトリメトキシシランおよびこれらの組成物から選択される少なくとも1つのアルコキシシラン官能基を有するモノマーを3重量%以下。
【0020】
上記モノマーのなかでは、カテゴリーb)、c)もしくはd)に該当するモノマーはカテゴリーa)に該当しない。
【0021】
場合によっては、コポリマーはコポリマーの乾燥重量を基準にした重量で、5重量%以下、好ましくは0.5重量%〜3重量%、より好ましくは1.0重量%〜2.5重量%、の共重合された多エチレン性不飽和モノマー、例えば、アリルメタクリラート、ジアリルフタラート、1,4−ブチレングリコールジメタクリラート、1,2−エチレングリコールジメタクリラート、1,6−ヘキサンジオールジアクリラートおよびジビニルベンゼンなどを含むことができる。共重合された多エチレン性不飽和モノマーを使用しないのが好ましい。
【0022】
コポリマーのガラス転移温度(Tg)は−35℃〜60℃、好ましくは−15℃〜40℃、より好ましくは−10℃〜30℃である。本明細書において使用されるTgは、フォックス式(T.G.Fox,Bull.Am.Physics Soc.,第1巻、第3号、123ページ(1956年))を用いて計算されるものである。すなわち、モノマーM1およびM2のコポリマーのTgを計算するために
【数1】

式中、Tg(calc.)はコポリマーについて計算されるガラス転移温度であり、w(M1)はコポリマー中のモノマーM1の重量分率であり、w(M2)はコポリマー中のモノマーM2の重量分率であり、Tg(M1)はM1のガラス転移温度であり、Tg(M2)はM2のガラス転移温度であり、全ての温度はK単位である。ガラス転移温度は、例えば「Polymer Handbook(ポリマーハンドブック)」J.Brandrup(ブランドラップ)およびE.H.Immergut(イメルグート)編、Interscience Publishers(インターサイエンスパブリシャーズ)に認められうる。
【0023】
コポリマーを製造するのに使用される重合技術は当該技術分野において周知であり、例えば、乳化重合である。乳化重合プロセスにおいては、従来の界面活性剤、例えば、アニオン性および/または非イオン性乳化剤、例えば、アルキル、アリールもしくはアルキルアリール硫酸、スルホン酸もしくはリン酸のアルカリ金属もしくはアンモニウム塩;アルキルスルホン酸;スルホコハク酸塩;脂肪酸;エチレン性不飽和界面活性剤モノマー;並びにエトキシ化アルコールもしくはフェノールなどが使用されうる。使用される界面活性剤の量は、モノマーの重量を基準にして通常0.1重量%〜6重量%である。熱もしくはレドックス開始プロセスが使用されうる。反応温度は反応の過程全体にわたって、100℃未満の温度に維持される。30℃〜95℃の反応温度が好ましく、50℃〜90℃がより好ましい。モノマー混合物はそのままでもしくは水中のエマルションとして添加されうる。モノマー混合物は1回以上の添加でまたは連続的に、反応期間にわたって線形的にもしくは線形的ではなく、またはその組み合わせで添加されうる。
【0024】
従来のフリーラジカル開始剤、例えば、過酸化水素、過酸化ナトリウム、過酸化カリウム、t−ブチルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、過硫酸アンモニウムおよび/または過硫酸アルカリ金属、過ホウ酸ナトリウム、過リン酸およびその塩、過マンガン酸カリウム、並びにペルオキシ二硫酸のアンモニウムもしくはアルカリ金属塩などが、典型的には全モノマーの重量を基準にして0.01重量%〜3.0重量%の量で使用されうる。適切な還元剤、例えば、ホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム、アスコルビン酸、イソアスコルビン酸、硫黄含有酸のアルカリ金属およびアンモニウム塩、例えば、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素塩、チオ硫酸塩、ハイドロサルファイト、硫化物、水硫化物もしくは亜ジチオン酸塩、ホルマジンスルフィン酸(formadinesulfinic acid)、ヒドロキシメタンスルホン酸、アセトンビサルファイト(acetone bisulfite)、アミン、例えば、エタノールアミン、グリコール酸、グリオキシル酸水和物、乳酸、グリセリン酸、リンゴ酸、酒石酸、ならびに前記の酸の塩などと一緒に同じ開始剤を使用するレドックスシステムが使用されてもよい。鉄、銅、マンガン、銀、白金、バナジウム、ニッケル、クロム、パラジウムまたはコバルトのレドックス反応触媒金属塩が使用されうる。これら金属のためのキレート化剤が場合によって使用されてもよい。
【0025】
フリーラジカル発生開始剤を用いて連鎖移動剤なしで得られたであろうよりも、エマルションポリマーの分子量を小さくするためにおよび/または異なる分子量分布を提供するために、連鎖移動剤、例えば、テトラブロモメタンのようなハロゲン化合物;アリル成分;またはアルキルチオグリコラート、アルキルメルカプトアルカノアート、およびC−C22線状もしくは分岐のアルキルメルカプタンのようなメルカプタンなどが使用されうる。連鎖移動剤は1回以上の添加でもしくは連続的に、線形的にもしくはそうではなく、全反応期間のほとんどもしくは全てにわたって、または反応期間の限定された期間中で、例えば、ケトルチャージで、および残留モノマー段階の低減において添加されうる。連鎖移動剤は典型的には水性コポリマー分散物を形成するために使用されるモノマーの全重量を基準にして0〜5重量%の量で使用される。連鎖移動剤の好ましい量は、水性コポリマー分散物を形成するために使用されるモノマーの合計モル数を基準にして、0.01〜0.5モル%、より好ましくは0.02〜0.4モル%、最も好ましくは0.05〜0.2モル%である。
【0026】
本発明の別の実施形態においては、水性エマルションポリマーは、組成が異なる少なくとも2つの段階が逐次的な様式で重合される多段階乳化重合プロセスによって製造されることができる。このプロセスは場合によっては、少なくとも2つの相互に非混和性のポリマー組成物の形成をもたらし、それによりポリマー粒子内に少なくとも2つの相の形成をもたらす。この粒子は様々な配置もしくは形態、例えば、コア/シェルもしくはコア/シース粒子、シェル相が不完全にコアを封入しているコア/シェル粒子、複数のコアを有するコア/シェル粒子、および相互侵入網目(interpenetrating network)粒子などの2以上の相から構成される。これらのケースの全てにおいて、粒子の表面領域の過半は少なくとも1つの外側相によって占有されているであろうし、粒子の内部は少なくとも1つの内側相によって占有されているであろう。多段階エマルションポリマーの段階のそれぞれは、本明細書においてエマルションポリマーについて上述したのと同じモノマー、界面活性剤、連鎖移動剤などを含むことができる。多段階ポリマー粒子の場合には、本発明の目的のためのTgは、この中の段階もしくは相の数とは関係なくエマルションポリマーの全体組成を用いて、本明細書において詳述したフォックス式によって計算されるものである。同様に、多段ポリマー粒子については、モノマーの量は、この中の段階もしくは相の数とは関係なくエマルションポリマーの全体組成から決定されるものとする。例えば、第1段階組成物は主としてスチレンを含んでなり、第2の段階は本発明によって記載される組成物を含んでなる。さらに、コポリマー粒子のコアは中空(すなわち、空気の空隙)であってよい。このような多段階エマルションポリマーを製造するために使用される重合技術は当該技術分野において、例えば、米国特許第4,325,856号;第4,654,397号;および第4,814,373号などにおいて周知である。好ましくは、モノマーb)は多段階乳化重合の一工程のみに含まれる。
【0027】
コポリマー分散粒子の平均粒子直径はBI−90パーティクルサイザーによって測定して、50〜350ナノメートル、好ましくは50〜300ナノメートルである。
【0028】
水性コポリマー分散物は中和剤として有機塩基および/または無機塩基を含むこともできる。適切な塩基には、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、酸化亜鉛、モノエタノールアミン、トリエチルアミン、ジエチルアミン、ジメチルアミン、ホウ酸ナトリウム、ホウ酸カリウム、水酸化アルミニウムおよびこれらの組成物が挙げられる。
【0029】
本発明のコポリマー分散物は場合によってコーティング組成物を製造するために、顔料を含むか、または顔料と配合されることができる。顔料の例には、例えば、酸化亜鉛、酸化アンチモン、酸化ジルコニウム、酸化クロム、酸化鉄、酸化鉛、硫化亜鉛、リトポンおよび二酸化チタン、例えば、アナターゼおよびルチル二酸化チタンなどが挙げられる。コーティング組成物は場合によっては不透明ポリマー粒子、例えば、Ropaque(商標)(ローパック)不透明ポリマー(米国、ペンシルベニア州、フィラデルフィアのロームアンドハースカンパニー)など;および/または炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、マイカ、クレイ、焼成クレイ、長石、霞石、閃長岩、珪灰石、珪藻土、アルミナシリケート、酸化アルミニウム、シリカ、およびタルクをはじめとするエキステンダー;および/または当該技術分野において知られている着色剤を含むことも意図される。
【0030】
ある実施形態においては、水性コポリマー分散物もしくは水性コーティング組成物は、30〜90%、好ましくは50〜90%の顔料体積濃度(PVC)を有しうる。
【0031】
本発明の水性コポリマー分散物から製造される水性コーティング組成物は、当該技術分野において、低光沢もしくは艶消しコーティング、プライマー、テクスチャー化コーティングなどとして説明されうるコーティングもしくは塗料組成物を包含することを意図する。水性コーティング組成物はコーティング技術分野において周知の技術によって製造される。まず、場合によっては、コーレス(COWLES)ミキサーによって提供されるような高剪断下で少なくとも1種の顔料が水性媒体中に充分に分散されるか、または代替的には、少なくとも1種のあらかじめ分散された顔料が使用されうる。次いで、水性コポリマー分散物が低剪断攪拌下で、所望の場合には他のコーティングアジュバントと共に添加される。あるいは、水性コポリマー分散物は任意の顔料分散工程において組み込まれうる。水性組成物は従来のコーティングアジュバント、例えば、粘着付与剤、乳化剤、造膜助剤、例えば、Texanol(商標)(テキサノール)(イーストマンケミカルカンパニー)など、共溶媒(cosolvent)例えば、グリコールおよびグリコールエーテルなど、緩衝剤、中和剤、増粘剤もしくはレオロジー調節剤、保湿剤、湿潤剤、殺生物剤、可塑剤、消泡剤、着色剤、ワックスおよび酸化防止剤などを含むことができる。
【0032】
水性コポリマー分散物の固形分量は約10体積%〜約70体積%でありうる。水性コポリマー分散物の粘度は、ブルックフィールド粘度計を用いて測定して0.05〜10Pa・s(50cps〜10,000cps)であり得る。様々な適用方法に適した粘度はかなり変化する。
【0033】
水性コポリマー分散物もしくはそれから得られるコーティング組成物は従来の適用方法、例えば、はけ塗り、ローラー適用、およびスプレー方法、例えば、エアアトマイズドスプレー、エアアシストスプレー、エアレススプレー、高体積低圧スプレー、およびエアアシストエアレススプレーなどによって適用されうる。
【0034】
水性コポリマー分散物もしくはそれから得られるコーティング組成物は基体、例えば、プラスチック、木材、金属、前処理された面、あらかじめ塗装された面、石、コンクリート、セラミックおよびセメント質基体などに適用されるのに適する。基体上にコーティングされたコーティング組成物または水性コポリマー分散物は典型的には、1℃〜95℃の温度で乾燥させられるかまたは乾燥可能にされる。
【0035】
本明細書においては、それぞれの好ましい技術的解決策およびより好ましい技術的解決策における技術的特徴は互いに組み合わせられて、他に示されない限りは、新たな技術的解決策を形成することができる。簡潔さのために、出願人はこれらの組み合わせについての記載を省略する。しかし、これら技術的特徴を組み合わせることにより得られる全ての技術的解決策は本明細書中に明確に文字通り記載されていると見なされるべきである。
【実施例】
【0036】
I.原料
【表1】

【0037】
II.試験手順
ビニルプレート上の乾燥塗膜の水白化耐性
10%(ポリマー乾燥重量基準で)造膜助剤テキサノールがポリマー分散物に添加され、室温で一晩置いておかれた。次いで、この配合物を用いて、透明膜(厚さ100μm)がビニルシート上に造られた。コーティングされた基体は室温で24時間乾燥させられた。この膜は脱イオン水に8時間沈められ、次いで、ΔL値を測定する色度計によってこの透明膜の水白化の結果が測定され、コーティングされたビニルシートの色発現を評価した。白化差は最終的に、ΔL=平均(L1−L0)として示された。このL1は水処理後のL値であり、L0は水に沈めるまえのL値であった。ΔLの閾値は約2.5に設定され、これは許容可能な水白化耐性性能を有していた。
【0038】
ガラスプレート上の乾燥塗膜の水白化耐性
基体がガラスプレートに変えられた以外は、ビニルプレート上での上記試験方法と同じ手順。この膜は脱イオン水中に24時間沈められた。透明膜の水白化は、繰り返された試験の平均性能に基づいて目視観察評価の形で測定された。評定1〜5の評価結果が以下の表に説明され、評定3が閾値として設定された。
【0039】
【表2】

【0040】
実施例1
水性分散物Aは以下のプロセスで製造された:615gのEHA、836gのMMA、22.7gのMAA、7.48gのAM、2.99gのA−171、28.33gの19%DBS溶液、および338.4gのDI水を一緒にし、攪拌して乳化することによりモノマーエマルションが製造された。次いで、19重量%のDBSの水溶液12.58gおよび784gのDI水が、機械式攪拌装置を備えた5リットルマルチネックフラスコに入れられた。フラスコの内容物は窒素雰囲気下で90℃に加熱された。攪拌したフラスコに、16gDI水中の4.5gのNaCOおよび59gのモノマーエマルションが添加され、次いで、16gのDI水中の3.04gAPSが添加された。残りのモノマーエマルションおよび170gのDI水中の1.36gのAPSの溶液、および172gのDI水が次いでこのフラスコに60分間にわたって添加された。反応器温度は88℃に維持された。次いで、26gのDI水が使用されてエマルションフィードラインを反応器にすすぎ込んだ。反応器の内容物を70℃に冷却した後で、5gの水中の15.3mgの硫酸第一鉄、5gの水中の15.3mgのEDTA、20gの水中の1.04gのt−ブチルヒドロペルオキシド(70%水性)、および20gの水中の0.58gのイソアスコルビン酸がこのフラスコに添加された。反応器の温度を50℃に冷却した。温度が50℃に冷えた時に、7.48gのトリエチレンテトラミンを用いて、フラスコの内容物がpH8.0に中和された。17.4gのDI水中の3.48gのMITがこのフラスコに添加され、次いで0.22gのNXZ(商標)(コグニス)が添加された。コポリマーの計算Tgは25℃であった。46.8%固形分を有していた得られた水性ポリマー分散物Aは水白化耐性試験にかけられた。
【0041】
実施例2
水性ポリマー分散物A(実施例1)と同様の手順で、中和剤7.48gのAMP−95を用いて水性ポリマー分散物Bが製造された。得られた分散物Bは46.7重量%固形分を有していた。
【0042】
実施例3
水性ポリマー分散物A(実施例1)と同様の手順で、中和剤3.74gのTETAおよび3.74gのAEEAを用いて水性ポリマー分散物Cが製造された。得られた分散物Cは46.8重量%固形分を有していた。
【0043】
実施例4
水性ポリマー分散物A(実施例1)と同様の手順で、165.21gの2−EHA、450.58gのLMA、22.67gのMAA、7.48gのAM、851.40gのMMA、および2.99gのA−171を含むモノマー混合物から水性ポリマー分散物Dが製造された。ラテックスは7.48gのTETAによって中和された。得られた分散物Dは46.8重量%固形分を有していた。
【0044】
実施例5
水性ポリマー分散物A(実施例1)と同様の手順で、225.3gの2−EHA、149.9gのBA、448.8gのベオバ10、22.67gのMAA、7.48gのAM、641.56gのMMA、および2.99gのA−171を含むモノマー混合物から水性ポリマー分散物Eが製造された。ラテックスは7.48gのTETAによって中和された。得られた分散物Eは47.1重量%固形分を有していた。
【0045】
実施例6
水性ポリマー分散物A(実施例1)と同様の手順で、225.3gの2−EHA、465.62gのBA、22.67gのMAA、7.48gのAM、776.48gのMMA、および2.99gのA−171を含むモノマー混合物から水性ポリマー分散物Fが製造された。ラテックスは7.48gのTETAによって中和された。得られた分散物Fは47.0重量%固形分を有していた。
【0046】
実施例7
水性ポリマー分散物A(実施例1)と同様の手順で、751gの2−EHA、22.67gのMAA、7.48gのAM、716.52gのMMA、および2.99gのA−171を含むモノマー混合物から水性ポリマー分散物Gが製造された。ラテックスは7.48gのTETAによって中和された。得られた分散物Gは46.9重量%固形分を有していた。
【0047】
実施例8
水性ポリマー分散物A(実施例1)と同様の手順で、中和剤1.496gのTETAを用いて水性ポリマー分散物Hが製造された。得られた分散物Hは46.9重量%固形分を有していた。
【0048】
実施例9
水性ポリマー分散物A(実施例1)と同様の手順で、中和剤7.48gのAEEAを用いて水性ポリマー分散物Iが製造された。得られた分散物Iは46.8重量%固形分を有していた。
【0049】
実施例10
水性ポリマー分散物A(実施例1)と同様の手順で、中和剤29.92gのED−600を用いて水性ポリマー分散物Jが製造された。得られた分散物Jは47.2重量%固形分を有していた。
【0050】
実施例11
水性ポリマー分散物A(実施例1)と同様の手順で、766.02gの2−EHA、7.48gのAM、22.67gのMAA、701.53gのMMA、および2.99gのA−171を含むモノマー混合物から水性ポリマー分散物Kが製造された。次いで、ラテックスは104.72gのTETAによって中和された。得られた分散物Kは48.6重量%固形分を有していた。
【0051】
実施例12
水性ポリマー分散物A(実施例1)と同様の手順で、150.2gの2−EHA、22.67gのMAA、7.48gのAM、555.74gのBA、761.49gのMMA、および2.99gのA−171を含むモノマー混合物から水性ポリマー分散物Lが製造された。次いで、ラテックスは74.8gのTETAによって中和された。得られた分散物Lは48.2重量%固形分を有していた。
【0052】
【表3】

特開平7−26194号の比較例6。
特開平7−26194号の実施例2。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コポリマーおよびポリアミンを含む水性コポリマー分散物であって、
前記コポリマーが(メタ)アクリラートC−C22アルキルエステルまたはバーサティックビニルエステルから選択される少なくとも1種の非イオン性モノマーを共重合単位として含み、
前記非イオン性モノマーの量が15%から50%未満の範囲であり、並びに
前記ポリアミンの量が前記コポリマーの乾燥重量を基準にした乾燥重量パーセンテージで0.1〜2%の範囲である、
水性コポリマー分散物。
【請求項2】
前記コポリマー中の非イオン性モノマーの量が20重量%から50重量%未満の範囲である、請求項1に記載の水性コポリマー分散物。
【請求項3】
前記非イオン性アクリル系モノマーが2−エチルヘキシル(メタ)アクリラート、ラウリル(メタ)アクリラート、ベオバ9、ベオバ10、ベオバ11およびこれらの混合物からなる群から選択される、請求項1に記載の水性コポリマー分散物。
【請求項4】
前記コポリマーが、自己架橋性モノマーを共重合単位として10重量%以下でさらに含む、請求項1に記載の水性コポリマー分散物。
【請求項5】
前記コポリマーが、少なくとも1つのアルコキシシラン官能基を有するモノマーを共重合単位として3重量%以下でさらに含む、請求項1に記載の水性コポリマー分散物。
【請求項6】
前記コポリマーが、カルボキシル、無水カルボキシル、ヒドロキシル、アミドおよびこれらの混合物から選択される少なくとも1種の官能基を含むモノマーを共重合単位として5重量%以下で含む、請求項1に記載の水性コポリマー分散物。
【請求項7】
前記コポリマー分散物中のコポリマーの量が98〜99.9重量%の範囲である、請求項1に記載の水性コポリマー分散物。
【請求項8】
前記ポリアミンの量が、前記コポリマー分散物の全乾燥重量を基準にした乾燥重量で0.5〜2%の範囲である、請求項1に記載の水性コポリマー分散物。
【請求項9】
前記ポリアミンが、エタンジアミン、プロパンジアミン、ジエチレンジアミン、トリエチレンテトラミン、ジエチレントリアミン、ジェフアミン、N−(2−アミノエチル)エタノールアミンおよびこれらの混合物からなる群から選択される、請求項1に記載の水性コポリマー分散物。
【請求項10】
請求項1に記載の水性コポリマー分散物を含む水性コーティング組成物。

【公開番号】特開2012−224840(P2012−224840A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−62978(P2012−62978)
【出願日】平成24年3月21日(2012.3.21)
【出願人】(590002035)ローム アンド ハース カンパニー (524)
【氏名又は名称原語表記】ROHM AND HAAS COMPANY
【Fターム(参考)】