説明

永久磁石同期電動機の回転子

【課題】埋め込み磁石同期電動機の回転子内部に埋め込まれた永久磁石の起磁力分布には、空間高調波が含まれており、分布巻の電動機の場合、固定子ティースに高次の高調波磁束が鎖交するため、固定子の鉄損を増加させる問題があった。
【解決手段】回転子に埋め込まれている磁石のギャップ側に空隙を設け、回転子の磁石起磁力分布を正弦波に近づけることを特徴とする。固定子に鎖交する高調波磁束が減少し、固定子の鉄損を減少させることが出来るという利点がある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、永久磁石同期電動機の回転子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
永久磁石同期電動機は主に産業用機器に用いられている電動機である。回転子内部に永久磁石が埋め込まれている埋め込み磁石同期電動機と、回転子表面に永久磁石が存在する表面磁石同期電動機がある。
永久磁石同期電動機は従来からある誘導電動機などに比べ効率がよいという長所がある。
【0003】
しかし、回転子内部にある永久磁石の起磁力分布には空間高調波が含まれており、分布巻の電動機の場合、固定子ティースに高次の高調波磁束が鎖交するため、固定子の鉄損を増加させる問題があった。
【0004】
この改善策として、回転子内部の磁石の角部分に空隙を設け、磁極の角の磁束を弱め、永久磁石の起磁力分布を正弦波に近づける方法がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献2】特開2002−209350号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「集中巻IPMモータの鉄損及び磁石渦電流損解析」、山崎克巳・磯田翼介、電気学会論文誌D、128巻5号、p.678
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
解決しようとする問題点は、永久磁石同期電動機の回転子の磁石起磁力分布が正弦波ではない点である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、分布巻固定子鉄心の鉄損を減少させるため、回転子に空隙を設けて磁石磁束を磁極中心に集め、磁石起磁力を正弦波に近づけることを特徴とする。
【0009】
請求項1の発明によれば、永久磁石同期電動機の回転子において、前記回転子には回転子鉄心内部に埋め込まれた永久磁石を備え、前記磁石とギャップの間には空隙を有し、前記空隙は磁石の磁束を磁極の中心に集める形状の空隙であり、前記回転子の作る磁石起磁力分布が正弦波に近づくことを特徴とする永久磁石電動機の回転子。
【0010】
請求項2の発明によれば、前記空隙は、磁石のギャップ側に2個設けられることを特徴とする請求項1記載の永久磁石同期電動機の回転子。
【0011】
請求項3の発明によれば、前記空隙は、磁石のギャップ側に複数個を設けることで、回転子の作る磁石起磁力分布をより正弦波に近づけることを特徴とする請求項1記載の永久磁石同期電動機の回転子。
【0012】
請求項4の発明によれば、前記空隙は、回転子表面まで貫通していることを特徴とする請求項1記載の永久磁石同期電動機の回転子。
【0013】
請求項5の発明によれば、前記空隙は、磁石の埋め込まれている穴まで貫通していることを特徴とする請求項1記載の永久磁石同期電動機の回転子。
【0014】
請求項6の発明によれば、前記磁石は、1極あたり周方向に1個または複数個に分割されていることを特徴とする請求項1記載の永久磁石同期電動機の回転子。
【発明の効果】
【0015】
本発明の永久磁石同期電動機の回転子は、磁石のギャップ側に空隙を設け、磁石の起磁力分布が正弦波に近づくように空隙を設けるため、固定子に鎖交する高調波磁束が減少し、固定子の鉄損を減少させることが出来るという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】空隙を2個設けたときの説明図である。(実施例1)
【図2】2段階を持つ矩形波の磁石起磁力分布である。
【図3】空隙を4個設けたときの説明図である。(実施例2)
【図4】3段階を持つ矩形波の磁石起磁力分布である。
【図5】空隙を複数個設けたときの説明図である。(実施例3)
【図6】回転子表面から切り欠きを2個設けたときの説明図である。(実施例4)
【図7】磁石穴から切り欠きを2個設けたときの説明図である。(実施例5)
【図8】永久磁石同期電動機の1極分である。
【図9】矩形波の磁石起磁力分布である。
【図10】正弦波の磁石起磁力分布である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に図面を参照して、本発明の好適な実施の形態を詳細に説明する。
【0018】
図8は永久磁石同期電動機の1極を示した図である。図8のような回転子では、磁石の起磁力分布は図9のような矩形波のようになる。本発明の回転子は、永久磁石のギャップ側に空隙を設けることで永久磁石の磁束を磁極の中心に集中させ、磁石の起磁力分布を図10のような正弦波に近づける。
【実施例1】
【0019】
図1は、2個の空隙を設けた場合の実施例を示した図である。
【0020】
磁石から回転子表面へ向かって磁石の磁束を集めるような形状の空隙を設ける。起磁力波形は図2のように2段階となり、正弦波に近づく。
【0021】
2個の空隙は、回転子中心から磁極の中心へ向かう線を対称に設ける。
【実施例2】
【0022】
図3は、4個の空隙を設けた場合の実施例を示した図である。
【0023】
磁石から回転子表面へ向かって磁石の磁束を集めるような形状の空隙を設ける。起磁力波形は図4のように3段階となり、正弦波に近づく。
【0024】
4個の空隙は、内側の2個と、外側の2個のそれぞれは、回転子中心から磁極の中心へ向かう線を対称に設ける。
【実施例3】
【0025】
図5は、複数個の空隙を設けた場合の実施例を示した図である。
【0026】
磁石から回転子表面へ向かって磁石の磁束を集めるような形状の複数個の空隙を設ける。空隙の数が多いほど、磁石の起磁力を正弦波に近づけることが可能である。
【0027】
複数個の空隙は、回転子中心から磁極の中心へ向かう線を対称に設ける。
【実施例4】
【0028】
図6は、空隙を固定子表面まで延長し、切り欠きとした場合の実施例を示した図である。
【0029】
磁石から回転子表面へ向かって磁石の磁束を集めるような形状の切り欠きを設ける。
【0030】
2個の切り欠きは、回転子中心から磁極の中心へ向かう線を対称に設ける。
【実施例5】
【0031】
図7は、空隙を磁石埋め込みの穴まで延長した場合の実施例を示した図である。
【0032】
磁石から回転子表面へ向かって磁石の磁束を集めるような形状の切り欠きを設ける。
【0033】
2個の切り欠きは、回転子中心から磁極の中心へ向かう線を対称に設ける。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明により、永久磁石同期電動機の回転子の磁石起磁力を正弦波に近づけることができる。固定子の損失を低減することができるため、永久磁石同期電動機全般に適用可能である。
【符号の説明】
【0035】
1 回転子
2 固定子
3 コイル
4 永久磁石
5 空隙
6 切り欠き
7 矩形波の磁石起磁力分布
8 正弦波の磁石起磁力分布
9 2段階を持つ矩形波の磁石起磁力分布
10 3段階を持つ矩形波の磁石起磁力分布


【特許請求の範囲】
【請求項1】
永久磁石同期電動機の回転子において、前記回転子には回転子鉄心内部に埋め込まれた永久磁石を備え、前記磁石とギャップの間には空隙を有し、前記空隙は磁石の磁束を磁極の中心に集める形状の空隙であり、前記回転子の作る磁石起磁力分布が正弦波に近づくことを特徴とする永久磁石電動機の回転子。
【請求項2】
前記空隙は、磁石のギャップ側に2個設けられることを特徴とする請求項1記載の永久磁石同期電動機の回転子。
【請求項3】
前記空隙は、磁石のギャップ側に複数個を設けることで、回転子の作る磁石起磁力分布をより正弦波に近づけることを特徴とする請求項1記載の永久磁石同期電動機の回転子。
【請求項4】
前記空隙は、回転子表面まで貫通していることを特徴とする請求項1記載の永久磁石同期電動機の回転子。
【請求項5】
前記空隙は、磁石の埋め込まれている穴まで貫通していることを特徴とする請求項1記載の永久磁石同期電動機の回転子。
【請求項6】
前記磁石は、1極あたり周方向に1個または複数個に分割されていることを特徴とする請求項1記載の永久磁石同期電動機の回転子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−34473(P2012−34473A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−170867(P2010−170867)
【出願日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【出願人】(000003115)東洋電機製造株式会社 (380)
【Fターム(参考)】