説明

液晶レンズ素子および光ヘッド装置

可動部がなく小型で、しかも安定した入射光の焦点変化に相当するパワー成分を含む球面収差補正が行える、レンズ機能を有する液晶レンズ素子を提供する。
一対の透明基板11、12に挟持する液晶16に印加する電圧の大きさに応じて、液晶16を透過する光の焦点距離を変化させる液晶レンズ素子であって、各透明基板11、12に設けた、液晶16に電圧を印加する透明電極13、14と、光軸に関して回転対称性を有する鋸歯状の断面形状を有し、透明電極13の一面に透明材料で形成した凹凸部17とを備え、少なくとも凹凸部17の凹部に液晶16を充填し、印加する電圧の大きさに応じて液晶16の実質的な屈折率を変化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶レンズ素子および光ヘッド装置に係り、特に印加電圧の大きさに応じて複数の異なる焦点距離に切り換えることができる液晶レンズおよびこの液晶レンズを搭載した光記録媒体への情報の記録および/または再生に使用する光ヘッド装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光入射側の面に形成された情報記録層と、この情報記録層を覆う透明樹脂からなるカバー層とを有する光記録媒体(以後、「光ディスク」という)として、CD用光ディスクやDVD用光ディスクなどが普及している。また、このDVD用光ディスクへの情報の記録および/または再生に用いる光ヘッド装置には、光源として波長が660nm帯の半導体レーザと、NA(開口数)が0.6から0.65までの対物レンズなどが用いられている。
【0003】
従来、一般に用いられているDVD用光ディスク(以下、「単層光ディスク」という)は、情報記録層が単層でカバー厚が0.6mmである。ところが、近年、光ディスク1枚当たりの情報量を増大させるために、情報記録層を2層とした(再生専用または再生および記録可能な)光ディスク(以下、「2層光ディスク」という)も開発されており、この2層光ディスクでは、光入射側のカバー厚が0.57mmおよび0.63mmの位置に情報記録層が形成されている。
【0004】
このように、単層光ディスクに対して収差がゼロとなるように最適設計された対物レンズを有する光ヘッド装置を用いて2層光ディスクへの記録および/または再生する場合、カバー厚が異なると、カバー厚の相違に応じて球面収差が発生し、情報記録層への入射光の集光性が劣化する。特に、記録型の2層光ディスクにおいて、集光性の劣化は記録時の集光パワー密度の低下に対応し、書き込みエラーを招くため問題となる。
【0005】
近年、さらに光ディスクの記録密度を向上させるため、カバー厚が0.1mmの光ディスク(以下、「BD用光ディスク」とよぶ)も提案されている。また、この光ディスクへの情報記録用の光ヘッド装置は、光源として波長が405nm帯のレーザ光を出射する半導体レーザと、NAが0.85の対物レンズとを備えるものが用いられる。ところが、この場合も、記録型の2層光ディスクについては、カバー厚の相違に応じて発生する球面収差が書き込みエラーを招くため、問題となる。
【0006】
従来、上述のような2層光ディスク等のカバー厚の相違に起因して発生する球面収差を補正する手段として、可動レンズ群や液晶レンズを用いる方法が知られている。
【0007】
(I)例えば、可動レンズ群を用いて球面収差補正を行うために、図16に示すような、光ディスクDの記録・再生を行う光ヘッド装置100が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
この光ヘッド装置100は、光源110と、各種の光学系120と、受光素子130と、制御回路140と、変調/復調回路150とのほかに、第1、第2の可動レンズ群160、170とを備えている。また、第1の可動レンズ群160は、凹レンズ161と、凸レンズ162と、アクチュエータ163とを備えており、アクチュエータ163に固定された凸レンズ162を光軸方向に移動することにより、可動レンズ群160のパワーが正(凸レンズ)から負(凹レンズ)へと連続的に変わる焦点距離可変レンズ機能を発現する。
【0008】
この可動レンズ群160は、光ディスクDの光路中に配置することにより、光ディスクDのカバー厚の異なる情報記録層(図略)に入射光の焦点を合わせることができるパワー成分を含む球面収差の補正が可能となる。
ところが、この可動レンズ群160を用いた場合、一対のレンズ161、162とアクチュエータ163とが必要となる分、光ヘッド装置100の大型化を招くとともに、可動させるための機構設計が複雑になる問題があった。
【0009】
(II)また、光ディスクのカバー厚の相違に起因して発生する球面収差を補正するために、図17に示すような液晶レンズ200を用いた光ヘッド装置も提案されている(例えば、特許文献2参照)。
この液晶レンズ200は、平坦な一面に透明電極210および配向フィルム220が形成された基板230と、軸対称で半径rのベキ乗の和である次式
【0010】
【数1】

【0011】
で記述される表面形状S(r)を有する曲面に透明電極240と配向フィルム250が形成された、基板260とにより狭持されるネマティック液晶270とを備えた構成となっている。
【0012】
この液晶レンズ200は、透明電極210、240間に電圧が印加されると、液晶270の分子配向が変化し、屈折率が変わる。その結果、基板260と液晶270の屈折率差に応じて、透過光の波面が変化する。
ここで、基板260の屈折率は電圧非印加時の液晶270に等しい。従って、この電圧非印加時の場合には、入射光の透過波面は変化しない。
一方、透明電極210、240間に電圧を印加すると、基板260と液晶270とに屈折率差△nが発生し、△n×S(r)(但し、S(r)は(1)式参照)に相当する透過光の光路長差分布が生じる。
従って、光ディスクDのカバー厚の相違に起因して発生する球面収差を補正するように基板260の表面形状S(r)を加工し、印加電圧に応じて屈折率差△nを調整することにより収差補正が可能となる。
【0013】
ところが、図17に記載の液晶レンズの場合、印加電圧に対する液晶270の屈折率変化は最大0.3程度であるため、入射光の焦点を変化させるパワー成分に相当する大きな光路長差分布△n×S(r)を発生させるためには、S(r)の凹凸差を大きくしなければならない。その結果、液晶270の層が厚くなり、駆動電圧の増加および応答が遅くなる問題が生じる。
そこで、液晶層を薄くするためには、パワー成分を除いた収差補正量が最も少ない球面収差のみを補正することが有効である。しかし、球面収差のみを補正するように基板260の表面形状S(r)を加工した場合、光ディスクの情報記録層に入射光を集光する対物レンズの光軸と液晶レンズの光軸とが偏心した時、コマ収差が発生してしまい、情報記録層への集光性が劣化して記録や再生ができない問題が生じる。
【0014】
(III)ところで、液晶層を厚くすることなく入射光の焦点変化に相当するパワー成分も可変とする実質的なレンズ機能を発現するために、図18に示すような液晶回折レンズ300も提案されている(例えば、特許文献3参照)。
この液晶回折レンズ300は、所定の鋸歯状レリーフが形成された基板310の片面に透明電極320が形成され、この透明電極320と対向電極330により液晶層340を狭持している。この電極320、330間に電圧を印加すると、異常光偏光に対して液晶層340の実質的な屈折率は異常光屈折率neから常光屈折率noへと変化する。ここで、「実質的な屈折率」とは液晶層の厚さ方向の平均屈折率を意味する。
【0015】
鋸歯状レリーフ構造を有する基板310の屈折率をn1、入射光の波長をλとしたときに、鋸歯状レリーフの溝の深さdが、次式の関係を満たすように
d=λ/(ne−n1
形成することにより、電圧非印加時に波長λで最大回折効率が得られ、回折レンズとなる。また、入射光の波長λが変化しても、波長λで最大回折となるように印加電圧を調整できる。
【0016】
このような構成の液晶回折レンズ300では、鋸歯状レリーフの溝を埋めるように液晶層340を充填すればよいため、前述の図17に示す液晶レンズ200を用いてパワー成分を含む球面収差を補正するタイプの液晶270に比べて、液晶層340は薄くできる。
【0017】
しかしながら、この液晶回折レンズ300では、鋸歯状レリーフ面に透明電極320が形成されているため、エッジ部でその透明電極320が断線しやすい。また、液晶層340を薄くすると、透明電極320と対向電極330が短絡しやすい。
【特許文献1】特開2003−115127号公報
【特許文献2】特開平5−205282号公報
【特許文献3】特開平9−189892号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、可動部のない小型な素子が実現可能であるとともに、液晶層が薄い液晶素子でありながら印加電圧の大きさに応じて安定した入射光の焦点変化に相当するパワー成分を含む球面収差補正が行える、レンズ機能を有する液晶レンズ素子を提供する。また、本発明は、この液晶レンズ素子を用いることにより、単層および2層光ディスクにおけるカバー厚の相違に起因して発生する球面収差を補正し、安定した記録および/または再生ができる光ヘッド装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、下記の要旨からなるものである。
1.焦点距離が可変の液晶レンズ素子であって、
それぞれ透明電極を備えた一対の透明基板と、
該一対の基板に備えられたそれぞれの透明電極の間に電圧を印加する電圧印加手段と、
透明材料で形成されており、液晶レンズ素子の光軸に関して回転対称性を有する鋸歯状の断面形状または鋸歯を階段形状に近似した断面形状を有するとともに、前記それぞれの透明電極のうち少なくとも一方の透明電極上に形成された凹凸部と、
少なくとも前記凹凸部の凹部に充填された液晶と、を備え、
前記透明電極間に前記電圧印加手段によって印加する電圧の大きさに応じて前記液晶の実質的な屈折率を変化させることを特徴とする液晶レンズ素子。
【0020】
この構成により、透明電極が透明基板の平坦面に形成され、さらにその上に波面収差を補正する凹凸部が形成されている。その結果、液晶を充填した液晶層に印加される電界の均一性が高く、液晶レンズ素子の面内で安定した動作が得られる。さらに、透明電極間隔が一定に確保されているため、電極間の短絡が生じにくい構造となる。また、鋸歯状の断面または鋸歯を階段形状で近似した断面形状を有する透明材料の凹部に液晶を充填しているため、液晶層の厚さを薄くできる。その結果、低電圧駆動および高速応答をもたらすことができる。なお、前記凹凸部はその透明基板面に対する各凸部および各凹部の高さ揃っている、すなわち鋸歯状の断面形状または鋸歯を階段形状に近似した断面形状において凸部に対する凹部の深さが揃っている、所謂フレネルレンズ形状とすることが好ましい。
【0021】
2.前記液晶は、常光屈折率noおよび異常光屈折率ne(但し、no≠ne)を有するとともに、前記印加する電圧の大きさに応じて液晶層の実質的な屈折率がnoからneまでの範囲の値に変化する液晶材料を用い、かつ、電圧非印加時の液晶分子の配向方向が液晶層内で特定方向に揃う特性を有しているとともに、前記凹凸部の透明材料は、少なくとも異常光偏光入射光に対して屈折率nsの透明材料であり、屈折率nsが、noとneとの間にある(屈折率nsの値がnoとneと等しい場合を含む)上記1に記載の液晶レンズ素子。
なお、前記凹凸部の透明材料は、異常光偏光入射光に対して屈折率nsであれば均一屈折率透明材料以外に複屈折材料であってもよい。
【0022】
この構成により、印加電圧の大きさに応じて液晶と凹凸部の透明材料の屈折率が異なる状態と一致する状態が発現する。これにより、パワー成分を含む球面収差を補正するように入射光の透過波面が変化するレンズ機能と入射光の透過波面が変化しない機能を切り換えできる液晶レンズ素子が得られる。特に、前記凹凸部の屈折率nsをneと一致させた場合、異常光偏光入射光に対し、電圧非印加時に凹凸部と液晶層で屈折率差が生じないため入射光の透過波面が変化しない機能が発現する。一方、前記凹凸部の屈折率nsをnoと一致させた場合、常光偏光入射光に対し、電圧非印加時に凹凸部と液晶層で屈折率差が生じないため入射光の透過波面が変化しない機能が発現する。透過波面変化の波長依存性はほとんどないため、液晶レンズ素子にBD用やDVD用やCD用などの複数の波長帯の光が入射しても透過波面が変化しない機能が発現する。
【0023】
3.前記凹凸部の透明材料は、屈折率ns
【0024】
【数2】

の関係を満たすとともに、前記凹凸部は、凹部の深さdが前記液晶を透過する光の波長λに対して、次式
【0025】
【数3】

の範囲である上記2に記載の液晶レンズ素子。
【0026】
なお、前記凹凸部の透明材料は、異常光偏光入射光に対して屈折率nsであれば均一屈折率透明材料以外に複屈折材料であってもよい。すなわち、前記凹凸部の透明材料は、屈折率ns
【0027】
【数4】

の関係を満たすとともに、前記凹凸部は、凹部の深さdが前記光の波長λに対して、前述の(2)式の範囲である上記の液晶レンズ素子を提供する。
【0028】
この構成により、液晶の分子配向方向に偏光面を有する直線偏光入射光に対して、印加電圧Vの大きさに応じて変化する液晶層の実質的な屈折率n(V)と凹凸部の透明材料の屈折率nsの差をΔn(V)=n(V)−nsとすると、凸部の透明材料と凹部の液晶との最大光路長差Δn(V)・dが印加電圧の大きさに応じて、ほぼ+mλから−mλ間で変化する。なお、Δn(V0)=0、すなわち液晶層の屈折率が凹凸部の透明材料の屈折率nsに等しくなる印加電圧V0において、入射光の透過波面が変化しない機能が発現する。
また、その前後の印加電圧で発生する透過波面のパワー成分が正(凸レンズ)および負(凹レンズ)に切り換わる機能も発現する。これにより、焦点距離、すなわちパワー成分、を含む球面収差を印加電圧によって切り換えることができる液晶レンズ素子が得られる。
【0029】
m=1の場合、印加電圧V+1、V-1(V+1<V0<V-1)においてΔn(V)・d=+λおよび−λとなり、
m=2の場合、m=1の場合に加えて、印加電圧V+2、V-2(V+2<V+1<V0<V-1-2)においてΔn(V)・d=+2λおよび−2λとなり、
m=3の場合、m=2の場合に加えて、印加電圧V+3、V-3(V+3<V+2<V+1<V0<V-1<V-2<V-3)においてΔn(V)・d=+3λおよび−3λとなる。
すなわち、mの値に応じて(2m+1)個の印加電圧値によって透過波面、すなわちパワー成分を含む球面収差を切り換えられる液晶レンズ素子となる。なお、中間の電圧値においてもパワー生成効果は発現する。
【0030】
前記凹凸部の凹部の深さdが(2)式を満たす時、このような機能が有効に発現するために、凹凸部材料の電気比抵抗ρFが液晶層の電気比抵抗ρLCに比べて充分低いことが好ましい。具体的にはρF/ρLCが10-5以下であることが好ましい。その結果、透明電極間に印加された電圧の内、凹凸部での電圧降下が軽減され、実効的に液晶層に電圧が印加される。
一方、凹凸部材料の電気比抵抗ρFが液晶層の電気比抵抗ρLCに比べて充分低くない場合、透明電極間の印加電圧Vに対して、凹凸部での電圧降下が生じ、実効的に液晶層に印加される電圧VLCが低下する。
凹凸部材料および液晶層が電気的に絶縁体と見なせる大きな電気比抵抗の場合、印加電圧Vは凹凸部の電気容量CFと液晶層の電気容量CLCに応じて配分され、液晶層に印可される電圧VLCが定まる。すなわち、透明電極間の鋸歯状の断面または鋸歯を階段形状で近似した断面形状の凹凸部と液晶層の厚さの比率に応じて変化する電気容量CFとCLCを調整することにより、電極間の平均屈折率すなわち光路長を凹凸部の形状に応じて調整することができる。その結果、入射光の透過波面が変化しない印加電圧V0、あるいは、透過波面のパワー成分が正(凸レンズ)となる印加電圧V+1、あるいは、透過波面のパワー成分が負(凹レンズ)となる印加電圧V-1が存在する。これにより、焦点距離、すなわちパワー成分、を含む球面収差を印加電圧によって切り換えることができる液晶レンズ素子が得られる。
【0031】
4.波長λの前記光に対する位相差がπ/2の奇数倍である位相板を一体化している上記1〜3のいずれか1項に記載の液晶レンズ素子。
【0032】
5.上記1に記載の液晶レンズ素子に、位相板が重ねて積層されている液晶レンズ素子。
この構成により、小型化が可能な単一の液晶レンズ素子を用いて、透過光の波面とともに偏光状態も変化させることができる。
【0033】
6.上記1に記載の液晶レンズ素子を、2つ重ねて積層されている液晶レンズ素子を提供する。
この構成により、この液晶レンズ素子の効果は、2つの液晶レンズの効果を加え合わせたものとなる。さらに、それぞれの液晶レンズ素子を構成する液晶分子の配向方向が直交する場合は、偏光状態にかかわらずレンズ効果を有し、また液晶分子の配向方向が平行で凹凸部の断面形状(輪体形状)が異なる場合はパワーの異なる液晶レンズとして作用する。
【0034】
7.上記1に記載の液晶レンズ素子に、偏光性回折格子と位相板がこの順に重ねて積層されている液晶レンズ素子。
この構成により、小型化が可能な単一の液晶レンズ素子を用いて、透過光の波面とともに偏光状態も変化させることができ、さらに偏光に依存した回折光を発生させることができる。
【0035】
8.波長λの光を出射する光源と、この光源からの出射光を光記録媒体に集光する対物レンズと、この対物レンズにより集光され前記光記録媒体により反射された光を分波するビームスプリッタと、前記分波された光を検出する光検出器とを備えた光ヘッド装置において、
前記光源と前記対物レンズとの間の光路中に、上記1から4のいずれか1項に記載の液晶レンズ素子を設置していることを特徴とする光ヘッド装置を提供する。
また、上記の液晶レンズ素子の何れかを備えた光ヘッド装置とすることにより、単層および2層光ディスクにおけるカバー厚の相違に起因して発生するパワー成分を含む球面収差を補正でき、液晶レンズ素子と対物レンズが偏心した位置関係においても安定した収差補正効果が得られるため、情報記録面への集光性が向上し、安定した記録および/または再生ができる光ヘッド装置が実現する。
【0036】
9.波長λ1および波長λ2(但し、λ1≠λ2)の光を出射する光源と、この光源からの出射光を光記録媒体に集光する対物レンズと、この対物レンズにより集光され前記光記録媒体により反射された出射光を検出する光検出器とを備えた光ヘッド装置において、前記光源と前記対物レンズとの間の光路中に、上記1から4のいずれかに記載の液晶レンズ素子を設置するとともに、
前記液晶レンズ素子に入射する前記波長λ1と波長λ2の光として、偏光面が互いに直交する直線偏光を用いることを特徴とする光ヘッド装置。
【0037】
10.前記光記録媒体は情報記録層を覆うカバー層を有し、このカバー層の厚さが異なる光記録媒体への記録および/または再生を行う上記8または9に記載の光ヘッド装置。
上記の液晶レンズ素子の何れかを備えた光ヘッド装置とすることにより、波長λ1の入射光に対しては印加電圧の大きさに応じて光ディスクにおけるカバー厚の相違に起因して発生する球面収差を補正するような機能を備えることできる。一方、波長λ2の入射光に対しては、印加電圧の大きさに関わらず、入射光の透過波面を変化させないような機能を備えることができる。その結果、波長λ1と波長λ2の光が液晶レンズ素子に入射する場合でも、波長λ2の光を用いる光ディスクの記録および/または再生において悪影響を与えない。
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、液晶層に印加される電界の均一性が高く、液晶レンズ素子面内で安定した動作が得られるとともに、透明電極間隔が一定に確保されているため、電極間の短絡が生じにくい構造となる。しかも、鋸歯状または鋸歯を階段形状で近似した断面形状を有する透明材料の凹部に液晶を充填しているため、液晶層の厚さを薄くできるようになり、低電圧駆動および高速応答につながる。換言すれば、可動部がなく小型化が可能でありながら、印加電圧に応じて安定したパワー成分を含む球面収差補正ができるレンズ機能を有する液晶レンズ素子を提供できる。
【0039】
また、この液晶レンズ素子を付加することにより、単層および2層光ディスクにおけるカバー厚の相違に起因して発生する球面収差を補正し、液晶レンズ素子と対物レンズとが偏心した場合でも安定した記録および/または再生ができる光ヘッド装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明に係る第1の実施形態の液晶レンズ素子の構成を示す側断面図。
【図2】図1に示す液晶レンズ素子の構成を示す平面図。
【図3】液晶レンズにより生成される透過波面の光路長差を示すグラフであって、αは横軸を半径rとし、光路長差を波長λ単位で表記したグラフ。βはαから波長λの整数倍を差し引き、ゼロ以上λ以下の光路長差としたグラフ。γは光路長差ゼロの面に対してβと面対称な光路長差を示すグラフ。
【図4】本発明の液晶レンズ素子への印加電圧を切り替えたときの作用を示す側面図であって、(A)は印加電圧V+1のときの収束透過波面を示す。(B)は印加電圧V0のときの波面変化のない透過波面を示す。(C)は印加電圧V-1のときの発散透過波面を示す。
【図5】本発明の液晶レンズ素子の側面図における透明電極間の拡大断面図。
【図6】位相板が一体化された本発明の第2の実施形態の液晶レンズ素子の構成を示す側断面図。
【図7】液晶分子の配向方向が互いに直交するように液晶レンズ素子が積層された本発明の第3の実施形態の液晶レンズ素子の構成を示す側断面図。
【図8】切り替える透過波面が異なる液晶レンズ素子が積層された本発明の第4の実施形態の液晶レンズ素子の構成を示す側断面図。
【図9】位相板と偏光性回折格子と回折格子が一体化された本発明の第5の実施形態の液晶レンズ素子の構成を示す側断面図。
【図10】光源と光検出器が単一パッケージに収められ、液晶レンズ素子が一体化された本発明に係る光ユニットの構成例を示す側面図。
【図11】本発明の第2の実施形態に係る液晶レンズ素子を搭載した第6の実施形態の光ヘッド装置を示す構成図。
【図12】本発明の第2の実施形態に係る液晶レンズ素子を搭載した第6の実施形態の光ヘッド装置の変形例を示す構成図。
【図13】本発明の第5の実施形態の液晶レンズ素子が一体化された光ユニットを搭載する第7の実施形態の光ヘッド装置を示す構成図。
【図14】本発明の液晶レンズ素子の電圧による焦点切り替えの測定例を示すグラフ。
【図15】本発明の液晶レンズ素子が搭載された光ヘッド装置を用い、カバー厚の異なるDVD光ディスクに対して発生する波面収差の計算値を示すグラフ。
【図16】可動レンズ群が球面収差補正素子として搭載された従来の光ヘッド装置を示す構成図。
【図17】従来の液晶レンズの構成例を示す側断面図。
【図18】従来の液晶回折レンズの構成例を示す側面図。
【符号の説明】
【0041】
1A、1B、61 半導体レーザ(光源)
1C 2波長光源
2A、2B、2C、53 回折格子
2C 波長選択性の回折格子
3 ダイクロイックプリズム
4 ビームスプリッタ
4B ホログラムビームスプリッタ
5 コリメータレンズ
6 対物レンズ
7 シリンドリカルレンズ
8、8A、8B、62 光検出器
10、10A、10B、10C、20、30、40、50 液晶レンズ素子
11、12、12A、12B、21 透明基板
13、13A、13B、14、14A、14B 透明電極
15、15A、15B シール
16、16A、16B、16C 液晶
17、17A、17B、17C 凹凸部
18、18A、18B 交流電源
22 位相板
51 複屈折回折格子
52 接着材層
60 光ユニット
63 金属ブロック
64 パッケージ
70、80、90 光ヘッド装置
D 光ディスク
【発明を実施するための最良の形態】
【0042】
以下、本発明の実施形態について、添付図面を参照しながら説明する。
[第1の実施形態]
本発明の第1の実施形態に係る液晶レンズ素子10の構成例について、図1に示す断面図と図2に示す平面図を参照しながら詳細に説明する。
本実施形態に係る液晶レンズ素子10は、透明基板11、12と、透明電極13、14と、シール15と、液晶(液晶層)16と、凹凸部17と、交流電源18とを備えている。
【0043】
このうち、凹凸部17は、透明材料、例えば本実施形態では、屈折率nsの均一屈折率透明材料を用いて形成し、断面が鋸歯状または鋸歯を階段状で近似した形状を有するものであり、有効径φの領域では入射光の光軸(Z軸)に対して回転対称性を有する。ここで、凹凸部17はその凸部に対する凹部の深さが揃っているフレネルレンズ形状とすることが好ましい。
【0044】
次に、この液晶レンズ素子10の作製手順の一例について、以下に説明する。
はじめに、透明基板11の一方の平坦面に透明電極13を形成する。さらに、この透明電極13の一方の平坦面(図1では上面)に、屈折率nsの均一屈折率透明材料で、断面が鋸歯状または鋸歯を階段状で近似した形状の凹凸部17を形成する。
【0045】
さらに、透明電極14が形成され透明基板12にギャップ制御材が混入された図示外の接着材を印刷パターニングしてシール15を形成し、前述の透明基板11と重ね合わせ、圧着して空セルを作製する。シール15の一部に設けられた注入口(図示せず)から常光屈折率noおよび異常光屈折率ne(但し、no≠ne)を有する液晶16を注入し、この注入口を封止して液晶16をセル内に密封し、本実施形態の液晶レンズ素子10とする。
【0046】
このようにして、凹凸部17の少なくとも凹部に液晶16が充填され、透明電極13、14に交流電源18を用いて矩形波の交流電圧を印加することにより、液晶16の分子配向が変化し、液晶(層)16の実質的な屈折率がneからnoまで変化する。その結果、印加電圧の大きさに応じて液晶16と凹凸部17の屈折率差△n(V)が変化し、入射光に対する透過光の波面が変化する。
【0047】
ここで、均一屈折率透明材料からなる凹凸部17は、紫外線硬化樹脂や熱効果樹脂、感光性樹脂などの有機材料でもよいし、SiO2やAl23やSiOxy(但し、x,yはOとNの元素比率を示す)などの無機材料でもよい。すなわち、均一屈折率透明材料の屈折率nsが、noまたはneを含むnoとneの中間の屈折率値を有する透明材料であればよい。
凹凸部17は、透明電極13の面に所定の膜厚の均一屈折率透明材料層を形成した後、フォトリソグラフィや反応性イオンエッチングにより凹凸状に加工してもよいし、金型を用いて均一屈折率透明材料層に凹凸部形状を転写してもよい。
【0048】
また、印加電圧に対して大きな屈折率差△n(V)の変化を得るために、凹部に充填される液晶16は、液晶レンズ素子10に入射する光の偏光面の方向に液晶分子の配向方向が揃っていることが好ましい。例えば、図2において、X軸方向に液晶分子の配向方向(すなわち、異常光屈折率neの方向)を揃え、X軸方向の偏光面を有する直線偏光を入射させる。
【0049】
液晶分子の配向方向をX軸方向に揃えるためには、透明電極14および凹凸部17の表面にポリイミドなどの配向材(図示せず)を塗布し、硬化後にX軸方向にラビング処理すればよい。凹凸部17の材料としてポリイミドを用い、その表面をラビング処理してもよい。ポリイミドのラビング処理以外に、SiO斜蒸着膜や光配向膜などを用いて液晶分子の配向を揃えてもよい。
【0050】
なお、透明基板11側に形成された電極141を通して透明電極14に電圧を印加するために、あらかじめシール15に導電性金属粒子を混入してシール圧着することにより、シール厚方向に導電性を発現させ、透明電極14と電極141を導通する。透明電極13に接続された電極131と透明電極14に接続された電極141に交流電源18を接続することにより、液晶12に電圧を印加できる。
【0051】
次に、鋸歯状または鋸歯を階段状で近似した凹凸部17の断面形状について以下に説明する。本発明の液晶レンズ10を用いて、光ディスクのカバー厚の相違に起因して発生する球面収差を補正する透過波面を生成するとともに、正または負のパワー成分が付与された透過波面を生成するためには、液晶レンズ10に入射する平面波の透過波面において、光軸中心(座標原点:x=y=0)の光線に対して半径r離れた位置を通過する光線の光路長差OPDが、次式のようなベキ級数
【0052】
【数5】

で記述されるようにする。
【0053】
ここで、横軸を半径rとし、光路長差OPDを入射光の波長λの単位で表記した曲線の具体例を図3に符号αで示す。
位相が揃ったコヒーレントな波長λの入射光の場合、λの整数倍の光路長差をもつ透過波面は同等と見なせる。従って、図3のαで示すグラフ(光路長差)を波長λ間隔で分割して光路長差ゼロの面に射影した光路長差を示すグラフβは、グラフαとは実質的に同等である。グラフβに示す光路長差は、全てλ以内であり、断面が鋸歯状となっている。
【0054】
ここで、凹凸部17の透明材料の電気体積抵抗率ρFが液晶16の電気体積抵抗率ρLCに比べて充分低い、具体的にはρF/ρLCが10-5以下の場合、透明電極13と14の間に印加された電圧は実効的に液晶16に印加される。
このような透明電極間の印加電圧と液晶16の印加電圧が略等しくなる条件(これを、「Case1」とする)の場合、凹凸部17の断面形状と液晶レンズ素子10の作用について以下に説明する。
【0055】
透明電極13、14に電圧Vを印加したとき、異常光偏光の光に対する液晶(層)16の実質的な屈折率をn(V)とすれば、均一屈折率透明材料からなる凹凸部17と液晶16の屈折率差は△n(V)=n(V)−nsである。
例えば、印加電圧V+1において、図3のグラフβに相当する透過波面の光路長差を生成するためには、図1に示す凹凸部11の深さdを、次式
【0056】
【数6】

の関係を満す値に穿設すればよい。ただし、△n(V+1)>0を満たす印加電圧V+1とする。
【0057】
ここで、印加電圧Vを変化させることにより、屈折率差△nが変化する。例えば、
i)△n(V0)=0となる印加電圧V0において、液晶レンズ素子10の透過波面は変化しない。また、
ii)△n(V-1)=−△n(V+1)となる印加電圧V-1において、図3のグラフγに示す光路長差の透過波面が生じる。これは、光路長差ゼロの面に対して図3のグラフβと面対称の光路長差の透過波面に相当する。
【0058】
ところで、凹凸部17を形成する均一屈折率透明材料の屈折率nsは、屈折率値がnoまたはneを含むnoとneとの間にある(屈折率nsの値がnoとneと等しい場合を含む)値であるため、電圧値V0およびV+1またはV-1が存在する。そこで、均一屈折率透明材料からなる凹凸部17は、液晶16の屈折率がn(V+1)およびn(V-1)のとき、図3のグラフβおよびグラフγに相当する光路長差空間分布となるように、鋸歯状あるいは鋸歯を階段状で近似した断面形状に加工する。
【0059】
本実施形態の液晶レンズ素子10において、凹凸部17を形成する均一屈折率透明材料の屈折率nsを、次式
【0060】
【数7】

の関係を満たすようにすると、
△n(V0)=0、
△n(V+1)=−△n(V-1)>0
となる電圧値V+1<V0<V-1が必ず存在する。
【0061】
従って、交流電源18について、印加電圧V+1、V0、V-1を切り替えることにより、3種類の透過波面を選択的に切り替えることが可能となる。また、
【0062】
【数8】

の範囲であれば、均一屈折率透明材料の屈折率nsが(no+ne)/2に略等しいといえる。
【0063】
また、液晶16の電圧非印加時の屈折率はneであり、印加電圧値V+1およびV-1の時、図3のグラフβおよびグラフγに相当する光路長差を生成するためには、凹凸部17の深さdを、次のような範囲
【0064】
【数9】

とすることが好ましい。これは、(2)式においてm=1の場合に相当する。
【0065】
ここで、印加電圧V+1、V0、V-1(但し、V+1<V0<V-1)において液晶レンズ10に入射した平面波は、それぞれ図4(A)、(B)、(C)に示す透過波面となって出射する。すなわち、透明電極13、14の印加電圧に応じて、正のパワー、パワーなし、負のパワーに対応するレンズ機能が得られる。
なお、電圧値V+1とV0の中間あるいは電圧値V0とV-1の中間の印加電圧Vにおいては、その電圧値Vに応じた割合で2種の透過波面(図4(A)と(B)に示す波面、または図4(B)と(C)に示す波面)が主に発生する。
【0066】
以上、Case1の条件における本実施形態では、図3のαで示す光路長差OPDを波長λ間隔で区切った光路長差OPDであるβを生成する液晶レンズ素子((2)式において、m=1に相当する)の形態について説明したが、(2)式においてm=2または3に相当する液晶レンズ素子の形態でもよい。この場合、図3のαを波長m・λ(ここでは、m=2または3)間隔で区切った光路長差OPDに対応した透過波面となる。
【0067】
凹凸部17の透明材料の電気体積抵抗率ρFが液晶16の電気体積抵抗率抗ρLCに比べて充分低くない場合、凹凸部17の透明材料の比誘電率εFとその膜厚dFに依存する電気容量CFと、液晶16の比誘電率εLCとその層厚dLCに依存する電気容量CLCに応じて、透明電極13と14の間に印加された電圧は凹凸部17と液晶(層)16に分配される。
即ち、凹凸部17と液晶(層)16のそれぞれを電気抵抗RF、RLCと電気容量CF、CLCを用いた電気等価回路において、透明電極間の交流周波数fの交流印加電圧Vに対して液晶(層)16の印加電圧VLCが算出できる。
【0068】
一方、凹凸部17および液晶16の電気体積抵抗率ρF、ρLCが充分大きく、電気等価回路において凹凸部17と液晶(層)16の電気容量CF、CLCにより凹凸部17と液晶(層)16への電圧配分が決定される場合、すなわちf×RF×CFおよびf×RLC×CLCが1より充分小さな条件(これを、「Case2」とする)の場合、凹凸部17の断面形状と液晶レンズ素子10の作用について以下に説明する。
【0069】
液晶レンズ素子10の断面図を示す図1において、透明電極13と14の間の凹凸部17および液晶16の拡大図を図5に示す。この図5において、透明電極13と14の間隔を一定値Gとする。また、凹凸部17の膜厚dFはゼロからdまで分布し、液晶16の層厚dLCはGからG−dまで分布している。ここで、dF+dLC(=G)は一定値である。
【0070】
Case2において、透明電極13、14間の交流印加電圧Vに対して、液晶(層)16に配分される印加電圧VLCの比率VLC/Vは、次式で記載される。
【0071】
【数10】

【0072】
ここで、凹凸部17の膜厚dFはフレネルレンズを形成する鋸歯状または鋸歯を階段形状で近似した断面形状に対応してゼロからdまで分布するため、dF/dLCはゼロからd/(G−d)まで分布する。その結果、液晶(層)16の印加電圧VLCは凹凸部17の形状に応じて空間分布が生じる。
液晶(層)16に効率よく電圧を印加するためには、(5)式の比率VLC/Vが増大するように比誘電率εFの大きな凹凸部17の材料とすることが好ましい。液晶(層)16の比誘電率εLCは約4以上であるため、4以上の比誘電率εFとすることが好ましい。
【0073】
また、一般に、液晶は、誘電率異方性を有し液晶分子長軸方向の比誘電率ε//と液晶分子短軸方向の比誘電率ε⊥が異なるため、電圧印加に伴い液晶分子の配向が変化し、液晶分子の配向変化により液晶(層)16の比誘電率εLCも変化する。従って、(5)式において、比誘電率εLCのVLCに応じた変化を反映し、凹凸部17の形状に応じた液晶(層)16の印加電圧VLCの空間分布が定まる。VLCがdFに応じて変化するため、これ以降VLC[dF]と表記する。なお、VLC[0]は電極間印加電圧Vに等しい。
【0074】
Case2の場合はCas1と異なり、液晶(層)16に印加される電圧VLCが凹凸部17の形状に応じて異なるため、異常光偏光の入射光に対する液晶(層)16の実質的な屈折率n(VLC[dF])に空間分布が生じる。図5において、凹凸部17の膜厚dFの位置の透明電極13と14の間の光路長はns×dF+n(VLC[dF])×dLCであり、凹凸部17のないフレネルレンズ中心位置(dF=0)の光路長n(V)×Gに対する光路長差OPDは次式となる。
【0075】
【数11】

【0076】
膜厚dFはゼロからdまで分布し、光路長差OPDはゼロから次式のOPDdまで分布する。
【0077】
【数12】

【0078】
例えば、印加電圧V+1において、図3のグラフβに相当する透過波面の光路長差を生成するためには、光路長差OPDdが略λ(すなわち、0.75λ〜1.25λ)となるように、凹凸部17の膜厚dおよび透明電極13と14の間隔Gを決定すると共に、凹凸部17の膜厚がゼロからdに至る断面形状とすればよい。
【0079】
ここで、印加電圧Vを変化させることにより、(6)式の光路長差OPDが変化する。
例えば、
i)凹凸部17の膜厚dFがゼロからdまで分布する時、(6)式の光路長差OPDが入射光の波長λに対して充分小さな値となる印加電圧V0が存在する。このとき、液晶レンズ素子10の透過波面は変化しない。ここで、充分小さな光路長差OPDは、具体的にはλ/5以下、さらに好ましくはλ/10以下である。また、
ii)光路長差OPDdが略−λ(すなわち、−0.75λから−1.25λ)となる印加電圧V-1において、図3のグラフγに示す光路長差の透過波面を生成できる。これは、光路長差ゼロの面に対して図3のグラフβと面対称の光路長差の透過波面に相当する。
従って、交流電源18について、印加電圧V+1、V0、V-1を切り替えることにより、3種類の透過波面を選択的に切り替えることが可能となる。
【0080】
ここで、印加電圧V+1、V0、V-1において液晶レンズ10に入射した平面波は、それぞれ図4(A)、(B)、(C)に示す透過波面となって出射する。すなわち、透明電極13、14の印加電圧に応じて、正のパワー、パワーなし、負のパワーに対応するレンズ機能が得られる。Case1の条件の場合と同様、図3のαで示す光路長差OPDを波長λ間隔で区切った光路長差OPDであるグラフβを生成する液晶レンズ素子以外に、光路長差OPDdが略mλ(m=2または3)に相当する液晶レンズ素子の形態でもよい。この場合、図3のグラフαを波長m・λ(ここでは、m=2または3)間隔で区切った光路長差OPDに対応した透過波面となる。
【0081】
なお、Case1の場合と異なり、3種類の透過波面を生成する場合、凹凸部17の均一屈折率透明材料の屈折率nsが液晶16の常光屈折率noあるいは異常光屈折率neに略等しくてもよい。
例えば、ns=noで、誘電率異方性(△ε=ε//−ε⊥)が正の液晶をホモジニアス配向させた場合、電圧非印加時(V+1=0)の光路長差OPDd=−(ne−no)×dが−λとなるよう凹凸部17を形成すると、Case1およびCase2の何れも液晶レンズ10に異常光偏光が入射した平面波は図4(A)に示す正のパワーに相当する透過波面となって出射する。透明電極13、14間の印加電圧を増加させると、Case1では、10V以上の高い印加電圧で液晶(層)16の屈折率がnsに近づき、図4(B)に示すパワーなしに相当する透過波面が得られるが、図4(C)に示す負のパワーに相当する透過波面は発生しない。しかし、Case2では、5V以下の印加電圧で、図4(B)に示すパワーなしに相当する透過波面および図4(C)に示す負のパワーに相当する透過波面を生成できる。
【0082】
すなわち、Case2はCase1と比較して、液晶16と凹凸部17の屈折率および比誘電率、凹凸部17の膜厚dおよび透明電極13、14の間隔Gなどの選択により、液晶レンズ素子10の電気光学特性の設計自由度が高いため、低電圧駆動あるいは多種多様の透過波面を生成することができる。また、Case1に比べCase2の方が、凹凸部17の膜厚dを薄くできるため、成膜及び凹凸加工の作製プロセスを短縮できる。
【0083】
また、凹凸部17の屈折率nsを液晶(層)16の常光屈折率noに略等しくすることが好ましい。この場合、電極間印加電圧Vの値にかかわらず常光偏光に対して凹凸部17と液晶(層)16の屈折率差が生じないため、液晶レンズ素子10に入射する常光偏光の透過波面は変化せず、高い透過率が得られるといった利点がある。すなわち、液晶レンズ素子10に複数の光束が入射し、特定の光束は波面変化を生じることなく透過させたい場合、液晶レンズ素子10に常光偏光として入射させればよい。例えば、DVD用とCD用の異なる波長光が入射し、DVD用の波長にのみ液晶レンズ素子10のパワー切り替え作用を発現させるためには、DVD用は異常光偏光とし、CD用は常光偏光として液晶レンズ素子10に入射させればよい。
【0084】
また、本実施形態では、(3)式で記述される軸対称の光路長差OPDを生成する液晶レンズ素子10の場合について、その素子構造および動作原理について説明したが、(3)式以外の軸非対称なコマ収差や非点収差などの補正に相当する光路長差OPDを生成する液晶レンズ素子も、同様の原理で、均一屈折率透明材料の凹凸形状加工および凹部の液晶充填により作製できる。
【0085】
また、本実施形態では、液晶レンズ素子10により生成する光路長差OPDの絶対値が入射光の波長λ以下になるように凹凸部17の深さdを設定し、断面形状を鋸歯状としているが、高速応答性が不要な場合は、光路長差OPDの絶対値が入射光の波長λ以上となるよう凹凸部17を加工してもよい。
この場合、[背景技術]の欄の特許文献2に記載の液晶レンズに比べて電極間隔は一定のため、液晶に加わる電界の均一性が優れ、駆動電圧および応答速度の面内均一性は高い。同様に、[背景技術]の欄の特許文献3に記載の液晶回折レンズと異なり、印加電圧の大きさに応じて光路長差は連続的に変化する。
【0086】
また、補正すべき光路長差OPDの絶対値が入射光の波長λ以下の場合は、液晶レンズ素子10の均一屈折率透明材料からなる凹凸部17の断面形状を鋸歯状とする必要はなく、印加電圧の大きさに応じて光路長差は連続的に変化する。
【0087】
また、本実施形態では、電圧非印加時に基板11、12面に平行に配向し、印加電圧の大きさに応じて基板11、12面に垂直方向に液晶分子が配列する正の誘電率異方性を有する液晶16を用いる例を示したが、別の液晶配向あるいは液晶材料でもよい。例えば、電圧非印加時に基板面に垂直に配向し、印加電圧Vに応じて基板面に平行方向に液晶分子が配列する負の誘電率異方性を有する液晶を用いてもよい。
【0088】
また、本実施形態では、凹凸部17を形成する材料を屈折率nsの均一屈折率透明材料としているが、分子配向方向が基板面内で一方向に揃った高分子液晶などの複屈折材料を用いてもよい。この場合、複屈折材料の異常光屈折率をnsとし、常光屈折率を液晶の常光屈折率noと等しくするとともに、複屈折材料の分子配向方向(異常光屈折率の方向)を液晶分子の配向方向と一致させることが好ましい。このような構成とすることにより、常光偏光入射光に対して印加電圧の大きさに関わらず液晶と複屈折材料の常光屈折率が一致するため、透過光波面は変化しない。
【0089】
また、本実施形態では、液晶16には、それぞれ透明基板11、12の各一面に亙って設けたベタ電極である透明電極13と透明電極14を通して交流電圧を印加する構成のものを示した。本発明では、これ以外に、例えば透明電極13と透明電極14の少なくとも一方の電極が、空間的に分割されて独立に異なる交流電圧を印加でき得る構成としてもよい。これにより、さらに多様な光路長差OPDの空間分布を生成できる。
また、この空間的に分割された透明電極を所望の電気抵抗を有する抵抗膜とし、半径方向に印加電圧分布を付与して、液晶に印加される電圧が半径方向に傾斜分布するようにしてもよい。
【0090】
[第2の実施形態]
次に、本発明の第2の実施形態に係る液晶レンズ素子20について、図6を参照しながら説明する。なお、本実施形態において、第1の実施形態と同一部分には、同一符号を付して重複説明を避ける。
本実施形態の液晶レンズ素子20は、前述した第1の実施形態に係る液晶レンズ素子10において、さらに位相板22と、透明基板21とを付加した構成となっている。即ち、この液晶レンズ素子20には、透明基板12の透明電極14取付面とは反対面において、透明基板21との間に、複屈折材料からなる位相板22が狭持一体化されている。
【0091】
位相板22としては、ポリカーボネートなどの有機膜を延伸して延伸方向に遅相軸を有する複屈折膜を用い、接着材により透明基板12、21の間に接着する。または、配向処理した透明基板21に液晶モノマーを所定の膜厚となるよう塗布した後、重合硬化して高分子液晶膜としたものを用いてもよい。あるいは、水晶などの複屈折結晶を透明基板21の代わりに位相板22として用い、透明基板12に接着固定してもよい。
【0092】
何れの場合も、位相板22の光軸方向は、入射光の偏光面の方向であるX軸に対して、XY面内において45°の角度をなす方向とする。例えば、波長λの入射光に対して位相板22のリタデーション値を波長λの1/4の奇数倍、すなわち位相差がπ/2の奇数倍とすることにより、液晶レンズ素子20を透過した光は円偏光となって出射する。
【0093】
従って、本実施形態の液晶レンズ素子20を光ヘッド装置に搭載して用いることにより、単一素子で透過光の波面と偏光状態を変化させることができる。
【0094】
[第3の実施形態]
次に、本発明の第3の実施形態に係る液晶レンズ素子30について、図7を参照しながら説明する。なお、本実施形態において、第1の実施形態と同一部分には、同一符号を付して重複説明を避ける。
本実施形態の液晶レンズ素子30は、第1の実施形態に係る液晶レンズ素子10を2個凹凸部17が互い対向するような状態で上下に重ねて積層させた構成(但し、透明基板11は共通)であって、大略構成として、第1の液晶レンズ素子10Aと、第2のレンズ素子10Bと、これらに交流電圧を印加する交流電源18とを備えている。
【0095】
即ち、この液晶レンズ素子30は、第1の液晶レンズ素子10Aに、2枚の透明基板11、12Aと、これらの透明基板に形成した透明電極13A、14Aと、透明電極14Aに形成した凹凸部17Aと、透明電極13Aと凹凸部17Aを設けた透明電極14Aとの間の空隙に密封された液晶16Aとを備えている。一方、第2の液晶レンズ素子10Bも、透明基板11を共用しているが、第1の液晶レンズ素子10Aと同様の構成となっている。
【0096】
次に、本実施形態の製造方法について説明する。
初めに、各透明基板12A、12Bにおいて、一面に透明電極14A、14Bをそれぞれ形成する。そして、これら透明電極14A、14Bの平坦面に、それぞれ、屈折率nsの均一屈折率透明材料を用いて、断面が鋸歯状または鋸歯を階段状に近似した形状の凹凸部17A、17Bを形成する。これらの凹凸部17A、17Bは、それぞれ一面が、入射光の光軸(Z軸)に対して回転対称性を有する同一の凹凸形状に加工されている。一方、透明基板11の両面には、透明電極13A、13Bを形成する。
【0097】
次に、各透明基板12A、12Bには、ギャップ制御材が混入された接着材を印刷パターニングしたシール15A、15Bを、それぞれ形成する。そして、凹凸部17Aと凹凸部17Bの回転対称軸が一致するように、各透明基板12A、12Bと透明基板11とを重ね合わせ、圧着して空セルを作製する。その後、シールの一部に設けられた注入口(図示せず)から液晶を注入するとともに、その注入口を封止して液晶16A、16Bをセル内に密封し、液晶レンズ素子30とする。また、透明電極13A、13Bを導通させて共通電極とするとともに、透明電極14A、14Bを導通させて共通電極とする。
【0098】
このようにして形成した液晶レンズ素子10において、交流電源18により共通電極の間に矩形波の交流電圧を印加する。すると、この印加電圧に応じて液晶16A、16Bの分子配向が変化し、液晶層の実質的な屈折率がneからnoまで変化する。その結果、液晶16A、16Bと凹凸部17A、17Bの屈折率差△nが変化し、入射光に対する透過光の波面が変化する。
【0099】
図7に示す第1、第2の液晶レンズ素子10A、10Bの構成および作用は、図1に示した液晶レンズ10と同様であるが、液晶16A、16Bは液晶分子の配向方向が互いに直交している点が異なる。すなわち、第1、第2の液晶レンズ素子10A、10Bにおいて、液晶層界面の配向処理方向が直交している。その結果、本実施形態によれば、入射光の偏光状態にかかわらず印加電圧に応じて、例えば図4の(A)、(B)、(C)に示すような正のパワー、パワーなし、負のパワーを有するレンズ機能が得られる。
なお、Δn(V0)=0となる印加電圧V0において、液晶層に対して異常光偏光に相当する入射光の場合、第1、第2の液晶レンズ素子10A、10Bの透過波面は変化しないが、液晶層に対して常光偏光に相当する入射光の場合、印加電圧の大きさにかかわらず、第1、第2の液晶レンズ素子10A、10Bの透過波面は、屈折率差no−nsに対応した一定の変化が生じる。
第1、第2の液晶レンズ素子10A、10Bは、その液晶16Aと16Bの配向方向が直交しているため、入射偏光状態に関わらず、この一定透過波面変化が生じる。このような印加電圧V0における一定の透過波面変化を相殺するように、透明基板12Aまたは12Bの表面に補正面を形成することが好ましい。
あるいは、凹凸部17Aおよび17Bをそれぞれ液晶16Aおよび16Bの配向方向と同じ配向方向で常光複屈折率が等しい高分子液晶などの複屈折率材料を用いて形成することにより、印加電圧V0において、液晶レンズ素子30の透過波面が変化しないようにすることができる。
【0100】
[第4の実施形態]
次に、本発明の第4の実施形態に係る液晶レンズ素子40について、図8を参照しながら説明する。なお、本実施形態において、第1、第2の実施形態と同一部分には、同一符号を付して重複説明を避ける。
本実施形態の液晶レンズ素子40は、図7に示す液晶レンズ素子30と比べ、第1、第2の液晶レンズ素子10A、10Cの構造が以下の点で異なる。
【0101】
第2の液晶レンズ素子10Cの液晶の配向方向は、第3の実施形態の第2の液晶レンズ素子10Bとは異なり、第1の液晶レンズ素子10Aの液晶16Aと同じ配向方向である。また、第2の液晶レンズ素子10Cの凹凸部17Cの輪体形状は、凹凸部17Aと異なり、(3)式で記述される図3のグラフαに示す光路長差OPDが互いに異なる。さらに、液晶16A、16Cには、それぞれ独立に交流電源18A、18Cにより、矩形波の交流電圧が印加される。
【0102】
これにより、液晶16A、16Cの配向方向に対応した偏光面を有する異常光偏光が入射したとき、第1、第2の液晶レンズ素子10A、10Cはそれぞれ独立に発生するパワーの異なる液晶レンズとして作用する。
【0103】
例えば、印加電圧V+1とV0とV-1における第1の液晶レンズ素子10AのパワーをPA+1、PA0(=0)、PA-1とするとともに、第2の液晶レンズ素子10CのパワーをPC+1、PC0(=0)、PC-1とし、それぞれの大小関係をPA+1<PC+1<0<PC-1<PA-1とする。
【0104】
このとき、交流電源18A、18Cにより印加電圧を調整することにより、液晶レンズ素子40は、7種((PA+1+PC+1)<PA+1<PC+1<0<PC-1<PA-1<(PA-1+PC-1))の異なるパワーを生成することができる。
その結果、本実施形態の液晶レンズ素子40を光ヘッド装置に搭載して用いることにより、カバー厚の相違により生成する7種のパワー成分を含む球面収差量を補正できる。
【0105】
[第5の実施形態]
次に、本発明の第5の実施形態に係る液晶レンズ素子50について、図9を参照しながら説明する。なお、本実施形態において、第1、第2の実施形態と同一部分には、同一符号を付して重複説明を避ける。
本実施形態の液晶レンズ素子50は、第1または第2の実施形態に示す液晶レンズ10において、透明基板12の片面(透明電極を設けていない方の面)と透明基板21の一面に取り付けた位相板22との間で、複屈折回折格子51と接着材層52を挟持している。
【0106】
複屈折回折格子51は、透明基板12の片面(透明電極を設けていない方の面)に高分子液晶からなる複屈折材料層を形成し、これを凹凸格子の断面形状に加工して複屈折回折格子51とする。さらに、均一屈折率透明材料からなる接着材を用いて、複屈折回折格子51の少なくとも凹部を充填し、接着材層52にするとともに、位相板22が形成された透明基板21と接着する。
【0107】
高分子液晶からなる複屈折回折格子51は、液晶16と高分子液晶の分子配向が直交するように配向処理する。すなわち、Y軸方向に配向処理した配向膜(図示せず)を透明基板12に形成し、液晶モノマーを塗布して重合硬化することにより、Y軸方向に配向(異常光屈折率の方向)が揃った高分子液晶となる。さらに、フォトリソグラフィと反応性イオンエッチングにより、断面が凹凸形状の複屈折回折格子51とする。
複屈折回折格子51の凹部に、高分子液晶の常光屈折率と略等しい屈折率の接着材を充填して接着材層52を形成することにより、入射光のうち常光偏光は透過し異常光偏光は回折する偏光性回折格子となる。
【0108】
複屈折回折格子51の断面形状は、図9に示す矩形状としてもよいし、特定の回折次数で高い回折効率を得るために鋸歯形状としてもよい。複屈折回折格子51は、これを形成している高分子液晶の異常光屈折率と接着材層52の屈折率との屈折率差(△N)と、この高分子液晶の凹凸深さ(D)との積である(△N×D)を適宜設定することにより、波長λの異常光偏光の入射光に対して所望の回折次数の回折効率が得られる。また、格子ピッチおよび格子長手方向の角度が格子面内で所定の分布をなすホログラムパターンとすることにより、入射光の回折方向を空間的に制御できる。
【0109】
位相板22は、第2の実施形態(図6参照)で説明した位相板22と同じものであり、位相板22の光軸方向を入射光の偏光面の方向であるX軸に対してXY面内において45°の角度をなす方向とし、そのリタデーション値を入射光の波長λの1/4とする。
【0110】
さらに、本実施形態の液晶レンズ素子50では、図9に示すように、透明基板11の表面に回折格子53を形成しており、入射光に対して0次回折光(直進透過光)と±1次回折光を発生する。回折格子53は、例えば光ヘッド装置において光ディスクのトラッキング用3ビームとして用いられる。
【0111】
次に、本実施形態の作用について説明する。
本実施形態の液晶レンズ素子50に、透明基板11側からX軸方向の偏光面を有する直線偏光が入射すると、交流電源18により液晶レンズ素子10に印加される電圧の大きさに応じて透過波面が変化し、複折回折格子51と接着材層52からなる偏光性回折格子に常光偏光として入射する。そして、この偏光性回折格子により回折されることなく透過した光は、位相板22により円偏光となって液晶レンズ素子50を透過する。
【0112】
一方、図示外の光ディスク等の反射面で反射された光が液晶レンズ素子50の透明基板21側から再び入射すると、位相板22によりY軸方向の偏光面を有する直線偏光となって偏光性回折格子に異常光偏光として入射し、そこで回折されて液晶レンズ素子50から出射する。
【0113】
このように、液晶レンズ素子10に偏光性回折格子51、位相板22、回折格子53を一体化することにより、それぞれの素子を別々に装置に取り付ける場合に比べて位置精度が向上するため、安定した性能が得られる。
【0114】
ここで、このような液晶レンズ素子50が半導体レーザ及び光検出器とともに同一パッケージ内に一体にユニット化されたもの(以下、「光ユニット60」とよぶ)について、図10を参照しながら説明する。
【0115】
この光ユニット60は、X軸方向の偏光面を有する波長λの直線偏光を出射する半導体レーザ61と光検出器62とが金属ブロック63に固定されており、パッケージ64に納められている。光検出器62には、光信号を電気信号に変換した後、その信号に対する信号増幅用および信号処理用の回路が集積化されている。このパッケージ64の光出射および光入射側には開口部が設けられており、その開口部に液晶レンズ素子50が接着固定されて一体にユニット化された構成となっている。
【0116】
このような光ユニット60を光ヘッド装置に搭載して用いると、トラッキング用の3ビームを発生する回折格子の機能と、印加電圧に応じた収差補正する機能と、往路では直進透過し復路では効率よく光検出器へと光を分波する偏光ホログラムビームスプリッタの機能とを併せ持った液晶レンズ素子となり、光ヘッド装置の小型化につながる。
【0117】
[第6の実施形態]
次に、本発明の第2の実施形態に係る液晶レンズ素子20を搭載したDVDおよびCD用光ディスクの記録および再生に用いる光ヘッド装置70について、図11を参照しながら説明する。なお、本実施形態において、第2の実施形態と同一部分には、同一符号を付して重複説明を避ける。
【0118】
本実施形態の光ヘッド装置70は、光源である第1、第2の半導体レーザ1A、1Bと、第1、第2の回折格子2A、2Bと、ダイクロイックプリズム3と、ビームスプリッタ4と、コリメータレンズ5と、対物レンズ6と、シリンドリカルレンズ7と、光検出器8との他に、液晶レンズ素子20がビームスプリッタ4とコリメータレンズ5との間の光路上に備えてある。
【0119】
次に、本実施形態の作用について説明する。
(i)DVD用光ディスクの場合:
DVD用の半導体レーザ1Aから出射するとともに、図11の紙面内に偏光面を有する波長λ1(=660nm)の出射光は、回折格子2Aによりトラッキング用の3ビームを発生する。そして、ダイクロイックプリズム3を透過し、ビームスプリッタ4で反射されて液晶レンズ素子20に入射する。この液晶レンズ素子20を透過した光は、円偏光となり、コリメータレンズ5により平行光化され、対物レンズ6によりDVD用光ディスクDの情報記録層に集光される。
【0120】
なお、対物レンズ6は、フォーカスサーボおよびトラッキングサーボ用のアクチュエータ(図示せず)により可動する。光ディスクDの反射面で反射された光は、再び対物レンズ6とコリメータレンズ5、さらに液晶レンズ素子20を透過し、紙面に直交する偏光面を有する直線偏光となって一部の光がビームスプリッタ4を透過する。そして、非点収差法によるフォーカスサーボ用に設けられたシリンドリカルレンズ7を透過して、光検出器8に集光される。なお、ビームスプリッタ4により反射された光は、元の光路を経て半導体レーザ1Aの発光点に集光されるが、レーザ発信光と偏光面が直交する直線偏光のためレーザ発信に影響せず、レーザ発信強度は安定する。
【0121】
(ii)CD用光ディスクの場合:
一方、CD用の半導体レーザ1Bから出射する紙面垂直な偏光面を有する波長λ2(=790nm)の出射光は、回折格子2Bによりトラッキング用の3ビームを発生し、ダイクロイックプリズム3を反射してDVD用の波長λ1の光と光軸を一致させて進行し、ビームスプリッタ4で反射される。そして、この反射光は、DVD用の波長λ1の光と同様に、コリメータレンズ5および対物レンズ6により、CD用光ディスクDの情報記録層に集光される。また、光ディスクの反射面で反射後の光路は、DVD用の波長λ1の光路と同じである。
【0122】
本実施形態の光ヘッド装置70では、半導体レーザ1A、1Bに発信出力の大きなものを用いる場合、レーザ発光点への戻り光の偏光面をレーザ発信光の偏光面と直交化させるために、液晶レンズ素子20中の位相板22(図6参照)を波長λ1および波長λ2に対して1/4波長板となるようにすることが好ましい。
具体的には、波長λ1と波長λ2の中間波長に対して、それぞれ、リタデーション値が1/4波長および1/2波長となる高分子液晶層を、その光軸角度が所望の角度となるように積層すればよい。
【0123】
次に、本発明の液晶レンズ素子20(図6参照)を搭載した光ヘッド装置70を用いて、カバー厚の異なる単層および2層のDVD記録および再生用の光ディスクDに対する記録・再生動作について、以下に説明する。
(i)単層光ディスク(カバー厚0.60mm)の場合:
対物レンズ6は、カバー厚0.60mmの単層光ディスクDに対して収差が最小となるように設計されているため、単層光ディスクDの記録および/または再生時には液晶レンズ素子20の電極間に交流電圧V0を印加する。このとき、液晶16と凹凸部17との屈折率が一致するため、図4の(B)に示すように透過波面は不変である。
【0124】
(ii)2層光ディスク(カバー厚0.57mm)の場合:
2層光ディスク中のカバー厚0.57mmの情報記録層への記録および/または再生においては、液晶レンズ素子20の透過波面が若干集光する球面波となるように、電極間に交流電圧V+1を印加する。
このとき、液晶16の方が凹凸部17に比べ屈折率が大きいため、図4の(A)に示すように、正のパワーすなわち凸レンズ相当の透過波面となる。すなわち、対物レンズ6により、カバー厚0.57mmの情報記録層に効率よく集光される。
【0125】
(iii)単層光ディスク(カバー厚0.63mm)の場合:
一方、カバー厚0.63mmでの図示外の情報記録層への記録および/または再生時は、液晶レンズ素子20の透過波面が若干発散する球面波となるように、電極間に交流電圧V-1を印加する。このとき、液晶16の方が凹凸部17に比べ屈折率が小さくなるため、図4の(C)に示すように、負のパワーすなわち凹レンズ相当の透過波面となる。すなわち、対物レンズ6により、カバー厚0.63mmの情報記録層に効率よく集光される。
【0126】
従って、液晶レンズ素子20の印加電圧をV0、V+1、V-1に切り替えることにより、カバー厚の異なるDVD用の単層光ディスクおよび2層光ディスクに対して安定した記録・再生が実現する。
【0127】
このように、本実施形態に係る光ヘッド装置70によれば、液晶レンズ素子20は、光ディスクDのカバー厚の相違により発生する球面収差の補正のみならず、焦点位置変化に相当するパワー成分の切替え機能も付加できる。このため、例えば、対物レンズ6と別置きで使用し、対物レンズ6がトラッキング時に光ディスクDの半径方向に移動して液晶レンズ素子20との偏心が生じた場合でも、収差劣化はほとんどない。その結果、球面収差のみを補正する液晶素子に比べて安定した記録および/または再生が実現する。
【0128】
また、液晶レンズ素子20において、(2)式のm=2または3に相当する凹凸部17の形状とすることにより、それぞれ5種または7種の透過波面の切り換えができるため、カバー厚の異なる光ディスクに対してよりきめ細かな収差補正ができる。
また、液晶レンズ素子20の替わりに、図7に示す第3実施形態の液晶レンズ素子30を用いれば、往路の偏光のみならず復路の直交する偏光に対しても補正作用があるため、光検出器への集光性も改善される。
【0129】
また、液晶レンズ素子20の替わりに、図8に示す第4実施形態の液晶レンズ素子40を用いれば、3種のカバー厚の異なる光ディスクの収差補正のみならず、それ以外のカバー厚の収差補正もできる。このため、カバー厚にばらつきの有る光ディスクあるいは光ヘッド装置全体の光学系に球面収差が残留している場合でも、よりきめ細かな収差補正ができる。
【0130】
なお、液晶レンズ20において、往路の偏光面と直交する直線偏光が液晶レンズ素子20の液晶に対して常光偏光として入射するため、屈折率差no−nsに対応示した一定の透過波面変化が生じる。これを相殺するには、高分子液晶などの複屈折材料からなり、液晶16の凹凸形状に相当する補正面の凹部に均一屈折率充填材を充填した補正素子を形成すればよい。このとき、液晶の常光偏光に対して光路長差が生じ、異常光偏光に対し光路長差が生じないように、複屈折材料と充填材の屈折率を調整しておく。
【0131】
このとき、CD用の波長λ2の偏光は液晶レンズ素子20の液晶に対して常光偏光となって入射するため、液晶レンズ素子20の印加電圧に関わらず、透過波面は変化しない。
すなわち、収差劣化をもたらすことなくCD用の光ディスクの安定した記録・再生ができる。
【0132】
ここで、例えば図12に模式的に示す光ヘッド装置80のように、単一パッケージ内にDVD用の半導体レーザとCD用の半導体レーザの発光点が100μm程度隔てて配置された2波長光源1Cを用いる場合は、簡易な構成となる。
この光ヘッド装置80は、図11における回折格子2A、2Bの替わりに、波長選択性の回折格子2Cをトラッキング用の3ビーム発生素子として用いている。
【0133】
この波長選択性の回折格子2Cは、DVD用の波長λ1の光を回折することなく透過し、CD用の波長λ2の光を回折する回折格子、またはCD用の波長λ2の光を回折することなく透過しDVD用の波長λ1の光を回折する回折格子、またはそれらを積層した素子であって、不要な迷光の発生が抑制され高い光利用効率が得られる。
【0134】
また、この光ヘッド装置80は、2波長光源1Cとビームスプリッタ4の間の光路中に液晶レンズ素子20を配置することにより、装置の小型化が図られている。また、液晶レンズ素子20に波長選択性の回折格子2Cを一体化することにより、さらに装置の小型化につながる。
【0135】
なお、本実施形態では、光源として波長が660nm帯の半導体レーザを用いるDVD用の単層および2層光ディスクDに対して動作する液晶レンズ素子20を搭載した光ヘッド装置80について説明したが、光源として波長が405nm帯の半導体レーザを用いるBD用の単層および2層光ディスクに対して動作する液晶レンズ素子を搭載した光ヘッド装置などについても同様の作用・効果が得られる。
【0136】
[第7の実施形態]
次に、本発明の第7の実施形態に光ヘッド装置90について、図13を参照しながら説明する。なお、本実施形態において、第6の実施形態と同一部分には、同一符号を付して重複説明を避ける。
【0137】
本実施形態の光ヘッド装置90は、DVD用のユニット90Aと、CD用のユニット90Bと、ダイクロイックプリズム3と、コリメータレンズ5と、対物レンズ6とを備えている。
【0138】
DVD用のユニット90Aは、第5の実施形態において説明した図10に示す光ユニット60、つまり、DVD用の半導体レーザ1A(61)と、光検出器8A(62)と、液晶レンズ素子50が図示外のパッケージに接着固定されて、一体にユニット化されている。一方、CD用のユニットは、CD用の半導体レーザ1Bと、光検出器8Bと、ホログラムビームスプリッタ4Bとがパッケージに一体化されている。
【0139】
次に、本実施形態の作用について説明する。
(i)DVD用の光ディスクの記録および/または再生について:
このDVD用の光ディスクの記録および/または再生については、DVD用のユニット90A、つまり示す光ユニット60を用いる。
光ユニット60中のDVD用の半導体レーザ1Aから出射する図13の紙面内に偏光面を有する波長λ1(=660nm)の出射光は、液晶レンズ素子50を透過して円偏光の3ビームとなり、ダイクロイックプリズム3を透過する。その後、この透過光は、コリメータレンズ5により平行光化され、対物レンズ6によりDVD用光ディスクDの情報記録層に集光される。
【0140】
また、この光ディスクDの反射面で反射された光は、逆行して再び対物レンズ6とコリメータレンズ5とダイクロイックプリズム3を透過し、さらに液晶レンズ素子50中の1/4波長板である位相板22(図9参照)を透過する。そして、この透過光は、図13の紙面に直交する偏光面を有する直線偏光となって液晶レンズ素子50中のホログラムビームスプリッタである複屈折回折格子51と接着材層52からなる偏光性回折格子(図9参照)により回折されて、光検出器8Aの受光面に効率よく集光する。
【0141】
(ii)CD用の光ディスクの記録・再生について:
一方、CD用の光ディスクの記録・再生は、CD用の半導体レーザ1Bと光検出器8Bとホログラムビームスプリッタ4Bがパッケージに一体化されたCD用のユニット90Bを用いる。
半導体レーザ1Bから出射する波長λ2(=790nm)の光は、トラッキング用の3ビームを発生する回折格子が一体化されたホログラムビームスプリッタ4Bを透過する。
そして、この透過光は、ダイクロイックプリズム3で反射してDVD用の波長λ1の光と光軸が一致するように進行し、コリメータレンズ5および対物レンズ6によりCD用光ディスクDの情報記録層に集光される。
【0142】
また、光ディスクDの反射面で反射された光は、逆行して再び対物レンズ6とコリメータレンズ5を透過し、ダイクロイックプリズム3で反射し、さらにホログラムビームスプリッタ4Bにより一部の光が回折されて、光検出器8Bの受光面に集光する。
【0143】
このように、本実施形態では、カバー厚の異なるDVD用の単層および2層光ディスクDに対して安定した記録および/または再生を行うための動作は、第6の実施形態と同様である。従って、本実施形態の光ヘッド装置90によれば、光ヘッド装置90の組み立て調整が簡略化されるとともに、装置全体の小型・軽量化につながる。
【実施例】
【0144】
「例1」
次に、第2の実施形態に示した本発明の液晶レンズ素子20の具体的な実施例について、図6を参照しながら以下に説明する。
【0145】
初めに、この液晶レンズ素子20の作製方法について説明する。
透明基板11であるガラス基板上に透明導電膜(ITO膜)を成膜し、これを透明電極13とする。さらにその透明電極13上に、屈折率nS(=1.66)の均一屈折率材料である感光性ポリイミドを膜厚d(=5.5μmm)となるように塗布する。
【0146】
次に、図3のグラフβの形状に相当するように、紫外線透過率が半径方向に分布した階調マスクを用いて、感光性ポリイミドに紫外線を照射し、階調マスクパターンを焼き付けた後、現像する。その結果、有効径φ(=4.9mm)の領域に、断面形状が鋸歯状で入射光の光軸(Z軸)に対して回転対称性を有する、図6に示すような凹凸部17を加工・形成する。さらに、ポリイミドからなる凹凸部17の表面を、X軸方向にラビング配向処理する。このようにして得られるポリイミドからなる凹凸部17の透明材料として、その電気体積抵抗率ρFが液晶16の体積抵抗率ρLCに比べ106以上低抵抗となる材料を用いる。
【0147】
また、透明電極14として透明導電膜(ITO膜)が成膜された透明基板12であるガラス基板上にポリイミド膜を膜厚約50nm塗布した後に、焼成し、ポリイミド膜表面をX軸方向にラビング配向処理する。さらにその上に、直径7μmのギャップ制御材が混入された接着材を印刷パターニングしてシール15を形成し、透明基板11と重ね合わせて圧着し、透明電極間隔が7μmの空セルを作製する。
その後、液晶16を空セルの注入口(図示せず)から注入し、その注入口を封止して図6に示す液晶レンズ素子10とする。
【0148】
この液晶16には、常光屈折率no(=1.50)および異常光屈折率ne(=1.78)の正の誘電異方性を有するネマティック液晶を用いる。また、透明電極13、14の平面に、平行かつX軸方向に液晶分子の配向が揃った液晶16を凹凸部17の凹部に充填する。なお、鋸歯状の凹凸部17の斜面は最大3°程度の傾斜であるため、液晶分子の配向は透明電極面に平行と見なされる。
【0149】
次に、透明基板21であるガラス基板上に、ポリイミド膜を膜厚約50nm塗布した後焼成し、ポリイミド膜表面をX軸と45°の角度をなす方向に、ラビング配向処理する。
その上に、液晶モノマーを膜厚6.6μmとなるよう塗布した後、重合硬化し、X軸と45°の角度をなす方向に遅相軸が揃った、常光屈折率と異常光屈折率の差が0.20の高分子液晶膜からなる位相板22を作製する。そして、接着材を用いて位相板22と透明基板12を接着固定するようにして、液晶レンズ素子10に透明基板21などを固着し、液晶レンズ素子20とする。
【0150】
この位相板22のリタデーション値(Rd)は、
Rd=0.20×6.6
=1.32μm
で、DVD用の波長λ(=660nm)の5/4倍に相当し、1/4波長板の機能を有する。
【0151】
このようにして得られた液晶レンズ素子20の透明電極13、14に交流電源18を接続することにより、凹凸部17の電圧降下は僅かで第1の実施形態に示したCase1の条件に相当し、実効的に液晶16に電圧が印加される。印加電圧を0Vから増加させると、液晶(層)16のX軸方向の実質的な屈折率がne(=1.78)からno(=1.50)まで変化する。その結果、X軸の偏光面を有する直線偏光入射光に対して、液晶16と凹凸部17の屈折率差(△n)が、
△nmax(=ne−ns)=0.12
(但し、ns=1.66)
から
△nmin(=no−ns)=−0.16
まで変化し、凹凸部17の凹部に充填された液晶16の厚さ分布に応じて、透過波面が変化する。
【0152】
ここで、例えば、使用波長λ(=660nm)で、カバー厚0.60mmのDVD用の単層光ディスクに対して、収差がゼロとなるように設計された開口数(NA)0.65および焦点距離3.05mmの対物レンズを、カバー厚0.57mmと0.63mmのDVD用の2層光ディスクに用いると、最大光路長差が約0.15λで、二乗平均波面収差が約43mλ[rms]に相当する球面収差が発生する。
【0153】
そこで、液晶レンズ素子20を用いてこの球面収差を補正するため、電圧非印加時の透過波面が、下記の[表1]に示す係数値a1〜a5を用いて(3)式で表記される光路長差OPDに相当するように、凹凸部17を加工する。ただし、(3)式の光路長差OPDは[μm]単位で、rは[mm]単位である。
【0154】
【表1】

【0155】
これにより、[表1]の係数値a1〜a5を用いて、(3)式で表記される図3のグラフαに相当する光路長差から波長λの整数倍を差し引いて得られる(ゼロ以上λ以下の光路長差に相当する)、図3のグラフβに示す光路長差の透過波面を生成する。
【0156】
ここで、電圧非印加時の液晶16と凹凸部17の屈折率差(△n)は、前述したように、
△n(=ne−ns)=0.12
であるので、凹凸部17とこの凹部に充填された液晶16とにより上述の透過波面を生成するためには、前述した(4)式を満たすようにすればよい。即ち、(2)式において、m=1の場合、最大光路長差が波長λ=660nm(=0.66μm)に相当するように、
△n×d=0.66μm
この式から凹凸部17の深さd(μm)を決定する。
【0157】
これにより、凹凸部17は、深さ(d)がd=5.5μmとして、図1に示す断面形状に加工されている。なお、鋸歯状の凹凸部17を階段形状によって近似してもよい。図3のグラフαに相当する滑らかな透過波面を生成するためには、凹凸部17の深さ(d)を、
(0.75×λ/△n)≦d≦(1.25×λ/△n)
とすることが好ましい。また、凹凸部17の有効径は4.9mmであるため、最大半径は2.45mmである。
【0158】
液晶レンズ素子20に入射するDVD用の波長λ(=660nm)の透過波面は、電圧非印加時(V+1=0)は図4(A)に示す集光光となり、焦点距離(f)がf=675mm相当の凸レンズ作用を示す。次に、印加電圧を増加させると、V0=2.5V程度で△n(V0)=0となり、透過波面は、図4(B)に示すように、入射波面と同じ波面のまま(パワーなし)透過する。さらに、印加電圧を増加させると、V-1=6V程度で△n(V-1)=−△n(V+1)となり、透過波面は、図4(C)に示す発散光となり、焦点距離(f)がf=−675mm相当の凹レンズ作用を示す。
【0159】
「例2」
次に、前述の「例1」の液晶レンズ素子20を、図11に示す第6の実施形態の光ヘッド装置70に搭載する場合の具体的な実施例について説明する。なお、この光ヘッド装置70の構成は第6の実施形態で説明したので省略する。
【0160】
カバー厚0.60mmのDVD用の単層光ディスクDを記録・再生する場合、液晶レンズ素子20の印加電圧をV0=2.5V程度とすると、入射光は対物レンズ6により情報記録層に集光される。
【0161】
DVD用の2層光ディスクDに対しては、液晶レンズ素子20の印加電圧をV+1(=0V)程度とすると、入射光はカバー厚0.57mmの情報記録層に集光され、印加電圧をV-1(=6V)程度とすると、入射光はカバー厚0.63mmの情報記録層に集光される。何れも、残留する二乗平均波面収差の計算値は3mλ[rms]以下となる。
【0162】
なお、カバー厚が0.555mmから0.585mmの範囲では、印加電圧V+1とすることにより、また、カバー厚が0.585mmから0.615mmの範囲では印加電圧V0とすることにより、さらに、カバー厚が0.615mmから0.645mmの範囲では印加電圧V-1とすることにより、それぞれ、残留する二乗平均波面収差の計算値が約20mλ[rms]以下に低減する。
【0163】
また、トラッキングのため、光ディスクDの半径方向に対物レンズ6が±0.3mm程度移動した時、液晶レンズ素子20との偏心が発生するが、それに伴う収差発生はないため、集光スポットの劣化も生じない。
従って、液晶レンズ素子20に印加する電圧をV0、V+1、V-1に切り換えることにより、DVD用の単層および2層の光ディスクDへ安定した記録および再生を行える光ヘッド装置が実現する。
【0164】
「例3」
次に、例1の実施例で示した本発明の液晶レンズ素子20において、凹凸部17の透明材料として、その電気体積抵抗率ρFが液晶16の体積抵抗率ρLCと同等以上に高い材料を用いる場合の実施例について、図6を参照しながら以下に説明する。なお、凹凸部17および液晶16以外の素子構成は、実施例1と同じであるため、同一部分の説明は省略する。
【0165】
初めに、この液晶レンズ素子20における凹凸部17の作製方法について説明する。
透明基板11であるガラス基板上に成膜された透明電極13の上に、液晶16の常光屈折率noに略等しい屈折率nS(=1.507)の均一屈折率材料であるSiOxy(但し、x,yはOとNの元素比率を示す)をスパッタリング法により成膜する。ここで、SiスパッタターゲットとArガスに酸素および窒素を混入した放電ガスを用いることにより、屈折率nsの透明な均一屈折率で膜厚d(=2.94μm)のSiOxy膜としている。SiOxy膜は比誘電率εFが4.0で、電気体積抵抗率ρFが1010Ω・cm以上である。
【0166】
さらに、図3のグラフγの形状に相当するように、フォトマスクを用いたフォトリソグラフィにてレジストをパターニングした後、反応性イオンエッチング法によりSiOxy膜を加工する。その結果、有効径φ(=4.9mm)の領域に、フレネルレンズの鋸歯断面形状を8段の階段状で近似し、図1に示す凹凸部17の凸部と凹部を逆にした凸型フレネルレンズ形状に加工する。
すなわち、図6では凹凸部17からなるフレネルレンズ形状の中心部が凹となっているが、本実施例では中心部が凸のフレネルレンズ形状としている。中心部が凹に比べて凸とすることにより液晶層の平均厚さを薄くできるため、焦点切り換え時の電圧応答性が高速化できる。
次に、凹凸部17の表面に透明導電膜(ITO膜)を成膜し、これを第1透明電極13とする。さらに、ポリイミド膜(図示せず)を第1透明電極13上に膜厚約50nmとなるよう塗布した後に焼成し、ポリイミド膜表面をX軸方向にラビング配向処理して配向膜とする。
【0167】
また、透明電極14として透明導電膜(ITO膜)が成膜された透明基板12であるガラス基板上にポリイミド膜を膜厚約50nm塗布した後に、焼成し、ポリイミド膜表面をX軸方向にラビング配向処理する。さらにその上に、直径15μmのギャップ制御材が混入された接着材を印刷パターニングしてシール15を形成し、透明基板11と重ね合わせて圧着し、透明電極間隔Gが15μmの空セルを作製する。
その後、液晶16を空セルの注入口(図示せず)から注入し、その注入口を封止して図6に示す液晶レンズ素子10とする。
【0168】
この液晶16には、常光屈折率no(=1.507)および異常光屈折率ne(=1.745)の正の誘電異方性を有するネマティック液晶を用いる。また、透明電極13、14の平面に、平行かつX軸方向に液晶分子の配向が揃ったホモジニアス配向の液晶16を凹凸部17の凹部に充填する。液晶16の比誘電率εLCは、液晶分子長軸方向の比誘電率ε//が15.2、液晶分子短軸方向の比誘電率ε⊥が4.3で、正の誘電率異方性を有する。また、液晶16の電気体積抵抗率ρLCは、1010Ω・cm以上である。なお、位相板22は例1と同様にして作製する。
【0169】
このようにして得られた液晶レンズ素子20の透明電極13、14に交流電源18を接続し、周波数f=1kHzの矩形交流電圧Vを印加する。第1の実施形態に示したCase2の条件に相当するため、透明電極13、14の印加電圧Vに対して液晶(層)16に配分される印加電圧VLCの比率VLC/Vは、図5に示す凹凸部17の膜厚dFおよび液晶(層)の層厚dLCに応じて(5)式で関係付けられ、凹凸部17からなるフレネルレンズ形状に対応した電圧分布VLCが生じる。その結果、X軸の偏光面を有する直線偏光入射光に対して、凹凸部17の膜厚dFの分布に起因して透明電極間の光路長差OPDが次式で記載されるように分布する。フレネルレンズ形状の中心部が凸のため、凹の場合を示す(6)式と異なる表記となる。
【0170】
【数13】

【0171】
SiOxy膜からなる凹凸部17の膜厚dFはdからゼロまで分布し、フレネルレンズ形状の中心部に対する光路長差OPDは、ゼロから次式のOPDdまで分布する。
【0172】
【数14】

【0173】
透明電極間への電圧非印加時は、V=VLC[d]=0で、n(0)=neのため、光路長差OPDdは次式の値となる。
OPDd=(ne−ns)×d
=0.238×2.94
=0.70μm
となる。
【0174】
透明電極間の印加電圧Vを増加させると、OPDdは減少し、DVD用の波長λ=660nmに対して、OPDdが+λ、ゼロ、−λとなる印加電圧V-1、V0、V+1(V-1<V0<V+1)が存在する。従って、液晶レンズ素子20に入射する波長λ=660nmの平面波は、印加電圧V-1、V0、V+1を切り替えると、それぞれ、図3のγ、OPDゼロ、βに相当する透過波面となる。すなわち、印加電圧V-1で図4(C)に示す負のパワーに相当する透過波面を生成し、印加電圧V0で図4(B)に示すパワーなしに相当する透過波面を生成し、印加電圧V+1で図4(A)に示す正のパワーに相当する透過波面を生成する。
【0175】
液晶レンズ素子20の光出射側に集光レンズを配置し、印加電圧V-1、V0、V+1に応じて集光点位置が切り替わり、3値の焦点距離可変液晶レンズ素子の動作を確認した。開口絞りと光検出器を各集光点位置に配置し、液晶レンズ素子20の透明電極間の印加電圧Vを変化させた時、波長λ=660nmの異常光偏光の入射光に対する液晶レンズ素子20の出射光の集光効率の測定例を図14に示す。
印加電圧V-1が0から1.2V域で負のパワー(凹レンズ)となり、印加電圧V0が1.6V域でパワーなし(レンズ作用なし)となり、印加電圧V+1が2.5から3V域で正のパワー(凸レンズ)となった。なお、集光効率が100%に満たない原因は、凹凸部加工形状の最適値からのずれおよび屈折率の異なる複数の界面における反射損失であり、改善できる。
【0176】
また、均一屈折率材料のSiOxy膜からなる凹凸部17の屈折率nSと液晶16の常光屈折率noは略等しいため、液晶レンズ素子20に常光偏光が入射した場合、透過波面は変化しない。常光偏光の入射光に対しては、液晶レンズ素子20の透明電極間の印加電圧および入射光の波長に依存することなく、透過波面変化のない(パワーなし)98%の高い透過率が得られた。
【0177】
「例2」と同様、この液晶レンズ素子20を、図11に示す第6の実施形態の光ヘッド装置70に搭載し、単層および2層のDVD光ディスクの記録・再生を行う。
この光ヘッド装置70を用いて、カバー厚0.60mmの単層DVD光ディスクDに情報を記録・再生する場合、液晶レンズ素子10の印加電圧をV0=1.6V程度とすると、入射光は対物レンズ5により情報記録層に効率よく集光される。
【0178】
一方、2層DVD光ディスクDに対しては、液晶レンズ素子20の印加電圧をV-1(=1V)程度とすると、入射光はカバー厚0.63mmの情報記録層に集光され、印加電圧をV+1(=3V)程度とすると、入射光はカバー厚0.57mmの情報記録層に集光される。何れも、残留するRMS波面収差の計算値は3mλ[rms]以下となる。
【0179】
次に、カバー厚が0.56mmから0.64mmの光ディスクに対して、液晶レンズ素子10の印加電圧V0、V-1、V+1に応じて発生する透過波面を用いた場合、残留するRMS波面収差の計算結果を図15に示す。
従って、カバー厚が0.56mmから0.585mmの範囲では、印加電圧V+1とすることにより、カバー厚が0.585mmから0.615mmの範囲では印加電圧V0とすることにより、さらに、カバー厚が0.615mmから0.64mmの範囲では印加電圧V-1とすることにより、それぞれ、残留するRMS波面収差が約20mλ[rms]以下に低減する。
また、トラッキングのため、光ディスクDの半径方向に対物レンズ5が±0.3mm程度移動した時、液晶レンズ素子20との偏心が生じるが、それに伴う収差発生はないため、集光スポットの劣化も生じない。
従って、液晶レンズ素子20に印加する電圧をV0、V-1、V+1に切り替えることにより、単層および2層のDVD光ディスクDの安定した記録・再生を行える光ヘッド装置が実現する。
【0180】
なお、この液晶レンズ素子20に他の波長、例えばCD用の790nm波長帯の光が入射する場合、液晶レンズ素子20中の液晶16に対して常光偏光となる直線偏光とすることにより、電圧非印加時に透過波面変化せず高い透過率が得られるため好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0181】
本発明の液晶レンズ素子は、印加電圧に応じて焦点距離が複数切り換わる焦点距離切り換えレンズとして利用でき、特に、カバー厚の異なる単層および2層の情報記録層を有する光ディスクの記録および/または再生において、発生するパワー成分を含む球面収差を補正する液晶レンズ素子として利用できるので、液晶レンズ素子と対物レンズとが偏心した時に収差が発生しないため、配置の制約が軽減され、光源や光検出器やビームスプリッタなどと一体化した小型なユニットとして光ヘッド装置などに利用できる。

なお、本出願の優先権主張の基礎となる日本特許願2004−026685号(2004年2月3日に日本特許庁に出願)及び日本特許願2004−230606号(2004年8月6日に日本特許庁に出願)の全明細書の内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
焦点距離が可変の液晶レンズ素子であって、
それぞれ透明電極を備えた一対の透明基板と、
該一対の基板に備えられたそれぞれの透明電極の間に電圧を印加する電圧印加手段と、
透明材料で形成されており、液晶レンズ素子の光軸に関して回転対称性を有する鋸歯状の断面形状または鋸歯を階段形状に近似した断面形状を有するとともに、前記それぞれの透明電極のうち少なくとも一方の透明電極上に形成された凹凸部と、
少なくとも前記凹凸部の凹部に充填された液晶と、を備え、
前記透明電極間に前記電圧印加手段によって印加する電圧の大きさに応じて前記液晶の実質的な屈折率を変化させることを特徴とする液晶レンズ素子。
【請求項2】
前記液晶は、常光屈折率noおよび異常光屈折率ne(但し、no≠ne)を有するとともに、前記印加する電圧の大きさに応じて液晶層の実質的な屈折率がnoからneまでの範囲の値に変化する液晶材料を用い、かつ、電圧非印加時の液晶分子の配向方向が液晶層内で特定方向に揃う特性を有しているとともに、
前記凹凸部の透明材料は、少なくとも異常光偏光入射光に対して屈折率nsの透明材料であり、屈折率nsの値が、noとneとの間にある(屈折率nsの値がnoとneと等しい場合を含む)請求項1に記載の液晶レンズ素子。
【請求項3】
前記透明材料は、屈折率ns
|ne−ns|≦|ne−no|/2
の関係を満たすとともに、
前記凹凸部は、凹部の深さdが前記液晶を透過する光の波長λに対して、次式
(m−0.25)・λ/|ne−ns|≦d
≦(m+0.25)・λ/|ne−ns
但し、m=1、2または3
の範囲である請求項2に記載の液晶レンズ素子。
【請求項4】
波長λの前記光に対する位相差がπ/2の奇数倍である位相板を一体化している請求項1から3のいずれか1項に記載の液晶レンズ素子。
【請求項5】
請求項1に記載の液晶レンズ素子に、位相板が重ねて積層されている液晶レンズ素子。
【請求項6】
請求項1に記載の液晶レンズ素子を、2つ重ねて積層されている液晶レンズ素子。
【請求項7】
請求項1に記載の液晶レンズ素子に、偏光性回折格子と位相板がこの順に重ねて積層されている液晶レンズ素子。
【請求項8】
波長λの光を出射する光源と、この光源からの出射光を光記録媒体に集光する対物レンズと、この対物レンズにより集光され前記光記録媒体により反射された光を分波するビームスプリッタと、前記分波された光を検出する光検出器とを備えた光ヘッド装置において、
前記光源と前記対物レンズとの間の光路中に、請求項1から7のいずれか1項に記載の液晶レンズ素子を設置していることを特徴とする光ヘッド装置。
【請求項9】
波長λおよび波長λ(但し、λ≠λ)の光を出射する光源と、この光源からの出射光を光記録媒体に集光する対物レンズと、この対物レンズにより集光され前記光記録媒体により反射された出射光を検出する光検出器とを備えた光ヘッド装置において、
前記光源と前記対物レンズとの間の光路中に、請求項1から4のいずれか1項に記載の液晶レンズ素子を設置するとともに、
前記液晶レンズ素子に入射する前記波長λと波長λの光として、偏光面が互いに直交する直線偏光を用いることを特徴とする光ヘッド装置。
【請求項10】
前記光記録媒体は情報記録層を覆うカバー層を有し、このカバー層の厚さが異なる光記録媒体への記録および/または再生を行う請求項8または9に記載の光ヘッド装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【国際公開番号】WO2005/076265
【国際公開日】平成17年8月18日(2005.8.18)
【発行日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−517713(P2005−517713)
【国際出願番号】PCT/JP2005/001528
【国際出願日】平成17年2月2日(2005.2.2)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】