説明

潤滑性部材及びそれを用いた医療用器具

【課題】 耐久性のある潤滑性表面と人体組織に適合できるゴム性の柔軟性とを備えていて、特に医療用器具への適応性に勝れた潤滑性部材を得る。
【解決手段】 潤滑性部材10が、ポリイソプレンゴムに補強剤と過飽和量のコラーゲンとを配合してなる複合材料で形成され、液体との接触によって表面が潤滑性を呈するように構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑性表面を有する潤滑性部材及びこの潤滑性部材を用いた医療用器具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、現代の医療において、病気の診断や治療などには、カテーテルやファイバースコープ型内視鏡あるいは人工心臓といったような、体腔や内臓等の内腔内に直接挿入するタイプの医療用器具が多く使用されている。また最近では、飲み込んで使用するカプセル型内視鏡も開発されている。これらの医療用器具は、一般に、金属やプラスチック等を素材として形成されているが、それらに要求される共通かつ重要な問題は、内腔内に挿入する際に、苦痛や痛みを伴うことなく、また、人体組織を損傷することなく、滑らかかつ円滑に挿入することができるということである。
【0003】
このため従来では、例えば特許文献1に示すように、医療用器具の表面に各種成分を有する親水性ポリマーをコーティングすることにより、表面が潤滑性を有するように構成していた。
しかしながら、このようなコーティングによる親水層は耐久性が低く、人体組織との接触によって剥離あるいは溶出し易いため、安全面で問題があった。
【0004】
また、この種の医療用器具は、上述した表面の潤滑性の他に、その表面又は全体が、人体組織の柔軟さに適合する柔軟性を備えていることも要求される。特に、カテーテルのようなチューブ状をした医療用器具の場合は、血管や臓器などの複雑に分岐しあるいは曲がった内腔内に湾曲させながら挿入するため、湾曲部等における人体組織との強過ぎる接触を防止する上で、柔軟性の付与は非常に重要な要素である。
ところが、従来のように医療用器具をプラスチックで形成した場合、プラスチックの柔軟さは血管や臓器等の柔らかさと根本的に異質であるため、これらの血管や臓器等の柔らかさに適合できる柔軟性を持たせるのが非常に難しかった。
【0005】
一方、ゴムはプラスチックと違った柔軟性を備えていて、血管や臓器等の柔らかさと類似しているため、このゴムで医療用器具を形成すれば、柔軟性についての上述した問題を解消することができるものと考えられる。この場合、人体にアレルギーを起こさないゴム素材として、天然ゴムと同一組成のイソプレンゴムが知られているから、このイソプレンゴムを使用することが可能である。
しかし、ゴムの表面は平滑度に劣るため、潤滑性を持たせるのが非常に難しい。親水性ポリマーをコーティングする従来の方法は、上述したように親水層の耐久性が低いため、剥離や溶出など安全面での問題がある。
【特許文献1】特開2003−144541号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明の目的は、耐久性のある潤滑性表面と人体組織に適合できるゴム性の柔軟性とを備えていて、特に医療用器具への適応性に勝れた潤滑性部材と、この潤滑性部材を用いた医療用器具とを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明によれば、ポリイソプレンゴムに補強剤と過飽和量のコラーゲンとを配合してなる複合材料で形成され、液体との接触によって表面が潤滑性を呈することを特徴とする潤滑性部材が提供される。
【0008】
上記複合材料には加硫剤が添加されていて、所定の形状に成形したあと加硫処理が施されている。
【0009】
また、本発明によれば、体内への挿入により人体組織と接触する体内挿入部を有し、この体内挿入部の少なくとも表層部分が請求項1又は2に記載の潤滑性部材で形成されることにより、体液との接触によって表面が潤滑性を呈するように構成された医療用器具が提供される。
【0010】
上記体内挿入部は、全体として上記潤滑性部材で形成されていても、表面が上記潤滑性部材で被覆されていても良い。
【0011】
本発明の医療用器具においては、上記体内挿入部がチューブ状又はカプセル状をしている。
【発明の効果】
【0012】
本発明の潤滑性部材は、液体との接触によって表面が潤滑性を呈するため、潤滑性の表面を有することが要求される用途、例えば、カテーテルやファイバースコープ型内視鏡などの医療用器具における体内挿入部に用いることにより、勝れた効果を発揮する。
即ち、上記体内挿入部が血液や唾液等の体液と接触すると、過飽和量配合されたコラーゲンが表面に溶出してぬるぬるした状態となり、勝れた潤滑性の表面を形成するため、体腔や内臓等の内腔内に滑らかに挿入することができる。
また、ポリイソプレンゴムに配合したコラーゲンによって上記潤滑性表面を形成させるものであるため、親水性ポリマーをコーティングして親水層を形成する場合のような、剥離や溶出等による機能消失といった問題が全くなく、潤滑性表面の耐久性に勝れる。しかも、コラーゲンが人体構成物質の一種であって害がないため、医療用器具に使用した場合でも、安全性に勝れる。
更に、ポリイソプレンゴムはプラスチックに比べて柔軟性に勝れているため、補強剤とコラーゲンとの配合割合を変えることにより、用途に応じたゴム状弾性を容易に得ることができ、特に、医療用器具の体内挿入部に使用した場合、血管や臓器等の柔らかさに適合する様々な柔軟性を持たせることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1及び図2は、本発明に係る潤滑性部材の第1実施形態を示す部分側面図とその断面図であって、この潤滑性部材10は、細長くかつ可撓性のある断面円形又は楕円形のチューブ状に形成されていて、カテーテルやファイバースコープ型内視鏡などの医療用器具における体内挿入部として好適に使用されるものである。従って、これらの図は、上記潤滑性部材10を体内挿入部として用いた医療用器具の第1実施形態をも示すもので、「潤滑性部材」と「体内挿入部」とは実質的に同じものを示しているため、以下の説明においてはそれらを同一符号「10」で表示するものとする。
【0014】
上記体内挿入部10は、人体における体腔や内臓等の内腔の内部、具体的には、血管や尿道、食道、胃、腸などの内腔内に挿入されることによって人体組織と接触する部分であり、その内部に治療用や診察用の器具あるいは薬液等が挿入される。
【0015】
上記潤滑性部材10は、ポリイソプレンゴムを主材とし、これに補強剤と過飽和量のコラーゲンとを配合してなる複合材料により全体が一体成形され、加硫処理によってゴム状弾性が付与されている。具体的には、例えば、ポリイソプレンゴム100に対し、補強剤としての粉末シリカを2〜50部程度、コラーゲンを100部以上の過飽和量、つまり、上記ポリイソプレンゴム及び粉末シリカに吸着される量を上回る量だけ配合し、混練機で十分低い粘度になるまで混練する。次に、混練したコンパウンドに硫黄や過酸化物等の加硫剤を適量添加し、再び混練したあと、この複合材料を必要な形状及び寸法のチューブ状に押し出し成形し、熱及び圧力をかけて加硫処理することにより、上記潤滑性部材10が得られる。
【0016】
上記潤滑性部材10は、上記加硫処理後に必要な仕上げ処理や付加加工等を施されたあと、カテーテルやファイバースコープ型内視鏡などの医療用器具における上記体内挿入部として好適に用いられ、病気の診断や治療等に当たり、この体内挿入部10が、体腔や内臓等の内腔内に挿入される。このとき、この体内挿入部10が血液や唾液等の体液と接触すると、過飽和量を配合されたコラーゲンがこの体液と相和して表面に溶出し、ぬるぬるした状態となるため、該体内挿入部10の表面は勝れた潤滑性を示し、体腔や内臓等の内腔内に滑らかに挿入することができる。
なお、上記体内挿入部10は、挿入を開始する段階ではまだ表面が潤滑性を呈していないため、例えば、人間の体温程度に加温した生理食塩水等にそれを浸し、予め潤滑性表面を発現させたあと使用することが望ましい。
【0017】
上記体内挿入部10の好ましい直径や長さあるいは厚さ等は、医療用器具の種類や用途等によって異なるが、厚さについては大凡1〜2mm程度が目安である。また、上記ポリイソプレンゴムと補強剤とコラーゲンの配合割合についても、医療用器具の種類や用途等によって異なる。補強材の配合割合を変えることによって体内挿入部10の柔軟性を用途に応じて調整することができる。即ち、上記ポリイソプレンゴムがプラスチックに比べて柔軟性に勝れ、血管や臓器等に適合し易い基本的な柔らかさを備えているため、上記補強剤の配合割合を変えて柔軟性を調整することにより、該体内挿入部10に、使用対象となる血管や臓器等の柔らかさに適合する様々な柔軟性を持たせることが可能になり、この結果、複雑に湾曲する内腔に沿って円滑に湾曲させながら挿入することができるなど、良好な操作性及び追随性を得ることができる。また、表面の柔軟性により、人体組織と接触した際の衝撃を吸収しかつ強過ぎる接触を防止して、組織に損傷を与えるのをも防止することもきる。
なお、上記補強材としては、上記粉末シリカの他に、ポリエチレンの粉末を使用することもできる。
【0018】
また、上記潤滑性部材10(体内挿入部10)の表面の潤滑度は、コラーゲンの配合割合を変えることによって調整することができる。このコラーゲンは、ポリイソプレンゴムとの相性が良く、補強材即ちシリカに吸着されることでこのシリカの硬化剤としての機能を減少させるため、結果的に軟化剤としても機能する。そこで、このコラーゲンを、上記ポリイソプレンゴム及び粉末シリカに吸着される量を上回る過飽和量だけ配合することにより、過飽和分のコラーゲンが水分との接触により表面に溶出し、潤滑面を発現するのである。
【0019】
なお、上記コラーゲンは、人体の構成物質の一種であって害がないため、溶出しても安全である。また、このコラーゲンはポリイソプレンゴム中に配合されていて、体内挿入部10の表面に次々に現れることによって潤滑性表面を形成するため、親水性ポリマーをコーティングして親水層を形成した従来品のような剥離や溶出等による機能消失といった問題がなく、潤滑性表面の耐久性が勝れる。
【0020】
図3は、本発明に係る医療用器具の第2実施形態における体内挿入部の断面を示すもので、この第2実施形態の体内挿入部20が、図1及び図2に示す上記第1実施形態の医療用器具における体内挿入部10と相違する点は、第1実施形態の体内挿入部10は、全体が上記潤滑性部材で一体に形成されているのに対し、この第2実施形態における体内挿入部20は、表面が上記潤滑性部材10で被覆されているという点である。即ち、この体内挿入部20は、チューブ状をした挿入部本体21と、その表面に被着されたチューブ状の上記潤滑性部材10とによって多層状に形成されていて、その表層部分がこの潤滑性部材10で覆われている。この場合、上記潤滑性部材10は、ポリイソプレンゴムに補強剤と過飽和量のコラーゲンとを配合してなる上記複合材料によって形成されているが、上記挿入部本体21は、この潤滑性部材10とは別の可撓性素材、例えば合成樹脂や、コラーゲンを配合しないポリイソプレンゴム等によって形成されている。
【0021】
上記体内挿入部20は、合成樹脂又はポリイソプレンゴムからなる上記挿入部本体21と、上述した複合材料からなる上記潤滑性部材10とを二重に押し出し成形したあと、熱及び圧力をかけて加硫処理を施すことによってそれを形成することができる。あるいは、上記潤滑性部材10を単独でチューブ状に押し出し成形したあと、別に形成された挿入部本体21に被着するか、又は、予め形成された挿入部本体21の回りに該潤滑性部材10を押し出し成形によって被着したあと、それぞれ加硫処理を施すことによっても形成することができる。更には、上記潤滑性部材10を単独でチューブ状に押し出し成形して加硫処理し、別に形成された挿入部本体21に被着して使用しても良い。
【0022】
このように、挿入部本体21の表面に潤滑性部材10を被設して体内挿入部20とした場合でも、この潤滑性部材10によって勝れた潤滑性表面を得ることができる。また、ポリイソプレンゴムを主材とするこの潤滑性部材10の柔軟性により、人体組織との強過ぎる接触を防止して組織に損傷を与えるのを防止することができる。
【0023】
図4は本発明に係る医療用器具の第3実施形態を示すもので、この医療器具は、飲み込んで使用するカプセル型の内視鏡31の外面に潤滑性部材10を被設したもので、全体がカプセル型の体内挿入部30となっている。上記内視鏡31は、短柱状をした容器の内部にカメラとフラッシュライトと発振器とを内臓すると共に、軸線方向の一端に撮像口32と投光口33とを有し、この投光口33から光を断続的に投射しながら撮像口32を通じて臓器内部を撮影し、その情報を発振器により外部の受信装置に送信するものである。
【0024】
上記潤滑性部材10は、ポリイソプレンゴムに補強剤と過飽和量のコラーゲンとを配合し、さらに適量の加硫剤を添加した上述の複合材料をシート状に圧延し、それに熱及び圧力をかけて加硫処理を施すと共に、図5に示すような形状、即ち、一部に切れ目34を備えた筒状に加工し、これを上記内視鏡31の外面に巻き付けて接着剤等で接着、固定することにより、該内視鏡31の表面に被設されている。
【0025】
この第3実施形態の医療器具においても、内視鏡31の外面に被設した潤滑性部材10によって勝れた潤滑性表面を得ることができる。また、この潤滑性部材10の柔軟性により、食道や胃あるいは腸などと柔軟に接触して組織に損傷を与えるのが防止される。
なお、上記潤滑性部材10は、上記チューブ状やシート状以外の任意の形状に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係る潤滑性部材又はそれを適用した医療用器具の第1実施形態を示す部分側面図である。
【図2】図1の拡大断面図である。
【図3】本発明に係る医療用器具の第2実施形態を示す、図2と同様の拡大断面図である。
【図4】本発明に係る医療用器具の第3実施形態を示す部分断面図である。
【図5】第3実施形態における潤滑性部材の被着前の状態を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0027】
10 潤滑性部材
10,20,30 体内挿入部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイソプレンゴムに補強剤と過飽和量のコラーゲンとを配合してなる複合材料で形成され、液体との接触によって表面が潤滑性を呈することを特徴とする潤滑性部材。
【請求項2】
上記複合材料には加硫剤が添加されていて、所定の形状に成形したあと加硫処理が施されることを特徴とする請求項1に記載の潤滑性部材。
【請求項3】
体内への挿入により人体組織と接触する体内挿入部を有し、この体内挿入部の少なくとも表層部分が請求項1又は2に記載の潤滑性部材で形成されることにより、体液との接触によって表面が潤滑性を呈するように構成されていることを特徴とする医療用器具。
【請求項4】
上記体内挿入部が全体として上記潤滑性部材で形成されていることを特徴とする請求項3に記載の医療用器具。
【請求項5】
上記体内挿入部の表面が上記潤滑性部材で被覆されていることを特徴とする請求項3に記載の医療用器具。
【請求項6】
上記体内挿入部がチューブ状又はカプセル状をしていることを特徴とする請求項3から5の何れかに記載の医療用器具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−130240(P2006−130240A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−325584(P2004−325584)
【出願日】平成16年11月9日(2004.11.9)
【出願人】(598166054)鈴鹿エンジ有限会社 (4)
【Fターム(参考)】