説明

液封入式防振装置

【課題】通常振幅の振動入力時の高減衰特性を確保しつつ、大振幅の振動入力時のキャビテーションの発生を抑制できる液封入式防振装置を提供すること。
【解決手段】ダイヤフラム30は、ゴム状弾性体から膜状に構成される可撓部31に金属材料から円環状に構成される円環部33を一体に成形した構成であるので、大振幅の振動入力時には、外周膜部31aの膨張(変形)を円環部33の剛性により阻害して、ダイヤフラム30の拡張ばね定数を高くでき、その結果、キャビテーションの発生を抑制することができる。一方、通常振幅の振動入力領域では、円環部33自体が中央膜部31c及び外周膜部31aと共に変位することで、ダイヤフラム30の拡張ばね定数を低くできる。その結果、液体流動効果を効率的に発揮させ、減衰性能を十分に確保することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液封入式防振装置に関し、特に、通常振幅の振動入力時の高減衰特性を確保しつつ、大振幅の振動入力時のキャビテーションの発生を抑制できる液封入式防振装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車のエンジンを支持固定しつつ、エンジン振動を車体フレームへ伝達させないようにする防振装置として、液封入式防振装置が知られている。
【0003】
液封入式防振装置は、一般に、エンジン側に取り付けられる第1取付け具と、車体フレーム側に取り付けられる第2取付け具とがゴム状弾性体から構成される防振基体で連結され、第2取付け具に取付けられたダイヤフラムと防振基体との間に液封入室が形成されている。液封入室は、仕切り体によって主液室と副液室とに仕切られると共に、これら主液室および副液室は、オリフィスによって互いに連通されている。
【0004】
この液封入式防振装置によれば、オリフィスによる主液室および副液室の間の液体流動効果や防振基体の制振効果により、振動減衰機能と振動絶縁機能とを果すことができる。
【0005】
ところで、このような液封入式防振装置では、大振幅の振動入力時にキャビテーションが発生することがある。キャビテーションは、大振幅の振動入力によって第1取付け具と第2取付け具とが互いに離間する方向へ相対的に変位して、主液室内の圧力が飽和蒸気圧よりも低くなった場合に、液体中の溶存気体が遊離して気泡を生じる現象であり、気泡が潰れる際に衝撃が発生するため、異音や振動の原因となる。
【0006】
そこで、大振幅の振動入力時のキャビテーションの発生を抑制する技術が提案されている。例えば、特開平8−170683号には、ダイヤフラム5との間に空気室9を形成する第2取付金具5を筒状金具3の外周へ圧入により組み付ける構成とし、その第2取付金具5の圧入に伴って空気室9の内圧を昇圧させる技術が開示されている。
【0007】
この技術によれば、空気室9の内圧およびダイヤフラム5の変形を介して液体封入室8の液体を高圧化することができるので、大振幅の振動入力時のキャビテーションの発生を抑制することができる(特許文献1)。
【特許文献1】特開平8-170683号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述した従来の技術では、空気室の内圧を高圧化する構成であるため、ダイヤフラムの拡張ばね定数が常に高い状態となり、液体流動の抵抗となる。そのため、通常振幅の振動入力領域において、オリフィスによる主液室および副液室の間での液体流動効果が得られにくくなり、減衰性能を十分に確保することができないという問題点があった。
【0009】
本発明は上述した問題点を解決するためになされたものであり、通常振幅の振動入力時の高減衰特性を確保しつつ、大振幅の振動入力時のキャビテーションの発生を抑制できる液封入式防振装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的を達成するために、請求項1記載の液封入式防振装置は、第1取付け具と、筒状の第2取付け具と、前記第2取付け具および前記第1取付け具を連結すると共にゴム状弾性体から構成される防振基体と、前記第2取付け具に取付けられて前記防振基体との間に液体封入室を形成するダイヤフラムと、前記液体封入室を前記防振基体側の主液室と前記ダイヤフラム側の副液室とに仕切る仕切り手段と、前記主液室および副液室を互いに連通させるオリフィスとを備えたものであり、前記ダイヤフラムは、金属材料から上面視円環状に構成され前記第2取付け具に取り付けられる取付け部と、前記取付け部の中央開口に配設されると共に金属材料または樹脂材料から上面視円環状に構成される円環部と、前記円環部および取付け部と一体に成形されると共にゴム状弾性体から膜状に構成される可撓部とを備え、前記可撓部は、前記取付け部の内周側と前記円環部の外周側とを連結してこれら取付け部と円環部との間を塞ぐ外周膜部と、前記円環部の中央開口を塞ぐ中央膜部とを備え、大振幅の入力変位が圧縮方向と引張方向とに交互に向きを変える正弦波形で入力される場合に、前記主液室における圧力の応答波形が入力波形と異なる波形となり、前記主液室における圧力が正圧となる際の応答波形よりも負圧となる際の応答波形の方が時間軸方向の幅が狭くなる。
【0011】
請求項2記載の液封入式防振装置は、請求項1記載の液封入式防振装置において、前記ダイヤフラムは、軸心周りに対称な形状に構成され、前記円環部は、前記取付け部の内径寸法に対し、外径寸法が1/2以上に設定されると共に内径寸法が1/3以上に設定されている。
【0012】
請求項3記載の液封入式防振装置は、請求項2記載の液封入式防振装置において、前記軸心を含む前記ダイヤフラムの断面は、液圧の非作用状態において、前記可撓部の中央膜部が前記仕切り手段に近接する方向へ向けて凸となる円弧形状に構成されると共に、前記可撓部の外周膜部が前記中央膜部と反対側へ向けて凸となる円弧形状に構成され、かつ、前記円環部が前記軸心と直交する方向に延設されている。
【発明の効果】
【0013】
請求項1記載の液封入式防振装置によれば、ダイヤフラムは、金属材料から上面視円環状に構成され第2取付け具に取り付けられる取付け部と、その取付け部の中央開口に配設されると共に金属材料または樹脂材料から上面視円環状に構成される円環部との間をゴム状弾性体から膜状に構成される外周膜部で連結すると共に、円環部の中央開口をゴム状弾性体から膜状に構成される中央膜部で塞ぐ構成(即ち、ゴム状弾性体から膜状に構成される可撓部に金属材料または樹脂材料から円環状に構成される円環部を一体に成形した構成)であるので、ダイヤフラムを大きく膨張させる場合には、可撓部(外周膜部、中央膜部)の膨張(変形)を円環部の剛性により阻害して、ダイヤフラムの拡張ばね定数を高くすることができる。
【0014】
これにより、大振幅の入力変位が圧縮方向と引張方向とに交互に向きを変える正弦波形で入力される場合に、主液室における圧力の応答波形を入力波形と異なる波形とし、主液室における圧力が正圧となる際の応答波形よりも負圧となる際の応答波形の方が時間軸方向の幅が狭くなるようにする(圧力低下時にその低下を抑えると共に圧力上昇時にその上昇を早める)ことができるので、大振幅の振動入力時において、主液室内の圧力低下を抑制して、キャビテーションの発生を抑制することができるという効果がある。
【0015】
一方で、ダイヤフラムを上記構成とすることで、かかるダイヤフラムを通常振幅の振動入力領域で膨張させる場合には、中央膜部および外周膜部に弾性支持された円環部自体が中央膜部および外周膜部と共に変位することで、可撓部(外周膜部、中央膜部)全体としての変形を確保して、その剛性を低い状態を保つことができる。これにより、ダイヤフラムの拡張ばね定数を低くして、ダイヤフラムが液体流動の抵抗となることを回避することができるので、通常振幅の振動入力領域において、オリフィスによる主液室および副液室の間での液体流動効果を効率的に発揮させ、減衰性能を十分に確保することができるという効果がある。
【0016】
なお、このようなダイヤフラムの拡張ばね定数の振幅依存性は、従来のダイヤフラム構造(ゴム状弾性体のみから構成されるもの)では付与することが不可能であり、本発明のように円環部を可撓部に埋設することで初めて付与可能となったものであり、これにより大振幅の振動入力時のキャビテーションの発生抑制と通常振幅の振動入力時の減衰特性の向上とを同時に達成することができる。
【0017】
請求項2記載の液封入式防振装置によれば、請求項1記載の液封入式防振装置の奏する効果に加え、円環部の外径寸法を取付け部の内径寸法の1/2以上に設定すると共に円環部の内径寸法を取付け部の内径寸法の1/3以上に設定し、円環部の外周側と取付け部の内周側とを連結する外周膜部の幅を比較的狭くすると共に、円環部の中央開口を塞ぐ中央膜部の直径を比較的大きくする構成であるので、ダイヤフラムの拡張ばね定数に振幅依存性を持たせて、通常振幅の振動入力領域における減衰特性の確保と大振幅の振動入力時におけるキャビテーションの発生抑制との両立を図ることができるという効果がある。
【0018】
例えば、上記構成とは逆に外周膜部の幅を比較的広くすると共に、中央膜部の直径を比較的小さくする構成であると、ダイヤフラムの拡張ばね定数に振幅依存性を持たせることができず、通常振幅の振動入力領域における減衰特性の確保と大振幅の振動入力時におけるキャビテーションの発生抑制との両立を図ることができない。
【0019】
即ち、円環部の外径寸法を取付け部の内径寸法の1/2よりも小さく設定すると、円環部の外周側と取付け部の内周側とを連結する外周膜部の幅が広くなり過ぎるため、ダイヤフラムを大きく膨張させる場合に、可撓部(外周膜部)の膨張(変形)を円環部の剛性により阻害することができず、ダイヤフラムの拡張ばね定数を増加させることが困難となり、ダイヤフラムを通常振幅の振動入力領域で膨張させる際の拡張ばね定数との差を十分に得ることができなくなる。その結果、通常振幅の振動入力領域における減衰特性は確保することはできるが、大振幅入力時におけるキャビテーションの発生を抑制することができない。
【0020】
また、円環部の内径寸法(中央開口の直径)を取付け部の内径寸法の1/3よりも小さく設定すると、円環部の中央開口を塞ぐ中央膜部の直径(即ち、表面積)を十分に確保することができないため、ダイヤフラムを通常振幅の振動入力領域で膨張させる場合でも、ダイヤフラムの拡張ばね定数が高くなり過ぎる。その結果、大振幅入力時におけるキャビテーションの発生を抑制することはできるが、通常振幅の振動入力領域における減衰特性を確保することができない。
【0021】
これに対し、本発明によれば、円環部の外径寸法及び内径寸法を取付け部の内径寸法に対して上記構成とする(即ち、外周膜部の幅を比較的狭くすると共に中央膜部の直径を比較的大きくする)ことで、ダイヤフラムを大きく膨張させる場合には、可撓部(外周膜部)の膨張(変形)を円環部の剛性により阻害して、ダイヤフラムの拡張ばね定数を効果的に増加させることができる。一方、ダイヤフラムを通常振幅の振動入力領域で膨張させる場合には、中央膜部自体の変形と、中央膜部および外周膜部に弾性支持された円環部自体を中央膜部および外周膜部と共に変位させることで可撓部(外周膜部、中央膜部)全体としての変形とを確保して、その剛性を低い状態を保つことで、ダイヤフラムの拡張ばね定数を低くすることができる。
【0022】
これにより、ダイヤフラムに振幅依存性を持たせることができるので、大振幅の振動入力時において、主液室内の圧力低下を抑制して、キャビテーションの発生を抑制することができると共に、通常振幅の振動入力領域において、オリフィスによる主液室および副液室の間での液体流動効果を効率的に発揮させ、減衰性能を十分に確保することができるという効果がある。
【0023】
請求項3記載の液封入式防振装置によれば、請求項2記載の液封入式防振装置の奏する効果に加え、軸心を含むダイヤフラムの断面形状は、液圧の非作用状態において、中央膜部が仕切り手段に近接する方向へ向けて凸となる円弧形状に構成されると共に、外周膜部が中央膜部と反対側へ向けて凸となる円弧形状に構成され、かつ、円環部が軸心と直交する方向に延設される構成であるので、ダイヤフラムの拡張ばね定数に振幅依存性をより顕著に発揮させて、通常振幅の振動入力領域における減衰特性の確保と大振幅の振動入力時におけるキャビテーションの発生抑制との両立をより一層図ることができるという効果がある。
【0024】
ここで、防振装置が車両に取り付けられた状態では、防振装置にはエンジン等の被支持体の重量が分担荷重として入力されているので、第1取付け具と第2取付け具との相対距離が縮まり、主液室の体積の減少に伴って、副液室の体積が増加される。そのため、ダイヤフラムは、分担荷重が入力される前の状態(非液圧作用状態)と比較して、振動の未入力状態であっても、膨張した状態にある。
【0025】
この場合、本発明によれば、中央膜部が仕切り手段に近接する方向へ向けて凸となる円弧形状に構成されているので、上述した分担荷重の入力に対するダイヤフラムの膨張は、主に、中央膜部の中央付近又は全体が反転変形する(凸の方向が逆方向となるように裏返る)ことで行われ、中央膜部の剛性を低い状態に保つことができる。同時に、中央膜部が主に変形されることで、外周膜部の剛性も低い状態に保つことができる。
【0026】
よって、本発明のように、可撓部に円環部を一体に成形する構成であっても、ダイヤフラムを通常振幅の振動入力領域で膨張させる場合には、中央膜部自体の変形と、中央膜部および外周膜部に弾性支持された円環部自体を中央膜部および外周膜部と共に変位させることで可撓部(外周膜部、中央膜部)全体としての変形とを確保することができる。これにより、ダイヤフラムの拡張ばね定数を低くして、ダイヤフラムが液体流動の抵抗となることを回避することができるので、通常振幅の振動入力領域において、オリフィスによる主液室および副液室の間での液体流動効果を効率的に発揮させ、減衰性能を十分に確保することができるという効果がある。
【0027】
一方、本発明によれば、外周膜部が中央膜部と反対側へ向けて凸となる円弧形状に構成され、かつ、円環部が軸心と直交する方向に延設される構成であるので、ダイヤフラムを大きく膨張させる場合には、円環部により可撓部(外周膜部)の膨張(変形)を阻害する機能をより顕著に発揮させて、ダイヤフラムの拡張ばね定数を効果的に増加させることができる。これにより、大振幅の振動入力時において、主液室内の圧力低下を抑制して、キャビテーションの発生を抑制することができるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の好ましい実施の形態について、添付図面を参照して説明する。図1は、本発明の一実施の形態における液封入式防振装置100の断面図である。
【0029】
この液封入式防振装置100は、自動車のエンジンを支持固定しつつ、そのエンジン振動を車体フレームへ伝達させないようにするための防振装置であり、図1に示すように、エンジン側に取り付けられる第1取付け金具1と、エンジン下方の車体フレーム側に取付けられる筒状の第2取付け金具2と、これらを連結すると共にゴム状弾性体から構成される防振基体3とを備えている。
【0030】
第1取付け金具1は、アルミニウム合金などの金属材料から略円柱状に形成され、図1に示すように、その上端面(図1上側面)には、エンジン側の取付けボルトが締結される締結孔1aが凹設されると共に、その締結孔1aの側方には、位置決め凸部1bが凸設されている。また、第1取付け部1の外周部には、略フランジ状の突出部が形成されており、この突出部がスタビライザー金具9と当接することで、大変位時のストッパ作用が得られるように構成されている。
【0031】
第2取付け金具2は、図1に示すように、防振基体3が加硫成形される筒状金具4と、その筒状金具4の下方に取着される底金具5とを備えて構成されている。筒状金具4は上広がりの開口を有する筒状に、底金具5は底部を有するカップ状に、それぞれ鉄鋼材料などから形成されている。なお、底金具5の底部には、2本の取付けボルト6が突設されている。
【0032】
防振基体3は、図1に示すように、ゴム状弾性体から円錐台形状に形成され、第1取付け金具1の下面側と筒状金具4の上端開口部との間に加硫接着されている。また、防振基体3の下端部には、筒状金具4の内周面を覆うゴム膜3aが連なっており、このゴム膜3aには、後述する仕切り金具20の外周側が密着され、オリフィス25が形成される。
【0033】
ダイヤフラム30は、図1に示すように、ゴム状弾性体から部分球状を有するゴム膜状に形成される可撓部31と、その可撓部31と一体に加硫成形されると共に金属材料から上面視円環状に構成される取付け部32および円環部33とを備え、図1に示すように、取付け部32が仕切り金具20と共に筒状金具4と底金具5との間でかしめ固定されることで、第2取付け金具2に取着されている。その結果、ダイヤフラム30と防振基体3の下面との間には、液体封入室11が形成されている。
【0034】
この液体封入室11には、図示しない不凍性の液体(本実施の形態では、エチレングリコールと水との重量比が7:3のエチレングリコール水溶液。なお、常温(25℃)での飽和蒸気圧は0.1MPaとなる。)が封入される。また、液体封入室8は、後述する仕切り金具20によって、防振基体3側の主液室11Aと、ダイヤフラム9側の副液室11Bとの2室に仕切られている。
【0035】
仕切り金具20は、図1に示すように、金属板をプレス加工することで円盤状に形成されており、その下端縁から外方へ張り出す張り出し部21がダイヤフラム20の取付け部32と共に筒状金具4と底金具5との間でかしめ固定されることで、第2取付け金具2に取着されている。
【0036】
仕切り金具20は、外周面の中央部が内側へ向けて窪んで形成されており、その外周面と第2取付け金具2の内周面を覆うゴム膜3aとの間には、図1に示すように、オリフィス25が形成されている。このオリフィス25は、主液室11Aと副液室11Bとを連通させ、これら両液室11A,11B間で液体を流動させるためのオリフィス流路であり、仕切り金具20の外周面に沿って形成されている。
【0037】
なお、オリフィス流路は、仕切り金具20の外周面に形成されゴム膜3aに密着される縦壁(図示せず)により分断(区画)されており、図1に示すように、一端側が第1開口22を介して主液室11Aに連通されると共に、他端側が第2開口23を介して副液室11Bに連通されている。
【0038】
次いで、図2から図5を参照して、ダイヤフラム30の詳細構成について説明する。図2(a)は、ダイヤフラム30の上面図であり、図2(b)は、図2(a)のIIb−IIb線におけるダイヤフラム30の断面図である。
【0039】
ダイヤフラム30は、上述したように、防振基体3の下面との間に液体封入室11を形成するための部材であり(図1参照)、拡張ばね定数が振幅依存性を有するように構成されている。なお、拡張ばね定数とは、ダイヤフラム30を膨張させ、副液室11Bの容積を単位容積だけ変化させるのに要する力(圧力)を意味する。
【0040】
図2(a)及び図2(b)に示すように、ダイヤフラム30は、可撓部31と、取付け部32と、円環部33とを備え、軸心O周りに対称な円板形状に構成されている。可撓部31は、図2(a)及び図2(b)に示すように、ゴム状弾性体から部分球状を有するゴム膜状に形成される部位であり、外周膜部31aと、平行部31bと、中央膜部31cとを主に備え、取付け部32及び円環部33と加硫成形により一体に成形されている。
【0041】
ここで、図3及び図4を参照して、取付け部32及び円環部33の詳細構成について説明する。図3(a)は、取付け部32の上面図であり、図3(b)は、図3(a)のIIIb−IIIb線における取付け部32の断面図である。
【0042】
取付け部32は、可撓部31及び円環部33と一体に成形(加硫成形)される部材であり、図3(a)及び図3(b)に示すように、取付け平板部32aと、筒部32bとを備え、金属材料から軸心O周りに対称な形状に形成されている。
【0043】
取付け平板部32aは、筒状金具4と底金具5との間でかしめ固定される部位であり(図1参照)、軸心Oに対して直交すると共に上面視円環状の平板として構成される。筒部32bは、取付け部32を補強するための部位であり、軸心Oを中心として平行に延びる筒状に構成され、取付け平板部32aの内周側に連接されている。なお、取付け部32(筒部32b)の内径寸法はD1とされている。
【0044】
ここで、取付け部32は、外周縁側が筒状金具4と底金具5との間でかしめ固定される一方で(図1参照)、内周縁側に可撓部31(外周膜部31a)が連結される構成であり(図2又は図5参照)、大振幅の入力時には、後述する円環部33による膜剛性の増加効果に伴って、取付け平板部32aに大きな曲げ変形が作用する。
【0045】
この場合、取付け平板部32aが曲げ変形したのでは、大振幅の振動入力時に、ダイヤフラム9の拡張ばね定数を高くすることができなくなる。そこで、本実施の形態における液封入式防振装置100では、上述したように、取付け平板部32aの内周側に筒部32bを連設する構成であるので、大振幅の振動入力によりダイヤフラムを大きく膨張する場合には、取付け部32(取付け平板部32a)の曲げ変形を抑制して、ダイヤフラムの拡張ばね定数を高くすることができる。その結果、キャビテーションの発生のより一層の抑制を図ることができる。
【0046】
図4(a)は、円環部33の上面図であり、図4(b)は、図4(a)のIVb−IVb線における円環部33の断面図である。円環部33は、可撓部31及び取付け部33と一体に成形(加硫成形)される部材であり、図4(a)及び図4(b)に示すように、円環平板部33aと、傾斜部33bとを備え、金属材料から軸心O周りに対称な形状に形成されている。
【0047】
円環平板部33aは、軸心Oに対して直交すると共に上面視円環状の平板として構成され、傾斜部33bは、円環平板部33aの外周縁に連接されると共に軸心Oに対して略45度をなす角度で下降傾斜して形成されている。
【0048】
このように、円環平板部33aと傾斜部33bが所定の傾斜角を有して連接されていることで、ダイヤフラム9は、後述するように、大振幅の振動入力時において、可撓部31の剛性を増加させつつ、可撓部31の耐久性の向上を図ることができる。
【0049】
なお、円環平板部33aと傾斜部33bとの連接部(接続部)は、円弧状に湾曲して形成されている。また、円環部33(傾斜部33b)の外径寸法はD2とされ、円環部33(円環平板部33a)の内径寸法はD3とされている。
【0050】
図2に戻って説明する。可撓部31は、上述したように、外周膜部31aと、平行部31bと、中央膜部31cとを主に備え、これら各部31a〜31cがゴム状弾性体から軸心O周りに対称な膜状に構成されると共に、上述した取付け部32及び円環部33と加硫成形により一体に成形されている。
【0051】
外周膜部31aは、図2(a)及び図2(b)に示すように、取付け部32の内周側と円環部33の外周側とを連結して、これら取付け部32と円環部33との間の隙間を塞ぐ部位であり、仕切り金具20(図1参照)と反対側へ向けて凸の円弧状に湾曲して形成されている。
【0052】
平行部31bは、図2(a)及び図2(b)に示すように、円環部33の上下両面(図2(b)上側面及び下側面)を覆う部位であり、軸心Oに対して直交すると共に上面視円環状の膜状に形成されている。
【0053】
中央膜部31cは、図2(a)及び図2(b)に示すように、円環部33の中央開口(内周側)を塞ぐ部材であり、軸心Oを含む断面形状が仕切り金具20(図1参照)側へ向けて凸の円弧状に湾曲して形成されている。即ち、中央膜部31cは、外周膜部31aとは逆方向へ向けて凸の円弧状とされている。
【0054】
このように、軸心Oを含むダイヤフラム30の断面形状は、液圧の非作用状態において、中央膜部31cが仕切り金具20(図1参照)に近接する方向(図2(b)上方)へ向けて凸となる円弧形状に構成されると共に、外周膜部31aが中央膜部31cと反対側(図2(b)下方)へ向けて凸となる円弧形状に構成され、かつ、円環部33の円環平板部33aが軸心Oと直交する方向(図2(b)左右方向)に延設される構成であるので、ダイヤフラム30の拡張ばね定数に振幅依存性をより顕著に発揮させて、通常振幅の振動入力領域における減衰特性の確保と、大振幅の振動入力時におけるキャビテーションの発生抑制との両立をより一層図ることができる。
【0055】
ここで、液封入式防振装置100(図1参照)が車両に取り付けられた状態では、エンジン等の被支持体の重量が分担荷重として入力されているので、第1取付け金具1と第2取付け具2(筒状金具4)との相対距離が縮まり、主液室11Aの体積の減少に伴って、副液室11Bの体積が増加される。そのため、ダイヤフラム30(可撓部31)は、分担荷重が入力される前の状態(非液圧作用状態)と比較して、振動の未入力状態であっても、膨張した状態にある。
【0056】
この場合、本発明によれば、中央膜部31cが仕切り金具20に近接する方向へ向けて凸となる円弧形状に構成されているので、上述した分担荷重の入力に対するダイヤフラム30(可撓部31)の膨張は、主に、中央膜部31cの中央付近又は全体が反転変形する(凸の方向が逆方向となるように裏返る)ことで行われ、中央膜部31cの剛性を低い状態に保つことができる。同時に、中央膜部31cが主に変形されることで、外周膜部31aの剛性も低い状態に保つことができる。
【0057】
よって、本発明のように、可撓部31に円環部33を一体に成形する(埋め込む)構成であっても、ダイヤフラム30を通常振幅の振動入力領域で膨張させる場合には、中央膜部31c自体の変形と、中央膜部31cおよび外周膜部31aに弾性支持された円環部33自体を中央膜部31c及び外周膜部31aと共に変位させることで可撓部31(外周膜部31a、中央膜部31c)全体としての変形とを確保することができる。これにより、ダイヤフラム30の拡張ばね定数を低くして、ダイヤフラム30が液体流動の抵抗となることを回避することができるので、通常振幅の振動入力領域において、オリフィス25による主液室11Aおよび副液室11Bの間での液体流動効果を効率的に発揮させ(いずれも図1参照)、減衰性能を十分に確保することができる。
【0058】
一方、外周膜部31aが中央膜部31cと反対側へ向けて凸となる円弧形状に構成され、かつ、円環部33(平板円環部33a)が軸心Oと直交する方向に延設される構成であるので、ダイヤフラム30を大きく膨張させる場合には、円環部33により可撓部31(外周膜部31c)の膨張(変形)を阻害する機能をより顕著に発揮させて、ダイヤフラム30の拡張ばね定数を効果的に増加させることができる。これにより、大振幅の振動入力時において、主液室11A(図1参照)内の圧力低下を抑制して、キャビテーションの発生を抑制することができる。
【0059】
図5は、ダイヤフラム30の部分拡大断面図であり、図2(b)の一部を拡大した部分拡大図に対応する。なお、図5(及び、図2(a))は、請求項3に記載した「軸心を含むダイヤフラムの断面」に対応する。
【0060】
ダイヤフラム30は、図5に示すように、液圧の非作用状態(即ち、図5に示すダイヤフラム30の単品状態)において、軸心Oに対称な形状に構成され、取付け部32の内周側(中央開口)に円環部33が配設されると共に、これら両部32,33の取付け平板部32a及び円環平板部33aが共に軸心Oに直交した状態で配置されている。
【0061】
また、これら外周膜部31a、平行部31b及び中央膜部31cは、図5に示すように、いずれも同じ膜厚(膜厚寸法t)で構成されている。この膜厚寸法tは、取付け部32の内径寸法D1に対し、2%以上かつ5%以下の値に設定されることが好ましい。
【0062】
内径寸法D1に対し、膜厚寸法tが2%より小さい値になると、大振幅の振動入力時に可撓部31に破れが生じやすく、耐久性の低下を招く一方で、膜厚寸法tが5%を超える値になると、可撓部31の剛性が高くなり過ぎ、通常振幅の振動入力時における減衰特性の確保が困難となるからである。なお、本実施の形態では、内径寸法D1に対し、膜厚寸法tが3%に設定されている。
【0063】
外周膜部31aは、上述したように、中央膜部31cと反対側(即ち、仕切り金具20と反対側、図5下方)へ向けて凸となる円弧形状に構成されると共に、図5に示すように、円弧形状の径寸法が半径Raに設定されている。なお、半径Raは、外周膜部31aの厚み方向中央における径寸法に対応する。即ち、円弧形状の内周側(図5上側)における径寸法は半径Raより膜厚寸法tの半分だけ小さく、円弧形状の外周側(図5下側)における径寸法は膜厚寸法tの半分だけ大きくなる。
【0064】
ここで、外周膜部31aの円弧形状は、半径Raが、取付け部32の内周側と円環部33の外周側との間の離間寸法(即ち、(D1−D2)/2に相当する寸法)に対し、50%の値に設定されると共に、図5に示すように、円弧形状の中心が、円環部33(傾斜部33b)の下端(図5下側端)と一致する位置に配置されている。
【0065】
このように、外周膜部31aを軸心Oを含む断面形状において円弧形状のみ(即ち、直線状の部位を含まない形状)で構成することで、ダイヤフラム30を通常振幅の振動入力領域で膨張させる場合には、外周膜部31aの変形(円弧形状を直線状に伸ばす変形)と共に円環部33自体を上下(図5上下方向)へ変位させ易くして、その剛性を低い状態を保つことができ、ダイヤフラム30の拡張ばね定数を低くすることができる。一方、ダイヤフラム30を大きく膨張させる場合には、可撓部31(外周膜部31a)の膨張(変形)を円環部33の剛性により阻害し易くして、ダイヤフラム30の拡張ばね定数を効果的に増加させることができる。
【0066】
その結果、ダイヤフラム30に振幅依存性を持たせることができるので、大振幅の振動入力時において、主液室11A(図1参照)内の圧力低下を抑制して、キャビテーションの発生を抑制することができると共に、通常振幅の振動入力領域において、オリフィス25による主液室11A及び副液室11Bの間での液体流動効果を効率的に発揮させ(いずれも図1参照)、減衰性能を十分に確保することができる。
【0067】
平行部31bは、上述したように、円環部33の上下両面(図5上側面及び下側面)を覆う部位であり、図5に示すように、軸心Oに対して直交する方向へ延設されると共に、その両端が円弧状に湾曲して外周膜部31a及び中央膜部31cへ滑らかに接続されている。
【0068】
ここで、円環部33は、図5に示すように、円環平板部33aと傾斜部33bとが所定角度(45度)をなした状態で接続されると共に、外周側(図5右側)の端部(傾斜部33b)が軸心O方向視において外周膜部31aと重なる位置で平行部31b内に埋設されている。
【0069】
即ち、円環部33は、図5に示すように、円環平板部33aから外周膜部31aへ向けて傾斜部33bが下降傾斜され(円環部33が屈曲した形状に構成され)、円環平板部33aが平行部31bに埋設されると共に、傾斜部33bの一部が外周膜部31aの一部に埋設されている。
【0070】
これにより、ダイヤフラム30を大きく膨張させる場合には、円環部33の剛性だけでなく、外周膜部31aと円環部33との重なりによる効果および円環部33の形状を屈曲させた効果により、外周膜部31aの膨張(変形)を効率的に阻害して、ダイヤフラム30の拡張ばね定数を効果的に増加させることができる。その結果、大振幅の振動入力時において、キャビテーションの発生をより確実に抑制することができる。
【0071】
一方で、円環部33は、図5に示すように、内周側(図5左側)の端部(円環平板部33a)が軸心O方向視において中央膜部31cと重ならない位置で平行部31b内に埋設され、その内周側の端部と中央膜部31cとの間に隙間が形成されている。即ち、平行部31bは、中央膜部31cとの接続部側に円環部33が埋設されずゴム状弾性体のみから構成される非埋設部を備える。
【0072】
これにより、ダイヤフラム30を通常振幅の振動入力領域で膨張させる場合には、中央膜部31cの膨張(変位)が円環部33の剛性で阻害されることを抑制して、中央膜部31cの変形を確保する(剛性を低い状態に保つ)ことができるので、ダイヤフラム30の拡張ばね定数を低くすることができる。その結果、通常振幅の振動入力領域において、オリフィス25による主液室11A及び副液室11Bの間での液体流動効果を効率的に発揮させ(いずれも図1参照)、減衰性能を十分に確保することができる。
【0073】
また、上述したように、ダイヤフラム30は、円環平板部33aに対して傾斜部33bを所定角度(45°)で下降傾斜させ、円環部33を平行部31b及び外周膜部31aの形状に沿う位置に配設する構成であるので、ダイヤフラム30が大きく膨張して円環部33が中央膜部31cと共に下方(仕切り金具20と反対側、図5下側)へ向けて変位される場合に、外周膜部31a及び外周膜部31aと平行部31bとの接続部の負担を軽減することができる。その結果、外周膜部31aや平行部31bの膜破れなどの破損を抑制して、その分、ダイヤフラム30の耐久性の向上を図ることができる。
【0074】
中央膜部31cは、上述したように、仕切り金具20(図1参照)側へ向けて凸となる円弧形状に構成されると共に、図5に示すように、円弧形状の径寸法は、半径Rcに設定されている。なお、半径Rcは、中央膜部31cの厚み方向中央における径寸法に対応する。即ち、円弧形状の外周側(図5上側)における径寸法は半径Rcより膜厚寸法tの半分だけ大きく、円弧形状の内周側(図5下側)における径寸法は膜厚寸法tの半分だけ小さくなる。
【0075】
ここで、中央膜部31cは、円弧形状の半径Rcが、円環部33の内径寸法D3に対し、55%以上かつ75%以下の範囲内に設定されると共に、図5に示すように、円弧形状のみ(即ち、直線状の部位を含まない形状)から構成されることが好ましい。
【0076】
上記範囲に設定するのは、半径Rcが内径寸法D3の75%より大きいと、膜長(円弧に沿う長さ)が短くなると共に分担荷重作用時の反転効果が弱くなるため、ダイヤフラム30を通常振幅の振動入力領域で膨張させる場合に、中央膜部31cの剛性を低い状態に保つことが困難となり、ダイヤフラム30の拡張ばね定数を低くすることができない一方、半径Rcが内径寸法D3の55%より小さいと、膜長(円弧に沿う長さ)が長くなるため、ダイヤフラム30を大きく膨張させる場合に、中央膜部31cの変形が大きくなり、可撓部31全体としての剛性が低くなるため、ダイヤフラム30の拡張ばね定数を効果的に増加させることができないからである。
【0077】
なお、本実施の形態では、半径Rcが内径寸法D3の65%に設定されている。これにより、ダイヤフラム30を通常振幅の振動入力領域で膨張させる場合には、中央膜部31cの剛性を低い状態に保ち、ダイヤフラム30の拡張ばね定数を低くすることができると共に、ダイヤフラム30を大きく膨張させる場合には、中央膜部31cの変形を抑制して、ダイヤフラム30の拡張ばね定数を効果的に増加させることができる。
【0078】
その結果、ダイヤフラム30に振幅依存性を持たせることができるので、大振幅の振動入力時において、主液室11A(図1参照)内の圧力低下を抑制して、キャビテーションの発生を抑制することができると共に、通常振幅の振動入力領域において、オリフィス25による主液室11A及び副液室11Bの間での液体流動効果を効率的に発揮させ(いずれも図1参照)、減衰性能を十分に確保することができる。
【0079】
ここで、本実施の形態では、円環部33の外径寸法D2が取付け部33の内径寸法D1の80%に設定されると共に(D2=0.8×D1)、円環部33の内径寸法D3が取付け部32の内径寸法D1の60%に設定されている(D3=0.6×D1)。
【0080】
これにより、取付け部32の内周側と円環部33の外周側との間の間隔(即ち、軸心Oに直行する方向での外周膜部31aの幅寸法、図5左右方向寸法)を比較的狭くすると共に、円環部33の内径寸法D3(即ち、円環部33の中央開口を塞ぐ中央膜部31cの直径、図5左右方向寸法)を比較的大きくすることができる。
【0081】
その結果、ダイヤフラム30の拡張ばね定数に振幅依存性を持たせて、通常振幅の振動入力領域における減衰特性の確保と大振幅の振動入力時におけるキャビテーションの発生抑制との両立を図ることができる。
【0082】
例えば、本実施の形態とは逆に、外周膜部31aの幅寸法(図5左右方向寸法)を比較的広く(例えば、円環部33の外径寸法D2を取付け部32の内径寸法D1の1/2より小さく)すると共に、中央膜部31cの直径(図5左右方向寸法)を比較的小さく(例えば、円環部33の内径寸法D3を取付け部32の内径寸法D1の1/3より小さく)する構成であると、ダイヤフラム30の拡張ばね定数に振幅依存性を持たせることができず、通常振幅の振動入力領域における減衰特性の確保と大振幅の振動入力時におけるキャビテーションの発生抑制との両立を図ることができない。
【0083】
即ち、円環部33の外周側と取付け部32の内周側とを連結する外周膜部31aの幅が広くなり過ぎると、ダイヤフラム30を大きく膨張させる場合に、可撓部31(外周膜部31a)の膨張(変形)を円環部33の剛性により阻害することができず、ダイヤフラム30の拡張ばね定数を増加させることが困難となり、ダイヤフラム30を通常振幅の振動入力領域で膨張させる際の拡張ばね定数との差を十分に得ることができなくなる。その結果、通常振幅の振動入力領域における減衰特性は確保することはできるが、大振幅入力時におけるキャビテーションの発生を抑制することができない。
【0084】
また、円環部33の中央開口を塞ぐ中央膜部31cの直径(即ち、表面積)が十分に確保されない場合には、ダイヤフラム30を通常振幅の振動入力領域で膨張させる場合でも、ダイヤフラム30の拡張ばね定数が高くなり過ぎる。その結果、大振幅入力時におけるキャビテーションの発生を抑制することはできるが、通常振幅の振動入力領域における減衰特性を確保することができない。
【0085】
これに対し、本発明のように、外周膜部31aの幅寸法(図5左右方向寸法)を比較的狭く(好ましくは、円環部33の外径寸法D2を取付け部32の内径寸法D1の1/2以上に設定)すると共に、中央膜部31cの直径(図5左右方向寸法)を比較的大きく(好ましくは、円環部33の内径寸法D3を取付け部32の内径寸法D1の1/3以上に設定)する構成であれば、ダイヤフラム30を大きく膨張させる場合には、可撓部31(外周膜部31a)の膨張(変形)を円環部33の剛性により阻害して、ダイヤフラム30の拡張ばね定数を効果的に増加させることができる。
【0086】
一方、ダイヤフラム30を通常振幅の振動入力領域で膨張させる場合には、中央膜部31c自体の変形と、中央膜部31c及び外周膜部31aに弾性支持された円環部33自体を中央膜部31c及び外周膜部31aと共に変位させることで可撓部31(外周膜部31a、中央膜部31c)全体としての変形とを確保して、その剛性を低い状態を保つことで、ダイヤフラム30の拡張ばね定数を低くすることができる。
【0087】
その結果、ダイヤフラム30に振幅依存性を持たせることができるので、大振幅の振動入力時において、主液室11A(図1参照)内の圧力低下を抑制して、キャビテーションの発生を抑制することができると共に、通常振幅の振動入力領域において、オリフィス25による主液室11A及び副液室11Bの間での液体流動効果を効率的に発揮させ(いずれも図1参照)、減衰性能を十分に確保することができる。
【0088】
なお、外周膜部31aの幅寸法(図5左右方向寸法)は膜厚寸法tの2倍以上として、或る程度の幅寸法を確保することが好ましい。即ち、取付け部32の内径寸法D1から膜厚圧寸法tの4倍を引いた値よりも円環部33の外径寸法D2が小さいことが好ましい(D2<D1−4t)。
【0089】
外周膜部31aの幅寸法を狭くし過ぎると、その外周膜部31aの半径Raを大きくする(即ち、直線状に近づける)必要が生じ、通常振幅の振動入力時において円環部33を変位させることが困難となる。そのため、可撓部31全体の剛性が高くなり、拡張ばね定数が高くなることで、通常振幅の振動入力時における減衰特性の低下を招く。
【0090】
これに対し、本発明のように、外周膜部31aの幅寸法(図5左右方向寸法)を膜厚寸法tの2倍以上とすることで、外周膜部31aを比較的小さな円弧状に湾曲させることができるので、円弧状に湾曲した外周膜部31aが変形することで円環部33を変位させる効果を確実に発揮させることができる。よって、可撓部31全体としての剛性を低い状態を保ち、拡張ばね定数を低くすることができるので、通常振幅の振動入力時における減衰特性の向上を図ることができる。
【0091】
また、円環部33の内径寸法D3は、円環部33の幅寸法(図5左右方向寸法)が膜厚寸法tの3倍以上となるように設定することが好ましい。即ち、円環部33の外径寸法D2と内径寸法D3との差が膜厚寸法tの6倍以上であることが好ましい(D3<D2−6t)。円環部33の幅寸法が狭すぎると、外周膜部31aの膨張(変形)を円環部33の剛性により阻害することが困難になると共に、中央膜部31cが占める面積比率が大きくなり過ぎることで、ダイヤフラム30の拡張ばね定数を増加させることができず、大振幅の振動入力時におけるキャビテーションの発生を招くからである。
【0092】
次いで、図6及び図7を参照して、液封入式防振装置100の特性評価結果について説明する。図6は、ダイヤフラム30の拡張ばね定数を示すグラフである。図6において、横軸は液封入式防振装置100への入力量hを、縦軸はダイヤフラム30の拡張ばね定数Kを、それぞれ示している。
【0093】
また、図6中に四角で示した「発明品」は上述したダイヤフラム30を備える液封入式防振装置100に対応し、図6中に三角で示した「従来品」は上述したダイヤフラム30に対して円環部33を省略した構成のダイヤフラムを備える液封入式防振装置に対応する。即ち、「発明品」と「従来品」との差異は、円環部33の有無のみであり、その他の構成は同一である。
【0094】
なお、入力量hは、エンジン等の被支持体の重量が分担荷重として液封入式防振装置100に入力された分担荷重負荷状態からの入力量に対応する。即ち、横軸が縦軸と交差する位置(入力量h=0mm)が分担荷重負荷状態である。
【0095】
よって、例えば、図6において、入力量h=2mmでの拡張ばね定数Kは、分担荷重負荷状態から圧縮変位が入力され、第1取付け金具1と第2取付け具2(筒状金具4)との相対距離が2mmだけ縮まると共に、主液室11Aの体積が減少し副液室11Bの体積が増加されることに伴って膨張された状態におけるダイヤフラム30の拡張ばね定数である。
【0096】
図6に示すように、「従来品」は、入力量hの増加に対する拡張ばね定数Kの変化が小さく、その変化は、入力量hが増加しても、拡張ばね定数Kが、ほぼ横ばいか若干低下する傾向である。
【0097】
一方、「発明品」は、通常振幅の振動入力領域の振幅に対応する範囲(即ち、入力量hが0mmから1mm程度の範囲)では、「従来品」と同様に、入力量hの増加に対する拡張ばね定数Kの変化は小さく、入力量hが増加しても、拡張ばね定数Kは、ほぼ横ばいの傾向にある。また、拡張ばね定数Kの値も従来品と大きな差異はない。
【0098】
しかし、「発明品」は、大振幅の振動入力に対応する範囲(即ち、入力量hが1mmを超える範囲)では、入力量hの増加と共に拡張ばね定数Kが大きく増加する傾向にある。即ち、「発明品」では、ダイヤフラム30の拡張ばね定数Kに振幅依存性を持たせることができる。
【0099】
その結果、通常振幅の振動入力時には、ダイヤフラム30の剛性(拡張ばね定数K)を低くすることができるので、オリフィス25による主液室11A及び副液室11Bの間での液体流動効果を効率的に発揮させ(いずれも図1参照)、減衰性能を十分に確保することができる。
【0100】
一方、大振幅の振動入力時には、ダイヤフラム30の剛性(拡張ばね定数K)を高くすることができるので、主液室11A(図1参照)内の圧力低下を抑制して、キャビテーションの発生を抑制することができる。
【0101】
即ち、大振幅の振動が入力され、ダイヤフラム30が大きく膨張した状態(例えば、図6の入力量h=2mm)では、拡張ばね定数Kが高くされているので、主液室11Aから副液室11Bへの液体の流れを流れ難くする(流動を鈍らせる)ことができる。これにより、主液室11A内に液体が十分に残っている状態を確保して、かかる主液室11A内を真空になり難い状態とする(即ち、主液室11Aの圧力低下を抑制する)ことができるので、入力方向が反転して、副液室11Bから主液室11Aへ流体が流れる状態となっても、主液室11A内の圧力低下を抑制して、キャビテーションの発生を抑制することができる。
【0102】
図7は主液室11A内の液圧変化を示すグラフである。このグラフは、液封入式防振装置100へ大振幅の振動(周波数:10Hz、振幅(入力変位L):2mm)を正弦波形で入力し、その際の主液室11A内における圧力Pの変化を測定した測定結果である。横軸は時間Tを、第1縦軸(図7左側)は主液室11Aにおける圧力Pを、第2縦軸(図7右側)は液封入式防振装置100への入力変位Lを、それぞれ示している。
【0103】
また、図7中に示した「発明品」「従来品」は、図6中に示した「発明品」「従来品」に対応し、図7では、「発明品」の圧力Pを実線で、「従来品」の圧力Pを2点鎖線で、それぞれ示す。また、図7では、入力変位Lを破線で示す。
【0104】
図7に示すように、「従来品」は、主液室11Aにおける圧力Pの応答波形が、液体(上述したエチレングリコール水溶液)の飽和蒸気圧となる0.1MPa以下の領域を除き、入力波形(正弦波形)と同じ変化の波形になることが分かる。
【0105】
これに対し、「発明品」は、図7に示すように、主液室11Aにおける圧力Pが正圧となる領域では「従来品」と応答波形がほぼ一致するが、主液室11Aにおける圧力Pが負圧となる領域では「従来品」と異なる応答波形を示しており、主液室11Aにおける圧力Pの応答波形が入力波形と異なる波形になっていることが分かる。
【0106】
具体的には、図7に示すように、「発明品」では、主液室11Aにおける圧力Pが正圧となる際の応答波形よりも負圧となる際の応答波形の方が時間軸方向(図7左右方向)の幅が狭くなっている。即ち、主液室11Aにおける圧力Pが正圧から負圧へ遷移する際には、「従来品」における圧力Pの減少速度(グラフの傾き)と比較して、「発明品」における圧力Pの減少速度(グラフの傾き)が小さく(緩やか)になっており、「従来品」よりも「発明品」がタイミングを遅らせてゆっくりと飽和蒸気圧まで圧力Pを減少させている。
【0107】
一方、飽和蒸気圧まで低下した主液室11Aにおける圧力Pが上昇する際には、「従来品」における圧力Pの変化と比較して、「発明品」における圧力Pが早いタイミングで上昇を開始している。即ち、「従来品」よりも「発明品」の方が、圧力Pの回復が早くなされており、飽和蒸気圧に留まる時間が短くされている。
【0108】
このように、本発明によれば、主液室11Aにおける圧力Pが低下することを遅らせつつ、その回復は早くすることができるので、主液室11Aから副液室11Bへの液体の流れを抑制して、その分、液圧の応答を鈍らせ、その結果、副液室11Bから主液室11Aへの液体の流動時には、その液体の流れを抑制することができる。これにより、大振幅の振動入力時において、主液室11A内の圧力低下を抑制して、キャビテーションの発生を抑制することができる。
【0109】
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。
【0110】
例えば、上記実施の形態では、円環部33を金属材料から構成する場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、可撓部31よりも剛性が高い材料であれば足りる趣旨である。よって、例えば、円環部33を樹脂材料(例えば、PPAなど)から構成しても良い。
【0111】
また、上記実施の形態では、円環部33が周方向に連続した円環状に構成される場合を説明したが(図4(a)参照)、必ずしもこれに限られるものではなく、他の構成とすることは当然可能である。例えば、円環部33の周方向の一部が分断されていても良い。
【0112】
また、上記実施の形態では、主液室11Aと副液室11Bとを1本のオリフィス25で連通したいわゆるシングルオリフィスタイプの液封入式防振装置100に本発明を適用する場合を説明したが、必ずしもこれに限られるわけではなく、本発明をいわゆるダブルオリフィスタイプの液封入式防振装置に適用することは当然可能である。
【0113】
なお、ダブルオリフィスタイプの液封入式防振装置とは、主液室と、第1及び第2の2つの副液室と、これら第1及び第2の副液室と主液室とをそれぞれ連通する第1及び第2の2本のオリフィスとを備え、第1及び第2の2本のオリフィスのそれぞれで、液体流動効果を発揮し得るように構成されるものをいう。
【図面の簡単な説明】
【0114】
【図1】本発明の一実施の形態における液封入式防振装置の断面図である。
【図2】(a)は、ダイヤフラムの上面図であり、(b)は、図2(a)のIIb−IIb線におけるダイヤフラム30の断面図である。
【図3】(a)は、取付け部の上面図であり、(b)は、図3(a)のIIIb−IIIb線における取付け部の断面図である。
【図4】(a)は、円環部の上面図であり、(b)は、図4(a)のIVb−IVb線における円環部の断面図である。
【図5】ダイヤフラムの部分拡大断面図である。
【図6】ダイヤフラムの拡張ばね定数を示すグラフである。
【図7】主液室内の液圧変化を示すグラフである。
【符号の説明】
【0115】
100 液封入式防振装置
1 第1取付け金具(第1取付け具)
2 第2取付け金具(第2取付け具)
3 防振基体
11 液体封入室
11A 主液室
11B 副液室
20 仕切り金具(仕切り手段)
25 オリフィス
30 ダイヤフラム
31 可撓部
31a 外周膜部
31c 中央膜部
32 取付け部
33 円環部
D1 取付け部の内径寸法
D2 円環部の外径寸法
D3 円環部の内径寸法
O 軸心

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1取付け具と、筒状の第2取付け具と、前記第2取付け具および前記第1取付け具を連結すると共にゴム状弾性体から構成される防振基体と、前記第2取付け具に取付けられて前記防振基体との間に液体封入室を形成するダイヤフラムと、前記液体封入室を前記防振基体側の主液室と前記ダイヤフラム側の副液室とに仕切る仕切り手段と、前記主液室および副液室を互いに連通させるオリフィスとを備えた液封入式防振装置において、
前記ダイヤフラムは、金属材料から上面視円環状に構成され前記第2取付け具に取り付けられる取付け部と、前記取付け部の中央開口に配設されると共に金属材料または樹脂材料から上面視円環状に構成される円環部と、前記円環部および取付け部と一体に成形されると共にゴム状弾性体から膜状に構成される可撓部とを備え、
前記可撓部は、前記取付け部の内周側と前記円環部の外周側とを連結して前記取付け部と円環部との間を塞ぐ外周膜部と、前記円環部の中央開口を塞ぐ中央膜部とを備え、
大振幅の入力変位が圧縮方向と引張方向とに交互に向きを変える正弦波形で入力される場合に、前記主液室における圧力の応答波形が入力波形と異なる波形となり、前記主液室における圧力が正圧となる際の応答波形よりも負圧となる際の応答波形の方が時間軸方向の幅が狭くなることを特徴とする液封入式防振装置。
【請求項2】
前記ダイヤフラムは、軸心周りに対称な形状に構成され、
前記円環部は、前記取付け部の内径寸法に対し、外径寸法が1/2以上に設定されると共に内径寸法が1/3以上に設定されていることを特徴とする請求項1記載の液封入式防振装置。
【請求項3】
前記軸心を含む前記ダイヤフラムの断面は、液圧の非作用状態において、前記可撓部の中央膜部が前記仕切り手段に近接する方向へ向けて凸となる円弧形状に構成されると共に、前記可撓部の外周膜部が前記中央膜部と反対側へ向けて凸となる円弧形状に構成され、かつ、前記円環部が前記軸心と直交する方向に延設されていることを特徴とする請求項2記載の液封入式防振装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−133379(P2009−133379A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−309132(P2007−309132)
【出願日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【出願人】(000003148)東洋ゴム工業株式会社 (2,711)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】