説明

汎用コンバイン

【課題】排出物が未刈り茎稈に干渉して未刈り茎稈の刈り取りを阻害する可能性を低減させる。
【解決手段】機体一側方を既刈り地側、機体他側方を未刈り地側として茎稈の刈り取りを行う刈取部2と、刈取茎稈が全稈投入される扱室7と、扱室7から漏下した処理物を揺動選別する揺動選別体12とを備える汎用コンバイン1において、扱室7の後部に形成される排出口11を、揺動選別体12の後端よりも後方に配置すると共に、扱室7の排出口11から排出される排出物を、揺動選別体12に還すことなく、下方の排塵口21から機外へ排出するにあたり、揺動選別体12の後方に、排出物を既刈り地側へ移動させる移動手段(流し板22、ガイド板27)を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大豆、ソバ、麦、稲などの収穫に用いられる汎用コンバインに関する。
【背景技術】
【0002】
刈り取った茎稈を扱室に全稈投入して脱穀や選別を行う汎用コンバインが知られている。この種の汎用コンバインは、自脱型コンバインに比べて収穫可能な作物の種類が多く、例えば、大豆、ソバ、麦、稲などの収穫に利用されている。また、汎用コンバインとしては、刈り幅が2m以上の大型のものが主流であったが、近年では、刈り幅が1.5m程度の小型汎用コンバインも提供されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開平1−112640号公報
【特許文献2】特開2009−34016号公報
【特許文献3】特開2009−60835号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、刈り幅の狭い小型汎用コンバインでは、必然的に機体後部における排出物の排出幅も狭くなるので、排出物が未刈り茎稈に干渉して未刈り茎稈の刈り取りを阻害する惧れがあった。特に、排出物の量が多い作物や、排出物がかたまり易い作物の収穫に際しては、排出物が未刈り茎稈の刈り取りを阻害する可能性が高かった。
尚、特許文献1に示される汎用コンバインは、扱室の排出口下方に、所定方向に回転駆動されるスプレッダ(チョッパー)を備えると共に、スプレッダによる排出物の送り方向に拡散板を配置し、該拡散板によって排出物を既刈り地側に寄せて排出することが可能であるが、スプレッダやチョッパーを装備することが難しい小型汎用コンバインでは、実現が困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記の如き実情に鑑みこれらの課題を解決することを目的として創作されたものであって、機体一側方を既刈り地側、機体他側方を未刈り地側として茎稈の刈り取りを行う刈取部と、刈取茎稈が全稈投入される扱室と、扱室から漏下した処理物を揺動選別する揺動選別体とを備える汎用コンバインにおいて、前記扱室の後部に形成される排出口を、揺動選別体の後端よりも後方に配置すると共に、扱室の排出口から排出される排出物を、揺動選別体に還すことなく、下方の排塵口から機外へ排出するにあたり、揺動選別体の後方に、排出物を既刈り地側へ移動させる移動手段を設けたことを特徴とする。
また、前記移動手段は、前記扱室の排出口から落下した排出物を後下方へ流す流し板と、該流し板の流し面に並列状に突設され、排出物を既刈り地側へ導く複数のガイド板とを備え、前記流し板の前端部に、揺動選別体の後端部に延設されるゴム板と摺接するゴム板摺接面を設けると共に、該ゴム板摺接面と流し面との間に、該流し面をゴム板摺接面に対して低くする段差を設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
請求項1の発明によれば、揺動選別体の後方に設けられる移動手段によって排出物を既刈り地側へ移動させることができるので、排出物が未刈り茎稈に干渉して未刈り茎稈の刈り取りを阻害する可能性を低減させることができる。
また、請求項2の発明によれば、扱室からの排出物を、段差を介してゴム板上から流し板上に落下させつつ、複数のガイド板で分散させることができるので、かたまり易い排出物であっても既刈り地側に寄せることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】汎用コンバインの左側面図である。
【図2】脱穀部の内部を示す左側面図である。
【図3】脱穀部の内部を示す後面図である。
【図4】脱穀部の要部を示す左側面図である。
【図5】流し板の斜視図である。
【図6】流し板の他例を示す説明図である。
【図7】排塵カバーの左側面図である。
【図8】排塵カバーの正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づいて説明する。図1において、1は汎用コンバインであって、該汎用コンバイン1は、機体一側方を既刈り地側、機体他側方を未刈り地側として茎稈の刈り取りを行う刈取部2と、刈り取った茎稈から穀粒を脱穀して選別する脱穀部3と、選別した穀粒を貯留する穀粒タンク4と、オペレータが乗車する操作部5と、クローラ式の走行部6とを備えて構成されている。
【0009】
図2に示すように、脱穀部3は、刈取茎稈が全稈投入される扱室7と、扱室7内に回転自在に内装され、外周に突設される扱歯8で茎稈から穀粒を脱粒させる扱胴9と、扱胴9の下側に沿って配置され、扱室7から穀粒を漏下させる受網10と、受網10から漏下せずに扱室7の終端まで達した排出物を排出する排出口11と、受網10から漏下した穀粒を揺動選別する揺動選別体12と、該揺動選別体12の前方で選別風を起風する圧風ファン13と、一番物を回収する一番ラセン14と、二番物を回収する二番ラセン15と、二番ラセン15の前方で二番選別風を起風する二番選別ファン16と、揺動選別体12の終端部及び扱室7の排出口11に連通し、揺動選別体12側及び扱室7側から排出される排出物を機外に導く排塵部17とを備えて構成されている。そして、一番ラセン14によって回収された一番物は、図示しない揚穀筒を介して穀粒タンク4に貯留され、二番ラセン15によって回収された二番物は、図示しない二番還元筒を介して揺動選別体12上に還元されるようになっている。
【0010】
揺動選別体12は、受網10から漏下した穀粒を後方へ順次搬送するグレンパン18と、グレンパン18の後方で穀粒を篩い選別するチャフシーブ19と、該チャフシーブ19から漏下した穀粒をさらに篩い選別するグレンシーブ20と備える揺動アッセンブリであり、図示しない駆動機構(クランク機構、カム機構など)によって所定の周期で連続的に往復揺動される。
【0011】
次に、本発明の要部である排塵部17の構成について、図3〜図8を参照して説明する。
【0012】
本実施形態では、扱室7の後部に形成される排出口11を、揺動選別体12の後端よりも後方に配置すると共に、扱室7の排出口11から排出される排出物を、揺動選別体12に還すことなく、下方の排塵口21から機外へ排出するにあたり、排塵部17には、排出口11から落下した排出物を後下方へ流す傾斜姿勢(前高後低状の傾斜)の流し板22と、揺動選別体12の後端部に延設され、揺動選別体12と流し板22との間の隙間を塞ぐゴム板23と、主に揺動選別体12側から排出される排出物を排塵口21へ導く排塵カバー24とが設けられている。
【0013】
このような排塵部17では、排塵口21から排出される排出物が未刈り茎稈に干渉して未刈り茎稈の刈り取りを阻害する惧れがあった。特に、排出物の量が多い作物や、排出物がかたまり易い作物の収穫に際しては、排出物が未刈り茎稈の刈り取りを阻害する可能性が高かった。また、図3に示すように、後面視において、左側が未刈り地(左端のデバイダ25を越える領域)で、かつ、扱胴9の回転方向が時計回り方向である場合、扱室7からの排出物が未刈り地側に排出され易かった。
【0014】
そこで、本発明の実施形態に係る汎用コンバイン1では、揺動選別体12の後方に、排出物を既刈り地側へ移動させる移動手段を設けることにより、上記の問題を解決する。具体的には、流し板22の流し面22aに複数のガイド板27を並列状に突設すると共に、これらのガイド板27を下側ほど既刈り地側に寄るように傾斜させる。このようにすると、流し板22上の排出物をガイド板27によって既刈り地側へ導くことができる。しかも、所定の間隔を存して並列状に突設されたガイド板27は、排出物を分散させる作用を有するので、かたまり易い排出物であっても既刈り地側に寄せることができる。
【0015】
また、流し板22の前端部には、ゴム板23と摺接するゴム板摺接面22bが設けられると共に、該ゴム板摺接面22bと流し面22aとの間には、該流し面22aをゴム板摺接面22bに対して低くするための段差22cが設けられている。このようにすると、扱室7からの排出物を、段差22cを介してゴム板23上から流し板22の流し面22a上に落下させつつ、複数のガイド板27で分散させることができるので、かたまり易い排出物であっても確実に既刈り地側に寄せることが可能になる。
【0016】
本実施形態の流し板22は、流し面22a、ゴム板摺接面22b、段差22c及びガイド板27を一体的に備えると共に、脱穀部3に対して着脱自在に取付けられている。具体的には、図5に示すように、流し板22の左右両端部を、それぞれL字取付プレート28を介して、脱穀部3の左右側板29にボルト止めしている。このようにすると、流し板22を取り外すことにより、揺動選別体12の後方を広く開放することができるので、揺動選別体12などのメンテナンスが容易になる。尚、左側のL字取付プレート28は、流し板22に溶着されているが、右側のL字取付プレート28は、脱穀部3の右側板29に溶着されているので、流し板22の右端部には、ボルトを通す取付孔22dが形成されている。
【0017】
また、本実施形態では、流し板22の流し面22a及びガイド板27の表面を撥水性材料(例えば、フッ素入り塗料)で覆っている。このようにすると、水分の多い作物を収穫する際、流し板22やガイド板27における排出物の滑りを撥水性材料によって促進することができるので、排塵部17における排出物の停滞や詰まりを防止することができる。
【0018】
尚、本実施形態では、ゴム板摺接面22bをガイド板27の上端とほぼ同じ高さとしているが、ゴム板摺接面22bをガイド板27の上端よりも高くしてもよい。このようにすると、ゴム板23がガイド板27と干渉して破損したり、ゴム板23とガイド板27との間に排出物が挟まって停滞する等の不都合を回避することができる。
【0019】
また、本実施形態では、ガイド板27を流し板22に一体的に固定取付しているが、図6に示すように、ガイド板27を角度調整自在としてもよい。例えば、ガイド板27の上端部をヒンジ30を介して流し板22に取付けて、ヒンジ30を中心とするガイド板27の左右回動を可能にすると共に、ガイド板27の下端部を、流し板22に形成した円弧状の長孔22eを介して流し板22にボルト止めする。このようにすると、ガイド板27の角度を任意に調整できるので、作物の種類、水分量などに応じてガイド板27の角度を適正化することができる。
【0020】
次に、本実施形態の排塵カバー24について説明する。図4に示すように、本実施形態の排塵カバー24は、主に揺動選別体12側から排出される排出物を排塵口21へ導くために、揺動選別体12の後方で、かつ、流し板22の後上方に配置されると共に、前高後低状に傾斜する断面コ字形状の後方カバー31を備えている。排出物を排塵口21へ導く後方カバー31の前面には、排出物を既刈り地側へ導くガイド板32が突設されている。これにより、揺動選別体12側から排出される排出物も未刈り地側に寄せられ、未刈り茎稈との干渉が回避される。
【0021】
ガイド板32は、後方カバー31に一体的に固定取付してもよいが、図8に示すように、ガイド板32を角度調整自在としてもよい。例えば、ガイド板32の上端部をヒンジ33を介して後方カバー31に取付けて、ヒンジ33を中心とするガイド板32の左右回動を可能にすると共に、ガイド板32の下端部を、後方カバー31に形成した円弧状の長孔31aを介して後方カバー31にボルト止めする。このようにすると、ガイド板32の角度を任意に調整できるので、作物の種類、水分量などに応じてガイド板32の角度を適正化することができる。
【0022】
図4に示すように、後方カバー31は、排塵口21の開口面積を必要に応じて拡張する拡張カバー34を備えることができる。例えば、後方カバー31の下側半分を切欠くと共に、該切欠き部を、上端のヒンジ35を支点として後方に退避回動可能な拡張カバー34で覆う。このようにすると、排塵部17に排出物が詰まったとき、詰まった排出物の荷重で拡張カバー34が後方に退避回動するので、排塵口21を拡張して排出物の排出を促すことができるだけでなく、詰まった排出物の荷重で排塵カバー24などが破損することも防止できる。
【0023】
また、図7及び図8に示すように、本実施形態の排塵カバー24は、非作業時にコンパクトに収納できると共に、脱穀部3のメンテナンス時に容易に着脱できるように構成されている。具体的に説明すると、本実施形態の排塵カバー24は、脱穀部3の後端面部に取付けられる左右の側板36と、該側板36の上後端部にヒンジ37を介して回動自在に連結される前述の後方カバー31とを備えて構成されている。後方カバー31の左右側部には、それぞれ前後一対のネジ孔31b、31cが形成される一方、左右の側板36には、それぞれ一つの孔36aが形成されている。そして、前側のネジ孔31bを孔36aに合わせ、該孔36aを介してネジ孔31bにノブ付きボルト38を螺入することにより、後方カバー31が前述した前高後低状の作業姿勢に固定される。また、後側のネジ孔31cを孔36aに合わせ、該孔36aを介してネジ孔31cにノブ付きボルト38を螺入することにより、後方カバー31が収納姿勢に固定される。この収納姿勢では、後方カバー31が左右の側板36内に収納されるので、図1に示すように、非作業時の機体長さを短縮することができる。
【0024】
また、左右側板36の前側下端部には、それぞれ左右を向くピン39が一体的に溶着されており、左右側板36の前側上端部には、それぞれ孔36bが形成されている。そして、脱穀部3の後端面下部に突設される左右のフック40に左右のピン39を係合させると共に、脱穀部3の後端面上部に形成されるネジ孔(図示せず)に孔36bを介してノブ付きボルト41を螺入することにより、排塵カバー24が脱穀部3の後端部に対して着脱自在に取付けられるようになっている。
【0025】
また、本実施形態では、後方カバー31の前面及びガイド板32の表面を撥水性材料(例えば、フッ素入り塗料)で覆っている。このようにすると、水分の多い作物を収穫する際、後方カバー31やガイド板32における排出物の滑りを撥水性材料によって促進することができるので、排塵部17における排出物の停滞や詰まりを防止することができる。
【0026】
叙述の如く構成された本実施形態によれば、機体一側方を既刈り地側、機体他側方を未刈り地側として茎稈の刈り取りを行う刈取部2と、刈取茎稈が全稈投入される扱室7と、扱室7から漏下した処理物を揺動選別する揺動選別体12とを備える汎用コンバイン1において、扱室7の後部に形成される排出口11を、揺動選別体12の後端よりも後方に配置すると共に、扱室7の排出口11から排出される排出物を、揺動選別体12に還すことなく、下方の排塵口21から機外へ排出するにあたり、揺動選別体12の後方に、排出物を既刈り地側へ移動させる移動手段を設けたので、排出物が未刈り茎稈に干渉して未刈り茎稈の刈り取りを阻害する可能性を低減させることができる。
【0027】
また、前記移動手段は、扱室7の排出口11から落下した排出物を後下方へ流す流し板22と、該流し板22の流し面22aに並列状に突設され、排出物を既刈り地側へ導く複数のガイド板27とを備え、流し板22の前端部に、揺動選別体12の後端部に延設されるゴム板23と摺接するゴム板摺接面22bを設けると共に、該ゴム板摺接面22bと流し面22aとの間に、該流し面22aをゴム板摺接面22bに対して低くする段差22cを設けたので、扱室7からの排出物を、段差22cを介してゴム板23上から流し板22上に落下させつつ、複数のガイド板27で分散させることができ、その結果、かたまり易い排出物であっても既刈り地側に寄せることが可能になる。
【符号の説明】
【0028】
1 汎用コンバイン
2 刈取部
3 脱穀部
7 扱室
11 排出口
12 揺動選別体
17 排塵部
21 排塵口
22 流し板
22a 流し面
22b ゴム板摺接面
22c 段差
23 ゴム板
24 排塵カバー
27 ガイド板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機体一側方を既刈り地側、機体他側方を未刈り地側として茎稈の刈り取りを行う刈取部と、刈取茎稈が全稈投入される扱室と、扱室から漏下した処理物を揺動選別する揺動選別体とを備える汎用コンバインにおいて、
前記扱室の後部に形成される排出口を、揺動選別体の後端よりも後方に配置すると共に、扱室の排出口から排出される排出物を、揺動選別体に還すことなく、下方の排塵口から機外へ排出するにあたり、揺動選別体の後方に、排出物を既刈り地側へ移動させる移動手段を設けたことを特徴とする汎用コンバインの排塵構造。
【請求項2】
前記移動手段は、前記扱室の排出口から落下した排出物を後下方へ流す流し板と、該流し板の流し面に並列状に突設され、排出物を既刈り地側へ導く複数のガイド板とを備え、前記流し板の前端部に、揺動選別体の後端部に延設されるゴム板と摺接するゴム板摺接面を設けると共に、該ゴム板摺接面と流し面との間に、該流し面をゴム板摺接面に対して低くする段差を設けたことを特徴とする請求項1記載の汎用コンバインの排塵構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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