説明

漂流飛散を抑えた農薬粉剤

【課題】
比重の大きい鉱物を担体として用いることで漂流飛散を実用的に抑制した農薬粉剤を提供すること。
【解決手段】
真比重が4.4〜20で粒径45μm以下の粒子が95%以上の粒度分布を有する担体、および農薬有効成分からなる漂流飛散を抑制した農薬粉剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、比重の大きい担体によって漂流飛散を抑制した農薬粉剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
農薬の固形製剤のうち、処理に水を介さないものは粒度分布によって厳密に規定されており、すなわち粒剤は粒径300〜1700μmの粒子が95%以上、細粒剤は180〜710μmの粒子が95%以上、微粒剤は106〜300μmの粒子が95%以上、粉剤は45μmの以下の粒子が95%以上とされている。
【0003】
粉剤には、一般粉剤、DL粉剤、フローダスト(FD剤)が含まれ、これらのうち、粒径10μm以下の粒子が20%以下で平均粒径が20μm以上のものをDL粉剤、平均粒径が5μm以下のものをフローダストと呼んでいる。一般粉剤、DL粉剤は主に水稲用病害虫防除剤として、フローダストは施設栽培の施設内で漂流飛散させることで病害虫を防除する殺虫剤として利用されている。
【0004】
施設外で利用される一般粉剤、DL粉剤の特徴は、(1)比較的簡単な散布機で製剤をそのまま散布できる、(2)ほとんどの原体の製剤化が可能で、また混合剤の製剤化も比較的容易である、(3)使用する増粘剤など副資材が入手しやすいという利点がある。
【0005】
一方、微粉であるため散布時に目的区域外へ漂流飛散(ドリフト)する、などの欠点を挙げている記載もある(非特許文献1)。
【0006】
漂流飛散とは散布された薬剤が上昇気流や風などによって目的地以外に浮遊、飛散する現象と定義されている(例えば、非特許文献2参照)。
【0007】
一般粉剤は、実際の製品としては平均粒子径が10μmとなっており、散布時に目的区域外に漂流飛散するため、近年では平均粒子径が20〜30μm、漂流飛散に影響するといわれる10μm以下の微粉を20%以下に規格設定されたDL粉剤が主流となっている。
【0008】
一方で、2003年の食品衛生法の改正により、ポジティブリスト制度が導入された。ポジティブリスト制度では、残留基準および暫定基準が設定されている農薬については、その基準以内での作物への残留は認められるが、基準を越えればその作物の流通が禁止される。しかし、実際の農薬使用の現場では、防除対象の農作物に隣接する他の農作物にも農薬が飛散し残留する可能性が否定できない。そのため、DL粉剤であっても、漂流飛散する可能性が高い粉剤についてその利用を控える傾向にある。
【0009】
しかしながら、地域によっては水の運搬が困難などの理由から水稲用病害虫防除剤として粉剤を利用せざるをえない場面もあり、漂流飛散問題を解決できる粉剤に対する期待は大きい。
【0010】
一方、漂流飛散性の少ない微粒剤であれば、漂流飛散の問題は解決できるが、前述のような粉剤の特性を持ち合わせていないので、結局のところ、微粒剤並に漂流飛散性を抑えかつ粉剤としての機能を持つ粉剤が望まれている。
【0011】
また、殺虫剤、殺菌剤としての粉剤についての報告、利用例は多数あるが、除草剤としての粉剤について多数の報告(例えば、特許文献1参照)はあるものの実際の利用例は全くない。
【0012】
このことは、除草剤の場合は漂流飛散すれば殺虫・殺菌剤以上に隣接する作物に対して目に見える薬害として現れる可能性が高いためだと考えられ、漂流飛散を実用的に抑制できなければ利用できない。しかしこのことに対する検討はまだ報告されていない。
【非特許文献1】日本農薬学会 農薬製剤・施用法研究会編.1997.「農薬製剤ガイド」
【非特許文献2】宍戸孝ら編.1994.「農薬科学用語辞典」
【特許文献1】特開2005−68050号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、比重の大きい鉱物を担体として用いることで漂流飛散を実用的に抑制した農薬粉剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、前述した課題を解決すべく、従来のDL粉剤の担体である勝光山DLクレー(真比重0.85〜1.05)よりも比重の大きいジルコンサンド(真比重4.7)、クロマイトサンド(真比重4.4〜4.5)、砂鉄(真比重5.2)を担体として用い、3−(3,4−ジクロロフェニル)−1,1−ジメチル尿素含有の粉剤除草剤を作製し、漂流飛散量測定試験およびビニルトンネル内での漂流飛散による検定植物に対する薬害試験を行ったところ、微粒剤と同程度の漂流飛散量および薬害程度に抑制できることを確認し、本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち、本発明は真比重が4.4〜20であって、粒径45μm以下の粒子が95%以上の粒度分布を有する担体、および農薬有効成分からなる漂流飛散を抑制した農薬粉剤である。
【0016】
また、本発明はさらに界面活性剤、補助剤を添加した漂流飛散を抑制した農薬粉剤である。
【0017】
また、本発明は前記した農薬粉剤が除草用粉剤であることを特徴としている。
【0018】
また、本発明は前記した農薬粉剤が殺虫用粉剤であることを特徴としている。
【0019】
また、本発明は前記した農薬粉剤が殺菌用粉剤であることを特徴としている。
【0020】
また、本発明は前記した農薬粉剤が殺虫・殺菌用粉剤であることを特徴としている。
【0021】
また、本発明は前記した除草用粉剤が、有効成分として3−(3,4−ジクロロフェニル)−1,1−ジメチル尿素および2−(4−クロロ−6−エチルアミノ−1,3,5−トリアジン−2−イルアミノ)−2−メチルプロピオノニトリルから選択される1種または2種を含有することを特徴としている。
【0022】
また、本発明は前記した殺虫用粉剤が、有効成分として3,5−キシリル−N−メチルカーバメートを含有することを特徴としている。
【0023】
また、本発明は前記した殺虫・殺菌用粉剤が、有効成分として3,5−キシリル−N−メチルカーバメートおよび1−(4−クロロベンジル)−1−シクロペンチル−3−フェニル尿素を含有することを特徴としている。
【0024】
また、本発明は前記した除草用粉剤が茎葉兼土壌処理剤として使用されることを特徴としている。
【0025】
また、本発明は前記した担体がジルコンサンド、クロマイトサンド、砂鉄から選択される1種または2種以上であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0026】
本発明の粉剤は平均粒子径が固体製剤の中で最も小さいので対象植物への接触確率が極めて高い。したがって、有効成分量を高めることで製剤の散布量を低下させることができる。
【0027】
界面活性剤を使用することで、植物への展着効果が向上するので、少ない有効成分量で効果を発現することができる。
【0028】
散布に水を媒介しないので、茎葉兼土壌処理剤としては最も重量が小さく、処理対象箇所への運搬が容易になる。
【0029】
これまで粉剤の活用がまったくなかった除草剤分野においても展開ができる。
【0030】
原体の粉砕および担体との混和のみからなる簡易な作業行程によって製剤できるので、設備投資が比較的容易である。
【0031】
ポジティブリスト制度に対応した殺虫用粉剤、殺菌用粉剤および殺虫・殺菌用粉剤を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
本発明の農薬粉剤の担体としては、ジルコンサンド、クロマイトサンド、砂鉄などの真比重が4.4〜20の鉱物が挙げられ、単品または2種類以上の組合せで使用することができる。
【0033】
除草剤の有効成分としては農薬登録を有し、原体を粉末化できるもので、例えば、2,4−ジクロロフェノキシ酢酸、2−メチル−4−クロロフェノキシ酢酸、3,5,6−トリクロロ−2−ピリジルオキシ酢酸、3−(3,4−ジクロロフェニル)−1,1−ジメチル尿素、3−(3,3−ジメチルウレイド)フェニル=ターシャリーブチルカルバマート、3−(5−ターシャリーブチル−3−イソキサゾリル)−1,1−ジメチル尿素、1−(5−tert−ブチル−1,3,4−チアジアゾール−2−イル)−1,3−ジメチル尿素、1−(4,6−ジメトキシピリミジン−2−イル)−3−(3−トリフルオロメチル−2−ピリジルスルホニル)尿素、2−(4−クロロ−6−エチルアミノ−1,3,5−トリアジン−2−イルアミノ)−2−メチルプロピオノニトリル、4−アミノ−6−ターシャリーブチル−3−(メチルチオ)−1,2,4−トリアジン−5(4H)−オン、3−ターシャリーブチル−5−クロロ−6−メチルウラシル、5−ブロモ−3−セコンダリ−ブチル−6−メチルウラシル、エチル=2−クロロ−5−(4−クロロ−5−ジフルオロメトキシ−1−メチルピラゾール−3−イル)−4−フルオロフェノキシアセタート、2−メトキシ−3,6−ジクロロ−安息香酸、2,2,3,3−テトラフルオロプロピオン酸ナトリウム、N−(ホスホノメチル)グリシン、L−2−アミノ−4−[(ヒドロキシ)(メチル)ホスフィノイル]ブチリル−L−アラニル−L−アラニンナトリウム塩、アンモニウム=DL−ホモアラニン−4−イル(メチル)ホスフィナート、2,6−ジクロロチオベンザミドがある。
【0034】
殺虫剤の有効成分としては農薬登録を有し、原体を粉末化できるもので、例えば、2−セコンダリ−ブチルフェニル−N−メチルカーバメート、3,7,9,13−テトラメチル−5,11−ジオキサ−2,8,14トリチア−4,7,9,12−テトラアザペンタデカ−3,12−ジエン−6,10−ジオン、2−(4−エトキシフェニル)−2−メチルプロピル=3−フェノキシベンジル=エーテル、5−ジメチルアミノ−1,2,3−トリチアン蓚酸塩、1−(6−クロロ−3−ピリジルメチル)−N−ニトロイミダゾリジン−2−イリデンアミン、(E)−1−(2−クロロ−1,3−チアゾール−5−イルメチル)−3−メチル−2−ニトログアニジン、(RS)−1−メチル−2−ニトロ−3−(テトラヒドロ−3−フリルメチル)グアニジン、N−tert−ブチル−N’−(4−エチルベンゾイル)−3,5−ジメチルベンゾヒドラジド、2−ターシャリーブチルイミノ−3−イソプロピル−5−フェニル−3,4,5,6−テトラヒドロ−2H−1,3,5−チアジアジン−4−オン、5−アミノ−1−(2,6−ジクロロ−α,α,α−トリフルオロ−p−トリル)−4−エチルスルフィニルピラゾール−3−カルボニトリル、3,5−キシリル−N−メチルカーバメート がある。
【0035】
殺菌剤の有効成分としては農薬登録を有し、原体を粉末化できるもので、例えば、4,5,6,7−テトラクロロフタリド、5−メチル−1,2,4−トリアゾロ[3,4−b]ベンゾチアゾール、α,α,α−トリフルオロ−3’−イソプロポキシ−o−トルアニリド、(Z)−2’−メチルアセトフェノン=4,6−ジメチルピリミジン−2−イルヒドラゾン、カスガマイシン一塩酸塩、(RS)−2−(4−フルオロフェニル)−1−(1H−1,2,4−トリアゾール−1−イル)−3−トリメチルシリルプロパン−2−オール、バリダマイシンA 、1−(4−クロロベンジル)−1−シクロペンチル−3−フェニル尿素がある。
【0036】
有効成分の含有量は、農薬粉剤中0.01〜10%である。好ましくは0.1〜10%である。
【0037】
除草剤としては効果を更に高めるために、界面活性剤を添加することができる。例えば陰イオン系では一般的にアルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、スルホコハク酸塩、リン酸エステル型、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物を使用することができる。非イオン系ではポリオキシエチレンアルキルエーテル型、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル型、ポリオキシプロピレンアルキルエーテル型を使用することができる。
【0038】
界面活性剤は、陰イオン系、非イオン系、陽イオン系単品、あるいは陽イオン系と陰イオン系の組合せ以外の2種類以上の組合せが採用できる。界面活性剤の添加量は農薬粉剤に対して0.5〜11%である。
【0039】
本発明の農薬粉剤の製剤にはV型混合機またはW型混合機またはタンブラー混合機を用い、10〜50回転/分で30〜60分間混合させて調製することができる。
【0040】
粒子径は光学顕微鏡あるいはレーザー回折装置を用いて測定することができる。本発明の農薬粉剤の粒子径はレーザー回折装置を用いて測定すると、体積分布で0.5〜50μmである。
【実施例1】
【0041】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳述する。実施例における「部」は質量部のことである。
[ジルコンサンドDCMU粉剤の作製]
平均粒子径7.79μmの粉末物であるDCMU原体5.0部、担体のジルコンサンド(ジルコンフラワー#350:キンセイマテック株式会社製)95部をV型混合機(株式会社入江商会製)によって30回転/分で30分間混合させて、DCMU5%粉剤を得た。
【実施例2】
【0042】
[クロマイトサンドDCMU粉剤の作製]
平均粒子径7.79μmの粉末物であるDCMU原体5.0部、担体のクロマイトサンド(クロムフラワー#350:キンセイマテック株式会社製)95部をV型混合機(株式会社入江商会製)によって30回転/分で30分間混合させて、DCMU5%粉剤を得た。
【実施例3】
【0043】
[砂鉄DCMU粉剤の作製]
平均粒子径7.79μmの粉末物であるDCMU原体5.0部、担体の砂鉄(砂鉄#350:馬居化成工業株式会社製)95部をV型混合機(株式会社入江商会製)によって30回転/分で30分間混合させて、DCMU5%粉剤を得た。
【実施例4】
【0044】
[シアナジン粉剤の作製]
平均粒子径6.25μmの粉末物であるシアナジン原体5.0部、担体の砂鉄(砂鉄#350:馬居化成工業株式会社製)95部をV型混合機(株式会社入江商会製)によって30回転/分で30分間混合させて、シアナジン5%粉剤を得た。
【実施例5】
【0045】
[XMC粉剤の作製]
平均粒子径4.53μmの粉末物であるXMC原体3部、担体の砂鉄(砂鉄#350:馬居化成工業株式会社製)97部をV型混合機(株式会社入江商会製)によって30回転/分で30分間混合させて、XMC3%粉剤を得た。
【実施例6】
【0046】
[XMC・ペンシクロン粉剤の作製]
平均粒子径4.53μmの粉末物であるXMC原体2部、ペンシクロン原体1.5部、担体の砂鉄(砂鉄#350:馬居化成工業株式会社製)96.5部をV型混合機(株式会社入江商会製)によって30回転/分で60分間混合させて、XMC2%・ペンシクロン1.5%粉剤を得た。
【実施例7】
【0047】
[界面活性剤を添加したDCMU粉剤の作製]
平均粒子径7.79μmの粉末物であるDCMU原体5.0部、粉状のアニオン系界面活性剤ソルポール5050(東邦化学株式会社製)5.0部、担体の砂鉄(砂鉄#350:馬居化成工業株式会社製)90部をV型混合機(株式会社入江商会製)よって30回転/分で60分間混合させて、界面活性剤を添加したDCMU5%粉剤を得た。
【0048】
[比較例1]
[オリビンサンドDCMU粉剤の作製]
平均粒子径7.79μmの粉末物であるDCMU原体5.0部、担体のオリビンサンド(東邦オリビン工業株式会社製)95部をV型混合機(株式会社入江商会製)によって30回転/分で30分間混合させて、DCMU5%粉剤を得た。
【0049】
[比較例2]
[酸化鉄DCMU粉剤の作製]
平均粒子径7.79μmの粉末物であるDCMU原体5.0部、担体の酸化鉄(FRO−3:堺化学工業株式会社製)95部をV型混合機(株式会社入江商会製)によって30回転/分で30分間混合させて、DCMU5%粉剤を得た。
【実施例8】
【0050】
[各種担体鉱物の漂流飛散量の測定]
各種担体鉱物の漂流飛散についてその距離と量を測定する目的で試験を行った。供試した担体鉱物は粉剤用担体として使用されている炭酸カルシウム(真比重2.7)、比較的比重が大きい担体であるオリビンサンド(真比重3.0〜3.5)、酸化鉄(真比重3.5〜3.8)、本発明で使用する担体であるクロマイトサンド(真比重4.4〜4.5;平均粒径が1.38μmと1.06μmの2種類)、ジルコンサンド(真比重4.7;平均粒径が1.52μmと1.38μmと1.06μmの3種類)、砂鉄(真比重5.2)、それと対照薬剤に使用されている勝光山DLクレー(真比重2.7:対照)および微粒剤として使用されているゼオグリーン微粒(真比重2.3:対照)とした。試験系として、幅70cm、高さ40cm、全長400cmのビニルトンネルを作製し、片側の口に小型の扇風機を設置し、もう片側は網目上の板を設置し、トンネル内に風速1.51m/秒の風が一方向に流れる実験装置を作製した。トンネル内に予め計量した3×8cmのシールを扇風機から25、50、100、150、200、300、400cmの地点に設置した。扇風機を作動させ、扇風機の直前に空けた口へ10gの各種担体鉱物を2重の網を通しながら散布した。散布後10分間扇風機を作動させた後、設置したシールを取り出して、各シール上の担体鉱物の質量を測定した。
【0051】
結果は表−1に示すとおりである。担体により漂流飛散量は異なり、通常使用している勝光山DLクレーに比べ、本発明で使用する担体の方が粒径は小さいにもかかわらず、飛散量が少ないことが分かる。少なくとも真比重がクロマイトサンド(4.4〜4.5)より大きい担体を使用することにより、ゼオグリーン微粒程度に漂流飛散を減じることが可能であることが分かった。


























【0052】
【表1】

【実施例9】
【0053】
[各種担体を用いた粉剤除草剤の漂流飛散が検定植物ハクサイに及ぼす影響]
各種DCMU粉剤の漂流飛散が8〜9葉期の検定植物ハクサイ(郷秋50日:株式会社トーホク製)に及ぼす薬害を明らかにする目的で試験を2006年11月に行った。実施例3で用いた実験装置の100、200、300、400cm地点にハクサイを置床し、風速1.51m/秒で扇風機を作動させ、扇風機の直前に空けた口へ有効成分量で0.3gの各種担体鉱物を2重の網を通しながら散布した。供試した粉剤は実施例1〜3および比較例1、2で作製したジルコンサンド、クロマイトサンド、砂鉄、オリビンサンド、酸化鉄、勝光山DLクレー(対照)のDCMU粉剤および微粒剤(ダイロン微粒剤 DCMU3%:株式会社日本グリーンアンドガーデン製)とした。散布後10分間扇風機を作動させた後ハクサイを取り出し、温室内で生育させた。給水は下面から行った。7、12、15日後に供試したハクサイの薬害の程度を調査した。薬害はハクサイの全葉面積に占めるクロロシスの発現被度(%)を目視によって測定した。
【0054】
結果は表−2に示すとおりである。ハクサイに対する薬害の程度は担体により異なり、通常の粉剤として使用している勝光山DLクレーに比べ、比重の大きい担体を使用した本発明の粉剤は、漂流飛散によるハクサイへの薬害を微粒剤と同程度に減じることが分かった。
【0055】
【表2】

【実施例10】
【0056】
[ポット試験における各種担体を用いた粉剤の各種雑草に対する除草効果]
各種担体の粉剤が除草効果に及ぼす変動を明らかにする目的で2006年9月に試験を温室内で行った。表面積150cm、深さ10cmのポットで育成した各種雑草の生育盛期に対して、ジルコンサンド、クロマイトサンド、砂鉄を用い実施例1〜3で作製したDCMU5%粉剤および対照の勝光山DLクレーDCMU5%粉剤、微粒剤(ダイロン微粒剤 DCMU 3%:株式会社日本グリーンアンドガーデン製)について有効成分量で1000、500、250、125g/10aの茎葉兼土壌処理を行った。
【0057】
用いた雑草種および処理時の葉齢はイヌビエ3.5葉期、メヒシバ3.0葉期、エノコログサ3.0葉期、アオビユ2葉展開期、コセンダングサ2葉展開期、ヤハズソウ2葉展開期〜3葉抽出期であった。
【0058】
各種雑草に対する除草効果の程度の調査は以下に示す観察基準に従い行った。
0:無処理区同様除草効果は観察されない。
2:無処理区に対して20%程度の除草効果を示す。
4:無処理区に対して40%程度の除草効果を示す。
6:無処理区に対して60%程度の除草効果を示す。
8:無処理区に対して80%程度の除草効果を示す。
10:完全枯死
【0059】
結果は表−3に示すとおりである。ジルコンサンド、クロマイトサンド、砂鉄のDCMU粉剤は勝光山DLクレー粉剤に比べ、初期効果および最終効果に大きな差はなく、担体が除草効果に及ぼす変動は小さいことが分かった。一方、微粒剤との対比では、これらの粉剤は最終効果には大きな差はなかったが、初期効果は若干劣ることが分かった。
【0060】
【表3】

【実施例11】
【0061】
[ポット試験における界面活性剤を添加した粉剤の各種雑草に対する除草効果]
界面活性剤の添加が各種雑草の除草効果に及ぼす影響を明らかにする目的で2006年9月に試験を行った。表面積150cm、深さ10cmのポットで育成した生育盛期の各種雑草に対して、界面活性剤(ソルポール5050:東邦化学株式会社製)を0、1、3、5%含有させた実施例7で作製した砂鉄DCMU5%粉剤および対照の勝光山DLクレーDCMU5%粉剤、微粒剤(ダイロン微粒剤DCMU3%:株式会社日本グリーンアンドガーデン製)について有効成分量で500、250、125、62.5g/10aの茎葉兼土壌処理を行った。
【0062】
用いた雑草種および処理時の葉齢はイヌビエ3.5葉期、メヒシバ3.0〜3.5葉期、エノコログサ3.5葉期、アオビユ3葉展開期、コセンダングサ3葉展開期、ヤハズソウ3葉展開期であった。各種雑草に対する薬害程度の調査は実施例10と同様にして行った。
【0063】
結果は表−4に示すとおりである。界面活性剤が入っていない砂鉄DCMU5%粉剤および勝光山DLクレーDCMU5%粉剤は微粒剤に比べて初期効果および最終効果ともに小さかったが、界面活性剤を添加することで砂鉄DCMU5%粉剤の初期効果および最終効果は高くなった。更に、界面活性剤の添加量が3%以上で微粒剤よりも初期効果および最終効果が高くなることが分かった。以上のことから界面活性剤を添加することで砂鉄DCMU5%粉剤の除草効果を安定的に微粒剤と同程度に発現させることが分かった。
【0064】
【表4】

【実施例12】
【0065】
[DCMU砂鉄粉剤の粒度分布]
DCMU砂鉄粉剤の粒度分布を明らかにする目的で、実施例3のDCMU砂鉄粉剤、実施例7の界面活性剤を添加したDCMU砂鉄粉剤および対照として担体である砂鉄鉱物についてレーザー回折装置(マイクロトラック粒度分布測定装置MT3300EX:Microtrac,Inc.製)を用いて測定した。
【0066】
結果は図−1に示すとおりである。砂鉄DCMU粉剤は2.121μm〜31.11μmに分布し、平均粒径は6.299μmであった。界面活性剤を添加したDCMU砂鉄粉剤は2.522〜44.00μmに分布し、平均粒径は7.587μmであった。対照の砂鉄鉱物は2.121μm〜31.11μmに分布し平均粒径は6.122μmであった。以上のことから、砂鉄DCMU粉剤および界面活性剤を添加したDCMU砂鉄粉剤の粒度分布は砂鉄鉱物の粒度分布および平均粒径にほぼ合致するものであることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の漂流飛散を抑制した農薬粉剤は、漂流飛散害を発生させることなく農薬粉剤を散布する必要がある場面において極めて有効である。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】各種砂鉄粉剤および砂鉄鉱物の粒度分布のレーザー回折装置による測定チャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真比重が4.4〜20であって、粒径45μm以下の粒子が95%以上の粒度分布を有する担体、および農薬有効成分からなる漂流飛散を抑制した農薬粉剤。
【請求項2】
界面活性剤、補助剤を添加した請求項1記載の漂流飛散を抑制した農薬粉剤。
【請求項3】
前記した農薬粉剤が除草用粉剤である請求項1または請求項2記載の漂流飛散を抑制した農薬粉剤。
【請求項4】
前記した農薬粉剤が殺虫用粉剤である請求項1または請求項2記載の漂流飛散を抑制した農薬粉剤。
【請求項5】
前記した農薬粉剤が殺菌用粉剤である請求項1または請求項2記載の漂流飛散を抑制した農薬粉剤。
【請求項6】
前記した農薬粉剤が殺虫・殺菌用粉剤である請求項1または請求項2記載の漂流飛散を抑制した農薬粉剤。
【請求項7】
前記した除草用粉剤が、有効成分として3−(3,4−ジクロロフェニル)−1,1−ジメチル尿素および2−(4−クロロ−6−エチルアミノ−1,3,5−トリアジン−2−イルアミノ)−2−メチルプロピオノニトリルから選択される1種または2種を含有するものである請求項3記載の漂流飛散を抑制した農薬粉剤。
【請求項8】
前記した殺虫用粉剤が、有効成分として3,5−キシリル−N−メチルカーバメートを含有するものである請求項4記載の漂流飛散を抑制した農薬粉剤。
【請求項9】
前記した殺虫・殺菌用粉剤が、有効成分として3,5−キシリル−N−メチルカーバメートおよび1−(4−クロロベンジル)−1−シクロペンチル−3−フェニル尿素を含有するものである請求項6記載の漂流飛散を抑制した農薬粉剤。
【請求項10】
前記した除草用粉剤が茎葉兼土壌処理剤として使用されることを特徴とする請求項3記載の漂流飛散を抑制した農薬粉剤。
【請求項11】
前記した担体がジルコンサンド、クロマイトサンド、砂鉄から選択される1種または2種以上である請求項1〜請求項10いずれかの項に記載の漂流飛散を抑制した農薬粉剤。

【図1】
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【公開番号】特開2008−239570(P2008−239570A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−84555(P2007−84555)
【出願日】平成19年3月28日(2007.3.28)
【出願人】(000005315)保土谷化学工業株式会社 (107)
【Fターム(参考)】