説明

洗濯機

【課題】相対的な回転速度差を有する回転槽の回転と攪拌部材の回転による複合的な攪拌を行う場合に、洗濯物の攪拌が充分に行えるようにする。
【解決手段】減速機構18により、モータ13からの1つの回転入力を異なる減速比で減速して2つの回転出力に変換し、回転槽3及び攪拌部材12にそれぞれ伝達するようにしたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洗濯物を収容する回転槽と、回転槽内に位置して回転することで、洗濯物を攪拌する攪拌部材を有する洗濯機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の洗濯機の一例として、特許文献1で提示されるようなドラム式洗濯乾燥機がある。図10に示すように、筐体52内に図示しないサスペンション構造により水槽53が支持され、この水槽53内に有底円筒形に形成された回転槽55が配置されている。前記水槽53及び回転槽55は、開口端側を筐体52の正面側に、底面側を筐体52の背面側にして支持され、回転槽55は水槽53の底面に取り付けられたモータ54によって回転駆動される。回転槽55の開口端側に対向させて筐体52に扉体58を設けており、使用者は扉体58を開くことで、回転槽55に対して洗濯物を出し入れすることができる。
【0003】
回転槽55の内周壁には、複数の突起体59が設けられている。回転槽55に固定された槽回転軸51はモータ54のロータ56に直結しており、水槽53に取り付けられた槽回転軸受61で支持されている。この槽回転軸51は中空構造になっており、攪拌部材70に固定された回転軸50が軸心を一致するように挿入され図示しない軸受で支持されている。モータ54の後部には減速機または増速機71が取り付けられ、槽回転軸51の回転数を減速または増速して回転軸50に伝達することにより、回転槽55と攪拌部材70の回転速度に相対的な回転速度差を生じさせるようにしている。
【0004】
上記構成において、洗濯工程または乾燥工程で、モータ54を駆動し、回転槽55を回転させると、洗濯物は回転槽55の内周壁の突起体59で上方に持ち上げられた後、適当な高さで落下するといった攪拌動作と、回転槽55内で相対的な回転速度差を持って回転する攪拌部材70によってかき回される攪拌動作により、複合的な攪拌動作を受けることになる。このため、攪拌部材70を有さず、回転槽55の回転だけで攪拌動作を行う従来のドラム式洗濯乾燥機に比べて、洗濯物を攪拌する能力が向上し、十分な洗浄能力と乾燥能力を確保することができる。
【特許文献1】特開2005−253567号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記構成では、モータの回転トルクには、直接的に回転槽を回転させるのに必要なトルクに加えて、減速機または増速機を介して、攪拌部材を回転させるのに必要なトルクが必要となり、従来の攪拌部材を有さない洗濯機に比べてトルクアップする必要が生じる。このため、モータを大型化したいが、筐体内への収納性の問題、コストアップの問題がある。逆に、従来の攪拌部材を有さない洗濯機と同じモータを用いた場合には、必要なトルクを確保することができず、洗濯物を充分に攪拌することができないという課題があった。
【0006】
本発明が目的とするところは、相対的な回転速度差を有する回転槽の回転と攪拌部材の回転による複合的な攪拌を行う洗濯機において、筐体内に収納可能な従来の小型モータを用いても、洗濯物の攪拌が充分になされる構造を備えた洗濯機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために本発明に係る洗濯機は、回転自在に構成され、洗濯物を収容する回転槽と、回転槽内に位置して回転することで洗濯物を撹拌する攪拌部材と、回転槽及び攪拌部材の回転の駆動源となるモータと、モータの回転を回転槽及び攪拌部材に伝達する伝達手段とを備え、伝達手段は、減速機構を有し、モータからの1つの回転入力を異なる減速比で減速して2つの回転出力に変換し、回転槽及び攪拌部材にそれぞれ伝達するようにしたものである。
【0008】
これにより、洗濯または乾燥工程において、モータを回転させると、減速機構により回転槽と攪拌部材の両方を回転させるトルクを上げながら、異なる回転数で回転させることが可能となり、相対的な回転速度差を有する回転槽の回転と攪拌部材の回転による複合的な攪拌動作を強力に行うことができ、洗浄能力や乾燥能力を向上させることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の洗濯機は、相対的な回転速度差を有する回転槽の回転と攪拌部材の回転による複合的な攪拌動作を強力に行うことができ、洗浄能力や乾燥能力を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
第1の発明は、回転自在に構成され洗濯物を収容する回転槽と、前記回転槽内に位置し回転することで洗濯物を撹拌する攪拌部材と、前記回転槽および前記攪拌部材の回転の駆動源となるモータと、前記モータの回転を前記回転槽および前記攪拌部材に伝達する伝達手段とを備え、前記伝達手段は、減速機構を有し、前記モータからの1つの回転入力を異なる減速比で減速して2つの回転出力に変換し、前記回転槽および前記攪拌部材にそれぞれ伝達するようにしたことにより、回転槽と攪拌部材の両方を回転させるトルクを上げながら、異なる回転数で回転させることができ、相対的な回転速度差を有する回転槽の回転と攪拌部材の回転による複合的な攪拌動作を強力に行うことができ、洗浄能力と乾燥能力を向上させることができる。
【0011】
第2の発明は、特に、第1の発明の減速機構は、1つの遊星歯車減速機構と、前記遊星歯車減速機構のサンギヤと回転軸芯を一致させて配した1つの出力ギヤとを有し、前記遊星歯車減速機構のプラネットギヤをピッチ円直径の異なる一体の2段ギヤで形成し、一方の段はサンギヤ及びリングギヤと噛み合い、他方の段は出力ギヤと噛み合うように設け、サンギヤとモータ、キャリヤと回転槽、出力ギヤと攪拌部材をそれぞれ接続したことにより、モータからの一つの回転入力を異なる減速比で減速して2つの回転出力に変換する減速機構をコンパクトに構成することができる。また、回転槽、攪拌部材、モータ、伝達機構及び減速機構を回転軸芯を一致させて構成することができ、それぞれの回転を円滑に動作させることができる。
【0012】
第3の発明は、特に、第1または第2の発明の伝達手段は、モータの回転を回転槽と攪拌部材の両方に直結回転させるモードに切り替えるクラッチ機構を有することにより、回転槽と攪拌部材に相対的な回転速度差を持たせる第1の運転モードと同期回転させる第2の運転モードとを選択することが可能となる。これにより、2種類の攪拌動作を状況に応じて最適に選択して行うことができる。また、回転槽を高速回転させる脱水時において、第2の運転モードを選択することにより、攪拌部材が洗濯物を引っ掛けて傷めるようなこともない。また、モータの回転を直結回転させるため、減速機構等の機械音もなく、静かな脱水運転を実現することができる。
【0013】
第4の発明は、特に、第1〜第3のいずれか1つの発明の伝達手段は、減速機構の1つの出力を回転槽に伝達する槽回転軸と、前記槽回転軸を回転自在に保持するために、軸方向に距離を離して配した2個の軸受とを備え、減速機構を前記軸受間に設けたことにより、伝達手段をコンパクトに構成し、洗濯機または洗濯乾燥機の筐体内に無理なく収納することができる。
【0014】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
【0015】
(実施の形態1)
図1は、本発明の第1の実施の形態におけるドラム式洗濯乾燥機の断面図、図2はその外観図である。筐体1内にサスペンション5により水槽2が支持され、この水槽2内に有底円筒形に形成された回転槽3が配置されている。前記水槽2及び回転槽3は、開口端側を筐体1の正面側に、底面側を筐体1の背面側にして、正面側から背面側に向けて水平方向から下向き傾斜となるように支持されている。回転槽3の開口端側に対向させて筐体1に扉体4を設けており、使用者は扉体4を開くことで、回転槽3に対して洗濯物を出し入れすることができる。
【0016】
なお、水槽2の洗濯物出入口6の周囲には、柔軟な弾性体によって形成されたベローズ7が配設され、扉体4を閉じると、その内面にベローズ7の一端が圧接し、回転槽3の回転に伴って飛散する水が水槽2内から外に飛び出すのを防止している。
【0017】
上記構成のように回転槽3が傾斜配置され、その開口部に対向させて筐体1に扉体4を設けることにより、扉体4は筐体1の前に立つ人の顔方向に向くようになり、扉体4を開いて回転槽3に対して洗濯物を出し入れする作業に際して腰を屈める程度が少なくなり、楽に洗濯物を出し入れすることができる。したがって、筐体1の正面に余裕のある空間を確保する必要もなく、洗面所などの狭いスペースに設置することが可能となり、狭い日本の住環境にも適合するドラム式洗濯乾燥機に構成することができる。
【0018】
水槽2の下方には、水槽2内の水を排水する排水経路8が設けられており、排水経路8の途中には、排水経路8を閉じたり開いたりする排水弁9が設けられている。洗濯物を収納する回転槽3は、排水弁9を閉じた状態で水槽2内に水や洗剤等を貯えると洗濯室となる。また、排水弁9を開き、水槽2内に貯えられた水や洗剤等を排水経路8から排水し、回転槽3を高速で回転させると、洗濯物は回転槽3の側面に遠心力により押し付けられる。このとき、洗濯物に含まれる水分は、回転槽3の側面に設けられた複数の小穴10から水槽2と回転槽3の間に抜け、排水経路8から排水される。このように、回転槽3は、脱水室にもなる。
【0019】
また、図示していないが、回転槽3内には、ヒータ、送風手段、ダクト等により温風が送風されるような構造となっており、温風送風時には、回転槽3は、乾燥室にもなる。回転槽3の内周壁には、複数の突起体11が設けられており、回転槽3を低速で回転させることにより、洗濯物を突起体11で引っ掛けて上方に持ち上げた後、適当な高さで落下させるといった攪拌動作を与えることができる。
【0020】
回転槽3内の底面には、回転することで洗濯物をかき回す攪拌部材12が回転槽3と回転軸芯を一致させて設けられている。水槽2の底面側には、回転槽3及び攪拌部材12の回転の駆動源となるモータ13が設けられており、モータ13の回転は、伝達手段14により回転槽3及び攪拌部材12に伝達される。
【0021】
図3〜図8を用いて、モータ13及び伝達手段14を詳細に説明する。モータ13のステータ13aは、水槽2の底面側に固定される静止部材15に固定されている。回転槽3に連結される槽回転軸16は、静止部材15に取り付けられた2個の槽回転軸受17で回転自在に支持されており、中空状に形成されている。2個の槽回転軸受17は、槽回転軸16を介して、回転槽3を回転自在に支えるため、軸方向に一定の距離を離して設けられている。
【0022】
図3、図4、図6に示すように、槽回転軸16の中空部分には、減速機構18が設けられ、槽回転軸16に取り付けられた減速機構軸受19により回転自在に支持されている。図3、図4、図7に示すように、減速機構18は、1つの遊星歯車減速機構20と遊星歯車減速機構20のサンギヤ21と回転軸芯を一致させて配した1つの出力ギヤ22とで構成されている。サンギヤ21はモータ13のロータ13bに接続されることで、減速機構18への回転入力軸を形成しており、遊星歯車減速機構20のリングギヤ23に取り付けられたサンギヤ軸受24により回転自在に支持されている。
【0023】
遊星歯車減速機構20のプラネットギヤ25は、ピッチ円直径の異なる一体の2段ギヤで構成されており、本実施の形態では、図3、図4、図7に示す下段のギヤと上段のギヤのモジュールを同じにして歯数を変えることで、これを構成している。下段側のギヤは、サンギヤ21及びリングギヤ23と噛み合っており、上段側のギヤは、出力ギヤ22と噛み合っている。
【0024】
一般に、遊星歯車減速機構20において、リングギヤ23を回転固定した状態で、サンギヤ21を回転させると、プラネットギヤ25は下段側のギヤをサンギヤ21及びリングギヤ23と噛み合せた状態で自転しながら、サンギヤ21を中心にして公転運動を行う。この公転運動と一体に回転するように構成される遊星歯車減速機構20のキャリヤ26は、サンギヤ21よりも減速した状態で回転することになる。また、プラネットギヤ25の自転に伴い、これの上段のギヤと噛み合う出力ギヤ22も回転運動を行う。
【0025】
ここで、仮にサンギヤ21の歯数をZa、プラネットギヤ25の下段側の歯数をZb、リングギヤ23の歯数をZc、プラネットギヤ25の上段側の歯数をZd、出力ギヤ22の歯数をZeとし、プラネットギヤ25の公転運動に併せて回転しながら観察した場合(キャリヤ26を固定して考えた場合)、それぞれの噛み合いの歯数比から、サンギヤ21、プラネットギヤ25、リングギヤ23、キャリヤ26及び出力ギヤ22の回転数比は図9の上に示すようなものとなる。実際には、リングギヤ23を回転固定するので、それぞれの回転数比を変換すると、図9の下に示すようなものとなる。
【0026】
それぞれの歯数を適切に設定することにより、出力ギヤ22は、サンギヤ21よりも減速した状態で回転することになり、減速機構18は、サンギヤ21による1つの回転入力を、それぞれ異なる減速比で減速してキャリヤ26と出力ギヤ22の2つの回転出力に変換することができる。例えば、Za=24、Zb=24、Zc=72、Zd=12、Ze=36と設定し、図9の下の回転数比に当てはめれば、サンギヤ21に対するキャリヤ26の減速比は1/4となり、出力ギヤ22の減速比は1/2となる。キャリヤ26に設けられた穴26aは、回転槽3に直結される槽回転軸16に設けられた突起16aと係合している。
【0027】
また、出力ギヤ22の中央部に形成されたセレーション22bは、攪拌部材12に直結される回転軸27の下部に形成されたセレーション27aと係合している。回転軸27は、槽回転軸16に取り付けられた回転軸受28により回転自在に支持されている。上記構成により、リングギヤ23を固定した状態でモータ13のロータ13bを回転させると、回転槽3は1/4に、攪拌部材12は1/2に減速され、攪拌部材12は回転槽3に対して倍の回転数で回転する。
【0028】
これにより、回転槽3内に収納される洗濯物は回転槽3の内周壁の突起体11で上方に持ち上げられた後、適当な高さで落下するといった攪拌動作と、回転槽3内で相対的な回転速度差を持って回転する攪拌部材12によってかき回される攪拌動作により、複合的な攪拌動作を受けることになる。その際、回転槽3と攪拌部材12の両方に加えられるトルクは、モータ13のトルクよりも大きくなり、強力な攪拌動作が可能となり、洗濯工程及び乾燥工程において、洗浄能力、乾燥能力を向上させることができる。
【0029】
また、モータ13からの回転入力を異なる減速比で減速して2つの回転出力に変換する減速機構18を1つの遊星歯車減速機構20と1つの出力ギヤ22だけで構成しており、コンパクトな構成を実現している。また、回転槽3、攪拌部材12、槽回転軸16、回転軸27、出力ギヤ22、キャリヤ26、サンギヤ21、モータ13のロータ13b等の回転体を回転軸芯を一致させて構成しており、それぞれの回転の円滑な動作を実現している。ここで、回転槽3の回転により、洗濯物が上方に持ち上げられた後、適当な高さで落下するといった攪拌動作は、洗濯物の回転運動として観察され、その回転運動の回転数は回転槽3の回転数の約2倍である。
【0030】
しかしながら、特に、底面側を下向き傾斜させた回転槽3を有する洗濯乾燥機の場合、回転槽3内の底に位置する洗濯物は、底に押し付けられた状態で回転槽3と一体に回転運動するだけであり、その回転数は、回転槽3の回転数と一致する。この結果、回転槽3内の前方に位置する洗濯物と底に位置する洗濯物とで、回転運動の回転数に差が生じるため、ねじれや絡みが発生しやすい状況となる。
【0031】
しかしながら、本実施の形態のように、攪拌部材12を回転槽3に対して2倍の回転数で回転させると、回転槽3内の前方の洗濯物と底に位置する洗濯物とで、回転運動の回転数の差を少なくすることができるため、ねじれや絡みを発生させないといった効果もある。さらに、コンパクトな構成を実現した減速機構18は、軸方向に一定の距離を離して設けられる2個の槽回転軸受17の間に収納されており、伝達手段14を軸方向に大型化させることなく、コンパクトに構成し、筐体1内に無理なく収納することを可能にしている。
【0032】
次に、前述したリングギヤ23を回転固定する方法及びモータ13の回転を回転槽3と攪拌部材12の両方に直結回転させるモードに切り替えるクラッチ機構37について説明する。図3に示すように、静止部材15とロータ13bの間には、ソレノイド30が設けられており、ソレノイド30は静止部材15に固定されるソレノイドケース31により保持されている。リングギヤ23はロータ13bの近傍まで円筒部を形成し、ロータ13b近傍の円筒部外側には、軸方向に形成されるセレーション23aが設けられている。
【0033】
このセレーション23aには、これと係合するセレーション穴29aを有するクラッチ板29がロータ13bとソレノイド30との間で軸方向に摺動可能となるように設けられている。クラッチ板29の一部は磁性体により構成され、ソレノイド30に通電することにより、クラッチ板29は軸方向に移動し、ソレノイド30に吸引される構成となっている。
【0034】
ソレノイド30を保持するソレノイドケース31には、複数の凸部32が設けられており、これと対向するようにしてクラッチ板29にも、複数の凸部33が設けられている。図3に示すように、ソレノイド30によりクラッチ板29を吸引した状態では、凸部32と凸部33が噛み合い、クラッチ板29は回転固定され、これに伴い、リングギヤ23も回転固定される構成となっている。この状態で、モータ13のロータ13bを回転させることにより、前述したとおりに、回転槽3及び攪拌部材12を異なる減速比で減速し、相対的な回転速度差を生じさせることができる。
【0035】
クラッチ板29は、スプリング34により、常にロータ13b側に付勢されている。ロータ13bの中央部には、リングギヤ23のセレーション23aと同一のセレーション13dが形成されるボス13cが設けられている。さらに、クラッチ板29及び槽回転軸16の一部には、図8、図6で示されるようなスプライン35、36が形成されている。クラッチ板29及び槽回転軸16のスプライン35、36は、クラッチ板29がソレノイド30に吸引されたときには係合せず、クラッチ板29がロータ13b側に移動したときには係合するように設けられている。
【0036】
上記構成で、ソレノイド30への通電を切ると、図4に示すように、クラッチ板29はスプリング34の付勢力に従い、ロータ13b側へと軸方向に移動し、リングギヤ23のセレーション23aと係合した状態で、ロータ13bのボス13cのセレーション13dと係合する。同時にソレノイドケース31の凸部32とクラッチ板29の凸部33の噛み合いは解除され、これに伴い、リングギヤ23の回転固定も解除される。さらに同時に、クラッチ板29と槽回転軸16のスプライン35、36が係合される。
【0037】
上記状態でモータ13のロータ13bを回転させることにより、サンギヤ21、クラッチ板29、リングギヤ23、槽回転軸16、減速機構18及び回転軸27はロータ13bと一体となって回転することになり、回転槽3及び攪拌部材12両方ともにモータ13の回転を直結回転させることが可能となる。上述したクラッチ機構37を設けたことにより、ソレノイド30への通電のON/OFFを行うことで、回転槽3と攪拌部材12に相対回転速度差を持たせる第1の運転モード(図3)と同期回転させる第2の運転モード(図4)とを選択的に切り替えることができる。
【0038】
これにより、2種類の攪拌動作を状況に応じて最適に選択して行うことができる。例えば、攪拌能力の高い第1の運転モードを行っている際、極端にモータ13にかかるトルクが大きくなったような場合には、洗濯物に対して与える機械力が大きくなりすぎており、洗濯物を傷める可能性があるため、モータ13の電流値等によりこれを検知して、ソレノイド30への通電を切り、攪拌能力の低い第2の運転モードに切り替えるといったことが可能となる。
【0039】
また、回転槽3を高速回転させる脱水時において、第2の運転モードを選択することにより、攪拌部材12が洗濯物を引っ掛けて傷めるようなこともない。また、モータ13の回転を直結回転させるため、減速機構18のギヤの噛み合い音等の機械音もなく、静かな脱水運転を実現することができる。
【0040】
なお、本実施の形態の構成では、回転槽3を傾斜配置させたドラム式洗濯乾燥機としているが、これに限定されるものではなく、回転槽3の回転軸が水平方向となるドラム式洗濯乾燥機であっても、乾燥機能を有さないドラム式洗濯機であっても、攪拌能力を向上させるという効果は同様に得ることができる。
【0041】
また、相対的な回転速度差を有する回転槽3の回転と攪拌部材12の回転による複合的な攪拌を狙いとしたものであれば、回転槽3の回転軸が垂直方向となる縦型の洗濯機又は洗濯乾燥機であってもよく、同様の効果を得ることができる。
【0042】
また、本実施の形態の構成では、プラネットギヤ25をピッチ円直径の異なる一体の2段ギヤとし、下段のギヤと上段のギヤのモジュールを同じにして歯数を変えることでこれを構成しているが、歯数を同じにしてモジュールを変えることによっても、構成でき、同様の効果を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
以上のように、本発明にかかる洗濯機によれば、回転槽の回転と攪拌部材の回転による複合的な攪拌動作を強力に行うことができ、洗浄能力や乾燥能力を向上させることができるので、洗濯機および洗濯乾燥機として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の実施の形態1に係るドラム式洗濯乾燥機の横断面図
【図2】同ドラム式洗濯乾燥機の外観を示す斜視図
【図3】同ドラム式洗濯乾燥機の第1の運転モードの要部詳細断面図
【図4】同ドラム式洗濯乾燥機の第2の運転モードの要部詳細断面図
【図5】同ドラム式洗濯乾燥機の伝達手段の斜視図
【図6】同ドラム式洗濯乾燥機の伝達手段の分解斜視図
【図7】同ドラム式洗濯乾燥機の減速機構の分解斜視図
【図8】同ドラム式洗濯乾燥機のクラッチ板の斜視図
【図9】同ドラム式洗濯乾燥機の減速機構構成部品の回転数比を示す図
【図10】従来のドラム式洗濯乾燥機の横断面図
【符号の説明】
【0045】
3 回転槽
12 攪拌部材
13 モータ
14 伝達手段
16 槽回転軸
17 槽回転軸受
18 減速機構
20 遊星歯車減速機構
21 サンギヤ
22 出力ギヤ
23 リングギヤ
25 プラネットギヤ
26 キャリヤ
37 クラッチ機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転自在に構成され洗濯物を収容する回転槽と、前記回転槽内に位置し回転することで洗濯物を撹拌する攪拌部材と、前記回転槽および前記攪拌部材の回転の駆動源となるモータと、前記モータの回転を前記回転槽および前記攪拌部材に伝達する伝達手段とを備え、前記伝達手段は、減速機構を有し、前記モータからの1つの回転入力を異なる減速比で減速して2つの回転出力に変換し、前記回転槽および前記攪拌部材にそれぞれ伝達するようにした洗濯機。
【請求項2】
減速機構は、1つの遊星歯車減速機構と、前記遊星歯車減速機構のサンギヤと回転軸芯を一致させて配した1つの出力ギヤとを有し、前記遊星歯車減速機構のプラネットギヤをピッチ円直径の異なる一体の2段ギヤで形成し、一方の段はサンギヤ及びリングギヤと噛み合い、他方の段は出力ギヤと噛み合うように設け、サンギヤとモータ、キャリヤと回転槽、出力ギヤと攪拌部材をそれぞれ接続した請求項1記載の洗濯機。
【請求項3】
伝達手段は、モータの回転を回転槽と攪拌部材の両方に直結回転させるモードに切り替えるクラッチ機構を有する請求項1または2記載の洗濯機。
【請求項4】
伝達手段は、減速機構の1つの出力を回転槽に伝達する槽回転軸と、前記槽回転軸を回転自在に保持するために、軸方向に距離を離して配した2個の軸受とを備え、減速機構を前記軸受間に設けた請求項1〜3のいずれか1項に記載の洗濯機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−104684(P2008−104684A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−290932(P2006−290932)
【出願日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】