説明

水素センサ

【課題】 燃料電池システムなどにおいて使用する水素センサへの水の付着を最小限にし、検知精度を向上する。
【解決手段】 検知素子24及び基準素子23を内蔵させた検知ヘッド13を、被検知ガスが流れる配管2の壁部から管内に突出させた断熱材からなる支持アーム12により支持して、配管2内の流れの中に配置する。そして、検知ヘッド13に、検知素子24に被検知ガスを導くガス導入口25を被検知ガスの流れと逆方向に開口させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池システムなどで水素濃度の検知に用いる水素センサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の水素センサとして、特許文献1に記載されているようなものがある。
これは、被検知ガスの水素濃度に応答する検知素子と基準素子(温度補償素子)との電気抵抗の差に基づいて被検知ガスの水素濃度を検知するものであり、被検知ガスが流れる配管の重力方向上側の壁部(天井部)に、ガス導入口を下向きにして取付けられている。
また、固体高分子膜型燃料電池等の燃料電池においては、固体高分子電解質膜のイオン導電性を保つために、燃料電池に供給する反応ガス(水素や空気)を積極的に加湿しており、さらに、燃料電池の発電時には電気化学反応により反応熱と共に水が生成される。したがって、前記反応ガスは高温高湿であり、燃料電池システムに用いる水素センサはこれらの高温高湿のガスに晒されることとなる。
【0003】
しかし、水素センサの検知素子に加湿水や生成水等が付着すると、検知素子の表面に局所的な温度分布の不均一が発生し、感度低下や素子破壊等の虞がある。
そこで、特許文献1では、水素センサにヒータを内蔵させ、検知素子格納空間の温度を水素センサの上流側のガス温度より高く制御して、検知素子に導かれるガスの相対湿度を上流側のガスの相対湿度よりも確実に低下させている。
【特許文献1】特開2003−294675号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の水素センサは、被検知ガスが流れる配管の天井部に、ガス導入口を下向きにして取付けられているため、一度、高濃度の水素ガスが導入された場合には比重が軽いために検知素子格納空間に高濃度水素が滞留してしまい、被検知ガスの水素濃度が下がっても暫くは滞留した高濃度水素を現在流れている被検知ガスの水素濃度と誤って検知してしまうなど、応答性が悪いという問題点がある。
【0005】
また、ヒータを使用して検知素子周辺を露点温度か水の沸点以上に加温する構成を採っているため、消費電力が大きく、加えて起動時に検知素子が有効に動作するまでの暖機時間が長くなるので、これを制御に利用したシステムの起動が遅いという問題点がある。
本発明は、このような問題点に鑑み、検知素子への水の付着を最小限にしつつ、応答性や消費電力などを改善することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このため、本発明では、検知素子及び基準素子を内蔵させた検知部を、被検知ガスが流れる配管の壁部から配管内に突出させた断熱材からなる支持体により支持して、配管内の流れの中に配置し、前記検知部に前記検知素子に被検知ガスを導くガス導入口を被検知ガスの流れと逆方向に開口させる構成とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、検知部を配管内壁から配管中心部方向へ離すと共に断熱して配置するので、配管温度が低い時の結露や、運転停止後に被検知ガスが冷えて凝縮が生じる場合でも、検知素子の結露が防止できることから、ヒータを使用することなく、検知精度を向上できる。
また、ガス導入口を被検知ガスの流れと逆方向に開口させたので、被検知ガスに液滴(飛沫水)が含まれていても検知素子に液滴が当たることがない。このため液滴付着による一時的な検知不良や、熱衝撃などによる検知素子の劣化・損傷も防止できる。
【0008】
また、被検知ガスの高流速空間に検知部を配置したので、検知素子格納空間のガスの置換が速やかになり、水素濃度検知の応答性を向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
先ず本発明の第1実施形態を図1により説明する。
本発明の水素センサ10は、被検知ガスが流れる配管2に取付けられて、被検知ガスの水素濃度を検知するものである。
水素センサ10は、配管2のセンサ取付孔を囲む外壁に取付けられるボディ11と、ボディ11から配管2のセンサ取付孔を貫通して配管2の中心部へ延びる支持アーム(支持体)12と、支持アーム12の先端部に支持される検知ヘッド(検知部)13とから構成される。
【0010】
ボディ11は、信号調整回路14のケースをなすと共に、配管2外壁への固定フランジを有し、ボルト15により取付けられる。また、配管2とボディ11との接合面にはセンサ取付孔を囲んでOリング等のシール材16が介装され、ガス漏れが防止される。信号調整回路14からはボディ11外へ外部配線17が導出される。
支持アーム12は、検知ヘッド13を支持して、配管2内の被検知ガスの流れの中に配置するもの(支持体)であり、検知ヘッド13の熱がボディ11を介して配管2へ放熱されるのを低減するために工業用プラスチックなどの断熱材で製作されている。また、支持アーム12の内部にはボディ11内の信号調整回路14と検知ヘッド13内の検知素子等とをつなぐ配線18を通す貫通孔を設け、配線組立後にガス漏れの経路とならないように樹脂を充填してある。
【0011】
検知ヘッド13は、検知素子と基準素子とを内蔵するもの(検知部)であり、ここでは、その外壁を、略半球状で、配管2内の被検知ガスの流れ方向上流側に向かって凸をなし、下流側ほど断面積が増大し、最大断面積A(配管の径方向Dでの断面積が最大)となる下流側端部が開放されている殻体19により構成してある。この殻体19は、被検ガスの温度に即座に平衡するように熱伝導率が高く、かつ被検知ガスで材料劣化しない材料(例えば、SUS316L)で製作してある。
【0012】
そして、殻体19の内部を流れ方向中間部で隔壁20により仕切り、隔壁20の上流側に、殻体19の先端側外壁により密閉された基準素子格納空間21を形成し、隔壁20の下流側に、殻体19の後端部にて開放された検知素子格納空間22を形成してある。
そして、基準素子格納空間21に基準素子23を格納し、検知素子格納空間22に検知素子24を格納してある。
【0013】
基準素子23は主に温度補償(Cf温度による検知誤差低減)に用いることから、基準素子23と検知素子24は隔壁20を介して熱的に良好に結合する。このため、隔壁20の材料としては、例えばアルミナ系セラミックスやSUS316Lを使用する。
検知素子24及び基準素子23としては共に、例えば、気体熱伝導式のガス検知素子を用いる。気体熱伝導式のガス検知素子は、電気的特性が同一の素子を2つ用いて、一方を検知素子として被検知ガスに晒し、他方を基準素子として基準ガスに晒し、双方の素子に通電したときに、被検知ガスと基準ガスとの熱伝導率の差に比例した抵抗変化を生じることから、電気抵抗の差を検知することで、被検知ガスの水素濃度を検知することができるものである。
【0014】
この原理を利用するため、基準素子格納空間21は、密閉空間とすると共に基準ガスを封入する。基準ガスとしては、安価には空気を用いることができるが、窒素ガスなどの不活性ガスを用いると安定性の点でより望ましい。
一方、検知素子格納空間22は、殻体19の後端部が、ガス導入口25として、被検知ガスの流れと逆方向に開口しており、常に被検知ガスに晒されるようになっている。
【0015】
また、殻体19の後端部の開口面(ガス導入口25)には、検知素子24に機械的な外力が加わらないように、保護用のメッシュ26を装着してある。このメッシュ26は、主に水素センサ10を着脱する際に誤って検知素子24を破損しないためのものであることから、粗いメッシュで良く、従って被検知ガスは検知素子格納空間22に抵抗無く自由に出入り可能である(図示B)。
【0016】
本実施形態によれば、検知素子24及び基準素子23を内蔵させた検知部(検知ヘッド13)を、被検知ガスが流れる配管2の壁部から管内に突出させた断熱材からなる支持体(支持アーム12)により支持して、配管2内の流れの中に配置し、検知部(検知ヘッド13)に検知素子24に被検知ガスを導くガス導入口25を被検知ガスの流れと逆方向に開口させたことにより、次のような効果が得られる。
【0017】
検知部(検知ヘッド13)を配管内壁から配管中心部方向へ離すと共に断熱して配置するので、配管温度が低い時の結露や、運転停止後に被検知ガスが冷えて凝縮が生じる場合でも、検知素子24の結露が防止できることから、ヒータを使用することなく、検知精度を向上できる。
また、ガス導入口25を被検知ガスの流れと逆方向に開口させたので、被検知ガスに液滴(飛沫水)が含まれていても検知素子24に液滴(飛沫水)が当たることがない。このため液滴付着による一時的な検知不良や、熱衝撃などによる検知素子24の劣化・損傷も防止できる。
【0018】
また、被検知ガスの高流速空間に検知部を配置したので、検知素子格納空間22のガスの置換が速やかになり、水素濃度検知の応答性を向上できる。
また、検知部の後流負圧によりガス流量に応じた検知素子格納空間22の吸出効果が得られるので、ガス置換が促進されると共に、低温起動時や被検知ガスの加圧に伴う露点上昇から検知素子格納空間22に液滴が生じても速やかに排水される。ゆえにガス流量に追従して応答性が向上できると共に、液滴による検知不良を防止できる。
【0019】
また、副次的効果として水滴付着が無いので耐凍結性も向上できる。
更には、従来、結露が障害となって適用できなかった燃料電池アノード極や、改質による水素製造設備などの高湿度で、飛沫水混じりのガス配管においても、水素濃度検知が可能となる。
また、本実施形態によれば、検知部(検知ヘッド13)は、検知素子24の格納空間22と基準素子23の格納空間21とを隔壁20を介してそれぞれ備え、基準素子23の格納空間21は、検知部の外壁(殻体19)と隔壁(20)とで密閉し、内部に基準ガスを封入したことにより、次のような効果が得られる。
【0020】
基準素子格納空間21の形成部材と検知部の外壁を兼用とすると共に隔壁20で基準素子格納空間21を密閉し、更に検知素子格納空間22とを分けたので、部品点数が少なく、熱容量が低減される。
更に被検知ガスの熱を検知部の外壁(殻体19)で受熱して基準素子23と検知素子24が被検ガス温度に温調されて、検知部を露点(沸点)以上に維持することが容易となることから、加熱用のヒータを不要または簡素化して省電力および低コストにできる。また熱容量が小さいため水素濃度出力の応答性も向上できる。
【0021】
また、本実施形態によれば、配管2内の流れ方向で、上流側に、基準素子23の格納空間21を配置し、下流側に、検知素子24の格納空間22を配置したことにより、次のような効果が得られる。
被検知ガスに液滴(飛沫水)が含まれていても、基準素子格納空間21が衝立となり検知素子24に液滴(飛沫水)が吹付けられることがない。このため液滴付着による一時的な検知不良や、熱衝撃などによる劣化・損傷も防止できる。
【0022】
また基準ガスの封入により熱容量が(検知素子格納空間22に対して)高くなった基準素子格納空間21を、被検知ガスにより積極的に温調させることができ、これにより特に被検知ガスの温度が急変した際に、熱容量の異なる基準素子格納空間21と検知素子格納空間22の温度差を速やかに平衡状態にすることができ、過渡応答性が向上する。
また、本実施形態によれば、検知部(検知ヘッド13)の外壁(殻体19)を配管2内の流れ方向の下流側ほど断面積が増大するように形成し、最大断面積となる下流側端部をガス導入口25としたことにより、次のような効果が得られる。
【0023】
被検知ガスに液滴(飛沫水)が含まれていてもその液滴(飛沫水)が検知素子24に吹付けられることがない。これにより液滴付着による一時的な検知不良や、熱衝撃などによる劣化・損傷も防止できる。
また検知部外壁に沿って流れる被検知ガスの流速が最大になるので、その下流側で発生する渦(剥離)が低流量から発生し、この渦が検知素子格納空間22のガス置換を促進する。これにより広い流量範囲においてガス濃度の検知応答性が向上できる。
【0024】
また、本実施形態によれば、ガス導入口25にメッシュ26を設けたことにより、検知素子24に機械的外力が加わらないように保護することができ、水素センサの配管脱着時などに検知素子24を破損することを防止できる。
次に本発明の第2実施形態を図2により説明する。尚、第2実施形態以降では、既に述べた実施形態と同じ部分については説明を省略し、異なる部分のみを説明する。
【0025】
本実施形態では、殻体19の後端部の開口面に装着されるメッシュ27は、被検知ガスの流れ方向で下流側に膨らませて、検知ヘッド13の外壁(殻体19)と共に全体で紡錘形状に成形してある。言い換えれば、検知ヘッド13の外壁を配管2の流れ方向に沿って紡錘形状に形成し、最大断面積部Aより下流側をメッシュ27により構成して、ガス導入口25としている。尚、殻体19とメッシュ27は、最大断面積部Aで段差なく接合してある。これによりメッシュ27部分で流速変化に伴う圧力傾斜から渦流れ(図示C)が生じる。
【0026】
また、本実施形態では、基準素子格納空間21内で基準素子23と隔壁20の間にヒータ28を設けてある。このヒータ28は、後述の利用例で説明するように低温起動時にのみ発熱させるもので、例えばセラミックヒータや白金抵抗線式ヒータなどを使用できる。この場合、基準素子格納空間21に封入する基準ガスは、窒素などの不活性ガスとすることが望ましい。
【0027】
特に本実施形態によれば、検知部(検知ヘッド13)の外壁を配管2内の流れ方向に沿って紡錘形状に形成し、最大断面積部Aより下流側の少なくとも一部をメッシュ27により構成して、ガス導入口25としたことにより、次のような効果が得られる。
紡錘形状とすることで、被検知ガスの流通抵抗の増加を抑制でき、水素センサの挿入圧損を低減することができる。
【0028】
また検知部の外壁に沿って流れる被検知ガスが最大流速になる位置より下流側をメッシュ27で構成したために、被検知ガスに対しては整流作用を有し、ガス置換に対しては圧力差による渦により検知素子格納空間22のガス置換を促進することができる。
また、本実施形態によれば、検知部(検知ヘッド13)内、特に基準素子23の格納空間21内にヒータ28を設け、低温起動時のみ発熱させることにより、ヒータ28を使用するも、低温起動時のみ使用することで、省電力化ができ、またヒータ寿命が延ばせるため水素センサの耐久性も向上できる。
【0029】
また、本実施形態によれば、基準ガスとして不活性ガスを用いることにより、基準点補償としての安定性を向上させることができると共に、基準素子格納空間22に内蔵したヒータ28を含む各種電気部品の特性を長期にわたって安定させることができる。
次に本発明の第3実施形態を図3により説明する。
本実施形態では、信号調整回路29を半導体プロセスを用いてシリコン上に集積化して、基準素子23と隔壁20との間に設けている。このとき、信号調整回路29は、信号調整の機能を備えると共に、動作熱によるヒータ機能を兼ね備える。
【0030】
また、メッシュ27は、重力方向の下部Eを、粗いメッシュ又は開口として、液滴Fのための排水口30を形成してある。更にメッシュ27は、フッ素や4フッ化エチレン(テフロン)などで製作して、撥水性を持たせてある。尚、撥水性を持たせるための他の方法として、ステンレス基材にフッ素などをコーティングを施してもよい。
また、検知素子格納空間22で検知素子24と近接する部位(隔壁20の表面G)にガラスなどの親水性材料を貼り付けることにより、液滴の接触角を下げて、液滴が隔壁20と検知素子24に架橋することを防止している。尚、親水性を持たせるための他の方法として、酸化チタンなどの親水コーティングを施してもよい。
【0031】
特に本実施形態によれば、メッシュ27の重力方向の下部を粗いメッシュ又は開口として、排水口30を形成したことにより、低温起動時や被検知ガスの加圧に伴う露点上昇から検知素子格納空間22に液滴が生じても速やかに排水される。これにより液滴による検知不良を防止できる。
また、本実施形態によれば、メッシュ27を撥水性材料で製作するか、メッシュ基材に撥水コーティングを施して製作することで、メッシュ27に撥水性を持たせたことにより、検知素子格納空間22へ水蒸気を含む被検知ガスを通しつつ、検知の障害となる液滴の進入や水膜の形成を低減させることができる。これにより検知素子格納空間22に導かれる被検知ガスの組成が変化しないため、水素濃度の検知精度を高めることができる。
【0032】
また、本実施形態によれば、検知素子24の格納空間22内で検知素子24と近接する部位に親水性を持たせたことにより、具体的には、該当する部位を親水性材料で製作するか、該当する部位に親水コーティングを施すことにより、検知素子24とこれに近接する部位との間に液滴が滞留しない。このため液滴付着による一時的な検知不良や、熱衝撃などによる劣化・損傷も防止できる。
【0033】
次に本発明の第4実施形態を図4に基づいて説明する。
図4は図1〜図3のボディ11側から見たものである。
本実施形態では、断面が被検知ガスの流れ方向に紡錘形状をなす支持アーム12の先端部を検知ヘッド13’として、その内部を流れ方向に沿う隔壁20’で仕切ることにより、流れ方向に対し、並列に、基準素子格納空間21(基準素子23)と、検知素子格納空間22(検知素子24)とを配置してある。
【0034】
そして、最大断面積部より下流側で、検知素子格納空間22に対応する部分をメッシュ27’により構成して、ガス導入口25としてある。
特に、本実施形態によれば、配管2内の流れ方向に対し、並列に、基準素子23の格納空間21と、検知素子24の格納空間22とを配置したことにより、被検知ガスの温度が基準素子格納空間21と検知素子格納空間22とに均一に伝達され、温度補償性能を向上させることができる。
【0035】
尚、図示は省略したが、第1〜第4実施形態において、検知素子格納空間22に湿度検知素子(図示せず)を設け、この湿度検知素子により検知される被検知ガスの湿度に基づいて温度補償を行うとよい。
湿度検知素子としては、静電容量式の相対湿度検知素子などが利用でき、検知素子格納空間22内の検知素子24の近傍に、検知ヘッド13の外壁(殻体19)と熱的に良好に結合させて取付ける。
【0036】
湿度補償を行うことで、特に気体熱伝導式水素センサなど水蒸気に感度を有する水素センサを使用しても、水蒸気濃度補正できるため、水素濃度を精度よく検知できる。また水素センサと共に湿度センサ(湿度検出素子)の耐結露性も同様に確保されるため、湿度検知情報を被検知ガスの加湿制御に利用することもできる。
次に本発明に係る水素センサの利用例について説明する。
【0037】
図5は燃料電池システムの構成図である。
燃料電池スタック1は、固体高分子電解質膜をアノード側電極とカソード側電極とで挟持した電解質電極構造体を、更に一対のセパレータで挟持してなる燃料電池セルを多数組積層して構成されている。
アノード側電極には、水素供給源から水素供給弁3を介し、入口配管2aにより、水素ガス(燃料ガス)が供給され、電極上で水素がイオン化されて、固体高分子電解質膜を介してカソード側電極へと移動する。その間に生じた電子が外部回路に取出され、直流の電気エネルギーとして利用される。カソード側電極には、空気(酸化剤ガス)が入口配管2bにより供給されているために、水が生成される。アノード側の出口配管2cは、水素ガスを再利用するため、循環ポンプ(循環配管)4を介して、入口配管2aと接続されており、適宜、パージ弁(図示せず)を介してオフガスを系外に排出する。カソード側の出口配管2dは、オフガスを系外に排出する。
【0038】
運転制御モジュール5には、アノード側の入口配管2aに設けた温度センサ6及び圧力センサ7から信号が入力されている。また、アノード側の出口配管2cに設けた水素センサ10a(及び図示しない温度センサ)、及び/又は、カソード側の出口配管2dに設けた水素センサ10bから信号が入力されている。
ここにおいて、運転制御モジュール5は、図6及び図7のフローチャートに従って、運転制御を行い、水素供給弁3、循環ポンプ4などの作動を制御する。尚、図5において、8は各種情報を記憶するメモリ、9は警報装置である。
【0039】
図6は、燃料電池のアノード側の出口配管2cに水素センサ10aを設置した場合の運転制御のフローチャートである。
燃料電池の運転開始スイッチが押されると(S100)、運転制御モジュールは先ずアノード出口配管内のガス温度Tgを読込み、予め記憶しておいたシステム起動時の検知ヘッド結露温度Thと比較して(S110)、結露温度Th以下であった場合には、基準素子格納空間に設けたヒータに通電して発熱させる(S111)。これにより冷えた検知ヘッドの暖機時間を短縮化させるが、暖機が終わるまでは水素センサの出力が安定しないために水素濃度制御のための判定が一定時間待たされる(S112)。
【0040】
暖機が終わると水素センサの出力(検知濃度)Cgが読込まれ、水素濃度制御幅の低値Chmと比較する(S113)。このとき、低値Chmより低い場合は水素濃度不足となることから、水素供給弁を開くように指令を出す(S114)。一方、低値Chm以上なら次に水素濃度制御幅の高値ChLと比較する(S115)。このとき、高値ChLより高い場合は水素濃度過多となることから、水素供給弁を閉じるように指令を出す(S116)。この繰り返し処理の結果、アノード出口の水素濃度は所定濃度に維持される。この所定濃度は燃料電池が効率良く運転でき、かつ劣化を起こさないような条件に予め設定しておくことで、燃料電池が最適に運転制御されることになる。
【0041】
また、図5のシステムではアノード出口水素を再利用するために循環ポンプを備えているが、燃料電池スタックのカソード極からの窒素リークにより循環系に窒素が蓄積されて水素濃度を所定の濃度に維持できなくなるため、所定の窒素濃度に達したタイミングにてアノード出口ガスを外部へ排出させる必要がある。このタイミングを判定するために、水素センサで検知した水素濃度Cgが、前記の水素濃度制御の結果において、予め記憶しておいたパージ実施濃度Cpより所定の期間連続して下回るか否かを比較判定する(S117)。この結果、連続して下回る場合、窒素濃度が所定濃度に達したことになるので、パージ弁を開いてアノード出口ガスを排出するようパージ弁に指令を出す(S118)。
【0042】
次に、水素濃度Cgを予め記憶しておいた故障時に相当するような異常濃度Cfと比較する(S119)。この結果、異常値(Cg>Cf)である場合は、警報を発する指令を警報装置に出力し、運転者へ警告する(S910)と共に、故障が拡大しないように所定の処理を実行し停止させる(S911、S912)。
一方、異常でない場合はその他の運転制御ルーチン(S130)が実行され、運転制御が一巡する。引き続き次の運転制御に入るが、このときガス温度Tgが検知ヘッドの結露温度Th以上であるか否かを判定し(S120)、結露温度Th以上の場合はヒータへの通電を切る。もし未だ結露温度Th以下の場合はヒータへの通電を続行させる。
【0043】
上記のように、燃料電池システムのアノード側の配管(出口配管2cの他、入口配管2aや循環配管4でも可)に水素センサ10aを設置して、検知した水素濃度に応じて、燃料電池スタック1へのガス供給の制御、不純物パージの制御、燃料電池システムの運転停止、警報のうち、少なくとも1つを実施することにより、次のような効果が得られる。
ガス供給の制御、不純物パージの制御を実施することにより、燃料電池システムの運転が最適化され、燃料電池システムの燃費向上、スタック耐久性向上、信頼性向上を達成できる。
【0044】
また所定の濃度範囲を外れた場合に、システム異常と判断し、警報を出力すると共に燃料電池システムの運転を停止することで、燃料電池システムの異常を速やかに検知して、故障箇所の拡大を防止することができる。
図7は、燃料電池のカソード側の出口配管2dに水素センサ10bを設置した場合のガス漏れ監視ルーチンのフローチャートである。
【0045】
前記の運転制御モジュールの制御の中で、燃料電池スタックの故障診断ルーチンが実行されると(S200)、水素センサの出力(検知濃度)Cgが読込まれ、予め記憶させたガス漏れ判定濃度Ceと比較判定する(S210)。
このとき、ガス漏れ判定濃度Ce以上であった場合、故障によりアノード極の水素ガスがカソード極に漏れ出したことになるので、警報を発する指令を警報装置に出力し、運転者へ警告する(S920)と共に、故障が拡大しないように所定の処理を実行し停止させる(S921、S922)。
【0046】
一方、ガス漏れ判定濃度Ce以下の場合は、その他の運転制御ルーチンへ処理が移される(S211)。
上記のように、燃料電池システムのカソード側の出口配管2dに水素センサ10bを設置して、所定値以上の水素濃度が検知された場合に、燃料電池システムの運転停止、警報のうち、少なくとも1つを実施することにより、燃料電池スタックの異常を速やかに検知して、故障箇所の拡大を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の第1実施形態を示す図
【図2】本発明の第2実施形態を示す図
【図3】本発明の第3実施形態を示す図
【図4】本発明の第4実施形態を示す図
【図5】燃料電池システムでの設置例を示す図
【図6】燃料電池システムでの制御例1のフローチャート
【図7】燃料電池システムでの制御例2のフローチャート
【符号の説明】
【0048】
1 燃料電池スタック
2 配管
2a アノード側の入口配管
2b カソード側の入口配管
2c アノード側の出口配管
2d カソード側の出口配管
3 水素供給弁
4 循環ポンプ
5 運転制御モジュール
10(10a、10b) 水素センサ
11 ボディ
12 支持アーム(支持体)
13 検知ヘッド(検知部)
14 信号調整回路
15 ボルト
16 シール材
17 外部配線
18 配線
19 外殻
20 隔壁
21 基準素子格納空間
22 検知素子格納空間
23 基準素子
24 検知素子
25 ガス導入口
26 メッシュ
27 メッシュ
28 ヒータ
29 ヒータを兼ねる集積型の信号調整回路
30 排水口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検知ガスの水素濃度に応答する検知素子と基準素子との電気抵抗の差に基づいて被検知ガスの水素濃度を検知する水素センサであって、
前記検知素子及び基準素子を内蔵させた検知部を、被検知ガスが流れる配管の壁部から管内に突出させた断熱材からなる支持体により支持して、配管内の流れの中に配置し、
前記検知部に前記検知素子に被検知ガスを導くガス導入口を被検知ガスの流れと逆方向に開口させたことを特徴とする水素センサ。
【請求項2】
前記検知部は、検知素子の格納空間と基準素子の格納空間とを隔壁を介してそれぞれ備え、基準素子の格納空間は、検知部の外壁と前記隔壁とで密閉し、内部に基準ガスを封入したことを特徴とする請求項1記載の水素センサ。
【請求項3】
配管内の流れ方向で、上流側に、基準素子の格納空間を配置し、下流側に、検知素子の格納空間を配置したことを特徴とする請求項2記載の水素センサ。
【請求項4】
配管内の流れ方向に対し、並列に、基準素子の格納空間と、検知素子の格納空間とを配置したことを特徴とする請求項2記載の水素センサ。
【請求項5】
前記基準ガスに不活性ガスを用いたことを特徴とする請求項2〜請求項4のいずれか1つに記載の水素センサ。
【請求項6】
前記検知部の外壁を配管内の流れ方向の下流側ほど断面積が増大するように形成し、最大断面積となる下流側端部を前記ガス導入口としたことを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1つに記載の水素センサ。
【請求項7】
前記ガス導入口にメッシュを設けたことを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれか1つに記載の水素センサ。
【請求項8】
前記検知部の外壁を配管内の流れ方向に沿って紡錘形状に形成し、最大断面積部より下流側の少なくとも一部をメッシュにより構成して、前記ガス導入口としたことを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1つに記載の水素センサ。
【請求項9】
前記メッシュの重力方向の下部を粗いメッシュ又は開口として、排水口を形成したことを特徴とする請求項7又は請求項8記載の水素センサ。
【請求項10】
前記メッシュに撥水性を持たせたことを特徴とする請求項7〜請求項9のいずれか1つに記載の水素センサ。
【請求項11】
前記検知素子の格納空間内で検知素子と近接する部位に親水性を持たせたことを特徴とする請求項1〜請求項10のいずれか1つに記載の水素センサ。
【請求項12】
前記検知部内にヒータを設け、低温起動時のみ発熱させることを特徴とする請求項1〜請求項11のいずれか1つに記載の水素センサ。
【請求項13】
前記検知素子の格納空間に湿度検知素子を設け、湿度検知素子により検知される湿度に基づいて湿度補償することを特徴とする請求項1〜請求項12のいずれか1つに記載の水素センサ。
【請求項14】
燃料電池システムのアノード側の配管に設置して、検知した水素濃度に応じて、燃料電池スタックへのガス供給の制御、不純物パージの制御、燃料電池システムの運転停止、警報のうち、少なくとも1つを実施することを特徴とする請求項1〜請求項13のいずれか1つに記載の水素センサ。
【請求項15】
燃料電池システムのカソード側の出口配管に設置して、所定値以上の水素濃度が検知された場合に、燃料電池システムの運転停止、警報のうち、少なくとも1つを実施するようにしたことを特徴とする請求項1〜請求項13のいずれか1つに記載の水素センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−309908(P2007−309908A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−142141(P2006−142141)
【出願日】平成18年5月22日(2006.5.22)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】