説明

炭化ケイ素焼結体の製造方法

【課題】
SiC焼結体の焼結手段として、Al、B、C元素やAl化合物を焼結助剤にする方法はある。Al、B、C元素は懸濁液を作りにくく、混合に難点がある、また、Al化合物は合成が難しく、事実上単体合成ができない。従来方法では粉末成形と焼結に難点があった。
【解決手段】
高温で安定な化合物AlBC焼結助剤を見いだし、しかも容易にSiC粉末と懸濁液を作り、成型法と焼結法が改善できた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高密度な炭化ケイ素(SiC)焼結体を比較的低温で容易に製造する方法で、ウェハーステージ、静電チャック、ダミーウェハー等の半導体製造用装置用部品、機械加工用精密機械部品、耐化学腐食雰囲気メカニカルシール、原子炉用特殊部品等耐摩耗部品に利用されている先進的なSiC焼結体を供給する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
SiC焼結体は高温構造材料や耐摩耗材料などとして多用されている。焼結方法には、再結晶法、反応焼結法、微粉末の液相焼結法と固相焼結法など多くがある。近年応用が拡大した半導体製造部品用SiC焼結体は、上記の技術分野に挙げた焼結方法で最後者の固相焼結法によっている。
SiC粉末の固相焼結法を初めて開発したのは米国GE社のProchazkaで[Bull. Amer. Ceram. Soc., 52号885−891ページ、1973年]、それ以後、多くの研究と技術開発がなれ、現在のSiCが工業材料として確立された。工業的に利用されている焼結法はSiC粉末に焼結助剤としてホウ素(B)と炭素(C)を加え、2100℃前後で焼結するものである。一方、アルミニウム(Al)、BとC元素を加える方法も開発され、さらに、3元素から焼結中にAl化合物を生成させ、SiCの間に発生する液相を利用する方法が開発された[特許文献1]。
これによれば、当初開発されたB−C焼結助剤を添加する方法より低温で容易に焼結できるようになった。
この方法は、Al、BとC元素を元素や化合物で加えるが、3元素粉末をSiC粉末に混合するという難点が見いだされた。水系媒体で混合するのは分散が難しく、さらに、水系やアルコール系の懸濁液(サスペンション)が非常にできにくく、工業的に多用されるスリップキャスト(鋳込み成形)ができない。一方、Al化合物で加えることは優れた方法ではあったが、Alの合成は極めて難しく、事実上単体合成ができないことがわかった。
【特許文献1】特願2005−314157
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
Al焼結助剤は優れた焼結助剤であることが分かったが、上記のように混合に難点がある。元素から混合するとSiCとの懸濁液ができなく、均一混合が難しい。Al化合物を用いれば混合が改善できるが、Al化合物は高温で安定でなく、単一相として合成することは困難である。従って、原料の簡単な均一混合と懸濁液を利用したスリップキャスト成形ができなく、焼結性に悪影響を及ぼしていた。
本発明は、このような従来技術の問題点を解決することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
発明1のSiC焼結体の製造方法では、焼結助剤を構成するAl:B:Cの比率(モル比)を3:1:3とすることを特徴とする。
【0005】
発明2は、発明1の焼結方法において、前記焼結助剤がAlBC化合物粉末を含有していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するためAl−B−C系元素の反応を精査した結果、安定で容易に合成できる化合物AlBCを合成し、化合物はSiCとの懸濁液を容易に作ることを発見した。懸濁液を用いればスリップキャストによって任意形状の成形体を安価に作ることができた。これを通常のSiCの焼結に用いる炭素抵抗加熱炉等にて、1750−2000℃で焼結したところ、Al化合物と同様な焼結効果があり、理論密度95%程度以上の焼結体が得られることを発見した。
一方、Al、BとC元素を用いる場合では、よい懸濁液を作ることはできなかった。そこで、各元素をモル比で3:1:3として、SiCおよび水、好ましくはアルコール系溶媒を用いて、アトライターやビーズミルなど優れた混合方法を利用して混合した。プレス成形等で成形後、同様の炉で、焼結温度スケジュールを制御すると、AlBCが高温で生成し、上記と同様の焼結ができることもわかった。
以上から、AlBC化合物を用いたSiCの易焼結技術を完成した。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明において、焼結助剤としてアルミニウムまたはアルミニウム化合物の両方か一方、ならびにBまたはホウ素化合物の両方か一方、ならびに炭素または炭化可能な化合物の両方か一方とする。または焼結助剤としてAlBC化合物を用いる。さらに、SiC粉末に不純物として含有するシリカ(SiO)を除去するためにCを過剰に加えることもある。
混合物は一般的なボールミルやアトライターなどの混合機で混合し、静水圧プレス等で成形し、粉末成形体とする。工業的にはスリップキャスト法によって成形することが多用されている。この方法を利用するには、SiC粉末の懸濁液を作るが、Al、 B、 C元素はSiCとよい懸濁液、すなわち、粉末含有量が高く、粘性が低い懸濁液を作ることはできない。この場合、AlBC化合物を用いて懸濁液を作り、スリップキャストで成形する。
【0008】
成形体を黒鉛坩堝に入れ、黒鉛炉等にて、Ar等の不活性雰囲気で、1700〜1900℃で焼結する。より完全な緻密体を製造する必要がある場合は、加圧焼結(Hot−press, HP)やスパークプラズマ焼結(Spark−Plasma−Sintering、SPS)を利用して焼結する。
Al、B、C元素で添加物を加えた場合、添加物は焼結中にAlBC化合物を生成し、焼結を容易にする。工業的なSiC焼結体の焼結温度は21×10−22×10℃であるが、この方法では、17×10−19×10℃で十分に緻密化した焼結体が得られる。
【実施例】
【0009】
Al、炭化ホウ素(BC)とCの粉末を重量比64.3:9.89:25.8(モル比は3:0.25:3)に混合し、Ar雰囲気の黒鉛炉で18×10℃に加熱してAlBC化合物の粉末を合成した。AlBC粉末を用い、この粉末と1.5重量%PEI(Polyethylenimine、平均分子量10,000) をエタノールに超音波混合機で分散させた。粉末が約50体積%含有した懸濁液を作った。懸濁液の粘性は 101mPa・sであった。
この粉末をα−SiC粉末に10重量%加え、混合した。混合粉末と1.5重量%のPEI(Polyethylenimine、平均分子量10,000)をエタノールに超音波混合機で分散させ、粉末が約45体積%含有した懸濁液を作った。懸濁液の粘性は101mPa・sであった。これをスリップキャスト法で成形し乾燥して、密度約60%の粉末成形体を作った。
粉末成形体を黒鉛坩堝に入れ、黒鉛抵抗加熱炉にてArの不活性雰囲気で、19.5×10℃で2時間焼成した。その結果、密度2.98g/cm3(理論密度96%)のSiC焼結体が得られた。
同様にして用意した粉末をスパークプラズマ焼結(SPS)や常圧焼結(NS)にて19×10−20×10℃で焼結した。その結果、SPSでは密度3.11-3.17g/cm(理論密度96−99%)、NSでは2.71−3.00g/cm(理論密度84−93%)のSiC焼結体が得られた。
以上の方法による、AlBC化合物を添加した原料粉末の例を図5と懸濁液の例を図1〜4、焼結方法による焼結密度の結果を表1に記す。
表1の実施例No.1〜10はAlBC化合物粉末を助剤添加し、SiC粉末と懸濁液をつくり、スリップキャスト成形し、焼結したものである。
図1、2は懸濁液で、図3はスリップキャスト成形した原料粉末である。
また、図4は、実施例No.12,13で、添加物がAl、BC、C粉末とし、AlBC組成になるように添加したものである。SiCとの良好な懸濁液はできなく、粉末体積含有量が15%で粘土が84.6mPa・sであった。
図5は1800℃で合成したAlBC化合物粉末のX線回折図形である。図中のX線回折図形は、出発原料の混合が(a)10分の超音波混合、(b)150回転10分のアトリション混合、(c) 150回転10分のアトリション混合、(d) 200回転で3分のものである。
【0010】
【表1】

【比較例】
【0011】
SiC粉末と添加物のAl,B4CとC粉末を重量%で90.0、6.82、1.46、2.22に計量し、混合した。実施例と同じく、混合粉末と1.5重量%PEI(Polyethylenimine、平均分子量10,000)をエタノールに超音波混合機で分散させた。しかし、よい懸濁液を作ることはできなかった。懸濁液の粉末の含有量は15重量%で粘性がやく80mPa・s程度で、それ以上になることはなかった。従って、スリップキャストで成形することはできなかった。
混合粉末を1800℃まで加熱したが、添加した助剤がAl相や、AlBC化合物相を作ることはなかった。混合粉末を常圧焼結(NS)にて1900と2000℃で焼結した。焼結中にもAl相や、AlBC化合物相を作ることはなかった。焼結体の密度は各温度で2.60と3.00g/cmであった。スリップキャストが利用できないので、安価で大型の焼結体を合成することはできなかった。
【産業上の利用可能性】
【0012】
本発明は半導体を製造する機械部品、例えばICウェハーの加工ステージ部品、などに最適である。現在この部品は金属やアルミナで作られているが、比剛性率(弾性率/密度)が高いものが求められている。SiC焼結体は比剛性率が金属やアルミナより大きく、広く応用されることが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】AlBC含有量50vol%,の懸濁液
【図2】SiCと10wt%AlBCで含有量45vol%の懸濁液
【図3】SiCと10wt%AlBCの懸濁液をスリップキャストで成形した成形体
【図4】比較例に示したAl、BCとC粉末5vol%.の懸濁液で均一に混合できない例を示す
【図5】1800℃で加熱した原料粉末はSiCと合成したAlBCからなっている。 (a)10分の超音波混合、 (b)150回転/分1.5時間のアトリション混合、 (c)300回転/分10時間のアトリション混合、 (d)200回転/分で8時間、粉砕混合した原料粉末

【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼結助剤として、Al、B及びCを含有する粉末を用いて焼成する炭化ケイ素焼結体の製造方法であって、前記焼結助剤のAl:B:Cの比率(モル比)が3:1:3であることを特徴とする炭化ケイ素焼結体の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の焼結方法において、前記焼結助剤がAlBC化合物粉末を含有していることを特徴とする炭化ケイ素焼結体の製造方法

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−57259(P2009−57259A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−227317(P2007−227317)
【出願日】平成19年9月3日(2007.9.3)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年3月27日 社団法人 日本金属学会発行の「日本金属学会講演概要」に発表
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】