説明

液体レンズの駆動方法及び液体レンズを用いた撮像装置

【課題】液体レンズの周波数応答特性による影響を低減する様に液体レンズ用の駆動信号を生成する液体レンズの駆動方法及び液体レンズを用いた装置を提供する。
【解決手段】液体レンズ101において、2つの液体の界面を変動させることにより光学的パワーを変化させる。界面を変動させるために、搬送波に変調波を重畳した振幅変調信号の駆動信号により、液体を介在させて電圧を印加する。変調波の変調周波数の変化に対する振幅比の変化の傾きとは逆の符号を持つ様に変調周波数の変化に対して変調波の変調深さを変化させて駆動信号を生成し、これにより液体を介在させて電圧を印加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パワー可変光学素子の技術に関し、特に液体を用いて光学的パワーを変化させる液体レンズの技術に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、デジタルビデオやデジタルカメラでの動画撮影がしばしば行われている。動画撮影時において、オートフォーカス(以下、AFまたは自動焦点調整とも記す)を用いる場合、被写体像のコントラストに係る評価値を利用するコントラストAFを用いると、AF速度が問題になる。そのため、フォーカス位置を微小振動させ、コントラストが高い方向を検出してフォーカススピードを向上させるウォブリングと呼ばれる操作が行われることがある。ウォブリングを行えば動画撮影時でもAFの追従性が高まるが、フォーカス位置を微小振動させるために機械的にレンズを動かす方法は音の発生の可能性がある。静止画撮影時では音の発生は問題にならないが、動画撮影時には発生した音がそのまま録音されノイズとなってしまうことがある。特に、一眼レフなどの大きなカメラでは、レンズも大きく重くなり、高速でレンズを微小振動させるのが困難になる。また、無理に動かしても大きなノイズの発生に繋がる。このため、液晶の屈折率変動を用いた液晶レンズを用いてウォブリングを行う方法が提案されている(特許文献1参照)。しかし、液晶レンズには偏光依存性があり、一般的に利用されるデジタルカメラなどに利用するには制約が大きい。
【0003】
他方、焦点距離を電気的制御で動かすことのできる、エレクトロウェッティング(以下、EWとも記す)という方式を用いた液体レンズがある(特許文献2)。この液体レンズは、非混合な2種類の液体の界面を、液体を間に挟んだ電圧印加により変形させ、界面の変形により光学的パワーすなわち焦点距離を変えることのできるものである。このEW液体レンズの特徴として、作動時に音の発生がないことが挙げられる。このため、動画撮影時に使用してもノイズの発生がない。この特徴は大型化しても変わらず、大口径の液体レンズにおいてもほぼ無音で焦点距離を変化させられる。また、液晶レンズと違い偏光依存性が原理的に存在しないため、デジタルカメラなどへの適用も可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭62-036632号公報
【特許文献2】米国特許第7245440号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、液体レンズには周波数応答特性があり、同じ振幅(変調深さ)を有する変調電圧信号を印加してもウォブリングの周波数が高くなるに従い、焦点距離の変動範囲は狭くなる。特に、共振周波数を大きく超えたところでは焦点距離の変動範囲の減衰が非常に大きい。現在のカメラでは、動画のフレームレートが1つではなく、24fps、30fps、60fpsなど複数のフレームレートが選べる様になっており、それに合わせてウォブリングの周波数を変えることが求められる。また、再生機器の倍速駆動などに合わせ、撮影画像のフレームレートも120fpsやそれ以上に高速化する傾向にある。このため、液体レンズの共振周波数を大きく超えた所での駆動が必要になり、周波数応答特性が大きく影響する様になっている。また、液体レンズの径が大型化するにつれ、共振周波数が大きく低下する。そのため、周波数応答特性による焦点距離の変動範囲の減衰の影響は更に大きくなり、そのままではウォブリングに必要な焦点距離の変動を確保できなくなる可能性がある。特に、デジタルカメラやデジタルビデオカメラなどでは大口径の液体レンズが必要であり、この影響は顕著である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題に鑑み、本発明の、2つの液体の界面を変動させることにより光学的パワーを変化させる液体レンズの駆動方法は、次の特徴を有する。前記界面を変動させるために、搬送波に変調波を重畳した振幅変調信号である駆動信号により、前記液体を介在させて電圧を印加する。そして、前記変調波の変調周波数の変化に対する振幅比の変化の傾きとは逆の符号を持つ様に前記変調波の変調周波数の変化に対して前記変調波の変調深さを変化させて前記駆動信号を生成し、これにより前記液体を介在させて電圧を印加する。ここで、変調波を重畳しない搬送波のみの駆動信号により前記液体を介在させて2つの電圧値の電圧をそれぞれ印加することで与えられる前記液体レンズの2つの光学的パワーの差を一方の値とする。また、搬送波に、少なくとも前記2つの電圧値の差の変調深さを持つ変調波を重畳した振幅変調信号の駆動信号により与えられる前記2つの電圧値に対応する光学的パワーの変動差を他方の値とする。振幅比は、前記一方の値に対する前記他方の値の比率である。
【0007】
また、上記課題に鑑み、本発明の、撮像光学系と撮像素子を有し、前記撮像光学系は、2つの液体の界面を変動させることにより光学的パワーを変化させる液体レンズを含む撮像装置は、次の特徴を有する。前記界面を変動させる様に前記液体を介在させて電圧を印加するための、搬送波に変調波を重畳した振幅変調信号である駆動信号を前記液体レンズに供給する信号供給手段を備える。そして、信号供給手段は、変調波の変調周波数の変化に対する前記振幅比の変化の傾きとは逆の符号を持つ様に変調波の変調周波数の変化に対して変調波の変調深さを変化させて駆動信号を生成し、これにより液体を介在させて電圧を印加する様に構成されている。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、液体レンズ用の駆動信号を前述の如く生成するので、液体レンズの周波数応答特性による影響を低減することができる。例えば、液体レンズにより前述のウォブリングを行う際に、ウォブリング周波数を変化させても、ウォブリングによりフォーカス方向を判断するに十分な焦点距離の変動範囲を与えることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施例1における液体レンズを駆動する構成のブロック図である。
【図2】実施例1における液体レンズの周波数応答特性を示す図である。
【図3】実施例1における液体レンズへの入力振幅変調信号の模式図である。
【図4】実施例1における液体レンズの周波数-振幅比特性と入力振幅変調信号の周波数-変調深さ特性を表わす図である
【図5】実施例2における撮像装置のブロック図である。
【図6】実施例2における液体レンズの周波数応答特性を示す図である。
【図7】実施例2における液体レンズの周波数-振幅比特性と入力振幅変調信号の周波数-変調深さ特性を表わす図である。
【図8】実施例3における撮像装置のブロック図である。
【図9】実施例3における液体レンズへの入力振幅変調信号及び入力振幅変調信号の中心電圧の時間変動を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の特徴は、液体レンズの周波数応答特性による焦点距離変動範囲への影響を低減するために、前記振幅比の変化の傾きとは逆の符号を持つ様に変調深さを変化させて駆動信号を生成し、これにより液体レンズの液体を介在させて電圧を印加することにある。変調波の変調周波数は、どの様な態様で変化させてもよいが、例えば、複数の定められた周波数から選択されて変化させられる。前記駆動信号の前述の如き生成は、少なくとも一部の変調周波数の範囲で行われればよい。例えば、液体レンズの共振周波数より低い変調周波数が選ばれた場合では、変調波の変調深さを変化させず、共振周波数を超える変調周波数が選ばれた場合では、変調波の変調深さを前述の如く変化させる様にしてもよい。前記変調深さの変化の一例として、前記振幅比と変調波の変調深さの積が略一定となる様に、変調波の変調周波数の変化に対して変調波の変調深さを変化させる態様がある。これにより、変調周波数が変化しても、より安定的に焦点距離変動範囲を確保することができる。液体レンズの光学的パワーは、変調波の変調周波数で変化させるとともに、変調波の中心電圧を変化させることでその平均値を時間変動させることもできる。後述の実施例3では、この様にして、液体レンズに、AFのためのフォーカスレンズの役割も併せ持たせている。
【0011】
前記駆動信号による液体を介在させた電圧印加は、例えば、液体レンズの焦点距離を微小振動させるウォブリングを行って焦点距離を調整するために行われる。ウォブリングのような焦点位置を微小周期変動させる手法は、光学スキャナにおいて光源からの光ビームを偏向器で偏向した後、液体レンズで感光体上に集光して形成する光スポットの焦点位置を変化させる等のために行うこともできる。
【0012】
(実施例1)
図1から図4を用いて、本発明の実施例1を説明する。図1は、本実施例における液体レンズ101を駆動するための構成を示す図、図2は液体レンズ101の周波数応答曲線の図である。液体レンズ101に入力される駆動信号は、図3に示すような振幅変調(以下AM変調とも言う)信号である。ここでは、AM変調信号は、搬送波としてFb(Hz)の矩形波を使用し、搬送波に重畳される変調波としてFw(Hz)の正弦波を使用している。しかし、搬送波、変調波ともに波形はこれに限るものではなく、搬送波が正弦波などでも、また変調波が三角波などでも構わない。AM変調信号が図3に示すような波形を有するのは、液体レンズ101において界面を形成する液体に電荷が蓄積されない様にする為である。エレクトロウェッティング方式の液体レンズ101は、筐体内部に封止された非導電性液体及び導電性液体と、これらの液体を介在させて電圧を印加するための電極を有する。また、印加する電圧を制御する手段を備え、これにより2種の液体のなす界面形状を変化させることで光学的パワーを変化させる。
【0013】
ここで、変調波の正規化した変調深さMdを以下の様に定義する。
Md=(VMax-VMin)/(VMax+VMin) (1)
図2は、横軸が変調波の変調周波数(Hz)である。縦軸は、変調波の周波数が0Hz(変調しない)である場合に2値である電圧値VMax(V)とVMin(V)をそれぞれ印加したときの光学的パワーの差を1としたときの、各変調周波数における2値の電圧値に対応する光学的パワーの差を示す。即ち、前者の光学的パワーの差に対する、搬送波に2つの電圧値の差またはそれ以上の変調深さを持つ変調波を重畳した駆動信号により与えられる2つの電圧値に対応する光学的パワーの変動差の比率を示す。変調波に2つの電圧値の差に等しい変調深さを持たせたとき、2つの電圧値に対応する光学的パワーは最小と最大のパワーとなる。本明細書では、この比率を振幅比と言及する。図2中、最も振幅比が大きくなる点203は液体レンズ101の共振周波数である。図2の様に共振周波数203より周波数が低い場合、振幅比は大きくは増減しない。これに対し、点201の様に変調周波数が共振周波数203を越えると振幅比は大きく減少し、カットオフ周波数で振幅比は0となる。
【0014】
液体レンズ101において、上述したウォブリングを行うためには、或る焦点位置を中心に、その前後に液体レンズの光学的パワーを変化させる必要がある。このため、ウォブリング時の液体レンズは或る焦点位置での電圧VCenterを中心に動作する。ここでは、仮にVCenter(V)を次式の様におく。ただし、VCenterの定義は便宜上のものであり、VMaxとVMinで与えられる実効電圧値もしくはそれに準ずるものであればよい。
【0015】
【数2】

【0016】
ここで、ウォブリング周波数を15Hzと30Hzの2つのうちから切り替えるとし、共振周波数を10Hzとする。これらの周波数は、2つのウォブリング周波数が図2中の201と202に、共振周波数が203にそれぞれ対応する。また、VMax(V)とVMin(V)を与えたときの2つの光学的パワーの差を1としたときの、ウォブリングに必要な光学的パワーの差をAとする。15Hzでウォブリングを行う場合、振幅比0.7の焦点距離変動が与えられる。このため、必要な光学的パワー差Aを与えるためには、電圧差ΔVA(V)は、(VMax-VMin)=ΔVとして次式のものが必要となる。
ΔVA=(VMax-VMin)*A*1/0.7=1.43*ΔV*A(V) (3)
VCenterは固定なので、15Hzの変調周波数でウォブリングする際の最大電圧、最小電圧をそれぞれV15HzMax、V15HzMinとしてVCenterは次式の様になる。
【0017】
【数4】

【0018】
VCenterとΔVは既知のため、式(1)と式(3)と式(4)の連立方程式を解くことで、最大電圧、最小電圧及び変調深さを求めることができる。例えばVMax=15V、VMin=10V、A=0.5としたとき、次の様になる。なお、ここではA=0.5としたので、変調深さMd15Hzは、図4(b)の201の周波数の所の変調深さ(0.285)のほぼ半分(0.143)になっている(このことは、以下の周波数の所でも同様である)。
V15HzMax=14.42(V)
V15HzMin=10.82(V)
Md15Hz=0.143
【0019】
ここで、ウォブリング周波数が30Hzに切り替わったとする。切り替わる状況としては、例えば、本液体レンズを搭載した撮像装置のフレームレートが30fpsから60fpsに切り替わった場合などがある。このとき、30Hzでの振幅比は0.3であり、前の電圧差ΔVAのままウォブリングを行うと、光学的パワー差C’は次式となり、必要なパワー差の43%程度しか振幅が取れないことになる。
C’=A*0.3/0.7=0.43*A
こうなると、撮像光学系により撮像素子上に形成された被写体像のコントラストの違いを十分に検出できなくなるため、結果として合焦まで時間がかかることになる。これを解決するため、ウォブリング周波数の変化により生じる振幅比の違いを、より大きい電圧差を与えることで補正し、ウォブリングに必要な振幅(焦点距離の変動範囲)を確保する。具体的には、30Hzにおける振幅比は0.3なので、このときに印加する電圧差ΔVC(V)は、次の様になる。
ΔVC=(VMax-VMin)*A*1/0.3=3.33*ΔV*A (4)
【0020】
VCenterは15Hzの時と同様に固定値であるため、式(3)と式(4)から30Hzの変調周波数における電圧の最大値V30HzMaxと最小値V30HzMin、変調深さMd30Hzを求めることができる。その結果、次の値が求まる。
V30HzMax=16.12(V)
V30HzMin=8.06(V)
Md30Hz=0.333
【0021】
この様に、ウォブリングの周波数に合わせ駆動信号の変調深さを変化させることでウォブリングに必要とされる焦点距離変動量を維持することが可能になる。変化させる方向は、上記の様に振幅比が小さくなれば変調深さを大きく、振幅比が大きくなれば変調深さを小さくする様に変化させる。つまり、図4の様に振幅比-周波数曲線の傾きと、変調深さ-周波数曲線の傾きが逆の符号を持つ様にすればよい。例えば、図4の401の周波数の場合、振幅比は1.1なので、変調深さMd401及び最大電圧値VMax401、最小電圧値VMin401は次の様にすることで、焦点距離変動量をほぼ一定値に保つことができる。
VMax401=13.85(V)
VMin401=11.54(V)
Md401=0.091
【0022】
この変調深さなどのデータは、予め求めてルックアップテーブル(以下LUT)104に保存しておく。ここで、ウォブリング周波数が切り替えられると、図1に示す様に、切り替え信号105がCPU103に入力される。CPU103はその信号に基づきAM信号発生器102に信号を送る。AM信号発生器102はCPU103からの信号に基づきLUT104から必要な変調深さデータと変調周波数を読み出し、液体レンズ101に振幅変調信号である駆動信号を入力する。この様に、LUT104に各ウォブリング周波数に対応した駆動信号のデータを格納することで、周波数の切り替えに応じて即座に駆動信号を切り替えることが可能になる。こうしたAM信号発生器102、CPU103、LUT104は前述の信号供給手段を構成する。
【0023】
(実施例2)
図5、図6を用いて、本発明の実施例2を説明する。図5は本実施例における動画撮像機器のシステム図である。図6は実施例2における液体レンズの周波数応答特性図である。撮像機器501の撮像レンズ502には、液体レンズ503、フォーカスレンズ504及びフォーカス駆動システム505が組み込まれている。撮像開始信号516が入力されると、撮像レンズ502で撮影された画像は撮像素子506にて電気信号に変換され、画像処理回路507を通してメモリ508に保存される。
【0024】
ここで、被写体(不図示)のピント位置が変化したとする。このとき、画像処理回路507から出力される信号は、ピントのぼけた(コントラストの低い)像になる。よって、ピント演算回路509からの信号を受けたCPU510は、現在のフレームレートなどの情報をウォブリング回路511に出力する。ウォブリング回路511はCPU510からの情報に合わせた設定をLUT512から獲得し、それに基づく駆動信号をAM変調回路513に出力して液体レンズ503のウォブリングを行う。このとき、ウォブリングの周期に合わせ、ピント演算回路509は被写体が現在のピントから近い方向にあるか、遠い方向にあるかを判断する。判断は、ウォブリングによるピント移動方向に合わせ画像のコントラストの計測を行い、よりコントラストの高い方向にピント位置があると判断する。
【0025】
ここで、コントラストを検出するのは、例えば、撮像素子の10画素程度を1周期とするような空間周波数のコントラストを基準にする。空間周波数はこれに限ることなく撮像素子の画素の大きさや画素数によって自由に選ぶことが可能である。判断の結果、例えば被写体がより近いほうにあると判断された場合、ピント演算回路509からレンズ駆動回路514へ、レンズをより近いピント方向へ移動するような信号を送る。レンズ駆動回路514は送られた信号に合わせ、レンズ駆動電源515に信号を送り、フォーカス駆動システム505を動作させ、フォーカスレンズ504を移動させる。そして、撮像素子506上でのコントラストが最大になる場所までフォーカスレンズ504を移動させ、その位置で移動を止めることで、オートフォーカス(AF)動作を行う。なお、コントラスト最大の位置を算出するにあたり、フォーカスレンズ504を移動させながら液体レンズ503もウォブリング動作させ、コントラストの変化を検出する。こうすることで、フォーカスレンズ504の移動量を抑えAF動作の高速化を図ることができる。
【0026】
撮像機器501のフレームレートとして、24fps、30fps、60fps、120fpsの3種類が選択できる場合を考える。このとき、ウォブリングの周波数(AM変調の変調周波数)は、2フレームで前後のピント方向を判断するため、それぞれ比例して12Hz、15Hz、30Hz、60Hzの各周波数となる。図6の601、602、603、604がそれぞれの周波数に相当する。605は液体レンズの共振周波数である。ここでは共振周波数を20Hzとする。実施例1同様、図6の縦軸は振幅比である。
【0027】
変調周波数を12Hzから15Hzに変化させた場合を考える。これら2つの周波数は、共に液体レンズ503の共振周波数(20Hz)よりも低い。液体レンズ503は、共振周波数605より低い周波数領域では、変調周波数の変化に対して振幅比の変化が小さい。このため、本実施例では、共振周波数605より低い周波数領域では、変調深さを変化させず、振幅比1の状態と同じ変調深さのままの駆動信号でウォブリングさせる。この様にすることで、駆動信号について無用な昇圧を行うことなくウォブリングを実行できる。
【0028】
更に変調周波数が30Hzまで変化したとする。30Hzは共振周波数を超えており、振幅比も大きく減少して、0.6まで低下している。この場合、12Hzや15Hzと同じ変調深さの駆動信号を入力しても、ウォブリングに必要な焦点距離変動量を得ることができないため、実施例1同様に変調深さを変化させる必要がある。60Hzの変調周波数の場合、振幅比は0.1まで低下するため、更に駆動信号の変調波の変調深さを大きくする。
【0029】
VMax=11V、VMin=10V、A=0.2としたとき、各周波数における駆動信号の変調深さ及び最大、最小電圧は、次の様になる。ここではA=0.2としたので、変調深さは、図7(b)の各周波数の所の変調深さのほぼ5分の1になっている。
・Md12Hz=0.00952
V12HzMax=10.61(V)
V12HzMin=10.41(V)
・Md15Hz=0.00952
V15HzMax=10.61(V)
V15HzMin=10.41(V)
・Md30Hz=0.0159
V30HzMax=10.68(V)
V30HzMin=10.34(V)
・Md60Hz=0.0952
V60HzMax=11.46(V)
V60HzMin=9.47(V)
【0030】
本実施例でも、図7に示す様に、共振周波数605以上の周波数において、周波数-変調深さ曲線の傾きを周波数-振幅比曲線の傾きと逆符号にすることで、より効率的なウォブリング動作を行うことができる。
【0031】
(実施例3)
図8を用いて、本発明の実施例3を説明する。図8は、実施例3における液体レンズ803を搭載した撮像装置のブロック図である。図8の撮像システムは、実施例2の撮像システムに構成に準じる。ただし、実施例2ではフォーカス合わせに固体レンズを移動させる方法を用いたが、本実施例ではウォブリングを行う液体レンズ803がAFのためのフォーカスレンズの役割も併せ持つシステムとなっている。
【0032】
ここで、液体レンズ803の周波数応答特性は、実施例2の液体レンズ503と同じであるとする。また、撮像システム801の選択できるフレームレートとウォブリング周波数も、実施例2と同じである。また、撮像システム801がウォブリングを行い、フォーカスの移動方向を検出するまでの手続きも同じである。
【0033】
図9は、本実施例における液体レンズ803への入力駆動信号を示している。本実施例では、図9の様に、電圧の最大値/最小値から計算されるVCenterの値が異なる駆動信号を入力する。このとき、変調深さMdは一定とする。このような信号を入力することで、図9(b)の様に液体レンズ803に入力される駆動信号の実効電圧が変化する。その結果、液体レンズ803が有する光学的パワーの中間値が変化し、液体レンズ803の平均パワーを変化させることができる。即ち、ウォブリング動作とAFのフォーカス合わせを一つの液体レンズ803により実行することが可能になる。AF動作用に別のレンズを必要としないため、システムの小型化が行える他に、AF動作のための機械動作が不要になり、システムの静音化が可能になる。本実施例でも、液体レンズ803の共振周波数以上の周波数でウォブリングを行う場合には、変調波の変調周波数の変化に対する変調深さの変化のグラフの傾きが変調周波数の変化に対する振幅比の変化の傾きと逆符号になる様に、変調深さMdを変化させる。更に、変調深さMdを変化させながらVCenterの値を変化させることで、ウォブリング動作とAF動作を同時に行うことが可能になる。
【0034】
図8に示す本実施例では、撮像素子が804に、画像処理回路が805に、メモリが806に相当する。同様に、ピント演算回路が807、CPUが808、ウォブリング回路が809、LUTが810、AM変調回路が811、撮像開始信号が814に相当する。ただし、実施例2と異なり、本実施例では、フォーカスの移動を別のレンズではなく、液体レンズ803への入力駆動信号を変化させることで行う。即ち、ウォブリング動作によりピントの移動方向がピント演算回路807で算出された後、CPU808はフォーカス回路812とウォブリング回路809に信号を送る。その結果から、液体レンズ803に対し、フォーカス回路812からの信号とウォブリング回路809からの信号を合わせた駆動信号をAM変調回路811から液体レンズ803に入力する。こうすることで、液体レンズ803のみでAF動作及びウォブリング動作の2つの動作を併せて実行することが可能になる。
【0035】
例えば、液体レンズ803が、初期の中心電圧VCenter=10V、変調深さMd=0.05でウォブリング動作していたとする。ここで、ピント方向が、実効電圧がより高いほうであると判断され、VCenter2が11Vになる場合、初期の最大電圧VMaxと最小電圧VMin、変化後の最大電圧VMax2とVMin2はそれぞれ次の様になる。
VMax=10.49(V)
VMin=9.49(V)
(Md=0.05)
VMax2=11.54(V)
VMin2=10.44(V)
(Md=0.05)
この状態では中心電圧が変動し変調深さは変化しないため、液体レンズ803の平均的な光学的パワーが時間変動し、その平均値を中心としてウォブリング動作が行われることになる。この様に、同じフレームレート内で変調深さを維持しながら中心電圧を変化させることで、ウォブリング動作とAF動作を一つの素子で行うことが可能になる。
【0036】
また、本実施例では、撮像システム801の光学系802は絞り813を有しており、撮像する被写体の明るさに従い絞りの値を変化させる。ここで、ウォブリング動作はピントの移動方向を見極めるために行われるため、ピントの移動量は、画像のコントラストが変化するだけ移動させなければならない。しかし、絞り813を絞り込むことで被写界深度が深くなるため、より大きな焦点距離変動量がないとピントの移動方向を見極められなくなる。このとき、焦点距離変動量すなわちピントの移動量Lは、撮像光学系802の絞り値をFとして、次の量が必要とされる。
L=kδF (5)
【0037】
ここで、δは撮像素子の画素ピッチ、kは定数で、撮像素子のローパスフィルタの効果にもよるが、凡そ2〜4程度の値をとる。即ち、絞り813により撮像光学系801のF値が変化した場合、それに合わせてウォブリングの焦点距離変動量も変化させる必要がある。このため、F値が変化した場合、ウォブリングの変調周波数を変化させたときと同様に、変調深さを変化させる必要がある。変化させる方向は、絞り値Fが大きくなるほど変調深さが大きくなる方向となる。つまり、F値にほぼ比例して変調深さを変化させる。このようなF値の変化による変調深さのデータもLUT810に格納しておき、F値の変化の情報を基にLUT810のデータを参照し、変調深さを変化させる。
【0038】
例えば、F2.8の時に必要な焦点距離の変動範囲は、d=0.004mm、k=2として、式(5)から次の値となる。
LF=2.8=2*0.004*2.8=0.0224mm
ここで、この変動量を与えるために、VMaxF=2.8=10.5V、VMinF=2.8=9.5VのAM変調波を与えるとすると、変調深さMdF=2.8は次の値となる。
Md=(10.5-9.5)/(10.5+9.5)=0.05
【0039】
更に、F8まで絞りこまれた場合、次の焦点距離の変動範囲が必要となる。
LF=8=2*0.004*8=0.064mm
このときの変調深さMdF=8はMdF=8=0.05*(0.064/0.0224)=0.143であり、最大電圧と最小電圧はそれぞれVMaxF=8=11.33(V)、VMinF=8=8.50(V)となる。
【0040】
本実施例でも、液体レンズ803の共振周波数以上のウォブリング周波数で駆動する場合には、変調周波数の変化に対する変調深さの変化の傾きが、変調周波数の変化に対する振幅比の変化の傾きの逆符号になる様にすればよい。もちろん、共振周波数以下においても、変調深さを変化させても構わない。この様に、変調波の変調深さMdは、変調周波数と撮像光学系802の絞り値の2つのパラメータに応じて変化させることになる。こうして変調深さMdを変化させることで、撮像装置801のフレームレートや絞り値が変化しても、液体レンズ803での好適なウォブリング動作が可能になる。
【0041】
以上の様に本実施例では、液体レンズに入力するAM変調波の変調深さを変化させることで、ウォブリング動作の効率化だけでなく、絞り値の変化による被写界深度の変化にも対応できる。また、AF用のレンズも液体レンズで兼用することで、システムの簡略化を図ることが可能になる。
【符号の説明】
【0042】
101、503・・・液体レンズ、102・・・振幅変調信号発生器(信号供給手段)、103・・・CPU(信号供給手段)、104・・・ルックアップテーブル(信号供給手段)、501・・・撮像装置、502・・・撮像光学系、504・・・フォーカスレンズ、506・・・撮像素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの液体の界面を変動させることにより光学的パワーを変化させる液体レンズの駆動方法であって、
前記界面を変動させるために、搬送波に変調波を重畳した振幅変調信号である駆動信号により、前記液体を介在させて電圧を印加し、
変調波を重畳しない搬送波のみの駆動信号により前記液体を介在させて2つの電圧値の電圧をそれぞれ印加することで与えられる前記液体レンズの2つの光学的パワーの差に対する、搬送波に、、少なくとも前記2つの電圧値の差の変調深さを持つ変調波を重畳した振幅変調信号の駆動信号により与えられる前記2つの電圧値に対応する光学的パワーの変動差の比率を振幅比としたとき、前記変調波の変調周波数の変化に対する前記振幅比の変化の傾きとは逆の符号を持つ様に前記変調波の変調周波数の変化に対して前記変調波の変調深さを変化させて前記駆動信号を生成し、これにより前記液体を介在させて電圧を印加することを特徴とする駆動方法。
【請求項2】
前記変調波の変調周波数は、複数の定められた周波数から選択されることを特徴とする請求項1に記載の駆動方法。
【請求項3】
前記液体レンズは共振周波数を有し、前記変調波の変調周波数のうち少なくとも一つは、前記共振周波数より大きいことを特徴とする請求項2に記載の駆動方法。
【請求項4】
前記変調波の変調周波数のうち、前記共振周波数より低い変調周波数が選ばれた場合では、前記変調波の変調深さを変化させず、前記共振周波数を超える変調周波数が選ばれた場合では、前記変調波の変調深さを変化させることを特徴とする請求項3に記載の駆動方法。
【請求項5】
前記振幅比と前記変調波の変調深さの積が略一定となる様に、前記変調波の変調周波数の変化に対して前記変調波の変調深さを変化させることを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載の駆動方法。
【請求項6】
前記変調波の変調周波数で前記液体レンズの光学的パワーを変化させるとともに、前記変調波の中心電圧を変化させることで前記液体レンズの光学的パワーの平均値を時間変動させることを特徴とする請求項1から5の何れか1項に記載の駆動方法。
【請求項7】
前記液体レンズの焦点距離を微小振動させるウォブリングを行って焦点距離を調整するために、前記駆動信号により前記液体を介在させて電圧を印加することを特徴とする請求項1から6の何れか1項に記載の駆動方法。
【請求項8】
撮像光学系と撮像素子を有し、前記撮像光学系は、2つの液体の界面を変動させることにより光学的パワーを変化させる液体レンズを含む撮像装置であって、
前記界面を変動させる様に前記液体を介在させて電圧を印加するための、搬送波に変調波を重畳した振幅変調信号である駆動信号を前記液体レンズに供給する信号供給手段を備え、
変調波を重畳しない搬送波のみの駆動信号により前記液体を介在させて2つの電圧値の電圧をそれぞれ印加することで与えられる前記液体レンズの2つの光学的パワーの差に対する、搬送波に、少なくとも前記2つの電圧値の差の変調深さを持つ変調波を重畳した振幅変調信号の駆動信号により与えられる前記2つの電圧値に対応する光学的パワーの変動差の比率を振幅比としたとき、前記信号供給手段は、前記変調波の変調周波数の変化に対する前記振幅比の変化の傾きとは逆の符号を持つ様に前記変調波の変調周波数の変化に対して前記変調波の変調深さを変化させて前記駆動信号を生成し、これにより前記液体を介在させて電圧を印加する様に構成されていることを特徴とする撮像装置。
【請求項9】
前記撮像装置は複数のフレームレートを有し、
前記フレームレートが切り替えられた際に、前記信号供給手段は、同時に前記フレームレートに比例して前記液体レンズの駆動信号の変調波の変調周波数を変化させることを特徴とする請求項8に記載の撮像装置。
【請求項10】
前記撮像光学系により前記撮像素子上に形成された被写体像のコントラストを計測する様に構成され、
前記信号供給手段は、前記液体レンズの光学的パワーを前記変調周波数に合わせて変動させるとともに、前記コントラストがより高くなる様に前記液体レンズの光学的パワーの平均値を変動させることを特徴とする請求項8または9記載の撮像装置。
【請求項11】
前記撮像光学系の絞りを有し、
前記絞りを変動させることで前記撮像光学系のF値が変動するとき、前記信号供給手段は、前記F値に比例して前記変調深さを変化させることを特徴とする請求項8から10の何れか1項に記載の撮像装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−154978(P2012−154978A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−11478(P2011−11478)
【出願日】平成23年1月23日(2011.1.23)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】