汚染土壌および地下水の浄化方法
【課題】 揮発性汚染物質を包含する飽和帯および不飽和帯を含む汚染地下領域に対し、揚水曝気処理による浄化方法において、低コストで浄化処理期間を短縮し、かつ周辺環境に対し安全である浄化方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 揮発性汚染物質を包含する汚染土壌領域に対し、揚水井から地下水を揚水する揚水工程と、揚水工程で揚水された地下水を曝気槽においてオゾンガスで曝気しながら紫外線を照射させることにより揮発性汚染物質を分解する分解工程を備える汚染土壌及び地下水の浄化方法において、分解工程で処理された地下水を注入井から土壌に戻す注入工程を有し、曝気槽内の気相部を注入井内の地下水に供給することにより、注入井内の地下水にオゾンを混合して地下水中のオゾン濃度を上げ、注入井内の地下水中で揮発性汚染物質を分解することを特徴とする。
【解決手段】 揮発性汚染物質を包含する汚染土壌領域に対し、揚水井から地下水を揚水する揚水工程と、揚水工程で揚水された地下水を曝気槽においてオゾンガスで曝気しながら紫外線を照射させることにより揮発性汚染物質を分解する分解工程を備える汚染土壌及び地下水の浄化方法において、分解工程で処理された地下水を注入井から土壌に戻す注入工程を有し、曝気槽内の気相部を注入井内の地下水に供給することにより、注入井内の地下水にオゾンを混合して地下水中のオゾン濃度を上げ、注入井内の地下水中で揮発性汚染物質を分解することを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機化合物などの化学物質により汚染された土壌および地下水を浄化する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
我国においては、従来からクロム、カドミウム、鉛などの重金属に対して公害防止が叫ばれ、その対策に取り組んできた。しかし、近年では、化学的な汚染物質である石油系化合物、有機化合物、農薬(肥料)などによる土壌や地下水の汚染が深刻な社会問題となっている。
【0003】
これらの汚染は、動植物の生育を直接的に阻害するばかりではなく、汚染物質の大気中への揮発・拡散により大気汚染を引き起こしたり、雨水とともに河川や湖沼、地下水へと汚染物質が流出して汚染が拡大したりする恐れがある。また、食物連鎖の上でも、広範囲にわたって被害が拡大する危険性が高い。
【0004】
これらの汚染に対する根本的な浄化対策として、例えば、汚染物質を包含する土壌を掘削して地上で浄化し、清浄な土壌にして埋め戻す方法が行われており、その浄化方法としては焼却、水・薬品等での洗浄、あるいは微生物の代謝機能を利用して汚染物質を分解するバイオレメディエーションなどが行われてきた。また、汚染土壌領域に固化剤を注入し、固定化・安定化する方法、汚染物質から揮発した有害ガスを井戸から吸引することによる分離・無害化方法、又は汚染物質が溶脱した地下水の揚水による土壌からの分離・無害化方法等の処理方法も行われてきた。
【0005】
しかし、汚染された土壌を掘削した後に地上で浄化して埋め戻す方法は、多大なコストと労力がかかり、大量の汚染土壌の処理には不適当である。
【0006】
一方、土壌を原位置で処理する方法としては、地下水の揚水による土壌からの分離・無害化方法として特許文献1に示されるように、汚染された地下水を揚水井から汲み上げ、地上で汚染物質の浄化処理をした後、浄化済み地下水は排水溝から排出する方法がある。この場合、浄化処理期間を短縮するためには、揚水井を多数設置することで処理する地下水量を増加させる必要があるため、揚水井の設置コストがかかり、また地上に設置する浄化設備の設備容量をアップさせるためのコストもかかる。
【0007】
特許文献2には、飽和帯に対応する深さに開口を有する井戸を設け、この開口から地下水が井戸内に流入した後、不飽和帯の高さに設けられた開口から土壌に戻る構造とし、オゾンを含む混合気体に酸化剤を加え地上から配管を通して井戸内の地下水に吹き込み、さらに地下水中で紫外線を照射し、有害物質を除去する方法が示されている。浄化処理期間を短縮するためには、井戸を多数設置することで浄化処理する地下水量を増加させる必要があるため、揚水井の設置コストがかかり、また地上に設置する浄化設備の設備容量をアップさせるためのコストもかかる。また、井戸の上面が開口しているため、未反応のオゾンはこの開口から地上に拡散することとなり、その量次第では周辺環境の安全面が懸念される。
【特許文献1】特開2001−029933号公報
【特許文献2】特開2001−009480号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記した従来技術の問題点に鑑み、揮発性汚染物質を包含する飽和帯および不飽和帯を含む汚染地下領域に対し、揚水曝気処理による浄化方法において、低コストで浄化処理期間を短縮し、かつ周辺環境に対し安全である浄化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決するため、本発明が提供する汚染土壌および地下水の浄化方法は揮発性汚染物質を包含する汚染土壌領域に対し、揚水井から地下水を揚水する揚水工程と、揚水工程で揚水された地下水を曝気槽においてオゾンガスで曝気しながら紫外線を照射させることにより揮発性汚染物質を分解する分解工程を備える汚染土壌及び地下水の浄化方法において、分解工程で処理された地下水を注入井から土壌に戻す注入工程を有し、曝気槽内の気相部を注入井内の地下水に供給することにより、注入井内の地下水にオゾンを混合して地下水中のオゾン濃度を上げ、注入井内の地下水中で揮発性汚染物質を分解することを特徴とする。
【0010】
注入工程における注入井の空間部を吸引する吸引工程を有し、吸引工程から排出される気体を、分解工程の曝気槽の液相部に供給することにより、オゾンをリサイクルし、未反応の揮発性汚染物質を完全に分解することが好ましい。
【0011】
揮発性汚染物質は、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、ジクロロエチレン、ジクロロエタン、トリクロロエタンのうち少なくとも1つであることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、揮発性汚染物質を包含する飽和帯および不飽和帯を含む汚染地下領域に対し、揚水曝気処理による浄化方法において、低コストで浄化処理期間を短縮し、かつ周辺環境に対し安全である浄化方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明における浄化対象の揮発性汚染物質には、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、ジクロロエチレン、ジクロロエタン、トリクロロエタンのうち少なくとも1つが含まれる。
【0014】
本発明の浄化方法の実施の形態を図1に基づいて説明する。
揚水工程において、周囲の飽和帯9から揚水井6に流入した揮発性汚染物質が含まれる地下水は、揚水井6の底に設置した水中ポンプ7で曝気槽1中に汲み上げられる。揚水井6は頭部を無孔管22、頭部以外を多孔管23とし、多孔管部は土壌内に位置するように設置される。
【0015】
分解工程において、曝気槽1中の地下水は紫外線照射装置3から発生する紫外線を照射され、オゾン発生装置2から発生するオゾンガスを含む混合気体で曝気され、揮発性汚染物質が分解される。地下水にはオゾンが十分に溶存しており、重力流で注入井12へ供給される。曝気槽1内のガスは余剰オゾンガス分解槽4を経由して大気に排出される。
【0016】
注入工程において、注入井12内には揮発性汚染物質を含む地下水が周囲の飽和帯9から流入しており、この地下水中の揮発性汚染物質は、曝気槽1から供給された地下水中に溶存しているオゾンによって分解される。注入井12は頭部を無孔管、頭部以外を多孔管とし、多孔管部は土壌内に位置するように設置される。
【0017】
注入井12の底に設置したオゾンガス混合ポンプ17は、注入井内に水没させた地下水供給ライン19から地下水を吸い込むことにより、これに接続されているオゾンガス供給ライン18から曝気槽1内の余剰オゾンガスを吸引する。この操作により、曝気槽1内の余剰オゾンガスが注入井12内の地下水に溶存しかつ注入井12内で地下水が循環することによる攪拌効果で注入井12内の地下水全体にオゾンが高濃度で行き渡り、この高濃度となったオゾンによって揮発性汚染物質の分解が促進される。
【0018】
吸引工程において、ガス吸引ブロワー15を作動させることで、吸引工程から排出される気体は分解工程の曝気槽1の液相部に供給されることが好ましい。
【0019】
これによりオゾン及び未反応の揮発性汚染物質を曝気槽1中の地下水に吸収させ、ここで揮発性汚染物質はオゾンと紫外線照射によって完全に分解される。
【0020】
また、この反応に寄与しなかったオゾンは地下水に溶存した状態で注入井12へ供給される。
【0021】
このようにして、オゾンは使い捨てされることなく、有効にリサイクル使用される。
【0022】
曝気槽1内の地下水中の揮発性汚染物質を分解するために、曝気槽1内でのオゾンガスの分散方法および紫外線照射方法など揮発性汚染物質の分解に関わる部分の仕様を充分に検討する必要がある。例えば、曝気槽1の容量や個数、揚水の曝気槽1内の滞留時間、オゾンガス曝気の気泡形成手段などを適正に選定することが必要である。
【0023】
上記のように、本浄化方法における設備は、随所にオゾンガスまたはオゾン溶存水を用いるために、オゾンの強力な酸化力に耐えうる材料で構成する必要がある。特に曝気槽1中では、高濃度のオゾンが滞留するためにオゾンによる腐食を防止する処置が必要である。
【0024】
揚水井6と注入井12の位置関係は、汚染領域における地下水流11の下流側に揚水井6を上流側に注入井12を設置する。
【0025】
より詳細には、注入井12から注入したオゾン溶存地下水が、揚水井6へ向かいながら両井戸間の揮発性汚染物質を分解できるような位置関係になるように設置することが好ましい。注入井12に注入されたオゾンが溶存した地下水は、注入井12から周囲の飽和帯にしみ出した後、地下水流11に乗って移動し揚水井6に到達し、この経路中にある揮発性汚染物質を飽和帯9中でオゾンで分解する。これを継続させることで注入井12と揚水井6の周辺土壌及び地下水が浄化されることとなる。
【0026】
浄化処理期間およびコストを検討したうえで、揚水井6、注入井12ともに1本以上設置することができる。
【実施例1】
【0027】
深さ約8m、幅約6m、長さ約12mにおよぶテトラクロロエチレン(以下PCE)で汚染された汚染土壌領域のほぼ中央部に対して、図2に示すように、直径10cm、深さ8mの揚水井6と、これから地下水流11で6m下流側に直径10cm、深さ8mの観測井21を設置した。また、従来技術となる図3に示す500Lの曝気槽1、オゾン発生量1.2g/hでオゾン濃度25g/Nm3 のオゾンガスを供給するオゾン発生装置2、ピーク波長254±10nmの紫外線を照射する紫外線照射装置3、オゾン分解触媒50Lが充填された余剰オゾンガス分解装置4、曝気槽1内の地下水のオーバーフローラインに活性炭槽5を設置し、揚水井6の底には5L/hの水中ポンプ7を設置した。地下水中のPCE濃度は、観測井21から分析試料を採取してモニタリングした。
【0028】
浄化を開始してから、図4に示すように、地下水中の初期PCE濃度24ppmに対し、徐々に低下していく傾向を確認した。
【0029】
3ヶ月経過したところで浄化完了が3年以上と予想されたため、浄化を促進させるために、図2に示すように直径15cm、深さ8mの注入井12を2本設置した。
【0030】
浄化開始3ヶ月目以降の設備全体の概要を図1に示す。
【0031】
活性炭槽5を撤去し、曝気槽1内の地下水のオーバーフローラインを注入井12の頭部に位置するオゾン溶存地下水注入口13に接続した。
【0032】
曝気槽1の気相部と注入井12のオゾンガス吸引口16をラインで接続した。オゾンガス吸引口16にはオゾンガス供給ライン18の片端が接続しており、オゾンガス供給ライン18のもう一方の片端は地下水供給ライン19の両端以外の部分に接続している。
【0033】
注入井12の底には2.5L/minのオゾンガス混合ポンプ17を設置し、オゾンガス混合ポンプ17の吸引側には地下水供給ライン19の片端を接続し、オゾンガス混合ポンプの17の排出側にはオゾン溶存地下水排出ライン20を接続した。
【0034】
オゾンガス混合ポンプ17に接続されていない地下水供給ライン19の片端は注入井12内の地下水中に位置するようにした。
【0035】
注入井12の頭部に注入井ガス吸引口14と0.2m3/hのガス吸引ブロアー15を設置した。この後、オゾンガス混合ポンプ17とガス吸引ブロアー15を作動した。その結果、間も無く地下水のPCE濃度が急激に減少し、浄化開始約7ヵ月後に0.001ppmに到達したため浄化処理を休止した。その後約2ヶ月間観測井でのモニターを継続したが、地下水中のPCE濃度の上昇は見られず、0.001ppm以下を推移した。
【実施例2】
【0036】
深さ約8m、幅約4m、長さ約12mにおよぶトリクロロエチレンで汚染された汚染土壌領域に対して従来技術となる図3に示す設備を実施例1と同じ仕様で設置した。地下水中の初期トリクロロエチレン濃度16ppmに対し、3ヶ月経過したところで浄化完了が2年以上と予想されたために、図1に示す設備を実施例1と同じ仕様で設置し処理を実施した。この結果、浄化開始6ヶ月後に0.001ppmに到達したため浄化処理を休止した。その後約2ヶ月間モニタリングを継続したが、地下水中のトリクロロエチレン濃度の上昇は見られず、0.001ppm以下を推移した。
【0037】
以上のことから、従来の一般的な揮発性汚染物質の処理方法である揚水後のオゾン曝気と紫外線照射処理に対し、本発明を用いることにより、処理期間を70%程度短縮できることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明によれば、揮発性汚染物質を包含する飽和帯および不飽和帯を含む汚染地下領域に対し、揚水曝気処理による浄化方法において、低コストで浄化処理期間を短縮し、かつ周辺環境に対し安全である浄化を行うことができるので、工場跡地等で揮発性汚染物質で汚染された土壌の修復に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の実施形態を示す概略図である。
【図2】本発明の浄化方法による実施例の井戸配置図である。
【図3】従来の浄化方法である。
【図4】本発明の浄化方法を用いた地下水中テトラクロロエチレン濃度の経時変化を示すグラフである。
【符号の説明】
【0040】
1 曝気槽
2 オゾン発生装置
3 紫外線照射装置
4 余剰オゾンガス分解槽
5 活性炭槽
6 揚水井
7 水中ポンプ
8 不飽和帯
9 飽和帯(帯水層)
10 地下水位
11 地下水流
12 注入井
13 オゾン溶存地下水注入口
14 注入井内ガス吸引口
15 ガス吸引ブロワー
16 オゾンガス吸引口
17 オゾンガス混合ポンプ
18 オゾンガス供給ライン
19 地下水供給ライン
20 オゾン溶存地下水排出ライン
21 観測井
22 無孔管
23 多孔管
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機化合物などの化学物質により汚染された土壌および地下水を浄化する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
我国においては、従来からクロム、カドミウム、鉛などの重金属に対して公害防止が叫ばれ、その対策に取り組んできた。しかし、近年では、化学的な汚染物質である石油系化合物、有機化合物、農薬(肥料)などによる土壌や地下水の汚染が深刻な社会問題となっている。
【0003】
これらの汚染は、動植物の生育を直接的に阻害するばかりではなく、汚染物質の大気中への揮発・拡散により大気汚染を引き起こしたり、雨水とともに河川や湖沼、地下水へと汚染物質が流出して汚染が拡大したりする恐れがある。また、食物連鎖の上でも、広範囲にわたって被害が拡大する危険性が高い。
【0004】
これらの汚染に対する根本的な浄化対策として、例えば、汚染物質を包含する土壌を掘削して地上で浄化し、清浄な土壌にして埋め戻す方法が行われており、その浄化方法としては焼却、水・薬品等での洗浄、あるいは微生物の代謝機能を利用して汚染物質を分解するバイオレメディエーションなどが行われてきた。また、汚染土壌領域に固化剤を注入し、固定化・安定化する方法、汚染物質から揮発した有害ガスを井戸から吸引することによる分離・無害化方法、又は汚染物質が溶脱した地下水の揚水による土壌からの分離・無害化方法等の処理方法も行われてきた。
【0005】
しかし、汚染された土壌を掘削した後に地上で浄化して埋め戻す方法は、多大なコストと労力がかかり、大量の汚染土壌の処理には不適当である。
【0006】
一方、土壌を原位置で処理する方法としては、地下水の揚水による土壌からの分離・無害化方法として特許文献1に示されるように、汚染された地下水を揚水井から汲み上げ、地上で汚染物質の浄化処理をした後、浄化済み地下水は排水溝から排出する方法がある。この場合、浄化処理期間を短縮するためには、揚水井を多数設置することで処理する地下水量を増加させる必要があるため、揚水井の設置コストがかかり、また地上に設置する浄化設備の設備容量をアップさせるためのコストもかかる。
【0007】
特許文献2には、飽和帯に対応する深さに開口を有する井戸を設け、この開口から地下水が井戸内に流入した後、不飽和帯の高さに設けられた開口から土壌に戻る構造とし、オゾンを含む混合気体に酸化剤を加え地上から配管を通して井戸内の地下水に吹き込み、さらに地下水中で紫外線を照射し、有害物質を除去する方法が示されている。浄化処理期間を短縮するためには、井戸を多数設置することで浄化処理する地下水量を増加させる必要があるため、揚水井の設置コストがかかり、また地上に設置する浄化設備の設備容量をアップさせるためのコストもかかる。また、井戸の上面が開口しているため、未反応のオゾンはこの開口から地上に拡散することとなり、その量次第では周辺環境の安全面が懸念される。
【特許文献1】特開2001−029933号公報
【特許文献2】特開2001−009480号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記した従来技術の問題点に鑑み、揮発性汚染物質を包含する飽和帯および不飽和帯を含む汚染地下領域に対し、揚水曝気処理による浄化方法において、低コストで浄化処理期間を短縮し、かつ周辺環境に対し安全である浄化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決するため、本発明が提供する汚染土壌および地下水の浄化方法は揮発性汚染物質を包含する汚染土壌領域に対し、揚水井から地下水を揚水する揚水工程と、揚水工程で揚水された地下水を曝気槽においてオゾンガスで曝気しながら紫外線を照射させることにより揮発性汚染物質を分解する分解工程を備える汚染土壌及び地下水の浄化方法において、分解工程で処理された地下水を注入井から土壌に戻す注入工程を有し、曝気槽内の気相部を注入井内の地下水に供給することにより、注入井内の地下水にオゾンを混合して地下水中のオゾン濃度を上げ、注入井内の地下水中で揮発性汚染物質を分解することを特徴とする。
【0010】
注入工程における注入井の空間部を吸引する吸引工程を有し、吸引工程から排出される気体を、分解工程の曝気槽の液相部に供給することにより、オゾンをリサイクルし、未反応の揮発性汚染物質を完全に分解することが好ましい。
【0011】
揮発性汚染物質は、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、ジクロロエチレン、ジクロロエタン、トリクロロエタンのうち少なくとも1つであることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、揮発性汚染物質を包含する飽和帯および不飽和帯を含む汚染地下領域に対し、揚水曝気処理による浄化方法において、低コストで浄化処理期間を短縮し、かつ周辺環境に対し安全である浄化方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明における浄化対象の揮発性汚染物質には、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、ジクロロエチレン、ジクロロエタン、トリクロロエタンのうち少なくとも1つが含まれる。
【0014】
本発明の浄化方法の実施の形態を図1に基づいて説明する。
揚水工程において、周囲の飽和帯9から揚水井6に流入した揮発性汚染物質が含まれる地下水は、揚水井6の底に設置した水中ポンプ7で曝気槽1中に汲み上げられる。揚水井6は頭部を無孔管22、頭部以外を多孔管23とし、多孔管部は土壌内に位置するように設置される。
【0015】
分解工程において、曝気槽1中の地下水は紫外線照射装置3から発生する紫外線を照射され、オゾン発生装置2から発生するオゾンガスを含む混合気体で曝気され、揮発性汚染物質が分解される。地下水にはオゾンが十分に溶存しており、重力流で注入井12へ供給される。曝気槽1内のガスは余剰オゾンガス分解槽4を経由して大気に排出される。
【0016】
注入工程において、注入井12内には揮発性汚染物質を含む地下水が周囲の飽和帯9から流入しており、この地下水中の揮発性汚染物質は、曝気槽1から供給された地下水中に溶存しているオゾンによって分解される。注入井12は頭部を無孔管、頭部以外を多孔管とし、多孔管部は土壌内に位置するように設置される。
【0017】
注入井12の底に設置したオゾンガス混合ポンプ17は、注入井内に水没させた地下水供給ライン19から地下水を吸い込むことにより、これに接続されているオゾンガス供給ライン18から曝気槽1内の余剰オゾンガスを吸引する。この操作により、曝気槽1内の余剰オゾンガスが注入井12内の地下水に溶存しかつ注入井12内で地下水が循環することによる攪拌効果で注入井12内の地下水全体にオゾンが高濃度で行き渡り、この高濃度となったオゾンによって揮発性汚染物質の分解が促進される。
【0018】
吸引工程において、ガス吸引ブロワー15を作動させることで、吸引工程から排出される気体は分解工程の曝気槽1の液相部に供給されることが好ましい。
【0019】
これによりオゾン及び未反応の揮発性汚染物質を曝気槽1中の地下水に吸収させ、ここで揮発性汚染物質はオゾンと紫外線照射によって完全に分解される。
【0020】
また、この反応に寄与しなかったオゾンは地下水に溶存した状態で注入井12へ供給される。
【0021】
このようにして、オゾンは使い捨てされることなく、有効にリサイクル使用される。
【0022】
曝気槽1内の地下水中の揮発性汚染物質を分解するために、曝気槽1内でのオゾンガスの分散方法および紫外線照射方法など揮発性汚染物質の分解に関わる部分の仕様を充分に検討する必要がある。例えば、曝気槽1の容量や個数、揚水の曝気槽1内の滞留時間、オゾンガス曝気の気泡形成手段などを適正に選定することが必要である。
【0023】
上記のように、本浄化方法における設備は、随所にオゾンガスまたはオゾン溶存水を用いるために、オゾンの強力な酸化力に耐えうる材料で構成する必要がある。特に曝気槽1中では、高濃度のオゾンが滞留するためにオゾンによる腐食を防止する処置が必要である。
【0024】
揚水井6と注入井12の位置関係は、汚染領域における地下水流11の下流側に揚水井6を上流側に注入井12を設置する。
【0025】
より詳細には、注入井12から注入したオゾン溶存地下水が、揚水井6へ向かいながら両井戸間の揮発性汚染物質を分解できるような位置関係になるように設置することが好ましい。注入井12に注入されたオゾンが溶存した地下水は、注入井12から周囲の飽和帯にしみ出した後、地下水流11に乗って移動し揚水井6に到達し、この経路中にある揮発性汚染物質を飽和帯9中でオゾンで分解する。これを継続させることで注入井12と揚水井6の周辺土壌及び地下水が浄化されることとなる。
【0026】
浄化処理期間およびコストを検討したうえで、揚水井6、注入井12ともに1本以上設置することができる。
【実施例1】
【0027】
深さ約8m、幅約6m、長さ約12mにおよぶテトラクロロエチレン(以下PCE)で汚染された汚染土壌領域のほぼ中央部に対して、図2に示すように、直径10cm、深さ8mの揚水井6と、これから地下水流11で6m下流側に直径10cm、深さ8mの観測井21を設置した。また、従来技術となる図3に示す500Lの曝気槽1、オゾン発生量1.2g/hでオゾン濃度25g/Nm3 のオゾンガスを供給するオゾン発生装置2、ピーク波長254±10nmの紫外線を照射する紫外線照射装置3、オゾン分解触媒50Lが充填された余剰オゾンガス分解装置4、曝気槽1内の地下水のオーバーフローラインに活性炭槽5を設置し、揚水井6の底には5L/hの水中ポンプ7を設置した。地下水中のPCE濃度は、観測井21から分析試料を採取してモニタリングした。
【0028】
浄化を開始してから、図4に示すように、地下水中の初期PCE濃度24ppmに対し、徐々に低下していく傾向を確認した。
【0029】
3ヶ月経過したところで浄化完了が3年以上と予想されたため、浄化を促進させるために、図2に示すように直径15cm、深さ8mの注入井12を2本設置した。
【0030】
浄化開始3ヶ月目以降の設備全体の概要を図1に示す。
【0031】
活性炭槽5を撤去し、曝気槽1内の地下水のオーバーフローラインを注入井12の頭部に位置するオゾン溶存地下水注入口13に接続した。
【0032】
曝気槽1の気相部と注入井12のオゾンガス吸引口16をラインで接続した。オゾンガス吸引口16にはオゾンガス供給ライン18の片端が接続しており、オゾンガス供給ライン18のもう一方の片端は地下水供給ライン19の両端以外の部分に接続している。
【0033】
注入井12の底には2.5L/minのオゾンガス混合ポンプ17を設置し、オゾンガス混合ポンプ17の吸引側には地下水供給ライン19の片端を接続し、オゾンガス混合ポンプの17の排出側にはオゾン溶存地下水排出ライン20を接続した。
【0034】
オゾンガス混合ポンプ17に接続されていない地下水供給ライン19の片端は注入井12内の地下水中に位置するようにした。
【0035】
注入井12の頭部に注入井ガス吸引口14と0.2m3/hのガス吸引ブロアー15を設置した。この後、オゾンガス混合ポンプ17とガス吸引ブロアー15を作動した。その結果、間も無く地下水のPCE濃度が急激に減少し、浄化開始約7ヵ月後に0.001ppmに到達したため浄化処理を休止した。その後約2ヶ月間観測井でのモニターを継続したが、地下水中のPCE濃度の上昇は見られず、0.001ppm以下を推移した。
【実施例2】
【0036】
深さ約8m、幅約4m、長さ約12mにおよぶトリクロロエチレンで汚染された汚染土壌領域に対して従来技術となる図3に示す設備を実施例1と同じ仕様で設置した。地下水中の初期トリクロロエチレン濃度16ppmに対し、3ヶ月経過したところで浄化完了が2年以上と予想されたために、図1に示す設備を実施例1と同じ仕様で設置し処理を実施した。この結果、浄化開始6ヶ月後に0.001ppmに到達したため浄化処理を休止した。その後約2ヶ月間モニタリングを継続したが、地下水中のトリクロロエチレン濃度の上昇は見られず、0.001ppm以下を推移した。
【0037】
以上のことから、従来の一般的な揮発性汚染物質の処理方法である揚水後のオゾン曝気と紫外線照射処理に対し、本発明を用いることにより、処理期間を70%程度短縮できることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明によれば、揮発性汚染物質を包含する飽和帯および不飽和帯を含む汚染地下領域に対し、揚水曝気処理による浄化方法において、低コストで浄化処理期間を短縮し、かつ周辺環境に対し安全である浄化を行うことができるので、工場跡地等で揮発性汚染物質で汚染された土壌の修復に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の実施形態を示す概略図である。
【図2】本発明の浄化方法による実施例の井戸配置図である。
【図3】従来の浄化方法である。
【図4】本発明の浄化方法を用いた地下水中テトラクロロエチレン濃度の経時変化を示すグラフである。
【符号の説明】
【0040】
1 曝気槽
2 オゾン発生装置
3 紫外線照射装置
4 余剰オゾンガス分解槽
5 活性炭槽
6 揚水井
7 水中ポンプ
8 不飽和帯
9 飽和帯(帯水層)
10 地下水位
11 地下水流
12 注入井
13 オゾン溶存地下水注入口
14 注入井内ガス吸引口
15 ガス吸引ブロワー
16 オゾンガス吸引口
17 オゾンガス混合ポンプ
18 オゾンガス供給ライン
19 地下水供給ライン
20 オゾン溶存地下水排出ライン
21 観測井
22 無孔管
23 多孔管
【特許請求の範囲】
【請求項1】
揮発性汚染物質を包含する汚染土壌領域に対し、揚水井から地下水を揚水する揚水工程と、揚水工程で揚水された地下水を曝気槽においてオゾンガスで曝気しながら紫外線を照射させることにより揮発性汚染物質を分解する分解工程を備える汚染土壌及び地下水の浄化方法において、分解工程で処理された地下水を注入井から土壌に戻す注入工程を有し、曝気槽内の気相部を注入井内の地下水に供給することにより、注入井内の地下水にオゾンを混合して地下水中のオゾン濃度を上げ、注入井内の地下水中で揮発性汚染物質を分解することを特徴とする汚染土壌および地下水の浄化方法。
【請求項2】
前記注入工程における前記注入井の空間部を吸引する吸引工程を有し、吸引工程から排出される気体を、前記分解工程の前記曝気槽の液相部に供給することにより、オゾンをリサイクルし、未反応の揮発性汚染物質を完全に分解することを特徴とする請求項1に記載の汚染土壌および地下水の浄化方法。
【請求項3】
前記揮発性汚染物質は、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、ジクロロエチレン、ジクロロエタン、トリクロロエタンのうち少なくとも1つである請求項1及び請求項2に記載の汚染土壌および地下水の浄化方法。
【請求項1】
揮発性汚染物質を包含する汚染土壌領域に対し、揚水井から地下水を揚水する揚水工程と、揚水工程で揚水された地下水を曝気槽においてオゾンガスで曝気しながら紫外線を照射させることにより揮発性汚染物質を分解する分解工程を備える汚染土壌及び地下水の浄化方法において、分解工程で処理された地下水を注入井から土壌に戻す注入工程を有し、曝気槽内の気相部を注入井内の地下水に供給することにより、注入井内の地下水にオゾンを混合して地下水中のオゾン濃度を上げ、注入井内の地下水中で揮発性汚染物質を分解することを特徴とする汚染土壌および地下水の浄化方法。
【請求項2】
前記注入工程における前記注入井の空間部を吸引する吸引工程を有し、吸引工程から排出される気体を、前記分解工程の前記曝気槽の液相部に供給することにより、オゾンをリサイクルし、未反応の揮発性汚染物質を完全に分解することを特徴とする請求項1に記載の汚染土壌および地下水の浄化方法。
【請求項3】
前記揮発性汚染物質は、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、ジクロロエチレン、ジクロロエタン、トリクロロエタンのうち少なくとも1つである請求項1及び請求項2に記載の汚染土壌および地下水の浄化方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図2】
【図3】
【図4】
【公開番号】特開2010−75887(P2010−75887A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−249255(P2008−249255)
【出願日】平成20年9月26日(2008.9.26)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年9月26日(2008.9.26)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】
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