説明

漁業用鮫撃退装置

【課題】漁船に近づく鮫を効果的に撃退することのできる漁業用鮫撃退装置を提供する。
【解決手段】捕獲した魚に群がる鮫8を撃退する漁業用鮫撃退装置1であり、底曳き網漁船7近傍の海水中に配置される電極群3、及びこの電極群3から所定距離離れた位置となる海水中に配置される電極群4、電極群3及び電極群4の一方がプラス極、他方がマイナス電極となるように直流のパルス電圧を印加する電源装置2とを備える。そして、捕獲した魚を水揚げする際に、各電極群にパルス電圧を印加することにより、捕獲した魚を横取りしようとする鮫8に電気的な衝撃を与えることができ、鮫8を傷つけることなく撃退することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、底曳き網漁船或いは延縄漁船等で、捕獲した魚を水揚げする際に、付近を遊泳する鮫に魚を食いちぎられる被害を防止する漁業用鮫撃退装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、底曳き網漁船は、漁船より海底に網を仕掛け、しばらく時間をおいた後に網を引き上げることにより魚類を捕獲する。また、捕獲した魚類を漁船に引き揚げる際には、巻き取り装置を駆動させることにより、網に連結したワイヤを巻き取る操作が行われる。
この際、漁船の付近を遊泳する鮫に捕獲した魚を狙われることがあり、網で捕獲した魚を海水中から引き上げる前に、網ごと噛み付かれることが多々発生する。このような場合には、漁獲量に大量の損失を与えるばかりでなく、底曳き網漁用の網が喰いちぎられてしまうので、その後の底曳き網漁ができなくなってしまい、漁業関係者に甚大な被害を与えてしまう。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述したように、従来における底曳き網漁、延縄漁等の漁網或いは釣り針を用いて魚を捕獲する場合には、捕獲した魚を漁船に引き上げる際に、鮫に噛み付かれることがあり、漁業関係者に甚大な被害を与えてしまい、鮫を撃退する装置の開発が望まれていた。
この発明は、このような従来の課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、漁船に近づく鮫を効果的に撃退することのできる漁業用鮫撃退装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記目的を達成するため、本願請求項1に記載の発明は、捕獲した魚に群がる鮫を撃退する漁業用鮫撃退装置であって、前記漁船近傍の海水中に配置される第1の電極、及び該第1の電極から所定距離離れた位置となる海水中に配置される第2の電極と、前記第1の電極、及び前記第2の電極の一方がプラス極、他方がマイナス電極となるように直流電圧を印加する電源手段とを備えたことを特徴とする。請求項2に記載の発明は、前記第1の電極または前記第2の電極のうちの少なくとも一方は、複数個備えられ、前記第1の電極、前記第2の電極が交互に並ぶように海水中に配置されることを特徴とする。請求項3に記載の発明は、前記第1の電極及び第2の電極は、複数の電極棒からなることを特徴とする。請求項4に記載の発明は、前記電源手段は、前記第1の電極及び前記第2の電極に、直流パルス電圧を印加することを特徴とする。請求項5に記載の発明は、前記電源手段は、前記直流パルス電圧を所定回数出力する毎に、前記第1の電極及び第2の電極の極性を切り換えることを特徴とする。請求項6に記載の発明は、前記第1の電極、第2の電極、及び電源手段は、前記漁船に対して取り外しが可能であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0005】
本願請求項1の発明では、海水中に配置される第1の電極、第2の電極間に直流電圧が印加されるので、漁船近傍の海水中を遊泳する鮫に電気的な衝撃を与えることができ、鮫に傷をつけることなく撃退することができる。これにより、捕獲した魚を鮫に横取りされるというトラブルの発生を回避することができる。請求項2の発明では、合計3個以上となる第1の電極、第2の電極が交互に配置され、各電極間に直流電圧が印加されるので、より広範囲に亘る海水中に電気的な衝撃を与えることができる。請求項3の発明では、第1の電極、第2の電極が複数本の電極棒から構成されるので、同一の電圧を印加した場合には、1本の電極棒の場合よりも、海水中のより深い場所、広い場所まで電気的な衝撃を与えることができる。また、請求項4の発明では、各電極間に直流パルス電圧を印加するので、鮫に対してより効果的に電気的な衝撃を与えることができ、少ない消費電力でより効果的に鮫を撃退することができる。請求項5の発明では、各電極の極性を所定回数のパルス電圧を出力する毎に変化させるので、電流の流れる方向を変化させることができ、あらゆる方向から近づく鮫に対して極めて有効に電気的な衝撃を与えることができる。請求項6の発明では、第1の電極、第2の電極、及び電源手段を、取り外すことができるので、必要に応じて漁船に取り付けて使用することができ、コスト的に極めて有利である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明の第1の実施形態に係る漁業用鮫撃退装置の構成を示す回路図である。この漁業用鮫撃退装置1は、漁船に搭載されるものであり、図1に示すように、電源装置(電源手段)2と、該電源装置2と連結された2つの電極群、即ち電極群(第1の電極)3と、電極群(第2の電極)4とを備えている。電源装置2は、自動安定器5を介して交流100ボルト電源と連結されており、交流電圧を直流電圧に変換し、更に、該直流電圧を所定の周波数のパルス電圧に変換して、2つの出力端子間から直流のパルス電圧を出力する。例えば、交流100ボルトの電圧から、パルス電圧600ボルト、パルス幅0.5msec、パルス数2回/secとなるパルス電圧を生成して出力する。
【0007】
更に、2つの出力端子の極性を、交互にプラス極、マイナス極で変更する。即ち、1回目のパルス電圧が、電極群3がプラス極、電極群4がマイナス極となる極性であったなら、2回目のパルス電圧は電極群3がマイナス極、電極群4がプラス極となるように、交互に極性を切り換える。電極群3は、複数個(ここでは7個)の電極棒3aを備えており、各電極棒3aは、漁船近傍の海水中に配置される。同様に、電極群4は、複数個(ここでは7個)の電極棒4aを備えており、各電極棒4aは、漁船近傍の海水中で、前述の電極群3と所定距離離れた位置に設けられる。
【0008】
図2は、本実施形態の漁業用鮫撃退装置1を搭載した底曳き網漁船7の側面図、図3は同平面図を示している。各図に示すように、電極群3は、漁船側面の船首側に設けられ、電極群4は、漁船側面の船尾側に設けられ、各電極群3,4はその少なくとも一部が海水中に挿入されている。そして、これらの各電極群3,4の間にて、網6で捕獲した魚類の水揚げが行われる。ここで、各電極群3,4間の距離は、例えば、4150mmとされ、各電極群3を構成する電極棒3aどうしの間隔、及び電極群4を構成する電極棒4aどうしの間隔は140mmとされている。
【0009】
次に、上記のように構成された本実施形態に係る漁業用鮫撃退装置1の動作について説明する。網6により魚類を捕獲し、これを底曳き網漁船7に水揚げする際には、網6に連結されたワイヤーを巻き取り装置により巻き取ることにより網6を引き上げる。この際、図1に示した電源装置2を駆動させて、各電極群3,4間にパルス電圧を印加する。これにより、上記したように、電圧600ボルト、パルス幅0.5msecとなる直流パルスが、毎秒2回ずつ極性が交互に切り替わりながら、各電極群3,4に印加される。
その結果、漁船7近傍の海水中に電気パルスが発生するので、網6にて捕獲した魚に鮫8が接近しようとした場合に、鮫8はこの電気パルスにより衝撃を受けることになり、漁船7から遠ざかるように退散する。即ち、鮫8は顔の部分にロレンチニ瓶と称する微弱電流を検知する器官を持っており、通常時はこの機能を用いて、砂に隠れている魚や、遠くにいる魚を探し出すことができる。その反面、海水中にパルス電圧を発生させるとこれに敏感に反応してしまい、衝撃を受けて退散してしまう。つまり、本実施形態では、各電極群3,4にパルス電圧を印加することにより、漁船に近づこうとする鮫8に電気的な衝撃を与え、この衝撃により鮫8を追い払うことができる。
【0010】
本発明者らが、実際に上記の条件で直流パルスを出力した際に、海水中において発生する電圧を測定したところ、図2に示すように、水深5mで174ボルト、水深10mで167ボルト、水深15mで157ボルト、水深20mで155ボルト、水深25mで154ボルトとなり、海面から深い位置まで電気的な衝撃が与えられることが確認できた。
このようにして、本実施形態に係る漁業用鮫撃退装置1では、漁船7の近傍の海水中に2つの電極群3,4を配置し、これらの電極群3,4間にパルス電圧を印加するので、捕獲した魚を水揚げする際に、この魚を横取りしようとして近づく鮫8を撃退することができる。これにより、底曳き網漁で捕獲した魚を網6で水揚げする際に、この魚を鮫8に横取りされることを防止することができる。また、電気ショックにより鮫8を撃退する方式を採用するので、鮫8に傷を付けることがなく、動物保護の観点から見て極めて効果的である。
【0011】
なお、上記した実施形態では、各電極群3,4が有する電極棒3a,4aの数がそれぞれ7個である場合を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、1または複数個とすることができる。また、2つの電極群3,4を備える場合を例に挙げたが、本発明はこれに限定されるものではなく、3以上の電極群を備える構成とすることも可能である。この場合には、3以上設けられた電極群が交互にプラス極、マイナス極となるように極性を設定することにより、より効果的に海水中に電気パルスを発生させることができる。
また、上記した漁業用鮫撃退装置1は、底曳き網漁船7に固定して使用する場合を例に挙げて説明したが、電源装置2、及び各電極群3,4を底曳き網漁船7に対して取り外しができるように構成し、使用目的に応じて適宜取り付け、取り外しを行うようにすることも可能である。このような構成とすれば、各漁船毎にそれぞれ漁業用鮫撃退装置1を備える必要がなく、必要に応じて取り付けることができるので、使用目的に応じた柔軟な対応を採ることが可能である。
【0012】
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。図4は、第2の実施形態に係る漁業用鮫撃退装置11の構成を示すブロック図である。同図に示す漁業用鮫撃退装置11は、前述の図1に示したものと略同一であり、電極数が3個となっている点が相違する。即ち、自動安定器16を介して与えられる交流100ボルトの電源電圧から直流のパルス信号を生成する電源装置(電源手段)12と、該電源装置12の出力端子と連結された3つの電極13〜15を備えている。各電極13〜15は、図8に示すように、上下部分が電極とされた構成を有しており、電線を介して電源装置12の出力端子と連結されている。
図5は、上記の漁業用鮫撃退装置11を搭載した延縄漁船17の構成を示す側面図、図5は同平面図である。各図に示すように、延縄漁船17の側面には、略等間隔となるように3つの電極13〜15が設けられており、各電極13〜15は、海水中に挿入されている。
【0013】
次に、第2の実施形態に係る漁業用鮫撃退装置11の動作について説明する。延縄漁船17では、延縄18により捕獲した魚を引き揚げる際に、電源装置12を起動させて、各電極13〜15にパルス電圧を印加する。
電源装置12は、3つの電極13〜15に対して、直流400ボルト、パルス幅1msec、パルス数毎秒1回、という条件で、図7のa1、a2、a3に示すように交互に極性を変化させながらパルス電圧を印加する。即ち、1回目のパルス電圧を、電極13をプラス極、電極14をマイナス極として印加し、2回目のパルス電圧を、電極14をプラス極、電極15をマイナス極として印加し、3回目のパルス電圧を、電極15をプラス極、電極13をマイナス極として印加する、といったように、3つの電極13〜15に対して極性を順繰りに変化させながら、パルス電圧を印加する。
【0014】
これにより、延縄漁船17の近傍の海水中にパルス電圧が出力され、該延縄漁船17に近づこうとする鮫8を効果的に撃退することができ、延縄18を用いて引き上げられる魚が鮫8に横取りされるというトラブルの発生を回避することができる。
本発明者らが、実際に上記の条件で直流パルスを出力した際に、海水中において発生する電圧を測定したところ、図5に示すように、延縄漁船17の前後12mの地点で95ボルト、水深16mの地点で95ボルトとなり、漁船17から遠い位置及び海面から深い位置まで電気的な衝撃が与えられることが確認できた。このようにして、第2の実施形態に係る漁業用鮫撃退装置11についても、前述した第1の実施形態と同様に、延縄漁船17の近くを遊泳する魚8が、捕獲した魚に食いつくことを防止することができ、漁獲量に多大な損失を与えるという従来の問題点を解決することができる。
【0015】
以上、本発明の漁業用鮫撃退装置を図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、各部の構成は、同様の機能を有する任意の構成のものに置き換えることができる。例えば、電極間に印加する電圧は、上記したパルス電圧に限定されるものではなく、略一定となる直流電圧を電極間に印加し続けるようにしても、鮫8に電気的な衝撃を与えることができ、鮫8を撃退することができる。
また、上記した各実施形態では、パルス電圧を1回出力する毎に電極の極性を変化させる場合を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、2回以上の所定回数毎に電極の極性を変化させるようにしても良い。また、極性を変化させず、各電極を常に同一の極性としてパルス電圧を印加するようにしても良い。
【産業上の利用可能性】
【0016】
捕獲した魚を漁船に水揚げする際に、鮫による魚の横取りを防止する上で極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る漁業用鮫撃退装置の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係り、漁業用鮫撃退装置を底曳き網漁船に搭載したときの構成を示す側面図である。
【図3】図2の、漁業用鮫撃退装置を底曳き網漁船に搭載したときの構成を示す平面図である。
【図4】本発明の第2の実施形態に係る漁業用鮫撃退装置の構成を示すブロック図である。
【図5】図4の、漁業用鮫撃退装置を延縄漁船に搭載したときの構成を示す側面図である。
【図6】図5の平面図である。
【図7】第2の実施形態に係る漁業用鮫撃退装置の、各電極に印加するパルス電圧を示す説明図である。
【図8】図7に示す各電極の詳細な構成を示す側面図である。
【符号の説明】
【0018】
1,11 漁業用鮫撃退装置
2,12 電源装置(電源手段)
3 電極群(第1の電極)
4 電極群(第2の電極)
3a,4a 電極棒
5,16 自動安定器
6 網
7 底曳き網漁船
8 鮫
13,14,15 電極
17 延縄漁船
18 延縄

【特許請求の範囲】
【請求項1】
捕獲した魚に群がる鮫を撃退する漁業用鮫撃退装置であって、
前記漁船近傍の海水中に配置される第1の電極、及び該第1の電極から所定距離離れた位置となる海水中に配置される第2の電極と、前記第1の電極、及び前記第2の電極の一方がプラス極、他方がマイナス電極となるように直流電圧を印加する電源手段と、を備えたことを特徴とする漁業用鮫撃退装置。
【請求項2】
前記第1の電極または前記第2の電極のうちの少なくとも一方は、複数個備えられ、前記第1の電極、前記第2の電極が交互に並ぶように海水中に配置されることを特徴とする請求項1に記載の漁業用鮫撃退装置。
【請求項3】
前記第1の電極及び第2の電極は、複数の電極棒からなることを特徴とする請求項1または2に記載の漁業用鮫撃退装置。
【請求項4】
前記電源手段は、前記第1の電極及び前記第2の電極に、直流パルス電圧を印加することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の漁業用鮫撃退装置。
【請求項5】
前記電源手段は、前記直流パルス電圧を所定回数出力する毎に、前記第1の電極及び第2の電極の極性を切り換えることを特徴とする請求項4に記載の漁業用鮫撃退装置。
【請求項6】
前記第1の電極、第2の電極、及び電源手段は、前記漁船に対して取り外しが可能であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の漁業用鮫撃退装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−149275(P2006−149275A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−344255(P2004−344255)
【出願日】平成16年11月29日(2004.11.29)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2004年(平成16年)9月4日 「朝日新聞(夕刊)」に発表
【出願人】(504141377)株式会社テクノパルス (2)
【出願人】(501168814)独立行政法人水産総合研究センター (103)
【出願人】(504440085)すずし漁業協同組合 (1)
【Fターム(参考)】