説明

湿式クラッチブレーキの油圧制御装置

【課題】複雑で大きな油圧制御回路を必要とせず、プレスの運転に熟練を要せず、クラッチブレーキ作動時のショックを防止できる湿式クラッチブレーキ制御装置を提供する。
【解決手段】外部駆動源から回転動力が供給されるフライホイールWとクランク軸Aとの間にクラッチ機構15とブレーキ機構20が設けられており、いずれか一方をクラッチシリンダ25で選択的に作動させる湿式クラッチブレーキ10の油圧制御装置であって、クラッチシリンダ25に作動油を供給する油圧シリンダ30と、油圧シリンダ30のピストン32を進退させるネジ・ナット機構33と、ネジ・ナット機構33を回転制御するサーボモータ38とを備えている。構成要素は基本的にサーボモータ38駆動の油圧シリンダ30で足りるので複雑で大きな油圧回路を必要としない。さらに、サーボモータ38の回転量のみが制御対象なので、プレスの運転に熟練を要しない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湿式クラッチブレーキの油圧制御装置に関する。たとえば、機械プレスには、外部の動力源からフライホイールに供給される動力を、クランク軸に伝達・遮断してプレスの作動を制御するクラッチブレーキ装置が設けられている。クラッチブレーキ装置には、大別して乾式と湿式があるが、本発明は湿式クラッチブレーキの油圧制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
機械プレス等の湿式クラッチブレーキ装置は、乾式クラッチブレーキ装置に比べて、制御性が良い。したがって、クラッチやブレーキ作動時のショックを防止でき、発生する騒音を低減できる。また、装置をコンパクトにでき、省エネルギー化でき、しかも、クラッチやブレーキのライニングの寿命を長くすることができる。このため、機械プレスでは湿式クラッチブレーキ装置が採用される場合がある(特許文献1,2参照)。
また、高速成形が必要な熱間鍛造用プレスでは、そのクラッチは大きなトルクを必要とするが、湿式クラッチブレーキ装置の騒音、振動の低さのため、油漏れによる火災の恐れがあるにも拘らず、最近採用されはじめている。
【0003】
機械式プレス等における湿式クラッチブレーキ装置は、フライホイールと、このフライホイールに固定されて共に回転するケースと、このケース内に収容されたクラッチ機構およびブレーキ機構とを備えている。そして、クラッチ機構とブレーキ機構は、そのいずれか一方のみが機能するようにクラッチシリンダとバネで制御されている。また、クラッチシリンダを駆動するために油圧制御回路が組み込まれている。
【0004】
図3に、その油圧制御回路の一例を示す。この油圧制御回路は、プレス1サイクルの中でポンプから吐出する油と、各種バルブのON・OFF制御をスライドの位置測定に基づいて非常に短時間の中で実施し、ショックレス作動を達成させるため、油圧機器の構成は以下のように複雑なものとなっている。
【0005】
まず、基本的な作動回路は以下のとおりである。
同図において、101は高低圧の2連ポンプで、高低圧2本のアキュムレータ102,103に圧油を供給する。2本のアキュムレータ102,103はいずれもクラッチシリンダ125の油圧源であるが、低圧のアキュムレータ103はクラッチピストンの駆動に使用され、高圧のアキュムレータ102は必要なクラッチ力を確保するために用いられている。
104はロジックバルブで、開弁するとアキュムレータ103内の圧油がクラッチシリンダ125に供給され、閉弁すると圧油の供給が遮断される。105は前記ロジックバルブ104を開閉するパイロット制御弁である。
106は高圧アキュムレータ102用の電磁開閉弁で、クラッチ動作時には前記ロジックバルブ104の開弁によるクラッチシリンダ125の動作直後に開弁し、高圧アキュムレータ102からクラッチシリンダ125に高圧油を供給し、必要なクラッチ力を確保するようにしている。
107はクラッチシリンダ125内の圧力を急速に抜くための電磁開閉弁で、ブレーキ信号と同時に働く。
【0006】
以上の基本的回路の外、クラッチシリンダの制御性を向上するための調整回路が設けられている。
108は、電磁開閉弁107の圧抜き速度を制御する絞りである。
109は、電磁開閉弁でショック(騒音)防止のために設けている。すなわち、クラッチシリンダ125内の圧力を電磁開閉弁107で急速に抜くと、急ブレーキが作動して大きなショックと騒音が発生するので、これを防止するため、ブレーキ信号にて電磁開閉弁107をOFFにし、タイマー後に再度ONすると同時に、この電磁開閉弁109をOFFして、この回路から圧力を徐々に抜くようにしている。
【0007】
110は電磁開閉弁109から抜かれる流量をコントロールする弁である。
111は、流量コントロール用の電磁弁である。すなわち、ブレーキを効かすためには電磁弁109から圧油を抜くことになるが、電磁弁109,110のみでは微少な流量コントロールが実現できない。そのため、電磁弁111からクラッチシリンダに圧油を少量づつ供給しながら、電磁弁109,110から圧油を排出し、ブレーキのショックを柔らげるようにしている。
【0008】
以上のほか、安全確保や省エネルギーに対策のための安全対策回路も設けられている。
112は、電磁開閉弁107が作動不良となった場合でも、ブレーキが作動して安全を確保できるように設けた電磁開閉弁である。
113は、アキュムレータ102,103内の圧力が異常に高圧とならないように設けられている安全弁である。
114,115は高低圧アキュムレータ102,103の圧力が設定圧に達した後、アンロードさせポンプ駆動モータの電力を下げるための省エネ回路である。
【0009】
以上のような油圧回路により、プレス1サイクル毎のクラッチとブレーキの作動を実現しているのであるが、上記従来の油圧制御回路においては、クラッチシリンダ125に給排される作動油の圧力が油温により微妙に変化するため、その制御性を確保するために上記のごとき調整回路や、さらには安全対策回路の付加が必須となっている。このため、油圧回路が複雑になり、大形化している。また、制御性を維持するためには油温の管理が重要となり、油温に対応させたバルブ調整が必要となるので、プレスの運転に相当な熟練を要する。
【0010】
【特許文献1】特開平10−305400号
【特許文献2】特開2001−58299号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記事情に鑑み、複雑で大きな油圧制御回路を必要とせず、プレスの運転にさほどの熟練を要せず、なおかつクラッチブレーキ作動時のショックを防止できる湿式クラッチブレーキ制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
第1発明の湿式クラッチブレーキの油圧制御装置は、外部駆動源から回転動力が供給されるフライホイールとクランク軸との間にクラッチ機構とブレーキ機構が設けられており、いずれか一方をクラッチシリンダで選択的に作動させる湿式クラッチブレーキの油圧制御装置であって、前記クラッチシリンダに作動油を供給する油圧シリンダと、該油圧シリンダのピストンを進退させるネジ・ナット機構と、該ネジ・ナット機構を回転制御するサーボモータとを備えていることを特徴とする。
第2発明の湿式クラッチブレーキの油圧制御装置は、第1発明において、前記油圧シリンダと前記クラッチシリンダとの間の油路に、前記クラッチシリンダの作動に必要な設定圧以上の過大圧を逃がすリリーフ弁を介装したことを特徴とする。
第3発明の湿式クラッチブレーキの油圧制御装置は、第1発明において、前記油圧シリンダと前記クラッチシリンダとの間の油路に、作動油の排出を制御する開閉弁を介装したことを特徴とする。
第4発明の湿式クラッチブレーキの油圧制御装置は、第1発明において、前記油圧シリンダと作動油タンクとの間の油路に逆止弁が介装されており、該逆止弁は、前記油圧シリンダへの作動油の供給を許容し、前記油圧シリンダから前記作動油タンクへの排出を阻止するものであることを特徴とする。
第5発明の湿式クラッチブレーキの油圧制御装置は、第1発明において、前記油圧シリンダと該油圧シリンダへ作動油を供給する油圧ポンプとの間の油路に、該油路を開閉する開閉弁を介装したことを特徴とする。
第6発明の湿式クラッチブレーキの油圧制御装置は、第1発明において、前記油圧シリンダの内圧を検出する内圧センサと、前記油圧シリンダのピストンの移動位置を検出するピストン位置センサと、前記ピストン位置センサが検出したピストンの移動位置に基づく前記油圧シリンダの計画内圧を演算すると共に、前記内圧センサで検出された実内圧を比較し、実内圧が計画内圧に一致するまで、前記サーボモータへ駆動信号を送る追込み制御機能を有するコントローラを備えたことを特徴とする。
第7発明の湿式クラッチブレーキの油圧制御装置は、第6発明において、前記コントローラが、追込み制御中に前記内圧センサにより検出した実内圧と前記計画内圧とを比較し、前記実内圧が前記計画内圧を超えたときは、停止信号を出力する緊急停止機能を有することを特徴とする。
第8発明の湿式クラッチブレーキの油圧制御装置は、第6発明において、前記コントローラが、追込み制御中に前記内圧センサにより検出した実内圧と前記計画内圧とを比較し、前記実内圧が前記計画内圧に対し許容範囲以上に下廻っているときは、異常表示信号を出力する異常表示機能を有する
【発明の効果】
【0013】
第1発明によれば、クラッチシリンダに作動油を供給する油圧シリンダのピストン進退量はサーボモータの回転量に比例し、クラッチシリンダ内の実圧力さえ検知すれば、必要な圧力に到達するようにサーボモータの回転量を制御することは容易なので、油温の変化などに影響することなく、プレス1サイクル毎にクラッチシリンダの実圧力を計画圧力に一致させることができる。このため、サーボモータ駆動の油圧シリンダでクラッチシリンダを作動させ、クラッチ機構とブレーキ機構を選択的に働かせることができる。しかも、構成要素は基本的にサーボモータ駆動の油圧シリンダで足りるので複雑で大きな油圧回路を必要としない。さらに、サーボモータの回転量のみを制御すればよく、油温に対応させて数多くのバルブを調整する必要がないので、プレスの運転に熟練を要しない。
第2発明によれば、油圧シリンダの内圧をリリーフ弁で設定したクラッチ設定圧力まで確実に昇圧させることができるので、クラッチ動作が確実になる。また、リリーフ弁設定圧以上に油圧シリンダの内圧を少し上げる運転をすることで、クラッチ動作の度に油圧シリンダ内の作動油をリリーフ弁から少量づつ排出できるので、作動油補給を組合わせて運転すれば、新しい作動油への入れ替えができ、作動油の温度上昇や劣化を防止することができる。
第3発明によれば、開閉弁を開位置にすることで油圧シリンダ内の圧力を急降下させ、クラッチを入状態から断状態へ瞬時に切換えることができる。このため、ピストンを高速後退させるための高速回転をサーボモータにさせる必要がないので、容量の小さいサーボモータを使用でき、制御装置をコンパクト化することができる。
第4発明によれば、油圧シリンダのピストンを後退させるとき油圧シリンダ内が負圧になる傾向が生ずるが、逆止弁を介して作動油タンクからの補給が可能なので、油圧シリンダへのエア吸い込み等の障害を予防できる。
第5発明によれば、油圧シリンダにつながる開閉弁を開位置とし油圧ポンプを駆動すれば、油圧シリンダへの作動油補給を必要に応じ行うことができる。
第6発明によれば、油圧シリンダ内の実内圧が規定値に達しない状態では追込み駆動が行われるので、確実に実内圧を規定値まで昇圧させることができる。このため、経年劣化等によるクラッチシリンダのストローク増加や油漏れ等があっても、クラッチシリンダを確実に作動させることができる。
第7発明によれば、追込み制御による油圧シリンダの内圧が規定値よりも過大になったときは、油圧シリンダの動きを緊急停止するので、クラッチシリンダの異常動作を防止することができる。
第8発明によれば、追込み制御の実行によっても油圧シリンダの内圧が充分に上昇せず計画内圧よりも許容範囲以上に下廻っているときは、異常表示することにより油漏れ等の発生を表示できるので、火災などの災害を防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
図2は本発明の油圧制御装置を適用するのに好適な機械プレスにおける湿式クラッチブレーキを示している。まず、同図に基づき、湿式クラッチブレーキの構成を説明する。
符号Fは機械プレスのフレームを示しており、符号Aは機械プレスのクランク軸を示している。また、符号Sは、フレームFに固定された、前記クランク軸Aの一端部を回転自在に支持する円筒状の固定部材である。
前記固定部材Sの外周には、フライホイールWが、回転可能に取り付けられている。そして、このフライホイールWと前記クランク軸Aの一端部との間には、両者を連結分離する湿式クラッチブレーキ10が設けられている。
【0015】
前記湿式クラッチブレーキ10は、ケース11を有しており、このケース11は、概ね有頂円筒状の部材であって、その基端部はフライホイールWに固定されている。また、このケース11の内部にはクランク軸Aの軸端部が位置するように配設されている。
そして、上記ケース11内には、クラッチ機構15、ブレーキ機構20、クラッチシリンダ25が設けられている。
【0016】
前記クラッチ機構15は、主として回転部材16とクラッチプレート17とからなり、つぎのように構成されている。
前記ケース11の頂部11aには、前記クランク軸Aの一端に取り付けられた回転部材16の外端部が、回転自在に保持されている。この回転部材16は、スプライン等を介してクランク軸Aに対する相対的な回転は拘束されているが、クランク軸Aの軸方向には移動可能となるように、クランク軸Aに取り付けられている。
この回転部材16とケース11の間には、互い違いに入れ合わせられた複数枚のクラッチプレート17が配設されている。
【0017】
前記ブレーキ機構20は、主として固定側ブレーキ部材21と軸側ブレーキ部材22とブレーキプレート23とからなり、つぎのように構成されている。
前記固定部材Sは、その一端がケース11の空間内に位置しており、その一端にはクランク軸Aを囲むように、拡径した固定側ブレーキ部材21が設けられている。また、この固定側ブレーキ部材21とクランク軸Aとの間には、軸側ブレーキ部材22が設けられている。この軸側ブレーキ部材22は、スプライン等を介してクランク軸Aに対する相対的な回転は拘束されているがクランク軸Aの軸方向には移動可能となるように、クランク軸Aに取り付けられている。そして、軸側ブレーキ部材22と固定側ブレーキ部材21との間には、互い違いに入れ合わせられた複数枚のブレーキプレート23が配設されている。
【0018】
つぎに、クラッチシリンダ25を説明する。
前記クランク軸Aの軸方向において、前記軸側ブレーキ部材22と、前記回転部材16との間には、クランク軸Aの軸方向に沿って摺動可能なピストン25aが設けられている。このピストン25aと軸側ブレーキ部材22側との間には、液密に密閉された油室25bが形成されており、この油室25bは、回転部材16の一端に取り付けられたロータリジョイント29から、回転部材16の内部に形成された連通路26を介して外部の油圧源と連通されるようになっている。上記したピストン25aと油室25bとでクラッチシリンダ25が構成されている。
【0019】
一方、前記ピストン25aと回転部材16との間には、バネ27が配設され、このバネ27はピストン25aを常時ブレーキ機構20側に押し付けている。
このため、クラッチシリンダ25の油室25bに油が供給されていない状態では、ピストン25aはバネ27によって図中左方に向かって付勢される。つまり、軸側ブレーキ部材22に向かって移動するから、軸側ブレーキ部材22と固定側ブレーキ部材21との間が複数枚のブレーキプレート23によって連結され、回転部材16とケース11との間が分離される。この場合、ブレーキ機構20が機能し、クラッチ機構15は機能しない状態となる。
【0020】
逆に、クラッチシリンダ25の油室25bに油が供給さると、ピストン25aは油室25b内の油圧によって図中右方に向かって付勢される。つまり、バネ27を圧縮しつつ回転部材16に向かって移動するから、軸側ブレーキ部材22と固定側ブレーキ部材21との間が分離され、回転部材16とケース11との間が複数枚のクラッチプレート17によって連結される。この場合、クラッチ機構15が機能し、ブレーキ機構20は機能しない状態となる。
【0021】
以上のように、湿式クラッチブレーキ10は、クラッチシリンダ25の油室25bへの作動油の供給排出を制御することにより、フライホイールWから供給される外部動力のクランク軸Aに対する供給・遮断を制御することができ、機械プレス等の作動を制御できるのである。
【0022】
つぎに、湿式クラッチブレーキの油圧制御装置を説明する。
図1は本発明の一実施形態における湿式クラッチブレーキの油圧制御装置を示す油圧回路図および電子回路図である。
【0023】
同図において、30は油圧シリンダであり、シリンダ31とピストン32を備えている。ピストン32はネジ・ナット機構33で進退されるように構成されている。すなわち、ピストン32の外端に固定されたナット34にネジ棒35が螺合しており、ネジ棒35が正逆回転することにより、ピストン32の内端がシリンダ31内において、深く侵入したり浅く引込められたりする。このピストン32の進退動作によって、シリンダ31内の作動油に高圧をかけたり低圧に戻したりすることができる。
そして、上記油圧シリンダ30のシリンダ31は、油路41および前記ロータリジョイント29を通る連通路26を介して、クラッチシリンダ25の油室25bに連通されている。
【0024】
前記ネジ・ナット機構33のネジ棒35は、継手36を介して減速器37とサーボモータ38に連結されている。39はサーボモータ38の回転量を検知するエンコーダなどから構成されたピストン位置センサである。
ネジ棒35の回転量は、サーボモータ38の回転量に正比例するので、ピストン32の進退量もサーボモータ38の回転量に正確に正比例する。したがって、ピストン32の進退量は、ピストン位置センサ39で正確に把握することができる。
【0025】
上記の基本回路によって、サーボモータ38を正転し、ピストン32をシリンダ31内に進入させると、シリンダ31内の作動油がクラッチシリンダ25の油室25bに供給されて、クラッチ機構15がつながる状態となる。反対に、サーボモータ38を逆転させると、ピストン32がシリンダ31内で後退し、クラッチシリンダ25の油室25b内の作動油がシリンダ31内に戻ってくる。このとき、クラッチシリンダ25のピストン25aはバネで押されて、ブレーキ機構20が作動する状態となる。
【0026】
前記油圧シリンダ30と前記クラッチシリンダ25の間の回路は基本的には以上のとおりであるが、つぎのような回路が付加されている。
前記油圧シリンダ30とクラッチシリンダ25の間の油路41には、作動油タンク40につながる油路42が設けられており、この油路42にはリリーフ弁43が介装されている。このリリーフ弁43は、クラッチシリンダ25の作動に必要な圧力(以下、設定圧力という)を超える過大圧を逃がすように設定されている。
【0027】
換言すれば、設定圧力に達するまではリリーフ弁43は閉弁しているので、油圧シリンダ30の内圧をリリーフ弁43で設定したクラッチ設定圧力まで確実に昇圧させることができる。このため、クラッチ動作が確実になる。また、リリーフ弁設定圧以上に油圧シリンダ30の内圧を少し上げる運転をすることで、クラッチ動作の度に油圧シリンダ30内の作動油をリリーフ弁43から少量づつ排出できるので、後述する電磁開閉弁52からの作動油補給を組合せて運転すれば、新しい作動油への入れ替えができ、作動油の温度上昇や劣化を防止することができる。
【0028】
また、リリーフ弁43の設定圧力をより高く調整し直せば、クラッチトルクを大きくすることができるので、プレススライドがスティックした際にもスティック解除することが可能となる。
【0029】
前記油圧シリンダ30とクラッチシリンダ25の間の油路41または、この油路41につながる油路42とタンク40の間には、油路44が設けられている。そして、この油路44には電磁開閉弁45が介装されている。
この電磁開閉弁45を開位置にすれば、油圧シリンダ30内の圧力を急降下させ、クラッチ機構15を入状態から断状態へ瞬時に切換えることができる。このため、ピストン32を高速後退させるようにサーボモータ38を高速回転させる必要がないので、容量の小さいサーボモータ38を使用でき、制御装置をコンパクト化することができる。
【0030】
通常の運転時にクラッチ機構15を切断する場合は、サーボモータ38を逆転させピストン32を後退させることにより行うが、ピストン32の後退速度が追いつかない場合は、上記のように電磁開閉弁45を開位置に切換えれば、クラッチシリンダ25内の圧油を急速に抜くことができる。このため、サーボモータ38を高速後退に必要な大容量のものとする必要がない。
また、前記電磁開閉弁45は、サーボモータ38の作動不良時などの緊急時に、クラッチ機構15を切断するためにも利用できる。
【0031】
前記油圧シリンダ30のシリンダ31とタンク40との間の油路51には電磁開閉弁52と油圧ポンプ53が介装されている。
この電磁開閉弁52を開位置とし油圧ポンプ53を駆動すれば、油圧シリンダ30への作動油補給を行うことができる。前記油圧シリンダ30から前記クラッチシリンダ25までの油圧回路は、基本的に閉鎖回路であるが、既述のごとくリリーフ弁43からの作動油排出により作動油補給の必要があり、また後述する逆止弁55からの補給を補うため、電磁開閉弁52が利用される。この電磁開閉弁52を通じての作動油補給は低圧でよく、クラッチシリンダ25が作動しない状態で使用される。
【0032】
さらに、前記油圧シリンダ30のシリンダ31とタンク40との間の油路54には、逆止弁55が介装されている。この逆止弁55は、油圧シリンダ30のシリンダ31への作動油の供給を許容し、シリンダ31からタンク40への排出を阻止する方向に介装されている。
このため、油圧シリンダ30のピストン32を後退させるとき油圧シリンダ30内が負圧になる傾向が生ずるが、逆止弁55を介して作動油タンク40からの補給が可能である。またこのため、油圧シリンダ30へのエア吸い込み等の障害を予防できる。
【0033】
つぎに、前記油圧シリンダ30の電子回路を説明する。
60はコントローラで、マイクロコンピュータ等で構成された公知のものである。このコントローラ60は、演算部61と制御部62を有しており、演算部61には、内圧センサ65、スライド位置センサ66および前記ピストン位置センサ39の検知信号が入力されるようになっている。
【0034】
前記内圧センサ65は、油圧シリンダ30の内圧を測定できる油路、例えば油路41に取付けた圧力センサである。前記スライド位置検出センサ66は、機械プレスのスライド(図示省略)の物理的な位置を測定できる公知のセンサである。前記ピストン位置センサ39は、既述のごとくサーボモータ38の回転量を検出するセンサである。
【0035】
前記コントローラ60の演算部61は、ピストン位置センサ39の検出信号に基づきピストン32の移動量に対応するシリンダ31内の本来の作動油圧力、すなわち計画内圧Pを演算することができる。
前記制御部62は、通常行われる基本運転制御に加え追込み制御と緊急停止制御と異常表示制御を実行する機能を有している。
【0036】
(基本運転制御)
クラッチシリンダ25の基本運転制御は、つぎのように行われる。
クラッチ作動時にはピストン位置センサ39の位置信号を入力しつつ所定の位置まで、サーボモータ38の正転を続けることでよく、これによってクラッチシリンダ25に必要な設定圧力の作動油を供給できる。
クラッチ切断時には、サーボモータ38を逆転させ、ピストン32を後退させるか、これに加え電磁開閉弁45を開弁して、クラッチシリンダ25内の圧力を抜くことで行える。
【0037】
(追込み制御)
前記追込み制御は、演算部61で算出した計画内圧Pと内圧センサ65で検出したクラッチシリンダ25の実内圧Pを比較し、実内圧Pが計画内圧Pに一致するまで、サーボモータ38へ駆動信号に送る制御である。
前記基本運転制御のみによる場合、規定のピストンストロークで、クラッチシリンダ25の内圧が設定圧力に達しないことがある。たとえば、クラッチ機構15のクラッチプレート17やブレーキ機構20のブレーキプレート23の摩耗、あるいは油圧シリンダ30のパッキンからの油漏れ等があると、規定のタイミングでクラッチ機構15が作動しない。このような場合でも、本追込み制御が自動的に実行されることにより、油圧シリンダ30内の実内圧Pが計画内圧Pに達しない状態では、その偏差が0になるまでピストン32の追込み駆動が行われる。このため、確実に実内圧Pを計画内圧Pに昇圧させることができる。よって、経年劣化によるクラッチシリンダ25のストローク増加や油漏れ等があっても、クラッチシリンダ25の作動を確実にできる。
【0038】
(緊急停止制御)
前記緊急停止制御は、前記追込み制御中に実内圧Pと計画内圧Pを比較しつつ、実内圧Pが計画内圧Pに対し、一定値以上を超えると停止信号を出力する制御である。
上記の制御により実内圧Pが高すぎると、油圧シリンダ30の動きを緊急停止するので、クラッチシリンダ25の異常動作を防止することができる。
【0039】
(異常表示制御)
また、前記追込み制御中に、追込み量を増やしても実内圧Pが充分に上昇せず、計画内圧Pと比較しても、その偏差dが許容範囲dp以上に下廻っているときは、油圧シリンダ30からクラッチシリンダ25に至る油路に油漏れ等のトラブルが発生している可能性が高い。そこで、このような場合は、表示器63に表示信号Seを送り、油漏れ等の原因を示す異常表示をするようにしている。この異常表示によって、火災等を未然に防止することができる。
【0040】
以上のように、本発明の油圧制御装置によると、微妙なクラッチシリンダ25の圧力をサーボモータ38の回転数を制御することにより行えるため、フレキシブルなクラッチ制御が容易に実施できる。
【0041】
また、従来技術では、基本的に油圧ユニットに設置されたバルブをスライド位置を測定することにより、ON・OFFする制御方式をとっていたことから、油温の変化による制御性の低下が免れなかったが、本発明では、実際のクラッチシリンダ25内の圧力を直接制御する方式であるため、油温の変化などによるクラッチシリンダ25内の圧力制御性の悪化を引き起こすことは無い。
【0042】
さらに、高速成形が必要な熱間鍛造プレス用のクラッチは大きなトルクを必要とし、高圧油を用いることから油漏れが生じやすいが、本発明では、油圧回路が単純なので、油漏れ自体の可能性が小さいうえ、仮に油漏れがあった場合は少量の油漏れでも直ちに検出することができるため、火災などの災害を未然に防止できる。
【0043】
図2には本発明の適用の一例として機械プレスを示したが、本図に示した湿式クラッチブレーキ装置10以外の構造を有するクラッチシリンダにも、本発明の制御装置を適用できる。
また、本発明の湿式クラッチブレーキ制御装置は、機械プレスに限られず、湿式クラッチブレーキ制御装置を使用する機械であれば、切断機やフォージングミル等の機械にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の一実施形態における湿式クラッチブレーキの油圧制御装置を示す油圧回路図および電子回路図である。
【図2】本発明の油圧制御装置が適用される湿式クラッチブレーキの構造説明図である。
【図3】従来の湿式クラッチブレーキの油圧制御回路の説明図である。
【符号の説明】
【0045】
10 湿式クラッチブレーキ
15 クラッチ機構
20 ブレーキ機構
25 クラッチシリンダ
30 油圧シリンダ
31 シリンダ
33 ネジ・ナット機構
38 サーボモータ
39 ピストン位置センサ
43 リリーフ弁
45 電磁開閉弁
52 電磁開閉弁
55 逆止弁
60 コントローラ
61 演算部
62 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部駆動源から回転動力が供給されるフライホイールとクランク軸との間にクラッチ機構とブレーキ機構が設けられており、いずれか一方をクラッチシリンダで選択的に作動させる湿式クラッチブレーキの油圧制御装置であって、
前記クラッチシリンダに作動油を供給する油圧シリンダと、
該油圧シリンダのピストンを進退させるネジ・ナット機構と、
該ネジ・ナット機構を回転制御するサーボモータとを備えている
ことを特徴とする湿式クラッチブレーキの油圧制御装置。
【請求項2】
前記油圧シリンダと前記クラッチシリンダとの間の油路に、前記クラッチシリンダの作動に必要な設定圧以上の過大圧を逃がすリリーフ弁を介装した
ことを特徴とする請求項1記載の湿式クラッチブレーキの油圧制御装置。
【請求項3】
前記油圧シリンダと前記クラッチシリンダとの間の油路に、作動油の排出を制御する開閉弁を介装した
ことを特徴とする請求項1記載の湿式クラッチブレーキの油圧制御装置。
【請求項4】
前記油圧シリンダと作動油タンクとの間の油路に逆止弁が介装されており、
該逆止弁は、前記油圧シリンダへの作動油の供給を許容し、前記油圧シリンダから前記作動油タンクへの排出を阻止するものである
ことを特徴とする請求項1記載の湿式クラッチブレーキの油圧制御装置。
【請求項5】
前記油圧シリンダと該油圧シリンダへ作動油を供給する油圧ポンプとの間の油路に、該油路を開閉する開閉弁を介装した
ことを特徴とする請求項1記載の湿式クラッチブレーキの油圧制御装置。
【請求項6】
前記油圧シリンダの内圧を検出する内圧センサと、
前記油圧シリンダのピストンの移動位置を検出するピストン位置センサと、
前記ピストン位置センサが検出したピストンの移動位置に基づく前記油圧シリンダの計画内圧を演算すると共に、前記内圧センサで検出された実内圧を比較し、実内圧が計画内圧に一致するまで、前記サーボモータへ駆動信号を送る追込み制御機能を有するコントローラを備えた
ことを特徴とする請求項1記載の湿式クラッチブレーキの油圧制御装置。
【請求項7】
前記コントローラが、追込み制御中に前記内圧センサにより検出した実内圧と前記計画内圧とを比較し、前記実内圧が前記計画内圧を超えたときは、停止信号を出力する緊急停止機能を有する
ことを特徴とする請求項6記載の湿式クラッチブレーキの油圧制御装置。
【請求項8】
前記コントローラが、追込み制御中に前記内圧センサにより検出した実内圧と前記計画内圧とを比較し、前記実内圧が前記計画内圧に対し許容範囲以上に下廻っているときは、異常表示信号を出力する異常表示機能を有する
ことを特徴とする請求項6記載の湿式クラッチブレーキの油圧制御装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−236173(P2009−236173A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−80948(P2008−80948)
【出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【出願人】(502235326)住友重機械テクノフォート株式会社 (122)
【Fターム(参考)】