説明

河川の護岸構造物

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、鋼矢板等による直立状の護岸において、魚類等の休憩や避難場所を形成できるようにした河川の護岸構造物に関するものである。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】都市部等における河川では、護岸のスペースが狭いことから、傾斜護岸よりも直立状壁面の護岸が多く用いられている。直立状護岸は、従来、例えば鋼矢板やコンクリートによるもので、大多数は平面状の壁面をなしている。そのため、護岸付近には魚類の休憩場所や洪水時の避難場所となるのに重要な淵とその周りにバリア的な役割を果す瀬となる部分が殆んどない、といった状態である。
【0003】魚類等の生息場としては、瀬や淵のような流速の変化を有していることが重要である。しかし、上述したように直立状護岸は、壁面が平面状或はそれに近い形であるため、魚類の休憩や避難ができず、生態系の保全が困難な状況にある。
【0004】本発明は、上述した問題にかんがみ、河川の直立状の護岸において、瀬や淵のような流速の変化した個所を形成することができ、魚類等が休憩や避難のできる場所が得られるようにした護岸構造物を提供しようとするものである。
【0005】
【問題を解決するための手段】上記の目的を達成するための本発明の構成について、実施例に対応する図面を参照して説明すると、請求項1の構造物は、鋼矢板1等により立設された護岸壁Aの河川側の壁面に、上下方向及びまたは長手方向に間隔をおいて、複数の、水流を横切る方向に延長する阻流板4,4を突設し、阻流板4の下流側に、流速の緩和領域を形成できるようにしたことを特徴とするものである。
【0006】また、請求項2の構造物は、請求項1のものにおいて、護岸壁AをU形鋼矢板1,1の連結により形成し、その河川側の壁面における鋼矢板1の出張った台面部3に、水流を横切る方向に延長する阻流板4を突設したことを特徴とするものである
【0007】また、請求項3の構造物は、請求項1または2のものにおいて、上記阻流板4の先端に、下流方向に延長する遮蔽板10を設けたことを特徴とするものである。
【0008】
【作用】本発明によれば、護岸壁に阻流板を突設することにより、阻流板の下流側に、魚類の生息や休憩、洪水時の避難に適した、よどみや淵などに相応する、流速の緩和された流域が容易に作り出される。それによって、河川の生態系の保全がなされる。
【0009】
【実施例】以下、本発明の実施例について図面を参照して説明する。図1は鋼矢板の連設による護岸構造物を例示した平面図、図2は同斜面図で、図中Aは護岸壁、Bは河川である。
【0010】護岸壁Aは、一般に使用されているU形の鋼矢板1の多数を、互にそれらの両端縁に設けられた継手2,2を嵌合、連結して形成され、その下部は地盤に根入れして立設されている。また、護岸壁Aには、図示を略したが、従来公知のように、その長手方向に延長する鋼材を結合して補強し、或は地面C側にアンカー材を打設してやることができる。
【0011】上記の鋼矢板1,1の連設による護岸壁Aは、鋼矢板1の形状から、壁面は縦縞状に凹凸をなしているが、その凹凸は、河川の流速に影響を及ぼさないほどの小さなものであるから、この場合、護岸壁Aの壁面全体としては平面状であるとみることができる。
【0012】護岸壁Aを構成する多くの鋼矢板1,1のうち、河川B側に出張っている所要の鋼矢板1には、その出張った台面部3に、河川Bの水流を横切る方向に延長する阻流板4の複数が、間隔をおいて突設されている。この阻流板4は、例えば図示のように四角形に形成されており、護岸壁Aの壁面に直交する方向から、先端が下流側に向く傾斜した方向までの適宜な角度θで突出され、通常、その角度は45〜90度が好適である。また、上記複数の阻流板4,4は、護岸壁Bの上下方向或は長手方向に適宜列設され、または図2に示すような千鳥状等に配設される。
【0013】阻流板4の鋼矢板1への取付けは、水中溶接によれば容易に行うことができる。また、図3に示すように、鋼矢板1の方にあらかじめアングル材5,5を対設して係合溝6を形成させ、阻流板4はその基端に係合用のプレート7を設けて、プレート7を係合溝6に挿入して取付けることもできる。なお、この場合、係合溝6の下端は、阻流板4が落下しないように閉塞しておくのがよい。護岸壁Aがコンクリート製である場合には、図4に示すように、阻流板4の基端に巾広の取付板8を設け、この取付板8を通してアンカーボルト9,9により固定するのがよい。
【0014】上記のように、阻流板4を突設した場合、護岸近くの水流速Vに対して、阻流板4の先端近くの流速は若干加速されてVとなるが、阻流板4の下流側には、Vのほぼ2分の1に緩和された流速Vの渦状の緩流域(淵、よどみ区間)Xが相当の長さLにわたって作り出される。これに関して行った実験例では、V=145cm/sの流速の鋼矢板護岸の河川に、50cm角の阻流板4を、取付角θ=60〜90度で突設した場合、V≒1.1Vとなり、阻流板4の下流側には、V≦0.5Vの緩流域XがほぼL=250cmの長さにわたり形成されることが認められた。この緩流域Xでは、流速が十分緩和されており、魚類の生息に適した場所が局所的に確保される。
【0015】なお、護岸が図示のように、U形の鋼矢板1の連設によるものであれば、阻流板4の下流側には、阻流板4を突設した鋼矢板1に連結した鋼矢板1による凹み部分xが形成されているため、緩流域Xはそのふところが深くなり、より大きな領域が形成できることになる。
【0016】図5、図6は、本発明の他の実施例を示したもので、上記阻流板4の先端に、下流側に延長する遮蔽板10が、河川の流れ方向に沿うようにして設けられている。この実施例のものでは、阻流板4と遮蔽板10とに囲まれた緩流域Xの巾及び長さLを大きくとることができるとともに、緩流域X内流速もより緩和される。なお、この実施例の場合、阻流板4と遮蔽板10とを一体のものとして折曲或は弧状に湾曲して形成することも可能である。
【0017】
【発明の効果】以上説明したように、請求項1の護岸構造物は、護岸壁に阻流板を突設したものであるから、阻流板の下流側に相当範囲にわたり、よどみや淵に相応する緩流域を容易に作り出すことができ、魚類等生息、休憩や洪水時の避難場が確保される。そして、構造は極めて簡単であるから、経済的にすぐれている。
【0018】また、請求項2の護岸構造物は、阻流板をU形鋼矢板の出張った台面に突設したものであるから、緩流域の範囲が大となる。
【0019】また、請求項3の護岸構造物は、上記阻流板の先端に遮蔽板が延設されたもであるから、上記の効果に加え、緩流域の範囲をより大きく作り出すことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例を示す要部の平面図である。
【図2】同斜視図である。
【図3】阻流板の他の取付例を示す斜視図である。
【図4】同さらに他の例を示す斜視図である。
【図5】本発明の他の実施例を示す要部の平面図である。
【図6】同斜視図である。
【符号の説明】
A 護岸壁
B 河川
1 鋼矢板
2 継手
3 台面部
4 阻流板
5 アングル
6 係合溝
7 プレート
8 取付板
9 アンカーボルト
10 遮蔽板

【特許請求の範囲】
【請求項1】 鋼矢板等により立設された護岸壁の河川側の壁面に、上下方向及びまたは長手方向に間隔をおいて、複数の、水流を横切る方向に延長する阻流板を突設し、阻流板の下流側に、流速の緩和領域を形成できるようにしたことを特徴とする、河川の護岸構造物。

【請求項2】 護岸壁をU形鋼矢板の連結により形成
し、その河川側の壁面における鋼矢板の出張った台面部に、水流を横切る方向に延長する阻流板を突設したことを特徴とする、請求項記載の河川の護岸構造物

【請求項3】
阻流板の先端に、下流方向に延長する遮蔽板を設けたことを特徴とする、請求項1または2記載の河川の護岸構造物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【特許番号】第2956955号
【登録日】平成11年(1999)7月23日
【発行日】平成11年(1999)10月4日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平6−284369
【出願日】平成6年(1994)10月24日
【公開番号】特開平8−120643
【公開日】平成8年(1996)5月14日
【審査請求日】平成10年(1998)1月22日
【出願人】(000173810)財団法人土木研究センター (4)
【出願人】(000001258)川崎製鉄株式会社 (8,589)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【出願人】(000004123)日本鋼管株式会社 (1,044)
【参考文献】
【文献】特開 平3−286011(JP,A)