説明

液体組成物及びインクジェット用インク

【課題】優れた堅牢性及び優れた分散安定性を有するポリマー化合物を含有する液体組成物及びインクジェット用インクを提供する。
【解決手段】水性溶媒中の疎水性物質の分散剤として、疎水性ユニット及び親水性ユニットのグラジエントポリマー構造を有し、Tgが50℃以上であるポリマー化合物を用いる。このようなポリマー化合物としては、例えば、グラジエントポリマー構造を有するグラジエントセグメントと、疎水セグメントとを有するブロックポリマー化合物や、グラジエントポリマー構造からなるグラジエントポリマー化合物が挙げられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマー化合物を含有する液体組成物及びインクジェット用インクに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、インクジェット分野では、得られる画像の耐擦性や耐水性といった堅牢性の向上を図る目的で、種々のポリマーを含有するインクが提案されてきている。これらのインクにおいては、ポリマーの含有量が多いほど効果が高くなる一方、ポリマー含有量が多くなると粘度が上昇してしまうという傾向があった。
【0003】
また、インクの色材として用いられる顔料としては、分散剤を必要としない自己分散顔料と、分散剤として樹脂を用いる樹脂分散顔料とがある。近年、樹脂分散顔料インクの分散剤としてのポリマーにも、上述の添加剤としての機能を発揮させる提案がなされてきている(特許文献1〜3)。
【特許文献1】特開2004−352819号公報
【特許文献2】特開2005−281691号公報
【特許文献3】特表2005−532470号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
分散剤に上述の機能をもたせるためには、ガラス転移温度(Tg)が高い樹脂を用いる方が有利である。しかしながら、Tgが高い樹脂は、顔料への吸着量や分散性能が必ずしも高くないことがあり、分散剤本来の効果もより優れた分散剤が望まれていた。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、優れた堅牢性だけではなく、優れた分散安定性をも有する液体組成物及びインクジェット用インクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記従来技術及び課題について鋭意検討した結果、本発明者らは下記に示す本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明は、水性溶媒と、疎水性物質と、ポリマー化合物とを含有する液体組成物において、該ポリマー化合物が、疎水性ユニット及び親水性ユニットのグラジエントポリマー構造を有し、かつ50℃以上のガラス転移温度を有する液体組成物である。
【0008】
また、本発明は、顔料と、ポリマー化合物と、水性溶媒とを含有するインクジェット用インクにおいて、該ポリマー化合物が、疎水性ユニット及び親水性ユニットのグラジエントポリマー構造を有し、かつ50℃以上のガラス転移温度を有することを特徴とするインクジェット用インクである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、優れた堅牢性だけではなく、優れた分散安定性をも有する液体組成物及びインクジェット用インクを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面を用いて、本発明を詳細に説明する。
【0011】
図1(a)、(b)は、本発明で用いるポリマー化合物のユニット構成を模式的に示したものである。図1(a)に示すポリマー化合物5は、疎水セグメント1とグラジエントセグメント2とを有する。疎水セグメント1は、繰り返し単位としての疎水性ユニット3で構成されている。グラジエントセグメント2は、繰り返し単位としての疎水性ユニット3及び親水性ユニット4で構成されており、親水性ユニット4が疎水性ユニット3に対して傾斜的に増加している、所謂グラジエントポリマー構造を形成している。このグラジエントセグメント2は親水性を示すことが好ましい。図1(b)に示すポリマー化合物5は、繰り返し単位としての疎水性ユニット3及び親水性ユニット4で構成されており、親水性ユニット4が疎水性ユニット3に対して傾斜的に増加している所謂グラジエントポリマー構造を形成している。
【0012】
図3は、本発明に係る液体組成物の一実施形態として、図1(a)のポリマー化合物、顔料及び水性溶媒で構成する組成物の状態を示す模式図である。ポリマー化合物5は、容器7内の水性溶媒8中で疎水性物質である顔料9を取り巻くように疎水セグメント1が配された構造の疎水コア10を形成し、その周囲に親水シェル11を配するミセル12を形成している。なお、このように形成されるミセルは、熱力学的観点から粒径がほぼ均一になることが一般に知られている。
【0013】
一方、図2は、従来のランダムコポリマー、顔料及び水性溶媒で構成する組成物の状態を示す模式図である。ランダムポリマー6は、水性溶媒8中で顔料9の周囲に比較的弱く吸着しているか、吸着せずに溶解しているか、いずれかの状態であると推測される。このためランダムコポリマー6を含有する組成物は、グラジエントポリマー構造を有するポリマー化合物5を含有する組成物と比較して、顔料の分散安定性に問題が生じやすい。
【0014】
なお、疎水性物質に対する吸着力の差は、グラジエントポリマー構造を有するポリマー化合物5の場合は疎水性ユニットが局在化しているのに対し、ランダムコポリマー6の場合では非局在化していることに起因していると、現在のところ推測している。
【0015】
以上のように、本発明の液体組成物は、疎水性ユニット及び親水性ユニットのグラジエントポリマー構造を有し、ガラス転移温度(Tg)が50℃以上であるポリマー化合物を用いる。すなわち、ポリマー末端においては親水性及び疎水性を示すことから、その親疎コントラストにより疎水性物質への吸着方向性を制御するとともに、ポリマー全体の剛直性を確保していることがポイントである。
【0016】
本発明で用いるポリマー化合物は、疎水性ユニット及び親水性ユニットを繰り返し単位とし、その含有量が傾斜的に変化しているグラジエントポリマー構造を有している。具体的には、グラジエントポリマー構造を有するグラジエントセグメントと、疎水セグメントとを有するブロックポリマー化合物でもよく、グラジエントポリマー構造のみからなるポリマー化合物でもよい。
【0017】
グラジエントポリマー構造を形成する疎水性ユニットは、例えばイソブチル基、t−ブチル基、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基等の疎水基を持つ繰り返し単位が挙げられる。具体的な例でいえば、スチレンやt−ブチルメタクリレート等の疎水性モノマーを重合して得られるユニットである。ただし、本発明に用いられるグラジエントポリマー構造を形成する疎水性ユニットはこれらに限定されない。
【0018】
疎水性ユニットとしては、ポリアルケニルエーテル構造を有する繰り返し単位が好ましい。好ましい具体例としては、下記一般式(1)または下記一般式(2)で表される繰り返し単位が挙げられるが、本発明に用いられるグラジエントポリマー構造を形成する疎水性ユニットはこれらに限定されない。
【0019】
【化1】

【0020】
(式中、Aは置換されていても良いポリアルケニルエーテル基を表す。Bは炭素原子数1から15までの直鎖状または分岐状の置換されていても良いアルキレン基を表す。Dは単結合または炭素原子数1から10までの直鎖状または分岐状の置換されていても良いアルキレン基を表す。Eは置換されていても良い芳香族環、置換されていても良い芳香族環が単結合で3つまで結合した構造及びメチレン基のいずれかを表す。R1は炭素原子数1から5までの直鎖状または分岐状の置換されていても良いアルキル基または置換されていても良い芳香族環を表す。mは0から30までの整数を表す。)
上記Aのポリアルケニルエーテル基を構成するアルキレン基としては、炭素原子数1から5までの直鎖状または分岐状のアルレン基が挙げられ、係るポリアルケニルエーテル基は、ハロゲン原子等で置換されていても良い。上記Bのアルキレン基としては、エチレン、プロピレン、ブチレン等が挙げられ、係るアルキレン基は、ハロゲン原子等で置換されていても良い。mは、好ましくは1から10までの整数を表す。mが2以上のときはそれぞれのBは異なっていても良い。上記Dのアルキレン基としては、メチレン、エチレン、プロピレン、ブチレン、ペンチレン、へキシレン、へプチレン、オクチレン等が例として挙げられ、係るアルキレン基は、ハロゲン原子等で置換されていても良い。上記Eの芳香環としては、フェニル、ピリジレン、ピリミジル、ナフチル、アントラニル、フェナントラニル、チオフェニル、フラニル等が挙げられ、係る芳香環は、アルキル基、アルコキシ基等で置換されていても良い。上記R1の芳香族環としては、フェニル基、ピリジル基、ビフェニル基等が挙げられる。置換基としては、アルキル基、アルコキシ基等が挙げられる。また、該芳香族環またはメチレン基のいずれかにおいてR1に置換されていない水素原子は置換されていても良い。置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子等が挙げられる。
【0021】
【化2】

【0022】
(式中、Aは置換されていても良いポリアルケニルエーテル基を表す。B1は炭素原子数1から15までの直鎖状または分岐状の置換されていても良いアルキレン基を表す。Jは炭素原子数3から15までの置換されていても良い直鎖状または分岐状のアルキル基、置換されていても良い芳香族環及び置換されていても良い芳香族環が単結合で3つまで結合した構造のいずれかを表す。mは0から30までの整数を表す。)
上記Aのポリアルケニルエーテル基を構成するアルキレン基としては、炭素原子数1から5までの直鎖状または分岐状のアルキレン基が挙げられ、係るポリアルケニルエーテル基は、ハロゲン原子等で置換されていても良い。上記B1のアルキレン基としては、エチレン、プロピレン、ブチレン等が挙げられ、係るアルキレン基は、ハロゲン原子等で置換されていても良い。mは、好ましくは1から10までの整数を表す。mが2以上のときはそれぞれのB1は異なっていても良い。上記Jのアルキル基としては、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t−ブチル基等が挙げられ、芳香族環としては、フェニル基、ナフチル基、ピリジル基、ビフェニル基等が挙げられ、有してもよい置換基としては、アルキル基、アルコキシ基等が挙げられる。
【0023】
疎水性ユニットの好ましい具体例として、以下のものが挙げられるが、これらに限定されない。
【0024】
【化3】

【0025】
グラジエントポリマー構造を形成する親水性ユニットとしては、カルボン酸、カルボン酸塩あるいは親水性オキシエチレンユニットを多く含む構造、更にヒドロキシル基等を有する繰り返し単位が挙げられる。具体的な例でいえば、アクリル酸やメタクリル酸、あるいはその無機塩や有機塩等のカルボン酸塩、またポリエチレングリコールマクロモノマー、またはビニルアルコールや2−ヒドロキシエチルメタクリレート等の親水性モノマーを重合して得られるユニットである。ただし、本発明に用いられるグラジエントポリマー構造を形成する親水性ユニットはこれらに限定されない。
【0026】
親水性ユニットとしては、ポリアルケニルエーテル構造を有する繰り返し単位が好ましい。具体的には、下記一般式(3)で表される非イオン性の親水性ユニットや、下記一般式(4)で表されるようなイオン性の親水性ユニットが挙げられる。ただし、本発明に用いられるグラジエントポリマー構造を形成する親水性ユニットはこれらに限定されない。
【0027】
【化4】

【0028】
(式中、Aは置換されていても良いポリアルケニルエーテル基を表す。B’は炭素原子数1から5までの直鎖状または分岐状の置換されていても良いアルキレン基を表す。D’は単結合または炭素原子数1から5までの直鎖状または分岐状の置換されていても良いアルキレン基を表す。Kは炭素原子数1から3までの置換されていても良い直鎖状または分岐状のアルキル基、またはヒドロキシル基のいずれかを表す。mは0から30までの整数を表す。)
上記Aのポリアルケニルエーテル基を構成するアルケニル基としては、炭素原子数1から5までの直鎖状または分岐状のアルキル基が挙げられ、係るポリアルケニルエーテル基は、ハロゲン原子等で置換されていても良い。上記B’のアルキレン基としては、メチレン、エチレン、プロピレン等が挙げられ、係るアルキレン基は、ハロゲン原子等で置換されていても良い。mは、好ましくは1から10までの整数を表す。mが2以上のときはそれぞれのB’は異なっていても良い。上記D’のアルキレン基としては、メチレン、エチレン、プロピレン等が挙げられ、係るアルキレン基は、ハロゲン原子等で置換されていても良い。上記Kのアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられ、係るアルキル基は、ハロゲン原子等で置換されていても良い。
【0029】
なお、この一般式(3)で表される繰り返し単位は親水性を示す。従って、Kがアルキル基の場合、(B’O)mはある程度長い(mが大きい)オキシアルキレン基であることが必要である。
【0030】
【化5】

【0031】
(式中、Aは置換されていても良いポリアルケニルエーテル基を表す。B”は炭素原子数1から15までの直鎖状または分岐状の置換されていても良いアルキレン基を表す。D”は単結合または炭素原子数1から10までの直鎖状または分岐状の置換されていても良いアルキレン基を表す。E”は置換されていても良い芳香族環、置換されていても良い芳香族環が単結合で3つまで結合した構造及びメチレン基のいずれかを表す。R2は−COO-Mの(Mは、水素原子、1価または多価の金属カチオンを表す)構造を表す。mは0から30までの整数を表す。)
上記Aのポリアルケニルエーテル基を構成するアルケニル基としては、炭素原子数1から5までの直鎖状または分岐状のアルキル基が挙げられ、係るポリアルケニルエーテル基は、ハロゲン原子等で置換されていても良い。上記B”のアルキレン基の置換基としては、エチレン、プロピレン、ブチレン等が挙げられ、係るアルキレン基は、ハロゲン原子等で置換されていても良い。mは、好ましくは1から10までの整数を表す。mが2以上のときはそれぞれのB”は異なっていても良い。上記D”のアルキレン基としては、メチレン、エチレン、プロピレン、ブチレン、ペンチレン、へキシレン、へプチレン、オクチレン等が挙げられ、係るアルキレン基は、ハロゲン原子等で置換されていても良い。上記E”の芳香環としては、フェニル、ピリジレン、ピリミジル、ナフチル、アントラニル、フェナントラニル、チオフェニル、フラニル等が挙げられる。上記Mの具体例としての一価の金属カチオンとしては、ナトリウム、カリウム、リチウム等のイオンが、多価の金属カチオンとしては、マグネシウム、カルシウム、ニッケル、鉄等のイオンが挙げられる。Mが多価の金属カチオンの場合には、MはアニオンCOO-の2個以上と対イオンを形成している。また、上記E”の芳香族環またはメチレン基の、R2に置換されていない水素原子は置換されていても良い。置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子等が挙げられる。好ましくは、カルボン酸基が芳香族炭素と結合した芳香族カルボン酸誘導体を側鎖に有する。
【0032】
非イオン性の親水性ユニットとなる繰り返し単位の好ましい具体例として、以下のものが挙げられるが、本発明はこれらに限定されない。
【0033】
【化6】

【0034】
イオン性の親水性ユニットとなる繰り返し単位の具体例好ましいとして、以下のものが挙げられるが、本発明はこれらに限定されない。
【0035】
【化7】

【0036】
本発明で用いるポリマー化合物は、グラジエントポリマー構造のみからなるポリマー化合物でもよく、グラジエントポリマー構造を有するグラジエントセグメントと、疎水セグメントとを有するブロックポリマー化合物でもよい。疎水セグメントを構成する疎水性ユニットとしては、上記した疎水性ユニットを例示することができるが、これらに限定されない。
【0037】
疎水性ユニット及び親水性ユニットのグラジエントポリマー構造の部分は、親水性を有することが好ましい。すなわち、グラジエントポリマー構造の部分が親水性を有するように、各ユニットの重合度比を調整することが好ましい。グラジエントポリマー構造の部分における疎水性ユニットと親水性ユニットの比は、90:10〜10:90の範囲が好ましく、70:30〜30:70の範囲がより好ましい。
【0038】
疎水セグメントを有するブロックポリマー化合物の場合、グラジエントセグメントと疎水セグメントの平均重合度比は、90:10〜10:90の範囲が好ましく、70:30〜30:70の範囲がより好ましい。
【0039】
本発明で用いるポリマー化合物の数平均分子量(Mn)は、500以上10000000以下であることが好ましく、1000以上1000000以下であることがより好ましい。Mnが10000000を越えると、高分子鎖内、高分子鎖間の絡まりあいが多くなりすぎ、溶剤に分散しにくくなることがある。また、500未満であると、分子量が小さすぎ、高分子としての立体効果が出にくくなることがある。各ブロックセグメントの好ましい重合度はそれぞれ独立して3以上10000以下である。更に好ましくは3以上5000以下である。更に好ましくは3以上4000以下である。
【0040】
本発明で用いるポリマー化合物は、ガラス転移温度(Tg)が50℃以上である必要がある。好ましくは60℃以上である。Tgの上限に制限はないが、150℃以下が好ましい。Tgが50℃未満の場合、室温においては印刷物の強度が十分でない場合がある。すなわち、室温において十分な堅牢性を得るためには、室温と比較して十分な高温のTgであることが必要とされるからである。このようなポリマーを得るためには、室温と比較して十分高温なTgである疎水性セグメントが必要とされる。また、親水性モノマーの重合により形成される数平均分子量(Mn)約10000程度の高分子化合物のTgが低い場合であっても、前記の高Tgである疎水性セグメントとグラジエント化すればよい。このようにすることで、ポリマー鎖の大半の部分でTgが室温に比べて十分に高く、十分な堅牢性を有する高分子化合物が得られる。なお、本発明でいうTgは、DSC822e(METTLER TOLEDO社製商品名)を用いて、昇温速度0.5℃/分で測定することで求めることができる。
【0041】
上記液体組成物において、ポリマー化合物は水性溶媒中でミセル状態を形成することができる。この液体組成物におけるポリマー化合物の含有量は、液体組成物全質量に対し、0.1質量%以上90質量%以下であることが好ましい。より好ましくは、1質量%以上80質量%以下である。
【0042】
本発明の液体組成物は、上記ポリマー化合物と、水性溶媒と、疎水性物質を有する。本発明の液体組成物は、インクであることが好ましい。より好ましくはインクジェット用インクである。インクジェット用インクとは、インクジェット法を用いるインク吐出方法により吐出し得る液体組成物のことである。
【0043】
一般的に、インクジェット用インクは、通常のインクに比べて粘度や分散微粒子の大きさ、保存安定性等の、組成物特性の条件が厳しい。インクジェット法による吐出方法では、微細ノズルを通してインクの吐出を行うため、特にインクの粘度が低いこと、インク中の微粒子の大きさは小さく、更に保存安定性が優れていることが好ましい。加えて、優れた画像の堅牢性が要求される。従って、本発明のジブロック化合物は、インクジェット用インクに非常に好ましく適用することができる。
【0044】
以下、液体組成物の成分について説明する。
【0045】
[溶媒]
本発明の液体組成物は、水性溶媒を含有する。水性溶媒としては、水または水性溶剤を挙げることができる。水としては、金属イオン等を除去したイオン交換水、純水、超純水が好ましい。水性溶剤としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロビレングリコール、グリセリン等の多価アルコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等の多価アルコールエーテル類;N−メチル−2−ピロリドン、置換ピロリドン、トリエタノールアミン等の含窒素溶媒;等を用いることができる。また、水性分散物の記録媒体上での乾燥を速めることを目的として、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等の一価アルコール類を用いることもできる。
【0046】
本発明の液体組成物は、有機溶媒を含有していてもよい。有機溶媒としては、炭化水素系溶剤、芳香族系溶剤、エーテル系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤、アミド系溶剤等の非水性溶剤が挙げられる。
【0047】
本発明において、有機溶剤及び水性溶媒の合計の含有量は、液体組成物の全重量に対して、20〜95質量%であることが好ましい。更に好ましくは、30〜90質量%である。
【0048】
[疎水性物質]
本発明の液体組成物は、疎水性物質を含有する。疎水性物質とは、水に対して不溶な物質である。水に対して不溶とは、水に溶解、あるいは安定分散しない性質のことである。具体的にいうと、水に対する溶解度が1g/L以下であること、あるいは水に対して安定な分散体を形成しないことを表す。
【0049】
本発明で用いられる疎水性物質としては、例えば顔料、金属粒子、有機微粒子、無機微粒子、磁性体粒子、有機半導体、導電性材料、光学材料、非線形光学材料等といった疎水性の機能性物質が挙げられるが、これらに限定されない。
【0050】
本発明で用いられる疎水性物質は、好ましくは顔料または染料等の色材であり、より好ましくは顔料である。なお、本発明に記載の色材とは、有機または無機の有色の化合物と定義でき、好ましくは水又は油性分に対して不溶な化合物が好ましい。具体的な例としては、近赤外線反射材料、酸化触媒、脱臭・抗菌、助熱、排煙脱塩、ダイオキシン抑制、除虫効果、液晶パネルのバックライト用光散乱剤、蛍光材料、光導電材料等が挙げられる。更には、紫外線防止、吸着効果等の化粧品への応用、塗料、トナー、インクといった応用例が挙げられる。
【0051】
無機色材の具体例としては、コバルトブルー、セルシアンブルー、コバルトバイオレット、コバルトグリーン、ジンクホワイト、チタニウムホワイト、ライトレッド、クロムオキサイドグリーン、マルスブラック等の酸化物顔料;ビリジャン、イエローオーカー、アルミナホワイト等の水酸化物顔料;ウルトラマリーン、タルク、ホワイトカーボン等のケイ酸塩顔料;金粉、銀粉、ブロンズ粉等の金属粉;カーボンブラック等が挙げられる。有機色材の具体例としては、βナフトール系アゾ化合物、ナフトールAS系アゾ化合物、モノアゾ型あるいはジスアゾ型アセト酢酸アリリド系アゾ化合物、ピラゾン系アゾ化合物、縮合系アゾ顔料等のアゾ系化合物の他、フタロシアニン系化合物、サブフタロシアニン系化合物、ポルフィリン系化合物、キナクリドン系化合物、イソインドリン系化合物、イソインドリノン系化合物、スレン系化合物、ペリレン系化合物、ぺリノン系化合物、チオインジゴ系化合物、ジオキサジン化合物、キノフタロン系化合物、ジケトピロロピロール系化合物、あるいは新規に合成した化合物が挙げられる。ただし、本発明に使用される色材は上記に限定されるものではない。
【0052】
以下に液体組成物をインクとして使用する場合の顔料の具体例を示す。
【0053】
顔料は、有機顔料及び無機顔料のいずれでもよく、インクに用いられる顔料は、好ましくは黒色顔料、またはシアン、マゼンタ、イエローの3原色顔料である。なお、上記に記した以外の色顔料、無色または淡色の顔料、または金属光沢顔料等を使用してもよい。また、本発明において、市販の顔料を用いても良いし、あるいは新規に合成した顔料を用いても良い。
【0054】
以下に、黒、シアン、マゼンタ、イエローにおいて、市販されている顔料を例示する。
【0055】
黒色の顔料としては、Raven1060、(コロンビアン・カーボン社製商品名)、MOGUL−L、(キャボット社製商品名)、Color Black FW1(デグッサ社製商品名)、MA100(三菱化学社製商品名)等を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0056】
シアン色の顔料としては、C.I.Pigment Blue−15:3、C.I.Pigment Blue−15:4、C.I.Pigment Blue−16、等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0057】
マゼンタ色の顔料としては、C.I.Pigment Red−122、C.I.Pigment Red−123、C.I.Pigment Red−146、等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0058】
イエローの顔料としては、C.I.Pigment Yellow−74、C.I.Pigment Yellow−128、C.I.Pigment Yellow−129、等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0059】
また、本発明のインクでは、水に自己分散可能な顔料も使用できる。水分散可能な顔料としては、顔料表面にポリマーを吸着させた立体障害効果を利用したものと、静電気的反発力を利用したものとがある。市販品としては、CAB−0−JET200、CAB−0−JET300(以上キャボット社製商品名)、Microjet Black CW−1(オリエント化学社製商品名)等が挙げられる。
【0060】
本発明で用いられる顔料の含有量は、インクの全質量に対して、0.1〜50質量%であることが好ましい。顔料の含有量が、0.1質量%以上であれば、好ましい画像濃度が得られ、50質量%以下であれば、好ましい分散が得られる。更に好ましい範囲は0.5〜30質量%である。
【0061】
また、本発明では染料を併用しても良い。
【0062】
なお、上述は疎水性物質が存在する例で示したが、ミセル構造内に疎水性物質を有さない形態についても本願発明は包含するものである。この場合には、コーティング剤や、グロスオプティマイザー等の用途として有効である。
【0063】
[添加剤]
本発明では、必要に応じて、種々の添加剤、助剤等を添加することができる。添加剤の一つとして、顔料を溶媒中で安定に分散させる分散安定剤がある。本発明は、ポリマー化合物により、顔料のような疎水性物質を分散させる機能を有しているが、分散が不十分である場合には、他の分散安定剤を添加してもよい。
【0064】
他の分散安定剤として、親水性疎水性両部を持つ樹脂あるいは界面活性剤を使用することが可能である。親水性疎水性両部を持つ樹脂としては、例えば、親水性モノマーと疎水性モノマーの共重合体が挙げられる。
【0065】
親水性モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、または前記カルボン酸モノエステル類、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、ビニルアルコール、アクリルアミド、メタクリロキシエチルホスフェート等が挙げられる。疎水性モノマーとしては、スチレン、α−メチルスチレン等のスチレン誘導体、ビニルシクロヘキサン、ビニルナフタレン誘導体、アクリル酸エステル類、メタクリル酸エステル類等が挙げられる。共重合体は、ランダム、ブロック、及びグラフト共重合体等の様々な構成のものが使用できる。もちろん、親水性、疎水性モノマーとも、前記に示したものに限定されない。
【0066】
界面活性剤としては、アニオン性、非イオン性、カチオン性、両イオン性活性剤を用いることができる。アニオン性活性剤としては、脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルアリールスルホン酸塩、アルキルジアリールエーテルジスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、アルキルリン酸塩、ナフタレンスルホン酸フォルマリン縮合物、ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル塩、グリセロールボレイト脂肪酸エステル等が挙げられる。非イオン性活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンオキシプロピレンブロックコポリマー、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、フッ素系、シリコン系等が挙げられる。カチオン性活性剤としては、アルキルアミン塩、第4級アンモニウム塩、アルキルピリジニウム塩、アルキルイミダゾリウム塩等が挙げられる。両イオン性活性剤としては、アルキルベタイン、アルキルアミンオキサイド、ホスファジルコリン等が挙げられる。なお、界面活性剤についても同様、前記に限定されるものではない。
【0067】
その他の添加剤としては、例えばインク用途の場合、pH調整剤、浸透剤、防黴剤、キレート化剤、消泡剤、酸化防止剤、防カビ剤、粘度調整剤、導電剤、紫外線吸収剤等も添加することができる。pH調整剤は、インクの安定化と記録装置中のインクの配管との安定性を得るために使用する。浸透剤は、記録媒体へのインクの浸透を早め、見掛けの乾燥を早くする。防黴剤は、インク内での黴の発生を防止する。キレート化剤は、インク中の金属イオンを封鎖し、ノズル部での金属の析出やインク中で不溶解性物の析出等を防止する。消泡剤は、記録液の循環、移動、あるいは記録液製造時の泡の発生を防止する。
【0068】
更に、本発明では、高分子微粒子を添加しても良い。本発明の高分子微粒子とは、堅牢性、発色性、光沢性、ブロンズ抑制、ブリード抑制等の機能を発現することを目的として添加する化合物であり、具体的には、エマルジョン微粒子、高分子界面活性剤等が挙げられる。
【0069】
エマルジョン微粒子及び高分子界面活性剤を構成する樹脂成分としては、例えば、アクリル系樹脂、メタクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ウレタン系樹脂、アクリルアミド系樹脂、エポキシ系樹脂等が挙げられ、またこれらの樹脂の混合系を用いてもよい。これらの樹脂成分の中でより好ましくは、スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−アクリル酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、スチレン−マレイン酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−マレイン酸−ハーフエステル共重合体等が挙げられる。
【0070】
このような樹脂エマルジョンは、種々の特性を満足するように合成して用いてもよいが、市販品を使用してもよい。なお、高分子微粒子についても同様、前記に限定されるものではない。
【実施例】
【0071】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されな
い。また、以下の構造中、「gr」はグラジエント共重合体であることを、「r」はランダム共重合体であることを、「b」はブロック共重合体であることを表す。
【0072】
(合成例1)
ポリ(スチレン〔St〕−gr−アクリル酸〔AA〕)の合成
窒素雰囲気下で、塩化銅(I)0.5ミリモル、ビピリジン1.0ミリモル、2−クロロプロピオン酸メチル1.0ミリモル、スチレン50ミリモル、ジメチルホルムアミド15gを混合した。得られた混合物に含まれる溶存酸素を窒素で置換した後、90℃で重合反応を行った。反応中更に、50ミリモルのt−ブチルアクリレート(tBA)を連続的に滴下し、重合反応を続行した。ガスクロマトグラフィーにより重合率を確認しながら反応を行い、液体窒素で急冷して反応を停止した。反応中に反応液を少量抜き取り、NMR測定を行ったところ、重合するに従い、t−ブチルアクリレートが重合したユニットの割合が増加していたことから、モノマー組成がポリマー連鎖に沿って徐々に変化しているポリマーの生成を確認した。
【0073】
反応液をアルミナのカラムに通し、銅触媒を除去した後、高分子溶液をメタノール中に加え、上澄みを除去した後、沈殿物を減圧乾燥した。
【0074】
次いで、得られた高分子化合物をTHFに溶かし、濃塩酸を加えた後、還流反応することにより、加水分解を行った。メタノールへの最沈殿による精製の後、tBAユニットのエステル部がフリーのカルボン酸になったポリマーである高分子化合物1を得た。得られた高分子化合物1の分子量をGPCで確認した結果、Mn=12000、Mw/Mn=1.26であった。また、この高分子化合物1のTgは97℃であった。
【0075】
(合成例2)
ポリ(ベンジルメタクリレート〔BzMA〕−gr−アクリル酸〔AA〕)の合成
窒素雰囲気下で、塩化銅(I)0.5ミリモル、ビピリジン1.0ミリモル、2−クロロプロピオン酸メチル1.0ミリモル、ベンジルメタクリレート50ミリモル、ジメチルホルムアミド15gを混合した。得られた混合物に含まれる溶存酸素を窒素で置換した後、90℃で重合反応を行った。反応中更に、50ミリモルのt−ブチルアクリレート(tBA)を連続的に滴下し、重合反応を続行した。ガスクロマトグラフィーにより重合率を確認しながら反応を行い、液体窒素で急冷して反応を停止した。反応中に反応液を少量抜き取り、NMR測定を行ったところ、重合するに従い、t−ブチルアクリレートが重合したユニットの割合が増加していたことから、モノマー組成がポリマー連鎖に沿って徐々に変化しているポリマーの生成を確認した。
【0076】
反応液をアルミナのカラムに通し、銅触媒を除去した後、高分子溶液をメタノール中に加え、上澄みを除去した後、沈殿物を減圧乾燥した。
【0077】
次いで、得られた高分子化合物をTHFに溶かし、濃塩酸を加えた後、還流反応することにより、加水分解を行った。メタノールへの最沈殿による精製の後、tBAユニットのエステル部がフリーのカルボン酸になったポリマーである高分子化合物2を得た。得られた高分子化合物2の分子量をGPCで確認した結果、Mn=13000、Mw/Mn=1.21であった。また、この高分子化合物2のTgは78℃であった。
【0078】
(合成例3)
ポリ(トリシクロデカンモノメチルビニルエーテル〔TCDVE〕−gr−4−{(ビニルオキシ)エトキシ}安息香酸〔VEEtPhCOOH〕の合成
三方活栓を取り付けたガラス容器内を窒素置換した後、窒素ガス雰囲気下250℃に加熱し吸着水を除去した。系を室温に戻した後、トリシクロデカンモノメチルビニルエーテル〔TCDVE〕30mmol(ミリモル)、酢酸エチル160mmol、1−イソブトキシエチルアセテート0.5mmol、及びトルエン110mlを加え、反応系を冷却した。系内温度が0℃に達したところでエチルアルミニウムセスキクロリド(ジエチルアルミニウムクロリドとエチルアルミニウムジクロリドとの等モル混合物)を2.0mmol加え重合を開始した。反応中更に、20mmolの4−{(ビニルオキシ)エトキシ}安息香酸エチルエステル〔VEEtPhCOOEt〕/トルエン溶液を連続的に滴下し、重合反応を続行した。NMR及びGCにより重合率をモニタリングしながら反応を行い、VEEtPhCOOEtモノマーの滴下速度及び系内の昇温操作により反応速度を制御した。重合反応の停止は、TCDVEの重合率が90%、及びVEEtPhCOOEtの重合率が50%に達した時点で系内に0.3質量%のアンモニア/メタノール水溶液を加えて行った。反応混合物溶液をジクロロメタンにて希釈し、0.6M塩酸で3回、次いで蒸留水で3回洗浄した。得られた有機相をエバポレーターで濃縮・乾固し、真空乾燥させたものより、目的物である高分子化合物を単離した。
【0079】
この高分子化合物の同定は、NMR及びGPCを用いて行った。Mn=10000、Mw/Mn=1.27であり、重合度比はTCDVE:VEEtPhCOOEt=60:20であった。また、モニタリング時のNMR及びGC分析の結果、重合するに従い、VEEtPhCOOEtが重合したユニットの割合が増加していたことから、モノマー組成比がポリマー連鎖に沿って徐々に変化しているポリマーの生成を確認した。
【0080】
次いで、得られた高分子化合物をジメチルホルムアミドと水酸化ナトリウム水混合溶液中で加水分解した。エバポレーターで濃縮し、塩化メチレン、希塩酸による中和・抽出により、VEEtPhCOOEtユニットのエステル部がフリーのカルボン酸になったポリマーである高分子化合物3を得た。この高分子化合物3のTgは68℃であった。
【0081】
(比較合成例1)
ポリ(スチレン〔St〕−r−アクリル酸tブチル〔AA〕)の合成
窒素雰囲気下で、塩化銅(I)0.5ミリモル、ビピリジン1.0ミリモル、2−クロロプロピオン酸メチル1.0ミリモル、スチレン50ミリモル、t−ブチルアクリレート(tBA)50ミリモル、ジメチルホルムアミド20gを混合した。得られた混合物に含まれる溶存酸素を窒素で置換した後、90℃で重合反応を行った。ガスクロマトグラフィーにより重合率を確認しながら反応を行い、液体窒素で急冷して反応を停止した。
【0082】
反応液をアルミナのカラムに通し、銅触媒を除去した後、高分子溶液をメタノール中に加え、上澄みを除去した後、沈殿物を減圧乾燥した。
【0083】
次いで、得られた高分子化合物をTHFに溶かし、濃塩酸を加えた後、還流反応することにより、加水分解を行った。メタノールへの最沈殿による精製の後、tBAユニットのエステル部がフリーのカルボン酸になったポリマーである高分子化合物4を得た。得られた高分子化合物4の分子量をGPCで確認した結果、Mn=12800、Mw/Mn=1.15であった。また、この高分子化合物4のTgは102℃であった。
【0084】
(比較合成例2)
ポリ(ベンジルメタクリレート〔BzMA〕−r−アクリル酸tブチル〔tBA〕)の合成
窒素雰囲気下で、塩化銅(I)0.5ミリモル、ビピリジン1.0ミリモル、2−クロロプロピオン酸メチル1.0ミリモル、ベンジルメタクリレート50ミリモル、t−ブチルアクリレート(tBA)50ミリモル、ジメチルホルムアミド20gを混合した。得られた混合物に含まれる溶存酸素を窒素で置換した後、90℃で重合反応を行った。ガスクロマトグラフィーにより重合率を確認しながら反応を行い、液体窒素で急冷して反応を停止した。
【0085】
反応液をアルミナのカラムに通し、銅触媒を除去した後、高分子溶液をメタノール中に加え、上澄みを除去した後、沈殿物を減圧乾燥した。
【0086】
次いで、得られた高分子化合物をTHFに溶かし、濃塩酸を加えた後、還流反応することにより、加水分解を行った。メタノールへの最沈殿による精製の後、tBAユニットのエステル部がフリーのカルボン酸になったポリマーである高分子化合物5を得た。得られた高分子化合物5の分子量をGPCで確認した結果、Mn=13800、Mw/Mn=1.25であった。また、この高分子化合物5のTgは75℃であった。
【0087】
(比較合成例3)
ポリ(トリシクロデカンモノメチルビニルエーテル〔TCDVE〕−r−4−{(ビニルオキシ)エトキシ}安息香酸〔VEEtPhCOOH〕の合成
トリシクロデカンモノメチルビニルエーテル〔TCDVE〕30mmol(ミリモル)と4−{(ビニルオキシ)エトキシ}安息香酸エチルエステル〔VEEtPhCOOEt〕15mmolを最初から添加した以外は、合成例3と同様の手法で重合した。GPC及びGCにより重合率をモニタリングしながら反応を行い、系内の昇温操作により反応速度を制御した。VEEtPhCOOEtモノマーが約70mol%重合したところで、重合反応を停止した。
【0088】
この高分子化合物の同定は、NMR及びGPCを用いて行った。Mn=11000、Mw/Mn=1.22であり、重合度比はTCDVE:VEEtPhCOOEt=60:20であった。また、モニタリング時のNMR及びGC分析により、おおよそTCDVE:VEEtPhCOOEt=3:1で進行していた。
【0089】
合成例3と同様の後処理により、VEEtPhCOOEtユニットのエステル部がフリーのカルボン酸になったポリマーである高分子化合物6を得た。この高分子化合物6のTgは69℃であった。
【0090】
(比較合成例4)
ポリ(2−ナフトキシエチルビニルエーテル〔NpOVE〕−gr−4−{(ビニルオキシ)エトキシ}安息香酸エチルエステル〔VEEtPhCOOEt〕の合成
合成例3と同様の手法で、TCDVE30mmolを2−ナフトキシエチルビニルエーテル〔NpOVE〕25mmolに変え、VEEtPhCOOEtの添加量を12mmolとして重合を行った。NMR及びGCにより重合率をモニタリングしながら反応を行い、VEEtPhCOOEtモノマーの滴下速度及び系内の昇温操作により反応速度を制御した。重合反応の停止は、合成例3と同様の手法で行った。
【0091】
この高分子化合物の同定は、NMR及びGPCを用いて行った。Mn=11500、Mw/Mn=1.19であり、重合度比はNpOVE:VEEtPhCOOEt=50:20であった。また、モニタリング時のNMR及びGC分析の結果、重合するに従い、VEEtPhCOOEtが重合したユニットの割合が増加していたことから、モノマー組成比がポリマー連鎖に沿って徐々に変化しているポリマーの生成を確認した。
【0092】
合成例3と同様の後処理により、VEEtPhCOOEtユニットのエステル部がフリーのカルボン酸になったポリマーである高分子化合物7を得た。この高分子化合物7のTgは41℃であった。
【0093】
(比較合成例5)
ポリ(トリシクロデカンモノメチルビニルエーテル〔TCDVE〕−b−4−{(ビニルオキシ)エトキシ}安息香酸エチルエステル〔VEEtPhCOOEt〕の合成
合成例3と同様の手法で、トリシクロデカンモノメチルビニルエーテル〔TCDVE〕30mmol(ミリモル)を重合した(ただし、反応中にVEEtPhCOOEtは添加していない)。GPCのモニタリングにより、TCDVEの重合の完了を確認(Mn=7500、Mw/Mn=1.18)した段階で、15mmolのVEEtPhCOOEt/トルエン溶液を添加して、重合を続行した。GPC及びNMRを用いたモニタリングによって、VEEtPhCOOEtが約70mol%重合したところで、重合反応を停止した。重合反応の停止は、合成例3と同様の手法で行った。
【0094】
この高分子化合物の同定は、NMR及びGPCを用いて行った。Mn=11500、Mw/Mn=1.23であり、重合度比はTCDVE:VEEtPhCOOEt=60:20であった。
【0095】
合成例3と同様の後処理により、VEEtPhCOOEtユニットのエステル部がフリーのカルボン酸になったポリマーである高分子化合物8を得た。この高分子化合物3のTgは68℃であった。
【0096】
(実施例1〜3、比較例1〜5)
表1に示すポリマーを用いて、以下のような評価を行った。
【0097】
【表1】

【0098】
(顔料分散液の作製方法)
超音波発生装置の槽内に、機械的攪拌装置を備えた500mLナスフラスコを入れた。この中に、上記ポリマー5g、顔料としてのカーボンブラック(三菱化学製、#2600)5g、テトラヒドロフラン240mLを添加し、顔料表面が溶媒で十分濡れるまでよく混合した。次に、ブロックポリマーの中和率が100%になるだけのKOHを含むアルカリ水溶液を滴下注入することで転相させた。その後に、60分間プレミキシングを行い、ナノマイザNM2−L200AR(商品名、吉田機械興業社製)を用いて、粒径が100nm以下になるまで分散を行った。この分散液からロータリエバポレータを用いて、テトラヒドロフランを留去し、濃度調整を行って、顔料濃度6質量%、P/B=1の顔料分散液を得た。
【0099】
(顔料へのポリマー吸着量の評価)
実施例1〜3及び比較例1〜3で得られた顔料分散液を15000G、5時間遠心分離を行った後、上澄み20%を採取し、固形分量を測定した。顔料へのポリマー吸着量は仕込みのポリマー量から前記の上澄み固形分を引いた差分が顔料に吸着していることを前提に顔料1gあたりの吸着ポリマー量を求めた。
【0100】
比較例1〜3では、顔料1gあたりのポリマー吸着量が0.15g以下であったのに対して、実施例1〜3では顔料1gあたりのポリマー吸着量が0.3〜0.4gであり、2倍程度吸着量が多いことが確認された。すなわち、本発明のグラジエント構造をとることによって、ランダムポリマーより顔料へのポリマー吸着量を多くすることができる。これにより、分散安定性良好な顔料分散液を得ることが可能となるとともにメディア上でもポリマー残存量を多くすることが可能となるため、ポリマーがバインダとして機能させることも可能になると考えられる。
【0101】
(顔料インクの作製方法)
次に、実施例1〜3及び比較例4、5のポリマーを用いて作製した顔料分散体を用いてインクジェット用顔料インクを調製した。具体的には、上記顔料分散液に以下の成分を加えて所定の濃度にし、これらの成分を十分に混合撹拌した。その後、水酸化カリウムを加えることによってpHを8.5に調整した。得られた溶液をポアサイズ2.5μmのミクロフィルター(富士フイルム製)にて加圧濾過し、顔料濃度2質量%の顔料インクを調製した。実施例1〜3のポリマーを含有するインク中の顔料は、非常に良好に分散されていた。
【0102】
顔料分散液 33部
グリセリン 7部
ジエチレングリコール 5部
トリメチロールプロパン 7部
アセチレノールEH(川研ファインケミカル社製商品名) 1部
イオン交換水 残部
(擦過性官能評価)
上記顔料インクを用いて、キヤノン製インクジェットプリンタF930(商品名)にて、キヤノン製インクジェット用光沢紙PR−101(商品名)に、100%duty、の条件にて5cm×5cm角のベタ画像を形成した。前記の印字部と非印字部の境界にかけて、爪で擦過後、印字部分において、メディアの露出の有無と非印字部へのインクが引きずられて転写する状態(スミア)を観察しスミアの評価を行い、擦過性を評価した。爪擦過による印字部のメディア露出はポリマーのメディアとの密着性やメディア上のポリマーの残存量に依存すると考えられる。メディア上へのポリマーの残存量は顔料とポリマーの吸着状態等に影響される。一方、非印字部へインク層が引きずられる状態、いわゆるスミアはポリマーを含んだインク層の硬さに依存すると考えられる。
【0103】
擦過性評価の結果、実施例1〜3の顔料インクを用いた印字サンプルでは比較例4、5の印字サンプルよりも擦過性が良好であった。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】本発明で用いるポリマー化合物のユニット構成を示す模式図である。(a)はグラジエントポリマー構造を有するグラジエントセグメントと、疎水セグメントとを有するポリマー化合物、(b)はグラジエントポリマー構造からなるポリマー化合物を示す。
【図2】一般的なランダムコポリマー、顔料及び水性溶媒で構成する液体組成物の状態を示す模式図である。
【図3】本発明に係る液体組成物の一実施形態として、図1(a)のポリマー化合物、顔料及び水性溶媒で構成する液体組成物の状態を示す模式図である。
【符号の説明】
【0105】
1 疎水セグメント
2 グラジエントセグメント
3 疎水性ユニット
4 親水性ユニット
5 ポリマー化合物
6 ランダムコポリマー
7 容器
8 水性溶媒
9 顔料
10 疎水コア
11 親水シェル
12 ミセル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性溶媒と、疎水性物質と、ポリマー化合物とを含有する液体組成物において、該ポリマー化合物が、疎水性ユニット及び親水性ユニットのグラジエントポリマー構造を有し、かつ50℃以上のガラス転移温度を有することを特徴とする液体組成物。
【請求項2】
前記ポリマー化合物が、前記グラジエントポリマー構造を有するグラジエントセグメントと、疎水セグメントとを有するブロックポリマー化合物である請求項1に記載の液体組成物。
【請求項3】
前記ポリマー化合物が、前記グラジエントポリマー構造のみからなる請求項1に記載の液体組成物。
【請求項4】
前記疎水性ユニットが下記一般式(1)または(2)で表される請求項1乃至3のいずれか1項に記載の液体組成物。
【化1】

(式中、Aは置換されていても良いポリアルケニルエーテル基を表す。Bは炭素原子数1から15までの直鎖状または分岐状の置換されていても良いアルキレン基を表す。Dは単結合または炭素原子数1から10までの直鎖状または分岐状の置換されていても良いアルキレン基を表す。Eは置換されていても良い芳香族環、置換されていても良い芳香族環が単結合で3つまで結合した構造及びメチレン基のいずれかを表す。R1は炭素原子数1から5までの直鎖状または分岐状の置換されていても良いアルキル基または置換されていても良い芳香族環を表す。mは0から30までの整数を表す。)
【化2】

(式中、Aは置換されていても良いポリアルケニルエーテル基を表す。B1は炭素原子数1から15までの直鎖状または分岐状の置換されていても良いアルキレン基を表す。Jは炭素原子数3から15までの置換されていても良い直鎖状または分岐状のアルキル基、置換されていても良い芳香族環及び置換されていても良い芳香族環が単結合で3つまで結合した構造のいずれかを表す。mは0から30までの整数を表す。)
【請求項5】
前記親水性ユニットが下記一般式(3)または(4)で表される請求項1乃至4のいずれか1項に記載の液体組成物。
【化3】

(式中、Aは置換されていても良いポリアルケニルエーテル基を表す。B’は炭素原子数1から5までの直鎖状または分岐状の置換されていても良いアルキレン基を表す。D’は単結合または炭素原子数1から5までの直鎖状または分岐状の置換されていても良いアルキレン基を表す。Kは炭素原子数1から3までの置換されていても良い直鎖状または分岐状のアルキル基、またはヒドロキシル基のいずれかを表す。mは0から30までの整数を表す。)
【化4】

(式中、Aは置換されていても良いポリアルケニルエーテル基を表す。B”は炭素原子数1から15までの直鎖状または分岐状の置換されていても良いアルキレン基を表す。D”は単結合または炭素原子数1から10までの直鎖状または分岐状の置換されていても良いアルキレン基を表す。E”は置換されていても良い芳香族環、置換されていても良い芳香族環が単結合で3つまで結合した構造及びメチレン基のいずれかを表す。R2は−COO-Mの(Mは、水素原子、1価または多価の金属カチオンを表す)構造を表す。mは0から30までの整数を表す。)
【請求項6】
顔料と、ポリマー化合物と、水性溶媒とを含有するインクジェット用インクにおいて、該ポリマー化合物が、疎水性ユニット及び親水性ユニットのグラジエントポリマー構造を有し、かつ50℃以上のガラス転移温度を有することを特徴とするインクジェット用インク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−195770(P2008−195770A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−30399(P2007−30399)
【出願日】平成19年2月9日(2007.2.9)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】