説明

溶剤回収システム

【課題】ドライヤへ再び給気する気体中の溶剤蒸気の回収に要するコストを抑制する溶剤回収システムを提供することを課題とする。
【解決手段】溶剤を塗布した被塗布物を乾燥させるドライヤの乾燥室へ、前記乾燥室内で気化した溶剤蒸気を回収処理した前記乾燥室の排気を給気する溶剤回収システム1であって、前記排気を冷却して、前記排気に含まれる前記溶剤蒸気を凝縮回収する凝縮回収部2と、前記凝縮回収部を通過した前記排気に残る前記溶剤蒸気を吸着回収する吸着回収部3と、前記ドライヤの排気に含まれる熱の少なくとも一部を、前記溶剤蒸気を吸着回収する前記吸着回収部の吸着材の加熱再生に利用する熱利用部12と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶剤回収システムに関する。
【背景技術】
【0002】
化学的な処理を伴う生産設備等においては、排気される気体に溶剤蒸気が含まれている。このような溶剤蒸気を回収する技術として、例えば、溶剤蒸気を凝縮させた後に吸着材に吸着させるものが提案されている(特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−69435号公報
【特許文献2】特開2006−326504号公報
【特許文献3】特開2008−180459号公報
【特許文献4】特許第4642189号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、NMP溶剤を塗布するリチウムイオン電池用の電極のように、各種の溶剤を塗布した被塗布物を乾燥させる処理を施す場合、塗布した溶剤の効果的な乾燥と、乾燥処理に要するコストの削減との両立を図るために、被塗布物を乾燥させるドライヤ(乾燥炉)の排気から溶剤蒸気を回収処理して乾燥気とし、これを再びドライヤへ給気することが行なわれる。このとき、ドライヤに給気する乾燥気は、処理対象の製品に要求される仕様にもよるが、塗布されている溶剤が確実に乾燥するように、比較的高い乾燥度が要求される。
【0005】
しかし、ドライヤが大きいと、ドライヤへ再び給気する気体の乾燥度を保つために要するコストも多大である。本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、ドライヤへ再び給気する気体の溶剤蒸気の回収に要するコストを抑制する溶剤回収システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明は、ドライヤの排気に含まれる熱の少なくとも一部を、溶剤蒸気を吸着回収する吸着材の加熱再生の熱源として利用することにした。
【0007】
詳細には、溶剤を塗布した被塗布物を乾燥させるドライヤの乾燥室へ、前記乾燥室内で気化した溶剤蒸気を回収処理した前記乾燥室の排気を給気する溶剤回収システムであって、前記排気を冷却して、前記排気に含まれる前記溶剤蒸気を凝縮回収する凝縮回収部と、前記凝縮回収部を通過した前記排気に残る前記溶剤蒸気を吸着回収する吸着回収部と、前記ドライヤの排気に含まれる熱の少なくとも一部を、前記溶剤蒸気を吸着回収する前記吸着回収部の吸着材の加熱再生に利用する熱利用部と、を備える。
【0008】
上記溶剤回収システムは、ドライヤの排気を冷却することで、排気中に含まれる溶剤蒸気を凝縮回収しつつ、排気中に残留した溶剤蒸気を吸着材で更に吸着回収している。すなわち、溶剤蒸気を凝縮回収する際、排気中に含まれる熱を熱媒で除去することが行われている。ドライヤの排気を冷却した後の熱媒の温度は、少なくとも、凝縮回収部を通過した後に吸着回収部を通過するドライヤの排気の温度、換言すると、吸着材の吸着温度よりも高い温度とすることが可能であるため、ドライヤの排気熱を吸着材の加熱再生に利用する
ことが理論的に可能である。
【0009】
そこで、上記溶剤回収システムは、ドライヤの排気に含まれる熱の少なくとも一部を、溶剤蒸気を吸着回収する吸着材の加熱再生に利用している。これにより、吸着材の加熱再生に必要な熱エネルギーを削減することができ、システム全体のエネルギー消費を削減することが可能となる。
【0010】
なお、前記熱利用部は、前記排気を冷却する前記凝縮回収部の冷却器を通過した熱媒の少なくとも一部を、前記溶剤蒸気を吸着回収する前記吸着回収部の吸着材を加熱再生させる再生用加熱器に通して前記吸着材を直接あるいは間接的に加熱させた後、再び前記冷却器へ流す熱媒循環経路を有するものであってもよい。
【0011】
このように構成される溶剤回収システムであれば、ドライヤの排気を冷却して溶剤蒸気を凝縮回収する凝縮回収部の冷却器を通過した熱媒の少なくとも一部が、溶剤蒸気を吸着回収する吸着材を加熱再生させる再生用の加熱器を通るので、吸着材が加熱される。吸着材の加熱は、凝縮回収部の冷却器を通過した熱媒が吸着材と熱交換することによって直接加熱してもよいし、加熱再生のために吸着材へ送り込まれるガスと熱交換することによって間接的に加熱してもよい。これにより、吸着材の加熱再生に必要な熱エネルギーを削減することができ、システム全体のエネルギー消費を削減することが可能となる。
【0012】
なお、前記熱媒循環経路は、前記凝縮回収部と前記吸着回収部とを通過して前記ドライヤへ再び給気される前記排気を加熱する加熱器と、前記冷却器との間で熱媒を循環させる経路の一部を併用する熱媒循環経路であり、前記冷却器から前記加熱器へ繋がる経路の途中から分岐して前記再生用加熱器へ繋がる経路と、前記加熱器から前記冷却器へ繋がる経路へ前記再生用加熱器から合流する経路と、を有するものであってもよい。
【0013】
上記溶剤回収システムでは、凝縮回収した後に吸着回収を行っているため、吸着材の加熱再生に要する熱エネルギーは、システムを通過する排気中に含まれる全熱エネルギーと比べて小さい。そこで、ドライヤの排気を冷却する冷却器と、溶剤蒸気を回収した後にドライヤへ再び給気するドライヤの排気を加熱する加熱器との間で熱媒を循環させることで熱の有効利用を図りつつ、その循環経路を循環する熱媒の一部を再生用加熱器に通すことにより、ドライヤで消費される熱エネルギーの削減を図りながら、吸着材の加熱再生に必要な熱エネルギーも削減することができ、システム全体のエネルギー消費を削減することが可能となる。
【0014】
また、前記再生用加熱器は、前記凝縮回収部と前記吸着回収部とを通過することによって前記溶剤蒸気が回収された前記排気の一部を加熱して前記吸着材へ送り、前記吸着材を加熱再生させるものであってもよい。
【0015】
凝縮回収部および吸着回収部を通過したドライヤの排気であれば、溶剤蒸気が十分に除去されている。また、吸着回収部を通過したドライヤの排気を加熱して吸着材の再生に用いれば、再生対象の吸着材を吸着温度より高温にすることができる。よって、凝縮回収部と吸着回収部とを通過することによって溶剤蒸気が回収された排気の一部を加熱して吸着材へ送ることにより、吸着材が効率的に加熱再生され、システム全体のエネルギー消費を削減することが可能となる。
【0016】
また、前記熱利用部は、前記ドライヤから前記凝縮回収部へ流れる排気の一部を、前記吸着材を加熱再生させる再生用加熱器に通して前記吸着材を直接あるいは間接的に加熱させた後、前記凝縮回収部へ流す分岐経路を有するものであってもよい。このように構成される溶剤回収システムであれば、熱媒が流れる経路等を設けることなく、システム全体の
エネルギー消費を削減することができる。
【0017】
また、前記熱利用部は、前記ドライヤから前記凝縮回収部へ繋がる経路の途中で分岐し、前記ドライヤから流れる排気の一部を前記凝縮回収部へ流す分岐経路と、前記分岐経路の途中に設けた熱交換器と前記吸着材を加熱再生させる再生用加熱器との間で熱媒を循環させる熱媒循環経路と、を有するものであってもよい。このように構成される溶剤回収システムであっても、ドライヤの排気中に残留する熱エネルギーが吸着材の加熱再生に利用されるので、システム全体のエネルギー消費を削減することができる。
【発明の効果】
【0018】
上記溶剤回収システムであれば、ドライヤへ再び給気する気体中の溶剤蒸気の回収に要するコストを抑制することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】第一実施形態に係る溶剤回収システムの構成図である。
【図2】熱回収コイルを採用しない場合に発明者が想定するに係る溶剤回収システムの構成図である。
【図3】エネルギー削減率を示した第一のグラフである。
【図4】エネルギー削減率を示した第二のグラフである。
【図5】第二実施形態に係る溶剤回収システムの構成図である。
【図6】第二実施形態の変形例に係る溶剤回収システムの構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の第一実施形態に係る溶剤回収システムの構成を図1に示す。溶剤回収システム1は、図1に示すように、溶剤蒸気を含む所定の気体をコイルで冷却して溶剤を凝縮回収する凝縮回収装置(本発明でいう凝縮回収部に相当する)2と、凝縮回収装置2を通過した気体中に残る溶剤をゼオライトあるいは活性炭等の吸着材で吸着回収する吸着回収装置(本発明でいう吸着回収部に相当する)3とを備える。この他に、溶剤回収システム1は、気体を送気する各種のファンや熱交換を行うコイル、水を熱媒として循環させるための配管やポンプ類を備える。なお、熱媒は、水に限定されるものでなく、油やブライン、その他の液体であってもよい。
【0021】
溶剤回収システム1は、有機溶剤によって各種の化学処理を行う生産設備類から排気される排気中の溶剤蒸気を回収する装置である。本実施形態では、リチウムイオン電池工場などで使用されるN−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPという)の溶剤蒸気を含む高温の生産排気からNMPを回収することを前提に説明するが、その他の溶剤類であってもよい。リチウムイオン電池工場では電極製造時にNMPを使用している。電極に塗布されたNMPは、塗布されたNMPを乾燥処理するドライヤで蒸発して排気される。
【0022】
本実施形態に係る溶剤回収システム1は、このようなドライヤに付帯して設置される装置であり、ドライヤの排気中の溶剤蒸気を回収する。本実施形態では、各種工業製品の加熱乾燥を行うドライヤからの排気温度が約100℃程度であることを前提としている。
【0023】
凝縮回収装置2は、図1に示すように、直列に並んだ4基の熱交換コイル(符号4〜7)を有している。以下、上流側から順に、熱回収コイル4、予冷却コイル5、主冷却コイル6、再熱コイル7と呼ぶことにする。
【0024】
熱回収コイル4は、配管11A,11Bによって構成される冷却水循環系11を介して、ドライヤへ給気するファン15Aの下流側に設けられた給気加熱コイル8に接続されている。熱回収コイル4は、ドライヤから送られた排気(以下、単にガスという)を冷却す
る。熱回収コイル4で除去されたガスの熱は、冷却水循環系11を循環する水によって給気加熱コイル8へ移送され、凝縮回収装置2や吸着回収装置3で浄化されて再びドライヤへ送られるガスを加熱する。熱回収コイル4に流入した約100℃のガスは、約54℃になって予冷却コイル5へ送られる。なお、給気加熱コイル8を通過したガスは、約70℃程度に加熱されてドライヤへ送られる。
【0025】
予冷却コイル5は、熱回収コイル4によって冷却されたガスを更に冷却する。すなわち、熱回収コイル4を通過したガスは、吸着ロータ13の再生排ガスであるファン15Cからのガスと合流して予冷却コイル5に流入し、約29℃に冷却されて主冷却コイル6へ送られる。予冷却コイル5は、経路中に冷却塔10を擁する冷却水循環系の冷却水でガスを冷却する。
【0026】
主冷却コイル6は、予冷却コイル5によって冷却されたガスを更に冷却する。主冷却コイル6は、経路中に冷凍機9を擁する冷却水循環系の冷却水でガスを冷却する。主冷却コイル6は、予冷却コイル5から送られた約29℃のガスを約12℃まで冷やす。ドライヤから送られるガスが主冷却コイル6で約12℃まで冷やされることにより、主冷却コイル6の冷却コイルの表面でNMP蒸気が凝縮する。
【0027】
再熱コイル7は、主冷却コイル6によって冷却されたガスを加熱する。再熱コイル7は、経路中に冷却塔10を擁する冷却水循環系の冷却水が流れており、予冷却コイル5において加熱された冷却水の熱でガスを加熱する。再熱コイル7は、主冷却コイル6から送られた約12℃のガスを約27℃まで加熱する。
【0028】
予冷却コイル5や再熱コイル7、冷却塔10を流れる冷却水循環系の冷却水は、次のような経路を辿る。すなわち、冷却塔10で冷却された冷却水は、冷却塔10を出たのちに再熱コイル7を通り、その次に予冷却コイル5を通って再び冷却塔10へ戻る。再熱コイル7に流入するガスの温度が約12℃なので、再熱コイル7に流入する32℃の冷却水は、再熱コイル7の通過後に約19℃となり、予冷却コイル5へ流入する。予冷却コイル5に流入するガスの温度が約55℃なので、予冷却コイル5に流入する冷却水は、予冷却コイル5の通過後に約42℃となり、冷却塔10へ再び送られる。なお、冷却塔10は、他の生産設備の冷却塔と統合して運用される場合、冷却塔10へ再び送られる約42℃の冷却水は他の生産設備の冷却水と混合されることにより、冷却塔10に戻る冷却水の返り温度は42℃よりも低い温度になる。
【0029】
凝縮回収装置2によってある程度の溶剤が回収され、その最下流で昇温されたガスは、吸着回収装置3へ送られて更に浄化される。吸着回収装置3は、図1に示すように、吸着ロータ13や再生用コイル14を有しており、次のように構成されている。
【0030】
吸着ロータ13は、円筒状の部材の内部に溶剤蒸気を吸着する吸着材を担持したものであり、約100℃以下の温度でも再生可能な低温再生型の吸着ロータである。吸着ロータ13の両端面には、図示しないセクション分割カセットが配置されており、このカセットによって吸着ロータ13のガス通過域が複数のセクションに区画される。吸着ロータ13は、このセクション分割カセットと相対的に回転可能なようになっており、このカセットによって吸着ロータ13に処理領域や再生領域が形成される。
【0031】
吸着ロータ13の処理領域には、凝縮回収装置2を出た約27℃のガスが通過する。処理領域は、通気するガス中のNMPを吸着し、浄化したガスを排出する。処理領域を出たガスの多くは、溶剤回収システム1を出てドライヤへ送られる。また、処理領域を出たガスの一部は、再生領域へ送られ、或いは系外へ排気される。系外へ排気された分のガスは、図示しない新鮮空気の取り込み口から適宜補充されることにより、ドライヤと溶剤回収
システム1とを循環するガスが徐々に入れ替わるようになっている。すなわち、溶剤回収システム1は、ドライヤの排気を全量処理して再びドライヤへ送るのではなく、新鮮空気も一部取り入れている。
【0032】
吸着ロータ13の再生領域には、再生用コイル14によって加熱された約80℃のガスが通過する。再生用コイル14は、吸着ロータ13の処理領域を通過した後、再生領域へ送られる約30℃のガスを約80℃まで加熱する。再生用コイル14は、冷却水循環系11を構成する配管11Aの途中から分岐する配管12Aに接続されており、熱回収コイル4を出た高温の水が再生用コイル14のコイル内を流れる。この分岐箇所における流量比、すなわち、熱回収コイル4を出た後、給気加熱コイル8側へ流れる水と再生用コイル14側へ流れる水との流量比は、溶剤回収システム1全体のヒートバランスを勘案して決定する。すなわち、当該流量比は、給気加熱コイル8において水から除去される熱量と再生用コイル14において水から除去される熱量との比に略一致するよう、流量を調整する。熱回収コイル4において水が取得する熱量や、給気加熱コイル8や再生用コイル14において水から除去される熱量は、各コイルにおける水あるいはガスの出入口温度差および流量に基づいて算出することができる。当該流量比は、開度を固定したバルブにより、試運転で決定した流量比のまま一定に保っても良いし、溶剤回収システム1のプロセス値(例えば、ドライヤの排気温度や排気風量等)の計測データに基づいて決定された開度に従って動作するバルブにより、流量比が常に適正値になるよう調整されるようにしても良い。
【0033】
再生用コイル14を通った水は、配管12Bを流れて冷却水循環系11を構成する配管11Bと合流し、再び熱回収コイル4へ流れる。すなわち、配管12A,12Bは、冷却水循環系11の配管11Bの一部を併用することにより、経路中に再生用コイル14や熱回収コイル4を擁する冷却水循環系(本発明でいう熱利用部の一態様であり、熱媒循環経路に相当する)12を構成する。熱回収コイル4によって約90℃程度にまで熱せられた水が再生用コイル14を流れることにより、吸着ロータ13の処理領域を通過した後に再生領域側へ送られるガスが十分に加熱され、約80℃に達することになる。
【0034】
再生用コイル14によって加熱され、吸着ロータ13の再生領域へ送られた約80℃のガスにより、再生領域は高温になり、吸着した溶剤を離脱する。再生領域を出たガスは、凝縮回収装置2へ再び送られる。これにより、再生加熱によって吸着ロータ13から離脱した溶剤の多くが、凝縮回収装置2の主冷却コイル6で凝縮して回収されることになる。
【0035】
このように構成される溶剤回収システム1であれば、熱回収コイル4を通過した熱媒の少なくとも一部が、吸着ロータ13の吸着材を加熱再生させる再生用コイル14を通過している。このため、ドライヤの排気中に残留する熱エネルギーが有効利用されて、吸着材の加熱再生に必要な熱エネルギーが削減され、システム全体のエネルギー消費が削減される。また、冷却水循環系を流れる水の最大温度も約100℃であるため、沸騰を防ぐための加圧等を行わなくても、水を熱媒として利用することができる。
【0036】
なお、上記溶剤回収システム1では、冷却塔10を通過する冷却水を、主冷却コイル6の前後に配置した再熱コイル7および予冷却コイル5に流しているが、再熱コイル7を省略し、冷却塔10を通過する冷却水が予冷却コイル5のみを流れるようにしてもよい。この場合、吸着ロータ13の吸着領域に流入するドライヤの排気が、吸着に適する約27℃の温度となるよう、冷凍機9の出口温度を調整したり、或いは冷凍機9を擁する冷却水循環系の流量を調整したりすることが望ましい。
【0037】
図2は、熱回収コイル4を採用しない場合に発明者が想定する溶剤回収システム101の構成図である。この溶剤回収システム101は、再生用コイル14の熱が、ドライヤの排気に含まれる熱ではなく、ボイラー16で発生させた熱となっている。また、吸着ロー
タ13は、低温再生型ではなく、再生に際して約130℃以上の加熱が必要な一般型の吸着ロータとなっている。その他の構成については上述した実施形態に係る溶剤回収システム1と同様であるため、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0038】
図2の溶剤回収システム101は、再生用コイル14の熱源がボイラー16であるため、上述した実施形態に係る溶剤回収システム1に備わっていた冷却水循環系12が備わっていない。このため、図2の溶剤回収システム101は、ドライヤの排気に含まれている熱を利用した吸着ロータ13の再生を行うことができない。このため、図2の溶剤回収システム101のエネルギー消費量と本実施形態に係る溶剤回収システム1のエネルギー消費量とを比較すると、次のようになる。
【0039】
図3は、本実施形態に係る溶剤回収システム1のエネルギー消費量を、図2の溶剤回収システム101のエネルギー消費量からのエネルギー削減率で示したグラフである。図3のグラフの横軸は、再生風量(すなわち、ファン15Cの風量)に対する処理風量(すなわち、ファン15Aの風量)の割合である。図3のグラフから明らかなように、再生用コイル14の熱を、ボイラー16で発生させた熱からドライヤの排気に含まれる熱へ変更した場合、システム全体のエネルギー消費量は、風量比11以下の場合に約30%以上削減できることが判る。また、図3のグラフより、再生風量に対する処理風量の割合が小さい程、エネルギー消費量の削減効果が大きくなることが判る。
【0040】
図3のグラフから明らかなように、本実施形態に係る溶剤回収システム1であれば、吸着ロータ13の再生に要するエネルギーが削減されるため、ドライヤへ再び給気する気体中の溶剤蒸気の回収に要するコストを大幅に抑制することが可能である。また、ボイラー設備が不要であるため、設備のコストも抑制することが可能である。
【0041】
ところで、本実施形態に係る溶剤回収システム1は、図2の溶剤回収システム101の吸着ロータ13のゾーン比(吸着領域と再生領域との比率)を変えて再生領域を広くしたり、ロータの回転数を遅くしたりすることにより、低温での再生を可能としているが、例えば、吸着材の材料を低温再生型のものに変更してもよい。このような吸着材としては、活性炭やゼオライトのうち低温での再生が可能なタイプのものや、あるいは低温での再生が可能な高分子吸着材を挙げることができる。
【0042】
なお、上記実施形態に係る溶剤回収システム1では、ドライヤから排気された約100℃のガスは、熱回収コイルによって約54℃に冷却され、予冷却コイル5によって約29℃に冷却された後に、主冷却コイル5によって約12℃に冷却される。そして、再熱コイル7によって約27℃に加熱され、給気加熱コイル8によって約70℃に加熱されている。しかしながら、溶剤回収システム1は、冷却水の流量やコイルの仕様を適宜変更することにより、例えば、次のようなプロセス値となるように変形してもよい。
【0043】
すなわち、変形例に係る溶剤回収システム1は、例えば、ドライヤから排気された約100℃のガスを、熱回収コイルによって約49℃に冷却し、予冷却コイル5によって約34℃に冷却した後に、主冷却コイル5によって約12℃に冷却してもよい。そして、再熱コイル7によって約20℃に加熱し、給気加熱コイル8によって約70℃に加熱してもよい。
【0044】
図4は、本変形例に係る溶剤回収システム1のエネルギー消費量を、図2の溶剤回収システム101のエネルギー消費量からのエネルギー削減率で示したグラフである。図4のグラフから明らかなように、再生用コイル14の熱を、ボイラー16で発生させた熱からドライヤの排気に含まれる熱へ変更した場合、システム全体のエネルギー消費量は、風量比11以下の場合に約27%以上削減できることが判る。
【0045】
図5は、第二実施形態に係る溶剤回収システム21の構成図である。溶剤回収システム21は、基本的に第一実施形態に係る溶剤回収システム1と同様であるが、再生用コイル14が水対空気熱交換器ではなく空気対空気熱交換器となっており、ドライヤから排気されて熱回収コイル4へ流れるガスの一部が再生用コイル14を通過することにより、吸着ロータ13の処理領域を通過した後に再生領域側へ送られるガスを加熱するシステム構成になっている。すなわち、溶剤回収システム21は、吸着ロータ13の処理領域を通過した後に再生領域側へ送られるガスを、ドライヤの排気で加熱している。
【0046】
より詳細には、溶剤回収システム21の再生用コイル14は、ドライヤと熱回収コイル4とを繋ぐ経路の途中から分岐するダクト22Aと、熱回収コイル4から予冷却コイル5へ繋がる経路の途中に合流するダクト22Bとによって構成されるガスの分岐経路22(本発明でいう熱利用部の一態様である)の途中に設けられており、ドライヤと熱回収コイル4とを繋ぐ経路の途中から分岐したドライヤの排気に含まれる熱で、吸着ロータ13の処理領域を通過した後に再生領域側へ送られるガスを加熱する。また、溶剤回収システム21は、溶剤回収システム1に備わっていた冷却水循環系12が省略されている。その他の構成については、溶剤回収システム1と同様である。
【0047】
このように構成される溶剤回収システム21であれば、吸着材の加熱再生に必要な熱エネルギーが、ドライヤの排気中に残留する熱エネルギーによって賄われるので、システム全体のエネルギー消費が削減される。また、ダクト22A,22Bがかさばるものの、水が循環する冷却水循環系12を設ける場合に比べて水漏れ等の虞も少ないため、ドライヤが禁水区域であるような場合でも信頼性を担保できる。また、再生用コイル14を通過した排気はダクト22Bを介して予冷却コイル5へ送られるので、溶剤蒸気によって汚染されたガスがドライヤへ送られることも無い。
【0048】
なお、上記溶剤回収システム21は、ドライヤと熱回収コイル4とを繋ぐ経路の途中からダクト22Aによって分岐したドライヤの排気の一部が、再生用コイル14を直接通過することにより、吸着ロータ13の処理領域を通過した後に再生領域側へ送られるガスを加熱するのではなく、例えば、分岐経路22を流れるガスの熱が、水等の熱媒を介して間接的に再生用コイル14へ伝わるようにしてもよい。このような変形例に係る溶剤回収システム21’を図6に示す。
【0049】
本変形例に係る溶剤回収システム21’は、図6に示すように、分岐経路22の途中に空気対水式の熱交換器23を設けている。そして、熱交換器23と再生用コイル14とは、配管24A,24Bによって構成される水循環経路24によって繋がっている。これにより、分岐経路22を流れるドライヤの排気中に含まれる熱は、熱交換器23を介して水循環経路24の熱媒である水に伝わり、吸着ロータ13の処理領域を通過した後に再生領域側へ送られるガスへ再生用コイル14を介して伝わる。その結果、ドライヤの排気中に残留する熱エネルギーが吸着材の加熱再生に利用されることになり、システム全体のエネルギー消費が削減される。
【符号の説明】
【0050】
1,21・・溶剤回収システム
2・・凝縮回収装置
3・・吸着回収装置
11,12・・冷却水循環系
22・・分岐経路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶剤を塗布した被塗布物を乾燥させるドライヤの乾燥室へ、前記乾燥室内で気化した溶剤蒸気を回収処理した前記乾燥室の排気を給気する溶剤回収システムであって、
前記排気を冷却して、前記排気に含まれる前記溶剤蒸気を凝縮回収する凝縮回収部と、
前記凝縮回収部を通過した前記排気に残る前記溶剤蒸気を吸着回収する吸着回収部と、
前記ドライヤの排気に含まれる熱の少なくとも一部を、前記溶剤蒸気を吸着回収する前記吸着回収部の吸着材の加熱再生に利用する熱利用部と、を備える、
溶剤回収システム。
【請求項2】
前記熱利用部は、前記排気を冷却する前記凝縮回収部の冷却器を通過した熱媒の少なくとも一部を、前記溶剤蒸気を吸着回収する前記吸着回収部の吸着材を加熱再生させる再生用加熱器に通して前記吸着材を直接あるいは間接的に加熱させた後、再び前記冷却器へ流す熱媒循環経路を有する、
請求項1に記載の溶剤回収システム。
【請求項3】
前記熱媒循環経路は、前記凝縮回収部と前記吸着回収部とを通過して前記ドライヤへ再び給気される前記排気を加熱する加熱器と、前記冷却器との間で熱媒を循環させる経路の一部を併用する熱媒循環経路であり、前記冷却器から前記加熱器へ繋がる経路の途中から分岐して前記再生用加熱器へ繋がる経路と、前記加熱器から前記冷却器へ繋がる経路へ前記再生用加熱器から合流する経路と、を有する、
請求項2に記載の溶剤回収システム。
【請求項4】
前記再生用加熱器は、前記凝縮回収部と前記吸着回収部とを通過することによって前記溶剤蒸気が回収された前記排気の一部を加熱して前記吸着材へ送り、前記吸着材を加熱再生させる、
請求項2または3に記載の溶剤回収システム。
【請求項5】
前記熱利用部は、前記ドライヤから前記凝縮回収部へ流れる排気の一部を、前記吸着材を加熱再生させる再生用加熱器に通して前記吸着材を直接あるいは間接的に加熱させた後、前記凝縮回収部へ流す分岐経路を有する、
請求項1に記載の溶剤回収システム。
【請求項6】
前記熱利用部は、前記ドライヤから前記凝縮回収部へ繋がる経路の途中で分岐し、前記ドライヤから流れる排気の一部を前記凝縮回収部へ流す分岐経路と、前記分岐経路の途中に設けた熱交換器と前記吸着材を加熱再生させる再生用加熱器との間で熱媒を循環させる熱媒循環経路と、を有する、
請求項1に記載の溶剤回収システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2013−111543(P2013−111543A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−261154(P2011−261154)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(000169499)高砂熱学工業株式会社 (287)
【Fターム(参考)】