説明

温熱方法及び温熱装置

【課題】人体に対する有害性が極めて少なく比熱が高いプロピレングリコールを温熱媒体として有効に利用することにより、例えばビニールハウス等の植栽空間にて農作物などを育成する際や水槽内にて魚類や貝類等を養殖する際に温熱環境を維持できる温熱方法及び温熱装置を提供する。
【解決手段】本発明の温熱方法は、循環パイプ内に、水、20〜40重量%のプロピレングリコール、及び前記プロピレングリコールに対して7%以下のグリセリンからなる熱媒体を循環させることにより、循環パイプと接触する土壌、水、空気の何れか一つからから選ばれる被温物質を温めることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人体に対する有害性が極めて少なく比熱が高いプロピレングリコールを温熱媒体として有効に利用することにより、例えばビニールハウス等の植栽空間にて農作物などを育成する際、或いは水槽内にて魚類や貝類等を養殖する際などに好適な温度環境を維持できる温熱方法及び温熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ビニールハウス等にて各種の農作物や花類等を栽培する際には、外気に曝されるよりはビニールハウス内の方が寒冷に対する保温効果が大きいが、それでも昼間は20〜30℃以上の気温があったとしても夜間には極端に温度低下が生ずるため、明け方には霜柱が生ずることも珍しくない。
そのため、ビニールハウスの内部の空気や土壌等を、日中の太陽熱やボイラ等の加熱機構にて温めた熱媒体を循環パイプ内に充填して循環させることにより、空気や土壌等の温度を、植栽した植物に応じて温めたり、その育成に応じて空気温度環境を適宜に変化させるなどして良好な育成環境を創出することが行われている。
一般的な植物の育成には、茎や葉が延びる空気の温度管理、その根が埋まっている土壌の温度管理が重要であるが、例えば水生植物等のように土壌を必要としない植物には土壌温度に代えて水温管理が重要となり、さらに水稲類のように土壌と水との両方を必要とする植物には土壌と水の両方の温度管理が重要となる場合もある。
【0003】
また、植栽を行う施設としては、植栽する植物の生態(背の高さ等)に応じて前述のビニールハウスの他に、地表に僅かな間隔を隔ててフィルムを這わせるように敷設する方法や通常の農業用地上に立設するビニールハウスに対して建物の屋上等に作成する植栽施設も知られている。
さらに、近年では、建物の中に植栽環境を形成し、工業的に農作物生産を行おうとする試みもまた知られている。
そして、何れの植栽環境でも、日中の太陽熱やボイラ等の加熱機構にて植栽施設内を循環させる空気や土壌、或いは水を温める際には、一般的に水を熱媒体(温熱媒体)として循環パイプに充填してビニールハウス等の植栽空間内を循環させており、所定の温度に管理するために制御調整機構が具備されている場合もあった。
【0004】
一方、水槽等にて魚類や貝類等を養殖する際や水族館等の施設にて水生動物を飼育する際には、水槽内の水温や気温の管理が重要であり、それぞれ所定の温度に管理して飼育がおこなわれている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前述のように空気や土壌、水を温めるための温熱媒体としては、漏れ出た際の安全性の観点からも水が使用されており、例えば寒冷期には凍結して循環パイプ内を破裂させる恐れもあるし、太陽熱や加熱機構にて温められた温水の熱交換効率も改善の余地があった。
また、特にボイラ等の加熱機構をを用いる場合には、ボイラ燃料の高騰化に伴い、効率よく安価に植栽環境を維持することが希求されていた。
そこで、本発明者らは、人体に対する有害性が極めて少なく比熱が高いプロピレングリコールを温熱媒体として有効に利用することにより、例えばビニールハウス等の植栽空間にて農作物などを育成する際、或いは水槽内にて魚類や貝類等を養殖する際などに好適な温度環境を維持できる温熱方法及び温熱装置を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
プロピレングリコール(1,2−プロパンジオール)は、一般的なエチレングリコールに比べ、有害性物質が少なく地球に優しい石油化学系の液体であって、既に赤ちゃんのお尻拭き、医療用消毒剤、シャンプー等に使用されており、比熱が高いという特性を利して各種冷媒、各種施設の冷却水にも使用されている。
本発明は、人体に対する有害性が極めて少なく比熱が高いプロピレングリコールを温熱媒体として有効に利用し、更にグリセリンを加えて熱媒体とするものであって、循環パイプ内に、水、20〜40重量%のプロピレングリコール、及び前記プロピレングリコールに対して7%以下のグリセリンからなる熱媒体を循環させることにより、循環パイプと接触する土壌、水、空気の何れか一つからから選ばれる被温物質を温めることを特徴とする温熱方法に関するものである。
【0007】
被温物質が土壌又は水中である場合、土壌温度又は水中温度を温めたい、或いはその温度低下を防ぐことが目的となる。
例えばビニールハウス等における各種農作物などの植栽を行う場合には、ビニールハウス等の植栽用土壌中又は植栽用育成水中に配設した循環パイプに、水、20〜40重量%のプロピレングリコール、及び前記プロピレングリコールに対して7%以下のグリセリンからなる熱媒体を充填して循環させることにより、植栽用土壌又は植栽用育成水を温めて植物を育成することを特徴とする植栽方法となる。
例えば水槽等における魚類や貝類などの養殖を行う場合、水槽中の水中に配設した循環パイプに、水、20〜40重量%のプロピレングリコール、及び前記プロピレングリコールに対して7%以下のグリセリンからなる熱媒体を充填して循環させることにより、水槽内の水を温めて魚類や貝類を養殖することを特徴とする養殖方法となる。
【0008】
被温物質が空気である場合、環境気温を温めたい、或いはその温度低下を防ぐことが目的となる。
例えば前記ビニールハウス内の植栽においても、前記水槽内でも養殖においても、土壌温度や水温ばかりを温めておけばよいというものではなく、環境気温も温めることが植栽にも養殖にも重要であり、土壌や水ばかりでなく、植栽空間又は養殖空間を適宜に温めることがより好適な環境となる。
【0009】
前述のように温めようとする被温物質は、土壌、水、空気のうちの何れか一つのみでもよいし、何れか二つでも、三つ全てであってもよく、植栽する植物の種類、特性に応じて選択すればよく、また養殖する魚類や貝類などの種類、特性に応じて選択すればよい。
【0010】
さらに、本発明は、土壌、水、空気の何れか一つからから選ばれる被温熱物中に配される循環パイプと、該循環パイプに充填する水、20〜40重量%のプロピレングリコール、及び前記プロピレングリコールに対して3〜7%のグリセリンからなる熱媒体と、該熱媒体を循環させる循環機構(ポンプ)と、を備えることを特徴とする温熱装置をも提案するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、水だけに比べて比熱が高いプロピレングリコールが配合されているため、熱交換効率が高く、効率よく安価に温熱環境を維持できるものである。さらに、適量のグリセリンが配合されているため、熱媒体溶液全体の親和性が増して熱交換効率をより高めているものと考えられる。
したがって、日中の太陽の輻射熱を利用する方法では、日中に温めておいた熱媒体を夜間に循環パイプにて温めることができ、より長い時間まで土壌温度の低下を防ぐことができる。ボイラ等の各種加熱機構を用いて加熱する方法では、用いる燃料費を低減することができる。
また、特に寒冷時にはプロピレングリコールもグリセリンもそれぞれ不凍液をして使用されてきたため、凍結を防止する作用を果たし、更に金属製の循環パイプに対しては、防サビ作用、防カビ作用も果たされる。
【0012】
さらに、本発明の温熱装置は、循環パイプと熱媒体と循環機構とからなり、基本的に従来の温熱装置をそのまま利用することができるので、実用的価値が極めて高い。
【0013】
したがって、本発明の温熱方法及び温熱装置は、例えばビニールハウス等の植栽空間にて農作物などを育成する際、或いは水槽内にて魚類や貝類等を養殖する際など、極めて多くの利用が見込まれるものであり、熱量の効率的な利用という観点では社会的意義も極めて高く、温暖化や省資源といった環境対策の意義もまた極めて高いものである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の温熱方法は、ビニールハウス等の植栽空間の内部にて植物を栽培する際や水槽等の養殖空間の内部にて魚類等を養殖する際などに土壌又は水を温める循環パイプ内に、水、20〜40重量%のプロピレングリコール、及び前記プロピレングリコールに対して7%以下のグリセリンからなる熱媒体を用いて植物を育成又は魚類等を養殖することを特徴とするものであり、人体に対する有害性が極めて少なく比熱が高いプロピレングリコールを温熱媒体として有効に利用するものである。
【0015】
プロピレングリコール(1,2−プロパンジオール)は、前述のように有害性物質が少なく地球に優しい石油化学系の液体であり、低用量では生物への毒性が低く、また無味無臭であり、保湿剤、潤滑剤、乳化剤、不凍液、プラスチックの中間原料、溶媒などとして用いられている。また、前記以外にも、保湿性や防カビ性に富むことから医薬品や化粧品、麺やおにぎりなどの品質改善剤等、或いは前述の赤ちゃんのお尻ふきなど広範囲で用いられ、医薬品としては、注射剤・内服薬・外用薬の溶解補助剤として調剤に用いられている。
【0016】
グリセリン(1,2,3−プロパントリオール) は、前記プロピレングリコールの製品中に不純物又は配合品として含有されていることも多く、前記プロピレングリコールとは近似する分子構造を有し、毒性がほとんど無いことから、医薬品(目薬、脳圧降下薬、浣腸、坐薬、軟膏など)として、或いは食品分野でも利用され、保湿剤として化粧品(クリーム、ローションなど)などにも幅広く利用されている。また、前記以外にも、トイレタリー、モノグリセライド、カプセル、アルキド樹脂、ポリウレタン、セロファン、フィルム、ハミガキ、マウスウオッシュ、インキ、香料、タバコ、タバコのフィルター、火薬、不凍剤、石鹸、繊維、紙、溶剤、コンデンサーなど極めて多種の分野にて使用されている。さらに、樹脂原料、油脂原料としても利用されている。
【0017】
そして、これらのプロピレングリコール及びグリセリンをそれぞれ適量だけ水に加えて循環パイプに充填して循環させることにより、熱交換効率に優れた熱媒体として利用することができる。
プロピレングリコールの割合が20重量%より少ない場合、その添加効果(熱交換効果の向上)が十分に発揮されず、40重量%より多い場合、それ以上の効果の向上が認められず、経済的にはむしろ無駄となる。
また、グリセリンの割合が前記プロピレングリコールに対して7%より多い場合、それ以上の効果の向上が認められず、経済的にはむしろ無駄となる。
【0018】
なお、本発明における温熱とは、主として動植物の育成環境を維持する温和な領域を想定しており、熱媒体に熱量を与える方法としては、日中の太陽の輻射熱や各種燃焼機関の排熱を利用して熱を蓄え、夜間等にその温めておいた熱媒体を循環させるようにしてもよいし、或いはボイラ等の加熱機構で熱媒体を温めつつ循環させるようにしてもよい。
【0019】
循環パイプは、特にその材質を限定するものではなく、通常使用されている周知の材料のものを使用すればよく、その長さやその形状等についてもまた何等限定するものではなく、通常使用されている周知の循環パイプを使用すればよい。
また、この循環パイプを配設する方法などについても、温めようとする温熱物質(土壌や水、空気)、用途(育成しようとする植物の種類、魚類の種類など)など各種の条件により適宜に選択して用いればよい。
要するに、本発明は、熱媒体の成分を代えた以外は、従来のシステムや方法をそのまま変更することなく利用できるものであり、
【0020】
本発明の温熱方法及び温熱装置は、別の装置や機構を具備するものでもよく、特に植栽に適用する場合には、太陽光を照射して光合成を行う必要があれば、適宜時間太陽光を当てる必要があり、また太陽光に代えてLED、蛍光灯、シリカ電球、ハロゲンランプ、水銀灯、メタルハライドランプ等による光照射を与えることも行われており、特に太陽光照射が期待できない施設や環境、或いは気候等では必要不可欠である。
【実施例】
【0021】
[実施例1]
水70重量%、30重量%のプロピレングリコール、及び前記プロピレングリコールに対して5%のグリセリンを混合して実施例1の熱媒体溶液を調製した。
比較例の熱媒体として水(100重量%)を同量用意した。
前記熱媒体溶液(実施例1)及び水(比較例)を全く同様に日中の太陽の輻射熱に10時間曝して温めておき、ビニールハウス内の土壌中に配設した2系統の循環パイプA、Bにそれぞれ充填して夕方6時開始で循環を始めた。
その結果、実施例1の熱媒体を循環させた土壌の温度は、深夜でも8℃程度であり、明け方6時でも約6℃程度であった。
比較例の熱媒体(水)を循環させた土壌の温度は、深夜で4℃以下で、一部は凍結も始まっていた。
別の日に2系統の循環パイプA、Bを入れ替えて同様に日中の太陽の輻射熱に8時間曝して温めておき、前記熱媒体溶液(実施例1)及び水(比較例)を充填して夕方6時開始で循環を始めた。
その結果、実施例1の熱媒体を循環させた土壌は、深夜でも9℃程度であり、明け方6時でも約7℃程度であった。
比較例の熱媒体(水)を循環させた土壌は、深夜で3℃以下で、一部は凍結も始まっていた。
【0022】
[実施例2]
水80重量%、20重量%のプロピレングリコール、及び前記プロピレングリコールに対して5%のグリセリンを混合して実施例2の熱媒体溶液を調製した。
比較例の熱媒体として水(100重量%)を同量用意した。
前記熱媒体溶液(実施例2)及び水(比較例)を全く同様に日中の太陽の輻射熱に9時間曝して温めておき、ビニールハウス内の土壌中に配設した2系統の循環パイプC、Dにそれぞれ充填して夕方6時開始で循環を始めた。
その結果、実施例2の熱媒体を循環させた土壌の温度は、深夜でも9℃程度であり、明け方6時でも約6℃程度であった。但し、表層は一部が凍結していた。
比較例の熱媒体(水)を循環させた土壌の温度は、深夜で3℃以下で、一部は凍結も始まっていた。
別の日に2系統の循環パイプC、Dを入れ替えて同様に日中の太陽の輻射熱に8時間曝して温めておき、前記熱媒体溶液(実施例2)及び水(比較例)を充填して夕方6時開始で循環を始めた。
その結果、実施例2の熱媒体を循環させた土壌は、深夜でも8℃程度であり、明け方6時でも約5℃程度であった。但し、表層は一部が凍結していた。
比較例の熱媒体(水)を循環させた土壌は、深夜で4℃以下で、一部は凍結も始まっていた。
【0023】
[実施例3]
水60重量%、40重量%のプロピレングリコール、及び前記プロピレングリコールに対して5%のグリセリンを混合して実施例3の熱媒体溶液を調製した。
比較例の熱媒体として水(100重量%)を同量用意した。
前記熱媒体溶液(実施例3)及び水(比較例)を全く同様に日中の太陽の輻射熱に8時間曝して温めておき、ビニールハウス内の土壌中に配設した2系統の循環パイプE、Fにそれぞれ充填して夕方6時開始で循環を始めた。
その結果、実施例3の熱媒体を循環させた土壌の温度は、深夜でも8℃程度であり、明け方6時でも約6℃程度であった。
比較例の熱媒体(水)を循環させた土壌の温度は、深夜で6℃程度であり、明け方6時で約4℃程度であった。
別の日に2系統の循環パイプE、Fを入れ替えて同様に日中の太陽の輻射熱に8時間曝して温めておき、前記熱媒体溶液(実施例3)及び水(比較例)を充填して夕方6時開始で循環を始めた。
その結果、実施例3の熱媒体を循環させた土壌は、深夜でも9℃程度であり、明け方6時でも約6℃程度であった。
比較例の熱媒体(水)を循環させた土壌は、深夜で5℃程度であり、明け方6時で約4℃程度であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
循環パイプ内に、水、20〜40重量%のプロピレングリコール、及び前記プロピレングリコールに対して7%以下のグリセリンからなる熱媒体を循環させることにより、循環パイプと接触する土壌、水、空気の何れか一つからから選ばれる被温物質を温めることを特徴とする温熱方法。
【請求項2】
土壌、水、空気の何れか一つからから選ばれる被温物質に配される循環パイプと、該循環パイプに充填する水、20〜40重量%のプロピレングリコール、及び前記プロピレングリコールに対して3〜7%のグリセリンからなる熱媒体と、該熱媒体を循環させる循環機構(ポンプ)と、を備えることを特徴とする温熱装置。

【公開番号】特開2012−122684(P2012−122684A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−274505(P2010−274505)
【出願日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【出願人】(510324964)有限会社ふじ有機 (1)
【出願人】(510324986)
【Fターム(参考)】