説明

液体レンズ及びこれを備えた機器

【課題】沃化物水溶液を液体レンズの電解液に用いた場合に生ずる電解液の黄変に起因する分光透過率の低下を抑制する。
【解決手段】液体を収容する容器101と、該容器内に収容された互いに混和しない電解液105及び非電解液104と、前記電解液に電圧を印加するための電極107と、を備え、前記電解液と前記電極との間に電圧を印加することにより前記電解液と前記非電解液とがなす界面109の曲率を変化させる液体レンズ100であって、前記電解液が、沃素イオンと、該沃素イオンの酸化を防止する水溶性の酸化防止剤と、を含有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解液が沃素イオンを含有する液体レンズ及びこれを備えた機器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、屈折力を変化させることが可能なレンズの一形態として液体レンズの研究・開発が進められてきている。
【0003】
液体レンズはいくつかに分類されるが、その一つに電解液と電極との間に電圧を印加することで、電解液と非電解液の2液体がなす界面と、2液体が接触する固体部と、の角度(以下、「接触角」ともいう。)を変化させるエレクトロウェッティング(Electro Wetting:以下、単に「EW」ともいう。) 現象を用いるものがある。
【0004】
このEW現象を用いる液体レンズ(以下、「EW方式の液体レンズ」ともいう。)は、動作が迅速なことに加え、界面の面精度が高いこと、レンズ自体の小型化と部品点数削減による低コスト化が図り得ることから現在、最も有望視されているものである。
【0005】
EW方式の液体レンズでは、同程度の比重になるように調整された、互いに異なる屈折率を有する電解液(導電性を有す)と非導電性の非電解液とを容器に封入して構成され、2液は混和せずに界面を形成する。
【0006】
密閉状態で、電解液と、絶縁層を挟んで配置された電極層と、の間に電圧が印加されると、両液体の体積は変化せず維持されたまま、界面端部の接触角が変化する。接触角に変化が生ずることで界面の球面曲率半径が接触角に対応して変化し、2液の屈折率差により光学的な屈折力(パワー)の変化を生む。
【0007】
EW方式の液体レンズを開示するものとして特許文献1があり、特許文献1では臭化リチウム、臭化ナトリウム等の臭素塩を含有する電解液を用いた液体レンズを開示する。
一方、特許文献2は、電解液を構成するアニオンとして、ハロゲンイオン(例えば、塩素イオン、臭素イオン、沃素イオン)、硫酸イオン、炭酸イオン等を用い得ることを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2009−525501
【特許文献2】特表2009−525502
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
発明者が検討したところによると、特許文献1に開示の臭素塩を用いて電解液を構成すると、ある程度の比重の範囲に電解液を調整することは可能であるものの、比較的広範囲の比重の調整には不適であることが判明した。
【0010】
一方、特許文献2に開示の沃素イオンを用いて電解液を構成すると、以下の利点があることを発明者は認識した。即ち、沃素イオンを生ずる沃化物の水への溶解度が他のハロゲン化物に比べて高いことから広範囲に亘る比重の調整が可能であり、高屈折率かつ高比重を有する非電解液に対しても比重が同程度になるように電解液を調整することができるため種々の液体レンズを構成できる。
しかしながら沃素イオンを含有する電解液(沃化物が溶解した沃化物水溶液)は、紫外線等の照射により酸化されて三沃化物イオンを生成し、三沃化物イオンに起因する黄変が生ずることにより分光透過率の低下という不都合が生ずることが判明した。
【0011】
本発明は、広範囲に亘る比重の調整が可能で、種々の屈折率を有する非電解液に対応し得ると共に、長期に亘って分光透過率の低下を抑制した液体レンズを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明により提供される液体レンズは、液体を収容する容器と、該容器内に収容された互いに混和しない電解液及び非電解液と、前記電解液に電圧を印加するための電極と、を備え、前記電解液と前記電極との間に電圧を印加することにより前記電解液と前記非電解液とがなす界面の曲率を変化させる液体レンズであって、前記電解液が、沃素イオンと、
沃素イオンの酸化を防止する水溶性の酸化防止剤と、を含有していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の液体レンズでは、電解液が沃素イオンと
沃素イオンの酸化を防止する水溶性の酸化防止剤を含有する。沃素イオンの酸化を防止する水溶性の酸化防止剤を含有することで、沃素イオンの酸化が抑制される。これにより黄変の原因である三沃化物イオンの生成が抑えられ、分光透過率の低下を抑制し、長期に亘って安定した性能を発揮する液体レンズとなる。更に、他のハロゲン化物に比べて水への溶解度が高い沃化物により生ずる沃素イオンを含有することで比較的広範囲の比重の調整が可能となり、種々の屈折率を有する非電解液に対し、比重が同程度になるように電解液を調整することにより、種々の液体レンズを構成できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の液体レンズの一例を示す模式的断面図である。
【図2】酸化防止剤の割合と分光透過率との関係を示すグラフである。
【図3】本発明の液体レンズを適用した光学系を有する撮像装置の模式的構成図である。
【図4】本発明の液体レンズと固体レンズ等をユニット化した光学部材を示す模式的構成図
【図5】本発明の液体レンズを用いたデジタルカメラの要部を示す模式的構成図
【図6】本発明の液体レンズを用いた携帯電話の要部を示す模式的構成図
【図7】(A)は本発明の液体レンズを用いた監視カメラの模式的構成図、(B)は監視カメラシステムのブロック図
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明を実施するための形態を、以下、図面を参照しながら説明する。
図1は、液体を収容する容器として円筒型の容器を用いた本発明の液体レンズの一例を示す模式図であり、円筒容器の中心軸(光軸)を含む平面で切断した断面図である。
【0016】
図1においては、円筒部材101の両端部に光透過性を有する蓋部材102、103を接合して構成された円筒容器内に、絶縁性及び光透過性を有する第1の液体104(非電解液)と導電性及び光透過性を有する第2の液体105(電解液)が隣接して収容されている。第1の液体104及び第2の液体105は互いに非混和性を有し、互いに屈折率が異なる液体である。
【0017】
第1の液体104には、例えばシリコンオイルや、流動パラフィンと1ブロモナフタレンとジヨードメタンの混合液などを用いることが可能である。第2の液体105は、本発明の特徴部を構成する沃素イオンを含有する電解液としての水溶液であり、詳細は後述する。
【0018】
円筒容器101の内壁には電極107がリング状に形成されており、第1の液体104及び第2の液体105は絶縁体106を介して電極107に接触している。電圧印加装置108により、第2の液体105と電極107との間に電圧を印加することで、EW現象により第1の液体104と第2の液体105との界面を、実線で示した界面109から点線で示した界面へと変化させることが可能である。
【0019】
液体レンズでは光学面として機能する界面の面精度を高く保つ為に、液体同士の比重差を小さくする必要がある。例えば、非電解液を構成する第1の液体104として比重が1.58の、流動パラフィンと1ブロモナフタレンとジヨードメタンの混合液を用いる場合、電解液を構成する第2の液体105は添加剤を加えるなどして比重を1.58付近まで上げる必要がある。
【0020】
本発明においては電解液として沃素イオンを含有することを特徴事項としており、電解液には沃素イオンを生ずる沃化物が溶解している。電解液を構成する溶媒としては、最も一般的な水の他、アルコール、アセトン等の極性溶媒を挙げることができる。
【0021】
沃化物は他のハロゲン化物に比べて水への溶解度が高い為、水に沃化物を溶解させることで水溶液の比重を広い範囲で調整することが可能である。例えば、臭化ナトリウム水溶液が取り得る比重は、凡そ1.0から1.4であるのに対し、沃化ナトリウム水溶液が取り得る比重は、凡そ1.0から1.8である。
【0022】
水溶液の比重を広い範囲で調整することが可能な沃化物として、沃化カリウム、沃化ナトリウム、沃化マグネシウム、沃化亜鉛などを挙げることができる。
【0023】
ここでは第2の液体105に沃化ナトリウム水溶液を用いることを例に説明すると、沃化ナトリウム水溶液の比重は、第1の液体104のシリコンオイルの比重1.58に合わせて約1.58に調整する。この時、沃化ナトリウム水溶液に対する沃化ナトリウムの質量%濃度は約50%である。
【0024】
沃素イオンを含む水溶液では、水溶液中の沃素イオンが太陽光に含まれる紫外線などの影響により、式1に示す酸化反応を起こして沃素を生成する。
2I → I + 2e (式1)
また、式1で生成された沃素は水溶液中の沃素イオンと式2に示す平衡反応を起こして三沃化物イオンを生成する。
【0025】
【数1】

【0026】
三沃化物イオンを含む水溶液は低濃度で黄色、高濃度で茶色を呈する為、三沃化物イオンを含む水溶液を液体レンズに用いた場合、前述した通り分光透過率の低下という不都合を生ずる。
【0027】
そこで、本発明ではこの不都合を解決する為、電解液たる第2の液体105に沃素イオンに加えて水溶性の酸化防止剤を含有させている。
ここであえて水溶性の酸化防止剤としているのは、電解液の溶媒として好適な水をはじめとする極性溶媒に良く溶けるという意味であり、溶媒に溶けて酸化防止剤としての機能を十分に発揮させるという観点に基づくものである。それ故、水にはほとんど不溶なジブチルヒドロキシトルエン(BHT)やブチルヒドロキシアニール(BHA)等の酸化防止剤は、本願発明の酸化防止剤には包含されない。
【0028】
第2の液体105が水溶性の酸化防止剤を含むことにより、式1に示す沃素イオンの酸化反応が抑制される。その結果、式2に示す平衡反応の反応生成物である三沃化物イオンが生成され難くなる為、第2の液体105の黄変、しいては液体レンズ100における分光透過率の低下を低く抑えることが可能となる。
【0029】
沃素の標準酸化還元電位は約0.53Vであることから、標準酸化還元電位が0.53V以下の酸化防止剤を用いることにより、上述した沃素イオンの酸化反応を抑制することが可能である。
【0030】
以下、本発明をなすために行った実験を紹介しつつ、酸化防止剤について説明する。
〈実験及び酸化防止剤について〉
表1:酸化防止剤の効果を調べるために調整した標本の組成を示す表
【0031】
【表1】

【0032】
表1は、本発明における酸化防止剤の効果を調べる実験に用いた8種類の標本A、B、C、D、E、F、G、Hの組成を示した表である。
【0033】
本実験では、超純水に沃化ナトリウムを溶解させることで沃素イオンを含む水溶液を作成し、該水溶液に酸化防止剤として標準酸化還元電位が0.36Vであるアスコルビン酸を標本毎に溶解量を変えて溶解させたものを前記8種類の標本とした。
【0034】
8種類の標本を10mlビーカーに採り、夫々の標本に375nmの波長を有する紫外線を一定時間照射した後、各標本の分光透過率を測定した。ここで、分光透過率の測定は経路長が10mmのガラスセルを各標本で満たし、紫外域から可視域に亘る各波長の光をガラスセルに対して入射角が90°で入射した時の、入射光と透過光との光量比を測定したものである。
【0035】
以下で述べる分光透過率は、上述した方法で測定した8種類の標本の分光透過率を、同様の方法で測定した超純水の分光透過率で正規化した値である。
図2は各標本の分光透過率について、標本に含まれる酸化防止剤の質量%濃度と、波長550nmの透過率に対する波長400nmの透過率(以下ではT400/550と称す。)との関係を示した図である。本発明では、各標本における黄変の度合いを表す値としてT400/550を用い、T400/550が0.7未満の標本を黄変が生じた標本とした。
【0036】
図2より、沃化物水溶液に対する酸化防止剤の質量%濃度が0.002%以下である標本では、T400/550の値が0.7未満であり、標本に黄変が生じていることが理解される。
【0037】
これに対し、沃化物水溶液に対する酸化防止剤の質量%濃度が0.0025%以上であり、かつ0.003%未満である標本では、T400/550の値が0.7以上であり、標本の黄変が抑制されていることが理解される。
【0038】
更に、沃化物水溶液に対する酸化防止剤の質量%濃度が0.003%以上の標本では、T400/550の値が0.95以上であり、標本の黄変が一層抑制されていることが理解される。
【0039】
図2において、沃化物水溶液に対する酸化防止剤の質量%濃度が高くなるに連れてT400/550の値が大きくなっていることから明らかであるが、沃化物水溶液が酸化防止剤を必要以上に含むことにより本発明の効果が小さくなることは認められない。
【0040】
標本A、B、C、D、E、F、G、Hは、第2の液体105の比重である1.58に合わせて約1.58になるように調整した為、各標本に対する沃化ナトリウムの質量%濃度は50%である。標本B、C、D、E、F、G、Hも含め、沃化物水溶液に対する沃化物の質量%濃度が50%以下である沃化物水溶液においては、酸化防止剤を上述した質量%濃度で溶解させることにより、標本の黄変を抑制可能である。
【0041】
また、沃化物水溶液に対する沃化物の質量%濃度が50%を越える沃化物水溶液については、酸化防止剤を上述した質量%濃度以上に溶解させることにより、標本の黄変を抑制可能である。
【0042】
ここで、各標本には酸化防止剤として標準酸化還元電位が0.36Vであるアスコルビン酸を用いたが、標準酸化還元電位が0.36V以下である酸化防止剤を用いても、上述の効果を得ることが可能である。
【0043】
標準酸化還元電位が0.36V以下の酸化防止剤として、例えば、グルコース、乳酸、リンゴ酸、フマル酸、ユビキノン、ピルビン酸、カルボニルレダクターゼを挙げることができ、これらの内、単数又は複数を酸化防止剤として用いることが可能である。
【0044】
沃化物水溶液は一般に、蛍光灯の光や太陽光などの紫外線を含む光を長時間当てると該水溶液中の沃素イオンが酸化され、該水溶液における沃化物の濃度に応じて黄変を生じ、該水溶液の分光透過率は低下する。本発明においては、電解液中に酸化防止剤を溶解させて分光透過率の低下を低く抑えている。
【0045】
本発明に用いる酸化防止剤は、酸化防止剤が電解液(水溶液)に溶解した際に水溶液が黄色に着色されることが無いものを用いることが望ましい。具体的には、該酸化防止剤が溶解した水溶液のT400/550が0.7以上である酸化防止剤を採用するのが望ましい。
【0046】
また、本発明に用いる酸化防止剤は、酸化防止剤の酸化物が沈殿して液体レンズ100の光路を遮蔽するなど光学特性に影響を与えることが無いよう、酸化防止剤の酸化物が水溶性を有する酸化防止剤を用いるのが望ましい。尚、酸化物が水溶液に溶解した際に該水溶液が黄色に着色されることが無い酸化防止剤を用いることが望ましい。
【0047】
こうした観点から本発明で採用し得る酸化防止剤としては、アスコルビン酸、エリソルビン酸、エリソルビン酸ナトリウム等を挙げることができる。
【0048】
第2の液体105は酸化防止剤の効果を阻害しない限り、上述した以外の物質を含有させることもできる。例えば、凝固点硬化剤としてエチレングリコール等、粘度調整剤としてエタノール等、殺生物剤として臭化アンモニウム等を含有させることもできる。
【0049】
〈その他採用し得る形態〉
本発明の液体レンズにおいて、電解液と電極との間に印加する電圧としては、交流電圧または直流電圧のいずれも採用可能であるが、絶縁膜表面への電荷チャージアップ低減の観点から交流電圧を印加するのが好適である。
【0050】
本発明の液体レンズをデジタルカメラやビデオカメラ、カメラ付き携帯電話、監視カメラ等の光学装置に適用する場合、これら光学装置が有する電源を電圧印加装置(図1にいう108)として利用することができることから、本発明の液体レンズに専用の電圧印加装置を必ずしも設ける必要はない。
【0051】
図1における第2の液体105と電極107との間に電圧を印加する際に、円筒部材101を介して電圧がショートすることを防ぐ為、円筒部材101には電気的に絶縁性を有する部材が用いられる。ここで、導電性を有する円筒部材101の内壁面に電気的に絶縁性を有する部材を設けることも可能である。
【0052】
また、電極107が円筒部材101を兼ねる構造とすることも可能で、その場合には第2の液体105と電極107との間で電圧がショートしない構造とする必要がある。例えば、電極107の内壁面の内、第2の液体105と接する部分にも絶縁体106が形成された構造とすることで対応できる。
【0053】
液体レンズ100は蓋部材102、103を介して外部から光が入射する構造であるため、蓋部材102、103にはガラスやアクリル樹脂など、光透過性を有する部材が用いられる。
【0054】
ここで、本発明の液体レンズを撮像装置の光学系に適用する例について説明する。
図3は、本発明の液体レンズ302を撮像装置300の光学系301に適用した模式的構成図である。
【0055】
光学系301は液体レンズ302の他に、固体レンズや絞り、ローパスフィルタなど、他の光学素子を含んでいても良い。撮像素子303は、CCD(ChargeCoupledDevice)やCMOS(ComplementaryMetalOxideSemiconductor)などを用いることができる。
【0056】
液体レンズ302に印加される電圧は制御部306で生成される。制御部306は、電圧を出力するドライバ304と、出力する電圧の値を計算するコントローラ305を含んで構成される。コントローラ305は、液体レンズ302の界面の曲率を所定の値に変化させることを要求する信号を、撮像装置300に搭載されたフォーカスセンサや撮像装置300を扱うユーザー等から受け、印加すべき電圧の値を計算した結果の信号をドライバ304に送る。ドライバ304は、コントローラ305から受けた信号に基づく電圧を液体レンズ302に印加する。
【0057】
液体レンズ302の曲率を変化させる(つまり、液体レンズ302の屈折力を変化させる)ことにより、光学系301の屈折力が変化し、それに伴い結像面の位置も変化する。ここで、撮像したい物体の結像面の位置を撮像素子303の撮像面の位置に合わせることにより、液体レンズ302はオートフォーカスやズームの機能を果たすことが可能となる。
【0058】
尚、液体レンズを用いて上述したオートフォーカスやズームの機能を得る為には、光学系301が少なくとも1つの液体レンズを含んでいれば良い。
また、本発明は液体レンズ以外にも特開2000−356792に開示された可変NDフィルタやアポダイゼイションフィルタの液体として用いることも可能である。
【0059】
以下、具体的な実施例を挙げて本発明を詳細に説明する。
【実施例】
【0060】
(実施例1)
本発明の液体レンズを他の光学部材や半導体部材とユニット化して用いる例について説明する。
図4は、本発明の液体レンズ100と、ガラス等からなる固体レンズ160と、CMOSセンサやCCD素子等の撮像素子303と、を保持部材181、182、及び183を用いてユニット化した例である。
【0061】
ここで、固体レンズ160は複数枚を用いることも可能であるし、液体レンズ100との位置を逆にすることや、液体レンズを固体レンズで挟む位置とすること等、変形が可能である。また、図4では液体レンズ100と、固体レンズ160、撮像素子303の3者を一体としてユニット化したが、液体レンズと固体レンズのみをユニット化(ユニットレンズ)することや、固体レンズを必要としない液体レンズと撮像素子とをユニット化することも可能である。また、液体レンズ100と保持部材181とでユニット化し、固体レンズと撮像素子からなるカメラユニットの前方に組み込むことも可能である。
また、液体レンズと複数の固体レンズとを組み合わせてズームレンズを構成することも可能である。
【0062】
本発明の液体レンズは広範囲に亘る比重の調整が可能であり、高比重かつ高屈折率を有するオイル(非電解液)に対し、比重が同程度になるように電解液を調整することにより、屈折率差の大きい液体レンズを構成できる。即ち、液体レンズのパワーを大きくとれるので、界面の曲率変化が小さいレンズで所定のパワーが得られることになり、レンズのコンパクト化が図れる。
【0063】
このレンズを他の機能を有する部材とユニット化することで複数の機能を有する部材をコンパクトに構成できる。
【0064】
(実施例2)
本発明の液体レンズをデジタルカメラに適用した例について説明する。
図5は、デジタルカメラの主要部のブロック図である。図5のデジタルカメラでは、本発明の液体レンズ100を固体レンズ160と組合せて用いており、固体レンズ160、液体レンズ100を経た光は、絞り163、シャッター162を経て撮像素子303に像を結ぶ。
【0065】
液体レンズ100、絞り163、シャッター162はカメラ制御部502からの制御信号により制御される。
【0066】
本例のデジタルカメラは、本発明の液体レンズ100を備えて構成したことが特徴である。本発明の液体レンズは広範囲に亘る比重の調整が可能であり、高屈折率かつ高比重を有するオイル(非電解液)に対し、比重が同程度になるよう電解液を調整することにより、屈折率差の大きい液体レンズを構成できる。即ち、液体レンズのパワーを大きくとれるので、界面の曲率変化が小さいレンズで所定のパワーが得られることになり、レンズのコンパクト化が図れる。更に、液体レンズを界面の曲率変化が小さい状態で使用することにより、液体レンズを低い電圧で駆動できるため、撮像素子303に及ぼすノイズの影響を低減できて、優れた画像を記録することができる。
【0067】
図5における他の部材はデジタルカメラにおける一般的なものであるが、以下簡単に説明する。
504は信号処理部でアナログ信号処理を行い、A/D変換器505でアナログ信号をデジタルに変換する。画像メモリ506はデジタル信号を格納するメモリであり、画像処理部507は信号変換、信号補正等を行う。メインCPU508はデジタルカメラの全動作を制御する。CPU508はROM509に格納された制御プログラムの実行により画像処理部507、カメラ制御部502等の制御を行う。510はプログラム実行の作業領域を提供するRAMであり、511は画素表示部512に表示させる撮影画像を記憶する画像メモリである。圧縮/伸長処理部517は画像メモリ506内の画像情報を符号化し、符号化したデータはI/F518を介してメモリカード519に格納される。
【0068】
カメラ制御部502は操作スイッチ513からの操作信号に基づき各種動作を実行する。
シャッタースイッチ204が押下されることで、カメラ制御部502は調光制御部515に信号を送り、フラッシュ203を発光させる等の所定の動作がなされる。
【0069】
(実施例3)
本発明の液体レンズをカメラ付き携帯電話の撮影レンズに適用した例について説明する。
図6は、本発明の液体レンズを用いた携帯電話の要部を示す模式図である。
図6に示したカメラ付き携帯電話では、カメラ634の撮影レンズ部610に本発明の液体レンズ100を採用し、撮像したい物体の結像面の位置がCCD等の撮像素子303の結像面の位置に合うように構成した点が特徴である。
【0070】
本発明の液体レンズは、低電圧駆動が可能で且つコンパクトに形成できるので、小型軽量化が望まれるカメラ付き携帯電話に適用するのに都合が良い。
図6における他の部材はカメラ付き携帯電話における一般的なものであるが、以下簡単に説明する。
【0071】
640は携帯電話の制御部であり、CPU641とROM642を含んで構成される。631はアンテナ、632は無線部でありこれらは制御部640に接続されている。633はマイク、635はレシーバ、636は画像記憶部であり、カメラ634で撮影された画像は画像記憶部636に記憶される。637は操作キーであり、638はLCD等の表示部、639はカメラ撮影のシャッターキーである。
【0072】
(実施例4)
本発明の液体レンズを監視カメラに適用した例について説明する。
図7(A)は、本発明の液体レンズを用いた監視カメラの外観を示す模式図であり、図7(B)は、監視カメラシステムのブロック回路図である。
図7(A)において701はレンズユニット部、702は雲台ユニット部、750はレンズユニット部を覆うカバーである。
図7(B)において、レンズユニット部701を構成するレンズの一つとして本発明の液体レンズ100を組み込んだ点が本実施例の特徴である。図7(B)おいては、固体レンズ群160、液体レンズ100、撮像素子303が光軸に沿って並べられており、撮像素子の出力は増幅器714を介して映像処理回路715、フォーカス処理回路716にそれぞれ接続されている。
【0073】
雲台ユニット702にはレンズユニット701の駆動のためのパン方向駆動モータ721、チルト方向駆動モータ722が設けられている。映像処理回路715の出力は雲台ユニット部内のネットワーク処理回路723に接続され、フォーカス処理回路の出力はCPU724に接続されている。CPU724の出力はネットワーク処理回路723を介して外部のLAN731に接続され、LAN731にはパーソナルコンピュータ732が接続されている。
【0074】
また、CPU724の出力はパン駆動回路725、チルト駆動回路726を介して駆動モータ721、722に接続され駆動用の信号をこれらに供給する。
さらにCPU724は液体レンズ駆動回路717に接続されている。液体レンズ100は液体レンズ駆動回路717により駆動され、焦点の調整を行う。
【0075】
本発明の液体レンズは小型化が可能であるので、本実施例の監視カメラでは小型化が図れる。
【符号の説明】
【0076】
100 液体レンズ
101 円筒部材
102、103 蓋部材
104 第1の液体
105 第2の液体
106 絶縁体
107 電極
108 電圧印加装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を収容する容器と、該容器内に収容された互いに混和しない電解液及び非電解液と、前記電解液に電圧を印加するための電極と、を備え、前記電解液と前記電極との間に電圧を印加することにより前記電解液と前記非電解液とがなす界面の曲率を変化させる液体レンズであって、前記電解液が、沃素イオンと、該沃素イオンの酸化を防止する水溶性の酸化防止剤と、を含有していることを特徴とする液体レンズ。
【請求項2】
前記酸化防止剤は、標準酸化還元電位が0.53V以下であることを特徴とする請求項1に記載の液体レンズ。
【請求項3】
前記酸化防止剤は、標準酸化還元電位が0.36V以下であることを特徴とする請求項2に記載の液体レンズ。
【請求項4】
前記電解液は、前記電解液に対する前記酸化防止剤の質量%濃度が0.0025%以上であることを特徴とする請求項3に記載の液体レンズ。
【請求項5】
前記電解液は、前記電解液に対する前記酸化防止剤の質量%濃度が0.003%以上であることを特徴とする請求項4に記載の液体レンズ。
【請求項6】
前記沃素イオンは、前記電解液を構成する溶媒に沃化物を加えることにより生成され、前記電解液に対する前記沃化物の質量%濃度が50%以下であることを特徴とする請求項4又は5に記載の液体レンズ。
【請求項7】
前記酸化防止剤は、アスコルビン酸、エリソルビン酸、エリソルビン酸ナトリウム、グルコース、乳酸、リンゴ酸、フマル酸、ユビキノン、ピルビン酸、カルボニルレダクターゼの内、いずれか1つ又は複数であることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の液体レンズ。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載の液体レンズと、固体レンズとをユニット化したことを特徴とするレンズ。
【請求項9】
請求項1から7のいずれかに記載の液体レンズを備えたことを特徴とする撮像装置。
【請求項10】
前記撮像装置は、デジタルカメラである請求項8に記載の撮像装置。
【請求項11】
前記撮像装置は、監視カメラである請求項8に記載の撮像装置。
【請求項12】
請求項1から7のいずれに記載の液体レンズを備えたことを特徴とするカメラ付き携帯電話。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−83552(P2012−83552A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−229655(P2010−229655)
【出願日】平成22年10月12日(2010.10.12)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】