説明

液中堆積物の堆積状況監視装置および方法

【課題】超音波の大出力化や、堆積層表面の深度の高精度の計測を必要としない超音波を利用した液中堆積物の堆積状況監視装置および方法を提供する。
【解決手段】本発明に係わる液中堆積物の堆積状況監視装置は、液中に超音波を送信し、液中で生じた反射波を受信する超音波センサを含む送受信手段(1,2,3) と、この送受信手段が受信した反射波に含まれる所定値以上の振幅を時間軸上の所定の範囲にわたって加算する加算手段(7) と、この加算手段が得た加算値の大小に基づき液中堆積物の堆積状況を判定する判定手段(7) とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、火力発電所の冷却水槽内などの堆積物の堆積状況を超音波を利用して監視する液中堆積部の堆積状況監視装置および方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
重油を燃焼させる火力発電所では、煙突の内部下方に冷却水槽を設置し、この冷却水槽から蒸発させた水蒸気を煙道の内部上方に供給することによって、煙突内壁の加熱を防止している。排煙に含まれるナフサ等の化学物質が煙道の下方に設置された冷却水槽内に落下して底に堆積してゆく。このナフサは煙突内部では高温になっているので、これが冷却水中に落下すると冷却水の温度を上昇させる。この冷却水槽内の冷却水の温度を均一に保つために、冷却水の攪拌が行われる。
【0003】
冷却水槽の典型的な寸法は、10メートル×2メートル、深さ1.5 メートルほどである。冷却水槽の水位は一定に保持されているため、ナフサの堆積量が増加して槽内の冷却水量が減少してくると、煙道から落下してくるナフサが運ぶ熱量によって槽内の水温が急上昇しはじめる。この水温の急上昇に伴い煙突の内壁面が過熱して危険な状態になると、煙突の熱的破損を回避するため、火力発電システム全体の運転停止という重大事態に到る。
【0004】
従来、火力発電システム全体の停止という重大事態を防止するため、作業員が冷却水槽内のナフサの堆積層を監視し、これが厚くなると熊手で掻き取っている。煙に含まれるナフサの量は、燃料とする重油などの種類に依存する一方、燃焼させる重油の種類も頻繁に変更される。この結果、冷却水槽内へのナフサの堆積の速さが変動し、掻き取りを周期的に行っていたのでは不測の事態に対処できなくなるおそれがある。すなわち、堆積層の厚みの連続的な監視が必要になり、その自動化が望まれている。
【0005】
従来、下水処理システムや浄水システムなどの沈殿池などの底に堆積する汚泥の量の分布を超音波センサを用いて自動的に計測するシステムが知られている( 特許文献1,2,3)。これらの計測システムでは、タンクや、導水路や、沈殿池の底の既知の深さから、実測した堆積層の表面までの深さを引き算することにより、堆積層の厚みが自動的に計測される。
【特許文献1】特開平9−192411号公報
【特許文献2】特開平9−192412号公報
【特許文献3】特開2001−141438号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記下水処理システムなどの土砂の堆積層の厚みの計測に関する技術を、上述の火力発電所の冷却水槽内に形成されるナフサなどの化学物質の堆積層の厚みの計測に適用しようとすると、次のような問題が生ずる。まず、ナフサは形状が概ね針状で不規則なため散乱成分が増加し、その反射率は下水処理システムの沈殿池に堆積する土砂などに比べると極端に小さい。このため、SNを確保するために大電力の超音波を送信する必要がある。
【0007】
また、ナフサの反射率が小さいため、放射された超音波のかなりの部分が堆積層の表面を通過して内部に浸透し、この内部で生じた反射波が受信される。このため、超音波の放射から反射波の受信までの経過時間によって決定される堆積層の表面の位置がぼやけてしまい、堆積層の厚みを正確に検出することが困難になる。
【0008】
さらに、冷却水槽内の水温を均一化するために冷却水の攪拌が行われるので、堆積されたナフサが冷却水中に舞い上がって浮遊し、堆積層の表面の位置が変動する。この結果、堆積層の表面の位置が一層ぼやけるという問題がある。また、浮遊中のナフサからの反射波によって堆積層まで到達する超音波のレベルが低下し、一層の大出力化が必要になるという問題がある。
【0009】
さらに、厚みの分布の測定精度を向上させるには、超音波を鉛直下方に放射する必要がある。しかしながら、冷却水槽の中央部分では上から高温のナフサが落下してくるため、超音波センサの保持機構やケーブルなどを熱的に保護する機構が付加する必要が生じ、コスト高になるという問題もある。
【0010】
従って、本発明の一つの目的は、超音波の大出力化を必要としない液中堆積物の堆積状況監視装置を提供することにある。本発明の他の目的は、堆積槽の表面の深度を高精度で測定する必要のない液中堆積物の堆積状況監視装置を提供することにある。本発明の更に他の目的は、監視作業の能率の向上や自動化に適した液中堆積物の堆積状況監視装置を提供することにある。本発明のさらに他の目的は、超音波センサを冷却水槽の中央に設置する必要のない液中堆積物の堆積状況監視装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記従来技術の課題を解決する本発明に係わる液中堆積物の堆積状況監視装置は、火力発電所の冷却水槽中に堆積されるナフサなど、液中の堆積物の堆積状況を超音波を利用して監視する。そして、この液中堆積物の堆積状況監視装置は、液中に超音波を送信し、液中で生じた反射波を受信する超音波センサを含む送受信手段と、この送受信手段が受信した反射波に含まれる所定値以上の振幅を時間軸上の所定の範囲にわたって加算する加算手段と、この加算手段が得た加算値の大小に基づき堆積物の堆積状態を判定する判定手段とを備えている。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係わる液中堆積物の堆積状況監視装置によれば、土砂などの堆積層の厚みを計測するのではなく、液中からの反射波の総量を堆積の進行状況を示す指標として検出する構成であるから、超音波の出力レベルを過大にすることなく、また、堆積層の表面の検出精度を気にすることなく、堆積の進行状況を監視できるという効果が奏される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の一つの好適な実施の形態によれば、判定手段の判定結果を表示する表示手段を更に備えることにより、監視作業の能率を一層高めることができる。
【0014】
本発明の他の好適な実施の形態によれば、判定手段の判定結果が所定値を越えたときに警報を発生する警報発生手段を更に備えることにより、監視作業の自動化を図ることができる。
【0015】
本発明の他の好適な実施の形態によれば、超音波センサが液槽の周辺部に設置し、液槽の中央部分に向けて超音波を斜めに送受信することにより、高温のナフサなどから超音波センサを保護する熱的保護機構を簡易・低コスト化することができる。
【0016】
前記超音波センサが液槽のほぼ全体を見込む指向角を有することにより、設置個数の節減や走査機構の省略による低コスト化を実現できる。
【実施例】
【0017】
図2は、本発明の一実施例に係わる水中堆積物の堆積状況監視装置の構成を示す機能ブロック図である。この水中堆積物の堆積状況監視装置は、送受波器1、送信部2,受信部3、制御部4、A/D変換部5、メモリ部6、比較・加算・判定部7、設定部8、表示部9、警報発生部10を備えている。
【0018】
図1は、図2の監視装置の監視対象となる冷却水槽と、送受波器1とを示す概念図である。この冷却水槽Pは、火力発電所の煙突内部の下方に設置されており、その寸法は、10メートル×2メートル、深さ1.5 メートルである。この冷却水槽Pの上方に存在する煙道から高温のナフサを主体とする化合物が落下し、冷却水槽Pの底部に堆積物の堆積層Qを形成する。冷却水槽内の水位は図示しない液面計や給水装置などによって一定に保持されている。冷却水槽Pには攪拌装置(図示せず)が取付けられており、冷却水の水温を均一化するために槽内の攪拌が行われる。
【0019】
冷却水槽Pの短辺側の周辺部分には、超音波の送受波器1が中央部分の下方に向けて取付けられている。この超音波の送受波器1は、図示の取付け状態において冷却水槽Pの短辺のほぼ全域をカバー可能な広い指向角を有している。この送受波器1は、冷却水槽Pの長辺の中央部分に1個だけ取付けられている。
【0020】
図2の機能ブロック図を参照すると、制御部4は送信部2にトリガパルスを供給することにより、送信部2に送信動作を開始させる。このトリガパルスは比較・加算・判定部7にも供給され、その動作を開始させる。動作を開始した送信部2から送受波器1に電気信号の送信パルスが供給され、送受波器1から冷却水中に超音波パルスが放射される。冷却水で発生した反射波は、受信部3に受信される。
【0021】
図3は、上記受信部3に受信された反射波の典型的な一例を示す波形図である。送信直後に送信パルスの回り込みによる大振幅の受信信号Tが出現する。続いて、水中を浮遊中の堆積物Q1 ,Q2 で生じた反射波q1 ,q2 と、堆積層Qで生じた反射波qが出現し、最後に冷却水槽Pの底面で生じた比較的大振幅の反射波Rが出現する。
【0022】
この受信反射波は、A/D変換部5においてディジタル信号に変換されて比較・加算・判定部7に供給される。比較・加算・判定部7は、A/D変換部5から供給されたディジタル受信反射波の振幅を、メモリ部6に記憶されている閾値Lthと比較し、Lth 以上の振幅については加算を継続する。この加算は、図3の波形図に示す時点t1 からt2 にわたって行われる。加算の開始時点t1 は、送信パルスの回り込みによる大振幅の受信信号Tが消滅した直後の時点であり、加算の終了時点t2 は冷却水槽Pの底面で生じた比較的大振幅の反射波Rが出現する直前の時点である。加算の開始と終了の時点t1 ,t2 はメモリ部6に記憶されている。
【0023】
比較・加算・判定部7は、時点t1 からt2 までの比較・加算が終了すると、この新たな加算値によって表示部9に表示中の加算値を更新する。さらに、比較・加算・判定部7は、新たな加算値をメモリ6に記憶されている判定閾値Dthと比較し、判定閾値未満であれば、処理を終了する。比較・加算・判定部7は、新たな加算値が判定閾値Dth以上であれば、堆積層3の掻き取りが必要と判定し、警報発生部10を起動する。起動された警報発生部10は、内蔵のブザーを鳴らしたり、あるいは図示しない通信路を介して遠隔の作業員に通知する。上記判定のための各パラメータLth, Dth, t1 , t2 は、設定部8からメモリ部6に書き込まれる。
【0024】
図3の波形図中のq1 とq2 に例示するうように、攪拌によって冷却水中に浮遊中のナフサの量も判定基準の加算値に繰り入れられる。堆積層の表面の水深を検出する従来方法では、波形図中のq1 とq2 は、不要成分として廃棄されるため、この廃棄される損失分を補うために、超音波の一層の大出力化が必要になる。また、この廃棄される不要成分は雑音として作用するため、必要な信号のSNを高めるために、超音波のさらに一層の大出力化が必要となる。
【0025】
さらに、堆積層の厚みの空間的分布を測定する従来装置と異なり、堆積層に対して真上から超音波を放射する必要がなくなり、設置の機構が簡易になる。これは、大型の導水路や沈殿層などとは異なり、たかだか10メートル程度の大きさの冷却水層であり、しかも液が汚濁していないので、空間分布によって厚い層の箇所を特定しなくとも、これを作業者が目視で知ることができる。
【0026】
以上、一回の加算値が判定閾値Dthを越えた場合に、警報を発生する構成を例示した。しかしながら、この加算値が判定閾値Dthを越える状態が所定回数連続して発生した場合に警報を発生する構成とすることもできる。
【0027】
また、超音波センサが送受共用の場合を例示した。しかしながら、送信専用と受信専用の超音波センサを使用することもできる。この場合、両者を冷却水槽を跨いで左右に離した設置することもできる。
【0028】
また、超音波の送受波器1を冷却水槽Pの長辺の中間部分に1個だけ設置する構成を例示した。しかしながら、これを長辺に周辺部に沿って複数個設置したり、長辺方向に走査し、それぞれの受信反射波について上述の比較・加算・判定を行ったり、各センサの受信反射波を合成したものに対して共通の比較・加算・判定部において比較・加算・判定を行う構成とすることができる。
【0029】
さらに、堆積物がナフサの場合を例示した。しかしながら、ヘドロのような低密度で反射率が小さな堆積物に対しても本発明を適用することができる。また、液として水の場合を例示した。しかしながら、燃料や化学薬品など水以外の適宜な液体中の堆積物に対して本発明を適用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明が適用される冷却水槽内の堆積物の状況を示す概念図である。
【図2】本発明の一実施例に係わる液中堆積物の堆積状況監視装置の構成を示す機能ブロック図である。
【図3】図1に示した冷却水槽内の堆積物から生じる反射波の例を示す波形図である。
【符号の説明】
【0031】
1 送受波器
2 送信部
3 受信部
4 制御部
5 A/D変換部
6 メモリ部
7 比較・加算・判定部
8 設定部
9 表示部
10 警報発生部
P 冷却水槽
Q 堆積物の堆積層
1 ,Q2 浮遊中の堆積物


【特許請求の範囲】
【請求項1】
液中の堆積物の堆積状況を超音波を利用して監視する装置であって、
液中に超音波を送信し、液中で生じた反射波を受信する超音波センサを含む送受信手段と、
この送受信手段が受信した反射波に含まれる所定値以上の振幅を時間軸上の所定の範囲にわたって加算する加算手段と、
この加算手段が得た加算値の大小に基づき堆積物の堆積状態を判定する判定手段と
を備えたことを特徴とする液中堆積物の堆積状況監視装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記判定手段の判定結果を表示する表示手段を更に備えたことを特徴とする液中堆積物の堆積状況監視装置。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記判定手段の判定結果が所定値を越えたときに警報を発生する警報発生手段を更に備えたことを特徴とする液中堆積物の堆積状況監視装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかにおいて、
前記超音波センサは、前記液を収容する液槽の周辺部に設置されることを特徴とする液中堆積物の堆積状況監視装置。
【請求項5】
請求項4において、
前記超音波センサは、前記液槽の中央部分に向けて超音波を斜めに送受信することを特徴とする液中堆積物の堆積状況監視装置。
【請求項6】
請求項4または5のいずれかにおいて、
前記超音波センサは、前記液槽のほぼ全体を見込む指向角を有することを特徴とする液中堆積物の堆積状況監視装置。
【請求項7】
請求項4乃至6のいずれかにおいて、
前記超音波センサは、前記液装の中央部分を挟んで設置されることを特徴とする液中堆積物の堆積状況監視装置。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれかにおいて、
前記液槽は、火力発電所の煙突の下方に設置される冷却水槽であり、前記堆積物はこの煙突の上方がらこの冷却水槽内に落下するナフサを主体とする化合物であることを特徴とする液中堆積物の堆積状況監視装置。
【請求項9】
液中の堆積物の堆積状況を超音波を利用して監視する方法であって、
液中に超音波を送信し、液中で生じた反射波を受信する超音波センサを含む送受信する処理と、 この送受信手段が受信した反射波に含まれる所定値以上の振幅を時間軸上の所定の範囲にわたって加算する処理と、
この加算手段が得た加算値の大小に基づき堆積物の堆積状態を判定する処理と
を含むことを特徴とする液中堆積物の堆積状況監視方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−271376(P2007−271376A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−95542(P2006−95542)
【出願日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(000001177)株式会社光電製作所 (32)
【Fターム(参考)】