漏油遠隔監視装置および方法
【課題】照明や太陽光等のノイズ光のある環境下において、汎用的な機器類により高SNで油の漏洩を遠隔検出することができる漏油遠隔監視装置及び方法の提供。
【解決手段】光の照射により蛍光を発する油の漏洩をリアルタイムで検出する装置であって、監視対象領域をトリガー信号に基づき連続的に撮像する可視光カメラと、可視光カメラによる撮像画像を記憶する記憶手段と、可視光カメラの受光素子に不感の波長の励起光を動作信号に基づき照射する光照射手段と、可視光カメラのシャッター時間幅及びタイミングを決定するトリガー信号、並びにトリガー信号と同期した照射タイミング及び時間幅を決定する動作信号を発生する制御部と、励起光照射時の撮像画像と励起光非照射時の撮像画像の差分画像を取得し、記憶手段に記憶する差分処理手段と、差分画像における輝度の変化に基づいて油の漏洩を判定する判定手段を備えた漏油遠隔監視装置及びその方法。
【解決手段】光の照射により蛍光を発する油の漏洩をリアルタイムで検出する装置であって、監視対象領域をトリガー信号に基づき連続的に撮像する可視光カメラと、可視光カメラによる撮像画像を記憶する記憶手段と、可視光カメラの受光素子に不感の波長の励起光を動作信号に基づき照射する光照射手段と、可視光カメラのシャッター時間幅及びタイミングを決定するトリガー信号、並びにトリガー信号と同期した照射タイミング及び時間幅を決定する動作信号を発生する制御部と、励起光照射時の撮像画像と励起光非照射時の撮像画像の差分画像を取得し、記憶手段に記憶する差分処理手段と、差分画像における輝度の変化に基づいて油の漏洩を判定する判定手段を備えた漏油遠隔監視装置及びその方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽光等の外乱光の存在下において各種プラントやボイラー等の機器類における油漏れを遠隔検出する技術に関し、より具体的には、汎用的な可視光カメラにより光の照射時の監視領域の画像と非照射時の監視領域の画像を得て、これらの差分画像における輝度の変化により油漏れをリアルタイムで遠隔検出する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
プラント内などの機器類からの油漏れを検出するには、作業員が巡回して機器の漏油を目視により検査する方法、漏油予想箇所下部に大きな皿状のオイルパンを設置し、このオイルパンに漏油が溜まることを確認する方法、漏油をオイルピットに集めて、油の浸透により静電容量や抵抗が変化することを利用して検出する方法、あるいはプラント内に検出素子である光ファイバケーブルを敷設して、機器から漏洩した油が流れ落ちて上記光ファイバケーブルに接触すると、透過光強度が変化することを利用して漏油を検出する方法などの方法が知られている。
【0003】
しかしながら、巡回による機器の目視検査による油漏れ検出では、作業員が検査できない場所があったり、漏油の発見に個人差が生じて、また監視には人手がかかるため常時の監視はできない。オイルパンやオイルピットにおける油の蓄積から漏油を検出する方法では、油漏れの早期検出および油漏れ箇所を正確に特定することは不可能である。さらに、光ファイバケーブルを用いた方法では、漏洩した油が光ファイバケーブルに接触する必要があり、漏れる油の厳密な場所の特定や漏油状況の正確な把握などに問題点がある。
【0004】
また、照明や太陽光などの外乱光を遮蔽したいわゆる暗室内で油に紫外線などを照射することで油からの蛍光を検知し、これにより油漏れを検出する方法がある(特許文献3の段落[0004]参照)。しかし、この方法は、太陽光、蛍光灯などによる外乱を除去するため、検査対象であるエンジンおよび油検出装置を暗室内に設置するとともに、紫外線照射によって検知する油の蛍光波長と重ならないように紫外線領域のみをエンジンに照射しなければならないという問題がある。
【0005】
照明や太陽光などの外乱光がある場所でも、漏油を検出可能な技術としては次のものがある。
特許文献1には、通常照明下での漏油の検出を可能とする検出方法として、蛍光と吸光の両現象を同時に利用した検出方法であり、紫外線と可視光を交互に試料面に照射し、得られた画像の差分をとることにより、プラント内の配管や機器からの油漏れを検出する方法が開示されている。
【0006】
特許文献2には、建物の外などで照明や太陽光などが遮蔽できないノイズ光の環境であっても、油などの検出対象から発する蛍光を高SNで観測して被検査体からの漏洩を検出することができる漏洩検出装置を提供するものであって、直線偏光のレーザー光を被検査体に照射する照射手段と、この照射手段による直線偏光のレーザー光照射により発する偏光蛍光に対して偏光蛍光の偏光を選択して観測する偏光選択手段と、偏光が選択された偏光蛍光に対して偏光蛍光の波長を選択して観測する分光手段と、偏光および波長が選択された偏光蛍光の画像を撮像し、漏洩を画像化して検出する撮像手段を備える油漏れ検出装置が開示されている。
【0007】
特許文献3には、蛍光灯や太陽光線、白熱電球などの外乱光条件に応じて適宜、波長選択素子の透過波長を選択することにより検出場所や設置場所が制限されない油検出装置であって、検出対象とする油の吸収波長を含む光を放出し、漏油を励起して蛍光させるパルス光照射装置と、このパルス光照射装置により蛍光された漏油の蛍光波長を選択する波長選択素子と、パルス光照射装置により漏油が蛍光を発している時間のみを選択して観測する光検出装置とを備えた油検出装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平8−128916号公報
【特許文献2】特開2007−101228号公報
【特許文献3】特開平9−304281号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来の接触型センサを設置してスポットで監視する方法においては、広範囲のオイル漏れを一度に検出するために配管周りに多数のセンサを設置しなくてはならず、また漏れる油の厳密な場所の特定や漏油状況の正確な把握はできなかった。
【0010】
特許文献1に記載される技術によれば、照明下で漏油を検出することができるが、太陽光下において漏油を検出することはできなかった。また、紫外光と可視光を交互に切り換えて照射する必要があるため、装置構成が複雑になるという問題があった。
特許文献2および3に記載される技術によれば、太陽光下でも油を検出することができる。しかし、特許文献2に記載される技術においては、検出環境下の存在物質に応じてレーザー光の波長を適宜選択する必要があり、しかも検出される偏光蛍光は微弱であるため、短時間で変化する太陽光下において高精度の検出を行うことは困難であった。
特許文献3に記載される技術においては、照明や太陽光等のノイズ光を除去するためにイメージインテンシファイア等な高価な機器が必要となるが、プラント等の広い敷地内を監視するためには多数の機器を配置する必要があるため、安価で汎用的な機器類で構成した漏油遠隔監視装置が求められていた。
【0011】
本発明は上述した課題を解決するためになされたものであり、照明や太陽光等のノイズ光のある環境下において、汎用的な機器類により高SNで油の漏洩を遠隔検出することができる漏油遠隔監視装置および方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
発明者は、防犯等のために遠隔監視に用いられている可視光カメラ(例えば、CCD、CMOS型イメージセンサなどの固体撮像素子を備えたデジタルビデオカメラ)を用いて漏油遠隔監視装置を構成できないかを検討した。ここで、照明や太陽光等のノイズ光を除去するためにイメージインテンシファイア等を付加すれば比較的容易に漏油を検出することが可能であるが、各種プラントや大規模工場のように配管周りに多数の監視装置の設置が必要な場所での利用には適さない。そこで、発明者は、汎用的な可視光カメラにおいて、選択された波長の励起光を所定のタイミングで照射することで外乱の影響を排除できるのではないかと考え、本発明の創作をなした。すなわち、本発明は以下の技術手段から構成される。
【0013】
[1]光の照射により蛍光を発する油の漏洩をリアルタイムで検出する漏油遠隔監視装置であって、監視対象領域をトリガー信号に基づき連続的に撮像する可視光カメラと、可視光カメラによる撮像画像を記憶する記憶手段と、可視光カメラの受光素子に不感の波長の励起光を発光動作信号に基づき照射する光照射手段と、可視光カメラのシャッター時間幅およびタイミングを決定するトリガー信号、並びにトリガー信号と同期した照射タイミングおよび時間幅を決定する発光動作信号を発生する制御部と、励起光照射時の撮像画像と励起光非照射時の撮像画像の差分画像を取得し、記憶手段に記憶する差分処理手段と、差分画像における輝度の変化に基づいて油の漏洩を判定する判定手段を備えたことを特徴とする漏油遠隔監視装置。
[2]上記の光照射手段が、連続する偶数コマと奇数コマのいずれかのトリガー信号と同期して励起光を照射することを特徴とする[1]に記載の漏油遠隔監視装置。
[3]上記の光照射手段の光源が、レーザー装置、LED、ランプから選択されることを特徴とする[1]または[2]に記載の漏油遠隔監視装置。
[4]上記の可視光カメラが、カラーカメラであることを特徴とする[1]ないし[3]のいずれかに記載の漏油遠隔監視装置。
[5]屋外用であることを特徴とする[1]ないし[4]のいずれかに記載の漏油遠隔監視装置。
[6]光の照射により蛍光を発する油の漏洩をリアルタイムで検出する漏油遠隔監視する方法であって、制御部により可視光カメラのシャッター時間幅およびタイミングを決定するトリガー信号、並びにトリガー信号と同期した照射タイミングおよび時間幅を決定する発光動作信号を発生し、監視対象領域を可視光カメラによりトリガー信号に基づき連続的に撮像しながら、可視光カメラの受光素子に不感の波長の励起光を発光動作信号に基づき照射し、励起光照射時の撮像画像と励起光非照射時の撮像画像の差分画像を取得し、差分画像における輝度の変化に基づいて油の漏洩を判定することを特徴とする漏油遠隔監視方法。
[7]連続する偶数コマと奇数コマのいずれかのトリガー信号と同期して励起光を照射することを特徴とする[6]に記載の漏油遠隔監視方法。
[8]上記の監視対象領域が複数の監視対象領域からなり、かつ屋外を含むことを特徴とする[6]または[7]に記載の漏油遠隔監視方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、照明や太陽光等のノイズ光のある環境下においても、可視光カメラを利用して漏油を広範囲に亘り連続的に遠隔監視することが可能となる。さらにいえば、既設の監視用カメラを利用して漏油をリアルタイムで遠隔検出することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】波長が異なる各種光源からの光線を照射した際の燃料オイルの蛍光スペクトルを示すグラフである。
【図2】波長532nmのレーザー光により励起した石英セルと燃料オイルの蛍光スペクトルを示すグラフである。
【図3】波長532nmのレーザー光照射時の燃料オイルのラマン散光特性を示すグラフである。
【図4】波長375nmのLED光照射時の燃料オイルの励起蛍光スペクトルを示すグラフである。
【図5】波長532nmのレーザー光照射時の燃料オイルの励起蛍光スペクトルを示すグラフである。
【図6】波長375nmのLED光照射時の油膜厚と蛍光強度の関係を示すグラフである。
【図7】波長532nmのレーザー光の照射時の油膜厚と蛍光強度の関係を示すグラフである。
【図8】大気に曝した燃料オイルの蛍光の径時変化を示すグラフである。
【図9】レーザー光と太陽灯の照射時と、太陽光だけの照射時の燃料オイルの励起蛍光スペクトルを示すグラフである。
【図10】図9の蛍光スペクトルの差分とレーザー光照射時の蛍光スペクトルを示すグラフである。
【図11】本発明における蛍光画像取得時の演算処理フローの一例である。
【図12】実施例1に係る漏油遠隔検出装置の概要構成図である。
【図13】(a)レーザー光照射時間とCCDカメラでの撮像時間を最短シャッター時間で同期した信号波形と、(b)(a)の拡大図である。
【図14】(a)レーザー光照射時間とCCDカメラでの撮像時間を最長シャッター時間で同期した信号波形と、(b)(a)の拡大図である。
【図15】制御部における信号発生、分周、パルス幅制御の回路図とタイムチャートである。
【図16a】レーザー光非照射時の燃料オイルの撮像画像である。
【図16b】レーザー光照射時の燃料オイルの撮像画像である。
【図17】実施例2に係る画像処理のフローである。
【図18a】レーザー光非照射時の燃料オイルの撮像画像である。
【図18b】レーザー光照射時の燃料オイルの撮像画像である。
【図18c】レーザー光照射時画像(図18a)と照射時画像(図18b)の差分画像である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下では、燃料オイル(坂出発電所供給品)の例により、本発明の漏油遠隔監視装置を構築するために必要となる光学的な基礎的データ類の取得および検討結果を説明する。
[1]燃料オイルの吸光・反射特性
燃料オイル漏れを監視用カメラで捉えるためには、燃料オイルの吸光と発光特性を測定し、その特性を把握することが必要となる。そこで、燃料オイルを分析用石英セルに注入し、分光光度計を用いて、吸光度と反射率の分光特性を測定した。より詳細には、分析用石英セル(日本石英硝子社製)に燃料オイル(坂出発電所供給品)を注入し、硫酸バリウム粉末をリファレンスとして、紫外線から近赤外線領域の吸光度と反射率を測定した。その結果、燃料オイルは紫外線領域から近赤外線領域の光を90%以上吸収してほぼ黒色を呈すること、また波長に対して特徴な吸収は見られないことが確認できた。これにより、燃料オイルは波長に対して特異な吸収を示さないため、可視光領域の分光測定ではその存在を特定することはできないことが分かった。
【0017】
[2]燃料オイルの蛍光特性
分析用石英セル(日本石英硝子社製)に入れた燃料オイル(坂出発電所供給品)に、紫外線(254nmあるいは365nm:4W水銀ランプ)とグリーンレーザー光(532nm:1mW)を照射して蛍光スペクトルを分光器で測定した。分光測定条件は、スリット幅5μm、露光時間10ms、積算回数100回である。分光測定における励起光の遮光には、紫外線励起の場合は吸収式長波長透過フィルター(シャープカット色ガラスフィルター)を使用し、レーザー光励起の場合は干渉式レーザー光遮断フィルター(ホログラフィック・ノッチフィルター)を使用した。その測定結果の蛍光スペクトルを図1に示す。図1から、紫外線励起における蛍光は可視光領域の全波長で観測され、450〜500nmの波長域で比較的強いこと、レーザー励起における蛍光は550〜700nmで観測され580nm近傍にピークを持つことが分かる。なお、レーザー励起蛍光スペクトルの532nmにおけるピークはレーザーの迷光である。
図1の測定結果は、石英セルを通して光線を燃料オイルに照射して得られたものであるため、石英セルの蛍光やラマン散乱光の影響を調べるべく石英セルとオイルの発光を測定した。その結果を図2に示す。図2から、(1)試料が無い場合(AIR)は何も観測されず、(2)空の石英セル(CELL)ではレーザーの迷光が観測され、(3)石英セルにオイルを注入した場合(OIL)は550nmよりも長波長で蛍光が観測されることが確認できる。このことから、燃料オイルの蛍光は550〜700nmで観測され580nm近傍にピークを持つことが判明した。このように、燃料オイルは光照射によって蛍光を発するが、その蛍光スペクトルは可視光波長域全般にわたって観測され、その強度は波長によって異なることから、可視光領域の分光測定(RGBカメラも同様)でその存在を検出できる可能性があることが分かる。
表1に、燃料オイルに対する照射光の波長と発した蛍光の波長の一例を示す。
【0018】
【表1】
【0019】
[3]燃料オイルのラマン散乱光特性
図3は、燃料オイル表面に785nmのレーザー光を照射したときの発光スペクトルと、532nmのレーザー光を照射したときの発光スペクトル(図1の横軸を波数表示したもの)を示すグラフである。図3に示す発光スペクトルは、蛍光とラマン散乱光が重重して現れており、785nmと532nm励起ともにほぼ同じ波数に分子構造のピークが現れている。因みに、図3に示すラマン散乱光のスペクトル分布は有機系の固体によく見られる形状であり、燃料オイルが高濃度の有機物質であることを示唆している。
また、図3中、ラマン散乱光の強度(図中の凹凸)は蛍光強度に比べて10%以下である。燃料オイルにレーザー光を照射するとラマン散乱光が蛍光に重重して観測されるが、その強度は蛍光強度よりも小さい。ラマン散乱光波長は含有物質の分子結合に起因するが、多種成分の混合物である燃料オイルについては特徴的なピークを特定することはできない。
【0020】
[4]オイルの厚さと蛍光強度および蛍光強度の経時変化
図4は、阿南PS燃料重油(S:0.16%、SG:0.9182)に波長375nm、照射強度140mWのLED光を照射した際の蛍光スペクトル強度を示すグラフである。図5は、同じ燃料重油に波長532nm、照射強度1mWのレーザー光を照射した際の蛍光スペクトル強度を示すグラフである。図4のスペクトル形状からは蛍光は450nm近傍が強いことが分かり、図5のスペクトル形状からは532nm励起では580nm近傍が強いことが分かる。
LED、レーザーのいずれの光源でも発光する波長550nmと580nmについて、燃料オイルの厚さに対する蛍光強度を図6および図7に示す。
励起光源波長375nm(図6)、532nm(図7)のいずれにおいても、油膜厚が0.4mm以上では蛍光強度が飽和することが確認された。前記[1]で検討したように、燃料オイルは吸光度が高く、蛍光の発生は極浅い部分に限定されるからであると考えられる。
大気に曝した燃料オイルの蛍光の経時変化を図8に示す。励起光源はLED(375nm)であり、蛍光強度は520nm±5nmの強度を410nm±5nmの強度で除した比率である。燃料オイルの蛍光は乾燥すると弱くなることが確認された。図8から、漏洩から約2時間以内に燃料オイルの検出することが好ましいことが分かる。なお、蛍光強度の分布を検討することにより、強い蛍光を発する面積に対応する箇所が新しく漏洩した箇所に対応していることを判定してもよい。
【0021】
[5]太陽光とレーザー誘起蛍光の対比
野外にあるプラント類の油漏洩を検出は、屋外用の防滴型または防雨型の可視光カメラを用いて行うことができるが、太陽光による影響が問題となる。そこで、100W太陽灯(XC−100;セリック社)の光を55cmの距離から照射してレーザー誘起蛍光測定を行った。試料は燃料重油(S:0.16%、SG:0.9182)を使用し、油膜厚は1mmである。また、励起レーザー光は波長532nm、照射強度1mWである。
図9に太陽灯とレーザーの同時照射した場合の蛍光強度(上方曲線)、太陽灯だけを照射した場合の蛍光強度(下方曲線)を示す。図9から、太陽光が当たっている場合でも、レーザー光照射における蛍光は優位性をもって観測できることが確認できた。
図10に、太陽光・励起光を同時照射した場合の蛍光強度から太陽灯だけを照射した場合の蛍光強度を差し引いた値(差分)と、レーザー光だけを照射した場合の蛍光強度を示す。図10から、太陽光・励起光同時照射時と太陽光のみ照射時の差分を求めることで、太陽光の影響を排除することが可能であることが確認できた。
【0022】
[6]燃料オイルの光学的特性測定結果および本発明の創作
前記[1]ないし[5]における燃料オイルの特性検討結果から以下のことが判明した。
燃料オイルは、前記[1]で述べたように、紫外線領域から近赤外線領域に吸収を示し、この吸収したエネルギーによって前記[2]および[3]で述べた蛍光やラマン光を発する。しかし、燃料オイルのラマン散乱光については、蛍光に重重して観測され、その強度は蛍光強度よりも小さいため、オイルを特定できる明確な発光ピークが観測できない。また、燃料オイルの吸収は紫外線領域から近赤外線領域にわたっており、特徴的な吸収バンドは認めなれないため、吸収分光測定では燃料オイルの存在を検出できない。他方で、発明者は、燃料オイルの反射率は低く黒色に見えることから、周辺との輝度の違いでその存在を検出できる可能性があることの知見を得た。すなわち、発明者は、燃料オイルの蛍光スペクトルは可視光波長域全般にわたって観測され、その強度が波長によって異なることから、可視光領域の分光測定(RGBカメラも同様)でその存在を検出できる可能性があると考え、本発明をなした。
可視光カメラ(例えば、シリコン系CCDカメラと一般的なカメラレンズ)で観察できる400nm〜700nmの波長範囲で、燃料オイルを検出するために、次の手法を用いることが考えられる。
(1)燃料オイルと周辺の輝度の違いを観測する。
(2)レーザー照射による発光強度(誘起蛍光とラマン散乱光の合計)を異なる観測波長で測定する。
(3)レーザー光を照射した場合と照射していない場合の差分を求める。
ここで、(1)の輝度の違いを利用する手法については、照明や太陽光の影響(入射角度や強度)を受けるため、実運用は難しいと考えられる。また、(2)(3)のレーザー誘起蛍光(ラマン光も含む)を利用する手法については、照射レーザー波長の選択(カメラが不感の波長を選ぶ)と観測波長の選択(カメラのRGB感度との兼ね合い)により実用化の可能性がある。
【0023】
発明者は、鋭意検討の結果、一般的な可視光カメラにより外乱環境下で漏洩した燃料オイルを検出することを可能とした。すなわち、本発明は、一般的な可視光カメラの受光素子に不感の波長の励起光を照射して監視エリアを照らし、漏油の蛍光を観測することを本質とし、より詳細には次の手順により外乱環境下での漏油の検出を行う。
(ア)カメラ撮影と同期して1コマおきに特定波長の励起光を所定の時間(例えば、10ミリ秒間程度)照射し、励起光が当たった画像(Gn)の輝度から励起光が当たっていない画像(Gn+1)の輝度を差し引いて、外乱光の影響を排除する(例えば、一般的なCCDセンサの場合、2コマで60ミリ秒程度なので、太陽光の変化も無視できる)と共にオイルの蛍光画像を取得する。なお、監視領域の撮影はカメラを固定して行えば足りる。
(イ)最新の蛍光画像(Gn)を1つ前の蛍光画像(Gn−2)の輝度、面積を比較し、輝度あるいは面積の増加があればオイル漏れと判断する。
(ウ)前記(ア)(イ)の画像を記憶装置に連続的に記録することにより、過去の画像を呼び出して現在の画像と比較することにより、漏洩開始時間や漏洩量等を分析することができる。
【0024】
本発明での油漏れ検出を実施する処理フローの一例を図11に示す。例えば、画像取得においては、奇数コマ(フレーム)では励起光を照射しない監視領域の画像(G1、G3、G5…)を撮影し、偶数コマでは励起光を照射して励起蛍光が発生した監視領域の画像(G2、G4、G6…)を撮影し、両画像の差分から油漏れを判定することができる。
表2に励起光源(レーザー光源)の照射のタイミングと、コマ番号の関係の一例を示す。表2では奇数コマではレーザー装置をOFFとし、偶数コマでレーザー装置をONとし、奇数コマと偶数コマの差分処理を行って漏油の判別を行っている。このように、表2ではレーザー光を照射時の検査領域画像および非照射時の検査領域画像を取得し、両画像の差分がない場合には油漏れはないものと判断して演算画像は消去し、差分があるときにはその面積を算出して演算画像を記録すると共に油漏れの警報を発する。監視員は過去の差分画像との比較を行うことにより、油漏れがあったことを確実に判断すると共に算出面積に基づき漏油の拡大状況を確認することができる。
【0025】
【表2】
【0026】
励起光源は、油に照射したときに蛍光を発する波長の光を発するものであれば任意のものを用いることができる。しかし、可視光カメラで漏油の遠隔検出を行う場合、励起光源の波長は可視光カメラに不感で蛍光が観測できる組み合わせのものを利用することが好ましい。具体的に例示すれば次の組み合わせが考えられる。
(1)光源に473nmのレーザー光を使用した場合、カラーカメラの赤(R)の信号を用いて蛍光の強度を測定して、漏油の有無を判別することができる。
(2)光源に375nmや365nmのLEDあるいは355nmのレーザーを使用した場合、カラーカメラの青(B)や緑(G)の信号を用いて蛍光の強度を測定して、漏油の有無を判別することができる。
(3)光源にHgランプを用いた場合、カラーカメラの緑(G)や赤(R)の信号を用いて蛍光の強度を測定して、漏油の有無を判別することができる。
(4)白黒カメラの場合、レンズを透過しない380nm以下の光源を利用するか、あるいは光源の波長をカットする超波長透過フィルターを通して観測する。
なお、カラーカメラの波長感度特性(フィルター特性)はメーカーによって異なるため、カメラ毎に具体的な組み合わせを決める必要がある。
【0027】
以下では、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0028】
[装置構成]
本実施例の漏油遠隔検出装置は、図12に示す如く構成され、各機器の仕様は次に示すとおりである。
レーザー装置1:波長532nm、出力1mW
CCDカメラ(可視光カメラ)3:KP−M1AN(日立国際電気)
エッジフィルタ4:波長532nm
CCDコントローラ5:ジャンクションボックス(JU−MIA)
レンズ6:25mm(F1.4)、f=150mm
音響光変調器(AOM)7:514nm用
AOMドライバ8:D−100L(HOYA)
制御部10:発振器(型番:SPG8651A)、分周器(型番:74HC4040)、パルス幅調整器(型番:74LS123)、制御用PC等
ここで、AOM7はレーザー光などを振幅変調(パルス状にも切り出し可能)するものである。本来ならレーザーやLEDを直接電気的に変調して任意のパルス時間幅の光を発生させればよいが、外部同期(CCDと同期)で変調できる装置が手元になかったため、本実施例では技術検証実験のためにAOM7を使用した。発振器からの基準信号に基づきCCDカメラ3による撮影を行い、AOM7によりCCDゲート信号(撮影トリガー信号)と同期させて一コマおきにAOMゲート信号(光源の発光動作信号)を発生させ、励起光を照射した。
【0029】
[初期設定等]
CCDカメラ3の動作モードはフィールド・オン・デマンド(ONEトリガーモード)に設定した。
レーザー装置1からのレーザー光を音響光変調器(AOM)7によってパルス状に変調し、変調光をレンズ6で拡大して燃料オイルに照射した。レーザー照射によって発生するオイルの蛍光をCCDカメラ3で観測した。CCDカメラ3のレンズ前に532nm用のエッジフィルタ4を配置して、レーザー光を減衰させた。
制御部10では、水晶振動子を用いた発振器で基準信号を発生し、分周器を用いて1/2周期を発生させ、パルス幅調整器でCCDのトリガーパルスとシャッター時間およびAOM7のゲート時間を調整した。
【0030】
[同期信号発生とパルス幅調整試験]
図13(a)は、本実施例の装置において、CCDトリガー信号とAOMゲート幅を最短に設定した場合の信号波形(発振周波数:60Hz)を示すグラフであり、(b)は(a)の拡大図である。図13に示すように、CCDトリガー信号の時間幅は0.4ms(シャッター時間:1/1000秒)であり、AOMのゲート幅(レーザー照射時間幅)は1.7msである。
図14(a)は、本実施例の装置において、CCDトリガー信号とAOMゲート幅を最長に設定した場合の信号波形(発振周波数:60Hz)を示すグラフであり、(b)は(a)の拡大図である。図14に示すように、CCDトリガー信号の時間幅は6ms(シャッター時間:1/150秒)であり、AOMのゲート幅(レーザー照射時間幅)は14msである。
【0031】
[制御部の仕様]
制御部10における信号発生、分周、パルス幅制御の回路図とタイムチャートを図15に示す。発振出力のデューティ比は1:1である。分周器の出力は2パルス入力1パルスが出力され、入力信号の同期は「↓」である。パルス幅はRCで調整される。本実施例によって測定した仕様を以下に示す。
結合タイミング:立ち下がり
周波数範囲: 0.0005Hz〜60kHz
分周率:12−Stage (Binary)
AOMゲート信号t1(ゲート幅とタイミングを決める):1.7ms(VR=0Ω)〜24ms(VR=25kΩ)(レーザー光の照射時間を可変としている)
CCDゲート信号t2(シャッター時間幅とタイミングを決める):0.4ms(VR=0Ω)〜6.0ms(VR=25kΩ)(画像取り込みレートによって露光時間(シャッター開放時間)が異なるために時間幅を可変としている)
【0032】
制御部10の動作を具体例で説明すると次のとおりである。
(ア)発振器(SPG8651A)によって画像撮影フレームレート用信号(基準信号)を発生させ、パルス幅調整器(74LS123)の片チャンネルでCCDカメラ3のシャッター時間幅を調整する。
(イ)発振器(SPG8651A)からの基準信号を分周器(74HC4040)を通して、周波数を半分にし、CCDカメラ3の1フレームおきの信号を発生させ、パルス幅調整器(74LS123)の片チャンネルで照射するレーザー光の照射時間(AOM7のゲート幅)を調整する。
(ウ)表2の例で説明すると、1コマ目にはAOM7を動作させずにCCDカメラ3により背景画像を取得し、次のコマ(2コマ目)ではレーザーを照射してCCDカメラ3により励起画像を取得する。
(エ)これを繰り返すことで、表2のレーザー照射と撮影、演算等が実現できる。
【0033】
[レーザー照射試験の結果]
本実施例の装置により、奇数コマではレーザーを照射しない背景を撮影し、偶数コマでレーザー誘起蛍光を発生させ、その差分からオイルを判別した。CCDカメラ3のシャッター時間とレーザー照射時間は共に1msである。
図16aは本実施例の装置により取得した背景画像であり、図16bはレーザー照射時の画像である。いずれも実験室内の蛍光灯照明下で取得した画像である。図16bでは燃料オイルの蛍光が明瞭に示されている。
以上に示すように、市販の可視光カメラを用いて構成した本実施例の装置により、照明光等のノイズ環境下において燃料オイルを検出可能であることが確認された。
【実施例2】
【0034】
実施例2の漏油遠隔監視装置の構成は実施例1と同様であるが、本実施例では制御部10に画像処理機構を付加した構成となっている。画像処理機構は画像入力ボード(PicoloTetra)を装着したPCにおける専用ソフトウェアでの処理により実現した。
CCDカメラ3の画像取込は30Hzで行い、1コマおきにレーザー光(波長532nm、強度1mW)を5msの照射時間で照射した。
【0035】
本実施例の装置における画像処理は、図17に示すフローにより行われる。
まず、基準信号と同期してレーザー光照射なしの奇数フレーム画像を取得し、取得した画像を表示する(図18a)。次に、レーザー光照射有りの偶数フレーム画像を取得し、取得した画像を表示する(図18b)。そして、取得した偶数フレーム画像から奇数フレーム画像を除する差分処理を行い、その結果を表示する(図18c)。制御部10は、差分画像に予め設定した閾値を超える輝度あるいは面積の増加があればオイル漏れがあると判定する。
図17では、レーザー光の照射を偶数フレームで行うこととしているが、実際には装置の初期化後、レーザー光の照射と取得フレームの関係は一義的に決まらず、レーザー光の照射が奇数フレーム、偶数フレームのいずれで行われているのかは必ずしも特定できない。そこで、本実施例では、画像差分処理は(i)奇数フレームから偶数フレームを引く、(ii)偶数フレームから奇数フレームを引く、のいずれかを選択可能とする方式とした。
以上に示すように、市販の可視光カメラを用いて構成した本実施例の装置により、照明光等のノイズ環境下においてリアルタイム(30コマ/秒)で燃料オイルを検出可能であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の漏油遠隔監視装置は、太陽光の下での屋外、蛍光灯などの照明下であっても油の漏洩を検出することができるので、室内・屋外を問わず設置が可能である。しかも、イメージインテンシファイア等を有さない一般的な可視光カメラにより撮像した画像によりリアルタイムで漏油判定ができるため、従来の監視カメラ設備をそのまま利用して漏油監視システムを構築することが可能である。広範囲にわたり多数の漏油遠隔監視装置を設置することが必要な発電プラントや化学プラント等への適用(例えば、設置箇所が数十ないし数百を超える多点モニタリング)においては、本発明の経済効果は著しく高い。
本発明で検出対象となる油は、光を照射することにより蛍光を発する特性を有するものであればいかなる種類のものであってもよいが、例えば、石油、軽油、重油、ガソリンなどの燃料オイル、潤滑油、作動油などの工業用油、食品加工上の植物油などがあげられる。
【符号の説明】
【0037】
1:レーザー装置(光源)
2:レーザー光
3:CCDカメラ
4:エッジフィルタ
5:CCDコントローラ
6:レンズ
7:音響光変調機(AOM)
8:AOMドライバ
9:遮蔽板
10:制御部
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽光等の外乱光の存在下において各種プラントやボイラー等の機器類における油漏れを遠隔検出する技術に関し、より具体的には、汎用的な可視光カメラにより光の照射時の監視領域の画像と非照射時の監視領域の画像を得て、これらの差分画像における輝度の変化により油漏れをリアルタイムで遠隔検出する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
プラント内などの機器類からの油漏れを検出するには、作業員が巡回して機器の漏油を目視により検査する方法、漏油予想箇所下部に大きな皿状のオイルパンを設置し、このオイルパンに漏油が溜まることを確認する方法、漏油をオイルピットに集めて、油の浸透により静電容量や抵抗が変化することを利用して検出する方法、あるいはプラント内に検出素子である光ファイバケーブルを敷設して、機器から漏洩した油が流れ落ちて上記光ファイバケーブルに接触すると、透過光強度が変化することを利用して漏油を検出する方法などの方法が知られている。
【0003】
しかしながら、巡回による機器の目視検査による油漏れ検出では、作業員が検査できない場所があったり、漏油の発見に個人差が生じて、また監視には人手がかかるため常時の監視はできない。オイルパンやオイルピットにおける油の蓄積から漏油を検出する方法では、油漏れの早期検出および油漏れ箇所を正確に特定することは不可能である。さらに、光ファイバケーブルを用いた方法では、漏洩した油が光ファイバケーブルに接触する必要があり、漏れる油の厳密な場所の特定や漏油状況の正確な把握などに問題点がある。
【0004】
また、照明や太陽光などの外乱光を遮蔽したいわゆる暗室内で油に紫外線などを照射することで油からの蛍光を検知し、これにより油漏れを検出する方法がある(特許文献3の段落[0004]参照)。しかし、この方法は、太陽光、蛍光灯などによる外乱を除去するため、検査対象であるエンジンおよび油検出装置を暗室内に設置するとともに、紫外線照射によって検知する油の蛍光波長と重ならないように紫外線領域のみをエンジンに照射しなければならないという問題がある。
【0005】
照明や太陽光などの外乱光がある場所でも、漏油を検出可能な技術としては次のものがある。
特許文献1には、通常照明下での漏油の検出を可能とする検出方法として、蛍光と吸光の両現象を同時に利用した検出方法であり、紫外線と可視光を交互に試料面に照射し、得られた画像の差分をとることにより、プラント内の配管や機器からの油漏れを検出する方法が開示されている。
【0006】
特許文献2には、建物の外などで照明や太陽光などが遮蔽できないノイズ光の環境であっても、油などの検出対象から発する蛍光を高SNで観測して被検査体からの漏洩を検出することができる漏洩検出装置を提供するものであって、直線偏光のレーザー光を被検査体に照射する照射手段と、この照射手段による直線偏光のレーザー光照射により発する偏光蛍光に対して偏光蛍光の偏光を選択して観測する偏光選択手段と、偏光が選択された偏光蛍光に対して偏光蛍光の波長を選択して観測する分光手段と、偏光および波長が選択された偏光蛍光の画像を撮像し、漏洩を画像化して検出する撮像手段を備える油漏れ検出装置が開示されている。
【0007】
特許文献3には、蛍光灯や太陽光線、白熱電球などの外乱光条件に応じて適宜、波長選択素子の透過波長を選択することにより検出場所や設置場所が制限されない油検出装置であって、検出対象とする油の吸収波長を含む光を放出し、漏油を励起して蛍光させるパルス光照射装置と、このパルス光照射装置により蛍光された漏油の蛍光波長を選択する波長選択素子と、パルス光照射装置により漏油が蛍光を発している時間のみを選択して観測する光検出装置とを備えた油検出装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平8−128916号公報
【特許文献2】特開2007−101228号公報
【特許文献3】特開平9−304281号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来の接触型センサを設置してスポットで監視する方法においては、広範囲のオイル漏れを一度に検出するために配管周りに多数のセンサを設置しなくてはならず、また漏れる油の厳密な場所の特定や漏油状況の正確な把握はできなかった。
【0010】
特許文献1に記載される技術によれば、照明下で漏油を検出することができるが、太陽光下において漏油を検出することはできなかった。また、紫外光と可視光を交互に切り換えて照射する必要があるため、装置構成が複雑になるという問題があった。
特許文献2および3に記載される技術によれば、太陽光下でも油を検出することができる。しかし、特許文献2に記載される技術においては、検出環境下の存在物質に応じてレーザー光の波長を適宜選択する必要があり、しかも検出される偏光蛍光は微弱であるため、短時間で変化する太陽光下において高精度の検出を行うことは困難であった。
特許文献3に記載される技術においては、照明や太陽光等のノイズ光を除去するためにイメージインテンシファイア等な高価な機器が必要となるが、プラント等の広い敷地内を監視するためには多数の機器を配置する必要があるため、安価で汎用的な機器類で構成した漏油遠隔監視装置が求められていた。
【0011】
本発明は上述した課題を解決するためになされたものであり、照明や太陽光等のノイズ光のある環境下において、汎用的な機器類により高SNで油の漏洩を遠隔検出することができる漏油遠隔監視装置および方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
発明者は、防犯等のために遠隔監視に用いられている可視光カメラ(例えば、CCD、CMOS型イメージセンサなどの固体撮像素子を備えたデジタルビデオカメラ)を用いて漏油遠隔監視装置を構成できないかを検討した。ここで、照明や太陽光等のノイズ光を除去するためにイメージインテンシファイア等を付加すれば比較的容易に漏油を検出することが可能であるが、各種プラントや大規模工場のように配管周りに多数の監視装置の設置が必要な場所での利用には適さない。そこで、発明者は、汎用的な可視光カメラにおいて、選択された波長の励起光を所定のタイミングで照射することで外乱の影響を排除できるのではないかと考え、本発明の創作をなした。すなわち、本発明は以下の技術手段から構成される。
【0013】
[1]光の照射により蛍光を発する油の漏洩をリアルタイムで検出する漏油遠隔監視装置であって、監視対象領域をトリガー信号に基づき連続的に撮像する可視光カメラと、可視光カメラによる撮像画像を記憶する記憶手段と、可視光カメラの受光素子に不感の波長の励起光を発光動作信号に基づき照射する光照射手段と、可視光カメラのシャッター時間幅およびタイミングを決定するトリガー信号、並びにトリガー信号と同期した照射タイミングおよび時間幅を決定する発光動作信号を発生する制御部と、励起光照射時の撮像画像と励起光非照射時の撮像画像の差分画像を取得し、記憶手段に記憶する差分処理手段と、差分画像における輝度の変化に基づいて油の漏洩を判定する判定手段を備えたことを特徴とする漏油遠隔監視装置。
[2]上記の光照射手段が、連続する偶数コマと奇数コマのいずれかのトリガー信号と同期して励起光を照射することを特徴とする[1]に記載の漏油遠隔監視装置。
[3]上記の光照射手段の光源が、レーザー装置、LED、ランプから選択されることを特徴とする[1]または[2]に記載の漏油遠隔監視装置。
[4]上記の可視光カメラが、カラーカメラであることを特徴とする[1]ないし[3]のいずれかに記載の漏油遠隔監視装置。
[5]屋外用であることを特徴とする[1]ないし[4]のいずれかに記載の漏油遠隔監視装置。
[6]光の照射により蛍光を発する油の漏洩をリアルタイムで検出する漏油遠隔監視する方法であって、制御部により可視光カメラのシャッター時間幅およびタイミングを決定するトリガー信号、並びにトリガー信号と同期した照射タイミングおよび時間幅を決定する発光動作信号を発生し、監視対象領域を可視光カメラによりトリガー信号に基づき連続的に撮像しながら、可視光カメラの受光素子に不感の波長の励起光を発光動作信号に基づき照射し、励起光照射時の撮像画像と励起光非照射時の撮像画像の差分画像を取得し、差分画像における輝度の変化に基づいて油の漏洩を判定することを特徴とする漏油遠隔監視方法。
[7]連続する偶数コマと奇数コマのいずれかのトリガー信号と同期して励起光を照射することを特徴とする[6]に記載の漏油遠隔監視方法。
[8]上記の監視対象領域が複数の監視対象領域からなり、かつ屋外を含むことを特徴とする[6]または[7]に記載の漏油遠隔監視方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、照明や太陽光等のノイズ光のある環境下においても、可視光カメラを利用して漏油を広範囲に亘り連続的に遠隔監視することが可能となる。さらにいえば、既設の監視用カメラを利用して漏油をリアルタイムで遠隔検出することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】波長が異なる各種光源からの光線を照射した際の燃料オイルの蛍光スペクトルを示すグラフである。
【図2】波長532nmのレーザー光により励起した石英セルと燃料オイルの蛍光スペクトルを示すグラフである。
【図3】波長532nmのレーザー光照射時の燃料オイルのラマン散光特性を示すグラフである。
【図4】波長375nmのLED光照射時の燃料オイルの励起蛍光スペクトルを示すグラフである。
【図5】波長532nmのレーザー光照射時の燃料オイルの励起蛍光スペクトルを示すグラフである。
【図6】波長375nmのLED光照射時の油膜厚と蛍光強度の関係を示すグラフである。
【図7】波長532nmのレーザー光の照射時の油膜厚と蛍光強度の関係を示すグラフである。
【図8】大気に曝した燃料オイルの蛍光の径時変化を示すグラフである。
【図9】レーザー光と太陽灯の照射時と、太陽光だけの照射時の燃料オイルの励起蛍光スペクトルを示すグラフである。
【図10】図9の蛍光スペクトルの差分とレーザー光照射時の蛍光スペクトルを示すグラフである。
【図11】本発明における蛍光画像取得時の演算処理フローの一例である。
【図12】実施例1に係る漏油遠隔検出装置の概要構成図である。
【図13】(a)レーザー光照射時間とCCDカメラでの撮像時間を最短シャッター時間で同期した信号波形と、(b)(a)の拡大図である。
【図14】(a)レーザー光照射時間とCCDカメラでの撮像時間を最長シャッター時間で同期した信号波形と、(b)(a)の拡大図である。
【図15】制御部における信号発生、分周、パルス幅制御の回路図とタイムチャートである。
【図16a】レーザー光非照射時の燃料オイルの撮像画像である。
【図16b】レーザー光照射時の燃料オイルの撮像画像である。
【図17】実施例2に係る画像処理のフローである。
【図18a】レーザー光非照射時の燃料オイルの撮像画像である。
【図18b】レーザー光照射時の燃料オイルの撮像画像である。
【図18c】レーザー光照射時画像(図18a)と照射時画像(図18b)の差分画像である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下では、燃料オイル(坂出発電所供給品)の例により、本発明の漏油遠隔監視装置を構築するために必要となる光学的な基礎的データ類の取得および検討結果を説明する。
[1]燃料オイルの吸光・反射特性
燃料オイル漏れを監視用カメラで捉えるためには、燃料オイルの吸光と発光特性を測定し、その特性を把握することが必要となる。そこで、燃料オイルを分析用石英セルに注入し、分光光度計を用いて、吸光度と反射率の分光特性を測定した。より詳細には、分析用石英セル(日本石英硝子社製)に燃料オイル(坂出発電所供給品)を注入し、硫酸バリウム粉末をリファレンスとして、紫外線から近赤外線領域の吸光度と反射率を測定した。その結果、燃料オイルは紫外線領域から近赤外線領域の光を90%以上吸収してほぼ黒色を呈すること、また波長に対して特徴な吸収は見られないことが確認できた。これにより、燃料オイルは波長に対して特異な吸収を示さないため、可視光領域の分光測定ではその存在を特定することはできないことが分かった。
【0017】
[2]燃料オイルの蛍光特性
分析用石英セル(日本石英硝子社製)に入れた燃料オイル(坂出発電所供給品)に、紫外線(254nmあるいは365nm:4W水銀ランプ)とグリーンレーザー光(532nm:1mW)を照射して蛍光スペクトルを分光器で測定した。分光測定条件は、スリット幅5μm、露光時間10ms、積算回数100回である。分光測定における励起光の遮光には、紫外線励起の場合は吸収式長波長透過フィルター(シャープカット色ガラスフィルター)を使用し、レーザー光励起の場合は干渉式レーザー光遮断フィルター(ホログラフィック・ノッチフィルター)を使用した。その測定結果の蛍光スペクトルを図1に示す。図1から、紫外線励起における蛍光は可視光領域の全波長で観測され、450〜500nmの波長域で比較的強いこと、レーザー励起における蛍光は550〜700nmで観測され580nm近傍にピークを持つことが分かる。なお、レーザー励起蛍光スペクトルの532nmにおけるピークはレーザーの迷光である。
図1の測定結果は、石英セルを通して光線を燃料オイルに照射して得られたものであるため、石英セルの蛍光やラマン散乱光の影響を調べるべく石英セルとオイルの発光を測定した。その結果を図2に示す。図2から、(1)試料が無い場合(AIR)は何も観測されず、(2)空の石英セル(CELL)ではレーザーの迷光が観測され、(3)石英セルにオイルを注入した場合(OIL)は550nmよりも長波長で蛍光が観測されることが確認できる。このことから、燃料オイルの蛍光は550〜700nmで観測され580nm近傍にピークを持つことが判明した。このように、燃料オイルは光照射によって蛍光を発するが、その蛍光スペクトルは可視光波長域全般にわたって観測され、その強度は波長によって異なることから、可視光領域の分光測定(RGBカメラも同様)でその存在を検出できる可能性があることが分かる。
表1に、燃料オイルに対する照射光の波長と発した蛍光の波長の一例を示す。
【0018】
【表1】
【0019】
[3]燃料オイルのラマン散乱光特性
図3は、燃料オイル表面に785nmのレーザー光を照射したときの発光スペクトルと、532nmのレーザー光を照射したときの発光スペクトル(図1の横軸を波数表示したもの)を示すグラフである。図3に示す発光スペクトルは、蛍光とラマン散乱光が重重して現れており、785nmと532nm励起ともにほぼ同じ波数に分子構造のピークが現れている。因みに、図3に示すラマン散乱光のスペクトル分布は有機系の固体によく見られる形状であり、燃料オイルが高濃度の有機物質であることを示唆している。
また、図3中、ラマン散乱光の強度(図中の凹凸)は蛍光強度に比べて10%以下である。燃料オイルにレーザー光を照射するとラマン散乱光が蛍光に重重して観測されるが、その強度は蛍光強度よりも小さい。ラマン散乱光波長は含有物質の分子結合に起因するが、多種成分の混合物である燃料オイルについては特徴的なピークを特定することはできない。
【0020】
[4]オイルの厚さと蛍光強度および蛍光強度の経時変化
図4は、阿南PS燃料重油(S:0.16%、SG:0.9182)に波長375nm、照射強度140mWのLED光を照射した際の蛍光スペクトル強度を示すグラフである。図5は、同じ燃料重油に波長532nm、照射強度1mWのレーザー光を照射した際の蛍光スペクトル強度を示すグラフである。図4のスペクトル形状からは蛍光は450nm近傍が強いことが分かり、図5のスペクトル形状からは532nm励起では580nm近傍が強いことが分かる。
LED、レーザーのいずれの光源でも発光する波長550nmと580nmについて、燃料オイルの厚さに対する蛍光強度を図6および図7に示す。
励起光源波長375nm(図6)、532nm(図7)のいずれにおいても、油膜厚が0.4mm以上では蛍光強度が飽和することが確認された。前記[1]で検討したように、燃料オイルは吸光度が高く、蛍光の発生は極浅い部分に限定されるからであると考えられる。
大気に曝した燃料オイルの蛍光の経時変化を図8に示す。励起光源はLED(375nm)であり、蛍光強度は520nm±5nmの強度を410nm±5nmの強度で除した比率である。燃料オイルの蛍光は乾燥すると弱くなることが確認された。図8から、漏洩から約2時間以内に燃料オイルの検出することが好ましいことが分かる。なお、蛍光強度の分布を検討することにより、強い蛍光を発する面積に対応する箇所が新しく漏洩した箇所に対応していることを判定してもよい。
【0021】
[5]太陽光とレーザー誘起蛍光の対比
野外にあるプラント類の油漏洩を検出は、屋外用の防滴型または防雨型の可視光カメラを用いて行うことができるが、太陽光による影響が問題となる。そこで、100W太陽灯(XC−100;セリック社)の光を55cmの距離から照射してレーザー誘起蛍光測定を行った。試料は燃料重油(S:0.16%、SG:0.9182)を使用し、油膜厚は1mmである。また、励起レーザー光は波長532nm、照射強度1mWである。
図9に太陽灯とレーザーの同時照射した場合の蛍光強度(上方曲線)、太陽灯だけを照射した場合の蛍光強度(下方曲線)を示す。図9から、太陽光が当たっている場合でも、レーザー光照射における蛍光は優位性をもって観測できることが確認できた。
図10に、太陽光・励起光を同時照射した場合の蛍光強度から太陽灯だけを照射した場合の蛍光強度を差し引いた値(差分)と、レーザー光だけを照射した場合の蛍光強度を示す。図10から、太陽光・励起光同時照射時と太陽光のみ照射時の差分を求めることで、太陽光の影響を排除することが可能であることが確認できた。
【0022】
[6]燃料オイルの光学的特性測定結果および本発明の創作
前記[1]ないし[5]における燃料オイルの特性検討結果から以下のことが判明した。
燃料オイルは、前記[1]で述べたように、紫外線領域から近赤外線領域に吸収を示し、この吸収したエネルギーによって前記[2]および[3]で述べた蛍光やラマン光を発する。しかし、燃料オイルのラマン散乱光については、蛍光に重重して観測され、その強度は蛍光強度よりも小さいため、オイルを特定できる明確な発光ピークが観測できない。また、燃料オイルの吸収は紫外線領域から近赤外線領域にわたっており、特徴的な吸収バンドは認めなれないため、吸収分光測定では燃料オイルの存在を検出できない。他方で、発明者は、燃料オイルの反射率は低く黒色に見えることから、周辺との輝度の違いでその存在を検出できる可能性があることの知見を得た。すなわち、発明者は、燃料オイルの蛍光スペクトルは可視光波長域全般にわたって観測され、その強度が波長によって異なることから、可視光領域の分光測定(RGBカメラも同様)でその存在を検出できる可能性があると考え、本発明をなした。
可視光カメラ(例えば、シリコン系CCDカメラと一般的なカメラレンズ)で観察できる400nm〜700nmの波長範囲で、燃料オイルを検出するために、次の手法を用いることが考えられる。
(1)燃料オイルと周辺の輝度の違いを観測する。
(2)レーザー照射による発光強度(誘起蛍光とラマン散乱光の合計)を異なる観測波長で測定する。
(3)レーザー光を照射した場合と照射していない場合の差分を求める。
ここで、(1)の輝度の違いを利用する手法については、照明や太陽光の影響(入射角度や強度)を受けるため、実運用は難しいと考えられる。また、(2)(3)のレーザー誘起蛍光(ラマン光も含む)を利用する手法については、照射レーザー波長の選択(カメラが不感の波長を選ぶ)と観測波長の選択(カメラのRGB感度との兼ね合い)により実用化の可能性がある。
【0023】
発明者は、鋭意検討の結果、一般的な可視光カメラにより外乱環境下で漏洩した燃料オイルを検出することを可能とした。すなわち、本発明は、一般的な可視光カメラの受光素子に不感の波長の励起光を照射して監視エリアを照らし、漏油の蛍光を観測することを本質とし、より詳細には次の手順により外乱環境下での漏油の検出を行う。
(ア)カメラ撮影と同期して1コマおきに特定波長の励起光を所定の時間(例えば、10ミリ秒間程度)照射し、励起光が当たった画像(Gn)の輝度から励起光が当たっていない画像(Gn+1)の輝度を差し引いて、外乱光の影響を排除する(例えば、一般的なCCDセンサの場合、2コマで60ミリ秒程度なので、太陽光の変化も無視できる)と共にオイルの蛍光画像を取得する。なお、監視領域の撮影はカメラを固定して行えば足りる。
(イ)最新の蛍光画像(Gn)を1つ前の蛍光画像(Gn−2)の輝度、面積を比較し、輝度あるいは面積の増加があればオイル漏れと判断する。
(ウ)前記(ア)(イ)の画像を記憶装置に連続的に記録することにより、過去の画像を呼び出して現在の画像と比較することにより、漏洩開始時間や漏洩量等を分析することができる。
【0024】
本発明での油漏れ検出を実施する処理フローの一例を図11に示す。例えば、画像取得においては、奇数コマ(フレーム)では励起光を照射しない監視領域の画像(G1、G3、G5…)を撮影し、偶数コマでは励起光を照射して励起蛍光が発生した監視領域の画像(G2、G4、G6…)を撮影し、両画像の差分から油漏れを判定することができる。
表2に励起光源(レーザー光源)の照射のタイミングと、コマ番号の関係の一例を示す。表2では奇数コマではレーザー装置をOFFとし、偶数コマでレーザー装置をONとし、奇数コマと偶数コマの差分処理を行って漏油の判別を行っている。このように、表2ではレーザー光を照射時の検査領域画像および非照射時の検査領域画像を取得し、両画像の差分がない場合には油漏れはないものと判断して演算画像は消去し、差分があるときにはその面積を算出して演算画像を記録すると共に油漏れの警報を発する。監視員は過去の差分画像との比較を行うことにより、油漏れがあったことを確実に判断すると共に算出面積に基づき漏油の拡大状況を確認することができる。
【0025】
【表2】
【0026】
励起光源は、油に照射したときに蛍光を発する波長の光を発するものであれば任意のものを用いることができる。しかし、可視光カメラで漏油の遠隔検出を行う場合、励起光源の波長は可視光カメラに不感で蛍光が観測できる組み合わせのものを利用することが好ましい。具体的に例示すれば次の組み合わせが考えられる。
(1)光源に473nmのレーザー光を使用した場合、カラーカメラの赤(R)の信号を用いて蛍光の強度を測定して、漏油の有無を判別することができる。
(2)光源に375nmや365nmのLEDあるいは355nmのレーザーを使用した場合、カラーカメラの青(B)や緑(G)の信号を用いて蛍光の強度を測定して、漏油の有無を判別することができる。
(3)光源にHgランプを用いた場合、カラーカメラの緑(G)や赤(R)の信号を用いて蛍光の強度を測定して、漏油の有無を判別することができる。
(4)白黒カメラの場合、レンズを透過しない380nm以下の光源を利用するか、あるいは光源の波長をカットする超波長透過フィルターを通して観測する。
なお、カラーカメラの波長感度特性(フィルター特性)はメーカーによって異なるため、カメラ毎に具体的な組み合わせを決める必要がある。
【0027】
以下では、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0028】
[装置構成]
本実施例の漏油遠隔検出装置は、図12に示す如く構成され、各機器の仕様は次に示すとおりである。
レーザー装置1:波長532nm、出力1mW
CCDカメラ(可視光カメラ)3:KP−M1AN(日立国際電気)
エッジフィルタ4:波長532nm
CCDコントローラ5:ジャンクションボックス(JU−MIA)
レンズ6:25mm(F1.4)、f=150mm
音響光変調器(AOM)7:514nm用
AOMドライバ8:D−100L(HOYA)
制御部10:発振器(型番:SPG8651A)、分周器(型番:74HC4040)、パルス幅調整器(型番:74LS123)、制御用PC等
ここで、AOM7はレーザー光などを振幅変調(パルス状にも切り出し可能)するものである。本来ならレーザーやLEDを直接電気的に変調して任意のパルス時間幅の光を発生させればよいが、外部同期(CCDと同期)で変調できる装置が手元になかったため、本実施例では技術検証実験のためにAOM7を使用した。発振器からの基準信号に基づきCCDカメラ3による撮影を行い、AOM7によりCCDゲート信号(撮影トリガー信号)と同期させて一コマおきにAOMゲート信号(光源の発光動作信号)を発生させ、励起光を照射した。
【0029】
[初期設定等]
CCDカメラ3の動作モードはフィールド・オン・デマンド(ONEトリガーモード)に設定した。
レーザー装置1からのレーザー光を音響光変調器(AOM)7によってパルス状に変調し、変調光をレンズ6で拡大して燃料オイルに照射した。レーザー照射によって発生するオイルの蛍光をCCDカメラ3で観測した。CCDカメラ3のレンズ前に532nm用のエッジフィルタ4を配置して、レーザー光を減衰させた。
制御部10では、水晶振動子を用いた発振器で基準信号を発生し、分周器を用いて1/2周期を発生させ、パルス幅調整器でCCDのトリガーパルスとシャッター時間およびAOM7のゲート時間を調整した。
【0030】
[同期信号発生とパルス幅調整試験]
図13(a)は、本実施例の装置において、CCDトリガー信号とAOMゲート幅を最短に設定した場合の信号波形(発振周波数:60Hz)を示すグラフであり、(b)は(a)の拡大図である。図13に示すように、CCDトリガー信号の時間幅は0.4ms(シャッター時間:1/1000秒)であり、AOMのゲート幅(レーザー照射時間幅)は1.7msである。
図14(a)は、本実施例の装置において、CCDトリガー信号とAOMゲート幅を最長に設定した場合の信号波形(発振周波数:60Hz)を示すグラフであり、(b)は(a)の拡大図である。図14に示すように、CCDトリガー信号の時間幅は6ms(シャッター時間:1/150秒)であり、AOMのゲート幅(レーザー照射時間幅)は14msである。
【0031】
[制御部の仕様]
制御部10における信号発生、分周、パルス幅制御の回路図とタイムチャートを図15に示す。発振出力のデューティ比は1:1である。分周器の出力は2パルス入力1パルスが出力され、入力信号の同期は「↓」である。パルス幅はRCで調整される。本実施例によって測定した仕様を以下に示す。
結合タイミング:立ち下がり
周波数範囲: 0.0005Hz〜60kHz
分周率:12−Stage (Binary)
AOMゲート信号t1(ゲート幅とタイミングを決める):1.7ms(VR=0Ω)〜24ms(VR=25kΩ)(レーザー光の照射時間を可変としている)
CCDゲート信号t2(シャッター時間幅とタイミングを決める):0.4ms(VR=0Ω)〜6.0ms(VR=25kΩ)(画像取り込みレートによって露光時間(シャッター開放時間)が異なるために時間幅を可変としている)
【0032】
制御部10の動作を具体例で説明すると次のとおりである。
(ア)発振器(SPG8651A)によって画像撮影フレームレート用信号(基準信号)を発生させ、パルス幅調整器(74LS123)の片チャンネルでCCDカメラ3のシャッター時間幅を調整する。
(イ)発振器(SPG8651A)からの基準信号を分周器(74HC4040)を通して、周波数を半分にし、CCDカメラ3の1フレームおきの信号を発生させ、パルス幅調整器(74LS123)の片チャンネルで照射するレーザー光の照射時間(AOM7のゲート幅)を調整する。
(ウ)表2の例で説明すると、1コマ目にはAOM7を動作させずにCCDカメラ3により背景画像を取得し、次のコマ(2コマ目)ではレーザーを照射してCCDカメラ3により励起画像を取得する。
(エ)これを繰り返すことで、表2のレーザー照射と撮影、演算等が実現できる。
【0033】
[レーザー照射試験の結果]
本実施例の装置により、奇数コマではレーザーを照射しない背景を撮影し、偶数コマでレーザー誘起蛍光を発生させ、その差分からオイルを判別した。CCDカメラ3のシャッター時間とレーザー照射時間は共に1msである。
図16aは本実施例の装置により取得した背景画像であり、図16bはレーザー照射時の画像である。いずれも実験室内の蛍光灯照明下で取得した画像である。図16bでは燃料オイルの蛍光が明瞭に示されている。
以上に示すように、市販の可視光カメラを用いて構成した本実施例の装置により、照明光等のノイズ環境下において燃料オイルを検出可能であることが確認された。
【実施例2】
【0034】
実施例2の漏油遠隔監視装置の構成は実施例1と同様であるが、本実施例では制御部10に画像処理機構を付加した構成となっている。画像処理機構は画像入力ボード(PicoloTetra)を装着したPCにおける専用ソフトウェアでの処理により実現した。
CCDカメラ3の画像取込は30Hzで行い、1コマおきにレーザー光(波長532nm、強度1mW)を5msの照射時間で照射した。
【0035】
本実施例の装置における画像処理は、図17に示すフローにより行われる。
まず、基準信号と同期してレーザー光照射なしの奇数フレーム画像を取得し、取得した画像を表示する(図18a)。次に、レーザー光照射有りの偶数フレーム画像を取得し、取得した画像を表示する(図18b)。そして、取得した偶数フレーム画像から奇数フレーム画像を除する差分処理を行い、その結果を表示する(図18c)。制御部10は、差分画像に予め設定した閾値を超える輝度あるいは面積の増加があればオイル漏れがあると判定する。
図17では、レーザー光の照射を偶数フレームで行うこととしているが、実際には装置の初期化後、レーザー光の照射と取得フレームの関係は一義的に決まらず、レーザー光の照射が奇数フレーム、偶数フレームのいずれで行われているのかは必ずしも特定できない。そこで、本実施例では、画像差分処理は(i)奇数フレームから偶数フレームを引く、(ii)偶数フレームから奇数フレームを引く、のいずれかを選択可能とする方式とした。
以上に示すように、市販の可視光カメラを用いて構成した本実施例の装置により、照明光等のノイズ環境下においてリアルタイム(30コマ/秒)で燃料オイルを検出可能であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の漏油遠隔監視装置は、太陽光の下での屋外、蛍光灯などの照明下であっても油の漏洩を検出することができるので、室内・屋外を問わず設置が可能である。しかも、イメージインテンシファイア等を有さない一般的な可視光カメラにより撮像した画像によりリアルタイムで漏油判定ができるため、従来の監視カメラ設備をそのまま利用して漏油監視システムを構築することが可能である。広範囲にわたり多数の漏油遠隔監視装置を設置することが必要な発電プラントや化学プラント等への適用(例えば、設置箇所が数十ないし数百を超える多点モニタリング)においては、本発明の経済効果は著しく高い。
本発明で検出対象となる油は、光を照射することにより蛍光を発する特性を有するものであればいかなる種類のものであってもよいが、例えば、石油、軽油、重油、ガソリンなどの燃料オイル、潤滑油、作動油などの工業用油、食品加工上の植物油などがあげられる。
【符号の説明】
【0037】
1:レーザー装置(光源)
2:レーザー光
3:CCDカメラ
4:エッジフィルタ
5:CCDコントローラ
6:レンズ
7:音響光変調機(AOM)
8:AOMドライバ
9:遮蔽板
10:制御部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光の照射により蛍光を発する油の漏洩をリアルタイムで検出する漏油遠隔監視装置であって、
監視対象領域をトリガー信号に基づき連続的に撮像する可視光カメラと、
可視光カメラによる撮像画像を記憶する記憶手段と、
可視光カメラの受光素子に不感の波長の励起光を発光動作信号に基づき照射する光照射手段と、
可視光カメラのシャッター時間幅およびタイミングを決定するトリガー信号、並びにトリガー信号と同期した照射タイミングおよび時間幅を決定する発光動作信号を発生する制御部と、
励起光照射時の撮像画像と励起光非照射時の撮像画像の差分画像を取得し、記憶手段に記憶する差分処理手段と、
差分画像における輝度の変化に基づいて油の漏洩を判定する判定手段を備えたことを特徴とする漏油遠隔監視装置。
【請求項2】
上記の光照射手段が、連続する偶数コマと奇数コマのいずれかのトリガー信号と同期して励起光を照射することを特徴とする請求項1に記載の漏油遠隔監視装置。
【請求項3】
上記の光照射手段の光源が、レーザー装置、LED、ランプから選択されることを特徴とする請求項1または2に記載の漏油遠隔監視装置。
【請求項4】
上記の可視光カメラが、カラーカメラであることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の漏油遠隔監視装置。
【請求項5】
屋外用であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の漏油遠隔監視装置。
【請求項6】
光の照射により蛍光を発する油の漏洩をリアルタイムで検出する漏油遠隔監視する方法であって、
制御部により可視光カメラのシャッター時間幅およびタイミングを決定するトリガー信号、並びにトリガー信号と同期した照射タイミングおよび時間幅を決定する発光動作信号を発生し、監視対象領域を可視光カメラによりトリガー信号に基づき連続的に撮像しながら、可視光カメラの受光素子に不感の波長の励起光を発光動作信号に基づき照射し、励起光照射時の撮像画像と励起光非照射時の撮像画像の差分画像を取得し、差分画像における輝度の変化に基づいて油の漏洩を判定することを特徴とする漏油遠隔監視方法。
【請求項7】
連続する偶数コマと奇数コマのいずれかのトリガー信号と同期して励起光を照射することを特徴とする請求項6に記載の漏油遠隔監視方法。
【請求項8】
上記の監視対象領域が複数の監視対象領域からなり、かつ屋外を含むことを特徴とする請求項6または7に記載の漏油遠隔監視方法。
【請求項1】
光の照射により蛍光を発する油の漏洩をリアルタイムで検出する漏油遠隔監視装置であって、
監視対象領域をトリガー信号に基づき連続的に撮像する可視光カメラと、
可視光カメラによる撮像画像を記憶する記憶手段と、
可視光カメラの受光素子に不感の波長の励起光を発光動作信号に基づき照射する光照射手段と、
可視光カメラのシャッター時間幅およびタイミングを決定するトリガー信号、並びにトリガー信号と同期した照射タイミングおよび時間幅を決定する発光動作信号を発生する制御部と、
励起光照射時の撮像画像と励起光非照射時の撮像画像の差分画像を取得し、記憶手段に記憶する差分処理手段と、
差分画像における輝度の変化に基づいて油の漏洩を判定する判定手段を備えたことを特徴とする漏油遠隔監視装置。
【請求項2】
上記の光照射手段が、連続する偶数コマと奇数コマのいずれかのトリガー信号と同期して励起光を照射することを特徴とする請求項1に記載の漏油遠隔監視装置。
【請求項3】
上記の光照射手段の光源が、レーザー装置、LED、ランプから選択されることを特徴とする請求項1または2に記載の漏油遠隔監視装置。
【請求項4】
上記の可視光カメラが、カラーカメラであることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の漏油遠隔監視装置。
【請求項5】
屋外用であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の漏油遠隔監視装置。
【請求項6】
光の照射により蛍光を発する油の漏洩をリアルタイムで検出する漏油遠隔監視する方法であって、
制御部により可視光カメラのシャッター時間幅およびタイミングを決定するトリガー信号、並びにトリガー信号と同期した照射タイミングおよび時間幅を決定する発光動作信号を発生し、監視対象領域を可視光カメラによりトリガー信号に基づき連続的に撮像しながら、可視光カメラの受光素子に不感の波長の励起光を発光動作信号に基づき照射し、励起光照射時の撮像画像と励起光非照射時の撮像画像の差分画像を取得し、差分画像における輝度の変化に基づいて油の漏洩を判定することを特徴とする漏油遠隔監視方法。
【請求項7】
連続する偶数コマと奇数コマのいずれかのトリガー信号と同期して励起光を照射することを特徴とする請求項6に記載の漏油遠隔監視方法。
【請求項8】
上記の監視対象領域が複数の監視対象領域からなり、かつ屋外を含むことを特徴とする請求項6または7に記載の漏油遠隔監視方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16a】
【図16b】
【図17】
【図18a】
【図18b】
【図18c】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16a】
【図16b】
【図17】
【図18a】
【図18b】
【図18c】
【公開番号】特開2011−185757(P2011−185757A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−51588(P2010−51588)
【出願日】平成22年3月9日(2010.3.9)
【出願人】(000144991)株式会社四国総合研究所 (116)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月9日(2010.3.9)
【出願人】(000144991)株式会社四国総合研究所 (116)
【Fターム(参考)】
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