説明

漏洩同軸ケーブル

【課題】製造が容易であって、十分な機械的耐久性を有し、曲げ易く細長く曲がりくねった空間での使用が可能であり、スロットピッチを十分に長くすることができるLCXを提供する。
【解決手段】外部導体4は、金属線からなる編組から構成され、金属線の密度がケーブル長手方向について周期的に変化しており、密度が粗の部分がスロット部1となっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、漏洩同軸ケーブルに関し、特に、外部導体に形成するスロット部の構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
漏洩同軸ケーブル(以下、「LCX」という。)は、内部導体、絶縁体、外部導体及び外被を備えて構成され、従来より、新幹線沿いに布設されて列車と地上との無線連絡のために使用されたり、あるいは、地下鉄構内や地下街に布設されて地上との消防無線や警察無線の連絡用に使用されている。このようなLCXにおいては、同軸内部の電磁エネルギーを外部に漏洩させるために、外部導体上に周期的なスロット部が設けられている。
【0003】
すなわち、漏洩同軸ケーブルの外部導体には、ケーブル軸に対して一定周期毎に、一周期当たり複数の長孔状のスロット部が設けられている。各スロット部は、ケーブル軸に対していくらかの角度を持って傾斜されている。なお、各スロット部の周長の半分が使用周波数の半波長と一致したり、その半波長の整数倍となったときには、共振状態となる。この周波数を共振周波数と呼ぶ。
【0004】
非特許文献1には、打ち抜き加工でスロット部が形成された金属テープにより外部導体を構成したLCXが記載されている。
【0005】
特許文献1には、中心導体を覆う絶縁体上に絶縁体の周長よりも幅が短い外部導体用の第1の導電性テープを長手方向に隙間が形成されるように縦添えし、その後、第1の導電性テープ上に外部導体用の第2の導電性テープを隣り合うターン間に隙間を形成しながら螺旋巻きして構成したLCXが記載されている。このLCXでは、第1の導電性テープの長手方向の隙間と第2の導電性テープのターン間の隙間とが重畳する部分がスロット部となっている。
【0006】
また、特許文献2には、外部導体を金属線により構成し、この外部導体にギャップが形成されているLCXが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−198941号公報
【特許文献2】特開2003−123555号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】「LCX通信システム(初版1982.8.20)」(コロナ社)第2章
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、非特許文献1に記載されたLCXにおいては、打ち抜き加工でスロット部が形成された1枚の金属テープをケーブル長手方向に縦添えしているため、可撓性が悪く、また、屈曲を与えると外部導体がスロット部から亀裂を生ずる虞がある。
【0010】
特許文献1及び特許文献2に記載されたLCXにおいては、スロットピッチを長くすることが困難である。すなわち、スロットピッチは、螺旋巻きの第2の導電性テープの隣り合うターン間の隙間のピッチに依存するため、スロットピッチを長くするには、螺旋巻きのピッチを長くする必要がある。実用的には、ケーブルに対する螺旋巻きの角度が10度以下となるような長い螺旋巻きのピッチは製造が困難である。
【0011】
そこで、本発明は、前述の実情に鑑みて提案されるものであり、その目的は、製造が容易であって、かつ、十分な機械的耐久性を有し、曲げ易く細長く曲がりくねった空間での使用が可能であり、そして、スロットピッチを十分に長くすることができるLCXを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る漏洩同軸ケーブルは、以下の構成を有するものである。
【0013】
〔構成1〕
中心導体と中心導体を被覆した絶縁体と絶縁体の外側を覆う外部導体とが同軸構造となされ外部導体に漏洩電磁界形成用の複数のスロット部が形成された漏洩同軸ケーブルであって、外部導体は、金属線からなる編組から構成され、金属線の密度がケーブル長手方向について周期的に変化しており、密度が粗の部分がスロット部となっていることを特徴とするものである。
【0014】
〔構成2〕
中心導体と中心導体を被覆した絶縁体と絶縁体の外側を覆う外部導体とが同軸構造となされ外部導体に漏洩電磁界形成用の複数のスロット部が形成された漏洩同軸ケーブルであって、外部導体は、複数の金属線を前記絶縁体上に螺旋状に巻き付けて構成され、金属線の密度がケーブル長手方向について周期的に変化しており、密度が粗の部分がスロット部となっていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
構成1を有する本発明に係る漏洩同軸ケーブルにおいては、外部導体は、金属線からなる編組から構成され、金属線の密度がケーブル長手方向について周期的に変化しており、密度が粗の部分がスロット部となっているので、製造が容易であり、十分な機械的耐久性及び可撓性を有し、また、スロットピッチを十分に長くことができる。
【0016】
構成2を有する本発明に係る漏洩同軸ケーブルにおいては、外部導体は、複数の金属線を前記絶縁体上に螺旋状に巻き付けて構成され、金属線の密度がケーブル長手方向について周期的に変化しており、密度が粗の部分がスロット部となっているので、製造が容易であり、十分な機械的耐久性及び可撓性を有し、また、スロットピッチを十分に長くすることができる。
【0017】
すなわち、本発明は、製造が容易であって、かつ、十分な機械的耐久性を有し、曲げ易く細長く曲がりくねった空間での使用が可能であり、そして、スロットピッチを十分に長くすることができるLCXを提供することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係るLCXの構成を示す平面図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係るLCXの外部導体の構造を示す平面図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態に係るLCXの外部導体をなす編組の構造を示す平面図である。
【図4】本発明の第2の実施の形態に係るLCXの外部導体をなす編組の構造を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照して説明する。
【0020】
〔第1の実施の形態〕
図1は、本発明に係るLCXの構成を示す平面図である。
【0021】
本発明に係るLCXは、図1に示すように、中心導体2と、この中心導体2を被覆した絶縁体3と、この絶縁体3の外側を覆う外部導体4とが同軸構造となされ、外部導体4が外被(シース)5により覆われて構成されている。
【0022】
図2は、本発明の第1の実施の形態に係るLCXの外部導体の構造を示す平面図である。
【0023】
外部導体4は、金属線からなる編組から構成されている。編組は、図2に示すように、複数の平行な金属線と、これら金属線に交差する複数の平行な金属線とが編み合わされて構成されたものである。
【0024】
編組をなす金属線は、絶縁体3の表面上においては、右回りに螺旋状に巻かれたものと、左回りに螺旋状に巻かれたものとが重なった状態となっている。
【0025】
図3は、本発明の第1の実施の形態に係るLCXの外部導体をなす編組の構造を示す平面図である。
【0026】
外部導体4は、図2及び図3に示すように、ケーブルの長手方向に周期的なシールド密度(金属線の密度)の粗密が形成されている。シールド密度は、絶縁体3の表面積に対する金属線が覆う面積の比である。
【0027】
この外部導体4においては、シールド密度が粗い部分は、漏洩電磁界形成用の複数のスロット部1となっている。
【0028】
シールド密度の粗密を形成するには、編組における金属線の角度を変えればよい。ケーブルの軸線に対する金属線の角度を小さくすると、シールド密度は小さくなり、金属線の角度を大きくすると、シールド密度は大きくなる。
【0029】
また、編組における面積あたりの金属線の本数を変えることによっても、シールド密度の粗密を形成することができる。金属線の本数を少なくすると、シールド密度は小さくなり、金属線の本数を多くすると、シールド密度は大きくなる。
【0030】
さらに、編組における金属線の太さを変えることによっても、シールド密度の粗密を形成することができる。金属線の径を小さくすると、シールド密度は小さくなり、金属線の径を大きくすると、シールド密度は大きくなる。
【0031】
あるいは、これら金属線の角度、面積あたりの金属線の本数及び金属線の太さの違いを組み合わせることにより、シールド密度の粗密を形成することができる。
【0032】
このように、このLCXにおいては、ケーブルの長手方向に周期的なシールド密度の粗密が形成され、シールド密度が粗い部分がスロット部1となっているので、スロットピッチは、編組そのもののピッチに比べて、幅広いピッチを実現することが可能となっている。
【0033】
編組そのもののピッチとは、以下のように定義される。すなわち、ケーブルを円筒座標系で表し、長さ方向をz、半径をr、角度をφとし、ある特定の1本の金属線に着目して、絶縁体3上に螺旋状に巻き付けられた状態を追いかけていくと、zは単調増加、rは一定の値(絶縁体3の半径)、φは0から2πまでの増加を繰り返す値(2πに達したときに0に戻る)となる。絶縁体3の周りを1回ったとき、すなわち、φが2πとなって0に戻ったときのzの長さが、編組のピッチである。
【0034】
なお、図1において、編組のピッチごとの隙間は表記されていないが、実際には、編組のピッチごとに隙間があり、この部分が、編組を単体で外部導体とした場合のスロット部となる。
【0035】
また、外部導体4が編組により構成されていることにより、可撓性に優れ、繰り返し曲げにも強い構造となっている。
【0036】
従来、編組によってスロットを形成するLCXを製作すれば、可撓性の良いものは得られていたが、スロットピッチが編組のピッチとなるため、スロットピッチの設計自由度が低かった。編組をなす金属線のケーブル軸線に対する角度を約10度以下にすることは困難であり、これが事実上の編組ピッチの限界であり、スロットピッチの限界となっていた。例えば、絶縁体3の外径が5mmであれば、スロットピッチは、約90mmが限界であり、それ以上に長くすることはできなかった。
【0037】
本発明に係るLCXにおいては、ケーブルの長手方向に周期的なシールド密度の粗密が形成され、シールド密度が粗い部分がスロット部1となっているので、スロットピッチは、編組角度の限界に依存することがなくなり、長いスロットピッチを実現することが可能となっている。
【0038】
〔第2の実施の形態〕
図4は、本発明の第2の実施の形態に係るLCXの外部導体をなす編組の構造を示す平面図である。
【0039】
外部導体4は、図4に示すように、絶縁体3上に複数の金属線を螺旋状に巻き付けて(横巻きにして)構成してもよい。この場合にも、ケーブルの長手方向に周期的なシールド密度(金属線の密度)の粗密が形成されている。この外部導体4において、シールド密度が粗い部分は、漏洩電磁界形成用の複数のスロット部1となっている。
【0040】
シールド密度の粗密を形成するには、ケーブルの軸線に対する金属線の角度を変えればよい。ケーブルの軸線に対する金属線の角度を小さくすると、シールド密度は小さくなり、金属線の角度を大きくすると、シールド密度は大きくなる。
【0041】
また、面積あたりの金属線の本数を変えることによっても、シールド密度の粗密を形成することができる。金属線の本数を少なくすると、シールド密度は小さくなり、金属線の本数を多くすると、シールド密度は大きくなる。
【0042】
さらに、金属線の太さを変えることによっても、シールド密度の粗密を形成することができる。金属線の径を小さくすると、シールド密度は小さくなり、金属線の径を大きくすると、シールド密度は大きくなる。
【0043】
あるいは、これら金属線の角度、面積あたりの金属線の本数及び金属線の太さの違いを組み合わせることにより、シールド密度の粗密を形成することができる。
【0044】
このように、このLCXにおいては、ケーブルの長手方向に周期的なシールド密度の粗密が形成され、シールド密度が粗い部分がスロット部1となっているので、スロットピッチは、複数の金属線の巻き付けピッチよりも、幅広いピッチを実現することが可能となっている。
【0045】
絶縁体3上に螺旋状に巻き付けられた複数の金属線の巻き付けピッチは、以下のように定義される。すなわち、ケーブルを円筒座標系で表し、長さ方向をz、半径をr、角度をφとし、ある特定の1本の金属線に着目して、絶縁体3上に螺旋状に巻き付けられた状態を追いかけていくと、zは単調増加、rは一定の値(絶縁体3の半径)、φは0から2πまでの増加を繰り返す値(2πに達したときに0に戻る)となる。絶縁体3の周りを1回ったとき、すなわち、φが2πとなって0に戻ったときのzの長さが、巻き付けピッチである。巻き付けピッチごとに隙間があり、この部分が、複数の金属線を一様に巻いて外部導体とした場合のスロット部となる。
【0046】
また、外部導体4が複数の金属線により構成されていることにより、可撓性に優れ、繰り返し曲げにも強い構造となっている。
【0047】
従来、絶縁体3上に螺旋状に巻き付けた複数の金属線によってスロットを形成するLCXを製作すれば、可撓性の良いものは得られていたが、スロットピッチが金属線の巻き付けピッチとなるため、スロットピッチの設計自由度が低かった。金属線のケーブル軸線に対する角度を約10度以下にすることは困難であり、これが事実上の編組ピッチの限界であり、スロットピッチの限界となっていた。例えば、絶縁体3の外径が5mmであれば、スロットピッチは、約90mmが限界であり、それ以上に長くすることはできなかった。
【0048】
本発明に係るLCXにおいては、ケーブルの長手方向に周期的なシールド密度の粗密が形成され、シールド密度が粗い部分がスロット部1となっているので、スロットピッチは、編組角度の限界に依存することがなくなり、長いスロットピッチを実現することが可能となっている。
【実施例】
【0049】
本発明に係るLCXの実施例として、以下のLCXを作成した。
【0050】
編組により外部導体4を構成するLCXとして、以下を作成した。
【0051】
内部導体2は、外径1.8mmの軟銅線とした。絶縁体3は、外径7.3mmの発泡ポリエチレンとした。外部導体4は、軟銅線編組であり、金属線径が0.16mm、6持×24打で、ピッチ15mmとピッチ105mmとが、編組長250mm毎に繰り返されるものとした。シース5は、厚さ1.0mm、外径10.0mmのPVCからなるものとした。
【0052】
このLCXの外部導体4におけるスロット部1のピッチは、250mmとなった。
【0053】
また、螺旋状の巻き付けた金属線により外部導体4を構成するLCXとして、以下を作成した。
【0054】
内部導体2は、外径1.8mmの軟銅線とした。絶縁体3は、外径7.3mmの発泡ポリエチレンとした。外部導体4は、複数の軟銅線を絶縁体3上に螺旋状に巻き付けたものであり、線径が0.16mmの192本の金属線を螺旋状に巻き付けた。ピッチ21mmとピッチ105mmとが、巻き付け長250mm毎に繰り返されるものとした。シース5は、厚さ1.0mm、外径9.7mmのPVCからなるものとした。
【0055】
このLCXの外部導体4におけるスロット部1のピッチは、250mmとなった。
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、漏洩同軸ケーブルに適用され、特に、外部導体に形成するスロット部の構造に適用されるものである。
【符号の説明】
【0057】
1 スロット部
2 中心導体
3 絶縁体
4 外部導体
5 外被(シース)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心導体と、この中心導体を被覆した絶縁体と、この絶縁体の外側を覆う外部導体とが同軸構造となされ、前記外部導体に漏洩電磁界形成用の複数のスロット部が形成された漏洩同軸ケーブルであって、
前記外部導体は、金属線からなる編組から構成され、金属線の密度がケーブル長手方向について周期的に変化しており、密度が粗の部分がスロット部となっている
ことを特徴とする漏洩同軸ケーブル。
【請求項2】
中心導体と、この中心導体を被覆した絶縁体と、この絶縁体の外側を覆う外部導体とが同軸構造となされ、前記外部導体に漏洩電磁界形成用の複数のスロット部が形成された漏洩同軸ケーブルであって、
前記外部導体は、複数の金属線を前記絶縁体上に螺旋状に巻き付けて構成され、金属線の密度がケーブル長手方向について周期的に変化しており、密度が粗の部分がスロット部となっている
ことを特徴とする漏洩同軸ケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−169771(P2012−169771A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−27596(P2011−27596)
【出願日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】