説明

減圧装置及びこの減圧装置を用いたガス系消火設備

【課題】ガス流路に配設した流路弁が供給側ガス圧の影響を受けず、出口側ガス圧を安定的に維持できるとともに、構造が簡単で、部品点数が少なく低コストの減圧装置を提供すること。
【解決手段】ガス流路21に配設した流路弁22に対して、流路弁22の摺動方向と直交する方向に供給側ガス圧P0がかかるようにするとともに、流路弁22の摺動方向に出口側ガス圧P2及び基準ガス圧P1がそれぞれ所定の面積割合でかかるように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、減圧装置及びこの減圧装置を用いたガス系消火設備に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、消火対象区画内に消火剤を放出し、消火対象区画内の消火剤の濃度を消炎濃度以上に維持することによって消火するようにしたガス系消火設備として、消火剤に二酸化炭素やハロンガス等の不活性ガスを使用するようにしたものが実用化されている。
【0003】
ところで、消火剤として二酸化炭素やハロンガス等の不活性ガスを使用する場合、これらの消火剤を加圧液化して高圧ガス容器からなる消火剤ガス貯蔵容器に充填された状態で消火設備内に保管しておき、火災の際に、適宜の電気的手段又は空圧的手段を用いて、消火剤ガス貯蔵容器の容器弁を開放することにより、二酸化炭素やハロンガスを消火剤ガス貯蔵容器から配管を介して噴射ヘッドまで送り、噴射ヘッドから消火対象区画内に放出するようにしている。このとき、二酸化炭素やハロンガス等の不活性ガスは、噴射ヘッドまでは液体の状態で送られ、噴射ヘッドから消火対象区画内に放出された瞬間に気化して気体の状態となり、消火対象区画内に充満して火災を鎮圧する。
【0004】
そして、これらの二酸化炭素やハロンガス等の不活性ガスを使用するガス系消火設備は、急速に火災を鎮圧できること、消火剤による消火対象区画内の汚染がほとんどないこと、電気の絶縁性を損なわないこと、消火剤が隙間から浸透して構造が複雑な消火対象に対しても強力な消火効果を発揮できること、消火剤の経年変化がなく長期に亘って一定の消火能力を有すること等の利点を有することから、石油関連施設、電気関連施設のみならず、一般の施設にも広く使用されている。
【0005】
ところが、近年になって、オゾン層の破壊に関する問題が世界的な規模で提起され、ハロンガス等のハロゲン化炭化水素成分を含有する消火剤については、1994年1月に生産中止となり、事実上使用することができなくなった。
【0006】
一方、この二酸化炭素を消火剤として使用する消火設備についても、以下の問題点があることが知られている。
(1)消火時の消火対象区画内の二酸化炭素の設計濃度は、約35%であり、この濃度では、万一消火対象区画内に人が存在していた場合、二酸化炭素の毒性(麻酔性)により人命に係わる事態が発生するおそれがある。
(2)二酸化炭素は、火災の際、噴射ヘッドまでは液体の状態で送られ、噴射ヘッドから消火対象区画内に放出された瞬間に気化して気体の状態となるが、このとき、周囲から気化熱を奪うため室内の空気の飽和蒸気圧が低下し、空気中の水分が結露するとともに、静電気が発生する。これにより、室内は霧がかかった状態となり、人の避難及び救出並びに消火作業の障害になるとともに、結露及び静電気により電子機器の絶縁不良や故障が起こり、重大な二次災害が発生するおそれがある。
(3)二酸化炭素は、密度が空気よりもはるかに大きいため、消火対象区画内に放出された二酸化炭素は、消火対象区画内の下部に滞留し消火効果が低下するほか、消火対象区画内の下部の開口部から外部へ散逸しやすい。
(4)地球温暖化に関する問題が世界的な規模で提起されていることから、二酸化炭素もハロンガスと同様に、将来的には使用が制限される可能性がある。
【0007】
ところで、本件出願人は、上記従来のガス系消火設備が有する多くの問題点を解決するために、先に窒素ガスや窒素ガスに、オゾン層を破壊しないパーフルオロアルカン(パーフルオロブタン(C10))、ハイドロジェノフルオロアルカン(トリフルオロメタン(CHF)、へプタフルオロプロパン(CHF)又はペンタフルオロエタン(CHF))又はハイドロジェノフルオロハロゲノアルカン(アイオドトリフルオロメタン(CFI))(以下、これらを総称して「フッ素系化合物」という。)の少なくとも1種類を10容積%以下の割合で混合した混合ガス(以下、単に「混合ガス」という。)を消火剤として使用するガス系消火設備を提案した(特許文献1〜2参照)。
【0008】
しかしながら、ガス系消火設備の消火剤として窒素ガスや混合ガスを使用した場合も、以下の問題点があることがわかった。
(1)ガス系消火設備の消火剤としての窒素ガスや混合ガスは、加圧してガス状態で貯蔵されたものを使用するため、加圧液化した状態で貯蔵されたものを使用する二酸化炭素やハロンガスに比べて、同容積の消火対象区画の消火に要する消火剤ガス貯蔵容器の数が数倍必要となり、消火剤ガス貯蔵容器の大きな設置スペースが必要となる。
(2)設置する消火剤ガス貯蔵容器の数を低減するためには、消火剤ガス貯蔵容器に充填する不活性消火剤ガスの充填圧力を高める必要があるが、不活性消火剤ガスの充填圧力を高めた場合、選択弁、主配管、枝管、噴射ヘッド等の消火設備の二次側機器にも不活性消火剤ガスの高いガス圧がかかることとなり、このため、これら二次側機器の耐圧グレードを上げる必要があり、設備費が著しく高くなり、また、既存の設備には、適用できない。
【0009】
そこで、本件出願人は、ガス系消火設備の消火剤として窒素ガスや混合ガスを使用した場合の上記問題点を解決するために、高圧の供給側ガス圧を所定の出口側ガス圧に減圧することができ、これにより、例えば、ガス系消火設備に適用した場合に、ガス系消火設備の二次側機器の耐圧グレードを上げずに不活性消火剤ガスの充填圧力を高めることができる減圧装置を提案した(特許文献3〜4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平8−141102号公報
【特許文献2】特開平8−243186号公報
【特許文献3】特開平8−299492号公報
【特許文献4】特開平9−319439号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、上記の減圧装置は、高圧の供給側ガス圧を所定の出口側ガス圧に減圧するという所期の目的を十分達成することができるものであったが、ガス流路に配設した流路弁が供給側ガス圧の影響を受けやすく出口側ガス圧に変動が生じたり、また、構造が複雑で、部品点数が多くなるという問題があった。
【0012】
本発明は、上記従来の減圧装置の有する問題点に鑑み、ガス流路に配設した流路弁が供給側ガス圧の影響を受けず、出口側ガス圧を安定的に維持できるとともに、構造が簡単で、部品点数が少なく低コストの減圧装置及びこの減圧装置を用いたガス系消火設備を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、本発明の減圧装置は、ガス流路に配設した流路弁に対して、流路弁の摺動方向と直交する方向に供給側ガス圧(P0)がかかるようにするとともに、流路弁の摺動方向に出口側ガス圧(P2)及び基準ガス圧(P1)がそれぞれ所定の面積割合でかかるように構成したことを特徴とする。
【0014】
この場合において、ガス流路に配設した流路弁を有天筒状の弁体で構成し、該弁体の周壁をガス供給口の開口面と平行に摺動させることによってガス供給口を開閉するようにするとともに、弁体の外天面に出口側ガス圧(P2)が、内天面に基準ガス圧(P1)が、それぞれかかるように構成することができる。
【0015】
また、ガス流路に配設した流路弁を端部に径大鍔部を形成した筒状の弁体で構成し、該弁体の周壁をガス供給口の開口面と平行に摺動させることによってガス供給口を開閉するようにするとともに、弁体の端部に形成した径大鍔部の外側端面に出口側ガス圧(P2)が、内側端面に基準ガス圧(P1)が、それぞれかかるように構成することができる。
【0016】
また、流路弁にかかる供給側ガス圧(P0)の圧力が相殺されるようにガス供給口を形成することができる。
【0017】
また、出口側ガス圧(P2)がかかる面積と基準ガス圧(P1)がかかる面積とを、出口側ガス圧(P2)が、基準ガス圧(P1)と一致するように設定することができる。
【0018】
さらに、本発明のガス系消火設備は、消火剤ガス貯蔵容器内にガス状態で貯蔵されている不活性消火剤ガスを消火対象区画内に放出し、消火対象区画内の消火剤の濃度を消炎濃度以上に維持することによって消火するようにしたガス系消火設備において、上記減圧装置を、高圧の供給側ガス圧を所定の出口側ガス圧に減圧するために用いることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の減圧装置によれば、ガス流路に配設した流路弁に対して、流路弁の摺動方向と直交する方向に供給側ガス圧(P0)がかかるようにするとともに、流路弁の摺動方向に出口側ガス圧(P2)及び基準ガス圧(P1)がそれぞれ所定の面積割合でかかるように構成することにより、ガス流路に配設した流路弁が供給側ガス圧の影響を受けにくく、出口側ガス圧を安定的に維持できるとともに、構造が簡単で、部品点数が少なく低コストの減圧装置とすることができる。
【0020】
そして、より具体的には、本発明の減圧装置は、ガス流路に配設した流路弁を有天筒状の弁体で構成し、該弁体の周壁をガス供給口の開口面と平行に摺動させることによってガス供給口を開閉するようにするとともに、弁体の外天面に出口側ガス圧(P2)が、内天面に基準ガス圧(P1)が、それぞれかかるように構成するようにしたり、ガス流路に配設した流路弁を端部に径大鍔部を形成した筒状の弁体で構成し、該弁体の周壁をガス供給口の開口面と平行に摺動させることによってガス供給口を開閉するようにするとともに、弁体の端部に形成した径大鍔部の外側端面に出口側ガス圧(P2)が、内側端面に基準ガス圧(P1)が、それぞれかかるように構成することができる。
【0021】
また、流路弁にかかる供給側ガス圧(P0)の圧力が相殺されるようにガス供給口を形成することにより、ガス流路に配設した流路弁が受ける供給側ガス圧の影響を一層少なくすることができる。
【0022】
また、出口側ガス圧(P2)がかかる面積と基準ガス圧(P1)がかかる面積とを、出口側ガス圧(P2)が、基準ガス圧(P1)と一致するように設定することにより、出口側ガス圧の制御を簡易に行うことができる。
【0023】
さらに、本発明のガス系消火設備によれば、消火剤ガス貯蔵容器内にガス状態で貯蔵されている不活性消火剤ガスを消火対象区画内に放出し、消火対象区画内の消火剤の濃度を消炎濃度以上に維持することによって消火するようにしたガス系消火設備において、上記減圧装置を、高圧の供給側ガス圧を所定の出口側ガス圧に減圧するために用いることにより、出口側ガス圧を安定的に維持できるとともに、低コストのガス系消火設備とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】ガス系消火設備の一例を示す説明図である。
【図2】本発明の減圧装置の第1実施例を示し、(a)流路弁が閉鎖状態のとき、(b)流路弁が開放状態のときをそれぞれ示す。
【図3】(a)は図2(b)のX−X断面図、(b)はガス供給口の展開図である。
【図4】ガス系消火設備の変形例を示す説明図である。
【図5】本発明の減圧装置の第1実施例の変形例を示し、(a)流路弁が閉鎖状態のとき、(b)流路弁が開放状態のときをそれぞれ示す。
【図6】本発明の減圧装置の第2実施例を示し、(a)流路弁が閉鎖状態のとき、(b)流路弁が開放状態のときをそれぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の減圧装置及びこの減圧装置を用いたガス系消火設備の実施の形態を、図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0026】
図1に、本発明の減圧装置を用いたガス系消火設備の一例を示す。
本例は、3つの消火対象区画6−1、6−2、6−3を有する場合のガス系消火設備を示したものである。
このガス系消火設備は、不活性消火剤ガスとして、例えば、窒素ガスを使用し、これを加圧して高圧ガス容器に充填した状態(特に限定されるものではないが、例えば、35℃において、30MPa)で消火設備内に保管することにより、消火剤ガス貯蔵容器1として利用する。本例のガス系消火設備には、5本の消火剤ガス貯蔵容器1−1、1−2、・・・1−5を備え、各容器1には、容器弁2を介して連結管3を接続し、さらに連結管3を1本の集合管4に接続し、この集合管4を各消火対象区画6−1、6−2、6−3まで延設した主配管5−1、5−2、5−3に接続する。主配管5−1、5−2、5−3には、選択弁9−1、9−2、9−3を配設し、消火対象区画6−1、6−2、6−3に選択的に不活性消火剤ガスを送るようにする。消火対象区画6−1、6−2、6−3まで延設した主配管5−1、5−2、5−3を、消火対象区画6−1、6−2、6−3内にそれぞれ配設した枝管8−1、8−2、8−3に接続し、この枝管8−1、8−2、8−3を消火対象区画6−1、6−2、6−3内の適所に複数個配設した噴射ヘッド7−1、7−2、7−3に接続する。
【0027】
ところで、通常、各消火対象区画6−1、6−2、6−3は、その容積が異なるため、当然、消火するのに必要となる不活性消火剤ガスの量も異なる。このため、主配管5−1、5−2、5−3の口径を各消火対象区画6−1、6−2、6−3の容積に応じて異ならせるほか、火災の際、消火対象となる消火対象区画6−1、6−2、6−3に対応した本数の消火剤ガス貯蔵容器1が開放されるようにガス系消火設備を構成する。
【0028】
ここで、開放すべき消火剤ガス貯蔵容器1の本数を、消火対象区画6−1が5本、消火対象区画6−2が3本、消火対象区画6−3が1本に設定することとする。なお、図中、9−1、9−2、9−3は選択弁、10−1、10−2、10−3は選択弁開放装置、11−1、11−2、11−3は起動用ガス容器、12−1、12−2、12−3は起動用ガス容器開放用のソレノイドである。また、図中、13−1、13−2、13−3は、選択弁9−1、9−2、9−3及び起動用ガス容器11−1、11−2、11−3の開放をコントロールする起動用ガス管路で、選択弁開放装置10−1、10−2、10−3に接続され、その途中の適所に不還弁14−1、14−2、14−3、14−A、14−Bを配設する。なお、不還弁14−1、14−2、14−3、14−A、14−Bの通過可能方向は、図の矢印の向きで表している。なお、これらの部材の末尾の数字1、2、3は、消火対象区画の末尾の数字1、2、3にそれぞれ対応している。
【0029】
消火剤ガス貯蔵容器1に配設する容器弁2には、図2〜図3に示す、高圧の供給側ガス圧P0を定圧ガス源(本例の場合は、定圧ガス源として、図1に示すように、窒素ガスを充填(特に限定されるものではないが、例えば、35℃において、11MPa)した起動用ガス容器11−1、11−2、11−3を利用するようにしている。)からの基準ガス圧P1によって規定される所定の出口側ガス圧P2(特に限定されるものではないが、例えば、35℃において、11MPa)に減圧することができる本発明の第1実施例の減圧装置を用いるようにする。
【0030】
この減圧装置は、ガス流路21に配設した流路弁22に対して、流路弁22の摺動方向と直交する方向に供給側ガス圧P0がかかるようにするとともに、流路弁22の摺動方向に出口側ガス圧P2及び基準ガス圧P1がそれぞれ所定の面積割合でかかるように構成している。
【0031】
より具体的には、ガス流路21に配設した流路弁22を有天筒状の弁体で構成し、この弁体の周壁22aをガス供給口21aの開口面と平行に摺動させることによってガス供給口21aを開閉するようにするとともに、弁体の外天面22cに出口側ガス圧P2が、内天面22dに基準ガス圧P1が、それぞれかかるように構成している。
そして、この減圧装置は、ガス流路21に配設した流路弁22が供給側ガス圧P0の影響を受けず、出口側ガス圧P2を安定的に維持できるとともに、構造が簡単で、部品点数が少なく低コストで製作することができる。
ここで、「有天筒状」、「外天面」及び「内天面」の用語は、この減圧装置が、通常、図2に示す状態で使用されることが多いため、便宜的に用いたものであり、当該用語によって、この減圧装置の設置方向が限定されるものではなく、例えば、図2に示す状態と逆方向や横向きで使用することを排除するものでない。
【0032】
この場合において、有天筒状の弁体からなる流路弁22は、基準ガス圧P1に影響を与えない程度のばね定数のはね23によって、ガス供給口21aを閉鎖する方向に付勢するようにする。
そして、流路弁22は、周壁22aの内面が、ガス供給口21aの上下両側に配設したOリング24a、24bと摺接することより、流路弁22が閉鎖状態のとき(図2(a)参照)、ガス供給口21aを密閉するようにするとともに、常時、流路弁22の開口側と内天面22dの内側空間とを遮断するようにする。
また、流路弁22は、天部22bを貫通して内天面22dの内側空間内に突入した定圧ガス源から基準ガス圧P1を導入するための定圧ガス供給管25に沿って摺動するようにする。
さらに、定圧ガス供給管25は、流路弁22の天部22bの貫通孔に配設したOリング24cと摺接することより、内天面22dの内側空間が外部と遮断されるようにする。
【0033】
なお、図5に示す変形例のように、Oリング24aを流路弁22側に設けるようにしたり、Oリング24a、24b、24cに代えて、公知の材質や形状のシール機構を適宜選択して用いることができることはいうまでもない。
【0034】
また、ガス供給口21aは、図3(a)に示すように、放射方向に対称に、より具体的には、4方向に90°の角度間隔で形成するようにしている。なお、ガス供給口21aの方向(角度間隔)は、本実施例のものに限定されず、2方向の場合は、180°の角度間隔、3方向の場合は、120°の角度間隔、n(n:2以上の整数)方向の場合は、360°/nの角度間隔というように、放射方向に点対称に設定するようにする。
これにより、ガス流路21に配設した流路弁22が受ける供給側ガス圧P0の影響を相殺し、供給側ガス圧P0の影響を少なくすることができる。
【0035】
また、ガス供給口21aは、図3(b)に示すように、上方に向けて開口寸法が徐々に拡大する異形形状に形成するようにしている。
これにより、供給側ガス圧P0の変動に応じたガス流量の調節、特に、ガス流量が少ない供給側ガス圧P0が高圧の場合のガス流量の調節を正確に行うことができ、供給側ガス圧P0の変動の影響を少なくすることができる。
なお、ガス供給口21aの形状は、上記の形状に限定されず、円形、長円形、矩形等の任意の形状に形成することもできる。
【0036】
ここで、この減圧装置は、出口側ガス圧P2がかかる面積を相殺した上で、出口側ガス圧P2が実質的にかかる面積と、基準ガス圧P1が実質的にかかる面積とを実質的に等しくすることにより、出口側ガス圧P2が、基準ガス圧P1と一致するようにしている。
具体的には、出口側ガス圧P2がかかる面積を相殺した上で、流路弁22の内天面22dの面積をA1、定圧ガス供給管25の面積をA2とすると、以下の式(1)が成立し、供給側ガス圧P0の大きさ(変動)に関わらず、出口側ガス圧P2が、基準ガス圧P1と一致するようにしている。
P2×(A1−A2)=P1×(A1−A2) ・・・(1)
これにより、出口側ガス圧の制御を簡易に行うことができる。
【0037】
次に、この減圧装置からなる容器弁2の動作について説明する。
定圧ガス源としての起動用ガス容器11−1、11−2、11−3から、定圧ガス供給管25を介して、内天面22dの内側空間内に基準ガス圧P1の窒素ガスを供給することにより、流路弁22をばね23の付勢力に抗して図2(a)から図2(b)に示すように上方に移動させ、ガス供給口21aを開口させる。
ガス供給口21aが開口されると、消火剤ガス貯蔵容器1からガス流路21のガス出口側21bに不活性消火剤ガスが流入するが、これに合わせて、流路弁22の外天面22cにも出口側ガス圧P2がかかるようになる。
このため、上記の式(1)に従って、流路弁22は、瞬時に平衡し、本例の場合、出口側ガス圧P2は、起動用ガス容器11−1、11−2、11−3の基準ガス圧P1と等しい値に保持される。
【0038】
この場合において、この減圧装置からなる容器弁2によって保持される出口側ガス圧P2は、定圧ガス源、すなわち、起動用ガス容器11−1、11−2、11−3の基準ガス圧P1自体を調整したり、起動用ガス容器11−1、11−2、11−3に圧力調整器を配設し、この圧力調整器により基準ガス圧P1を調整したり、流路弁22の形状を異ならせること等により変更することができるが、不活性ガス消火設備の設計上、出口側ガス圧P2が基準ガス圧P1と等しい値に保持されるように構成することが望ましい。
なお、減圧装置からなる容器弁2は、定圧ガス源、すなわち、起動用ガス容器11−1、11−2、11−3からの窒素ガスの供給を停止するとともに、定圧ガス供給管25内の窒素ガスを排出することにより、ガス供給口21aを閉鎖することができる機能を有するものであり、この機能を利用して、一旦開放した消火剤ガス貯蔵容器を閉鎖するように構成することも可能である。
【0039】
次に、この減圧装置からなる容器弁2を適用した上記のガス系消火設備の火災の際の動作について説明する。
いま、消火対象区画6−1に火災が発生したとすれば、火災発見者がこの消火対象区画6−1に対応する押釦(手動操作の場合)を操作すると、電気信号が起動用ガス容器開放用のソレノイド12−1に送られ、ソレノイド12−1が動作して起動用ガス容器11−1が開放される。起動用ガス容器11−1が開放されることにより放出された起動用ガスは、まず、選択弁開放装置10−1に導入されて選択弁9−1を開放してから、不還弁14−1を経て起動用ガス管路13−1を通り、不還弁14−A及び不還弁14−Bを通過して全ての容器弁2に至って消火剤ガス貯蔵容器1を5本とも開放する。このとき、不還弁14−2及び不還弁14−3を通過することができないため、選択弁9−2及び選択弁9−3は開放されない。ところで、容器弁2には、高圧の供給側ガス圧P0を定圧ガス源からの基準ガス圧P1によって規定される所定の出口側ガス圧P2に減圧することができる減圧装置を用いているため、開放された5本の消火剤ガス貯蔵容器1から基準ガス圧P1に規制された不活性ガスが、容器弁2、連結管3、集合管4、選択弁9−1、主配管5−1及び枝管8−1を介して噴射ヘッド7−1まで送られ、噴射ヘッド7−1から消火対象区画6−1内に放出される。
【0040】
また、消火対象区画6−2に火災が発生したとすれば、火災発見者がこの消火対象区画6−2に対応する押釦(手動操作の場合)を操作すると、電気信号が起動用ガス容器開放用のソレノイド12−2に送られ、ソレノイド12−2が動作して起動用ガス容器11−2が開放される。起動用ガス容器11−2が開放されることにより放出された起動用ガスは、まず、選択弁開放装置10−2に導入されて選択弁9−2を開放してから、不還弁14−2を経て起動用ガス管路13−2を通り、不還弁14−Bを通過して容器弁2に至って消火剤ガス貯蔵容器1を3本だけ、すなわち、消火剤ガス貯蔵容器1−3、1−4、1−5を開放する。このとき、不還弁14−Aを通過することができないため、消火剤ガス貯蔵容器1のうち2本、すなわち、消火剤ガス貯蔵容器1−1、1−2は開放されない。また、不還弁14−1及び不還弁14−3を通過することができないため、選択弁9−1及び選択弁9−3は開放されない。ところで、容器弁2には、容器弁2には、高圧の供給側ガス圧P0を定圧ガス源からの基準ガス圧P1によって規定される所定の出口側ガス圧P2に減圧することができる減圧装置を用いているため、開放された3本の消火剤ガス貯蔵容器1−3、1−4、1−5から基準ガス圧P1に規制された不活性ガスが、容器弁2、連結管3、集合管4、選択弁9−2、主配管5−2及び枝管8−2を介して噴射ヘッド7−2まで送られ、噴射ヘッド7−2から消火対象区画6−2内に放出される。
【0041】
また、消火対象区画6−3に火災が発生したとすれば、火災発見者がこの消火対象区画6−3に対応する押釦(手動操作の場合)を操作すると、電気信号が起動用ガス容器開放用のソレノイド12−3に送られ、ソレノイド12−3が動作して起動用ガス容器11−3が開放される。起動用ガス容器11−3が開放されることにより放出された起動用ガスは、まず、選択弁開放装置10−3に導入されて選択弁9−3を開放してから、不還弁14−3を経て起動用ガス管路13−3を通り、容器弁2に至って消火剤ガス貯蔵容器1を1本だけ、すなわち、消火剤ガス貯蔵容器1−5を開放する。このとき、不還弁14−Bを通過することができない(したがって、当然、不還弁14−Aも通過することができない)ため、消火剤ガス貯蔵容器1のうち4本、すなわち、消火剤ガス貯蔵容器1−1、1−2、1−3、1−4は開放されない。また、不還弁14−1及び不還弁14−2を通過することができないため、選択弁9−1及び選択弁9−2は開放されない。ところで、容器弁2には、容器弁2には、高圧の供給側ガス圧P0を定圧ガス源からの基準ガス圧P1によって規定される所定の出口側ガス圧P2に減圧することができる減圧装置を用いているため、開放された1本の消火剤ガス貯蔵容器1−5から基準ガス圧P1に規制された不活性ガスが、容器弁2、連結管3、集合管4、選択弁9−3、主配管5−3及び枝管8−3を介して噴射ヘッド7−3まで送られ、噴射ヘッド7−3から消火対象区画6−3内に放出される。
【0042】
以上、消火対象区画が3区画で、消火剤ガス貯蔵容器1の本数が5本の場合を例にして説明したが、消火対象区画の数及び消火剤ガス貯蔵容器1の本数並びに開放される消火剤ガス貯蔵容器1の本数は、本実施例(以下に示す変形実施例の場合も同様。)のものに限定されるものではなく、必要に応じて任意に設定することができる。
【0043】
そして、上記の減圧装置を用いることにより、容器弁2を構造が簡単で、部品点数が少なく低コストな構造とすることができ、また、出口側ガス圧P2の値を基準ガス圧P1を変えることによって広い範囲で、かつ、高精度に調整することができる。
【0044】
また、上記のガス系消火設備においては、上記の減圧装置を容器弁2に適用するようにしたが、これに限定されず、例えば、図4に示すように、ガス系消火設備における消火剤ガス貯蔵容器1から選択弁9−1,9−2,9−3までの適所に、上記と同様の減圧装置18を配設するとともに、起動用ガス容器11−1,11−2,11−3とは別に、定圧ガス源として、窒素ガスを充填(特に限定されるものではないが、例えば、35℃において、11MPa)した定圧ガス容器19を設けることもできる。
なお、減圧装置18を設けた場合には、容器弁2には通常の容器弁を使用するようにする。
また、容器弁2に適用する減圧装置の場合は、特に限定されるものではないが、例えば、ガス流路21の口径(内径)を8mm程度に形成するようにするが、減圧装置18の場合は、必要に応じて、例えば、100〜200mm程度の大径のものを用いることもできる。
そして、消火剤ガス貯蔵容器1から減圧装置18に至るまでの容器弁2、連結管3及び集合管4等の消火設備の一次側機器には、不活性消火剤ガスの高いガス圧がかかるため、これら一次側機器は、この高いガス圧に耐えるように構成する必要があるが、集合管4等は、主配管5−1,5−2,5−3に比べ管の内径が小さいため、耐圧が高く、このため、消火設備の一次側機器の耐圧グレードを上げる必要がないことが多く、設備費を低廉にすることができるとともに、既存の設備にもそのまま適用することができる。
【実施例2】
【0045】
ところで、上記減圧装置は、ガス流路21に配設した流路弁22を有天筒状の弁体で構成したが、これに限定されず、図6に示す、本発明の減圧装置の第2実施例のように、流路弁22を端部に径大鍔部22eを形成した筒状の弁体で構成し、この弁体の周壁22aをガス供給口21aの開口面と平行に摺動させることによってガス供給口21aを開閉するようにするとともに、弁体の端部に形成した径大鍔部22eの外側端面22fに出口側ガス圧P2が、内側端面22gに基準ガス圧P1が、それぞれかかるように構成することもできる。
そして、この減圧装置は、ガス流路21に配設した流路弁22が供給側ガス圧P0の影響を受けず、出口側ガス圧P2を安定的に維持できるとともに、構造が簡単で、部品点数が少なく低コストで製作することができる。
なお、本実施例の減圧装置のその他の構成及び作用は、上記第1実施例の減圧装置と同様である。
【0046】
以上、本発明の減圧装置及びこの減圧装置を用いたガス系消火設備について、複数の実施例に基づいて説明したが、本発明は上記実施例に記載した構成に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の減圧装置及びこの減圧装置を用いたガス系消火設備は、ガス流路に配設した流路弁が供給側ガス圧の影響を受けず、出口側ガス圧を安定的に維持できるとともに、構造が簡単で、部品点数が少なく低コストに製作できることから、その適用対象は、上記のガス系消火設備に限定されず、例えば、原子力発電所や半導体製造工場等の設備内に定圧で各種のガスを供給する定圧ガス供給設備等の極めて広い範囲に適用することができるものである。
【符号の説明】
【0048】
1 消火剤ガス貯蔵容器
2 容器弁(減圧装置)
21 ガス流路
21a ガス供給口
21b ガス出口側
22 流路弁
22a 周壁
22b 天部
22c 外天面
22d 内天面
22e 径大鍔部
22f 外側端面
22g 内側端面
23 ばね
24a Oリング
24b Oリング
24c Oリング
25 定圧ガス供給管
6 消火対象区画
7 噴射ヘッド
18 減圧装置
P0 供給側ガス圧
P1 基準ガス圧
P2 出口側ガス圧

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス流路に配設した流路弁に対して、流路弁の摺動方向と直交する方向に供給側ガス圧(P0)がかかるようにするとともに、流路弁の摺動方向に出口側ガス圧(P2)及び基準ガス圧(P1)がそれぞれ所定の面積割合でかかるように構成したことを特徴とする減圧装置。
【請求項2】
ガス流路に配設した流路弁を有天筒状の弁体で構成し、該弁体の周壁をガス供給口の開口面と平行に摺動させることによってガス供給口を開閉するようにするとともに、弁体の外天面に出口側ガス圧(P2)が、内天面に基準ガス圧(P1)が、それぞれかかるように構成したことを特徴とする請求項1記載の減圧装置。
【請求項3】
ガス流路に配設した流路弁を端部に径大鍔部を形成した筒状の弁体で構成し、該弁体の周壁をガス供給口の開口面と平行に摺動させることによってガス供給口を開閉するようにするとともに、弁体の端部に形成した径大鍔部の外側端面に出口側ガス圧(P2)が、内側端面に基準ガス圧(P1)が、それぞれかかるように構成したことを特徴とする請求項1記載の減圧装置。
【請求項4】
流路弁にかかる供給側ガス圧(P0)の圧力が相殺されるようにガス供給口を形成したことを特徴とする請求項1、2又は3記載の減圧装置。
【請求項5】
出口側ガス圧(P2)がかかる面積と基準ガス圧(P1)がかかる面積とを、出口側ガス圧(P2)が、基準ガス圧(P1)と一致するように設定したことを特徴とする請求項1、2、3又は4記載の減圧装置。
【請求項6】
消火剤ガス貯蔵容器内にガス状態で貯蔵されている不活性消火剤ガスを消火対象区画内に放出し、消火対象区画内の消火剤の濃度を消炎濃度以上に維持することによって消火するようにしたガス系消火設備において、請求項1、2、3、4又は5記載の減圧装置を、高圧の供給側ガス圧を所定の出口側ガス圧に減圧するために用いたことを特徴とするガス系消火設備。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−63016(P2012−63016A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−277040(P2011−277040)
【出願日】平成23年12月19日(2011.12.19)
【分割の表示】特願2007−8059(P2007−8059)の分割
【原出願日】平成19年1月17日(2007.1.17)
【出願人】(000168676)株式会社コーアツ (14)
【Fターム(参考)】