説明

水素燃焼制御システム

【課題】漏洩水素の着火を未然に防止し、かつ着火したとしてもその燃焼拡大を抑制し得る有効適切な水素燃焼制御システムを提供する。
【解決手段】水素ステーション3等の施設を対象として漏洩水素の燃焼を制御するシステムであって、該施設における水素漏洩を検知して該施設に不活性ガスを供給するとともに水を噴霧することによって、該施設内における漏洩水素の着火および着火後の燃焼伝播を抑制する。噴霧する水の粒径を10〜20μmの範囲とすることが好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素を取り扱う施設を対象として漏洩水素の燃焼を制御するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
水素を燃料とする燃料電池により走行する車両(燃料電池自動車)の開発が進められているが、その普及を図るためには燃料電池自動車に対して燃料としての水素を随時供給するためのシステムが不可欠であり、近い将来にはそのための施設である水素ステーション(従来のガソリンスタンドに相当するもの)が各地に多数設置されることが想定されている。
【0003】
そのような水素ステーションは多量の水素を取り扱いかつ貯蔵する施設であり、しかも市街地や繁華街等にも設置されるものであるから、水素の万一の爆発(より厳密には爆発を伴う燃焼、すなわち爆燃や爆轟)を想定した安全対策が不可欠である。
【0004】
水素の爆発事故を防止するためには、漏洩水素の着火や燃焼伝播を確実に防止する必要があり、そのためには水噴霧によること、特にたとえば特許文献1に示されるようなフォグによる消火システムが有効ではないかと考えられている。
しかし、現時点では水噴霧による水素燃焼を制御し得る有効かつ具体的なシステムについての提案はなされておらず、たとえば非特許文献1に示されているように未だ基礎的研究段階にある。
【特許文献1】特開平8−107942号公報
【非特許文献1】今村ほか、「水噴霧による水素火炎下流側の熱負荷低減効果」、水素エネルギー協会、第27回水素エネルギー協会大会予稿集、p.13−16、平成19年12月6日
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
燃料電池自動車の普及を図るためには、水素ステーションをはじめとする水素関連施設の安全性の確立が不可欠であり、特に万一の漏洩時にも漏洩水素の着火を未然に防止し、かつ着火したとしてもその燃焼拡大を抑制し得る有効適切な燃焼制御システムの開発が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記事情に鑑み、本発明は水素を取り扱う施設を対象として漏洩水素の燃焼を制御するシステムであって、該施設における水素漏洩を検知して該施設に不活性ガスを供給するとともに水を噴霧することによって、該施設内における漏洩水素の着火および着火後の燃焼伝播を抑制することを特徴とする。
本発明の水素燃焼制御システムでは、噴霧する水の粒径を10〜20μmの範囲とすることが好適である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、単なる水噴霧ではなく水噴霧と不活性ガスとを併用することにより、漏洩水素の着火を防止でき、かつ万一着火しても燃焼の伝播を有効に防止することができる。
特に、噴霧する水の粒径を通常の水噴霧消火設備の場合よりも小さくして10〜20μmの範囲とすることにより、ミスト全体として粒子表面積が格段に大きくなって燃焼抑制反応を充分に促進することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の一実施形態を図1〜図2を参照して説明する。本実施形態は水素の蓄圧タンク1と昇圧圧縮機2が設置されている水素ステーション3への適用例であって、天井部には漏洩水素を検知する感知器4が設置され、その検知信号は受信機5を介して制御盤6に送信されるようになっている。
室外には不活性ガスと水を貯留するタンク7が設置され、そのタンク7から管路8を通してヘッド9から不活性ガスとミストとを供給できるようになっている。
そして、管路8の途中には開放弁10が設置されていて、感知器4が水素漏洩を検知すると制御盤6により開閉弁10が操作されて直ちにヘッド9から不活性ガスが供給されると同時に水がミストとして噴霧されるようになっている。
【0009】
本発明のシステムは上記のように水素漏洩時には不活性ガスの供給と水噴霧を行うことにより、それらの協働作用により漏洩水素の着火を未然に防止でき、かつ万一着火したとしても直ちに消火し得て燃焼が周囲に伝播したり広範囲に拡大してしまうことを防止でき、以てこの種の施設における水素漏洩に対する安全性を充分に向上させることができる。
【0010】
なお、通常の水噴霧消火設備において噴霧されるミストないしフォグの粒径は特許文献1に示されるように50〜100μm程度であるが、本発明においてヘッド9から噴霧するミストの粒径は通常よりも充分に小さくして10〜20μmの範囲とすることが好ましい。
これは、粒径を20μm以内とすればミスト全体として粒子表面積が通常の水噴霧の場合に比べて格段に大きくなって燃焼抑制反応を充分に促進することができるが、粒径が10μm未満の場合には粒子質量が小さすぎて充分な運動エネルギーが得られず広範囲に飛散させることが困難であるためであり、特に実験的には16μmとすることが最適であることが確認されている。
【0011】
本発明で使用する不活性ガスとしては特に限定されないが、二酸化炭素、ヘリウム、窒素が好適に採用可能であり、複数種類の不活性ガスを混用しても良い。
また、この種の施設においては万一の水素漏洩の際における施設内の漏洩水素の許容濃度は16%程度であり、したがって不活性ガスの濃度(複数種類の不活性ガスを混用する場合にはその合計濃度)はそのような場合においても水素燃焼を有効に制御可能なように設定すれば良い。
【0012】
本発明の有効性を確認するために行った実験の結果を図2に示す。
本実験は、密閉容器内に水素と不活性ガスとを様々な濃度で封入し、水噴霧をしながら電気スパークによる着火の有無と着火後の燃焼伝播の有無を確認したものである。
水素H2の濃度は8%(NO.1〜NO.9)と16%(NO.9〜NO.16)の2ケースとし、不活性ガスとしてはヘリウムHeを単独で使用するか、あるいはヘリウムと二酸化炭素CO2とを混用して、それらの濃度(混用する場合には合計濃度)を様々に変更(最小10%〜最大60%)した。ミストの粒径は16μmとした。
結果欄に○(不燃)とあるのは着火を防止できたケース、○は着火はしたものの燃焼伝播を防止できたケース、×印は着火を防止できずかつ燃焼伝播も防止できなかったケースである。
【0013】
図2に示す結果から、不活性ガスの供給を行わない場合(NO.1、NO.10)は当然に無効であることが分かる。
水素濃度が8%の場合には、不活性ガス(He)の濃度が10%(N0.9)では無効であるが、不活性ガス(CO2単独またはCO2+HE)の濃度が20%以上(NO.2〜8)であれば有効であることことが分かる。
また、不活性ガスを混用する場合において、合計濃度が60%の場合の3ケース(NO.2〜4)ではCO2濃度が最も高いNO.4では着火に至っていないことから、CO2濃度が高い方がより有効であると考えられる。
【0014】
水素濃度が16%の場合には、不活性ガス(CO2+He)の濃度が45%(N0.14)では無効であること、50%では3ケース(NO.13、NO.15、N0.16)のうち2ケース(NO.13、NO.15)で有効であること、60%の場合の2ケース(NO.11、NO.12)ではいずれも有効であること、したがって50%以上であればほぼ有効であることが分かる。
また、NO.16では無効であるがNO.13、NO.15では有効であること、NO.11では着火するがNO.12では着火に至らないことから、不活性ガスの合計濃度が同じであってもCO2濃度が高い方がより有効であると考えられる。
【0015】
なお、いずれのケースにおいても水噴霧を行わない場合には着火、燃焼し、それにより不活性ガスと水噴霧とを併用することが有効であることが確認された。
また、仮に水噴霧を併用することなく不活性可ガスの供給のみで燃焼を制御しようとする場合には、そのために必要な不活性ガス濃度を施設内への人の立ち入りが不可能な程度に高くする必要があるが、本発明のシステムでは水噴霧を併用することによって人の立ち入りも許容し得る濃度とすることが可能であり、特にヘリウムHeが多いほど人体に対する安全性を確保し易い。
【0016】
以上の実験結果から、本発明のシステムにおいては不活性ガス濃度を50〜60%の範囲に制御することが好ましいといえる。そのような範囲であれば、漏洩水素濃度が最大で16%となった場合においても充分な燃焼制御効果が得られ、しかもヘリウムHe成分を多くすれば人の立ち入りを許容し得るものとなるので、それが最適であると判断できる。換言すれば、不活性ガス濃度が50%未満では充分な燃焼制御効果が得られないし、60%を超えると人の立ち入りが不可能になるから、いずれも好ましくない。
但し、燃焼制御効果や人の立ち入りが許容される濃度は不活性ガスの種類やその組合せによっても異なるので、使用するガス種やその組合せに応じて適正な濃度範囲を設定すべきである。
【0017】
なお、上記実施形態は水素ステーションへの適用例であるが、本発明は水素を取り扱う施設全般に広く適用できるものであるし、各部の具体的な構成や仕様については、対象施設の用途や規模、要求性能を考慮して、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で適宜の設計的変更や応用が可能であることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態である水素燃焼制御システムの概要を示す図である。
【図2】同、本発明の有効性を確認するための実験結果を示す図である。
【符号の説明】
【0019】
1 蓄圧タンク
2 昇圧圧縮機
3 水素ステーション
4 感知器
5 受信機
6 制御盤
7 タンク
8 管路
9 ヘッド
10 開放弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素を取り扱う施設を対象として漏洩水素の燃焼を制御するシステムであって、
該施設における水素漏洩を検知して該施設に不活性ガスを供給するとともに水を噴霧することによって、該施設内における漏洩水素の着火および着火後の燃焼伝播を抑制することを特徴とする水素燃焼制御システム。
【請求項2】
噴霧する水の粒径を10〜20μmの範囲とすることを特徴とする請求項1記載の水素燃焼制御システム。

【図1】
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【図2】
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