説明

流体ブレーキ装置及びバルブタイミング調整装置

【課題】耐久性の向上と共にブレーキ特性の変化の回避を実現する。
【解決手段】流体ブレーキ装置100のシール構造160は、磁極により磁束を発生する永久磁石172と、筐体110においてブレーキ回転体130のブレーキ軸131を囲んで設けられ、筐体110内部の流体室114に連通するシールギャップ176gをブレーキ軸131との間に形成し、当該ギャップ176gを通じて永久磁石172の発生磁束をブレーキ軸131に案内する磁束ガイド174と、筐体110のうち磁束ガイド174よりも軸方向の筐体外部側にてブレーキ軸131に接触して設けられ、当該軸131との間を液密にシールする液体シール180と、非磁性の液体として、シールギャップ176g及び液体シール180に挟まれた中間室178を満たす中間流体190とを、有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体ブレーキ装置及びそれを備えたバルブタイミング調整装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、筐体内部の流体室に封入されてブレーキ回転体と接触する磁気粘性流体に磁束を通過させることにより、磁気粘性流体の粘度を可変制御する流体ブレーキ装置が、知られている。この種の流体ブレーキ装置は、比較的小電力にてブレーキ回転体にブレーキトルクを与え得るので、例えば内燃機関のバルブタイミングを決めるクランク軸及びカム軸間の相対位相(以下、「機関位相」という)を、当該ブレーキトルクに応じて調整するバルブタイミング調整装置等に、好適である。
【0003】
さて、流体ブレーキ装置の一種として特許文献1に開示の装置では、ブレーキ回転体のうち筐体を内外に貫通するブレーキ軸と当該筐体との間が、シール構造によりシールされている。具体的には、特許文献1に開示の流体ブレーキ装置では、シール構造を構成する永久磁石と磁束ガイドとが、ブレーキ軸を囲む形態に設けられている。かかる形態において永久磁石の発生する磁束は、磁束ガイド及びブレーキ軸の間にて流体室と連通するシールギャップを通じて、磁束ガイドからブレーキ軸に案内される。その結果、磁束が通過するシールギャップに流体室から流入する磁気粘性流体は、当該磁束を受けて粘度上昇することにより、膜状に捕捉されることとなる。
【0004】
このようにしてシールギャップに形成されるシール膜は、ブレーキ軸の軸方向において筐体内部側から筐体外部側へ向かう磁気粘性流体の流動を流体自身で規制する、所謂自己シール機能を発揮し得る。故に、磁気粘性流体が流体室から漏出することによるブレーキ特性の変化につき、回避可能となるのである。また、磁気粘性流体からなるシール膜によれば、ブレーキ軸へ与える摩擦抵抗を低減して耐久性を向上させることも、可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−121614号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、本発明者らが鋭意研究を行った結果、特許文献1の流体ブレーキ装置では、以下の要因によりブレーキ特性の変化を惹起するおそれのあることが、判明したのである。その要因とは、非磁性のベース液に磁性粒子が分散されてなる磁気粘性流体のうち、シールギャップにおいて磁束の作用を受けないベース液は、流体室において温度と共に上昇する圧力の作用を受けることにより、筐体外部側へ抜け易いことにある。こうしたベース液の抜けは、それ自体が磁気粘性流体の変質に繋がるだけでなく、磁気粘性流体中の磁性粒子をも巻き込んだ流動となることで変質を加速させてしまう。したがって、磁気粘性流体の変質は、自己シール機能を低下させることで間接的に、あるいはシールギャップから流体室にも影響が及ぶことで直接的にブレーキ特性の変化を招くことになるので、望ましくない。
【0007】
ここで、シールギャップにおいて筐体内部側から筐体外部側へ向かう磁性粒子の流動を規制するために、上述の如き自己シール機能を発揮する構成以外、例えば一般的なメカニカルシール等の採用を、想定してみる。また、ベース液に磁性粒子が分散されてなる機能性流体として、上述した磁気粘性流体以外、例えば磁性流体等の採用を想定してみる。これらいずれの想定下にあっても、耐久性向上のためにシールギャップを確保しようとすると、当該ギャップからのベース液の抜けによる磁気粘性流体の変質が直接的に起因してブレーキ特性の変化を招くことは、問題となってしまう。
【0008】
本発明は、以上説明した問題に鑑みてなされたものであって、その目的は、耐久性の向上と共にブレーキ特性の変化の回避を達成する流体ブレーキ装置、並びにそれを備えたバルブタイミング調整装置を、提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の発明は、流体室(114)を内部に形成する筐体(110)と、非磁性のベース液に磁性粒子が分散されてなり、流体室に封入されて通過磁束に応じて粘度が変化する磁気粘性流体(140)と、流体室の磁気粘性流体に磁束を通過させることにより、磁気粘性流体の粘度を可変制御する粘度制御手段(150,200)と、軸方向において筐体を内外に貫通するブレーキ軸(131)を有し、流体室の磁気粘性流体と接触することにより、磁気粘性流体の粘度に応じたブレーキトルクが入力されるブレーキ回転体(130)と、筐体及びブレーキ軸の間をシールするシール構造(160)とを、備える流体ブレーキ装置であって、
シール構造は、磁極により磁束を発生する永久磁石(172)と、筐体においてブレーキ軸を囲んで設けられ、流体室に連通するシールギャップ(176g)をブレーキ軸との間に形成し、当該シールギャップを通じて永久磁石の発生磁束をブレーキ軸に案内する磁束ガイド(174)と、筐体のうち磁束ガイドよりも軸方向の筐体外部側においてブレーキ軸に接触して設けられ、当該ブレーキ軸との間を液密にシールする液体シール(180)と、非磁性の液体として、シールギャップ及び液体シールに挟まれた中間室(178)を満たす中間流体(190)とを、有する。
【0010】
この発明のシール構造では、磁束ガイド及びブレーキ軸間のシールギャップへ流体室から流入する磁気粘性流体は、永久磁石の磁極により発生して磁束ガイドからシールギャップを通じてブレーキ軸に案内される磁束の作用を、受けることになる。かかる磁束作用の結果、磁気粘性流体中の磁性粒子が保持されることでシールギャップに形成されるシール膜によると、ブレーキ軸の軸方向にて筐体内部側から筐体外部側へ向かう磁気粘性流体の流動を流体自身で規制するように、自己シール機能が発揮され得る。したがって、ブレーキ軸へ与える摩擦抵抗の低減により耐久性の向上が可能となる。
【0011】
また、シール構造では、シールギャップを形成する磁束ガイドよりも筐体外部側の液体シールは、当該ギャップとで挟んだ中間室の液体である中間流体に対して、ブレーキ軸との液密接触によるシール機能を発揮することにより、中間室を中間流体で常に満たし得る。故に流体室の圧力は、シールギャップにおける磁気粘性流体中のベース液と中間室における中間流体とを伝播して、液体シールに受け止められることとなる。かかる受け止め作用によれば、ベース液が磁性粒子を巻き込んでシールギャップから中間室へ抜けるのを抑制できるので、当該抜けによる磁気粘性流体の変質は生じ難い。それと共に、非磁性の液体である中間流体は、中間室からシールギャップに磁気吸引されてベース液と混合することによる磁気粘性流体の変質を、生じさせ難い。したがって、磁気粘性流体の変質に起因した自己シール機能の低下並びにブレーキ特性の変化を、回避可能となる。
【0012】
さらにシール構造では、仮に磁気粘性流体中のベース液が磁性粒子を巻き込んでシールギャップから中間室へ抜けたとしても、当該磁性粒子は、中間室を挟むシールギャップ及び液体シールの間の離間距離に応じて、液体シールには到達し難くなる。故に、液体シール及びブレーキ軸の接触界面にて面圧を低減させたとしても、磁性粒子が当該接触界面に侵入して摩擦抵抗を増大させる事態の回避は可能となるので、これによっても耐久性の向上に貢献できるのである。
【0013】
請求項2に記載の発明によると、中間流体は、ベース液とは異質の液体である。この発明においてベース液は、異質の中間流体とは混合し難くなることにより、流体室圧力の受け止め作用と相俟って、シールギャップからの抜けを抑制され得る。故に、磁気粘性流体の変質に起因したブレーキ特性の変化の回避につき、信頼性を高めることが可能となる。
【0014】
請求項3に記載の発明によると、ベース液は、極性液体及び非極性液体のうち一方であり、中間流体は、それら極性液体及び非極性液体のうち他方である。この発明では、相互間に斥力が生じる極性液体及び非極性液体のうち一方であるベース液は、他方である中間流体とは反発することにより、シールギャップからの抜けを招くような中間流体への混合を、抑制され得る。また換言すれば、中間流体は、ベース液とは反発してシールギャップでの混合を抑制され得る。これら混合抑制効果の結果として、磁気粘性流体の変質に起因したブレーキ特性の変化の回避を、高い信頼性をもって達成できるのである。加えて、磁気粘性流体中にてベース液の付着した磁性粒子は、中間室の中間流体との反発により、液体シールへの到達を抑制され得るので、液体シール及びブレーキ軸の接触界面にて面圧を低減することによる耐久性の向上にも、貢献できる。
【0015】
請求項4に記載の発明によると、中間流体は、ベース液と同一の液体である。この発明のシールギャップにおいては、中間流体が同一液体としてのベース液に仮に混合したとしても、混合そのものによる磁気粘性流体の変質を招くことがない。故に、磁気粘性流体の変質に起因したブレーキ特性の変化の回避につき、信頼性を高めることが可能となる。
【0016】
請求項5に記載の発明によると、シール構造は、上記磁束ガイドとして、ブレーキ軸との間のシールギャップに永久磁石の発生磁束を案内する第一磁束ガイド(174)と、筐体のうち第一磁束ガイドよりも軸方向の筐体外部側においてブレーキ軸を囲んで設けられ、当該ブレーキ軸との間の中間室が形成するトラップギャップ(178g)に、永久磁石の発生磁束を案内する第二磁束ガイド(175)とを、有する。この発明のシール構造では、第一磁束ガイドが形成するシールギャップから、磁気粘性流体中のベース液が磁性粒子を巻き込んで中間室へ抜けるのを、流体室圧力の受け止め作用により抑制して、磁気粘性流体の変質に起因したブレーキ特性変化を回避することが可能となる。それと共にシール構造では、磁気粘性流体中のベース液が仮に磁性粒子を巻き込んでシールギャップから中間室へ抜けたとしても、中間室のうち第二磁束ガイドが形成して磁束を案内するトラップギャップにより、当該磁性粒子が捕捉され得る。かかる捕捉作用によれば、トラップギャップを含む中間室を通じて磁性粒子が液体シールに到達するのを、確実に抑制して、液体シール及びブレーキ軸の接触界面にて面圧を低減することによる耐久性の向上にも、貢献できるのである。
【0017】
請求項6に記載の発明によると、永久磁石は、筐体において第一磁束ガイド及び第二磁束ガイドに挟まれることにより、ブレーキ軸を囲んで設けられ、当該ブレーキ軸との間に中間室を確保する。この発明において永久磁石は、シールギャップを形成する第一磁束ガイドと、中間室のうちトラップギャップを形成する第二磁束ガイドとに挟まれることにより、それら両ガイドの配置間隔に対応して延伸する中間室を、ブレーキ軸との間に確保し得る。これによれば、シールギャップにおいて磁気粘性流体中の磁性粒子が中間室を通じて液体シールに到達するための所要距離は、可及的に長くなるので、当該液体シールのブレーキ軸との接触界面にて面圧を低減することによる耐久性の向上に、貢献できるのである。
【0018】
請求項7に記載の発明は、内燃機関においてクランク軸からのトルク伝達によりカム軸が開閉する動弁のバルブタイミングを調整するバルブタイミング調整装置であって、請求項1〜6のいずれか一項に記載の流体ブレーキ装置(100)と、流体ブレーキ装置の筐体の外部においてブレーキ軸と連繋し、当該流体ブレーキ装置のブレーキ回転体へ入力されるブレーキトルクに応じてクランク軸及びカム軸の間の相対位相を調整する位相調整機構(300)とを、備える。
【0019】
この発明の流体ブレーキ装置のシール構造によれば、シールギャップにおける磁気粘性流体の変質に起因したブレーキ特性変化を回避して、当該特性変化に左右される機関位相の調整精度を維持することが、可能となる。また、流体ブレーキ装置のシール構造において磁気粘性流体のシール膜を形成するシールギャップでは、磁性粒子を巻き込んだベース液の抜けが抑制され得るので、当該磁性粒子の保持に必要な磁束の通過密度を可及的に小さくできる。これによれば、シール膜がブレーキ軸に与える摩擦抵抗は可及的に小さくなるので、耐久性の向上のみならず、当該摩擦抵抗に起因して内燃機関の燃費低下を招くトルクロスの回避も、可能となるのである。
【0020】
請求項8に記載の発明は、流体室(114)を内部に形成する筐体(110)と、ベース液に磁性粒子(140a)が分散されてなり、流体室に封入されて通過磁束に応じて粘度が変化する機能性流体(140)と、流体室の機能性流体に磁束を通過させることにより、機能性流体の粘度を可変制御する粘度制御手段(150,200)と、軸方向において筐体を内外に貫通するブレーキ軸(131,2131,7131,8131)を有し、流体室の機能性流体と接触することにより、機能性流体の粘度に応じたブレーキトルクが入力されるブレーキ回転体(130)と、筐体及びブレーキ軸の間をシールするシール構造(160,1160,2160,3160,4160,5160,6160,7160,8160)とを、備える流体ブレーキ装置であって、
シール構造は、流体室に連通するシールギャップ(176g,2176g,3176g,7176g,8176g)を、ブレーキ軸との間に形成してシールすることにより、当該シールギャップにおいて軸方向の筐体内部側から筐体外部側へ向かう磁性粒子の流動を、規制する粒子シール(170,1170,2170,3170,4170,5170,6170,7166,8166)と、筐体のうち粒子シールよりも軸方向の筐体外部側においてブレーキ軸に接触して設けられ、当該ブレーキ軸との間を液密にシールする液体シール(180)と、シールギャップ及び液体シールに挟まれた中間室(178,2178,7178)を満たす液状の中間流体(190)とを、有する。
【0021】
この発明のシール構造では、粒子シール及びブレーキ軸間のシールギャップへ流体室から流入する機能性流体中の磁性粒子は、ブレーキ軸の軸方向において筐体内部側から筐体外部側へと向かう流動を、粒子シールのシール機能により規制される。これによれば、粒子シール及びブレーキ軸の間に適度なシールギャップを確保しながらも、当該ギャップを磁性粒子に関してシールし得るので、ブレーキ軸へ与える摩擦抵抗の低減により耐久性を向上可能となる。
【0022】
また、シール構造においてシールギャップを形成する粒子シールよりも筐体外部側の液体シールは、当該ギャップとで挟んだ中間室の液体である中間流体に対して、ブレーキ軸との液密接触によるシール機能を発揮することにより、中間室を中間流体で常に満たし得る。故に流体室の圧力は、シールギャップにおける機能性流体中のベース液と中間室における中間流体とを伝播して、液体シールに受け止められることとなる。かかる受け止め作用によれば、ベース液が磁性粒子を巻き込んでシールギャップから中間室へ抜けるのを抑制できるので、当該抜けによる機能性流体の変質は生じ難い。したがって、機能性流体の変質に起因したブレーキ特性の変化を、回避可能となる。
【0023】
さらにシール構造では、仮に機能性流体中のベース液が磁性粒子を巻き込んでシールギャップから中間室へ抜けたとしても、当該磁性粒子は、中間室を挟むシールギャップ及び液体シールの間の離間距離に応じて、液体シールには到達し難くなる。故に、液体シール及びブレーキ軸の接触界面にて面圧を低減させたとしても、磁性粒子が当該接触界面に侵入して摩擦抵抗を増大させる事態の回避は可能となるので、これによっても耐久性の向上に貢献できるのである。
【0024】
請求項9に記載の発明によると、中間流体は、ベース液とは異質の液体である。この発明においてベース液は、異質の中間流体とは混合し難くなることにより、流体室圧力の受け止め作用と相俟って、シールギャップからの抜けを抑制され得る。故に、機能性流体の変質に起因したブレーキ特性の変化の回避につき、信頼性を高めることが可能となる。
【0025】
請求項10に記載の発明によると、ベース液は、極性液体及び非極性液体のうち一方であり、中間流体は、それら極性液体及び非極性液体のうち他方である。この発明では、相互間に斥力が生じる極性液体及び非極性液体のうち一方であるベース液は、他方である中間流体とは反発することにより、シールギャップからの抜けを招くような中間流体への混合を、抑制され得る。また換言すれば、中間流体は、ベース液とは反発してシールギャップでの混合を抑制され得る。これら混合抑制効果の結果として、機能性流体の変質に起因したブレーキ特性の変化の回避を、高い信頼性をもって達成できるのである。加えて、機能性流体中にてベース液の付着した磁性粒子は、中間室の中間流体との反発により、液体シールへの到達を抑制され得るので、液体シール及びブレーキ軸の接触界面にて面圧を低減することによる耐久性の向上にも、貢献できる。
【0026】
請求項11に記載の発明によると、中間流体は、ベース液と同一の液体である。この発明のシールギャップにおいては、中間流体が同一液体としてのベース液に仮に混合したとしても、混合そのものによる機能性流体の変質を招くことがない。故に、機能性流体の変質に起因したブレーキ特性の変化の回避につき、信頼性を高めることが可能となる。
【0027】
請求項12に記載の発明によると、ベース液及び中間流体は、非磁性の液体であり、粒子シール(170,1170)は、磁極により磁束を発生する磁石(172,1172)と、筐体においてブレーキ軸(131)を囲んで設けられ、シールギャップ(176g)をブレーキ軸との間に形成し、当該シールギャップを通じて磁石の発生磁束をブレーキ軸に案内する磁束ガイド(174)とを、含む。この発明のシール構造では、磁束ガイド及びブレーキ軸間のシールギャップへ流体室から流入する機能性流体は、磁石の磁極により発生して磁束ガイドからシールギャップを通じてブレーキ軸に案内される磁束の作用を、受けることになる。かかる磁束作用の結果、機能性流体中の磁性粒子が保持されることでシールギャップに形成されるシール膜によると、筐体内部側から筐体外部側へ向かう機能性流体の流動を流体自身で規制するように、自己シール機能が発揮され得る。これによれば、磁束ガイド及びブレーキ軸の間に適度なシールギャップを確保しながらも、機能性流体自身により当該ギャップを成分粒子に関してシールし得るので、ブレーキ軸へ与える摩擦抵抗の低減により耐久性を向上可能となる。それと共にシール構造では、非磁性の液体である中間流体は、磁束ガイドにより磁束が案内されるシールギャップに中間室から磁気吸引されてベース液と混合することによる機能性流体の変質を、生じさせ難い。故に、シールギャップからのベース液の抜けが抑制されることと相俟って、機能性流体の変質に起因した自己シール機能の低下並びにブレーキ特性の変化を、回避可能となる。
【0028】
請求項13に記載の発明によると、粒子シール(170,1170)は、磁束ガイドとして、ブレーキ軸との間のシールギャップに磁石の発生磁束を案内する第一磁束ガイド(174)と、筐体のうち第一磁束ガイドよりも軸方向の筐体外部側においてブレーキ軸を囲んで設けられ、当該ブレーキ軸との間の中間室が形成するトラップギャップ(178g)に、磁石の発生磁束を案内する第二磁束ガイド(175)とを、含む。この発明のシール構造では、第一磁束ガイドが形成するシールギャップから、機能性流体中のベース液が磁性粒子を巻き込んで中間室へ抜けるのを、流体室圧力の受け止め作用により抑制して、機能性流体の変質に起因したブレーキ特性変化を回避することが可能となる。それと共にシール構造では、機能性流体中のベース液が仮に磁性粒子を巻き込んでシールギャップから中間室へ抜けたとしても、中間室のうち第二磁束ガイドが形成して磁束を案内するトラップギャップにより、当該磁性粒子が捕捉され得る。かかる捕捉作用によれば、トラップギャップを含む中間室を通じて磁性粒子が液体シールに到達するのを、確実に抑制して、液体シール及びブレーキ軸の接触界面にて面圧を低減することによる耐久性の向上にも、貢献できるのである。
【0029】
請求項14に記載の発明によると、磁石は、筐体において第一磁束ガイド及び第二磁束ガイドに挟まれることにより、ブレーキ軸を囲んで設けられ、当該ブレーキ軸との間に中間室を確保する。この発明において磁石は、シールギャップを形成する第一磁束ガイドと、中間室のうちトラップギャップを形成する第二磁束ガイドとに挟まれることにより、それら両ガイドの配置間隔に対応して延伸する中間室を、ブレーキ軸との間に確保し得る。これによれば、シールギャップにおいて機能性流体中の磁性粒子が中間室を通じて液体シールに到達するのに要する所要距離は、可及的に長くなるので、当該液体シールのブレーキ軸との接触界面にて面圧を低減することによる耐久性の向上に、貢献できるのである。
【0030】
請求項15に記載の発明によると、粒子シール(2170)は、筐体においてブレーキ軸(2131)を囲んで設けられ、当該ブレーキ軸との間に形成するシールギャップ(2176g)の幅を磁性粒子の外径よりも小さく調整するギャップ調整部材(2170)を、含む。この発明のシール構造では、ギャップ調整部材及びブレーキ軸の間において磁性粒子の外径よりも小さな幅に調整されるシールギャップには、流体室から流入しようとする機能性流体の中で当該粒子の流入が困難となる。故にシールギャップにおいて、筐体内部側から筐体外部側へと向かって磁性粒子が流動するには、筐体内部側への磁性粒子の流入が必要なことから、当該流入の困難な磁性粒子は、筐体外部側への流動を確実に規制され得る。これによれば、ギャップ調整部材及びブレーキ軸間に適度なシールギャップを確保しながらも、当該ギャップを磁性粒子に関してシールできるので、ブレーキ軸へ与える摩擦抵抗の低減により耐久性を向上可能となる。
【0031】
請求項16に記載の発明によると、粒子シール(3170,4170,5170,6170)は、筐体においてブレーキ軸(2131)を囲んで設けられ、シールギャップ(3176g)をブレーキ軸との間に形成し、当該シールギャップにおいて軸方向の筐体外部側から筐体内部側へ向かう磁性粒子を捕捉可能なフィルタ部材(3170,4170,5170,6170)を、含む。この発明のシール構造では、フィルタ部材及びブレーキ軸の間のシールギャップへ流体室から流入する機能性流体中の磁性粒子は、シールギャップにおいて外周側のフィルタ部材に捕捉されることで、筐体内部側から筐体外部側へ向かう流動を規制され得る。これによれば、フィルタ部材及びブレーキ軸間に適度なシールギャップを確保しながらも、当該ギャップを磁性粒子に関してシールできるので、ブレーキ軸へ与える摩擦抵抗の低減により耐久性を向上可能となる。
【0032】
請求項17に記載の発明によると、粒子シール(6170)は、筐体においてブレーキ軸(2131)を囲んで設けられ、ブレーキ軸の回転方向に辿った場合に軸方向の筐体内部側から筐体外部側へ向かって遠ざかる雌螺子状を呈した内周部(6171i)により、当該ブレーキ軸との間のシールギャップ(3176g)を形成するビスコシール部材(6170)を、含む。この発明のシール構造では、ビスコシール部材の内周部及びブレーキ軸の間のシールギャップへと流体室から流入する機能性流体中の磁性粒子は、ブレーキ軸の回転により遠心力の作用を受けることで、当該内周部に押し付けられる。ここで、ブレーキ軸の回転方向に辿った場合に筐体外部側から筐体内部部側へ向かって遠ざかる雌螺子状を呈したビスコシール部材の内周部に対して、遠心力により押し付けられた磁性粒子は、筐体内部側へ向かうモーメントを与えられることで、筐体外部側への流動を規制され得る。これによれば、ビスコシール部材及びブレーキ軸間に適度なシールギャップを確保しながらも、当該ギャップを磁性粒子に関してシールできるので、ブレーキ軸へ与える摩擦抵抗の低減により耐久性を向上可能となる。
【0033】
請求項18に記載の発明によると、粒子シール(7166)は、筐体においてブレーキ軸(7131)を囲んで設けられ、当該ブレーキ軸との間にシールギャップ(7176g)を形成する内周部(7166i)の内径を、軸方向の筐体外部側から筐体内部側へ向かうに従って拡大変化させる径変化部材(7166)を、含む。この発明のシール構造では、径変化部材の内周部及びブレーキ軸の間のシールギャップへと流体室から流入する機能性流体中の磁性粒子は、ブレーキ軸の回転により遠心力の作用を受けることで、径変化部材の内周部に押し付けられる。ここで、筐体外部側から筐体内部側へ向かうに従って内径が拡大変化する径変化部材の内周部に対して、遠心力により押し付けられた磁性粒子は、当該押し付けに対する抗力の軸方向成分を筐体内部側へ向かって受けることで、筐体外部側への流動を規制され得る。これによれば、径変化部材及びブレーキ軸間に適度なシールギャップを確保しながらも、当該ギャップを磁性粒子に関してシールできるので、ブレーキ軸へ与える摩擦抵抗の低減により耐久性を向上可能となる。
【0034】
請求項19に記載の発明によると、粒子シール(8166)は、筐体においてブレーキ軸(8131)を囲んで設けられ、軸方向の筐体内部側と筐体外部側との間を蛇行するラビリンス状のシールギャップ(8176g)を、当該ブレーキ軸との間に形成するラビリンスシール部材(8166)を、含む。この発明のシール構造では、ラビリンスシール部材及びブレーキ軸の間のシールギャップへ流体室から流入する機能性流体中の磁性粒子は、筐体内部側と筐体外部側との間を蛇行するラビリンス状のシールギャップにおいて流動抵抗を受けることで、筐体外部側への流動を規制され得る。これによれば、ラビリンスシール部材及びブレーキ軸間に適度なシールギャップを確保しながらも、当該ギャップを磁性粒子に関してシールできるので、ブレーキ軸へ与える摩擦抵抗の低減により耐久性を向上可能となる。
【0035】
請求項20に記載の発明は、内燃機関においてクランク軸からのトルク伝達によりカム軸が開閉する動弁のバルブタイミングを調整するバルブタイミング調整装置であって、請求項8〜19のいずれか一項に記載の流体ブレーキ装置(100)と、流体ブレーキ装置の筐体の外部においてブレーキ軸(131,2131,7131,8131)と連繋し、当該流体ブレーキ装置のブレーキ回転体へ入力されるブレーキトルクに応じてクランク軸及びカム軸の間の相対位相を調整する位相調整機構(300)とを、備える。
【0036】
この発明の流体ブレーキ装置のシール構造によれば、シールギャップにおける機能性流体の変質に起因したブレーキ特性変化を回避して、当該特性変化に左右される機関位相の調整精度を維持することが、可能となる。また、流体ブレーキ装置のシール構造では、磁性粒子を巻き込んだベース液の抜けがシールギャップにて抑制され得るので、当該磁性粒子の保持に必要な磁束の通過密度を可及的に小さくできる。これによれば、シール膜がブレーキ軸に与える摩擦抵抗は可及的に小さくなるので、耐久性の向上のみならず、当該摩擦抵抗に起因して内燃機関の燃費低下を招くトルクロスの回避も、可能となるのである。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の第一実施形態による流体ブレーキ装置を備えたバルブタイミング調整装置を示す図であって、図2のI−I線断面図である。
【図2】図1のII−II線断面図である。
【図3】図1のIII−III線断面図である。
【図4】図1に示す磁気粘性流体の特性を説明するための模式図である。
【図5】図1に示す流体ブレーキ装置のシール構造を拡大して示す断面図である。
【図6】図5に示すシール構造の特性を説明するための断面図である。
【図7】本発明の第一〜第三実施形態による流体ブレーキ装置のシール構造において、磁気粘性流体のベース液及び中間流体の構成成分を示す模式図である。
【図8】本発明の第四実施形態によるシール構造を拡大して示す断面図である。
【図9】本発明の第五実施形態によるシール構造を拡大して示す断面図である。
【図10】図9に示すシール構造の特徴を説明するための断面図である。
【図11】本発明の第六実施形態によるシール構造を拡大して示す断面図である。
【図12】図11に示すシール構造の特徴を説明するための断面図である。
【図13】本発明の第七実施形態によるシール構造を拡大して示す断面図である。
【図14】本発明の第八実施形態によるシール構造を拡大して示す断面図である。
【図15】本発明の第九実施形態によるシール構造を拡大して示す断面図である。
【図16】図15に示すシール構造の特徴を説明するための断面図である。
【図17】本発明の第十実施形態によるシール構造を拡大して示す断面図である。
【図18】図17に示すシール構造の特性を説明するための断面図である。
【図19】本発明の第十一実施形態によるシール構造を拡大して示す断面図である。
【図20】図5の変形例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明の複数の実施形態を図面に基づいて説明する。尚、各実施形態において対応する構成要素には同一の符号を付すことにより、重複する説明を省略する場合がある。各実施形態において構成の一部分のみを説明している場合、当該構成の他の部分については、先行して説明した他の実施形態の構成を適用することができる。また、各実施形態の説明において明示している構成の組み合わせばかりではなく、特に組み合わせに支障が生じなければ、明示していなくても複数の実施形態の構成同士を部分的に組み合せることができる。
【0039】
(第一実施形態)
図1は、本発明の第一実施形態による流体ブレーキ装置100を備えたバルブタイミング調整装置1を、示している。車両に搭載される装置1は、内燃機関のクランク軸(図示しない)からカム軸2へ機関トルクを伝達する伝達系に、設けられている。ここでカム軸2は、内燃機関の「動弁」のうち吸気弁(図示しない)を機関トルクの伝達により開閉するものであり、装置1は、当該吸気弁のバルブタイミングを調整する。
【0040】
図1〜3に示すように装置1は、流体ブレーキ装置100に加えて、通電制御回路200及び位相調整機構300等を組み合わせてなり、クランク軸に対するカム軸2の相対位相である機関位相を調整することにより、所望のバルブタイミングを実現する。
【0041】
(流体ブレーキ装置)
図1に示す電動式の流体ブレーキ装置100は、筐体110、ブレーキ回転体130、磁気粘性流体140、ソレノイドコイル150及びシール構造160を備えている。
【0042】
全体として中空形状の筐体110は、固定部材111及びカバー部材112を有している。磁性材により段付円筒状に形成される固定部材111は、内燃機関のチェーンケース等の固定節(図示しない)に固定される。磁性材により円形皿状に形成されるカバー部材112は、軸方向に固定部材111を挟んで位相調整機構300とは反対側に、配置されている。固定部材111に同軸上に且つ液密に嵌入固定されるカバー部材112は、固定部材111との間の空間を、筐体110内部の流体室114として形成している。
【0043】
ブレーキ回転体130は、ブレーキ軸131及びブレーキロータ132を有している。磁性材によりシャフト状に形成されるブレーキ軸131は、筐体110のうち位相調整機構300側の固定部材111を内外に同軸上に貫通することにより、当該筐体110の外部側の軸方向端部を位相調整機構300と連繋させている。ブレーキ軸131の軸方向中間部は、筐体110のうち固定部材111に設けられた軸受116により、回転可能に支持されている。これらの構成によりブレーキ回転体130は、内燃機関の運転中にクランク軸から出力される機関トルクが位相調整機構300から伝達されることで、一定方向(図2,3の反時計方向)へ回転する。
【0044】
図1に示すように、磁性材により円環板状に形成されるブレーキロータ132は、ブレーキ軸131のうち位相調整機構300とは反対側の軸方向端部から外周側へ突出することにより、筐体110内部の流体室114に収容されている。流体室114は、ブレーキロータ132と固定部材111とに軸方向に挟まれる部分を第一磁気ギャップ114g1として有し、またブレーキロータ132とカバー部材112とに軸方向に挟まれる部分を第二磁気ギャップ114g2として有している。
【0045】
こうした磁気ギャップ114g1,114g2を含んでなる流体室114には、磁気粘性流体140が封入されている。「機能性流体」の一種である磁気粘性流体140は、例えばカルボニル鉄等の粉状の磁性粒子を、非磁性のベース液に懸濁状に分散させてなる。磁気粘性流体140は、通過する磁束の密度に追従して見かけ上の粘度が図4の如く上昇変化し、当該粘度に比例して降伏応力が増大する特性を、有している。
【0046】
図1に示すようにソレノイドコイル150は、樹脂ボビン151に金属線材を巻回してなり、ブレーキロータ132の外周側に同軸上に配置されている。ソレノイドコイル150は、固定部材111及びカバー部材112に挟まれた状態で、筐体110に保持されている。かかる保持形態のソレノイドコイル150が通電されることにより本実施形態では、固定部材111、第一磁気ギャップ114g1、ブレーキロータ132、第二磁気ギャップ114g2及びカバー部材112を順次通過する磁束が、発生する。
【0047】
したがって、図2,3の反時計方向へブレーキ回転体130が回転する内燃機関の運転中に、ソレノイドコイル150が通電を受けて磁束を発生するときには、流体室114のうち磁気ギャップ114g1,114g2内の磁気粘性流体140に当該発生磁束が通過する。その結果、粘度変化した磁気粘性流体140に接触する要素110,130間では、粘性抵抗の作用によりブレーキ回転体130(ブレーキロータ132)を制動するブレーキトルクが、ブレーキ回転体130の回転方向とは逆方向(図2,3の時計方向)に発生する。このように本実施形態では、通電を受けるソレノイドコイル150が流体室114の磁気粘性流体140に磁束を通過させることにより、当該流体140の粘度に応じたブレーキトルクをブレーキ回転体130に入力可能となっている。
【0048】
図1,5に示すようにシール構造160は、筐体110において軸方向の流体室114及び軸受116間となる箇所に、設けられている。シール構造160は、筐体110のうち固定部材111と、ブレーキ回転体130のうちブレーキ軸131との間のシールギャップ176g(後に詳述)をシールすることにより、磁気粘性流体140が筐体110の内部側から外部側へ流動して漏出するのを規制する。
【0049】
(通電制御回路)
図1に示す通電制御回路200は、マイクロコンピュータを主体に構成されて流体ブレーキ装置100の外部に配置され、ソレノイドコイル150及び車両のバッテリ4と電気接続されている。内燃機関の運転中においてバッテリ4から電力の供給を受ける通電制御回路200は、ソレノイドコイル150への通電電流を制御することにより、磁気粘性流体140に通過させる磁束を発生する。したがって、このときには磁気粘性流体140の粘度が可変制御されて、ブレーキ回転体130へ入力のブレーキトルクがソレノイドコイル150への通電電流に追従して増減することになる。尚、以上説明の如く本実施形態では、通電制御回路200及びソレノイドコイル150が共同して、「粘度制御手段」を構成している。
【0050】
(位相調整機構)
図1〜3に示すように位相調整機構300は、駆動回転体10、従動回転体20、アシスト部材30、遊星キャリア40及び遊星歯車50を備えている。
【0051】
全体として中空状の駆動回転体10は、歯車部材12とスプロケット部材13とを螺子留めしてなる。金属により円環板状に形成される歯車部材12は、図1,2に示すように歯底円よりも小径の歯先円を有する駆動側内歯車部14を、周壁部に有している。金属により円筒状に形成されるスプロケット部材13は、図1に示すように外周側へ突出する複数の歯16を、周壁部に有している。スプロケット部材13は、それらの歯16とクランク軸の複数の歯との間にてタイミングチェーン(図示しない)を掛け渡されることで、クランク軸と連繋する。かかる連繋形態により内燃機関の運転中は、クランク軸から出力される機関トルクがスプロケット部材13に伝達されることにより、駆動回転体10がクランク軸と連動して一定方向(図2,3の反時計方向)に回転する。
【0052】
図1に示すように、金属により有底円筒状に形成される従動回転体20は、スプロケット部材13の内周側に同軸上に配置されている。従動回転体20は、カム軸2に同軸上に連結される連結部21を、底壁部に有している。かかる連結形態により内燃機関運転中の従動回転体20は、カム軸2と連動して一定方向(図2,3の反時計方向)に回転しつつ、駆動回転体10に対して相対回転可能となっている。
【0053】
図1,3に示すように従動回転体20は、歯底円よりも小径の歯先円を有する従動側内歯車部22を、周壁部に有している。従動側内歯車部22の内径は駆動側内歯車部14の内径よりも大きく設定され、また従動側内歯車部22の歯数は駆動側内歯車部14の歯数よりも多く設定されている。
【0054】
図1に示すように、金属製のねじりコイルばねからなるアシスト部材30は、スプロケット部材13の内周側に同軸上に配置されている。アシスト部材30は、スプロケット部材13及び連結部21にそれぞれ係止される両端部31,32間にてねじれ変形することにより、駆動回転体10に対する遅角側へ従動回転体20を付勢する。
【0055】
図1〜3に示すように、金属により円筒状に形成される遊星キャリア40は、流体ブレーキ装置100のブレーキ回転体130からブレーキトルクが伝達される伝達部41を、周壁部に有している。回転体10,20及びブレーキ回転体130のブレーキ軸131に対して同軸上に配置される円筒孔状の伝達部41には、一対の溝部42が開口しており、それら溝部42に嵌合する継手43を介して伝達部41とブレーキ軸131とが連繋している。かかる連繋形態により内燃機関運転中の遊星キャリア40は、ブレーキ回転体130と一体に一定方向(図2,3の反時計方向)へ回転しつつ、駆動回転体10に対して相対回転可能となっている。
【0056】
図1〜3に示すように遊星キャリア40は、遊星歯車50を軸受する軸受部46を、周壁部に有している。回転体10,20及びブレーキ回転体130のブレーキ軸131に対して偏心配置される円筒面状の軸受部46は、遊星ベアリング48を介して遊星歯車50の中心孔51に同軸上に嵌入されている。かかる嵌入形態により遊星歯車50は、遊星運動可能となっている。ここで遊星運動とは、遊星歯車50がブレーキ軸131に対する軸受部46の偏心中心線周りに自転しつつ、遊星キャリア40の回転方向へ公転する運動をいう。したがって、遊星キャリア40が駆動回転体10に対して遊星歯車50の公転方向へ相対回転するときには、当該遊星歯車50が遊星運動することになる。
【0057】
金属により段付円筒状に形成される遊星歯車50は、歯底円よりも大径の歯先円を有する外歯車部52,54を、周壁部に有している。従動側外歯車部54の外径は駆動側外歯車部52の外径よりも大きく設定され、またそれら従動側外歯車部54及び駆動側外歯車部52の歯数は、それぞれ従動側内歯車部22及び駆動側内歯車部14の歯数よりも同数ずつ少なく設定されている。駆動側外歯車部52は、駆動側内歯車部14の内周側に配置されて当該内歯車部14と噛合している。従動側外歯車部54は、従動側内歯車部22の内周側に配置されて当該内歯車部22と噛合している。
【0058】
以上の構成により位相調整機構300は、ブレーキ回転体130へ入力のブレーキトルクと、当該ブレーキトルクとは逆方向へブレーキ回転体130に作用するアシスト部材30のアシストトルクとに応じて、機関位相を調整する。具体的には、ブレーキトルクの保持等によりブレーキ回転体130が駆動回転体10と同速の回転を実現するときには、遊星キャリア40が当該回転体10に対して相対回転しない。その結果、遊星歯車50が遊星運動せずに回転体10,20と連れ回りするので、機関位相が保持される。一方、ブレーキトルクの増大等により、ブレーキ回転体130がアシストトルクに抗して駆動回転体10よりも低速の回転を実現するときには、遊星キャリア40が当該回転体10に対する遅角側へ相対回転する。その結果、遊星歯車50が遊星運動して従動回転体20が駆動回転体10に対する進角側へ相対回転するので、機関位相が進角する。また一方、ブレーキトルクの減少等により、ブレーキ回転体130がアシストトルクを受けて駆動回転体10よりも高速の回転を実現するときには、遊星キャリア40が当該回転体10に対する進角側へ相対回転する。その結果、遊星歯車50が遊星運動して従動回転体20が駆動回転体10に対する遅角側へ相対回転するので、機関位相が遅角する。
【0059】
(シール構造)
以下、シール構造160の詳細につき、説明する。図1,5に示すように、筐体内部において磁気粘性流体140の封入された流体室114を筐体外部に対して隔絶するためのシール構造160は、一対の磁性突起164,165、磁気シールド166、磁気シールスリーブ170、液体シール180及び中間流体190を有している。尚、以下の説明では、流体室114を形成する筐体110の内部を単に「筐体内部」といい、位相調整機構300が配置される筐体110の外部を単に「筐体外部」というものとする。また、以下の説明では、筐体110及びブレーキ軸131の共通の軸方向とブレーキ軸131の回転方向とを、それぞれ単に「軸方向」と「回転方向」というものとする。
【0060】
図5に示すように、ブレーキ軸131の外周部131oのうち磁気シールド166及び磁気シールスリーブ170の内周側箇所には、一対の磁性突起164,165が軸方向に所定間隔をあけて配置されている。各磁性突起164,165は、それぞれ回転方向に連続する円環板状に、例えば炭素鋼等の磁性材によって形成されている。ここで本実施形態では、第一磁性突起164が軸方向の筐体内部側に位置する一方、第二磁性突起165が軸方向の筐体外部側に位置している。
【0061】
磁気シールド166は、例えばオーステナイト系ステンレス鋼等の非磁性材により有底円筒状に形成され、ブレーキ軸131の外周側に同軸上に配置されて当該軸131の周囲を回転方向に沿って囲んでいる。磁気シールド166は、開口部及び底壁部をそれぞれ筐体外部側(軸受116側)及び筐体内部側(流体室114側)に向けた状態で、筐体110のうち固定部材111の内周部に設けられた嵌合孔111hに、嵌合固定されている。
【0062】
永久磁石172を一対の磁束ガイド174,175に組み合わせてなる「粒子シール」としての磁気シールスリーブ170は、磁気シールド166の周壁部に嵌合固定されることにより、当該シールド166を介して筐体110に設けられた形となっている。「磁石」としての永久磁石172は、例えばフェライト磁石等により円筒状に形成され、ブレーキ軸131の外周側に同軸上に配置されて当該軸131の周囲を回転方向に沿って囲んでいる。永久磁石172は、軸方向両端部にそれぞれ相反極性の磁極N,Sを形成しており、それら磁極N,S間に磁束MF(図6参照)を常時発生させる。
【0063】
図5に示すように各磁束ガイド174,175は、例えば炭素鋼等の磁性材により円環板状に形成され、ブレーキ軸131の外周側に同軸上に配置されて当該軸131の周囲を回転方向に沿って囲んでいる。各磁束ガイド174,175は、永久磁石172を軸方向に挟んで互いに所定間隔をあけて配置され、当該永久磁石172よりも内周側へ突出している。かかる突出形態により本実施形態では、第一磁束ガイド174が軸方向の筐体内部側に位置して、第一磁性突起164との間にシールギャップ176gを形成している。ここで特にシールギャップ176gは、筐体内部の流体室114と軸方向に連通することにより、当該流体室114から流入する磁気粘性流体140で満たされている。一方、軸方向の筐体外部側に位置する第二磁束ガイド175は、第二磁性突起165との間にトラップギャップ178gを形成している。
【0064】
液体シール180は、金属製のリング181に合成ゴム製のシールリップ182を装着してなるオイルシールであり、ブレーキ軸131の外周側に同軸上に配置されて当該軸131の周囲を回転方向に沿って囲んでいる。液体シール180のシールリップ182は、第二磁束ガイド175及び第二磁性突起165から軸方向の筐体外部側に所定間隔をあけた箇所にて、筐体110の嵌合孔111hに嵌合固定されている。それと共にシールリップ182は、回転方向の全域においてブレーキ軸131の外周部131oと摺動可能に接触することにより、当該軸131との間を液密にシールしている。
【0065】
軸方向において液体シール180とシールギャップ176gとに挟まれる空間は、中間室178として形成されている。この中間室178のうち永久磁石172の内周側に確保される第一容積部178v1は、磁束ガイド174,175の間及び磁性突起164,165の間を延伸することにより、軸方向に隣接するシールギャップ176gに対して容積(横断面積)を拡大されている。また、中間室178のうち第二磁束ガイド175の内周側に確保される上記トラップギャップ178gは、当該磁束ガイド175の軸方向全域に沿って延伸することにより、軸方向に隣接する第一容積部178v1に対して容積(横断面積)を絞られている。さらに、中間室178のうち磁気シールド166の内周側に確保される第二容積部178v2は、第二磁束ガイド175及び第二磁性突起165と液体シール180との間を延伸することにより、軸方向に隣接するトラップギャップ178gに対して容積(横断面積)を拡大されている。
【0066】
こうした容積部178v1,178v2及びトラップギャップ178gを含んでなる中間室178には、当該中間室178の全体を満たす状態で、液状の中間流体190が封入されている。中間流体190は、内燃機関の使用環境下にて液相を維持可能な非磁性の液体であり、特に図7に示すように第一実施形態では、磁気粘性流体140のベース液とは異質の液体とされている。ここで磁気粘性流体140のベース液は、例えば内燃機関の潤滑オイルと同種又は異種のオイル等といった、非極性液体(疎水性液体)である。これに対して中間流体190は、例えば沸点が140℃以上のポリエチレングリコールモノエーテルを基にしたものや、凝固点が−30℃以下のイオン液体である1−オクチルー3−メチルイミダゾリウム・ビス(トリフルオロメチルスルホニル)アミド、水等といった、極性液体(親水性液体)である。
【0067】
以上の如きシール構造160を備えた第一実施形態では、図6に模式的に示すように永久磁石172が発生する磁束MFは、各磁束ガイド174,175から内周側の各ギャップ176g,178gを通じて各磁性突起164,165に案内される。ここで磁束ガイド174,175と磁性突起164,165とは、それぞれ内周側と外周側とに突出して互いに近付けられていることにより、各ギャップ176g,178gへの磁束MFの集中案内を可能にしている。
【0068】
このような案内作用により磁束MFが高密度に通過することとなるギャップ176g,178gのうち、流体室114と連通するシールギャップ176gには、当該流体室114の磁気粘性流体140が磁性粒子に対する磁気吸引により流入し易い。その結果としてシールギャップ176gに流入した磁気粘性流体140は、通過磁束MFにより磁性粒子が保持されて粘度上昇することで、第一磁束ガイド174及び第一磁性突起164の間に膜状に捕捉される。こうして形成されるシール膜によると、磁性粒子を含んだ磁気粘性流体140について、軸方向の筐体内部側から筐体外部側へ向かう流動を当該流体140自身により規制するように、自己シール機能が発揮され得る。これによれば、要素174,164間に適度なシールギャップ176gを確保しながらも、磁気粘性流体140自身により当該ギャップ176gを成分粒子に関してシールし得るので、ブレーキ軸131へ与える摩擦抵抗を低減して、耐久性の向上並びに内燃機関の燃費低下を招くトルクロスの回避を図ることが可能となる。
【0069】
また、第一実施形態では、シールギャップ176gを形成する第一磁束ガイド174よりも筐体外部側の液体シール180は、当該ギャップ176gとで挟んだ中間室178の中間流体190に対して、ブレーキ軸131との液密接触によるシール機能を発揮し得る。これにより、中間室178は中間流体190で常に満たされた状態となるので、流体室114の圧力は、シールギャップ176gの磁気粘性流体140中のベース液と中間室178の中間流体190とを伝播して、液体シール180に受け止められることとなる。かかる受け止め作用によれば、ベース液が磁性粒子を巻き込んでシールギャップ176gから中間室178へ抜けるのを抑制できる。それと共に、極性液体である中間流体190に対して異質の非極性液体であるベース液は、斥力により反発することで、シールギャップ176gからの抜けを招くような中間流体190への混合を、抑制され得る。しかも、非磁性の中間流体190については、ベース液との間の反発作用も相俟って、中間室178からシールギャップ176gに磁気吸引されてベース液と混合するのを、抑制され得る。こうした抑制効果の結果、シールギャップ176gでの抜け又は混合による磁気粘性流体140の変質に起因して、自己シール機能が低下する事態並びにブレーキ特性が変化する事態を確実に回避して、機関位相の調整精度を維持することが可能となるのである。
【0070】
さらに第一実施形態では、磁気粘性流体140中にて非極性ベース液の付着した磁性粒子は、極性の中間流体190に対して反発するので、ベース液に巻き込まれることによる中間室178への抜けも、液体シール180への到達も抑制され得る。しかも磁性粒子は、仮に中間室178へ抜けたとしても、中間室178を挟んだシールギャップ176g及び液体シール180間の離間距離に応じて、液体シール180には到達し難くなっている。ここで特に第一容積部178v1は、磁束ガイド174,175の配置間隔に対応して延伸しているので、当該容積部178v1を含む中間室178を通じて磁性粒子が液体シール180に到達するための所要距離は、可及的に長く確保され得ている。しかも、仮に磁性粒子が中間室178へと抜けたとしても、中間室178のうち第二磁束ガイド175が形成して磁束MFを案内するトラップギャップ178gにより、当該磁性粒子は捕捉されることになる。かかる捕捉作用によれば、トラップギャップ178gを含む中間室178を通じて磁性粒子が液体シール180に到達するのを、確実に抑制し得る。以上のことから、液体シール180とブレーキ軸131とが図5,6の如く接触する界面184において面圧(緊迫力)を低減させたとしても、磁性粒子が当該接触界面184に侵入して摩擦抵抗を増大させる事態を回避可能となるので、耐久性の向上に貢献できるのである。
【0071】
加えて第一実施形態では、磁性粒子を巻き込んだベース液の抜けが上述の如く抑制され得るシールギャップ176gにおいて、磁性粒子の保持に必要な磁束MFの通過密度を可及的に小さくできる。このように磁束MFの通過密度が小さいシールギャップ176gに磁気粘性流体140が形成するシール膜によれば、ブレーキ軸131に与える摩擦抵抗が低減され得るので、それによっても、耐久性の向上とトルクロスの回避とに貢献できるのである。
【0072】
(第二実施形態)
本発明の第二実施形態は、第一実施形態の変形例である。図7に示すように第二実施形態において磁気粘性流体140の非磁性のベース液は、例えばポリエチレングリコールモノエーテルを基にしたものや、イオン液体である1−オクチルー3−メチルイミダゾリウム・ビス(トリフルオロメチルスルホニル)アミド、水等といった、極性液体(親水性液体)である。これに対して第二実施形態の非磁性の中間流体190は、例えば内燃機関の潤滑オイルと同種又は異種のオイル等といった、非極性液体(疎水性液体)である。
【0073】
このような第二実施形態によると、非極性液体である中間流体190に対して異質の極性液体であるベース液は、斥力により反発することで、シールギャップ176gからの抜けを招くような中間流体190への混合を、抑制され得る。また、非磁性且つ非極性の中間流体190については、極性ベース液との間の反発作用も相俟って、中間室178からシールギャップ176gに磁気吸引されてベース液と混合するのを、抑制され得る。したがって、第一実施形態と同様に、磁気粘性流体140の変質に起因する自己シール機能の低下並びにブレーキ特性の変化につき、確実な回避が可能となるのである。
【0074】
さらに第二実施形態によると、磁気粘性流体140中にて極性ベース液の付着した磁性粒子は、非極性の中間流体190に対して反発するので、中間室178への抜け並びに液体シール180への到達を抑制され得る。したがって、第一実施形態と同様に第二実施形態では、液体シール180及びブレーキ軸131の接触界面184にて面圧を低減することによる耐久性の向上に、貢献できるのである。
【0075】
(第三実施形態)
本発明の第三実施形態は、第一実施形態の変形例である。図7に示すように第三実施形態において磁気粘性流体140の非磁性のベース液は、第一実施形態と同様なオイル等の非極性液体である。それと共に、第三実施形態において非磁性の中間流体190は、磁気粘性流体140のベース液と同一の液体、即ちオイル等の非極性液体である。
【0076】
このような第三実施形態によると、磁気粘性流体140のベース液と同一の中間流体190が採用されるので、当該流体190の採用によるコストアップを軽減できる。しかも、非磁性の中間流体190については、中間室178からシールギャップ176gに磁気吸引されてベース液と混合するのを抑制され得るのみならず、同一液体としてのベース液に仮に混合したとしても問題ない。したがって、第一実施形態に準じて第三実施形態では、磁気粘性流体140の変質に起因する自己シール機能の低下並びにブレーキ特性の変化につき、確実な回避が可能となるのである。
【0077】
(第四実施形態)
本発明の第四実施形態は、第一実施形態の変形例である。図8に示すように第四実施形態のシール構造1160において「粒子シール」としての磁気シールスリーブ1170は、第一実施形態の永久磁石172の代わりに、電磁石1172を「磁石」として備えている。電磁石1172は、樹脂ボビン1173に金属線材を巻回してなり、全体として円筒状を呈している。電磁石1172は、ブレーキ軸131の外周側に同軸上に配置されることで、当該軸131の周囲を回転方向に沿って囲んでいる。電磁石1172は、電気接続される通電制御回路200により通電されることで、第一実施形態と同様な磁束MF(図示しない)を発生させる。
【0078】
このような第四実施形態においても、電磁石1172の発生磁束MFが各磁束ガイド174,175から各ギャップ176g,178gを通じて各磁性突起164,165に案内される。したがって、第一実施形態と同様な作用効果の発揮が可能となる。
【0079】
(第五実施形態)
本発明の第五実施形態は、第一実施形態の変形例である。図9に示すように第五実施形態のシール構造2160において有底円筒状の非磁性磁気シールド2166は、底壁部2166b及び開口部を第一実施形態とは反対の筐体外部側及び筐体内部側にそれぞれ向けた状態で、筐体110の嵌合孔111hに嵌合固定されている。
【0080】
また、第五実施形態のシール構造2160は、第一実施形態の磁気シールスリーブ170の代わりに、「粒子シール」としてのメカニカルシール2170を備えている。メカニカルシール2170は、ハット状に形成されたゴム製のOリング乃至はカーボン製のリップパッキンであり(図9はOリングの例)、ブレーキ軸2131の外周側に同軸上に配置されている。メカニカルシール2170は、円筒状のシール本体2171のうち筐体外部側の軸方向端部から外周側へと突出するシールフランジ2172を、有している。シールフランジ2172は、磁気シールド2166の底壁部2166bに筐体外部側から保持された状態で、同シールド2166の周壁部2166cに嵌合固定されている。かかる固定下、磁性突起164,165の設けられないブレーキ軸2131の外周部2131oと、シール本体2171の内周部2171iとの間には、流体室114と連通するシールギャップ2176gが形成されている。
【0081】
ここで特にメカニカルシール2170は、磁気シールド2166の底壁部2166bよりも内周側へシール本体2171を突出させている。かかる突出形態によりメカニカルシール2170は、図10に示すシールギャップ2176gの径方向幅Wgsを、磁気粘性流体140を構成する磁性粒子140pの例えば最小粒径等の外径φpよりも、小さく調整している。こうした「ギャップ調整部材」としての機能をメカニカルシール2170が果たすことによりシールギャップ2176gは、磁気粘性流体140のうち流体室114から流入可能となるベース液にて満たされている。
【0082】
このような第五実施形態の軸方向では、図9に示すように、液体シール180とシールギャップ2176gとに挟まれる空間が、中間室2178として形成されている。この中間室2178のうち、磁気シールド2166の底壁部2166bの内周側に確保される第一容積部2178v1は、当該底壁部2166bの軸方向全域に沿って延伸することにより、軸方向に隣接するシールギャップ2176gに対して容積(横断面積)を拡大されている。また、中間室2178のうち嵌合孔111hの内周側に確保される第二容積部2178v2は、磁気シールド2166と液体シール180との間を延伸することにより、軸方向に隣接する第一容積部2178v1に対して容積(横断面積)を拡大されている。これら容積部2178v1,2178v2を含んでなる中間室2178には、当該中間室2178の全体を満たす状態にて、第一実施形態と同じ中間流体190が封入されている。
【0083】
以上説明した第五実施形態では、メカニカルシール2170及びブレーキ軸2131の間にて磁性粒子140pの外径φpよりも小さな幅Wgsに調整されるシールギャップ2176gには、流体室114から流入しようとする磁気粘性流体140の中で当該粒子140pの流入が困難となる。故にシールギャップ2176gにおいて、軸方向の筐体内部側から筐体外部側へと向かって磁性粒子140pが流動するには、筐体内部側への磁性粒子140pの流入が必要なことから、当該流入の困難な磁性粒子140pは、筐体外部側への流動を確実に規制され得る。これによれば、メカニカルシール2170及びブレーキ軸2131の間に適度なシールギャップ2176gを確保しながらも、当該ギャップ2176gを磁性粒子140pに関してシールできる。したがって、ブレーキ軸2131へ与える摩擦抵抗の低減により、耐久性の向上及びトルクロスの回避が可能となるのである。
【0084】
また、第一実施形態と同様に第五実施形態では、ブレーキ軸2131との液密接触によるシール機能を、液体シール180が中間室2178の中間流体190に対して発揮し得る。これにより、中間室2178は中間流体190で常に満たされた状態となるので、流体室114の圧力は、シールギャップ2176gの磁気粘性流体140中のベース液と中間室2178の中間流体190とを伝播して、液体シール180に受け止められる。かかる受け止め作用によれば、ベース液が磁性粒子140pを巻き込んでシールギャップ2176gから中間室2178へと抜けるのを抑制できる。それと共に、極性液体である中間流体190に対して異質の非極性液体であるベース液は、第一実施形態と同様に斥力により反発することで、シールギャップ2176gからの抜けを招くような中間流体190への混合を、抑制され得る。これら抑制効果の結果、シールギャップ2176gでの抜け又は混合による磁気粘性流体140の変質に起因してブレーキ特性が変化する事態を確実に回避し、機関位相の調整精度を維持することも可能となるのである。
【0085】
さらに、第一実施形態と同様に第五実施形態では、非極性ベース液の付着した磁性粒子140pは、極性の中間流体190に対して反発するので、ベース液に巻き込まれることによる中間室2178への抜けも、液体シール180への到達も抑制され得る。しかも磁性粒子140pは、仮に中間室2178へ抜けたとしても、中間室2178を挟んだシールギャップ2176g及び液体シール180間の離間距離に応じて、液体シール180には到達し難くなっている。以上のことから、液体シール180とブレーキ軸2131とが接触する界面184にて面圧(緊迫力)を低減させたとしても、磁性粒子140pが当該界面184に侵入して摩擦抵抗を増大させる事態を回避可能となるので、耐久性の向上に貢献できるのである。
【0086】
(第六実施形態)
本発明の第六実施形態は、第五実施形態の変形例である。図11に示すように第六実施形態のシール構造3160は、第五実施形態のメカニカルシール2170の代わりに、「粒子シール」としての樹脂フィルタ3170を備えている。樹脂フィルタ3170は、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等の樹脂により磁性粒子140p(図12参照)を捕捉可能なメッシュ状に形成されることで、「フィルタ部材」としての機能を果たす。ハット状の樹脂フィルタ3170は、第五実施形態のシール本体2171及びシールフランジ2172にそれぞれ準じた形態に、フィルタ本体3171及びフィルタフランジ3172を形成している。かかる形成形態により、フィルタ本体3171の内周部3171iとブレーキ軸2131の外周部2131oとの間には、流体室114と連通するシールギャップ3176gが形成されている。但し、図12に示す第六実施形態においてシールギャップ3176gの径方向幅Wglは、磁性粒子140pの外径φpよりも大きく調整されており、当該ギャップ3176gには、磁気粘性流体140のベース液と共に磁性粒子140pが流体室114から流入する。尚、このようなシールギャップ3176gと液体シール180との間には、図11に示すように、第五実施形態と同様の中間室2178が形成されている。
【0087】
以上説明した第六実施形態では、シールギャップ3176gへ流体室114から流入する磁性粒子140pは、当該ギャップ3176gにおいて外周側の樹脂フィルタ3170に捕捉されることで、軸方向のうち筐体内部側から筐体外部側へと向かう流動を規制され得る。これによれば、樹脂フィルタ3170及びブレーキ軸2131の間に適度なシールギャップ3176gを確保しながらも、当該ギャップ3176gを磁性粒子140pに関してシールできる。したがって、ブレーキ軸2131へ与える摩擦抵抗の低減により、耐久性の向上及びトルクロスの回避が可能となるのである。また、この他の点では、第五実施形態と同様な作用効果の発揮が可能である。
【0088】
(第七実施形態)
本発明の第七実施形態は、第六実施形態の変形例である。図13に示すように第七実施形態のシール構造4160は、第六実施形態の樹脂フィルタ3170の代わりに、「粒子シール」としての多孔フィルタ4170を備えている。多孔フィルタ4170は、例えばセラミック等により磁性粒子140pを捕捉可能な多孔状に形成されることで、「フィルタ部材」としての機能を果たす。この点以外の構成について第七実施形態の多孔フィルタ4170は、第六実施形態の樹脂フィルタ3170と同様な構成を有しているので、第六実施形態と同様な作用効果の発揮が可能となる。
【0089】
(第八実施形態)
本発明の第八実施形態は、第六実施形態の変形例である。図14に示すように第八実施形態のシール構造5160は、第六実施形態の樹脂フィルタ3170の代わりに、「粒子シール」としての繊維フィルタ5170を備えている。繊維フィルタ5170は、例えば樹脂乃至はセラミック等により磁性粒子140pを捕捉可能な繊維状に形成されることで、「フィルタ部材」としての機能を果たす。この点以外の構成について第八実施形態の繊維フィルタ5170は、第六実施形態の樹脂フィルタ3170と同様な構成を有しているので、第六実施形態と同様な作用効果の発揮が可能となる。
【0090】
(第九実施形態)
本発明の第九実施形態は、第六実施形態の変形例である。図15に示すように第九実施形態のシール構造6160において「粒子フィルタ」としての樹脂フィルタ6170は、第六実施形態の構成に加えて、雌螺子状を呈した内周部6171iをフィルタ本体3171に有することにより、「ビスコシール部材」としても機能する。ここで特に内周部6171iは、図16に示すように、ブレーキ軸2131の回転方向Rに辿った場合において軸方向の筐体外部側から筐体内部側へと向かって遠ざかる雌螺子状である。図15に示すように内周部6171iは、かかる雌螺子状の山部とブレーキ軸2131との間では径方向幅がWgl(図示しない)となるシールギャップ3176gを、形成している。尚、第九実施形態では、樹脂フィルタ6170のフィルタフランジ3172が磁気シールド2166の底壁部2166bと例えば非磁性のスペーサ6166との間に、挟持さている。
【0091】
このような第九実施形態では、樹脂フィルタ6170の内周部6171i及びブレーキ軸2131の間のシールギャップ3176gへ流入する磁性粒子140pは、ブレーキ軸2131の方向Rの回転により遠心力の作用を受けることで、当該内周部6171iに押し付けられる。ここで、回転方向Rに辿った場合に筐体外部側から筐体内部側へ向かって遠ざかる雌螺子状の内周部6171iに対して、遠心力により押し付けられた磁性粒子140pは、筐体内部側へ向かうモーメントを与えられることで、筐体外部側への流動を規制され得る。それと共に樹脂フィルタ6170は、第六実施形態と同様な磁性粒子140pの吸着作用を発揮し得るので、ブレーキ軸2131との間に適度なシールギャップ3176gを確保しながらも、当該ギャップ3176gを磁性粒子140pに関してシールできる。したがって、ブレーキ軸2131へ与える摩擦抵抗の低減により、耐久性の向上及びトルクロスの回避が可能となるのである。また、この他の点では、第五実施形態で説明したものと同様の作用効果の発揮が可能である。
【0092】
(第十実施形態)
本発明の第十実施形態は、第一実施形態の変形例である。図17に示すように第十実施形態のシール構造7160は、第一実施形態の磁気シールスリーブ170を備えておらず、「粒子シール」として磁気シールド7166を備えている。具体的に、第一実施形態と同様な姿勢に配置される有底円筒状の非磁性磁気シールド7166は、内径変化するテーパ状の内周部7166iを底壁部7166bに有することにより、「径変化部材」としての機能も果たす。ここで特に内周部7166iの内径は、軸方向の筐体外部側から筐体内部側へ向かうに従って、一定の変化率で拡大変化している。
【0093】
こうした磁気シールド7166の内周部7166iは、第十実施形態のブレーキ軸7131では一つだけ設けられる磁性突起164の外周部7164oと対向し、流体室114と連通するシールギャップ7176gを当該外周部7164oとの間に形成している。ここで特に外周部7164oの外径は、軸方向の筐体外部側から筐体内部側へ向かうに従って、内周部7166iの場合と実質同じ変化率にて拡大変化している。かかる変化形態により、図18に示すようにシールギャップ7176gの径方向幅Wglは、磁性粒子140pの外径φpよりも大きく調整されている。したがって、シールギャップ7176gには、磁気粘性流体140のベース液と共に磁性粒子140pが流体室114から流入することになる。
【0094】
このような第十実施形態の軸方向では、図17に示すように、液体シール180とシールギャップ7176gとに挟まれる空間が、中間室7178として形成されている。この中間室7178は、磁気シールド7166のうち周壁部7166cの内周側に確保されて当該周壁部7166cの軸方向全域に沿って延伸することにより、軸方向に隣接するシールギャップ7176gに対して容積(横断面積)を拡大されている。中間室7178には、その全体を満たす状態にて、第一実施形態と同じ中間流体190が封入されている。
【0095】
以上説明した第十実施形態では、磁気シールド7166の内周部7166i及びブレーキ軸7131の間のシールギャップ7176gへ流体室114から流入する磁性粒子140pは、図18に示すように、ブレーキ軸7131の回転により遠心力Fcの作用を受けることで、当該内周部7166iに押し付けられる。ここで、筐体外部側から筐体内部側へ向かうに従って内径が拡大変化する内周部7166iに対して、遠心力Fcにより押し付けられた磁性粒子140pは、図18に示すように、当該押し付けに対する抗力Frの軸方向成分Frxを筐体内部側へ向かって受ける。その結果、磁性粒子140pは、筐体外部側への流動を規制され得るのである。これによれば、磁気シールド7166及びブレーキ軸7131の間に適度なシールギャップ7176gを確保しながらも、当該ギャップ7176gを磁性粒子140pに関してシールできる。したがって、ブレーキ軸7131へ与える摩擦抵抗の低減により、耐久性の向上及びトルクロスの回避が可能となるのである。
【0096】
また、第一実施形態と同様に第十実施形態では、ブレーキ軸7131との液密接触によるシール機能を、液体シール180が中間室7178の中間流体190に対して発揮し得る。これにより、中間室7178は中間流体190で常に満たされた状態となるので、流体室114の圧力は、シールギャップ7176gの磁気粘性流体140中のベース液と中間室7178の中間流体190とを伝播して、液体シール180に受け止められる。かかる受け止め作用によれば、ベース液が磁性粒子140pを巻き込んでシールギャップ7176gから中間室7178へ抜けるのを抑制できる。それと共に、極性液体である中間流体190に対して異質の非極性液体であるベース液は、第一実施形態と同様に斥力により反発することで、シールギャップ7176gからの抜けを招くような中間流体190への混合を、抑制され得る。これら抑制効果の結果、シールギャップ7176gでの抜け又は混合による磁気粘性流体140の変質に起因してブレーキ特性が変化する事態を確実に回避し、機関位相の調整精度を維持することも可能となるのである。
【0097】
さらに、第一実施形態と同様に第十実施形態では、非極性ベース液の付着した磁性粒子140pは、極性の中間流体190に対して反発するので、ベース液に巻き込まれることによる中間室7178への抜けも、液体シール180への到達も抑制され得る。しかも磁性粒子140pは、仮に中間室7178へ抜けたとしても、中間室7178を挟んだシールギャップ7176g及び液体シール180間の離間距離に応じて、液体シール180には到達し難くなっている。以上のことから、液体シール180とブレーキ軸7131とが接触する界面184にて面圧(緊迫力)を低減させたとしても、磁性粒子140pが当該界面184に侵入して摩擦抵抗を増大させる事態を回避可能となるので、耐久性の向上に貢献できるのである。
【0098】
(第十一実施形態)
本発明の第十一実施形態は、第十実施形態の変形例である。図19に示すように第十一実施形態のシール構造8160において「粒子フィルタ」としての磁気シールド8166は、第十実施形態のテーパ状内周部7166iに代えて、段付状内周部8166iを底壁部8166bに有することにより、「ラビリンスシール部材」としても機能する。具体的に内周部8166iには、二つのラビリンス突起8167,8168が軸方向に所定間隔をあけて配置されている。各ラビリンス突起8167,8168は、それぞれ回転方向に連続する円環板状に形成され、三つの磁性突起164,165,8165の設けられたブレーキ軸8131の外周側に同軸上に配置されている。ここで特に各ラビリンス突起8167,8168は、軸方向において磁性突起164,165,8165の間のいずれかに配置されている。
【0099】
以上の配置形態により、磁気シールド8166のラビリンス突起8167,8168及び内周部8166iと、ブレーキ軸8131の磁性突起164,165,3165及び外周部8131oとの間には、ラビリンス状のシールギャップ8176gが形成されている。このシールギャップ8176gは、径方向乃至は軸方向の幅として第六実施形態と同様のWgl(図示しない)を保って、筐体外部側と筐体内部側との間を蛇行することにより、当該内部側にて流体室114と連通している。尚、このようなシールギャップ8176gと液体シール180との間には、第十実施形態と同様に中間室7178が形成されている。
【0100】
以上説明した第十一実施形態では、磁気シールド8166及びブレーキ軸8131間のシールギャップ8176gへ流体室114から流入する磁性粒子140p(図示しない)は、筐体内部側と筐体外部側との間を蛇行するラビリンス状ギャップ8176gにて流動抵抗を受ける。その結果として磁性粒子140pは、シールギャップ8176gにおける筐体外部側への流動を規制され得る。これによれば、磁気シールド8166及びブレーキ軸8131の間に適度なシールギャップ8176gを確保しながらも、当該ギャップ8176gを磁性粒子140pに関してシールできる。したがって、ブレーキ軸8131へ与える摩擦抵抗の低減により、耐久性の向上及びトルクロスの回避が可能となるのである。また、この他の点では、第十実施形態と同様な作用効果の発揮が可能である。
【0101】
(他の実施形態)
ここまで本発明の複数の実施形態について説明したが、本発明は、それらの実施形態に限定して解釈されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の実施形態及び組み合わせに適用することができる。
【0102】
第一、第四〜第十一実施形態に関する変形例1として、中間流体190については、磁気粘性流体140のベース液とは異質となる非磁性の液体であれば、極性液体以外のもの、例えば非極性のベース液には溶け難いシリコンオイル等を採用してもよい。また、第二実施形態に関する変形例2として、磁気粘性流体140のベース液については、中間流体190とは異質となる非磁性の液体であれば、極性液体以外のもの、例えばシリコンオイル等を採用してもよい。さらに、第三実施形態に関する変形例3として、磁気粘性流体140のベース液と中間流体190とについては、互いに同一の液体であれば、非極性液体の代わりに、第一実施形態の中間流体190や第二実施形態の磁気粘性流体140のベース液と同様な極性液体を採用してもよい。またさらに、第四〜第十一実施形態に関する変形例4としては、磁気粘性流体140のベース液及び中間流体190の構成成分を、第二実施形態と第三実施形態と変形例2,3とのうちいずれかの成分に、変更してもよい。加えて、第一〜第十一実施形態に関する変形例5としては、磁気粘性流体140とは磁性粒子(140a)の外径(φp)が異なる磁性流体等、磁気粘性流体140以外の機能性流体を、流体室114に封入してもよい。
【0103】
第一〜第四実施形態に関する変形例6としては、図20に示すように、第二磁束ガイド175及び第二磁性突起165のうち少なくとも一方を設けなくてもよい。尚、図20は、要素175,165の双方を設けない場合の第一〜第三実施形態に関する変形例6を示している。また、第一〜第四実施形態に関する変形例7として、磁束ガイド174,175のうち少なくとも一方を、永久磁石172の筐体内部側又は筐体外部側にそれぞれ複数ずつ並べてもよい。さらに、第一〜第四実施形態に関する変形例8として、磁性突起164,165を設けなくてもよい。またさらに、第一〜第四実施形態に関する変形例9として、磁束ガイド174,175のうち少なくとも一方の内周部の内径を、第十実施形態に準じて変化させてもよく、この場合に、磁性突起164,165のうち少なくとも一方の外周部の外径を、第十実施形態に準じて変化させてもよい。
【0104】
第五〜第十一実施形態に関する変形例10として、要素2166,7166,8166については、筐体110と別体又は一体の磁性材により形成してもよい。また、第五、第七及び第八実施形態に関する変形例11として、本体2171,3171の内周部2171i,3171iを、第九実施形態に準じた雌螺子状に形成してもよい。さらに、第六〜第十一実施形態に関する変形例12として、シールギャップ3176g,7176g,8176gの幅を、第五実施形態に準じて磁性粒子140pの外径よりも小さな幅Wgsに調整してもよい。またさらに、第十実施形態に関する変形例13として、磁性突起164の外周部7164oの外径を、磁気シールド7166の内周部7166iの内径の場合とは異なる変化率にて拡大変化させてもよいし、第一実施形態と同様の実質一定径に固定してもよい。加えて、第五実施形態〜第十一実施形態に関する変形例14として、第一〜第十一実施形態のうち少なくとも一つと組み合わせて、実施してもよい。
【0105】
そして、変形例15として本発明は、「動弁」としての吸気弁のバルブタイミングを調整する装置以外にも、「動弁」としての排気弁のバルブタイミングを調整する装置や、それら吸気弁及び排気弁の双方のバルブタイミングを調整する装置の他、ブレーキトルクを利用する各種の装置に適用してもよい。
【符号の説明】
【0106】
100 流体ブレーキ装置、110 筐体、114 流体室、130 ブレーキ回転体、131,2131,7131,8131 ブレーキ軸、140 磁気粘性流体、140a 磁性粒子、160,1160,2160,3160,4160,5160,6160,7160,8160 シール構造、166,2166,7166,8166 磁気シールド、170,1170 磁気シールスリーブ、172 永久磁石、176g,2176g,3176g,7176g,8176g シールギャップ、178,2178,7178 中間室、178g トラップギャップ、178v1,2178v1 第一容積部、178v2,2178v2 第二容積部、180 液体シール、190 中間流体、1172 電磁石、2170 メカニカルシール、3170,6170 樹脂フィルタ、4170 多孔フィルタ、5170 繊維フィルタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体室(114)を内部に形成する筐体(110)と、
非磁性のベース液に磁性粒子が分散されてなり、前記流体室に封入されて通過磁束に応じて粘度が変化する磁気粘性流体(140)と、
前記流体室の前記磁気粘性流体に磁束を通過させることにより、前記磁気粘性流体の粘度を可変制御する粘度制御手段(150,200)と、
軸方向において前記筐体を内外に貫通するブレーキ軸(131)を有し、前記流体室の前記磁気粘性流体と接触することにより、前記磁気粘性流体の粘度に応じたブレーキトルクが入力されるブレーキ回転体(130)と、
前記筐体及び前記ブレーキ軸の間をシールするシール構造(160)とを、備える流体ブレーキ装置であって、
前記シール構造は、
磁極により磁束を発生する永久磁石(172)と、
前記筐体において前記ブレーキ軸を囲んで設けられ、前記流体室に連通するシールギャップ(176g)を前記ブレーキ軸との間に形成し、当該シールギャップを通じて前記永久磁石の発生磁束を前記ブレーキ軸に案内する磁束ガイド(174)と、
前記筐体のうち前記磁束ガイドよりも前記軸方向の前記筐体外部側において前記ブレーキ軸に接触して設けられ、当該ブレーキ軸との間を液密にシールする液体シール(180)と、
非磁性の液体として、前記シールギャップ及び前記液体シールに挟まれた中間室(178)を満たす中間流体(190)とを、有することを特徴とする流体ブレーキ装置。
【請求項2】
前記中間流体は、前記ベース液とは異質の液体であることを特徴とする請求項1に記載の流体ブレーキ装置。
【請求項3】
前記ベース液は、極性液体及び非極性液体のうち一方であり、
前記中間流体は、それら極性液体及び非極性液体のうち他方であることを特徴とする請求項2に記載の流体ブレーキ装置。
【請求項4】
前記中間流体は、前記ベース液と同一の液体であることを特徴とする請求項1に記載の流体ブレーキ装置。
【請求項5】
前記シール構造は、
前記磁束ガイドとして、前記ブレーキ軸との間の前記シールギャップに前記永久磁石の発生磁束を案内する第一磁束ガイド(174)と、
前記筐体のうち前記第一磁束ガイドよりも前記軸方向の前記筐体外部側において前記ブレーキ軸を囲んで設けられ、当該ブレーキ軸との間の前記中間室が形成するトラップギャップ(178g)に、前記永久磁石の発生磁束を案内する第二磁束ガイド(175)とを、有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の流体ブレーキ装置。
【請求項6】
前記永久磁石は、前記筐体において前記第一磁束ガイド及び前記第二磁束ガイドに挟まれることにより、前記ブレーキ軸を囲んで設けられ、当該ブレーキ軸との間に前記中間室を確保することを特徴とする請求項5に記載の流体ブレーキ装置。
【請求項7】
内燃機関においてクランク軸からのトルク伝達によりカム軸が開閉する動弁のバルブタイミングを調整するバルブタイミング調整装置であって、
請求項1〜6のいずれか一項に記載の流体ブレーキ装置(100)と、
前記流体ブレーキ装置の前記筐体の外部において前記ブレーキ軸と連繋し、当該流体ブレーキ装置の前記ブレーキ回転体へ入力される前記ブレーキトルクに応じて前記クランク軸及び前記カム軸の間の相対位相を調整する位相調整機構(300)とを、備えることを特徴とするバルブタイミング調整装置。
【請求項8】
流体室(114)を内部に形成する筐体(110)と、
ベース液に磁性粒子(140a)が分散されてなり、前記流体室に封入されて通過磁束に応じて粘度が変化する機能性流体(140)と、
前記流体室の前記機能性流体に磁束を通過させることにより、前記機能性流体の粘度を可変制御する粘度制御手段(150,200)と、
軸方向において前記筐体を内外に貫通するブレーキ軸(131,2131,7131,8131)を有し、前記流体室の前記機能性流体と接触することにより、前記機能性流体の粘度に応じたブレーキトルクが入力されるブレーキ回転体(130)と、
前記筐体及び前記ブレーキ軸の間をシールするシール構造(160,1160,2160,3160,4160,5160,6160,7160,8160)とを、備える流体ブレーキ装置であって、
前記シール構造は、
前記流体室に連通するシールギャップ(176g,2176g,3176g,7176g,8176g)を、前記ブレーキ軸との間に形成してシールすることにより、当該シールギャップにおいて前記軸方向の前記筐体内部側から前記筐体外部側へ向かう前記磁性粒子の流動を、規制する粒子シール(170,1170,2170,3170,4170,5170,6170,7166,8166)と、
前記筐体のうち前記粒子シールよりも前記軸方向の前記筐体外部側において前記ブレーキ軸に接触して設けられ、当該ブレーキ軸との間を液密にシールする液体シール(180)と、
前記シールギャップ及び前記液体シールに挟まれた中間室(178,2178,7178)を満たす液状の中間流体(190)とを、有することを特徴とする流体ブレーキ装置。
【請求項9】
前記中間流体は、前記ベース液とは異質の液体であることを特徴とする請求項8に記載の流体ブレーキ装置。
【請求項10】
前記ベース液は、極性液体及び非極性液体のうち一方であり、
前記中間流体は、それら極性液体及び非極性液体のうち他方であることを特徴とする請求項9に記載の流体ブレーキ装置。
【請求項11】
前記中間流体は、前記ベース液と同一の液体であることを特徴とする請求項8に記載の流体ブレーキ装置。
【請求項12】
前記ベース液及び前記中間流体は、非磁性の液体であり、
前記粒子シール(170,1170)は、
磁極により磁束を発生する磁石(172,1172)と、
前記筐体において前記ブレーキ軸(131)を囲んで設けられ、前記シールギャップ(176g)を前記ブレーキ軸との間に形成し、当該シールギャップを通じて前記磁石の発生磁束を前記ブレーキ軸に案内する磁束ガイド(174)とを、含むことを特徴とする請求項8〜11のいずれか一項に記載の流体ブレーキ装置。
【請求項13】
前記粒子シール(170,1170)は、
前記磁束ガイドとして、前記ブレーキ軸との間の前記シールギャップに前記磁石の発生磁束を案内する第一磁束ガイド(174)と、
前記筐体のうち前記第一磁束ガイドよりも前記軸方向の前記筐体外部側において前記ブレーキ軸を囲んで設けられ、当該ブレーキ軸との間の前記中間室が形成するトラップギャップ(178g)に、前記磁石の発生磁束を案内する第二磁束ガイド(175)とを、含むことを特徴とする請求項12に記載の流体ブレーキ装置。
【請求項14】
前記磁石は、前記筐体において前記第一磁束ガイド及び前記第二磁束ガイドに挟まれることにより、前記ブレーキ軸を囲んで設けられ、当該ブレーキ軸との間に前記中間室を確保することを特徴とする請求項13に記載の流体ブレーキ装置。
【請求項15】
前記粒子シール(2170)は、
前記筐体において前記ブレーキ軸(2131)を囲んで設けられ、当該ブレーキ軸との間に形成するシールギャップ(2176g)の幅を前記磁性粒子の外径よりも小さく調整するギャップ調整部材(2170)を、含むことを特徴とする請求項8〜14のいずれか一項に記載の流体ブレーキ装置。
【請求項16】
前記粒子シール(3170,4170,5170,6170)は、
前記筐体において前記ブレーキ軸(2131)を囲んで設けられ、前記シールギャップ(3176g)を前記ブレーキ軸との間に形成し、当該シールギャップにおいて前記軸方向の前記筐体外部側から前記筐体内部側へ向かう前記磁性粒子を捕捉可能なフィルタ部材(3170,4170,5170,6170)を、含むことを特徴とする請求項8〜15のいずれか一項に記載の流体ブレーキ装置。
【請求項17】
前記粒子シール(6170)は、
前記筐体において前記ブレーキ軸(2131)を囲んで設けられ、前記ブレーキ軸の回転方向に辿った場合に前記軸方向の前記筐体内部側から前記筐体外部側へ向かって遠ざかる雌螺子状を呈した内周部(6171i)により、当該ブレーキ軸との間のシールギャップ(3176g)を形成するビスコシール部材(6170)を、含むことを特徴とする請求項8〜16のいずれか一項に記載の流体ブレーキ装置。
【請求項18】
前記粒子シール(7166)は、
前記筐体において前記ブレーキ軸(7131)を囲んで設けられ、当該ブレーキ軸との間にシールギャップ(7176g)を形成する内周部(7166i)の内径を、前記軸方向の前記筐体外部側から前記筐体内部側へ向かうに従って拡大変化させる径変化部材(7166)を、含むことを特徴とする請求項8〜17のいずれか一項に記載の流体ブレーキ装置。
【請求項19】
前記粒子シール(8166)は、
前記筐体において前記ブレーキ軸(8131)を囲んで設けられ、前記軸方向の前記筐体内部側と前記筐体外部側との間を蛇行するラビリンス状のシールギャップ(8176g)を、当該ブレーキ軸との間に形成するラビリンスシール部材(8166)を、含むことを特徴とする請求項8〜18のいずれか一項に記載の流体ブレーキ装置。
【請求項20】
内燃機関においてクランク軸からのトルク伝達によりカム軸が開閉する動弁のバルブタイミングを調整するバルブタイミング調整装置であって、
請求項8〜19のいずれか一項に記載の流体ブレーキ装置(100)と、
前記流体ブレーキ装置の前記筐体の外部において前記ブレーキ軸(131,2131,7131,8131)と連繋し、当該流体ブレーキ装置の前記ブレーキ回転体へ入力される前記ブレーキトルクに応じて前記クランク軸及び前記カム軸の間の相対位相を調整する位相調整機構(300)と、を備えることを特徴とするバルブタイミング調整装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2013−83244(P2013−83244A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−162924(P2012−162924)
【出願日】平成24年7月23日(2012.7.23)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【Fターム(参考)】