説明

炭素質音響振動板

【課題】低密度でありながら充分な剛性を有する炭素質音響振動板を提供する。
【解決手段】炭素質音響振動板の外表面に、縦方向および横方向の2方向において周期的な凹凸20を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素質音響振動板に関する。
【背景技術】
【0002】
各種音響機器や映像機器、携帯電話等のモバイル機器等に使用されているスピーカの振動板には、広範囲な周波数帯域、特に高音域において明瞭な音を忠実に再生できる性質が要求される。そのため振動板の材質には、振動板に充分な剛性を付与すべく弾性率が高いことと、振動板を軽量化すべく密度が低いこと、という一見相反する性質が求められる。特に、近年注目されているデジタルスピーカ用の振動板には、振動応答性への要請から、これらの性質が強く求められている。
【0003】
下記特許文献1および2には、アモルファス炭素中にカーボンナノ繊維(気相生長炭素繊維)と黒鉛を均一に分散させた材料からなる振動板が記載されている。しかしながらこの材料は、密度が1.0g/cm3以上と高いために、所望の音響特性を得るためには、高価なカーボンナノ繊維や黒鉛を多く配合して弾性率を高くする必要があり、肉厚もより薄くする必要がある。そのため、ハンドリング等により破損する問題があり、生産性にも課題を残している。
【0004】
特許文献3には、焼成(炭素化)してガラス状炭素(アモルファス炭素)とする前の樹脂の粉末を加熱して点融着させて多孔体とし、その後、炭素化して低密度のアモルファス炭素多孔体とすることが記載されている。しかしながらこの手法では40%以上の高い気孔率の多孔体を得ることは困難であり、振動板全体の密度が1.0g/cm3以下のものは得られていない。
【0005】
特許文献4には、炭素繊維の不織布または織布に樹脂を含浸して炭素化したものに気相の熱分解炭素を堆積させた音響用炭素振動板が記載されている。この手法においても40%以上の高い気孔率の多孔体を得ることは困難である。
【0006】
特許文献5には、発泡状態のグラファイトフィルムの表面をエッチングしてプラスチックを含浸させた音響振動板が記載されている。この発泡グラファイトとは、高分子を高温で炭素化する際に内部で生じるガスがグラファイト特有の層状構造を乱すことによりできた状態を指し、気孔の設計及び制御が困難である。そのために、発泡状態のグラファイトに樹脂を含浸して、部分的に薄くなっているグラファイトの欠陥部を補強することにより、再生周波数の平坦化をするものであり、樹脂によりグラファイトの欠陥を補強することが主旨である。また、エッチングを施して樹脂の含浸を実施しているので、工程も長く、管理も煩雑になりやすい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−32425号公報(特許第3630669号)
【特許文献2】特開2002−171593号公報
【特許文献3】特開平01−185098号公報
【特許文献4】特開昭62−163494号公報
【特許文献5】特開平05−22790号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって本発明の目的は、低密度で軽量でありながら充分な剛性を有し、良好な音響特性を呈し、工業的に安価に製造することのできる炭素質音響振動板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、アモルファス炭素を含み、少なくとも一方の表面に凹凸が設けられている炭素質音響振動板が提供される。
この凹凸は周期的であることが望ましく、互いに交差する2方向において周期的であることがさらに望ましい。
【0010】
前述の炭素質音響振動板は、アモルファス炭素と該アモルファス炭素中に均一に分散した炭素粉末とを含み、気孔率が40%以上の多孔体からなる低密度層と、アモルファス炭素を含み、前記低密度層をそれらの間に挟む2つの高密度層とを具備し、前記凹凸は、前記高密度層の少なくとも一方の外側表面に設けられることが好適である。
【0011】
ここで気孔率とは気孔を含む多孔体全体の体積に対する気孔の体積の百分率であり、骨格となるアモルファス炭素の密度を1.5g/cmとして、多孔体全体の体積および質量から計算される気孔率と定義する。
【0012】
上記のような表面の凹凸は、例えば、焼成して炭素化する前の、シート状に成形した樹脂の片面または両面に、例えば、ガラスファイバをシート状に編んだガラスクロスにPTFE(4フッ化エチレン樹脂)を含浸させて焼成したもの(以下PTFE含浸クロスと称する)を押し付けることによって形成することができる。同様な表面形状の型を用いても良い。
【発明の効果】
【0013】
表面に凹凸を設けることにより、剛性を損なわずに軽量化することができて、良好な音響特性が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例において得られる音響振動板の概念的な断面図である。
【図2】PTFE含浸クロスの表面粗さの測定結果のグラフである。
【実施例】
【0015】
(実施例1)アモルファス炭素源としての塩化ビニル樹脂35質量%と平均粒径0.1μmで長さ5μmのカーボンナノ繊維1.4質量%、気孔形成のための穴開け材としてのPMMAを複合した組成物に対して可塑剤としてジアリルフタレートモノマーを添加して、ヘンシェルミキサーを用いて分散させた後、加圧ニーダーを用いて十分に混練を繰り返して組成物を得、ペレタイザーによってペレット化し成形用組成物を得た。この成型用組成物のペレットを押出成形で厚さ400μmのシート状の成型物とし、さらに両面にフラン樹脂をコーティングした後、PTFE含浸クロス970−4UL(日東電工(株)製)を両面に押し付けて硬化させ、硬化後にPTFE含浸クロスをはがして多層シートとした。この多層シートを200℃のエアオーブン中で5時間処理しプリカーサー(炭素前駆体)とした。その後、窒素ガス中で20℃/hの昇温速度で昇温し、1000℃で3時間保持した。自然冷却したのちに、真空中1400℃で3時間保持した後、自然冷却して焼成を完了した。これにより、図1に概念的に示すように、アモルファス炭素10中にカーボンナノ繊維の粉末12が均一に分散し、PMMAの粒子が消失した後に残った球状の気孔14を有する多孔体の低密度層16と、その両面を覆い、外表面に周期的な凹凸20を有するアモルファス炭素からなる高密度層18とを有する音響振動板が得られた。
【0016】
このようにして得られた音響振動板の低密度層16の気孔率は70%、数平均気孔径は60μmであった。表面に周期的な凹凸を形成するために用いたPTFE含浸クロスの表面粗さの測定結果のグラフを図2(a)に示す。振動板全体の厚み、曲げ弾性、密度、およびJIS B0601:2001に従う表面粗さの測定結果を表1に示す。
(実施例2)PTFE含浸クロスとして品番970−4ULのものに代えて、平滑タイプの9700ULを用い、それ以外は実施例1と同様な工程で音響振動板を得た。用いたPTFE含浸クロスの表面粗さの測定結果のグラフを図2(b)に示す。振動板全体の厚み、曲げ弾性、密度、およびJIS B0601:2001に従う表面粗さの測定結果を表1に示す。
(比較例)PTFE含浸クロスに代えてPETフィルムを用い、それ以外は実施例1と同じ工程で音響振動板を得た。振動板全体の厚み、曲げ弾性、密度、およびJIS B0601:2001に従う表面粗さの測定結果を表1に示す。
【0017】
【表1】

【0018】
表1の結果から明らかなように、表面に周期的な凹凸を設けることにより、曲げ弾性が向上し、密度が低下する。表面粗さのパラメータに関しては、算術平均粗さRaが0.5μm以上、最大高さRzが3.1μm以上であることが望ましく、Raが1μm以上、Rzが5μm以上であることがさらに望ましいことがわかる。
【0019】
図2には表面に周期的な凹凸を形成するために用いたPTFE含浸クロスの表面粗さの測定結果が示されている。PTFE含浸クロスには、たて方向と横方向の2方向に、図2に示すような、30数μm周期、すなわち50μm以下の周期で周期的な凹凸があり、これが多層シートの両面に転写される。
【0020】
図2からわかるように、PTFE含浸クロスでは、図中上方の凸部を定める線よりも下方の凹部を定める線の方が鋭く曲がっている。すなわち、PTFE含浸クロスの凸部を定める面の曲率は凹部を定める面の曲率よりも小さい。これが転写される多層シートでは逆に、凹部を定める面の曲率の方が凸部を定める面の曲率よりも小さい。このような形状であることにより、構造剛性が維持されると考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アモルファス炭素を含み、少なくとも一方の表面に凹凸が設けられている炭素質音響振動板。
【請求項2】
前記凹凸は周期的である請求項1記載の炭素質音響振動板。
【請求項3】
前記凹凸は互いに交差する2方向において周期的である請求項2記載の炭素質音響振動板。
【請求項4】
前記凹凸が設けられた表面の表面粗さは、JIS B0601:2001に従って測定された算術平均粗さRaが0.5μm以上、最大高さRzが3.1μm以上である請求項1〜3のいずれか1項記載の炭素質音響振動板。
【請求項5】
前記算術平均粗さRaが1μm以上、最大高さRzが5μm以上である請求項4記載の炭素質音響振動板。
【請求項6】
前記凹凸における凹部を定める面の曲率は凸部を定める面の曲率よりも小さい請求項1〜5のいずれか1項記載の炭素質音響振動板。
【請求項7】
アモルファス炭素と該アモルファス炭素中に均一に分散した炭素粉末とを含み、気孔率が40%以上の多孔体からなる低密度層と、
アモルファス炭素を含み、前記低密度層をそれらの間に挟む2つの高密度層とを具備し、
前記凹凸は、前記高密度層の少なくとも一方の外側表面に設けられる請求項1〜6のいずれか1項記載の炭素質音響振動板。
【請求項8】
前記凹凸の周期は50μm以下である請求項1〜7のいずれか1項記載の炭素質音響振動板。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−77998(P2011−77998A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−229592(P2009−229592)
【出願日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【出願人】(000005957)三菱鉛筆株式会社 (692)
【Fターム(参考)】