説明

漆喰材料及び漆喰の製造方法

【課題】強度発現性に優れ、曲げ強度や圧縮強度を高めた漆喰材料及び漆喰の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る漆喰材料は、生石灰及び/又は消石灰、細骨材を主要成分とする漆喰材料であって、該漆喰材料と高Caイオン含有水溶液とを含んでなる。本発明に係る漆喰の製造方法は、強度発現性に優れた漆喰の製造方法であって、生石灰及び/又は消石灰、細骨材を主要成分とする漆喰材料と高Caイオン含有水溶液とを混練することにより実施することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、漆喰材料及び漆喰の製造方法に係り、特に高Caイオン含有水溶液を用いて混練する漆喰材料及び漆喰の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
漆喰は、消石灰に麻の繊維や藁の繊維(すさ)、草本や海藻から得る接着剤、水などを混練して作られ、二酸化炭素を吸収しながら硬化する(気硬性)塗壁材料として知られている。また、漆喰は、防水性、調湿性、耐火性などの特性を有し、古くから城郭、神社、土蔵や家屋の土で造られた内外壁の上塗り材として用いられてきたが、近年ではその使用範囲は限られたものになっている。このため、合成樹脂や顔料等を混ぜた漆喰が商品化され、また、従来の低強度で脆いといわれる漆喰に対し、漆喰の強度の向上、強度発現性の改善、あるいは調湿機能やホルムアルデヒドの吸着分解機能など漆喰の本来の特性に着目した新たな製品の開発などが試みられ、漆喰の使用範囲・用途を拡大するための試みがなされている。
【0003】
例えば、特許文献1に、ひび割れやフレーキングを生じにくく強度発現性を改善した漆喰用組成物として、γ型2CaO・SiO2と水酸化カルシウムとを含有してなる漆喰用組成物が提案されている。そして、その明細書に、γC2Sと水酸化カルシウム、γC2Sと水酸化カルシウムの合計100部に対して、増粘剤0.5部、繊維物質1.5部、分散剤1部、及び消泡剤0.3部を配合した漆喰用組成物と、該漆喰用組成物100部に対して、50部の水とを混合して漆喰を調製し、コンクリート板に厚さ3mmで塗りつけて作製した試料のコテ作業性、ひび割れ抵抗性、フレーキングの有無、硬度を測定した結果が示されている。
【0004】
特許文献2に、空中、水中を問わず硬化して高強度になり用途の拡大を図ることができるしっくい系接着硬化材が提案されている。すなわち、消石灰もしくは生石灰、およびその混合粉体を主原料として、これに珪酸アルカリ成分とアルカリ土類金属塩から選ばれた1種または2種以上の成分を配合して成るしっくい系接着硬化材が提案されている。そして、その明細書に、2号珪酸ソーダ、無水塩化マグネシウム、ポリエステル繊維、試料によっては粘土を加えて混合し水を適宜加えて混練したものを型枠に流し込み又は押し出し成形した試料について、28日養成後の曲げ強さが18〜73kgf/cm2、圧縮強さが125〜290kgf/cm2であり、従来の消石灰にCMC(カルボキシメチルセルロース)を加えたしっくいの圧縮強さ8〜12kgf/cm2と比較して機械的強度が非常に優れていると記載されている。
【0005】
特許文献3には、大量に廃棄されているホタテ貝の有効利用を図ったホタテ貝殻粉末を主成分とする漆喰材料が提案されており、ホタテ貝殻粉末、消石灰、すさ・顔料等を含む漆喰材料について、調湿作用、脱臭作用、抗かび作用、さらにホルムアルデヒド吸着作用を有すると記載されている。また、ホタテ貝殻粉の組成は天然消石灰とほぼ同等であること、ホタテ貝殻粉末入りタイルは、曲げ強度が12〜45N/cmを有し、壁用の内装タイルとして十分な強度を備えていることなどが記載されている。
【0006】
特許文献4には、漆喰の主原料中に殻の粉末を混入した漆喰が提案されており、殻の粉末とは、貝、卵、珊瑚等の外殻を焼いて粉末にしたものであり、殻はカキ貝が最適であるとされる。そして、この殻は、消石灰になじみ結合力に寄与するので、原料全体の粘稠性、強靱性を増強すると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006-104039号公報
【特許文献2】特開2000-72520号公報
【特許文献3】特開2007-284294号公報
【特許文献4】特開昭54-13537号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
漆喰は、気硬性を有するので長時間をかけて高い強度・硬度を発揮するものであるとされ、これが容認されているが、強度発現性に優れ、早期に所定の強度・硬度を発揮するならば、さらに広い漆喰の使用・用途の拡大が望まれる。しかしながら、漆喰の強度発現性の改善について記載する先行技術は少なく、特許文献1に強度発現性を著しく改善した漆喰用組成物を提供すると記載があるも、そのデータや説明は特になく、漆喰用組成物の強度発現性がどの程度改善されたのかは明確でない。
【0009】
また、特許文献1に記載された漆喰用組成物はγ型2CaO・SiO2を要し、特許文献2に記載されたしっくい系接着硬化材は珪酸アルカリ成分やアルカリ土類金属塩を要するなど特殊の成分を要するという問題がある。
【0010】
特許文献3に記載された漆喰材料、特許文献4に記載された漆喰は、漆喰の主成分であるカルシウム成分を現状では大量に廃棄されているホタテ貝やカキ等の貝殻を焼成して得られる生石灰を基にしており資源保護、経済性の観点から望ましい。しかしながら、特許文献3に記載された漆喰材料は、ホタテ貝殻粉末の細かい区分のふるいを要するという問題があり、その強度や強度発現性はどの程度であるのかが明確でない。特許文献3に記載された漆喰に関しては、その強度や強度発現性についての記載はない。
【0011】
本発明は、このような漆喰の使用・用途の拡大の要請、従来の問題点に鑑み、強度発現性に優れ、曲げ強度や圧縮強度を高めた漆喰材料及び漆喰の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る漆喰材料は、生石灰及び/又は消石灰、細骨材を主要成分とする漆喰材料であって、該漆喰材料と高Caイオン含有水溶液とを含んでなる。
【0013】
上記発明において、高Caイオン含有水溶液は、重量百分率濃度で生石灰及び/又は消石灰を酸性水溶液に0.6〜2.0%溶解させたものであるのがよい。
【0014】
上記発明において、前記酸性水溶液は酢酸水溶液であるのがよい。
【0015】
また、上記発明において、生石灰及び/又は消石灰は、カキ殻を900〜1200℃で焼成したものを使用することができ、細骨材として、石灰製砂を使用することができる。
【0016】
本発明に係る漆喰の製造方法は、強度発現性に優れた漆喰の製造方法であって、生石灰及び/又は消石灰、細骨材を主要成分とする漆喰材料と高Caイオン含有水溶液とを混練することにより実施することができる。
【0017】
また、本発明に係る漆喰の製造方法は、強度を高めた漆喰の製造方法であって、生石灰及び/又は消石灰、細骨材を主要成分とする漆喰材料と高Caイオン含有水溶液とを混練することにより実施することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、優れた強度発現性を有する漆喰を提供することができ、また、漆喰の曲げ強度、圧縮強度を高めることができ、漆喰壁の表面強度、剥落強度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】Caイオン水濃度と曲げ強度及び圧縮強度との関係を示すグラフである。
【図2】中性化試験の一例を示す写真である。
【図3】Caイオン水濃度と炭酸化率の関係を示すグラフである。
【図4】Caイオン水濃度、炭酸化率と曲げ強度又は圧縮強度との関係を示すグラフである。
【図5】Caイオン水濃度、Caイオン水量と曲げ強度との関係を示すグラフである。
【図6】剥落試験体の形状を示す説明図である。
【図7】剥落試験体の負荷状況を示す説明図である。
【図8】Caイオン水濃度、Caイオン水量と剥落荷重との関係を示すグラフである。
【図9】Caイオン水濃度とフロー量との関係を示すグラフである。
【図10】材齢、Caイオン水濃度と乾燥収縮量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。本発明に係る漆喰材料は、生石灰及び/又は消石灰、細骨材を主要成分とする漆喰材料であって、該漆喰材料と高Caイオン含有水溶液とを含んでなる。生石灰及び/又は消石灰とは、本発明の漆喰材料はその主要成分として生石灰、消石灰又は生石灰と消石灰の混合物を使用することができることを意味する。生石灰又は消石灰の素材として、カキ殻やホタテ貝などの貝殻を焼成したものを使用することもできる。細骨材は、特に限定されないが、山砂、川砂や石灰製砂などを使用することができる。高Caイオン含有水溶液は、本発明において特に限定するものであり、以下に説明する。なお、本漆喰材料において、上記成分の他、漆喰において一般に使用される麻の繊維や藁の繊維(すさ)、草本や海藻から得る接着剤又は合成樹脂からなる接着剤等を使用することができる。
【0021】
公開されているデータ(例えば、http://www.takenet-eco.co.jp/pages/jitsurei/sokai_senjo.html、http://www.questions.gr.jp/chem/odoroki1.htm)によると、生石灰(CaO)や消石灰(Ca(OH)2)は、重量百分率濃度で純水に0.2%程度溶解するとされる。本発明においては、CaOやCa(OH)2が0.2%よりもさらに多く溶解したものを使用する。このため、例えば、先ずCaOを溶解させやすい酢酸水溶液などに溶解させた原液を製造する。そして、これを水に希釈した水溶液を製造し、この水溶液を生石灰、細骨材などの漆喰材料に加えて混練を行う。この混練に使用される水溶液は、Caイオンが高い濃度で存在する。このため、本発明においては、高Caイオン含有水溶液と呼ぶ。すなわち、本発明においては、高Caイオン含有水溶液を使用して漆喰材料の混練を行う。なお、水は特に限定されず、上水、イオン水又は純水などいずれであってもよい。
【0022】
高Caイオン含有水溶液は、例えば、10%酢酸水溶液を用いると重量百分率濃度でCaOを常温で2%程度溶解させることができる。本発明においては、CaO及び/又はCa(OH)2を0.6〜2.0%溶解させた高Caイオン含有水溶液を使用するのが好ましい。なお、CaOやCa(OH)2の溶解が困難である場合は、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)を添加することができる。また、酢酸水溶液以外にクエン酸水溶液、ギ酸水溶液などの酸性水溶液を用いて、CaO及び/又はCa(OH)2を溶解させてもよい。但し、溶解能力等を考えれば酢酸水溶液が好ましい。また、使用に際し、高Caイオン含有水溶液のpHを調整することもできる。
【0023】
高Caイオン含有水溶液の製造の際に使用するCaO及び/又はCa(OH)2は、特定のCaO及び/又はCa(OH)2に限定されるものではなく、後述の実施例で示すように900〜1200℃で焼成したカキ殻粉末を使用することができる。カキ殻に代え、他の貝殻を焼成し使用することもできる。
【0024】
本漆喰材料は、生石灰や細骨材等の成分及び高Caイオン含有水溶液を個別に在庫しておき、使用時にこれらを混練して使用するものであってもよく、また、予め生石灰や細骨材等の成分と高Caイオン含有水溶液を加えたものであってもよい。なお、予め生石灰や細骨材等の成分と高Caイオン含有水溶液を加えたものは、気密に梱包して保管され、使用時に練り直したうえで使用される。
【実施例1】
【0025】
生石灰及び細骨材に高Caイオン含有水溶液を加えて混練を行った漆喰から漆喰試験体を作製し、強度試験、剥落試験、フロー試験及び乾燥収縮試験を行った。試験に使用した生石灰及び石灰製砂は中山石灰工業株式会社製のものを使用した。生石灰は、粒度が0.15mm以下で組成は表1の通りであった。石灰製砂は粒度が2.5mm以下であった。細骨材は、中国産の山砂を使用した。細骨材の量は、重量で生石灰100部に対して358部であった。なお、剥落試験の場合は、細骨材に石灰製砂を使用した漆喰材料から作製した漆喰試験体についても剥落試験を行った。
【0026】
【表1】

【0027】
高Caイオン含有水溶液は以下のように作製した。すなわち、酢酸(和光純薬工業株式会社製一級、コードNo.014-00266)100gを900gの純水に加えた酢酸水溶液(10%濃度)にカキ殻を1200℃で焼成して得られた白色の粉末20gを加えて完全に溶解させた。この溶液を半日放置した後に上澄み液を採取し、これを原液として各純水に加え所定のCaイオン水濃度の高Caイオン含有水溶液を作製した。ここで、高Caイオン含有水溶液について、例えば、1%Caイオン水濃度とは、高Caイオン含有水溶液100g中にカキ殻焼成粉末が1g溶解しているものをいう。なお、本試験においては、高Caイオン含有水溶液の量が漆喰にどのような影響を与えるかを調べるために、生石灰100部に対し100部、110部、120部、130部の各種に変えた高Caイオン含有水溶液を作製して混練を行い、作製した漆喰試験体に対し種々の試験を行った。CaO粉末は、市販のCaO粉末を使用することができる。また、カキ殻の焼成温度は、900〜1200℃とすることができる。カキ殻を1200℃で焼成して得られた白色の粉末の成分分析結果を表2に示す。
【0028】
【表2】

【0029】
<強度試験>
強度試験の結果を図1〜図3に示す。図1は、漆喰試験体の曲げ強度試験及び圧縮強度試験を行った結果のグラフである。漆喰試験体は、生石灰100部に対し、Caイオン水濃度を各種変えた高Caイオン含有水溶液120部を用いて混練を行った漆喰から作製したものの28日又は90日間養生した後のものである。図1において、横軸はCaイオン水濃度、縦軸は曲げ強度又は圧縮強度を示す。図中のパラメータのB120-90とは、高Caイオン含有水溶液が120部、90日養生(材齢)の漆喰試験体の曲げ強度を示す。C120-90とは、高Caイオン含有水溶液が120部、材齢が90日の漆喰試験体の圧縮強度を示す。曲げ漆喰試験体の形状は、40×40×160mmの角柱状、圧縮漆喰試験体の形状はφ50mm×100mmの円柱状であった。養生は、気中養生で行った。漆喰試験体の作製、曲げ強度試験と圧縮強度試験及び中性化試験は、JISA1171(ポリマーセメントモルタルの試験方法)に準じた方法で行った。
【0030】
図1によると、曲げ強度及び圧縮強度ともCaイオン水濃度が高くなるほど大きく、曲げ強度及び圧縮強度は概してCaイオン水濃度に比例しているように観察される。しかしながら、曲げ強度曲線及び圧縮強度曲線を詳しく観察すると、材齢が90日の場合、曲げ強度曲線は、Caイオン水濃度が0.6%〜1.2%の範囲で階段状に上昇しており、1.2%を越えるとほぼ水平状になっている。圧縮強度曲線は、1.0%Caイオン水濃度で曲線の勾配が大きくなるが全体としてほぼ直線状をしている。しかし、1.6%を越えると勾配が小さくなっており、2.0%又は2.0%を越えると曲げ強度曲線のように水平になることも予想させる。一方、材齢が28日の場合は、2.0%Caイオン水濃度においても曲げ強度曲線及び圧縮強度曲線は右肩上がり状態であり、一定値になるようには観察されない。
【0031】
図1において、B120-90とB120-28の曲げ強度曲線を比較すると、概してB120-28曲線はB120-90曲線が右側にずれた形状をしている。例えば、B120-90曲線はCaイオン水濃度が1.0%の場合に1MPaとなり、B120-28曲線は1.2%Caイオン水濃度で1MPaとなる。すなわち、Caイオン水濃度を調整することにより漆喰試験体の強度発現性を向上させることができることが分かる。
【0032】
また、曲げ強度について、B120-28の場合は0%Caイオン水濃度において0.2MPa、B120-90の場合は0.4MPaである。これに対し、2.0%Caイオン水濃度において、B120-28の場合は2MPa、B120-90の場合は2.45MPaである。すなわち、本発明によればCaイオン水濃度を調整することにより曲げ強度を5〜10倍程度向上させることができる。一方、圧縮強度は、0%Caイオン水濃度においてB120-28の場合は0.65MPa、B120-90の場合は1.0MPaであり、2.0%Caイオン水濃度においてB120-28の場合は2.7MPa、B120-90の場合は4.8MPaである。また、本発明によればCaイオン水濃度を調整することにより圧縮強度を5倍程度向上させることができる。
【0033】
本発明によるこのような漆喰試験体の強度発現性又は強度の向上は、本発明においては漆喰中のカルシウム(Ca)成分の炭酸化、すなわちCaCO3の形成が促進されることと関係があると推測される。この漆喰中のCa成分の炭酸化について、以下に説明する。図2は、図1に示す強度試験を行った漆喰試験体(B120-90の0.6%Caイオン水濃度)の試験後の破断面をフェノールフタレインの1%アルコール溶液に浸したもの(中性化試験)の写真である。図2に示されるように、漆喰試験体の断面中央部に円形状の赤色部(一点鎖線で囲まれた部分)があり、縁部はうすい僅かに赤みがかった岩石状の破断面をしている。すなわち、漆喰試験体の中心部は、Ca(OH)2のままの(未だCaCO3化、炭酸化していない)部分であり、縁部は炭酸化していることが分かる。この炭酸化部分の面積(S)と断面の全面積(S0)との比を炭酸化率とし、漆喰試験体の炭酸化率とCaイオン水濃度との関係を示したグラフを図3に示す。
【0034】
図3は、横軸がCaイオン水濃度、縦軸が炭酸化率を示す。図3において、パラメータは、高Caイオン含有水溶液の量と材齢を示す。例えば、120-28曲線は、生石灰100部に対して高Caイオン含有水溶液が120部、材齢が28日の漆喰試験体の炭酸化率を示す。図3によると、各炭酸化率曲線はいずれもほぼ勾配が同じ直線状をしており、炭酸化率はCaイオン水濃度と比例関係を有していることが分かる。また、120-28曲線の場合は2.0%Caイオン水濃度で100%炭酸化率、120-90曲線の場合は0.6%Caイオン水濃度で100%炭酸化率になることが分かる。
【0035】
図4は、図1及び図3のデータを基に、材齢90日の曲げ強度及び圧縮強度と炭酸化率との関係を示したグラフである。図4において、横軸はCaイオン水濃度、縦軸は炭酸化率、曲げ強度又は圧縮強度を示す。図4によると、曲げ強度曲線及び圧縮強度曲線は0〜1.0%Caイオン水濃度の範囲において直線状であり、炭酸化率曲線は0〜0.6%のCaイオン水濃度範囲において直線状で0.6%Caイオン水濃度で100%に達している。これらの曲線を比較すると、曲げ強度又は圧縮強度は炭酸化率と比例関係があるといえ、曲げ強度曲線及び圧縮強度曲線の勾配は、炭酸化率曲線の勾配より小さい。また、曲げ強度及び圧縮強度は、炭酸化率が100%に達した0.6%以上のCaイオン水濃度においてもなお増大していることが分かる。
【0036】
図5は、生石灰100部に対して、110部、120部又は130部の高Caイオン含有水溶液を用いて混練を行った漆喰から作製した漆喰試験体であって、材齢90日の漆喰試験体の曲げ強度試験の結果を示す。図5において、横軸はCaイオン水濃度、縦軸は曲げ強度、パラメータは図1と同様の表示を示す。図5によると、B110-90及びB120-90の曲げ強度曲線は、ともに1.4%以上のCaイオン水濃度においてほぼ一定値となり、その値は、B110-90曲線の場合は5MPa、B120-90曲線の場合は3MPaである。これに対し、B130-90の曲げ強度曲線は0〜2.0%Caイオン水濃度において、右肩上がりのほぼ直線状であり、曲げ強度は2.0%Caイオン水濃度において2MPaである。これらの曲げ強度曲線を比較すると、本漆喰材料において高Caイオン含有水溶液の量は使用目的に応じて最適な量があることが推測される。
【0037】
<剥落試験>
剥落試験は、剥落試験体に剪断荷重を負荷し、その両面に塗布された漆喰が剥落したときの剪断荷重の大きさ(剥落荷重)を求めることにより行った。
剥落試験体は、図6に示すように、板材2350×250mm×50mmの両表面に幅30mm×厚さ15mmの角材を45mmのピッチで打ち付けて格子状にした芯材の両表面に厚さ20mmの漆喰を塗布したものを用いた。この剥落試験体に図7に示すように荷重を250N刻みに負荷し、ひび割れが生じた荷重を剥落荷重とした。
【0038】
剥落試験の結果を図8に示す。図8において、横軸はCaイオン水濃度、縦軸は剥落荷重、パラメータは高Caイオン含有水溶液の量を示す。110−石灰製砂と有るのは、生石灰100部、山砂の代わりに石灰製砂358部、高Caイオン含有水溶液110部を用いて混練を行った漆喰から作製した剥落試験体の剥落試験結果を示す。各剥落試験体の材齢は、28日である。図8によると、剥落荷重はCaイオン水濃度にほぼ比例しており、本発明によればCaイオン水濃度を調整することにより漆器壁の表面強度、剥落強度を高めることができることが分かる。また、高Caイオン含有水溶液の量の影響は曲げ強度の場合と異なり明確でない。110−石灰製砂曲線は、図の上側(高剥落荷重側)にあり、0%Caイオン水濃度でも高い剥落荷重を有していることが分かる。
【0039】
<フロー試験>
フロー試験は、JISR5201(セメントの物理試験方法)のフロー試験に基づいて行った。生石灰100部に対し、高Caイオン含有水溶液120部を用いて混練を行った漆喰のフロー試験を図9に示す。図9において、横軸はCaイオン水濃度、縦軸はフロー量、パラメータは落下運動付与前(S)と落下運動付与後(E)のフロー量を示す。図9に示すように、フロー量はCaイオン水濃度に比例しているように観察されるが、少なくともフロー量は低Caイオン水濃度よりも高Caイオン水濃度で高くなっていることが分かる。
【0040】
<乾燥収縮試験>
乾燥収縮試験は、40×40×160mmの角柱状の試験体に埋め込んだ金属チップの間隔をコンタクトゲージで計測し、その経時変化(乾燥収縮量)を求めることにより行った。生石灰100部に対し、高Caイオン含有水溶液120部を用いて混練を行った漆喰の乾燥収縮試験結果を図10に示す。図10において、横軸は材齢、縦軸は乾燥収縮量、パラメータはCaイオン水濃度を示す。図10によると、0〜2.0%Caイオン水濃度において、乾燥収縮量は10日材齢以降一定になることが分かる。また、Caイオン水濃度が高いほど乾燥収縮量は大きく、乾燥収縮量が一定値となる材齢日数は長くなることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生石灰及び/又は消石灰、細骨材を主要成分とする漆喰材料であって、該漆喰材料と高Caイオン含有水溶液とを含むことを特徴とする漆喰材料。
【請求項2】
前記高Caイオン含有水溶液は、重量百分率濃度で生石灰及び/又は消石灰を酸性水溶液に0.6〜2.0%溶解させたものであることを特徴とする請求項1に記載の漆喰材料。
【請求項3】
前記酸性水溶液が酢酸水溶液であることを特徴とする請求項1又は2に記載の漆喰材料。
【請求項4】
前記生石灰及び/又は消石灰は、カキ殻を900〜1200℃で焼成したものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の漆喰材料。
【請求項5】
前記細骨材は、石灰製砂であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の漆喰材料。
【請求項6】
強度発現性に優れた漆喰の製造方法であって、
生石灰及び/又は消石灰、細骨材を主要成分とする漆喰材料と高Caイオン含有水溶液とを混練することを特徴とする漆喰の製造方法。
【請求項7】
強度を高めた漆喰の製造方法であって、
生石灰及び/又は消石灰、細骨材を主要成分とする漆喰材料と高Caイオン含有水溶液とを混練することを特徴とする漆喰の製造方法。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−121770(P2012−121770A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−274557(P2010−274557)
【出願日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【特許番号】特許第4843733号(P4843733)
【特許公報発行日】平成23年12月21日(2011.12.21)
【出願人】(000125347)学校法人近畿大学 (389)
【出願人】(510325031)株式会社建築舎ゆわんと村 (1)
【Fターム(参考)】