説明

浮体式フラップゲートの扉体構造

【課題】倒伏状態での車両通過や落下物の衝突により扉体が損傷しても起立でき、また、津波・高潮の水圧により起立状態の扉体が損傷しても起立状態を維持できる。
【解決手段】開口部或いは出入口に設置され、水が流入する際、前記開口部或いは前記出入口を遮断すべく、前記流入する水の方向に高さ方向の平面内で、基端側2aを回転中心として先端側2bが起立揺動する浮体式フラップゲート1の扉体2を、板状の硬質ポリウレタンフォーム4で形成する。
【効果】起立に要する浮力を板状の硬質ポリウレタンフォームによって発生させるので、倒伏状態の扉体上を走行する車両の輪荷重により板状の硬質ポリウレタンフォームが損傷しても浮力が急激に減少することがなく、起立できる。また、津波・高潮の水圧により、板状の硬質ポリウレタンフォームが損傷しても倒伏することがなく、起立状態を維持できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、津波・高潮などによる増水時に、増水した水が例えば公共空間に流れ込まないよう、扉体を起立させて開口部を遮断する浮体式フラップゲートにおける扉体の構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1には、海岸又は河口付近の防潮堤防に設置される陸閘の開口部を開放・閉鎖する防潮扉設備が開示されている。
【0003】
特許文献1で開示された陸閘の防潮扉設備の場合、陸閘開口部に海水が浸入するのを防止するための扉体の起立は、油圧装置のバイパス回路を開放し、海水の水圧と浮力により防潮扉を起立させることによって行われる。
【0004】
しかしながら、特許文献1で開示されたような陸閘の防潮扉設備の場合、倒伏状態にある防潮扉上を走行する車両の輪荷重により防潮扉が損傷した場合、損傷部から防潮扉の内部に水が浸入すると、浮上できないという問題がある。
【0005】
また、津波・高潮の水圧により、起立状態にある防潮扉が損傷した場合、損傷部から防潮扉の内部に水が浸入すると、起立状態を維持することができないという問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許4388494号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする問題点は、従来の陸閘の防潮扉設備は、倒伏状態にある防潮扉上を走行する車両の輪荷重により防潮扉が損傷して損傷部から防潮扉の内部に水が浸入すると、浮上できなくなるという点である。また、津波・高潮の水圧により、起立状態にある防潮扉が損傷した場合、損傷部から防潮扉の内部に水が浸入すると、起立状態を維持できなくなるという点である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記問題を解決すべく、倒伏状態での車両通過や落下物の衝突により扉体が損傷しても起立することができ、また、津波・高潮の水圧により起立状態にある扉体が損傷しても起立状態を維持することができる扉体構造を提供することを目的としてなされたものである。
【0009】
本発明の浮体式フラップゲートの扉体構造は、
開口部或いは出入口に設置され、水が流入する際、前記開口部或いは前記出入口を遮断すべく、前記流入する水の方向に高さ方向の平面内で、基端側を回転中心として先端側が起立揺動する浮体式フラップゲートの扉体を、
板状の硬質ポリウレタンフォームで形成したことを最も主要な特徴としている。
【0010】
本発明は、板状の硬質ポリウレタンフォームで扉体を形成するので、倒伏状態での車両通過や落下物の衝突により扉体が損傷しても起立することができる。また、津波・高潮の水圧により、起立状態にある扉体が損傷しても起立状態を維持することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、扉体を板状の硬質ポリウレタンフォームで形成するので、軽量化を図ることができる。また、板状の硬質ポリウレタンフォームによって起立に要する浮力を発生させるので、倒伏状態の扉体上を走行する車両の輪荷重により板状の硬質ポリウレタンフォームが損傷しても、浮力が急激に減少することがなく、起立することができる。さらに、津波・高潮の水圧により、板状の硬質ポリウレタンフォームが損傷しても、倒伏することがなく起立状態を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の扉体構造を有する浮体式フラップゲートの概略構成図で、(a)は側面から見た図、(b)は(a)図を左側面方向から見た図である。
【図2】本発明の浮体式フラップゲートの扉体構造の第2の例を示す斜視図である。
【図3】本発明の浮体式フラップゲートの扉体構造の第3の例を示す断面図である。
【図4】(a)は本発明の浮体式フラップゲートの扉体構造の第4の例を先端側から見た図、(b)は第4の例を2個連結した図である。
【図5】本発明の浮体式フラップゲートの扉体構造の第4の例の製造方法を説明する図で、(a)は第1の方法、(b)は第2の方法である。
【図6】(a)は本発明の浮体式フラップゲートの扉体構造の第5の例を先端側から見た図、(b)は第5の例を2個連結した図である。
【図7】本発明の浮体式フラップゲートの扉体構造の第5の例の製造方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、倒伏状態での車両通過や落下物の衝突などにより扉体が損傷しても起立することができ、また、津波・高潮の水圧により起立状態にある扉体が損傷しても起立状態を維持できる扉体構造を提供するという目的を、浮体式フラップゲートの扉体を、板状の硬質ポリウレタンフォームで形成することで実現した。
【実施例】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態を、図1〜図7を用いて詳細に説明する。
図1は、本発明の扉体構造を有する浮体式フラップゲートの概略構成図である。
【0015】
図1において、1は例えば防波堤の開口部の路面rsに設置される、本発明の浮体式フラップゲートであり、扉体2の起立時、扉体2の両側と、防波堤の開口部に設けた側部戸当り3とは、水密状態を維持するように成されている。
【0016】
この浮体式フラップゲート1は、海洋(或いは河川)から例えば公共空間に水が流入しようとする際、流入する水の水圧を利用して、扉体2の基端側2aを回転中心cとして先端側2bを起立揺動させて開口部を水密状態に遮断するものである。
【0017】
本発明の浮体式フラップゲート1は、基端側2aを回転中心cとして先端側2bを起立揺動させる扉体2を、板状の硬質ポリウレタンフォーム4で形成したことを特徴としている。
【0018】
本発明の浮体式フラップゲート1は、扉体2を板状の硬質ポリウレタンフォーム4で形成するので、軽量化を図ることができる。また、硬質ポリウレタンフォーム4に発生する浮力によって扉体2を起立させるので、倒伏状態にある扉体2上を走行する車両の輪荷重により板状の硬質ポリウレタンフォーム4が損傷しても、浮力が急激に減少することがなく、起立することができる。さらに、津波・高潮の水圧により、板状の硬質ポリウレタンフォーム4が損傷しても倒伏することがなく、起立状態を維持することができる。
【0019】
扉体2を構成する硬質ポリウレタンフォーム4の密度は、0.15〜0.4g/cm3であることが望ましい。
【0020】
硬質ポリウレタンフォーム4の密度が0.15g/cm3未満であると、倒伏時に扉体2上を走行する車やフォークリフトの輪荷重に対する強度が十分であるとは言えないからである。すなわち、硬質ポリウレタンフォーム4の機械的特性を考慮した場合、フラップゲートとして使用する硬質ポリウレタンフォームの密度は0.15g/cm3以上必要だからである。
【0021】
また、硬質ポリウレタンフォーム単体としては軽いものの、後述するような金属製の板などを組み合わせた場合に、扉体全体としての重量が重たくなりすぎて、扉体2の浮上が難しくなることから、硬質ポリウレタンフォーム4の密度は0.4g/cm3を超えないことが望ましい。
【0022】
前記扉体2は、図1に示すように、板状の硬質ポリウレタンフォーム4のみによって形成したものでも良いが、例えば図2に示すように、板状の硬質ポリウレタンフォーム4の表裏両面に接着剤で金属板5を貼り付けたものでも良い。
【0023】
また、硬質ポリウレタンフォーム4の表裏両面に金属板5を貼り付けるだけでなく、例えば図3に示すように、板状の硬質ポリウレタンフォーム4を装入した金属製の箱6に金属製の蓋7を接着剤で貼り付け、板状の硬質ポリウレタンフォーム4の全面を金属で覆うようにしても良い。
【0024】
このような構成の場合、例えば倒伏状態での車両通過や落下物の衝突、または起立状態での津波・高潮の水圧による硬質ポリウレタンフォーム4の損傷を防止することができる。
【0025】
また、開口部の幅が大きい場合、この開口部の幅に合わせた板状の硬質ポリウレタンフォーム4を製造することは難しい。従って、開口部の幅が大きい場合は、所定幅の扉体2を幅方向に連結することで対応することになる。
【0026】
しかしながら、硬質ポリウレタンフォーム4のみで形成した扉体2同士を、溶接、接着等で連結することは難しく、扉体2間の隙間から水が漏れるおそれがある。一方、扉体2の両側面に金属製の枠部材8を取り付け、この枠部材8を溶接で連結すれば、扉体2間の隙間から水が漏れるのを防止することができる。
【0027】
この板状の硬質ポリウレタンフォーム4で形成した扉体2の両側面に金属製の枠部材8を取り付ける手段としては、例えば図4に示すように、ボルト9で取付けることができる。
【0028】
この板状の硬質ポリウレタンフォーム4の両側面に、金属製の枠部材8をボルト9で取付ける方法としては、次の2つの方法がある。
【0029】
1) 硬質ポリウレタンフォームの成型時、図5(a)に示すように、雌ねじ部材10を埋め込み成型してから、この雌ねじ部材10にボルト9をねじ込むことで扉体2となる板状の硬質ポリウレタンフォーム4の両側面に金属製の枠部材8を接合する。
【0030】
2) 図5(b)に示すように、硬質ポリウレタンフォーム4を成型した後に、ボルトを挿入するための穴4aを形成してから、この穴4aにボルト9をアンカーのように打ち込むことで扉体2となる板状の硬質ポリウレタンフォーム4の両側面に金属製の枠部材8を接合する。
【0031】
また、前記金属製の枠部材8をボルト9で取付けるのに換えて、図6に示すように、棒材11を用いて取り付けても良い。この棒材11は丸棒でも角棒でも良い。
【0032】
この板状の硬質ポリウレタンフォーム4の両側面に、金属製の枠部材8を棒材11で取り付けるには、以下のように行えばよい。
【0033】
例えば、硬質ポリウレタンフォーム4の成型後に、図7に示すように、棒部材11の挿入用の貫通孔4bを形成し、その後、この貫通孔4bに挿入した棒部材11により扉体2となる板状の硬質ポリウレタンフォーム4の両側面に金属製の枠部材8を接合する。
【0034】
このような構成にすれば、開口部の幅に応じた適数の扉体2を幅方向に連結することができる。
【0035】
本発明は、前記の例に限るものではなく、各請求項に記載の技術的思想の範疇であれば、適宜実施の形態を変更しても良いことは言うまでもない。
【0036】
例えば、図2の例では、板状の硬質ポリウレタンフォーム4の表裏両面に金属板5を貼り付けたものを示したが、板状の硬質ポリウレタンフォーム4の表裏何れか片面に金属板5を貼り付けたものでも良い。
【0037】
また、図3の例では、板状の硬質ポリウレタンフォーム4を挿入した金属製の箱6に金属製の蓋7を貼り付けて板状の硬質ポリウレタンフォーム4の全面を覆うものを示したが、板状の硬質ポリウレタンフォーム4の全面に金属板5を貼り付けても良い。
【符号の説明】
【0038】
1 浮体式フラップゲート
2 扉体
2a 基端側
2b 先端側
4 硬質ポリウレタンフォーム
5 金属板
6 箱
7 蓋
8 枠部材
9 ボルト
11 棒材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口部或いは出入口に設置され、水が流入する際、前記開口部或いは前記出入口を遮断すべく、前記流入する水の方向に高さ方向の平面内で、基端側を回転中心として先端側が起立揺動する浮体式フラップゲートの扉体を、
板状の硬質ポリウレタンフォームで形成したことを特徴とする浮体式フラップゲートの扉体構造。
【請求項2】
前記板状の硬質ポリウレタンフォームの密度は0.15〜0.4g/cm3であることを特徴とする請求項1に記載の浮体式フラップゲートの扉体構造。
【請求項3】
前記板状の硬質ポリウレタンフォームの、表裏面の何れか片面或いは両面に金属板を貼り付けたことを特徴とする請求項1又は2に記載の浮体式フラップゲートの扉体構造。
【請求項4】
前記板状の硬質ポリウレタンフォームの全面に金属板を貼り付ける、或いは、前記板状の硬質ポリウレタンフォームを挿入した金属製の箱を金属製の蓋で覆うことを特徴とする請求項1又は2に記載の浮体式フラップゲートの扉体構造。
【請求項5】
前記板状の硬質ポリウレタンフォームの両側面に、金属製の枠部材をボルトで取り付けたことを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の浮体式フラップゲートの扉体構造。
【請求項6】
前記板状の硬質ポリウレタンフォームの両側面に、金属製の枠部材を棒材で取り付けたことを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の浮体式フラップゲートの扉体構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−44167(P2013−44167A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−182750(P2011−182750)
【出願日】平成23年8月24日(2011.8.24)
【出願人】(000005119)日立造船株式会社 (764)
【Fターム(参考)】