無機粒子複合体の製造方法
【課題】無機粒子由来の表面硬度を有しつつ、脆さやはがれやすさの軽減された無機粒子複合体を提供する。
【解決手段】塑性変形可能な金属2と、該金属が塑性変形する条件では塑性変形しない無機粒子1との混合物からなる無機粒子複合体を製造する方法であって、前記金属と前記無機粒子との混合物からなり、内部に空隙を有する無機粒子構造体を用意する工程、及び該構造体に含まれる金属を塑性変形させる工程を含む方法。前記無機粒子構造体において、前記無機粒子の体積が前記金属の体積よりも大きい前記の方法。
【解決手段】塑性変形可能な金属2と、該金属が塑性変形する条件では塑性変形しない無機粒子1との混合物からなる無機粒子複合体を製造する方法であって、前記金属と前記無機粒子との混合物からなり、内部に空隙を有する無機粒子構造体を用意する工程、及び該構造体に含まれる金属を塑性変形させる工程を含む方法。前記無機粒子構造体において、前記無機粒子の体積が前記金属の体積よりも大きい前記の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属と無機粒子とから構成された無機粒子複合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フラットパネルディスプレイの前面板、携帯電話などの携帯機器のディスプレイなどには、傷つき防止の目的で表面硬度を高める処理、より具体的には、ハードコート層を形成する処理がなされている。従来、基材上にハードコート層を形成する技術としては、無機粒子と紫外線硬化性樹脂などとの混合物を基材に塗布し、これを紫外線硬化する方法、シリカ前駆体単独や、シリカ前駆体と無機粒子との混合物からなる塗布剤を基材上に積層し、前記塗布剤をゾルーゲル法により硬化する方法が知られている(特許文献1、2を参照)。しかしながら、上記従来技術では、無機粒子を含有するハードコート層と基材の物理的性質(たとえば弾性率や線膨張係数)が異なるため、ハードコート層の表面硬度を高くすればするほど、該ハードコート層が基材からはがれやすい。また、基材を除去してハードコート層のみからなる膜を形成した場合には、硬い膜ほど脆くなる。さらには、膜の脆さを軽減すると、表面硬度が低下する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−150484号公報
【特許文献2】特表2007−529588号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、無機粒子由来の表面硬度を有しつつ、脆さやはがれやすさの軽減された無機粒子複合体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下の[1]〜[12]を提供する。
[1] 塑性変形可能な金属と、該金属が塑性変形する条件では塑性変形しない無機粒子との混合物からなる無機粒子複合体を製造する方法であって、
前記金属と前記無機粒子との混合物からなり、内部に空隙を有する無機粒子構造体を用意する工程、及び
該構造体に含まれる金属を塑性変形させる工程
を含む方法。
[2] 前記無機粒子構造体において、前記無機粒子の体積が前記金属の体積よりも大きい前記[1]に記載の方法。
[3] 金属を塑性変形させる前記工程において、前記無機粒子構造体を加圧することにより前記金属を塑性変形させる前記[1]または[2]に記載の方法。
[4] 金属を塑性変形させる前記工程において、前記無機粒子構造体に電磁波を照射することにより前記金属を塑性変形させる前記[1]または[2]に記載の方法。
[5] 金属を塑性変形させる前記工程を実施して得られた構造体の表面を親水化処理する工程を更に含む前記[1]〜[4]のいずれか1項に記載の方法。
[6] 前記無機粒子構造体の表面を親水化処理する工程であって、金属を塑性変形させる前記工程を実施する前に行われる工程を更に含む前記[1]〜[4]のいずれか1項に記載の方法。
[7] 金属を塑性変形させる前記工程を実施して得られた構造体の表面を撥水化処理する工程を更に含む前記[1]〜[4]のいずれか1項に記載の方法。
[8] 前記無機粒子構造体の表面を撥水化処理する工程であって、金属を塑性変形させる前記工程を実施する前に行われる工程を更に含む前記[1]〜[4]のいずれか1項に記載の方法。
[9] 金属を塑性変形させる前記工程を実施して得られた構造体の表面を反射防止処理する工程を更に含む前記[1]〜[4]のいずれか1項に記載の方法。
[10] 前記無機粒子構造体の表面を反射防止処理する工程であって、金属を塑性変形させる前記工程を実施する前に行われる工程を更に含む前記[1]〜[4]のいずれか1項に記載の方法。
[11] 金属を塑性変形させる前記工程を実施して得られた構造体の表面にガラス層を付与する工程を更に含む前記[1]〜[4]のいずれか1項に記載の方法。
[12] 前記無機粒子構造体の表面にガラス層を付与する工程であって、金属を塑性変形させる前記工程を実施する前に行われる工程を更に含む前記[1]〜[4]のいずれか1項に記載の方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明の方法によれば、無機粒子由来の表面硬度を有しつつ、脆さやはがれやすさが軽減された無機粒子複合体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】無機粒子構造体3aの模式図である。
【図2】無機粒子構造体3aを加圧して得られた無機粒子複合体4aの模式図である。
【図3】無機粒子構造体3bの模式図である。
【図4】無機粒子構造体3bを加圧して得られた無機粒子複合体4bの模式図である。
【図5】無機粒子構造体3cの模式図である。
【図6】無機粒子構造体3cを加圧して得られた無機粒子複合体4cの模式図である。
【図7】無機粒子構造体3dの模式図である。
【図8】無機粒子構造体3dを加圧して得られた無機粒子複合体4dの模式図である。
【図9】無機粒子構造体3eの模式図である。
【図10】無機粒子構造体3eを加圧して得られた無機粒子複合体4eの模式図である。
【図11】図2に描かれた複合体4aの表面を親水化処理して得られた親水性無機粒子複合体5aの模式図である。
【図12】図4に描かれた複合体4bの表面を親水化処理して得られた親水性無機粒子複合体5bの模式図である。
【図13】図2に描かれた複合体4aの表面を撥水化処理して得られた撥水性無機粒子複合体7aの模式図である。
【図14】図4に描かれた複合体4bの表面を撥水化処理して得られた撥水性無機粒子複合体7bの模式図である。
【図15】図2に描かれた複合体4aの表面を反射防止処理して得られた反射防止性無機粒子複合体7aの模式図である。
【図16】図4に描かれた複合体4bの表面を反射防止処理して得られた反射防止性無機粒子複合体7bの模式図である。
【図17】図2に描かれた複合体4aの表面にガラス層を付与して得られた無機粒子複合体11aの模式図である。
【図18】図4に描かれた複合体4bの表面にガラス層を付与して得られた無機粒子複合体11bの模式図である。
【図19】無機粒子構造体3aの模式図である。
【図20】無機粒子構造体3aを成形して得られた無機粒子複合体成形品の模式図4aである。
【図21】無機粒子構造体3bの模式図である。
【図22】無機粒子構造体3bを成形して得られた無機粒子複合体成形品の模式図4bである。
【図23】図2に描かれた複合体4aを成形するプロセス(プレス成形)を表す模式図である。
【図24】無機粒子層に充填された金属の体積分率V(%)を求める方法に関する模式図である。
【図25】実施例1において製造された無機粒子複合体の断面TEM写真である。
【図26】比較例1において製造された無機粒子複合体の断面TEM写真である。
【図27】実施例2において製造された無機粒子複合体の断面TEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、塑性変形可能な金属と、該金属が塑性変形する条件では塑性変形しない無機粒子との混合物からなる無機粒子複合体を製造する方法であって、前記金属と前記無機粒子との混合物からなり、内部に空隙を有する無機粒子構造体を用意する工程、および該構造体に含まれる金属を塑性変形させる工程を含む方法である。
無機粒子構造体に含まれる前記金属は、塑性変形することができるもの、すなわち、塑性を有するものであれば、特に限定はない。ここで塑性とは、応力が弾性限度を超えたときに永久ひずみを生じて連続的に変形する性質のことをいい、金属が塑性変形するとは、弾性限度を超える応力が金属に作用して永久ひずみが生じて該金属が変形し、前記応力が除去されても変形した状態が維持される状態に該金属がなることをいう。このような金属の例として、たとえば、白金、金、パラジウム、銀、銅、ニッケル、亜鉛、アルミニウム、鉄、コバルト、ロジウム、ルテニウム、スズ、鉛、ビスマス、タングステン、インジウムなどの金属、2種以上の金属からなる合金やはんだ等が挙げられる。金属は、粒子状、板状、繊維状等どのような形状であってもよい。金属は、1種類の金属のみを用いてもよく、複数種類を金属を組み合わせてもよい。
金属が粒子状である場合、その粒径は、後述する無機粒子の粒径測定と同様にして測定することができる。金属粒子の粒径には限定はないが、アスペクト比2以下である場合には、粒径1〜500nm、好ましくは1〜200nm、さらには2〜100nmが好ましい。
【0009】
無機粒子構造体に含まれる前記無機粒子の例としては、酸化鉄、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化ケイ素(シリカ)、酸化チタン、酸化コバルト、酸化銅、酸化亜鉛、酸化セリウム、酸化イットリウム、酸化インジウム、酸化銀、酸化錫、酸化ホルミウム、酸化ビスマス、酸化インジウム錫などの金属酸化物、酸化インジウム錫などの金属複合酸化物、炭酸カルシウム、硫酸バリウムなどの金属塩、粘土鉱物、炭素系層間化合物などの無機層状化合物が挙げられる。無機粒子には、金属粒子は包含されない。
無機層状化合物としては、大きなアスペクト比が容易に得られる観点から、溶媒により膨潤し、かつへき開する性質を有する無機層状化合物が好ましく用いられる。溶媒により膨潤し、かつへき開する無機層状化合物としては、溶媒に対して膨潤性およびへき開性を有する粘土鉱物が特に好ましく用いられる。粘土鉱物は、一般に、シリカの四面体層の上部に、アルミニウムやマグネシウム等を中心金属にした八面体層を有する2層構造を有するタイプと、シリカの四面体層が、アルミニウム、マグネシウム等を中心金属にした八面体層を両側から挟んでなる3層構造を有するタイプに分類される。前者としては、カオリナイト族、アンチゴライト族等を挙げることができ、後者としては、層間カチオンの数によってスメクタイト族、バーミキュライト族、マイカ族等を挙げることができる。
粘土鉱物とは、層状の結晶構造を持つ珪酸塩鉱物を主成分として含有する鉱物である。例としてカオリナイト族、アンチゴライト族、スメクタイト族、バーミキュライト族、マイカ族等を挙げることができる。具体的には、カオリナイト、ディッカイト、ナクライト、ハロイサイト、アンチゴライト、クリソタイル、パイロフィライト、モンモリロナイト、ヘクトライト、テトラシリリックマイカ、ナトリウムテニオライト、白雲母、マーガライト、タルク、バーミキュライト、金雲母、ザンソフィライト、緑泥石等を挙げることができる。無機粒子は、1種類の無機粒子を用いてもよく、複数種類の無機粒子を組み合わせてもよい。平均粒径の異なる粒子を組み合わせて無機粒子構造体を形成することも可能である。
【0010】
無機粒子層を構成する無機粒子が親水性である場合、該無機粒子複合体は親水性に優れる部分を有するため、表面の傷つき防止に加え、汚れが水で流れ落ちる汚れ防止(セルフクリーニング)性能や、雪や氷がつきにくいまたは取れやすい(着雪・着氷防止)性能を有し、ドーム球場の屋根、競技場の屋根、カーポートの屋根、その他建物の屋根、天幕、建物の壁、窓、交通表示、道路用や建物用の防音板などの建築部材、農業ハウス用フィルム、トンネル用フィルム、カーテン用フィルム、マルチングフィルム、潅水ホース、潅水資材、種苗箱などの農業部材、電車のスカート部、外板、窓、自動車の外板、窓、パンパー、鏡などの輸送用機器部材、鏡、フローリング、テーブルトップ、いす、ソファなどの家具部材、テレビ、パソコン、洗濯機、冷蔵庫などの家電部材、電線、ケーブル、アンテナ、電線・ケーブル用鉄塔、太陽電池の採光面などの電気部材として好適である。
さらに親水性粒子膜に発現しやすい帯電防止性を生かし、帯電防止フィルム、包装用フィルム、除電フィルム、電子部品包装材料、食品包装材料など帯電防止部材としても好適である。親水性無機粒子としては、金属酸化物からなる粒子が挙げられる。親水化処理を施した無機粒子を用いることもできる。
【0011】
無機粒子の形状は、例えば、球状、針状、燐片状、繊維状等、どのような形状であってもよい。本発明において、これらの粒子の粒径は、動的光散乱法、シアーズ法、又はレーザー回折散乱法で測定される平均粒径、または、BET比表面積から計算される球相当径を指す。繊維状の場合にはその断面の径を指す。シアーズ法とは、Analytical Chemistry, vol. 28, p. 1981−1983, 1956に記載された方法であって、シリカ粒子の平均粒径の測定に適用される分析手法であり、pH=3のコロイダルシリカ分散液をpH=9にするまでに消費されるNaOHの量からシリカ粒子の表面積を求め、求めた表面積から球相当径を算出する方法である。無機粒子がアスペクト比2以下である場合、平均粒径は光学顕微鏡、レーザー顕微鏡、走査型電子顕微鏡、透過型電子顕微鏡、原子間力顕微鏡等を用いて観察された画像から求めることもできる。無機粒子の粒径は、原子間力やファンデルワールス力など粒子間の相互作用力の観点から1〜10000nmが好ましい。無機粒子がアスペクト比2以下である場合には、粒径1〜500nm、好ましくは1〜200nm、さらには2〜100nmが好ましい。無機粒子が無機層状化合物の場合には、粒径は10〜3000nm、好ましくは20〜2000nm、さらには100〜1000nmであることが好ましい。
【0012】
本発明の方法は、金属が塑性変形する条件では塑性変形しない無機粒子が用いられるが、金属が塑性変形する条件では無機粒子が塑性変形しないことは、金属が塑性変形する操作条件で無機粒子を加熱あるいは加圧して、無機粒子の形状あるいは物性の変化を調べることにより確認することができる。
無機粒子構造体が無機粒子および金属粒子の混合物から形成されている場合、両者の混合比率は任意であるが、表面硬度を保つという観点から、無機粒子構造体内の無機粒子の体積分率は、金属粒子の体積分率より大きいことが望ましい。
【0013】
本発明において、基材とは、無機粒子構造体を支持するものを指す。基材は、金属や無機粒子構造体を支持するものであれば特に限定はない。具体的には、金属、樹脂、ガラス、セラミック、紙、布などが、必要に応じた形状(フィルム状やシート状などの板状、棒状、繊維状、球状、三次元構造体状など)で用いられる。
【0014】
本発明において使用する無機粒子構造体は、少なくとも一部に空隙を有する構造体であり、たとえば、図1及び図3にその構造の代表例を示す。これらの図に示したように、本発明に適用する無機粒子構造体は、通常、多孔質構造を有しているが、孔の少なくとも一部は連通していることが好ましい。無機粒子構造体において孔が連通していることで、該構造体を加圧することにより塑性変形した金属によって当該構造体中の空隙が充填されやすくなる。
【0015】
無機粒子構造体を製造する方法としては、たとえば以下のような方法が挙げられる。
方法1:無機粒子と粒子状の金属と液体分散媒とを含む塗工液を基材に塗布し、塗布された塗工液から液体分散媒を除去する(すなわち、塗工液を乾燥する)ことにより形成する方法
図1は上記方法1により形成した無機粒子構造体3aの模式図である(基材は省略)。この例は、無機粒子の形状は球状の場合である。球状の無機粒子および金属粒子から形成されている無機粒子構造体は、これら粒子間に空隙を有する。該構造体3aを加圧することにより、該構造体3aの中の金属部分が塑性変形し、該構造体3a内の空隙を埋めていく。本発明の方法で製造される無機粒子複合体は、塑性変形した金属が前記構造体3a内の空隙の少なくとも一部に移動してこれを充填する結果として形成されると考えられる。金属によって空隙を全て満たした場合の無機粒子複合体が図2に示した複合体4aである。
本発明の方法では、構造体中の金属を塑性変形させることにより、該構造体中にあった空隙に塑性変形した金属が充填されるが、構造体中に多数ある空隙のうちの一部の空隙金属が充填されて、他の空隙には金属が充填されない場合や、一つの空隙の一部分だけに金属が充填される場合がある。もちろん、全ての空隙に完全に金属が充填されてもよい。金属の塑性変形および空隙への金属の充填の度合いは無機粒子複合体の目的とする機能により異なる。
【0016】
図3は上記方法1により形成した無機粒子構造体3bの模式図である。この例は、無機粒子の形状が板状の場合である。板状の無機粒子および金属粒子から形成されている構造体は、これら粒子間に空隙を有する。該構造体3bを加圧することにより、該構造体3bの中の金属部分が塑性変形し、該構造体3b内の空隙を埋めていく。本発明の方法で製造される無機粒子複合体は、塑性変形した金属が前記構造体3b内の空隙の少なくとも一部に移動してこれ埋めた結果として形成されると考えられる。金属によって空隙を全て満たした場合の無機粒子複合体が図4に示した複合体4bである。
【0017】
図5は、上記方法1により無機粒子構造体を形成し、次いで、それに含まれる金属を塑性変形させて複合化無機粒子構造体を形成し、次いでその上に、金属と無機粒子の混合物からなる層を更に形成して製造された積層構造体3cの模式図である。この例は、無機粒子は球状であり、金属は球状粒子の形態である場合を示している。球状の無機粒子および球状の金属粒子から形成されている積層構造体3cは、これら粒子間に空隙を有する。
まず、無機粒子と金属粒子の混合物を用い、上記方法1で無機粒子と金属粒子とからなる無機粒子構造体を形成する。この無機粒子構造体を以下「初期無機粒子構造体」と称する。次いで該初期無機粒子構造体の中の金属粒子を塑性変形させ、それにより前記初期構造体中の無機粒子が再配置されて高密度充填化され、前記構造体中の空隙体積は減少する。その結果生じた構造体を「複合化無機粒子構造体」と称する。次に、該複合化無機粒子構造体の上に、前記初期無機粒子構造体の製造に使用した前記混合物とは組成の異なる金属粒子と無機粒子の混合物からなる層を形成する。これにより、前記複合化無機粒子構造体と新たに形成された層とからなる積層構造体3cが形成される。新たに形成された前記層も、粒子からなるため空隙を有する。次に、前記積層構造体中の金属、すなわち、新たに形成された前記層中の金属粒子、および前記複合化無機粒子構造体内の塑性変形した金属および残存金属粒子を塑性変形させる。これにより、前記積層構造体中の無機粒子が再配置されて高密度充填化される。前記積層構造体中の空隙体積は減少する。その結果、図6に示されるような無機粒子複合体4cが形成される。
【0018】
図7は、板状の無機粒子を用いて製造された積層構造体を示しており、該積層構造体は、含まれている無機粒子が球状ではなく板状であることを除いて、図5に示されている積層構造体と基本的に同様である。図7に示されるような積層構造体を用い、それに含まれる金属、すなわち、複合化無機粒子構造体中の既に塑性変形した金属および残存金属粒子、および、該複合化無機粒子構造体の上に形成された層に含まれる金属粒子を塑性変形させる。その結果、該積層構造体中の無機粒子が再配置され、高密度充填化される。その結果、前記積層構造体中の空隙体積は減少して、図8に示されるような無機粒子複合体4dが形成される。
【0019】
図9は、他の積層構造体3eの模式図である。この積層構造体3eは、以下に記す操作を行うことにより形成される。
上記方法1により無機粒子構造体を形成する、
次いで、前記無機粒子構造体に含まれる金属を塑性変形させて複合化無機粒子構造体を形成する、
次いで該複合化無機粒子構造体の上に、金属と無機粒子の混合物からなる層を更に形成して第1の積層構造体を形成する、
次いで該第1の積層構造体の上に、金属と無機粒子の混合物からなる層を更に形成して第2の積層構造体を形成する、
次いで該第1の積層構造体の上に、金属と無機粒子の混合物からなる層を更に形成して第3の積層構造体を形成する、
次いで、該第3の積層構造体に含まれる金属を塑性変形させて、該積層構造体に含まれる無機粒子を再配置して高密度充填化する。この例は、無機粒子は球状であり、金属は球状粒子の形態である場合を示している。球状の無機粒子および球状の金属粒子から形成されている積層構造体3eは、これら粒子間に空隙を有する。
【0020】
まず、無機粒子と金属粒子の混合物を用い、上記方法1で無機粒子と金属粒子とからなる無機粒子構造体を形成する。この無機粒子構造体を以下「初期無機粒子構造体」と称する。次いで該初期無機粒子構造体の中の金属粒子を塑性変形させ、それにより前記初期構造体中の無機粒子が再配置されて高密度充填化され、前記構造体中の空隙体積は減少する。その結果生じた構造体を「複合化無機粒子構造体」と称する。次に、該複合化無機粒子構造体の上に、前記初期無機粒子構造体の製造に使用した前記混合物とは組成の異なる金属粒子と無機粒子の混合物からなる層を形成する。これにより、前記複合化無機粒子構造体と新たに形成された層とからなる積層構造体3cが形成される。更に、同様にして、金属粒子と無機粒子の混合物からなる層を重ねて形成する。これらの新たに形成された前記層も、粒子からなるため空隙を有する。次に、前記積層構造体中の金属、すなわち、新たに形成された前記層中の金属粒子、および前記複合化無機粒子構造体内の塑性変形した金属および残存金属粒子を塑性変形させる。これにより、前記積層構造体中の無機粒子が再配置されて高密度充填化される。前記積層構造体中の空隙体積は減少する。その結果、図10に示されるような無機粒子複合体4eが形成される。
【0021】
図10に示された無機粒子複合体では、無機粒子層は4層あり、最初に形成された無機粒子構造体に由来する部分(以下、これを「初期無機粒子層由来部」と称する)から最後に形成された層に由来する部分(以下、これを「最終無機粒子層由来部」と称する)に向かって、段階的に無機粒子層の空隙率は小さくなっている。最終無機粒子層由来部は空隙をほとんど持たない。空隙率が段階的に変化するよう複数の無機粒子層を積層して多層無機粒子構造体を製造したのち、該多層無機粒子構造体に含まれる金属を塑性変形させることにより無機粒子複合体を製造することができる。無機粒子層の空隙率は、その層を構成する無機粒子の粒径を変えることにより調節することができる。初期無機粒子層由来部から最終無機粒子層由来部まで金属で満たすと、図10の無機粒子複合体4eとなる。得られた無機粒子複合体は、金属の物性が支配的な領域と、無機粒子の物性が支配的な領域の双方を併せ持つ。無機粒子と金属の組み合わせを最適化すれば、全く異なる物性をひとつの無機粒子複合体に付与できる。
【0022】
空隙率が最も高い初期無機粒子層由来部と、空隙率が最も低い最終無機粒子層由来部について考える。空隙率が最も高い初期無機粒子層由来部の空隙の全てに金属が充填されているとき、この層の無機粒子に対する金属の存在比率は高く、該層は無機粒子の物性と金属の物性とが組み合わさった物性を持つ。
一方、空隙率が最も低い最終無機粒子層由来部の空隙に金属が充填されているとき、この層の無機粒子に対する金属の存在比率は極めて低く、該層は金属の物性の影響をほとんど受けないため、無機粒子の物性に等しい物性を持つ。
通常、異なる物性を持つ物質が一体化していると、物質間の物性の差が原因で密着性が不良となる。たとえばガラスと樹脂フィルムを貼合したものは、ガラスと樹脂の界面の線膨張率が異なるため、はがれやすい。しかし、図10に示すように、段階的に空隙率を変えて各層の物性を段階的に変化させた無機粒子複合体においては、複合体内で物性が徐々に変化しているため、各層間の密着性は高い。その結果、全く異なるふたつの物性を、層間の密着性を良好に保ったまま、無機粒子複合体に付与することができる。金属を塑性変形させることによって、積層した無機粒子層が有する空隙の少なくとも一部を充填することが好ましい。
【0023】
図11は、金属を塑性変形させる工程を実施して得られた構造体(これは、図2に示された無機粒子複合体4aに相当する)の表面を親水化処理して得られた親水性無機粒子複合体5aの模式図である。親水化処理の好ましい方法は、構造体の表面の少なくとも一部に親水化剤を含む層を積層する方法および/または構造体の表面の少なくとも一部に親水化剤を反応させる方法である。
【0024】
図12は、金属を塑性変形させる工程を実施して得られた構造体(これは、図4に示された無機粒子複合体4bに相当する)の表面を親水化処理して得られた親水性無機粒子複合体5bの模式図である。親水化処理の好ましい方法は、構造体の表面の少なくとも一部に、親水化剤を含む層を積層する方法および/または構造体の表面の少なくとも一部に親水化剤を反応させる方法である。
【0025】
図13は、金属を塑性変形させる工程を実施して得られた構造体(これは、図2に示された無機粒子複合体4aに相当する)の表面を撥水化処理して得られた撥水性無機粒子複合体7aの模式図である。撥水化処理の好ましい方法は、構造体の表面の少なくとも一部に、撥水剤を含む層を積層する方法および/または構造体の表面の少なくとも一部に撥水剤を反応させる方法である。
【0026】
図14は、金属を塑性変形させる工程を実施して得られた構造体(これは、図4に示された無機粒子複合体4bに相当する)の表面を撥水化処理して得られた撥水性無機粒子複合体7bの模式図である。撥水化処理の好ましい方法は、構造体の表面の少なくとも一部に、撥水剤を含む層を積層する方法および/または構造体の表面の少なくとも一部に撥水剤を反応させる方法である。
【0027】
図15は、金属を塑性変形させる工程を実施して得られた構造体(これは、図2に示された無機粒子複合体4aに相当する)の表面に反射防止処理して得られた反射防止性無機粒子複合体9aの模式図である。反射防止処理の好ましい方法は、構造体の表面に、反射防止剤をウエットコーティングおよび/またはドライコーティング(すなわち、蒸着)により付与する方法である。
【0028】
図16は、金属を塑性変形させる工程を実施して得られた構造体(これは、図4に示された無機粒子複合体4bに相当する)の表面に反射防止処理して得られた反射防止性無機粒子複合体9bの模式図である。反射防止処理の好ましい方法は、構造体の表面に、反射防止剤をウエットコーティングおよび/またはドライコーティング(すなわち、蒸着)により付与する方法である。
【0029】
図17は、金属を塑性変形させる工程を実施して得られた構造体(これは、図2に示された無機粒子複合体4aに相当する)の表面にガラス層を付与して得られたガラス被覆無機粒子複合体11aの模式図である。ガラス層を付与するための好ましい方法は、接着剤を介してガラスシートと構造体とを接着する方法、構造体の表面をガラス前駆体でコーティングした後に該ガラス前駆体をガラス化する方法、構造体に溶融ガラスを押出ラミネートする方法、である。
【0030】
図18は、金属を塑性変形させる工程を実施して得られた構造体(これは、図4に示された無機粒子複合体4bに相当する)の表面にガラス層を付与して得られたガラス被覆無機粒子複合体11bの模式図である。ガラス層を付与するための好ましい方法は、接着剤を介してガラスシートと構造体とを接着する方法、構造体の表面をガラス前駆体でコーティングした後に該ガラス前駆体をガラス化する方法、構造体に溶融ガラスを押出ラミネートする方法、である。
【0031】
図19は上記方法1により形成した無機粒子構造体3aの模式図である。該構造体3aを成形することにより、構造体3aの中の金属部分が塑性変形し、これが構造体3a中の空隙を埋めていくと同時に、該構造体と接する成形装置の表面の3次元形状が、構造体表面に転写され、構造体表面に3次元形状が付与される。空隙を全て満たした場合、図20の無機粒子複合体成形品4aとなる。空隙の一部を残すほうが、次に塗装処理などの処理をしやすいため、より好ましい。
【0032】
図21は上記方法1により形成した無機粒子構造体3bの模式図である。該構造体3bを成形することにより、構造体3bの中の金属部分が塑性変形し、これが構造体3b中の空隙を埋めていくと同時に、該構造体と接する成形装置の表面の3次元形状が、構造体表面に転写され、構造体表面に3次元形状が付与される。空隙を全てを満たした場合、図22の無機粒子複合体成形品4bとなる。空隙の一部を残すほうが、次に塗装処理などの処理をしやすいため、より好ましい。
【0033】
図23は、図2に描かれた複合体4aを成形するプロセス(プレス成形)を表す模式図である。プレス成形前に無機粒子構造体を予備加熱したり、プレス成形中に型内で加熱したり冷却したりしてもよい。
【0034】
前記方法1の実施に際して、無機粒子と粒子状の金属と液体分散媒とを含む塗工液を調製する。液体分散媒は、粒子を分散させる機能を有するものであればよく、水や揮発性の有機溶剤を用いることができるが、取り扱いが容易であることから水が好ましい。また、上記溶媒への分散性を改良するため、粒子には表面処理を施してもよいし、分散媒電解質や分散助剤を添加してもよい。塗工液において粒子をコロイド状に分散させる場合には、必要に応じてpH調整を行うことや電解質、分散剤を添加することができる。また、粒子を均一に分散させるために、必要に応じてスターラーによる攪拌、超音波分散、超高圧分散(超高圧ホモジナイザー)等の手法を適用してもよい。塗工液の粒子濃度は特に限定されないが、粒子の溶液内での安定性を保つため、1〜50重量%であることが望ましい。無機粒子がアルミナであって、塗工液がコロイド状態である場合には、該塗工液に塩素イオン、硫酸イオン、酢酸イオンなどの陰イオンを添加することが好ましい。無機粒子がシリカであって、塗工液がコロイド状態である場合には、該塗工液にアンモニウムイオン、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオンなどの陽イオンを添加することが好ましい。塗工液には、粒子の分散の安定化などを目的として、界面活性剤、多価アルコール、溶解性樹脂、分散性樹脂、有機系電解質などの添加剤を添加してもよい。
【0035】
塗工液が界面活性剤を含む場合、その含有量は液体分散媒100重量部に対し、通常0.1重量部以下である。用いられる界面活性剤は特に限定されるものではなく、例えばアニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤などが挙げられる。アニオン性界面活性剤としては、カルボン酸のアルカリ金属塩が挙げられ、具体的にはカプリル酸ナトリウム、カプリル酸カリウム、デカン酸ナトリウム、カプロン酸ナトリウム、ミリスチン酸ナトリウム、オレイン酸カリウム、ステアリン酸テトラメチルアンモニウム、ステアリン酸ナトリウムなどが挙げられる。特に、炭素原子数6〜10のアルキル鎖を有するカルボン酸のアルカリ金属塩が好ましい。カチオン性界面活性剤としては、例えば、塩化セチルトリメチルアンモニウム、塩化ジオクタデシルジメチルアンモニウム、臭化−N−オクタデシルピリジニウム、臭化セチルトリエチルホスホニウムなどが挙げられる。非イオン性界面活性剤としては、例えば、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステルなどが挙げられる。両性界面活性剤としては、2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、ラウリン酸アミドプロピルベタインなどが挙げられる。
【0036】
塗工液が多価アルコールを含む場合、その含有量は液体分散媒100重量部に対し、通常10重量部以下が好ましく、さらには5重量部以下が好ましい。多価アルコールを少量添加することで無機粒子複合体の帯電防止性を改良することができる。用いられる多価アルコールは特に限定されるものではなく、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのグリコール系多価アルコール、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリンなどのグリセリン系多価アルコール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、テトラメチロールプロパンなどメチロール系多価アルコールなどが挙げられる。
【0037】
塗工液が溶解性樹脂を含む場合、その含有量は液体分散媒100重量部に対し、通常1重量部以下が好ましく、さらには0.1重量部以下が好ましい。溶解性樹脂を少量添加することで無機粒子構造体の形成を容易にでき、溶解性樹脂の有する機能を付与できることがある。ここで用いられる溶解性樹脂は液体分散媒に可溶であれば、特に限定されるものではなく、例えば、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ビニルアルコールユニットを含む共重合体などのポリビニルアルコール系樹脂、セルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースなどの多糖類などが挙げられる。
【0038】
塗工液が溶液に分散可能な樹脂を含む場合、その含有量は液体分散媒100重量部に対し、通常10重量部以下、さらには5重量部以下、が好ましい。分散性樹脂を少量添加することで無機粒子構造体の形成を容易にでき、分散性樹脂の有する機能を付与できることがある。また、前記無機粒子と分散性樹脂の重量比に限定はないが、その比で好ましくは、50/50<無機粒子の重量分率/分散性樹脂の重量分率<99.9/0.1、より好ましくは90/10<無機粒子の重量分率/分散性樹脂の重量分率<99.5/0.5、さらに好ましくは95/5<無機粒子の重量分率/分散性樹脂の重量分率<99/1、である。ここで用いられる分散性樹脂は液体分散媒に分散可能であれば特に樹脂の種類について限定されるものではなく、広範な樹脂が使用可能である。樹脂の溶液中での存在形態としてサスペンションやエマルションと呼ばれる粒子状で媒体に分散するものが好ましく用いられる。例えば、フッ素樹脂系粒子分散液、シリコーン樹脂系粒子分散液、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂系粒子分散液、ポリ塩化ビニリデン樹脂系粒子分散液が挙げられる。特に、フッ素樹脂系粒子分散液として、三井・デュポンフロロケミカル社製PTFEディスバージョン31−JR、同34−JR、旭硝子社製FluonPTFEディスバージョンAD911L、同AD912L、同AD938Lなどが挙げられる。
【0039】
塗工液が有機系電解質を含む場合、その含有量は液体分散媒100重量部に対し、通常10重量部以下、さらには1重量部以下、が好ましい。有機系電解質を少量添加することで無機粒子構造体の形成を容易にでき、有機系電解質の有する機能を付与できることがある。ここで用いられる有機系電解質は液体分散媒に可溶であれば特に限定されるものではなく、例えば、BO33-、F-、PF6-、BF4-、AsF6-、SbF6-、ClO4-、AlF4-、AlCl4-、TaF6-、NbF6-、SiF62-、CN-、F(HF)n-(当該式中、nは1以上4以下の数値を表す)などの無機アニオンと後述する有機カチオンとの組み合わせ、後述する有機アニオンと有機カチオンとの組み合わせ、有機アニオンとリチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、水素イオンなどの無機カチオンとの組み合わせなどが挙げられる。有機カチオンとは、カチオン性有機化合物であり、例えば、有機4級アンモニウムカチオン、有機4級ホスホニウムカチオンなどが挙げられる。有機4級アンモニウムカチオンとは、アルキル基(炭素数1〜20)、シクロアルキル基(炭素数6〜20)、アリール基(炭素数6〜20)及びアラルキル基(炭素数7〜20)からなる群から選ばれる炭化水素基を有している4級のアンモニウムカチオンであり、有機第4級ホスホニウムカチオンとは前記と同様の炭化水素基を有している4級のホスホニウムカチオンである。前記炭化水素基は、水酸基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基、カルボキシル基、エーテル基、アルデヒド基などを有していてもよい。有機アニオンとは、置換基を有していてもよい炭化水素基を含むアニオンであり、例えば、N(SO2Rf)2-、C(SO2Rf)3-、RfCOO-、およびRfSO3-(Rfは炭素数1〜12のパーフルオロアルキル基を表す)からなる群より選ばれたアニオンや、カルボン酸、有機スルホン酸、有機リン酸等の有機酸又はフェノールから活性水素原子を除いたアニオンなどが挙げられる。
【0040】
必要に応じて、塗工液を得る際に凝集剤を添加することができる。凝集剤を添加することで構造制御された無機粒子構造体を得ることができる。凝集剤の例としては塩酸などの酸性物質またはその水溶液、水酸化ナトリウムなどのアルカリ性物質またはその水溶液、イソプロピルアルコール、イオン液体などが挙げられる。
【0041】
塗工液は、例えば、グラビアコーティング、リバースコーティング、刷毛ロールコーティング、スプレーコーティング、キスコーティング、ダイコーティング、ディッピング、バーコーティングなどのウェットコーティング法で塗布することができる。また、インクジェット印刷、スクリーン印刷、フレキソ印刷、グラビア印刷などの方法を用いれば、無機粒子層に任意の図柄を付与し得る。塗工液を塗布する回数、塗布一回あたりの塗工液の塗布量は任意であるが、均一な厚みに塗布するために、塗布一回あたりの塗布量が0.5g/m2〜40g/m2であることが好ましい。塗布した塗工液から液体分散媒を除去する方法、すなわち乾燥方法において、雰囲気の圧力や温度は、使用する無機粒子、金属および液体分散媒により適宜選択できる。たとえば液体分散媒が水である場合は、常圧下、25℃〜60℃で液体分散媒の除去が可能である。
【0042】
本発明の方法の様態のひとつとして、無機粒子構造体を用い、以下の工程(1)〜(3)を順に経て無機粒子複合体を得ることが可能である。
(1)前記構造体に含まれる金属を塑性変形させる工程
(2)前記構造体に含まれる無機粒子とは組成の異なる無機粒子からなる層を積層する工程
(3)無機粒子層を積層した無機粒子構造体に含まれる金属を塑性変形させる工程。
【0043】
なお、工程(1)を実施すると、構造体中にあった空隙に塑性変形した金属が充填されるが、構造体中に多数ある空隙のうちの一部の空隙金属が充填されて、他の空隙には金属が充填されない場合や、一つの空隙の一部分だけに金属が充填される場合がある。もちろん、全ての空隙に完全に金属が充填されてもよい。金属の塑性変形および空隙への金属の充填の度合いは無機粒子複合体の目的とする機能により異なる。
金属を塑性変形させる手段に限定はない。たとえば無機粒子構造体を加圧する方法、該構造体を加熱する方法、該構造体に電磁波を照射する方法、これらを併用する方法、が挙げられる。金属を塑性変形させる手段としては、少なくとも加圧する方法を採用することが好ましい。
【0044】
上記工程(2)は、無機粒子構造体に含まれる金属および/または無機粒子とは組成の異なる金属および/または無機粒子からなる層を積層する工程である。ここで、「無機粒子構造体に含まれる金属および/または無機粒子とは組成の異なる金属および/または無機粒子」について説明する。
【0045】
まず、無機粒子構造体に含まれる金属および無機粒子について、その種類や割合を特定する。例えば、無機粒子構造体として、平均粒子径が5nmの銀を10重量%、平均粒子径が70nmのシリカを60重量%、平均粒子径が5nmのシリカを20重量%、平均粒子径が10nmのフッ素樹脂を10重量%含む構造体があるとする。この場合、金属としては、平均粒径が5nmの銀を含み、その割合は12.5重量%である。無機粒子としては、平均粒子径が70nmのシリカと平均粒子径が5nmのシリカの2種類を含み、その割合は、前者が75重量%、後者が12.5重量%である。該構造体に含まれる金属および/または無機粒子とは組成の異なる金属および/または無機粒子としては、以下のようなものが挙げられる。
(i)平均粒子径が70nmのシリカか、平均粒子径が5nmのシリカの少なくとも一方を含まない混合粒子
(ii)無機粒子構造体に含まれる平均粒子径が70nmのシリカと同じ、平均粒子径が70nmのシリカと、該構造体に含まれる平均粒子系が5nmのシリカと同じシリカの混合物であるが、前者の混合割合が75重量%ではなく、後者の混合割合も12.5重量%ではない混合粒子
(iii)平均粒子径が70nmの無機粒子を75重量%、平均粒子径が5nmの無機粒子を12.5重量%含むが、少なくとも一方がシリカではない混合粒子
【0046】
無機粒子構造体に、該構造体に含まれる金属および/または無機粒子とは組成の異なる金属および/または無機粒子からなる層を積層する方法としては、たとえば以下のような方法が挙げられる。
方法1:金属および/または無機粒子と液体分散媒とを含む塗工液を、無機粒子構造体の表面に塗布し、塗布した塗工液から液体分散媒を除去する方法。
方法2:金属および/または無機粒子を含む板状物を無機粒子構造体の表面に積層する方法。
具体的には、リバースコート法、ダイコート法、ディップコート法、グラビアコート法、フレキソコート法、インクジェットコート法、スクリーン印刷法などのウエットコーティング法やスパッタリング法、CVD法、プラズマCVD法、プラズマ重合法、真空蒸着法などのドライコーティング法が好ましく用いられる。これらは単独でも複数組み合わせて用いてもかまわない。工程(2)と工程(3)は、それぞれ複数回行われてもよい。
【0047】
前記工程(1)〜(3)を含む方法によれば、各層由来の性能を発現しつつ、層間密着力の改善された無機粒子複合体を得ることができる。さらに、本発明の無機粒子複合体は、無機粒子や金属の種類に応じて、種々の特性を発現できる。特に、図5〜図10に示すように同一の金属が複数の層にわたり充填されている場合には、金属と各機能層の無機粒子部分の界面が金属の連続層となっており、このことにより、脆さやはがれやすさが軽減されていると考えられる。また図6、図8、図10に示すように金属が無機粒子構造体の空隙を極めて高い充填率で充填した場合、物質遮断性にも優れた無機粒子複合体を形成することが可能となる。
【0048】
本発明の方法における金属を塑性変形させる工程では、無機粒子構造体に電磁波を照射し、該構造体に含まれる金属を塑性変形させる。電磁波は、該構造体中の金属を選択的に照射し得るため、金属を塑性変形させる手段として好適である。無機粒子構造体に電磁波を照射することにより、該構造体に含まれる無機粒子を軟化や融解させることなく、金属を選択的に塑性変形させ、これを該構造体が有する空隙の少なくとも一部に充填することができる。電磁波は、陽子線、電子線、中性子線、ガンマ線、X線、紫外線、可視光線、赤外線、マイクロ波、低周波、高周波、およびこれらのレーザー光からなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。無機粒子構造体に電磁波を照射する際の、電磁波の波長や出力、照射時間などの照射条件の最適値は、無機粒子構造体や無機粒子や金属の電磁波吸収特性により異なる。無機粒子による吸収が小さく、金属による吸収が大きい波長領域の電磁波を照射することで、無機粒子や無機粒子構造体や生成する無機粒子複合体にダメージを与えることなく、金属を効率的に塑性変形することが可能である。
【0049】
金属の塑性変形を容易にする目的で、電磁波照射に加えて、補助的方法を用いてもよい。補助的方法としては、熱を加え金属を軟化する方法、化学物質を作用させ金属を軟化する方法、金属と空隙界面の親和性やすべり性を増す方法などが挙げられ、なかでも熱を加え金属を軟化する方法、が好ましく用いられる。無機粒子構造体全体を加熱し金属を軟化する方法する方法としては、オーブンやヒーターなどによる加熱雰囲気中に該構造体を投入する方法、熱した金属板やロールなどの熱媒に該構造体を接触させる方法などが挙げられる。
【0050】
本発明の方法の好ましい一つの態様では、金属を塑性変形させる工程を実施して得られた構造体の表面を親水化処理し、本発明の方法の他の好ましい一つの態様では、前記無機粒子構造体の表面を親水化処理する工程を、金属を塑性変形させる工程を実施する前に行う。親水化処理は、無機粒子構造体の表面の一部分に施してもよく、表面全てに施してもよい。本発明における親水化処理は、無機粒子構造体の表面の親水性を高める処理をであれば特に限定はない。好ましくは、無機粒子構造体の表面を親水化剤でコーティングする方法や、溶媒などによる構造体の表面の洗浄などが挙げられる。また、無機粒子構造体表面をコーティングする親水化剤として、親水性の無機粒子を用いてもよい。親水性の無機粒子とは、親水性基を持ち、水に対する親和性が高い粒子であり、例えば、炭酸カルシウム、二酸化チタン、タルク、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸カルシウム、アルミナ三水シリカ、アルミナ、ジルコニア、セリア、シリカ、硫酸カルシウム、ガラス微小球などが挙げられる。
【0051】
親水化剤で無機粒子構造体の表面をコーティングするメカニズムは、特に限定されず、無機粒子構造体の表面に親水化剤を物理的に吸着させてもよく、無機粒子構造体の表面と親水化剤とを反応させてもよい(化学吸着)。無機粒子構造体の表面を親水化剤でコーティングする方法としては、特に限定されず、リバースコート法、ダイコート法、ディップコート法、グラビアコート法、フレキソコート法、インクジェットコート法、スクリーン印刷法などのウエットコーティング法や、スパッタリング法、CVD法、プラズマCVD法、プラズマ重合法、真空蒸着法などのドライコーティング法が好ましく用いられる。付与される親水化剤の層の厚みは特に限定されないが、1〜50nm程度が好ましく、厚すぎると表面硬度が発現しにくくなるし、1nmよりも薄いと親水性が十分発現されない場合がある。より好ましくは、2〜30nm、特に3〜10nm程度である。
【0052】
本発明の親水化処理の一つである洗浄方法は特に限定されず、溶媒洗浄処理、粘着ロール除塵処理などの接触洗浄法や、紫外線照射、コロナ処理、プラズマ処理、フレームプラズマ処理、超音波除塵処理などの非接触洗浄法、が好ましく用いられる。親水化処理として、複数の手法を併用してもよい。
【0053】
本発明の方法の親水化処理を施す態様では、表面の少なくとも一部が無機粒子層で構成されている無機粒子構造体を用いることが好ましい。これは、無機粒子層は無機粒子が露出しているため親水化処理しやすいからである。本発明の親水性無機粒子複合体は、無機粒子の一部が金属を介して化学的または/および物理的に結合した状態のものである。
本発明の方法の好ましい一つの態様では、金属を塑性変形させる工程を実施して得られた構造体の表面を撥水化処理し、本発明の方法の他の好ましい一つの態様では、前記無機粒子構造体の表面を親水化処理する工程を、金属を塑性変形させる工程を実施する前に行う。
【0054】
無機粒子構造体表面を撥水化処理する方法は、特に限定されない。該構造体表面に撥水剤を含む層を積層する方法や、撥水剤を反応させる方法が好ましい。撥水化処理は、無機粒子構造体の表面の一部分に施してもよく、表面全てに施してもよい。
撥水化剤を含む層を積層する方法としては、リバースコート法、ダイコート法、ディップコート法、グラビアコート法、フレキソコート法、インクジェットコート法、スクリーン印刷法などのウエットコーティング法やスパッタリング法、CVD法、プラズマCVD法、プラズマ重合法、真空蒸着法などのドライコーティング法(すなわち、蒸着法)が好ましく用いられる。無機粒子構造体の表面に設ける撥水剤層の厚みは特に限定されないが、1〜50nm程度が好ましく、厚すぎると表面硬度が発現しにくくなるし、1nmよりも薄いと撥水性に劣る。より好ましくは、2〜30nm、特に3〜10nm程度である。
【0055】
撥水剤としては、フッ素原子を含有する低表面エネルギー・低界面エネルギーの化合物が好ましく、フッ化炭化水素基を含有するシリコーン系化合物、フッ化炭化水素基含有ポリマーなどが挙げられる。ダイキン工業株式会社製フッ素系表面防汚コーティング剤オプツールDSXなどが市販品として入手できる。
【0056】
その他の好ましい撥水剤として、特開2009−53591号公報に記載されているような、ケイ素原子が2つ以上のフッ素含有ケイ素化合物を挙げることができる。該化合物で無機粒子構造体をコーティングした場合、ケイ素原子同士が結合し、長鎖をつくるため、無機粒子構造体との化学的な吸着はケイ素原子が1個である場合と変わらないが、仮に無機粒子構造体とケイ素原子とが殆ど結合しなかったとしても、ケイ素原子同士が結合して長鎖となり前記構造体と物理的に吸着するため、比較的拭き取りに対して強固な膜を形成することができる。このため、反応性官能基と結合しているケイ素原子が2つ以上あるフッ素含有ケイ素化合物が適している。
反応性官能基と結合しているケイ素原子を2つ以上有するフッ素含有ケイ素化合物の具体例としては、
(CH3O)3SiCH2CH2CH2OCH2CF2CF2O(CF2CF2CF2O)pCF2CF2CH2OCH2CH2CH2Si(OCH3)3、(CH3O)2CH3SiCH2CH2CH2OCH2CF2CF2O(CF2CF2CF2O)pCF2CF2CH2OCH2CH2CH2SiCH3(OCH3)2、(CH3O)3SiCH2CH2CH2OCH2CF2(OC2F4)q(OCF2)rOCF2CH2OCH2CH2CH2Si(OCH3)3、(CH3O)2CH3SiCH2CH2CH2OCH2CF2(OC2F4)q(OCF2)rOCF2CH2OCH2CH2CH2SiCH3(OCH3)2、(C2H5O)3SiCH2CH2CH2OCH2CF2(OC2F4)q(OCF2)rOCF2CH2OCH2CH2CH2Si(OC2H5)3、(CH3O)3SiCH2C(=CH2)CH2CH2CH2OCH2CF2CF2O(CF2CF2CF2O)pCF2CF2CH2OCH2CH2CH2(CH2=)CCH2Si(OCH3)3、(CH3O)3SiCH2C(=CH2)CH2CH2CH2OCH2CF2(OC2F4)q(OCF2)rOCF2CH2OCH2CH2CH2(CH2=)CCH2Si(OCH3)3、(CH3O)2CH3SiCH2C(=CH2)CH2CH2CH2OCH2CF2(OC2F4)q(OCF2)rOCF2CH2OCH2CH2CH2(CH2=)CCH2SiCH3(OCH3)2を挙げることができる。ただし、p=1〜50の整数、q=1〜50の整数、r=1〜50の整数、q+r=10〜100の整数であり、式中の繰り返し単位の配列はランダム的である。
【0057】
本発明の方法で製造される撥水性無機粒子複合体の表面における純水の接触角は特に限定されないが、防水および防汚性の観点から、100゜以上であることが好ましく、かつ、オレイン酸の接触角は、70゜以上であることが好ましい。また上記以外に構造体または複合体の表面の一部を処理する方法として、特開2008−273784号公報、特開2008−7365号公報、特開2006−223957号公報に記載されているような、撥水機能を有する単分子膜を形成する方法、特開2006−188487号公報に記載されているような、機能性有機薄膜を形成する方法、WO2005/027611、特開平8−323280号公報に記載されているような、フラクタルな表面構造を形成する方法などを用いてもよい。
【0058】
本発明の方法で製造される撥水性無機粒子複合体の形状に特に限定はなく、要求される機能、使用される用途に応じた形状が用いられる。たとえば、フィルムやシートなどの板状、棒状、繊維状、球状、三次元構造体状などである。用途がフラットパネルディスプレイやフレキシブルディスプレイなどの場合には、撥水性無機粒子複合体の形状もフィルム状であることが好ましい。また、使用する無機粒子構造体は、表面に無機粒子層を有することが好ましい。この場合、無機粒子層の厚みは、特に限定されないが、100μm以下、好ましくは10μm以下、さらには5μm以下、特に1μm以下であることが好ましい。さらに柔軟性などが求められる場合には、無機粒子層の厚みは、5μm以下、好ましくは1μm以下、さらには0.5μm以下、特に0.2μm以下であることが好ましい。無機粒子層の厚みが、100μmより大きいと脆くなる傾向があり、0.01μm以下では硬度が発現しにくい傾向にある。
【0059】
本発明の方法によれば、無機粒子由来の表面硬度を有しつつ、脆さやはがれやすさが軽減された撥水性無機粒子複合体を得ることができる。さらに、本発明の方法で製造される撥水性無機粒子複合体は、撥水処理や無機粒子や金属の種類に応じて、種々の特性を発現できる。また図2及び図4に示すように金属が無機粒子構造体の空隙を極めて高い充填率で充填した場合、物質遮断性にも優れた撥水性無機粒子複合体を形成することが可能となる。
【0060】
本発明の方法の好ましい一つの態様では、金属を塑性変形させる工程を実施して得られた構造体の表面を反射防止処理し、本発明の方法の他の好ましい一つの態様では、前記無機粒子構造体の表面を反射防止処理する工程を、金属を塑性変形させる工程を実施する前に行う。
反射防止性無機粒子複合体の代表的模式図を図15、16に示したが、本発明はこれらに限定されるものではない。また、これら代表的模式図に示された複合体同士が複合されたものであってもよい。
また、本発明の工程を経て得られる無機粒子複合体は、前記した無機粒子構造体のうち、表面の少なくとも一部に無機粒子層を有する無機粒子構造体を用いて、該無機粒子構造体に含まれる金属を塑性変形させて、該無機粒子構造体が有する空隙の少なくとも一部に該金属を充填し、かつ該無機粒子層の表面まで金属を漏出させて得られる無機粒子複合体であってもよい。すなわち該無機粒子複合体は、その表面の少なくとも一部が、使用した無機粒子構造体に含まれていた金属で覆われている。本発明では、表面の少なくとも一部に、無機粒子構造体に由来する無機粒子が露出している層を有する無機粒子複合体を得ることが好ましい。このような無機粒子複合体は、反射防止処理を行いやすい。
【0061】
反射防止剤を無機粒子複合体表面に積層する方法としては特に限定されない。反射防止剤を含む塗工液を無機粒子構造体表面に塗布し、乾燥する方法や、リバースコート法、ダイコート法、ディップコート法、グラビアコート法、フレキソコート法、インクジェットコート法、スクリーン印刷法などのウエットコーティング法やスパッタリング法、CVD法、プラズマCVD法、プラズマ重合法、真空蒸着法などのドライコーティング法(すなわち、蒸着法)が好ましく用いられる。これらは単独でも複数組み合わせて用いてもかまわない。
積層される反射防止剤からなる層は、反射防止させる光の波長や使用する無機粒子複合体の屈折率、反射防止性無機粒子複合体を使用する雰囲気の屈折率など多様な因子を加味して設計される。積層する反射防止層は、単層でも多層でもよい。単層の場合には、低屈折率となる組成が用いられる。多層の場合、各層の屈折率、厚みは光学設計によって決定する。反射防止性能は多層が優れるが、コスト面では単層が優れる。たとえば、単層の反射防止層で可視光線の反射を防止する場合には、反射防止層の厚みを50〜150nmとすることが好ましく、80〜130nmとすることがより好ましい。光学設計方法としては、たとえば反射防止膜の特性と最適設計・膜作製技術」(2001.技術情報協会)や、「光学実務資料集〜各種応用展開を見据えて〜」(2006.情報機構)、「反射防止膜の特性と最適設計・膜作製技術」(2001.技術情報協会編)を参考にすることができる。
【0062】
以下、反射防止処理の一例として特開2006−327187号公報に記載された方法について詳述するが、本発明における反射防止処理はこれに限定されるものではない。
反射防止剤として使用する混合無機粒子分散液は、粒子径が10〜60nmである3個以上の粒子が鎖状に連なった無機粒子鎖(A)、平均粒子径が1〜20nmである無機粒子(B)および液体分散媒を用いて調製され、下式(1)および(2)を満たす。
(1)0.55≦RVa≦0.90
(2)0.10≦RVb≦0.45
但し、RVaは前記分散液中における前記無機粒子鎖(A)と無機粒子(B)の合計体積に対する前記無機粒子鎖(A)の体積の割合であり、RVbは前記分散液中における前記無機粒子鎖(A)と無機粒子(B)の合計体積に対する前記無機粒子(B)の体積の割合である。
無機粒子鎖(A)の化学組成と無機粒子(B)の化学組成とは同じであってもよく、また異なっても良い。無機粒子鎖(A)および無機粒子(B)として使用される無機粒子の例としては、酸化ケイ素(シリカ)、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化錫、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、タルク、カオリン等が挙げられる。溶媒中での分散性が良好であり、屈折率が低く、また、粒径分布が小さい粉体の入手が容易であるので、無機粒子鎖(A)と無機粒子(B)はシリカであることが好ましい。
無機粒子鎖(A)とは、粒子径が10〜60nmである粒子が3個以上鎖状に連なっている無機粒子の鎖である。このような無機粒子鎖としては市販品を使用することができ、その例としては、日産化学工業株式会社製のスノーテックス(登録商標)PS−S、PS−SO、PS−M、PS−MO(これらは、水を分散媒とするシリカゾルである)、および日産化学工業株式会社製のIPA−ST−UP(これは、イソプロパノールを分散媒とするシリカゾルである)などを挙げることができる。無機粒子鎖を形成している粒子の粒子径、および無機粒子鎖の形状は透過型電子顕微鏡により観察により決定できる。ここで、「鎖状に連なった」という表現は、「環状に連なった」に相対する表現であり、直線状に連なったものだけではなく、折れ曲がって連なったものも包含される。
無機粒子(B)の平均粒子径は1〜20nmである。ここで無機粒子(B)の平均粒子径は動的光散乱法またはシアーズ法により求められる。動的光散乱法による平均粒子径の測定は、市販の粒度分布測定装置を使用して行うことができる。シアーズ法とは、Analytical Chemistry, vol. 28, p. 1981-1983, 1956に記載された方法であって、シリカ粒子の平均粒子径の測定に適用される分析手法であり、pH=3のコロイダルシリカ分散液をpH=9にするまでに消費されるNaOHの量から表面積を求め、求めた表面積から球相当径を算出する方法である。このようにして求められた球相当径を平均粒子径とする。
【0063】
混合無機粒子分散液は、典型的には、例えば下記[1]〜[5]のいずれかの方法により調製することができるが、これらの方法に限定されるものではない。
[1]無機粒子鎖(A)の粉末と無機粒子(B)の粉末とを同時に共通の液体分散媒中に添加し、分散させる方法。
[2]無機粒子鎖(A)を第一の液体分散媒中に分散させて第一の分散液を調製し、別途、無機粒子(B)を第二の液体分散媒中に分散させて第二の分散液を調製し、次いで第一および第二の分散液を混合する方法。
[3]無機粒子鎖(A)を液体分散媒中に分散させて分散液を調製し、次いで該分散液に無機粒子(B)の粉末を添加し、分散させる方法。
[4]無機粒子(B)を液体分散媒中に分散させて分散液を調製し、次いで該分散液に無機粒子鎖(A)の粉末を添加し、分散させる方法。
[5]分散媒中で粒成長させて無機粒子鎖(A)を含有する第一の分散液を調製し、別途、分散媒中で粒成長させて無機粒子(B)を含有する第二の分散液を調製し、次いで第一および第二の分散液を混合する方法。
超音波分散、超高圧分散等の強分散手法を適用することにより、混合無機粒子分散液中において、無機粒子を特に均一に分散させることが出来る。より均一な分散を達成するために、混合無機粒子分散液の調製に使用する無機粒子鎖(A)の分散液や無機粒子(B)の分散液や、最終的に得られる混合無機粒子分散液中で無機粒子はコロイド状態であることが好ましい。分散媒には水や揮発性の有機溶媒を用いることができる。
【0064】
前記[2]、[3]、[4]または[5]の方法において、無機粒子鎖(A)の分散液、無機粒子(B)の分散液、または無機粒子鎖(A)の分散液と無機粒子(B)の分散液の両方がコロイダルアルミナである場合には、陽性に帯電するアルミナ粒子を安定化させるため、コロイダルアルミナ中に塩素イオン、硫酸イオン、酢酸イオンなどの陰イオンを対アニオンとして添加することが好ましい。コロイダルアルミナのpHは特に限定されるものではないが、分散液の安定性の観点からpH2〜6であることが好ましい。また、前記[1]の方法においても、無機粒子鎖(A)および無機粒子(B)の少なくとも一方がアルミナであって、混合無機粒子分散液がコロイド状態である場合には、該混合無機粒子分散液に塩素イオン、硫酸イオン、酢酸イオンなどの陰イオンを添加することが好ましい。
【0065】
前記[2]、[3]、[4]または[5]の方法において、無機粒子鎖(A)の分散液、無機粒子(B)の分散液、または無機粒子鎖(A)の分散液と無機粒子(B)の分散液の両方がコロイダルシリカである場合には、陰性に帯電するシリカ粒子を安定化させるため、コロイダルシリカ中にアンモニウムイオン、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオンなどの陽イオンを対カチオンとして添加することが好ましい。コロイダルシリカのpHは特に限定されるものではないが、分散液の安定性の観点からpH8〜11であることが好ましい。また、前記[1]の方法においても、無機粒子鎖(A)および無機粒子(B)のうちの少なくとも一つがシリカであって、混合無機粒子分散液がコロイド状態である場合には、該混合無機粒子分散液にアンモニウムイオン、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオンなどの陽イオンを添加することが好ましい。
混合無機粒子分散液は、下式(1)および(2)を満たす。
(1)0.55≦RVa≦0.90
(2)0.10≦RVb≦0.45
但し、RVaは前記分散液中における前記無機粒子鎖(A)と無機粒子(B)の合計体積に対する前記無機粒子鎖(A)の体積の割合であり、RVbは前記分散液中における前記無機粒子鎖(A)と無機粒子(B)の合計体積に対する前記無機粒子(B)の体積の割合である。換言すれば、上式におけるRVaおよびRVbは、それぞれ無機粒子鎖(A)の体積分率および無機粒子(B)の体積分率に相当する。無機粒子鎖(A)および無機粒子(B)が同じ化学種であれば、一般に、無機粒子鎖(A)および無機粒子(B)の体積分率(RVaおよびRVb)は、無機粒子鎖(A)および無機粒子(B)の重量分率と等しい。混合無機粒子分散液に含まれる無機粒子鎖(A)および無機粒子(B)の量は特に限定されるものではないが、塗工性および分散性の観点から1〜20重量%であることが好ましく、3〜10重量%であることがより好ましい。
【0066】
混合無機粒子分散液には、無機粒子の分散の安定化などを目的として、界面活性剤、有機系電解質などの添加剤を添加してもよい。混合無機粒子分散液が界面活性剤を含む場合、その含有量は分散媒100重量部に対し、通常0.1重量部以下である。用いられる界面活性剤は特に限定されるものではなく、例えばアニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤などが挙げられる。界面活性剤としては、以下に例示した化合物を使用することができる。
界面活性剤としては、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、両イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤があり、特に限定はない。樹脂との相溶性および熱安定性の観点から、非イオン界面活性剤が好ましく用いられる。
具体的には、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノモンタネート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンジオレエート等のソルビタン脂肪酸エステル及びそのアルキレンオキサイド付加物等のソルビタン系界面活性剤、グリセリンモノパルミテート、グリセリンモノステアレート、ジグリセリンジステアレート、トリグリセリンモノステアレート、テトラグリセリンジモンタネート、グリセリンモノオレエート、ジグリセリンモノオレエート、ジグリセリンセスキオレエート、テトラグリセリンモノオレエート、ヘキサグリセリンモノオレエート、ヘキサグリセリントリオレエート、テトラグリセリントリオレエート、テトラグリセリンモノラウレート、ヘキサグリセリンモノラウレート等のグリセリン脂肪酸エステル及びそのアルキレンオキサイド付加物等のグリセリン系界面活性剤、ポリエチレングリコールモノパルミテート、ポリエチレングリコールモノステアレート等のポリエチレングリコール系界面活性剤、アルキルフェノールのアルキレンオキシド付加物、ソルビタン/グリセリン縮合物と有機酸とのエステル、ポリオキシエチレン(2モル)ステアリルアミン、ポリオキシエチレン(4モル)ステアリルアミン、ポリオキシエチレン(2モル)ステアリルアミンモノステアレート、ポリオキシエチレン(4モル)ラウリルアミンモノステアレート等のポリオキシエチレンアルキルアミン及びその脂肪酸エステル等が挙げられる。さらにパ−フルオロアルキル基、ω−ヒドロフルオロアルキル基等を有するフッ素化合物(特にフッ素系界面活性剤)、またアルキルシロキサン基を有するシリコーン系化合物(特にシリコーン系界面活性剤)等が挙げられる。フッ素系界面活性剤の具体例としては、ダイキン工業(株)製のユニダインDS−403、DS−406、DS−401(商品名)、セイミケミカル(株)製のサーフロンKC−40(商品名)等が挙げられ、シリコーン系界面活性剤としては、東レダウコーニングシリコーン(株)社製のSH−3746(商品名)が挙げられる。
【0067】
混合無機粒子分散液が有機系電解質を含む場合には、その含有量は液体分散媒100重量部に対し、通常0.01重量部以下である。有機系電解質としては、以下に例示した化合物を使用することができる。
ここで用いられる有機系電解質は液に溶解しておれば特に限定されるものではなく、例えば、BO33-、F-、PF6-、BF4-、AsF6-、SbF6-、ClO4-、AlF4-、AlCl4-、TaF6-、NbF6-、SiF62-、CN-、F(HF)n-(当該式中、nは1以上4以下の数値を表す)などの無機アニオンと後述する有機カチオンとの組み合わせ、後述する有機アニオンと有機カチオンとの組み合わせ、有機アニオンとリチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、水素イオンなどの無機カチオンとの組み合わせなどが挙げられる。
有機カチオンとは、カチオン性有機化合物であり、例えば、有機4級アンモニウムカチオン、有機4級ホスホニウムカチオンなどが挙げられる。有機4級アンモニウムカチオンとは、アルキル基(炭素数1〜20)、シクロアルキル基(炭素数6〜20)、アリール基(炭素数6〜20)及びアラルキル基(炭素数7〜20)からなる群から選ばれる炭化水素基を有している4級のアンモニウムカチオンであり、有機第4級ホスホニウムカチオンとは前記と同様の炭化水素基を有している4級のホスホニウムカチオンである。前記炭化水素基は、水酸基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基、カルボキシル基、エーテル基、アルデヒド基などを有していてもよい。
有機アニオンとは、置換基を有していてもよい炭化水素基を含むアニオンであり、例えば、N(SO2Rf)2-、C(SO2Rf)3-、RfCOO-、およびRfSO3-(Rfは炭素数1〜12のパーフルオロアルキル基を表す)からなる群より選ばれたアニオンや、カルボン酸、有機スルホン酸、有機リン酸等の有機酸又はフェノールから活性水素原子を除いたアニオンなどが挙げられる。
【0068】
前記した無機粒子鎖(A)と無機粒子(B)と液体分散媒とを使用して調製した混合無機粒子分散液を、無機粒子複合体に塗布し、ついで、塗布した混合無機粒子分散液から液体分散媒を適当な手段で除去することにより、前記無機粒子複合体上に無機粒子層が形成される。この無機粒子層は反射防止機能を有するので、これによって反射防止性無機粒子複合体が形成されることになる。反射防止機能を有する無機粒子層の厚さは特に限定されない。ディスプレイ内部における外部光の反射を効果的に防止するためにディスプレイの表面層として使用するのに適した反射防止性無機粒子複合体の製造においては、反射防止性無機粒子複合体における無機粒子層の厚みを50〜150nmとすることが好ましく、80〜130nmとすることがより好ましい。無機粒子層の厚みは、混合無機粒子分散液中の無機粒子鎖(A)および無機粒子(B)の量、および混合無機粒子分散液の塗布量を変更することにより調節することができる。
無機粒子複合体表面に混合無機粒子分散液を塗布する方法は特に限定されず、例えば、グラビアコーティング、リバースコーティング、刷毛ロールコーティング、スプレーコーティング、キスコーティング、ダイコーティング、ディッピング、バーコーティングなどのウエットコーティング法で塗布することができる。
無機粒子複合体に混合無機粒子分散液を塗布する前に、無機粒子複合体の表面にコロナ処理、オゾン処理、プラズマ処理、フレーム処理、電子線処理、アンカーコート処理、洗浄処理などの前処理を行なうことが好ましい。
無機粒子複合体上に塗布した混合無機粒子分散液から液体分散媒を除去することにより、無機粒子複合体上に無機粒子層を形成する。液体分散媒の除去は、例えば、常圧下または減圧下における加熱により行なうことができる。液体分散媒の除去の際の圧力、加熱温度は、使用する材料(すなわち、無機粒子鎖(A)、無機粒子(B)および液体分散媒)に応じて適宜選択することができる。例えば、分散媒が水であるときは、一般的には50〜80℃で、好ましくは約60℃で乾燥することができる。
特開2006−327187号公報の方法によれば、200℃を超えるような高温での処理を行うことなく、反射防止機能を有し、硬度に優れた無機粒子層を無機粒子複合体上に形成することができる。これは、形成された無機粒子層が、無機粒子鎖(A)の間隙に無機粒子(B)が位置する構造となっており、無機粒子(B)を介して無機粒子鎖(A)が繋ぎ止められているからであると考えられる。
【0069】
本発明の方法で製造される反射防止性無機粒子複合体には必要に応じて、防汚処理、帯電防止処理などを施してもよい。防汚処理とは、指紋汚れなどを防ぐあるいは拭き取りを容易にするためのものであり、反射防止性無機粒子複合体表面を撥水剤などでコーティングしたり、該複合体表面に撥水剤などを反応させたりするによって行うことができる。帯電防止処理することにより、視認性を確保するため埃の付着を防止したり、帯電に起因する放電により光学素子が破壊することを防ぐことができる。帯電防止処理としては、前記の界面活性剤や導電材の添加や積層がなされることが多い。
本発明の方法で製造される反射防止性無機粒子複合体表面における純水の接触角は特に限定されないが、防水および防汚性の観点から、100゜以上であることが好ましく、かつ、オレイン酸の接触角は、70゜以上であることが好ましい。
【0070】
本発明の方法の好ましい一つの態様では、金属を塑性変形させる工程を実施して得られた構造体の表面にガラス層を付与し、本発明の方法の他の好ましい一つの態様では、前記無機粒子構造体の表面にガラス層を付与する工程を、金属を塑性変形させる前記工程を実施する。ガラスを積層した無機粒子複合体の代表的模式図を図17、18に示したが、本発明はこれらに限定されるものではない。また、これら代表的模式図に示された複合体同士が複合されたものであってもよい。
本発明の方法で製造される無機粒子複合体は、表面の少なくとも一部に無機粒子層を有する無機粒子構造体を用いて、該無機粒子構造体に含まれる金属を塑性変形させて、該無機粒子層の表面に該金属を漏出させずに、かつ該無機粒子構造体が有する空隙の少なくとも一部に該金属を充填して得られる無機粒子複合体であってもよい。すなわち該無機粒子複合体は、その表面の少なくとも一部に無機粒子構造体に由来する無機粒子層を有する。
【0071】
また、本発明の方法で製造される無機粒子複合体は、表面の少なくとも一部に無機粒子層を有する無機粒子構造体を用いて、該無機粒子構造体に含まれる金属を塑性変形させて、該無機粒子構造体が有する空隙の少なくとも一部に該金属を充填し、かつ該無機粒子層の表面まで金属を漏出させて得られる無機粒子複合体であってもよい。すなわち該無機粒子複合体は、その表面の少なくとも一部が、使用した無機粒子構造体に含まれていた金属で覆われている。
【0072】
本発明では、表面の少なくとも一部に、無機粒子構造体に由来する無機粒子層を有する無機粒子複合体を得ることが好ましい。このような無機粒子複合体は、ガラスと積層しやすい。無機粒子複合体とガラスとを積層する方法としては特に限定はなく、後述するように好ましくは、無機粒子複合体とガラスとを接着剤を介して接着する方法、無機粒子複合体をガラス前駆体でコーティングした後、該ガラス前駆体をガラス化する方法、無機粒子複合体に溶融ガラスを押出ラミネートする方法である。
【0073】
無機粒子複合体とガラスとを接着剤を介して接着する方法としては、無機粒子複合体表面に接着剤を塗布した後、その塗布部とガラスとを積層して接着剤を硬化させる方法、ガラスに接着剤を塗布した後、その塗布部と無機粒子複合体とを積層して接着剤を硬化させる方法、無機粒子複合体とガラスの両方に接着剤と塗布し、塗布部同士を密着させて接着剤を硬化させる方法などが挙げられる。接着剤の種類は、特に限定されない。セラミック、水ガラス、ゴム系接着剤、エポキシ系接着剤、アクリル系接着剤、ウレタン系接着剤などが使用できる。水溶性の接着剤を用いることが、扱いやすさの点から好ましい。水溶性接着剤の例としては、例えば、膠、でんぷん、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、アクリルアミド−ジアセトンアクリルアミド共重合体などを挙げることができる。更に、接着剤は、粘着付与材、可塑剤、充填材、酸化防止剤、安定剤、顔料、拡散粒子、硬化剤及び溶媒等の添加物を含むことができる。接着剤の厚みは特に限定されないが、100nm以下であることが好ましい。
使用できるガラスの組成、製造方法などは特に限定されない。ソーダガラス、クリスタルガラス、硼ケイ酸(ほうけいさん)ガラス、石英ガラス、アルミノケイ酸ガラス、ホウ酸塩ガラス、リン酸塩ガラス、無アルカリガラス、セラミックスとの複合ガラスなどが使用できる。
【0074】
無機粒子複合体をガラス前駆体でコーティングした後、該ガラス前駆体をガラス化する方法は、特に限定されない。オーブンなどによる加熱、電磁波照射などによるガラス前駆体の局所加熱などが挙げられる。ガラス前駆体としては、シラン化合物、金属アルコキシド、水ガラス、ガラスペーストなどが使用できる。シラン化合物の例としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシランが挙げられる。金属アルコキシドの例としては、チタンのアルコキシド(テトライソプロポキシチタン等)、ジルコニウムのアルコキシド(テトラ−n−ブトキシジルコニウム等)、アルミニウムのアルコキシド(トリ−s−ブトキシアルミニウム等)、並びにこれらの縮合体が挙げられる。縮合体は、単一の化合物の縮合体でも、複数の化合物の複合縮合体でもよい。シラン化合物や金属アルコキシドは、溶液にして使用してもよい。ガラス前駆体で無機粒子複合体をコーティングする方法は、特に限定されない。リバースコート法、ダイコート法、ディップコート法、グラビアコート法、フレキソコート法、インクジェットコート法、スクリーン印刷法などのウエットコーティング法が好ましく用いられる。
無機粒子複合体に溶融ガラスを押出ラミネートする方法は、特に限定されない。
【0075】
本発明の方法で製造される無機粒子複合体の空隙率に限定はないが、90体積%以下が、好ましくは50体積%以下であり、さらには30体積%以下、特に10体積%以下、もっとも好ましくは5体積%以下、あるいは1体積%以下である。
空隙率が90体積%よりも大きいと無機粒子複合体としての強度が不足する傾向にある。
空隙率が小さいほど無機粒子複合体としての強度は強くなり、理想的には空隙がないことが好ましい。本発明の無機粒子複合体の無機粒子の形状が球状の場合には、空隙率として、30体積%以下が、好ましくは10体積%以下であり、さらには5体積%以下、特に1体積%以下である。本発明の無機粒子複合体の無機粒子の形状が層状の場合には、空隙率として、50体積%以下が、好ましくは30体積%以下であり、さらには10体積%以下、特に5体積%以下、もっとも好ましくは1体積%以下である。
【0076】
また、空隙率に変えて、無機粒子が存在する領域の体積を100としたときに空隙に金属を充填した部分の体積分率をV(%)とし、空隙率の尺度とする。Vが大きいほど無機粒子層の空隙が少なく、小さいほど空隙は多くなる。Vの範囲は0<V<100であり、好ましくは1<V<99、さらには10<V<95、特に50<V<90である。Vの求め方に限定はないが、塑性を有する板状の金属と無機粒子層とが積層された無機粒子構造体を複合化して、図24のような無機粒子複合体を形成した場合、以下の方法でVを算出できる。
XPS(X線プローブスペクトロスコピー)を用い、無機粒子複合体の、無機粒子が存在する領域14(厚みD)を無機粒子が存在する表面dsから、金属のみとなる部分deまで順次エッチングしつつ、無機粒子由来の元素Aの量A(d)と金属由来の元素Bの量B(d)を数点(深さ方向に、たとえばds、d1、d2、d3、deの5点)定量する。d1、d2、d3を横軸に、縦軸にB(d)/A(d)をとり、B(d)/A(d)がゼロとなる深さd0を外挿により求める。d0とDを用いてVは式(1)で表せる。
V=100×(D−d0)/D 式(1)
【0077】
金属を塑性変形させる手段に限定はない。たとえば、無機粒子構造体を加圧する方法や加熱する方法が挙げられ、これらを併用してもよい。例えば、無機粒子構造体を加熱して金属を塑性変形させた後、加圧して金属をさらに塑性変形させる方法、無機粒子構造体を加圧して金属を塑性変形させた後、加熱して金属をさらに塑性変形させる方法、加熱と加圧を同時に行い、無機粒子構造体の金属を塑性変形させる方法が挙げられる。金属を塑性変形させる方法としては、無機粒子構造体を少なくとも加圧する方法が好ましい。加圧方法としては、無機粒子構造体を板の間で挟んで加圧するプレス法、ロール間に挟んで連続的に加圧できるロールプレス法、液体中に入れ静圧をかける方法などが挙げられる。
また、その圧力についても大気圧より大きければ限定はなく、金属の塑性の程度による。すなわち、軟化が進み、低い応力で大きい永久ひずみを生じる場合には低い圧力でよく、高い応力が必要な場合には高い圧力が必要となる。その圧力はたとえば、0.1kgf/cm2以上、好ましくは1kgf/cm2以上、さらには10kgf/cm2以上、特に100kgf/cm2以上が好ましい。加圧の回数は任意であり、複数の条件による加圧操作を組み合わせてもよい。
【0078】
無機粒子構造体を加熱して金属を塑性変形させる方法としては、無機粒子構造体全体を加熱する方法、無機粒子構造体の中の金属を局所的に加熱する方法、が挙げられる。全体を加熱する方法としてはオーブンやヒーターなどによる加熱雰囲気中に構造体を投入する方法、熱した金属板などの熱媒に構造体を接触させる方法、構造体を熱ロールに接触させた後に加圧する方法、熱ロールに接触させる方法などが挙げられ、金属を局所的に加熱する方法としては、赤外線、レーザー、マイクロ波、極短時間での高い光量の照射(フラッシュアニール法)、電子線等の放射線などの電磁波照射で加熱する方法、無機粒子構造体の任意の部分のみ熱媒に接触させながら、他の部分を冷却する方法などが挙げられる。金属には、磁力線を用いた誘導加熱や上述の電磁波照射が好ましく用いられる。プレスの温度、圧力、時間については金属の性質により異なるため、特に限定されず、空隙部分に金属が篏入されるのに適した条件が用いられる。加圧条件についても限定はなく、金属の性質によって決められる。すなわち、無機粒子が実質的に塑性変形せず、金属が塑性変形し、無機粒子構造体または無機粒子層を積層した無機粒子構造体の空隙を埋めることができる、加圧時間、加圧温度、圧力の条件と加圧の手段をとることが好ましい。無機粒子構造体の加熱温度については、金属の性質により異なるため、特に限定されず、金属が空隙部分に充填されるのに適した条件が用いられる。
金属をより容易に塑性変形させるために、補助的手段を加えてもよい。ここで補助的手段とは、塑性を有する金属の塑性を増大させる方法を指す。塑性を有する金属の塑性を増大させる方法として、化学物質を作用させ金属を軟化する方法、金属と空隙界面の親和性やすべり性を増す方法などが挙げられる。
【0079】
本発明の方法で製造される無機粒子複合体の形状に特に限定はなく、要求される機能、使用される用途に応じた形状が用いられる。たとえば、フィルムやシートなどの板状、棒状、繊維状、球状、三次元構造体状などである。用途がフラットパネルディスプレイやフレキシブルディスプレイなどの場合には、本発明の無機粒子複合体の形状もフィルム状であることが好ましい。この場合、無機粒子複合体の厚みは、特に限定されないが、100μm以下、好ましくは10μm以下、さらには5μm以下、特に1μm以下であることが好ましい。さらに柔軟性などが求められる場合には、無機粒子複合体の厚みは、5μm以下、好ましくは1μm以下、さらには0.5μm以下、特に0.2μm以下であることが好ましい。無機粒子複合体の厚みが、100μmより大きいと脆くなる傾向があり、0.01μm以下では硬度が発現しにくい傾向にある。また、本発明の方法で製造される無機粒子複合体の上に、さらに樹脂層や金属薄膜を積層して使用してもよい。本発明の無機粒子複合体は、無機粒子や金属の種類に応じて、種々の特性を発現できる。また金属が無機粒子構造体の空隙を極めて高い充填率で充填した場合、物質遮断性に優れた無機粒子複合体を形成することが可能となる。
【実施例】
【0080】
以下、本発明を実施例によってさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
使用した主な材料は以下のとおりである。
【0081】
[無機粒子]
スノーテックス(登録商標)ST−XS(日産化学工業株式会社製のコロイダルシリカ;平均粒径4〜6nm;固形分濃度20重量%) 以下、「ST−XS」と記す。
クニピアG(登録商標)(クニミネ工業株式会社の無機層状化合物;平均粒径300nm)
スノーテックス(登録商標)20(日産化学工業株式会社製のコロイダルシリカ;平均粒径20nm;固形分濃度20重量%)
アルミナゾル(登録商標)520(日産化学工業株式会社製のコロイダルアルミナ;平均粒径20nm;固形分濃度20重量%)
スメクトンSA(登録商標)(クニミネ工業株式会社の無機層状化合物;平均粒径20nm)
[金属]
銀粒子(石原産業株式会社製の銀コロイド「MG−101」;平均粒径10nm、固形分濃度50wt%)
[基材]
テオネックス(登録商標)(帝人デュポン株式会社製のポリエチレンナフタレートフィルム;厚み125μm)
【0082】
[塗工液A]
クニピアGの3重量%水溶液(12g)にMG−101を(3.6g)混合攪拌し、調製した塗工液。
[塗工液B]
クニピアGの3重量%水溶液(4g)にMG−101を(0.6g)混合攪拌し、調製した塗工液。
[塗工液C]
イオン交換水(79.584g)、スメクトンSA1重量%溶液(9.0g)、アルミナゾル520(9.000g)、スノーテックス20 (2.4g、カプリル酸ナトリウム(0.014g、p−トルエンスルホン酸ナトリウム(0.002g)を混合攪拌し、調製した塗工液。
[塗工液D]
MG101 (4,0g)、およびST−XS(4.0g)、純水(2.0g)を混合攪拌し、調製した塗工液。
[塗工液E]
純水(15g)、およびグリセリン(5.0g)を混合攪拌し、調製した塗工液。
[塗工液F]
防汚コーティング剤(ダイキン工業株式会社製;オプツール(登録商標)DSX)(1.0g)、およびフッ素オイル(ダイキン工業株式会社製;デムナム(登録商標)ソルベント)(199.0g)を混合攪拌し、調製した塗工液。
【0083】
物性などの評価方法は次のとおりである。
[耐擦傷性強度]
日本スチールウール株式会社製#0000のスチールウールを用いて、無機粒子複合体の表面を荷重125〜500gf/cm2で10往復擦り、傷の有無を目視観察して行った。傷が10本以下の場合をレベル1、傷が10本より多く20本以下の場合をレベル2、傷が20本より多い場合をレベル3と判定した。
[電子顕微鏡観察]
試料をFIB切削加工し透過電子顕微鏡(株式会社日立製作所製、型番:H900)による観察を実施例1、2、比較例1について実施した。
[酸素透過度]
MOCON社製の酸素透過率測定装置 OX−TRANにて酸素透過度を測定した(測定条件:23℃、0%RH)。
【0084】
[実施例1]
基材上に塗工液Aをバーコーター(第一理化株式会社製、番線番号:#8)を用いて塗布し、23℃で乾燥して無機粒子構造体(1)を得た。前記構造体を誘電加熱処理機と鉄板の間に挟み1kgの加重をのせ、MG101の部分を局所加熱処理(誘導加熱条件1000W、15分)しつつ加圧処理し無機粒子複合体(1)を得た。無機粒子構造体(1)の酸素透過度は4cc/m2/Day、無機粒子複合体の酸素透過度は0.5cc/m2/Day以下であり、複合化により粒子膜に酸素遮断性が発現した。TEMで膜断面を観察したところ、無機粒子構造体の中に無機粒子部分と金属粒子が存在し、金属部が局所加熱と加圧により溶融し塑性変形して空隙を埋める構造となっていることを確認した。無機粒子複合体(1)をワイピングクロス(商品名:キムタオル;日本製紙クレシア株式会社製)で10往復擦ったところ複合体の崩壊は見られなかった。無機粒子複合体(1)の断面を図25に示す。
【0085】
[比較例1]
無機粒子構造体体(1)をキムタオルで10往復擦ったところ構造体の一部が崩壊し、基材表面が露出した。無機粒子構造体(1)の断面TEM写真を図26に示す。
【0086】
[実施例2]
基材上に塗工液Bをバーコーター(第一理化株式会社製、番線番号:#4)を用いて塗布し、23℃で乾燥して無機粒子構造体(2)を得た。無機粒子構造体の厚みは0.2μmである。前記無機粒子構造体(2)を、圧縮成型機を用いて160℃で予熱を3分施した後、一次圧縮:160℃、370kgf/cm2にて3分間、二次圧縮:30℃、370kgf/cm2にて3分間の条件でプレスし無機粒子複合体(2)を得た。無機粒子構造体(2)の酸素透過度は4cc/m2/Day、無機粒子複合体(2)の酸素透過度は0.9cc/m2/Dayであり、複合化により粒子膜に酸素遮断性が発現した。TEMで膜断面を観察したところ、無機層状化合物の中に無機粒子部分と金属粒子が存在し、金属部が塑性変形し空隙を埋める構造となっていることを確認した。実施例2の無機粒子複合体(2)の断面TEM写真を図27に示す。
【0087】
[実施例3]
無機粒子構造体(1)を実施例1と同様に銀の部分を局所加熱処理(誘導加熱条件1400W、9分)しつつ加圧処理し無機粒子複合体(3)を得た。無機粒子複合体(3)の酸素透過度は0.3cc/m2/Dayであり、複合化により粒子膜に酸素遮断性が発現した。無機粒子複合体(3)をキムタオルで10往復擦ったところ複合体の崩壊は見られなかった。
【0088】
[実施例4]
支持体上に、塗工液Cをバーコーター(第一理化株式会社製、番線番号:#4)を用いて塗布し、23℃で乾燥して、無機粒子構造体(3)を得た。
無機粒子構造体(3)上に、塗工液Dをバーコーター(第一理科株式会社製、#1)を用いて塗布し、23℃で乾燥して、無機粒子構造体(4)を得た。
前記で得た無機粒子構造体(4)を圧縮成型機(神藤金属工業所(株)製)を用いて一次圧縮:200℃、70kgf/cm2にて5分間、二次圧縮:30℃、70kgf/cm2にて5分間の条件でプレス無機粒子複合体(4)を得た。当該無機粒子複合体(4)の荷重30gの耐擦傷性強度はレベル1であり、水の接触角は29°であった。
【0089】
[比較例2]
無機粒子構造体(4)の荷重30gの耐擦傷性強度はレベル3であり、水の接触角は20°であった
【0090】
[実施例5]
無機粒子複合体(4)にコロナ処理を施した後、塗工液Eをバーコーター(第一理科株式会社製、#1)を用いて塗布し無機粒子複合体(5)を得た。該無機粒子複合体(5)の荷重30gの耐擦傷性強度はレベル1であり、水の接触角は4°であった。
【0091】
[実施例6]
無機粒子複合体(4)を塗工液Fに浸漬し、23℃で乾燥して無機粒子複合体(6)を得た。前記で得た無機粒子複合体(6)の荷重30gの耐擦傷性強度はレベル1であり、水の接触角は103°であった。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明の方法は、塑性を有する金属を空隙部分に封入された強度と硬度に優れた金属−無機粒子複合体の製造方法として、きわめて優れている。無機粒子や金属の種類に応じて、種々の特性を発現できる。たとえば、塑性を有する金属が金属の場合には、導電性、常磁性、強磁性、光線反射性、プラズモン共鳴による光線吸収性、剛性、低線膨張、延性、耐熱性、熱伝導性、化学活性およびまたは触媒活性などの効果を奏する。このため、無機粒子複合体がフィルム状基材に形成されるかあるいはフィルム状に形成された場合、帯電防止フィルム、導電フィルム、透明導電フィルム、電磁波シールドフィルム、磁性フィルム、反射フィルム、紫外線遮断フィルム、光拡散フィルム、反射防止フィルム、防眩フィルム、ハードコートフィルム、偏光フィルム、位相差フィルム、光拡散フィルム、フラットパネルディスプレイの前面板、携帯用ディスプレイ(携帯電話など)の窓、フレキシブル透明基板用フィルム、ガスバリアフィルム、熱伝導フィルム、放熱性フィルム、抗菌フィルム、触媒担体フィルム、キャパシター電極膜、二次電池の電極膜、燃料電池の電極膜などに適用の可能性がある。また、無機粒子が粘土鉱物の場合には、粘土鉱物の高いアスペクト比による迷路効果により、その物質遮断性がとりわけ優れたものとなる。このため、無機粒子複合体がフィルム状基材に形成されるかあるいはフィルム状に形成された場合、透明金属箔ともいえる性質を有することが期待され、フレキシブル透明基板用フィルム、ガスバリアフィルム、透明導電フィルムなどに特に有用である。また、本発明の方法で製造される無機粒子複合体は硬度に優れるため、表面の傷付き防止の目的で、再生専用光ディスク、光記録ディスク、光磁気記録ディスクなど光情報媒体、パソコンの表示画面、フレキシブルディスプレイ、電子ペーパー、コンタクトレンズなどの表示媒体部材、光学部材に用いられる。
【符号の説明】
【0093】
1,1a,1b,1c,1d: 無機粒子
2: 金属
3a,3b,3c,3d,3e: 無機粒子構造体
4a,4b,4c,4d,4e: 無機粒子複合体
5a,5b: 親水性無機粒子複合体
6: 親水処理層
7a,7b: 撥水性無機粒子複合体
8: 撥水処理層
9a,9b: 反射防止性無機粒子複合体
10: 反射防止処理層
11a,11b: ガラス層を有する無機粒子複合体
12: ガラス層
13: プレス金型
14: 無機粒子存在領域
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属と無機粒子とから構成された無機粒子複合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フラットパネルディスプレイの前面板、携帯電話などの携帯機器のディスプレイなどには、傷つき防止の目的で表面硬度を高める処理、より具体的には、ハードコート層を形成する処理がなされている。従来、基材上にハードコート層を形成する技術としては、無機粒子と紫外線硬化性樹脂などとの混合物を基材に塗布し、これを紫外線硬化する方法、シリカ前駆体単独や、シリカ前駆体と無機粒子との混合物からなる塗布剤を基材上に積層し、前記塗布剤をゾルーゲル法により硬化する方法が知られている(特許文献1、2を参照)。しかしながら、上記従来技術では、無機粒子を含有するハードコート層と基材の物理的性質(たとえば弾性率や線膨張係数)が異なるため、ハードコート層の表面硬度を高くすればするほど、該ハードコート層が基材からはがれやすい。また、基材を除去してハードコート層のみからなる膜を形成した場合には、硬い膜ほど脆くなる。さらには、膜の脆さを軽減すると、表面硬度が低下する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−150484号公報
【特許文献2】特表2007−529588号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、無機粒子由来の表面硬度を有しつつ、脆さやはがれやすさの軽減された無機粒子複合体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下の[1]〜[12]を提供する。
[1] 塑性変形可能な金属と、該金属が塑性変形する条件では塑性変形しない無機粒子との混合物からなる無機粒子複合体を製造する方法であって、
前記金属と前記無機粒子との混合物からなり、内部に空隙を有する無機粒子構造体を用意する工程、及び
該構造体に含まれる金属を塑性変形させる工程
を含む方法。
[2] 前記無機粒子構造体において、前記無機粒子の体積が前記金属の体積よりも大きい前記[1]に記載の方法。
[3] 金属を塑性変形させる前記工程において、前記無機粒子構造体を加圧することにより前記金属を塑性変形させる前記[1]または[2]に記載の方法。
[4] 金属を塑性変形させる前記工程において、前記無機粒子構造体に電磁波を照射することにより前記金属を塑性変形させる前記[1]または[2]に記載の方法。
[5] 金属を塑性変形させる前記工程を実施して得られた構造体の表面を親水化処理する工程を更に含む前記[1]〜[4]のいずれか1項に記載の方法。
[6] 前記無機粒子構造体の表面を親水化処理する工程であって、金属を塑性変形させる前記工程を実施する前に行われる工程を更に含む前記[1]〜[4]のいずれか1項に記載の方法。
[7] 金属を塑性変形させる前記工程を実施して得られた構造体の表面を撥水化処理する工程を更に含む前記[1]〜[4]のいずれか1項に記載の方法。
[8] 前記無機粒子構造体の表面を撥水化処理する工程であって、金属を塑性変形させる前記工程を実施する前に行われる工程を更に含む前記[1]〜[4]のいずれか1項に記載の方法。
[9] 金属を塑性変形させる前記工程を実施して得られた構造体の表面を反射防止処理する工程を更に含む前記[1]〜[4]のいずれか1項に記載の方法。
[10] 前記無機粒子構造体の表面を反射防止処理する工程であって、金属を塑性変形させる前記工程を実施する前に行われる工程を更に含む前記[1]〜[4]のいずれか1項に記載の方法。
[11] 金属を塑性変形させる前記工程を実施して得られた構造体の表面にガラス層を付与する工程を更に含む前記[1]〜[4]のいずれか1項に記載の方法。
[12] 前記無機粒子構造体の表面にガラス層を付与する工程であって、金属を塑性変形させる前記工程を実施する前に行われる工程を更に含む前記[1]〜[4]のいずれか1項に記載の方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明の方法によれば、無機粒子由来の表面硬度を有しつつ、脆さやはがれやすさが軽減された無機粒子複合体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】無機粒子構造体3aの模式図である。
【図2】無機粒子構造体3aを加圧して得られた無機粒子複合体4aの模式図である。
【図3】無機粒子構造体3bの模式図である。
【図4】無機粒子構造体3bを加圧して得られた無機粒子複合体4bの模式図である。
【図5】無機粒子構造体3cの模式図である。
【図6】無機粒子構造体3cを加圧して得られた無機粒子複合体4cの模式図である。
【図7】無機粒子構造体3dの模式図である。
【図8】無機粒子構造体3dを加圧して得られた無機粒子複合体4dの模式図である。
【図9】無機粒子構造体3eの模式図である。
【図10】無機粒子構造体3eを加圧して得られた無機粒子複合体4eの模式図である。
【図11】図2に描かれた複合体4aの表面を親水化処理して得られた親水性無機粒子複合体5aの模式図である。
【図12】図4に描かれた複合体4bの表面を親水化処理して得られた親水性無機粒子複合体5bの模式図である。
【図13】図2に描かれた複合体4aの表面を撥水化処理して得られた撥水性無機粒子複合体7aの模式図である。
【図14】図4に描かれた複合体4bの表面を撥水化処理して得られた撥水性無機粒子複合体7bの模式図である。
【図15】図2に描かれた複合体4aの表面を反射防止処理して得られた反射防止性無機粒子複合体7aの模式図である。
【図16】図4に描かれた複合体4bの表面を反射防止処理して得られた反射防止性無機粒子複合体7bの模式図である。
【図17】図2に描かれた複合体4aの表面にガラス層を付与して得られた無機粒子複合体11aの模式図である。
【図18】図4に描かれた複合体4bの表面にガラス層を付与して得られた無機粒子複合体11bの模式図である。
【図19】無機粒子構造体3aの模式図である。
【図20】無機粒子構造体3aを成形して得られた無機粒子複合体成形品の模式図4aである。
【図21】無機粒子構造体3bの模式図である。
【図22】無機粒子構造体3bを成形して得られた無機粒子複合体成形品の模式図4bである。
【図23】図2に描かれた複合体4aを成形するプロセス(プレス成形)を表す模式図である。
【図24】無機粒子層に充填された金属の体積分率V(%)を求める方法に関する模式図である。
【図25】実施例1において製造された無機粒子複合体の断面TEM写真である。
【図26】比較例1において製造された無機粒子複合体の断面TEM写真である。
【図27】実施例2において製造された無機粒子複合体の断面TEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、塑性変形可能な金属と、該金属が塑性変形する条件では塑性変形しない無機粒子との混合物からなる無機粒子複合体を製造する方法であって、前記金属と前記無機粒子との混合物からなり、内部に空隙を有する無機粒子構造体を用意する工程、および該構造体に含まれる金属を塑性変形させる工程を含む方法である。
無機粒子構造体に含まれる前記金属は、塑性変形することができるもの、すなわち、塑性を有するものであれば、特に限定はない。ここで塑性とは、応力が弾性限度を超えたときに永久ひずみを生じて連続的に変形する性質のことをいい、金属が塑性変形するとは、弾性限度を超える応力が金属に作用して永久ひずみが生じて該金属が変形し、前記応力が除去されても変形した状態が維持される状態に該金属がなることをいう。このような金属の例として、たとえば、白金、金、パラジウム、銀、銅、ニッケル、亜鉛、アルミニウム、鉄、コバルト、ロジウム、ルテニウム、スズ、鉛、ビスマス、タングステン、インジウムなどの金属、2種以上の金属からなる合金やはんだ等が挙げられる。金属は、粒子状、板状、繊維状等どのような形状であってもよい。金属は、1種類の金属のみを用いてもよく、複数種類を金属を組み合わせてもよい。
金属が粒子状である場合、その粒径は、後述する無機粒子の粒径測定と同様にして測定することができる。金属粒子の粒径には限定はないが、アスペクト比2以下である場合には、粒径1〜500nm、好ましくは1〜200nm、さらには2〜100nmが好ましい。
【0009】
無機粒子構造体に含まれる前記無機粒子の例としては、酸化鉄、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化ケイ素(シリカ)、酸化チタン、酸化コバルト、酸化銅、酸化亜鉛、酸化セリウム、酸化イットリウム、酸化インジウム、酸化銀、酸化錫、酸化ホルミウム、酸化ビスマス、酸化インジウム錫などの金属酸化物、酸化インジウム錫などの金属複合酸化物、炭酸カルシウム、硫酸バリウムなどの金属塩、粘土鉱物、炭素系層間化合物などの無機層状化合物が挙げられる。無機粒子には、金属粒子は包含されない。
無機層状化合物としては、大きなアスペクト比が容易に得られる観点から、溶媒により膨潤し、かつへき開する性質を有する無機層状化合物が好ましく用いられる。溶媒により膨潤し、かつへき開する無機層状化合物としては、溶媒に対して膨潤性およびへき開性を有する粘土鉱物が特に好ましく用いられる。粘土鉱物は、一般に、シリカの四面体層の上部に、アルミニウムやマグネシウム等を中心金属にした八面体層を有する2層構造を有するタイプと、シリカの四面体層が、アルミニウム、マグネシウム等を中心金属にした八面体層を両側から挟んでなる3層構造を有するタイプに分類される。前者としては、カオリナイト族、アンチゴライト族等を挙げることができ、後者としては、層間カチオンの数によってスメクタイト族、バーミキュライト族、マイカ族等を挙げることができる。
粘土鉱物とは、層状の結晶構造を持つ珪酸塩鉱物を主成分として含有する鉱物である。例としてカオリナイト族、アンチゴライト族、スメクタイト族、バーミキュライト族、マイカ族等を挙げることができる。具体的には、カオリナイト、ディッカイト、ナクライト、ハロイサイト、アンチゴライト、クリソタイル、パイロフィライト、モンモリロナイト、ヘクトライト、テトラシリリックマイカ、ナトリウムテニオライト、白雲母、マーガライト、タルク、バーミキュライト、金雲母、ザンソフィライト、緑泥石等を挙げることができる。無機粒子は、1種類の無機粒子を用いてもよく、複数種類の無機粒子を組み合わせてもよい。平均粒径の異なる粒子を組み合わせて無機粒子構造体を形成することも可能である。
【0010】
無機粒子層を構成する無機粒子が親水性である場合、該無機粒子複合体は親水性に優れる部分を有するため、表面の傷つき防止に加え、汚れが水で流れ落ちる汚れ防止(セルフクリーニング)性能や、雪や氷がつきにくいまたは取れやすい(着雪・着氷防止)性能を有し、ドーム球場の屋根、競技場の屋根、カーポートの屋根、その他建物の屋根、天幕、建物の壁、窓、交通表示、道路用や建物用の防音板などの建築部材、農業ハウス用フィルム、トンネル用フィルム、カーテン用フィルム、マルチングフィルム、潅水ホース、潅水資材、種苗箱などの農業部材、電車のスカート部、外板、窓、自動車の外板、窓、パンパー、鏡などの輸送用機器部材、鏡、フローリング、テーブルトップ、いす、ソファなどの家具部材、テレビ、パソコン、洗濯機、冷蔵庫などの家電部材、電線、ケーブル、アンテナ、電線・ケーブル用鉄塔、太陽電池の採光面などの電気部材として好適である。
さらに親水性粒子膜に発現しやすい帯電防止性を生かし、帯電防止フィルム、包装用フィルム、除電フィルム、電子部品包装材料、食品包装材料など帯電防止部材としても好適である。親水性無機粒子としては、金属酸化物からなる粒子が挙げられる。親水化処理を施した無機粒子を用いることもできる。
【0011】
無機粒子の形状は、例えば、球状、針状、燐片状、繊維状等、どのような形状であってもよい。本発明において、これらの粒子の粒径は、動的光散乱法、シアーズ法、又はレーザー回折散乱法で測定される平均粒径、または、BET比表面積から計算される球相当径を指す。繊維状の場合にはその断面の径を指す。シアーズ法とは、Analytical Chemistry, vol. 28, p. 1981−1983, 1956に記載された方法であって、シリカ粒子の平均粒径の測定に適用される分析手法であり、pH=3のコロイダルシリカ分散液をpH=9にするまでに消費されるNaOHの量からシリカ粒子の表面積を求め、求めた表面積から球相当径を算出する方法である。無機粒子がアスペクト比2以下である場合、平均粒径は光学顕微鏡、レーザー顕微鏡、走査型電子顕微鏡、透過型電子顕微鏡、原子間力顕微鏡等を用いて観察された画像から求めることもできる。無機粒子の粒径は、原子間力やファンデルワールス力など粒子間の相互作用力の観点から1〜10000nmが好ましい。無機粒子がアスペクト比2以下である場合には、粒径1〜500nm、好ましくは1〜200nm、さらには2〜100nmが好ましい。無機粒子が無機層状化合物の場合には、粒径は10〜3000nm、好ましくは20〜2000nm、さらには100〜1000nmであることが好ましい。
【0012】
本発明の方法は、金属が塑性変形する条件では塑性変形しない無機粒子が用いられるが、金属が塑性変形する条件では無機粒子が塑性変形しないことは、金属が塑性変形する操作条件で無機粒子を加熱あるいは加圧して、無機粒子の形状あるいは物性の変化を調べることにより確認することができる。
無機粒子構造体が無機粒子および金属粒子の混合物から形成されている場合、両者の混合比率は任意であるが、表面硬度を保つという観点から、無機粒子構造体内の無機粒子の体積分率は、金属粒子の体積分率より大きいことが望ましい。
【0013】
本発明において、基材とは、無機粒子構造体を支持するものを指す。基材は、金属や無機粒子構造体を支持するものであれば特に限定はない。具体的には、金属、樹脂、ガラス、セラミック、紙、布などが、必要に応じた形状(フィルム状やシート状などの板状、棒状、繊維状、球状、三次元構造体状など)で用いられる。
【0014】
本発明において使用する無機粒子構造体は、少なくとも一部に空隙を有する構造体であり、たとえば、図1及び図3にその構造の代表例を示す。これらの図に示したように、本発明に適用する無機粒子構造体は、通常、多孔質構造を有しているが、孔の少なくとも一部は連通していることが好ましい。無機粒子構造体において孔が連通していることで、該構造体を加圧することにより塑性変形した金属によって当該構造体中の空隙が充填されやすくなる。
【0015】
無機粒子構造体を製造する方法としては、たとえば以下のような方法が挙げられる。
方法1:無機粒子と粒子状の金属と液体分散媒とを含む塗工液を基材に塗布し、塗布された塗工液から液体分散媒を除去する(すなわち、塗工液を乾燥する)ことにより形成する方法
図1は上記方法1により形成した無機粒子構造体3aの模式図である(基材は省略)。この例は、無機粒子の形状は球状の場合である。球状の無機粒子および金属粒子から形成されている無機粒子構造体は、これら粒子間に空隙を有する。該構造体3aを加圧することにより、該構造体3aの中の金属部分が塑性変形し、該構造体3a内の空隙を埋めていく。本発明の方法で製造される無機粒子複合体は、塑性変形した金属が前記構造体3a内の空隙の少なくとも一部に移動してこれを充填する結果として形成されると考えられる。金属によって空隙を全て満たした場合の無機粒子複合体が図2に示した複合体4aである。
本発明の方法では、構造体中の金属を塑性変形させることにより、該構造体中にあった空隙に塑性変形した金属が充填されるが、構造体中に多数ある空隙のうちの一部の空隙金属が充填されて、他の空隙には金属が充填されない場合や、一つの空隙の一部分だけに金属が充填される場合がある。もちろん、全ての空隙に完全に金属が充填されてもよい。金属の塑性変形および空隙への金属の充填の度合いは無機粒子複合体の目的とする機能により異なる。
【0016】
図3は上記方法1により形成した無機粒子構造体3bの模式図である。この例は、無機粒子の形状が板状の場合である。板状の無機粒子および金属粒子から形成されている構造体は、これら粒子間に空隙を有する。該構造体3bを加圧することにより、該構造体3bの中の金属部分が塑性変形し、該構造体3b内の空隙を埋めていく。本発明の方法で製造される無機粒子複合体は、塑性変形した金属が前記構造体3b内の空隙の少なくとも一部に移動してこれ埋めた結果として形成されると考えられる。金属によって空隙を全て満たした場合の無機粒子複合体が図4に示した複合体4bである。
【0017】
図5は、上記方法1により無機粒子構造体を形成し、次いで、それに含まれる金属を塑性変形させて複合化無機粒子構造体を形成し、次いでその上に、金属と無機粒子の混合物からなる層を更に形成して製造された積層構造体3cの模式図である。この例は、無機粒子は球状であり、金属は球状粒子の形態である場合を示している。球状の無機粒子および球状の金属粒子から形成されている積層構造体3cは、これら粒子間に空隙を有する。
まず、無機粒子と金属粒子の混合物を用い、上記方法1で無機粒子と金属粒子とからなる無機粒子構造体を形成する。この無機粒子構造体を以下「初期無機粒子構造体」と称する。次いで該初期無機粒子構造体の中の金属粒子を塑性変形させ、それにより前記初期構造体中の無機粒子が再配置されて高密度充填化され、前記構造体中の空隙体積は減少する。その結果生じた構造体を「複合化無機粒子構造体」と称する。次に、該複合化無機粒子構造体の上に、前記初期無機粒子構造体の製造に使用した前記混合物とは組成の異なる金属粒子と無機粒子の混合物からなる層を形成する。これにより、前記複合化無機粒子構造体と新たに形成された層とからなる積層構造体3cが形成される。新たに形成された前記層も、粒子からなるため空隙を有する。次に、前記積層構造体中の金属、すなわち、新たに形成された前記層中の金属粒子、および前記複合化無機粒子構造体内の塑性変形した金属および残存金属粒子を塑性変形させる。これにより、前記積層構造体中の無機粒子が再配置されて高密度充填化される。前記積層構造体中の空隙体積は減少する。その結果、図6に示されるような無機粒子複合体4cが形成される。
【0018】
図7は、板状の無機粒子を用いて製造された積層構造体を示しており、該積層構造体は、含まれている無機粒子が球状ではなく板状であることを除いて、図5に示されている積層構造体と基本的に同様である。図7に示されるような積層構造体を用い、それに含まれる金属、すなわち、複合化無機粒子構造体中の既に塑性変形した金属および残存金属粒子、および、該複合化無機粒子構造体の上に形成された層に含まれる金属粒子を塑性変形させる。その結果、該積層構造体中の無機粒子が再配置され、高密度充填化される。その結果、前記積層構造体中の空隙体積は減少して、図8に示されるような無機粒子複合体4dが形成される。
【0019】
図9は、他の積層構造体3eの模式図である。この積層構造体3eは、以下に記す操作を行うことにより形成される。
上記方法1により無機粒子構造体を形成する、
次いで、前記無機粒子構造体に含まれる金属を塑性変形させて複合化無機粒子構造体を形成する、
次いで該複合化無機粒子構造体の上に、金属と無機粒子の混合物からなる層を更に形成して第1の積層構造体を形成する、
次いで該第1の積層構造体の上に、金属と無機粒子の混合物からなる層を更に形成して第2の積層構造体を形成する、
次いで該第1の積層構造体の上に、金属と無機粒子の混合物からなる層を更に形成して第3の積層構造体を形成する、
次いで、該第3の積層構造体に含まれる金属を塑性変形させて、該積層構造体に含まれる無機粒子を再配置して高密度充填化する。この例は、無機粒子は球状であり、金属は球状粒子の形態である場合を示している。球状の無機粒子および球状の金属粒子から形成されている積層構造体3eは、これら粒子間に空隙を有する。
【0020】
まず、無機粒子と金属粒子の混合物を用い、上記方法1で無機粒子と金属粒子とからなる無機粒子構造体を形成する。この無機粒子構造体を以下「初期無機粒子構造体」と称する。次いで該初期無機粒子構造体の中の金属粒子を塑性変形させ、それにより前記初期構造体中の無機粒子が再配置されて高密度充填化され、前記構造体中の空隙体積は減少する。その結果生じた構造体を「複合化無機粒子構造体」と称する。次に、該複合化無機粒子構造体の上に、前記初期無機粒子構造体の製造に使用した前記混合物とは組成の異なる金属粒子と無機粒子の混合物からなる層を形成する。これにより、前記複合化無機粒子構造体と新たに形成された層とからなる積層構造体3cが形成される。更に、同様にして、金属粒子と無機粒子の混合物からなる層を重ねて形成する。これらの新たに形成された前記層も、粒子からなるため空隙を有する。次に、前記積層構造体中の金属、すなわち、新たに形成された前記層中の金属粒子、および前記複合化無機粒子構造体内の塑性変形した金属および残存金属粒子を塑性変形させる。これにより、前記積層構造体中の無機粒子が再配置されて高密度充填化される。前記積層構造体中の空隙体積は減少する。その結果、図10に示されるような無機粒子複合体4eが形成される。
【0021】
図10に示された無機粒子複合体では、無機粒子層は4層あり、最初に形成された無機粒子構造体に由来する部分(以下、これを「初期無機粒子層由来部」と称する)から最後に形成された層に由来する部分(以下、これを「最終無機粒子層由来部」と称する)に向かって、段階的に無機粒子層の空隙率は小さくなっている。最終無機粒子層由来部は空隙をほとんど持たない。空隙率が段階的に変化するよう複数の無機粒子層を積層して多層無機粒子構造体を製造したのち、該多層無機粒子構造体に含まれる金属を塑性変形させることにより無機粒子複合体を製造することができる。無機粒子層の空隙率は、その層を構成する無機粒子の粒径を変えることにより調節することができる。初期無機粒子層由来部から最終無機粒子層由来部まで金属で満たすと、図10の無機粒子複合体4eとなる。得られた無機粒子複合体は、金属の物性が支配的な領域と、無機粒子の物性が支配的な領域の双方を併せ持つ。無機粒子と金属の組み合わせを最適化すれば、全く異なる物性をひとつの無機粒子複合体に付与できる。
【0022】
空隙率が最も高い初期無機粒子層由来部と、空隙率が最も低い最終無機粒子層由来部について考える。空隙率が最も高い初期無機粒子層由来部の空隙の全てに金属が充填されているとき、この層の無機粒子に対する金属の存在比率は高く、該層は無機粒子の物性と金属の物性とが組み合わさった物性を持つ。
一方、空隙率が最も低い最終無機粒子層由来部の空隙に金属が充填されているとき、この層の無機粒子に対する金属の存在比率は極めて低く、該層は金属の物性の影響をほとんど受けないため、無機粒子の物性に等しい物性を持つ。
通常、異なる物性を持つ物質が一体化していると、物質間の物性の差が原因で密着性が不良となる。たとえばガラスと樹脂フィルムを貼合したものは、ガラスと樹脂の界面の線膨張率が異なるため、はがれやすい。しかし、図10に示すように、段階的に空隙率を変えて各層の物性を段階的に変化させた無機粒子複合体においては、複合体内で物性が徐々に変化しているため、各層間の密着性は高い。その結果、全く異なるふたつの物性を、層間の密着性を良好に保ったまま、無機粒子複合体に付与することができる。金属を塑性変形させることによって、積層した無機粒子層が有する空隙の少なくとも一部を充填することが好ましい。
【0023】
図11は、金属を塑性変形させる工程を実施して得られた構造体(これは、図2に示された無機粒子複合体4aに相当する)の表面を親水化処理して得られた親水性無機粒子複合体5aの模式図である。親水化処理の好ましい方法は、構造体の表面の少なくとも一部に親水化剤を含む層を積層する方法および/または構造体の表面の少なくとも一部に親水化剤を反応させる方法である。
【0024】
図12は、金属を塑性変形させる工程を実施して得られた構造体(これは、図4に示された無機粒子複合体4bに相当する)の表面を親水化処理して得られた親水性無機粒子複合体5bの模式図である。親水化処理の好ましい方法は、構造体の表面の少なくとも一部に、親水化剤を含む層を積層する方法および/または構造体の表面の少なくとも一部に親水化剤を反応させる方法である。
【0025】
図13は、金属を塑性変形させる工程を実施して得られた構造体(これは、図2に示された無機粒子複合体4aに相当する)の表面を撥水化処理して得られた撥水性無機粒子複合体7aの模式図である。撥水化処理の好ましい方法は、構造体の表面の少なくとも一部に、撥水剤を含む層を積層する方法および/または構造体の表面の少なくとも一部に撥水剤を反応させる方法である。
【0026】
図14は、金属を塑性変形させる工程を実施して得られた構造体(これは、図4に示された無機粒子複合体4bに相当する)の表面を撥水化処理して得られた撥水性無機粒子複合体7bの模式図である。撥水化処理の好ましい方法は、構造体の表面の少なくとも一部に、撥水剤を含む層を積層する方法および/または構造体の表面の少なくとも一部に撥水剤を反応させる方法である。
【0027】
図15は、金属を塑性変形させる工程を実施して得られた構造体(これは、図2に示された無機粒子複合体4aに相当する)の表面に反射防止処理して得られた反射防止性無機粒子複合体9aの模式図である。反射防止処理の好ましい方法は、構造体の表面に、反射防止剤をウエットコーティングおよび/またはドライコーティング(すなわち、蒸着)により付与する方法である。
【0028】
図16は、金属を塑性変形させる工程を実施して得られた構造体(これは、図4に示された無機粒子複合体4bに相当する)の表面に反射防止処理して得られた反射防止性無機粒子複合体9bの模式図である。反射防止処理の好ましい方法は、構造体の表面に、反射防止剤をウエットコーティングおよび/またはドライコーティング(すなわち、蒸着)により付与する方法である。
【0029】
図17は、金属を塑性変形させる工程を実施して得られた構造体(これは、図2に示された無機粒子複合体4aに相当する)の表面にガラス層を付与して得られたガラス被覆無機粒子複合体11aの模式図である。ガラス層を付与するための好ましい方法は、接着剤を介してガラスシートと構造体とを接着する方法、構造体の表面をガラス前駆体でコーティングした後に該ガラス前駆体をガラス化する方法、構造体に溶融ガラスを押出ラミネートする方法、である。
【0030】
図18は、金属を塑性変形させる工程を実施して得られた構造体(これは、図4に示された無機粒子複合体4bに相当する)の表面にガラス層を付与して得られたガラス被覆無機粒子複合体11bの模式図である。ガラス層を付与するための好ましい方法は、接着剤を介してガラスシートと構造体とを接着する方法、構造体の表面をガラス前駆体でコーティングした後に該ガラス前駆体をガラス化する方法、構造体に溶融ガラスを押出ラミネートする方法、である。
【0031】
図19は上記方法1により形成した無機粒子構造体3aの模式図である。該構造体3aを成形することにより、構造体3aの中の金属部分が塑性変形し、これが構造体3a中の空隙を埋めていくと同時に、該構造体と接する成形装置の表面の3次元形状が、構造体表面に転写され、構造体表面に3次元形状が付与される。空隙を全て満たした場合、図20の無機粒子複合体成形品4aとなる。空隙の一部を残すほうが、次に塗装処理などの処理をしやすいため、より好ましい。
【0032】
図21は上記方法1により形成した無機粒子構造体3bの模式図である。該構造体3bを成形することにより、構造体3bの中の金属部分が塑性変形し、これが構造体3b中の空隙を埋めていくと同時に、該構造体と接する成形装置の表面の3次元形状が、構造体表面に転写され、構造体表面に3次元形状が付与される。空隙を全てを満たした場合、図22の無機粒子複合体成形品4bとなる。空隙の一部を残すほうが、次に塗装処理などの処理をしやすいため、より好ましい。
【0033】
図23は、図2に描かれた複合体4aを成形するプロセス(プレス成形)を表す模式図である。プレス成形前に無機粒子構造体を予備加熱したり、プレス成形中に型内で加熱したり冷却したりしてもよい。
【0034】
前記方法1の実施に際して、無機粒子と粒子状の金属と液体分散媒とを含む塗工液を調製する。液体分散媒は、粒子を分散させる機能を有するものであればよく、水や揮発性の有機溶剤を用いることができるが、取り扱いが容易であることから水が好ましい。また、上記溶媒への分散性を改良するため、粒子には表面処理を施してもよいし、分散媒電解質や分散助剤を添加してもよい。塗工液において粒子をコロイド状に分散させる場合には、必要に応じてpH調整を行うことや電解質、分散剤を添加することができる。また、粒子を均一に分散させるために、必要に応じてスターラーによる攪拌、超音波分散、超高圧分散(超高圧ホモジナイザー)等の手法を適用してもよい。塗工液の粒子濃度は特に限定されないが、粒子の溶液内での安定性を保つため、1〜50重量%であることが望ましい。無機粒子がアルミナであって、塗工液がコロイド状態である場合には、該塗工液に塩素イオン、硫酸イオン、酢酸イオンなどの陰イオンを添加することが好ましい。無機粒子がシリカであって、塗工液がコロイド状態である場合には、該塗工液にアンモニウムイオン、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオンなどの陽イオンを添加することが好ましい。塗工液には、粒子の分散の安定化などを目的として、界面活性剤、多価アルコール、溶解性樹脂、分散性樹脂、有機系電解質などの添加剤を添加してもよい。
【0035】
塗工液が界面活性剤を含む場合、その含有量は液体分散媒100重量部に対し、通常0.1重量部以下である。用いられる界面活性剤は特に限定されるものではなく、例えばアニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤などが挙げられる。アニオン性界面活性剤としては、カルボン酸のアルカリ金属塩が挙げられ、具体的にはカプリル酸ナトリウム、カプリル酸カリウム、デカン酸ナトリウム、カプロン酸ナトリウム、ミリスチン酸ナトリウム、オレイン酸カリウム、ステアリン酸テトラメチルアンモニウム、ステアリン酸ナトリウムなどが挙げられる。特に、炭素原子数6〜10のアルキル鎖を有するカルボン酸のアルカリ金属塩が好ましい。カチオン性界面活性剤としては、例えば、塩化セチルトリメチルアンモニウム、塩化ジオクタデシルジメチルアンモニウム、臭化−N−オクタデシルピリジニウム、臭化セチルトリエチルホスホニウムなどが挙げられる。非イオン性界面活性剤としては、例えば、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステルなどが挙げられる。両性界面活性剤としては、2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、ラウリン酸アミドプロピルベタインなどが挙げられる。
【0036】
塗工液が多価アルコールを含む場合、その含有量は液体分散媒100重量部に対し、通常10重量部以下が好ましく、さらには5重量部以下が好ましい。多価アルコールを少量添加することで無機粒子複合体の帯電防止性を改良することができる。用いられる多価アルコールは特に限定されるものではなく、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのグリコール系多価アルコール、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリンなどのグリセリン系多価アルコール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、テトラメチロールプロパンなどメチロール系多価アルコールなどが挙げられる。
【0037】
塗工液が溶解性樹脂を含む場合、その含有量は液体分散媒100重量部に対し、通常1重量部以下が好ましく、さらには0.1重量部以下が好ましい。溶解性樹脂を少量添加することで無機粒子構造体の形成を容易にでき、溶解性樹脂の有する機能を付与できることがある。ここで用いられる溶解性樹脂は液体分散媒に可溶であれば、特に限定されるものではなく、例えば、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ビニルアルコールユニットを含む共重合体などのポリビニルアルコール系樹脂、セルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースなどの多糖類などが挙げられる。
【0038】
塗工液が溶液に分散可能な樹脂を含む場合、その含有量は液体分散媒100重量部に対し、通常10重量部以下、さらには5重量部以下、が好ましい。分散性樹脂を少量添加することで無機粒子構造体の形成を容易にでき、分散性樹脂の有する機能を付与できることがある。また、前記無機粒子と分散性樹脂の重量比に限定はないが、その比で好ましくは、50/50<無機粒子の重量分率/分散性樹脂の重量分率<99.9/0.1、より好ましくは90/10<無機粒子の重量分率/分散性樹脂の重量分率<99.5/0.5、さらに好ましくは95/5<無機粒子の重量分率/分散性樹脂の重量分率<99/1、である。ここで用いられる分散性樹脂は液体分散媒に分散可能であれば特に樹脂の種類について限定されるものではなく、広範な樹脂が使用可能である。樹脂の溶液中での存在形態としてサスペンションやエマルションと呼ばれる粒子状で媒体に分散するものが好ましく用いられる。例えば、フッ素樹脂系粒子分散液、シリコーン樹脂系粒子分散液、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂系粒子分散液、ポリ塩化ビニリデン樹脂系粒子分散液が挙げられる。特に、フッ素樹脂系粒子分散液として、三井・デュポンフロロケミカル社製PTFEディスバージョン31−JR、同34−JR、旭硝子社製FluonPTFEディスバージョンAD911L、同AD912L、同AD938Lなどが挙げられる。
【0039】
塗工液が有機系電解質を含む場合、その含有量は液体分散媒100重量部に対し、通常10重量部以下、さらには1重量部以下、が好ましい。有機系電解質を少量添加することで無機粒子構造体の形成を容易にでき、有機系電解質の有する機能を付与できることがある。ここで用いられる有機系電解質は液体分散媒に可溶であれば特に限定されるものではなく、例えば、BO33-、F-、PF6-、BF4-、AsF6-、SbF6-、ClO4-、AlF4-、AlCl4-、TaF6-、NbF6-、SiF62-、CN-、F(HF)n-(当該式中、nは1以上4以下の数値を表す)などの無機アニオンと後述する有機カチオンとの組み合わせ、後述する有機アニオンと有機カチオンとの組み合わせ、有機アニオンとリチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、水素イオンなどの無機カチオンとの組み合わせなどが挙げられる。有機カチオンとは、カチオン性有機化合物であり、例えば、有機4級アンモニウムカチオン、有機4級ホスホニウムカチオンなどが挙げられる。有機4級アンモニウムカチオンとは、アルキル基(炭素数1〜20)、シクロアルキル基(炭素数6〜20)、アリール基(炭素数6〜20)及びアラルキル基(炭素数7〜20)からなる群から選ばれる炭化水素基を有している4級のアンモニウムカチオンであり、有機第4級ホスホニウムカチオンとは前記と同様の炭化水素基を有している4級のホスホニウムカチオンである。前記炭化水素基は、水酸基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基、カルボキシル基、エーテル基、アルデヒド基などを有していてもよい。有機アニオンとは、置換基を有していてもよい炭化水素基を含むアニオンであり、例えば、N(SO2Rf)2-、C(SO2Rf)3-、RfCOO-、およびRfSO3-(Rfは炭素数1〜12のパーフルオロアルキル基を表す)からなる群より選ばれたアニオンや、カルボン酸、有機スルホン酸、有機リン酸等の有機酸又はフェノールから活性水素原子を除いたアニオンなどが挙げられる。
【0040】
必要に応じて、塗工液を得る際に凝集剤を添加することができる。凝集剤を添加することで構造制御された無機粒子構造体を得ることができる。凝集剤の例としては塩酸などの酸性物質またはその水溶液、水酸化ナトリウムなどのアルカリ性物質またはその水溶液、イソプロピルアルコール、イオン液体などが挙げられる。
【0041】
塗工液は、例えば、グラビアコーティング、リバースコーティング、刷毛ロールコーティング、スプレーコーティング、キスコーティング、ダイコーティング、ディッピング、バーコーティングなどのウェットコーティング法で塗布することができる。また、インクジェット印刷、スクリーン印刷、フレキソ印刷、グラビア印刷などの方法を用いれば、無機粒子層に任意の図柄を付与し得る。塗工液を塗布する回数、塗布一回あたりの塗工液の塗布量は任意であるが、均一な厚みに塗布するために、塗布一回あたりの塗布量が0.5g/m2〜40g/m2であることが好ましい。塗布した塗工液から液体分散媒を除去する方法、すなわち乾燥方法において、雰囲気の圧力や温度は、使用する無機粒子、金属および液体分散媒により適宜選択できる。たとえば液体分散媒が水である場合は、常圧下、25℃〜60℃で液体分散媒の除去が可能である。
【0042】
本発明の方法の様態のひとつとして、無機粒子構造体を用い、以下の工程(1)〜(3)を順に経て無機粒子複合体を得ることが可能である。
(1)前記構造体に含まれる金属を塑性変形させる工程
(2)前記構造体に含まれる無機粒子とは組成の異なる無機粒子からなる層を積層する工程
(3)無機粒子層を積層した無機粒子構造体に含まれる金属を塑性変形させる工程。
【0043】
なお、工程(1)を実施すると、構造体中にあった空隙に塑性変形した金属が充填されるが、構造体中に多数ある空隙のうちの一部の空隙金属が充填されて、他の空隙には金属が充填されない場合や、一つの空隙の一部分だけに金属が充填される場合がある。もちろん、全ての空隙に完全に金属が充填されてもよい。金属の塑性変形および空隙への金属の充填の度合いは無機粒子複合体の目的とする機能により異なる。
金属を塑性変形させる手段に限定はない。たとえば無機粒子構造体を加圧する方法、該構造体を加熱する方法、該構造体に電磁波を照射する方法、これらを併用する方法、が挙げられる。金属を塑性変形させる手段としては、少なくとも加圧する方法を採用することが好ましい。
【0044】
上記工程(2)は、無機粒子構造体に含まれる金属および/または無機粒子とは組成の異なる金属および/または無機粒子からなる層を積層する工程である。ここで、「無機粒子構造体に含まれる金属および/または無機粒子とは組成の異なる金属および/または無機粒子」について説明する。
【0045】
まず、無機粒子構造体に含まれる金属および無機粒子について、その種類や割合を特定する。例えば、無機粒子構造体として、平均粒子径が5nmの銀を10重量%、平均粒子径が70nmのシリカを60重量%、平均粒子径が5nmのシリカを20重量%、平均粒子径が10nmのフッ素樹脂を10重量%含む構造体があるとする。この場合、金属としては、平均粒径が5nmの銀を含み、その割合は12.5重量%である。無機粒子としては、平均粒子径が70nmのシリカと平均粒子径が5nmのシリカの2種類を含み、その割合は、前者が75重量%、後者が12.5重量%である。該構造体に含まれる金属および/または無機粒子とは組成の異なる金属および/または無機粒子としては、以下のようなものが挙げられる。
(i)平均粒子径が70nmのシリカか、平均粒子径が5nmのシリカの少なくとも一方を含まない混合粒子
(ii)無機粒子構造体に含まれる平均粒子径が70nmのシリカと同じ、平均粒子径が70nmのシリカと、該構造体に含まれる平均粒子系が5nmのシリカと同じシリカの混合物であるが、前者の混合割合が75重量%ではなく、後者の混合割合も12.5重量%ではない混合粒子
(iii)平均粒子径が70nmの無機粒子を75重量%、平均粒子径が5nmの無機粒子を12.5重量%含むが、少なくとも一方がシリカではない混合粒子
【0046】
無機粒子構造体に、該構造体に含まれる金属および/または無機粒子とは組成の異なる金属および/または無機粒子からなる層を積層する方法としては、たとえば以下のような方法が挙げられる。
方法1:金属および/または無機粒子と液体分散媒とを含む塗工液を、無機粒子構造体の表面に塗布し、塗布した塗工液から液体分散媒を除去する方法。
方法2:金属および/または無機粒子を含む板状物を無機粒子構造体の表面に積層する方法。
具体的には、リバースコート法、ダイコート法、ディップコート法、グラビアコート法、フレキソコート法、インクジェットコート法、スクリーン印刷法などのウエットコーティング法やスパッタリング法、CVD法、プラズマCVD法、プラズマ重合法、真空蒸着法などのドライコーティング法が好ましく用いられる。これらは単独でも複数組み合わせて用いてもかまわない。工程(2)と工程(3)は、それぞれ複数回行われてもよい。
【0047】
前記工程(1)〜(3)を含む方法によれば、各層由来の性能を発現しつつ、層間密着力の改善された無機粒子複合体を得ることができる。さらに、本発明の無機粒子複合体は、無機粒子や金属の種類に応じて、種々の特性を発現できる。特に、図5〜図10に示すように同一の金属が複数の層にわたり充填されている場合には、金属と各機能層の無機粒子部分の界面が金属の連続層となっており、このことにより、脆さやはがれやすさが軽減されていると考えられる。また図6、図8、図10に示すように金属が無機粒子構造体の空隙を極めて高い充填率で充填した場合、物質遮断性にも優れた無機粒子複合体を形成することが可能となる。
【0048】
本発明の方法における金属を塑性変形させる工程では、無機粒子構造体に電磁波を照射し、該構造体に含まれる金属を塑性変形させる。電磁波は、該構造体中の金属を選択的に照射し得るため、金属を塑性変形させる手段として好適である。無機粒子構造体に電磁波を照射することにより、該構造体に含まれる無機粒子を軟化や融解させることなく、金属を選択的に塑性変形させ、これを該構造体が有する空隙の少なくとも一部に充填することができる。電磁波は、陽子線、電子線、中性子線、ガンマ線、X線、紫外線、可視光線、赤外線、マイクロ波、低周波、高周波、およびこれらのレーザー光からなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。無機粒子構造体に電磁波を照射する際の、電磁波の波長や出力、照射時間などの照射条件の最適値は、無機粒子構造体や無機粒子や金属の電磁波吸収特性により異なる。無機粒子による吸収が小さく、金属による吸収が大きい波長領域の電磁波を照射することで、無機粒子や無機粒子構造体や生成する無機粒子複合体にダメージを与えることなく、金属を効率的に塑性変形することが可能である。
【0049】
金属の塑性変形を容易にする目的で、電磁波照射に加えて、補助的方法を用いてもよい。補助的方法としては、熱を加え金属を軟化する方法、化学物質を作用させ金属を軟化する方法、金属と空隙界面の親和性やすべり性を増す方法などが挙げられ、なかでも熱を加え金属を軟化する方法、が好ましく用いられる。無機粒子構造体全体を加熱し金属を軟化する方法する方法としては、オーブンやヒーターなどによる加熱雰囲気中に該構造体を投入する方法、熱した金属板やロールなどの熱媒に該構造体を接触させる方法などが挙げられる。
【0050】
本発明の方法の好ましい一つの態様では、金属を塑性変形させる工程を実施して得られた構造体の表面を親水化処理し、本発明の方法の他の好ましい一つの態様では、前記無機粒子構造体の表面を親水化処理する工程を、金属を塑性変形させる工程を実施する前に行う。親水化処理は、無機粒子構造体の表面の一部分に施してもよく、表面全てに施してもよい。本発明における親水化処理は、無機粒子構造体の表面の親水性を高める処理をであれば特に限定はない。好ましくは、無機粒子構造体の表面を親水化剤でコーティングする方法や、溶媒などによる構造体の表面の洗浄などが挙げられる。また、無機粒子構造体表面をコーティングする親水化剤として、親水性の無機粒子を用いてもよい。親水性の無機粒子とは、親水性基を持ち、水に対する親和性が高い粒子であり、例えば、炭酸カルシウム、二酸化チタン、タルク、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸カルシウム、アルミナ三水シリカ、アルミナ、ジルコニア、セリア、シリカ、硫酸カルシウム、ガラス微小球などが挙げられる。
【0051】
親水化剤で無機粒子構造体の表面をコーティングするメカニズムは、特に限定されず、無機粒子構造体の表面に親水化剤を物理的に吸着させてもよく、無機粒子構造体の表面と親水化剤とを反応させてもよい(化学吸着)。無機粒子構造体の表面を親水化剤でコーティングする方法としては、特に限定されず、リバースコート法、ダイコート法、ディップコート法、グラビアコート法、フレキソコート法、インクジェットコート法、スクリーン印刷法などのウエットコーティング法や、スパッタリング法、CVD法、プラズマCVD法、プラズマ重合法、真空蒸着法などのドライコーティング法が好ましく用いられる。付与される親水化剤の層の厚みは特に限定されないが、1〜50nm程度が好ましく、厚すぎると表面硬度が発現しにくくなるし、1nmよりも薄いと親水性が十分発現されない場合がある。より好ましくは、2〜30nm、特に3〜10nm程度である。
【0052】
本発明の親水化処理の一つである洗浄方法は特に限定されず、溶媒洗浄処理、粘着ロール除塵処理などの接触洗浄法や、紫外線照射、コロナ処理、プラズマ処理、フレームプラズマ処理、超音波除塵処理などの非接触洗浄法、が好ましく用いられる。親水化処理として、複数の手法を併用してもよい。
【0053】
本発明の方法の親水化処理を施す態様では、表面の少なくとも一部が無機粒子層で構成されている無機粒子構造体を用いることが好ましい。これは、無機粒子層は無機粒子が露出しているため親水化処理しやすいからである。本発明の親水性無機粒子複合体は、無機粒子の一部が金属を介して化学的または/および物理的に結合した状態のものである。
本発明の方法の好ましい一つの態様では、金属を塑性変形させる工程を実施して得られた構造体の表面を撥水化処理し、本発明の方法の他の好ましい一つの態様では、前記無機粒子構造体の表面を親水化処理する工程を、金属を塑性変形させる工程を実施する前に行う。
【0054】
無機粒子構造体表面を撥水化処理する方法は、特に限定されない。該構造体表面に撥水剤を含む層を積層する方法や、撥水剤を反応させる方法が好ましい。撥水化処理は、無機粒子構造体の表面の一部分に施してもよく、表面全てに施してもよい。
撥水化剤を含む層を積層する方法としては、リバースコート法、ダイコート法、ディップコート法、グラビアコート法、フレキソコート法、インクジェットコート法、スクリーン印刷法などのウエットコーティング法やスパッタリング法、CVD法、プラズマCVD法、プラズマ重合法、真空蒸着法などのドライコーティング法(すなわち、蒸着法)が好ましく用いられる。無機粒子構造体の表面に設ける撥水剤層の厚みは特に限定されないが、1〜50nm程度が好ましく、厚すぎると表面硬度が発現しにくくなるし、1nmよりも薄いと撥水性に劣る。より好ましくは、2〜30nm、特に3〜10nm程度である。
【0055】
撥水剤としては、フッ素原子を含有する低表面エネルギー・低界面エネルギーの化合物が好ましく、フッ化炭化水素基を含有するシリコーン系化合物、フッ化炭化水素基含有ポリマーなどが挙げられる。ダイキン工業株式会社製フッ素系表面防汚コーティング剤オプツールDSXなどが市販品として入手できる。
【0056】
その他の好ましい撥水剤として、特開2009−53591号公報に記載されているような、ケイ素原子が2つ以上のフッ素含有ケイ素化合物を挙げることができる。該化合物で無機粒子構造体をコーティングした場合、ケイ素原子同士が結合し、長鎖をつくるため、無機粒子構造体との化学的な吸着はケイ素原子が1個である場合と変わらないが、仮に無機粒子構造体とケイ素原子とが殆ど結合しなかったとしても、ケイ素原子同士が結合して長鎖となり前記構造体と物理的に吸着するため、比較的拭き取りに対して強固な膜を形成することができる。このため、反応性官能基と結合しているケイ素原子が2つ以上あるフッ素含有ケイ素化合物が適している。
反応性官能基と結合しているケイ素原子を2つ以上有するフッ素含有ケイ素化合物の具体例としては、
(CH3O)3SiCH2CH2CH2OCH2CF2CF2O(CF2CF2CF2O)pCF2CF2CH2OCH2CH2CH2Si(OCH3)3、(CH3O)2CH3SiCH2CH2CH2OCH2CF2CF2O(CF2CF2CF2O)pCF2CF2CH2OCH2CH2CH2SiCH3(OCH3)2、(CH3O)3SiCH2CH2CH2OCH2CF2(OC2F4)q(OCF2)rOCF2CH2OCH2CH2CH2Si(OCH3)3、(CH3O)2CH3SiCH2CH2CH2OCH2CF2(OC2F4)q(OCF2)rOCF2CH2OCH2CH2CH2SiCH3(OCH3)2、(C2H5O)3SiCH2CH2CH2OCH2CF2(OC2F4)q(OCF2)rOCF2CH2OCH2CH2CH2Si(OC2H5)3、(CH3O)3SiCH2C(=CH2)CH2CH2CH2OCH2CF2CF2O(CF2CF2CF2O)pCF2CF2CH2OCH2CH2CH2(CH2=)CCH2Si(OCH3)3、(CH3O)3SiCH2C(=CH2)CH2CH2CH2OCH2CF2(OC2F4)q(OCF2)rOCF2CH2OCH2CH2CH2(CH2=)CCH2Si(OCH3)3、(CH3O)2CH3SiCH2C(=CH2)CH2CH2CH2OCH2CF2(OC2F4)q(OCF2)rOCF2CH2OCH2CH2CH2(CH2=)CCH2SiCH3(OCH3)2を挙げることができる。ただし、p=1〜50の整数、q=1〜50の整数、r=1〜50の整数、q+r=10〜100の整数であり、式中の繰り返し単位の配列はランダム的である。
【0057】
本発明の方法で製造される撥水性無機粒子複合体の表面における純水の接触角は特に限定されないが、防水および防汚性の観点から、100゜以上であることが好ましく、かつ、オレイン酸の接触角は、70゜以上であることが好ましい。また上記以外に構造体または複合体の表面の一部を処理する方法として、特開2008−273784号公報、特開2008−7365号公報、特開2006−223957号公報に記載されているような、撥水機能を有する単分子膜を形成する方法、特開2006−188487号公報に記載されているような、機能性有機薄膜を形成する方法、WO2005/027611、特開平8−323280号公報に記載されているような、フラクタルな表面構造を形成する方法などを用いてもよい。
【0058】
本発明の方法で製造される撥水性無機粒子複合体の形状に特に限定はなく、要求される機能、使用される用途に応じた形状が用いられる。たとえば、フィルムやシートなどの板状、棒状、繊維状、球状、三次元構造体状などである。用途がフラットパネルディスプレイやフレキシブルディスプレイなどの場合には、撥水性無機粒子複合体の形状もフィルム状であることが好ましい。また、使用する無機粒子構造体は、表面に無機粒子層を有することが好ましい。この場合、無機粒子層の厚みは、特に限定されないが、100μm以下、好ましくは10μm以下、さらには5μm以下、特に1μm以下であることが好ましい。さらに柔軟性などが求められる場合には、無機粒子層の厚みは、5μm以下、好ましくは1μm以下、さらには0.5μm以下、特に0.2μm以下であることが好ましい。無機粒子層の厚みが、100μmより大きいと脆くなる傾向があり、0.01μm以下では硬度が発現しにくい傾向にある。
【0059】
本発明の方法によれば、無機粒子由来の表面硬度を有しつつ、脆さやはがれやすさが軽減された撥水性無機粒子複合体を得ることができる。さらに、本発明の方法で製造される撥水性無機粒子複合体は、撥水処理や無機粒子や金属の種類に応じて、種々の特性を発現できる。また図2及び図4に示すように金属が無機粒子構造体の空隙を極めて高い充填率で充填した場合、物質遮断性にも優れた撥水性無機粒子複合体を形成することが可能となる。
【0060】
本発明の方法の好ましい一つの態様では、金属を塑性変形させる工程を実施して得られた構造体の表面を反射防止処理し、本発明の方法の他の好ましい一つの態様では、前記無機粒子構造体の表面を反射防止処理する工程を、金属を塑性変形させる工程を実施する前に行う。
反射防止性無機粒子複合体の代表的模式図を図15、16に示したが、本発明はこれらに限定されるものではない。また、これら代表的模式図に示された複合体同士が複合されたものであってもよい。
また、本発明の工程を経て得られる無機粒子複合体は、前記した無機粒子構造体のうち、表面の少なくとも一部に無機粒子層を有する無機粒子構造体を用いて、該無機粒子構造体に含まれる金属を塑性変形させて、該無機粒子構造体が有する空隙の少なくとも一部に該金属を充填し、かつ該無機粒子層の表面まで金属を漏出させて得られる無機粒子複合体であってもよい。すなわち該無機粒子複合体は、その表面の少なくとも一部が、使用した無機粒子構造体に含まれていた金属で覆われている。本発明では、表面の少なくとも一部に、無機粒子構造体に由来する無機粒子が露出している層を有する無機粒子複合体を得ることが好ましい。このような無機粒子複合体は、反射防止処理を行いやすい。
【0061】
反射防止剤を無機粒子複合体表面に積層する方法としては特に限定されない。反射防止剤を含む塗工液を無機粒子構造体表面に塗布し、乾燥する方法や、リバースコート法、ダイコート法、ディップコート法、グラビアコート法、フレキソコート法、インクジェットコート法、スクリーン印刷法などのウエットコーティング法やスパッタリング法、CVD法、プラズマCVD法、プラズマ重合法、真空蒸着法などのドライコーティング法(すなわち、蒸着法)が好ましく用いられる。これらは単独でも複数組み合わせて用いてもかまわない。
積層される反射防止剤からなる層は、反射防止させる光の波長や使用する無機粒子複合体の屈折率、反射防止性無機粒子複合体を使用する雰囲気の屈折率など多様な因子を加味して設計される。積層する反射防止層は、単層でも多層でもよい。単層の場合には、低屈折率となる組成が用いられる。多層の場合、各層の屈折率、厚みは光学設計によって決定する。反射防止性能は多層が優れるが、コスト面では単層が優れる。たとえば、単層の反射防止層で可視光線の反射を防止する場合には、反射防止層の厚みを50〜150nmとすることが好ましく、80〜130nmとすることがより好ましい。光学設計方法としては、たとえば反射防止膜の特性と最適設計・膜作製技術」(2001.技術情報協会)や、「光学実務資料集〜各種応用展開を見据えて〜」(2006.情報機構)、「反射防止膜の特性と最適設計・膜作製技術」(2001.技術情報協会編)を参考にすることができる。
【0062】
以下、反射防止処理の一例として特開2006−327187号公報に記載された方法について詳述するが、本発明における反射防止処理はこれに限定されるものではない。
反射防止剤として使用する混合無機粒子分散液は、粒子径が10〜60nmである3個以上の粒子が鎖状に連なった無機粒子鎖(A)、平均粒子径が1〜20nmである無機粒子(B)および液体分散媒を用いて調製され、下式(1)および(2)を満たす。
(1)0.55≦RVa≦0.90
(2)0.10≦RVb≦0.45
但し、RVaは前記分散液中における前記無機粒子鎖(A)と無機粒子(B)の合計体積に対する前記無機粒子鎖(A)の体積の割合であり、RVbは前記分散液中における前記無機粒子鎖(A)と無機粒子(B)の合計体積に対する前記無機粒子(B)の体積の割合である。
無機粒子鎖(A)の化学組成と無機粒子(B)の化学組成とは同じであってもよく、また異なっても良い。無機粒子鎖(A)および無機粒子(B)として使用される無機粒子の例としては、酸化ケイ素(シリカ)、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化錫、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、タルク、カオリン等が挙げられる。溶媒中での分散性が良好であり、屈折率が低く、また、粒径分布が小さい粉体の入手が容易であるので、無機粒子鎖(A)と無機粒子(B)はシリカであることが好ましい。
無機粒子鎖(A)とは、粒子径が10〜60nmである粒子が3個以上鎖状に連なっている無機粒子の鎖である。このような無機粒子鎖としては市販品を使用することができ、その例としては、日産化学工業株式会社製のスノーテックス(登録商標)PS−S、PS−SO、PS−M、PS−MO(これらは、水を分散媒とするシリカゾルである)、および日産化学工業株式会社製のIPA−ST−UP(これは、イソプロパノールを分散媒とするシリカゾルである)などを挙げることができる。無機粒子鎖を形成している粒子の粒子径、および無機粒子鎖の形状は透過型電子顕微鏡により観察により決定できる。ここで、「鎖状に連なった」という表現は、「環状に連なった」に相対する表現であり、直線状に連なったものだけではなく、折れ曲がって連なったものも包含される。
無機粒子(B)の平均粒子径は1〜20nmである。ここで無機粒子(B)の平均粒子径は動的光散乱法またはシアーズ法により求められる。動的光散乱法による平均粒子径の測定は、市販の粒度分布測定装置を使用して行うことができる。シアーズ法とは、Analytical Chemistry, vol. 28, p. 1981-1983, 1956に記載された方法であって、シリカ粒子の平均粒子径の測定に適用される分析手法であり、pH=3のコロイダルシリカ分散液をpH=9にするまでに消費されるNaOHの量から表面積を求め、求めた表面積から球相当径を算出する方法である。このようにして求められた球相当径を平均粒子径とする。
【0063】
混合無機粒子分散液は、典型的には、例えば下記[1]〜[5]のいずれかの方法により調製することができるが、これらの方法に限定されるものではない。
[1]無機粒子鎖(A)の粉末と無機粒子(B)の粉末とを同時に共通の液体分散媒中に添加し、分散させる方法。
[2]無機粒子鎖(A)を第一の液体分散媒中に分散させて第一の分散液を調製し、別途、無機粒子(B)を第二の液体分散媒中に分散させて第二の分散液を調製し、次いで第一および第二の分散液を混合する方法。
[3]無機粒子鎖(A)を液体分散媒中に分散させて分散液を調製し、次いで該分散液に無機粒子(B)の粉末を添加し、分散させる方法。
[4]無機粒子(B)を液体分散媒中に分散させて分散液を調製し、次いで該分散液に無機粒子鎖(A)の粉末を添加し、分散させる方法。
[5]分散媒中で粒成長させて無機粒子鎖(A)を含有する第一の分散液を調製し、別途、分散媒中で粒成長させて無機粒子(B)を含有する第二の分散液を調製し、次いで第一および第二の分散液を混合する方法。
超音波分散、超高圧分散等の強分散手法を適用することにより、混合無機粒子分散液中において、無機粒子を特に均一に分散させることが出来る。より均一な分散を達成するために、混合無機粒子分散液の調製に使用する無機粒子鎖(A)の分散液や無機粒子(B)の分散液や、最終的に得られる混合無機粒子分散液中で無機粒子はコロイド状態であることが好ましい。分散媒には水や揮発性の有機溶媒を用いることができる。
【0064】
前記[2]、[3]、[4]または[5]の方法において、無機粒子鎖(A)の分散液、無機粒子(B)の分散液、または無機粒子鎖(A)の分散液と無機粒子(B)の分散液の両方がコロイダルアルミナである場合には、陽性に帯電するアルミナ粒子を安定化させるため、コロイダルアルミナ中に塩素イオン、硫酸イオン、酢酸イオンなどの陰イオンを対アニオンとして添加することが好ましい。コロイダルアルミナのpHは特に限定されるものではないが、分散液の安定性の観点からpH2〜6であることが好ましい。また、前記[1]の方法においても、無機粒子鎖(A)および無機粒子(B)の少なくとも一方がアルミナであって、混合無機粒子分散液がコロイド状態である場合には、該混合無機粒子分散液に塩素イオン、硫酸イオン、酢酸イオンなどの陰イオンを添加することが好ましい。
【0065】
前記[2]、[3]、[4]または[5]の方法において、無機粒子鎖(A)の分散液、無機粒子(B)の分散液、または無機粒子鎖(A)の分散液と無機粒子(B)の分散液の両方がコロイダルシリカである場合には、陰性に帯電するシリカ粒子を安定化させるため、コロイダルシリカ中にアンモニウムイオン、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオンなどの陽イオンを対カチオンとして添加することが好ましい。コロイダルシリカのpHは特に限定されるものではないが、分散液の安定性の観点からpH8〜11であることが好ましい。また、前記[1]の方法においても、無機粒子鎖(A)および無機粒子(B)のうちの少なくとも一つがシリカであって、混合無機粒子分散液がコロイド状態である場合には、該混合無機粒子分散液にアンモニウムイオン、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオンなどの陽イオンを添加することが好ましい。
混合無機粒子分散液は、下式(1)および(2)を満たす。
(1)0.55≦RVa≦0.90
(2)0.10≦RVb≦0.45
但し、RVaは前記分散液中における前記無機粒子鎖(A)と無機粒子(B)の合計体積に対する前記無機粒子鎖(A)の体積の割合であり、RVbは前記分散液中における前記無機粒子鎖(A)と無機粒子(B)の合計体積に対する前記無機粒子(B)の体積の割合である。換言すれば、上式におけるRVaおよびRVbは、それぞれ無機粒子鎖(A)の体積分率および無機粒子(B)の体積分率に相当する。無機粒子鎖(A)および無機粒子(B)が同じ化学種であれば、一般に、無機粒子鎖(A)および無機粒子(B)の体積分率(RVaおよびRVb)は、無機粒子鎖(A)および無機粒子(B)の重量分率と等しい。混合無機粒子分散液に含まれる無機粒子鎖(A)および無機粒子(B)の量は特に限定されるものではないが、塗工性および分散性の観点から1〜20重量%であることが好ましく、3〜10重量%であることがより好ましい。
【0066】
混合無機粒子分散液には、無機粒子の分散の安定化などを目的として、界面活性剤、有機系電解質などの添加剤を添加してもよい。混合無機粒子分散液が界面活性剤を含む場合、その含有量は分散媒100重量部に対し、通常0.1重量部以下である。用いられる界面活性剤は特に限定されるものではなく、例えばアニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤などが挙げられる。界面活性剤としては、以下に例示した化合物を使用することができる。
界面活性剤としては、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、両イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤があり、特に限定はない。樹脂との相溶性および熱安定性の観点から、非イオン界面活性剤が好ましく用いられる。
具体的には、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノモンタネート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンジオレエート等のソルビタン脂肪酸エステル及びそのアルキレンオキサイド付加物等のソルビタン系界面活性剤、グリセリンモノパルミテート、グリセリンモノステアレート、ジグリセリンジステアレート、トリグリセリンモノステアレート、テトラグリセリンジモンタネート、グリセリンモノオレエート、ジグリセリンモノオレエート、ジグリセリンセスキオレエート、テトラグリセリンモノオレエート、ヘキサグリセリンモノオレエート、ヘキサグリセリントリオレエート、テトラグリセリントリオレエート、テトラグリセリンモノラウレート、ヘキサグリセリンモノラウレート等のグリセリン脂肪酸エステル及びそのアルキレンオキサイド付加物等のグリセリン系界面活性剤、ポリエチレングリコールモノパルミテート、ポリエチレングリコールモノステアレート等のポリエチレングリコール系界面活性剤、アルキルフェノールのアルキレンオキシド付加物、ソルビタン/グリセリン縮合物と有機酸とのエステル、ポリオキシエチレン(2モル)ステアリルアミン、ポリオキシエチレン(4モル)ステアリルアミン、ポリオキシエチレン(2モル)ステアリルアミンモノステアレート、ポリオキシエチレン(4モル)ラウリルアミンモノステアレート等のポリオキシエチレンアルキルアミン及びその脂肪酸エステル等が挙げられる。さらにパ−フルオロアルキル基、ω−ヒドロフルオロアルキル基等を有するフッ素化合物(特にフッ素系界面活性剤)、またアルキルシロキサン基を有するシリコーン系化合物(特にシリコーン系界面活性剤)等が挙げられる。フッ素系界面活性剤の具体例としては、ダイキン工業(株)製のユニダインDS−403、DS−406、DS−401(商品名)、セイミケミカル(株)製のサーフロンKC−40(商品名)等が挙げられ、シリコーン系界面活性剤としては、東レダウコーニングシリコーン(株)社製のSH−3746(商品名)が挙げられる。
【0067】
混合無機粒子分散液が有機系電解質を含む場合には、その含有量は液体分散媒100重量部に対し、通常0.01重量部以下である。有機系電解質としては、以下に例示した化合物を使用することができる。
ここで用いられる有機系電解質は液に溶解しておれば特に限定されるものではなく、例えば、BO33-、F-、PF6-、BF4-、AsF6-、SbF6-、ClO4-、AlF4-、AlCl4-、TaF6-、NbF6-、SiF62-、CN-、F(HF)n-(当該式中、nは1以上4以下の数値を表す)などの無機アニオンと後述する有機カチオンとの組み合わせ、後述する有機アニオンと有機カチオンとの組み合わせ、有機アニオンとリチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、水素イオンなどの無機カチオンとの組み合わせなどが挙げられる。
有機カチオンとは、カチオン性有機化合物であり、例えば、有機4級アンモニウムカチオン、有機4級ホスホニウムカチオンなどが挙げられる。有機4級アンモニウムカチオンとは、アルキル基(炭素数1〜20)、シクロアルキル基(炭素数6〜20)、アリール基(炭素数6〜20)及びアラルキル基(炭素数7〜20)からなる群から選ばれる炭化水素基を有している4級のアンモニウムカチオンであり、有機第4級ホスホニウムカチオンとは前記と同様の炭化水素基を有している4級のホスホニウムカチオンである。前記炭化水素基は、水酸基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基、カルボキシル基、エーテル基、アルデヒド基などを有していてもよい。
有機アニオンとは、置換基を有していてもよい炭化水素基を含むアニオンであり、例えば、N(SO2Rf)2-、C(SO2Rf)3-、RfCOO-、およびRfSO3-(Rfは炭素数1〜12のパーフルオロアルキル基を表す)からなる群より選ばれたアニオンや、カルボン酸、有機スルホン酸、有機リン酸等の有機酸又はフェノールから活性水素原子を除いたアニオンなどが挙げられる。
【0068】
前記した無機粒子鎖(A)と無機粒子(B)と液体分散媒とを使用して調製した混合無機粒子分散液を、無機粒子複合体に塗布し、ついで、塗布した混合無機粒子分散液から液体分散媒を適当な手段で除去することにより、前記無機粒子複合体上に無機粒子層が形成される。この無機粒子層は反射防止機能を有するので、これによって反射防止性無機粒子複合体が形成されることになる。反射防止機能を有する無機粒子層の厚さは特に限定されない。ディスプレイ内部における外部光の反射を効果的に防止するためにディスプレイの表面層として使用するのに適した反射防止性無機粒子複合体の製造においては、反射防止性無機粒子複合体における無機粒子層の厚みを50〜150nmとすることが好ましく、80〜130nmとすることがより好ましい。無機粒子層の厚みは、混合無機粒子分散液中の無機粒子鎖(A)および無機粒子(B)の量、および混合無機粒子分散液の塗布量を変更することにより調節することができる。
無機粒子複合体表面に混合無機粒子分散液を塗布する方法は特に限定されず、例えば、グラビアコーティング、リバースコーティング、刷毛ロールコーティング、スプレーコーティング、キスコーティング、ダイコーティング、ディッピング、バーコーティングなどのウエットコーティング法で塗布することができる。
無機粒子複合体に混合無機粒子分散液を塗布する前に、無機粒子複合体の表面にコロナ処理、オゾン処理、プラズマ処理、フレーム処理、電子線処理、アンカーコート処理、洗浄処理などの前処理を行なうことが好ましい。
無機粒子複合体上に塗布した混合無機粒子分散液から液体分散媒を除去することにより、無機粒子複合体上に無機粒子層を形成する。液体分散媒の除去は、例えば、常圧下または減圧下における加熱により行なうことができる。液体分散媒の除去の際の圧力、加熱温度は、使用する材料(すなわち、無機粒子鎖(A)、無機粒子(B)および液体分散媒)に応じて適宜選択することができる。例えば、分散媒が水であるときは、一般的には50〜80℃で、好ましくは約60℃で乾燥することができる。
特開2006−327187号公報の方法によれば、200℃を超えるような高温での処理を行うことなく、反射防止機能を有し、硬度に優れた無機粒子層を無機粒子複合体上に形成することができる。これは、形成された無機粒子層が、無機粒子鎖(A)の間隙に無機粒子(B)が位置する構造となっており、無機粒子(B)を介して無機粒子鎖(A)が繋ぎ止められているからであると考えられる。
【0069】
本発明の方法で製造される反射防止性無機粒子複合体には必要に応じて、防汚処理、帯電防止処理などを施してもよい。防汚処理とは、指紋汚れなどを防ぐあるいは拭き取りを容易にするためのものであり、反射防止性無機粒子複合体表面を撥水剤などでコーティングしたり、該複合体表面に撥水剤などを反応させたりするによって行うことができる。帯電防止処理することにより、視認性を確保するため埃の付着を防止したり、帯電に起因する放電により光学素子が破壊することを防ぐことができる。帯電防止処理としては、前記の界面活性剤や導電材の添加や積層がなされることが多い。
本発明の方法で製造される反射防止性無機粒子複合体表面における純水の接触角は特に限定されないが、防水および防汚性の観点から、100゜以上であることが好ましく、かつ、オレイン酸の接触角は、70゜以上であることが好ましい。
【0070】
本発明の方法の好ましい一つの態様では、金属を塑性変形させる工程を実施して得られた構造体の表面にガラス層を付与し、本発明の方法の他の好ましい一つの態様では、前記無機粒子構造体の表面にガラス層を付与する工程を、金属を塑性変形させる前記工程を実施する。ガラスを積層した無機粒子複合体の代表的模式図を図17、18に示したが、本発明はこれらに限定されるものではない。また、これら代表的模式図に示された複合体同士が複合されたものであってもよい。
本発明の方法で製造される無機粒子複合体は、表面の少なくとも一部に無機粒子層を有する無機粒子構造体を用いて、該無機粒子構造体に含まれる金属を塑性変形させて、該無機粒子層の表面に該金属を漏出させずに、かつ該無機粒子構造体が有する空隙の少なくとも一部に該金属を充填して得られる無機粒子複合体であってもよい。すなわち該無機粒子複合体は、その表面の少なくとも一部に無機粒子構造体に由来する無機粒子層を有する。
【0071】
また、本発明の方法で製造される無機粒子複合体は、表面の少なくとも一部に無機粒子層を有する無機粒子構造体を用いて、該無機粒子構造体に含まれる金属を塑性変形させて、該無機粒子構造体が有する空隙の少なくとも一部に該金属を充填し、かつ該無機粒子層の表面まで金属を漏出させて得られる無機粒子複合体であってもよい。すなわち該無機粒子複合体は、その表面の少なくとも一部が、使用した無機粒子構造体に含まれていた金属で覆われている。
【0072】
本発明では、表面の少なくとも一部に、無機粒子構造体に由来する無機粒子層を有する無機粒子複合体を得ることが好ましい。このような無機粒子複合体は、ガラスと積層しやすい。無機粒子複合体とガラスとを積層する方法としては特に限定はなく、後述するように好ましくは、無機粒子複合体とガラスとを接着剤を介して接着する方法、無機粒子複合体をガラス前駆体でコーティングした後、該ガラス前駆体をガラス化する方法、無機粒子複合体に溶融ガラスを押出ラミネートする方法である。
【0073】
無機粒子複合体とガラスとを接着剤を介して接着する方法としては、無機粒子複合体表面に接着剤を塗布した後、その塗布部とガラスとを積層して接着剤を硬化させる方法、ガラスに接着剤を塗布した後、その塗布部と無機粒子複合体とを積層して接着剤を硬化させる方法、無機粒子複合体とガラスの両方に接着剤と塗布し、塗布部同士を密着させて接着剤を硬化させる方法などが挙げられる。接着剤の種類は、特に限定されない。セラミック、水ガラス、ゴム系接着剤、エポキシ系接着剤、アクリル系接着剤、ウレタン系接着剤などが使用できる。水溶性の接着剤を用いることが、扱いやすさの点から好ましい。水溶性接着剤の例としては、例えば、膠、でんぷん、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、アクリルアミド−ジアセトンアクリルアミド共重合体などを挙げることができる。更に、接着剤は、粘着付与材、可塑剤、充填材、酸化防止剤、安定剤、顔料、拡散粒子、硬化剤及び溶媒等の添加物を含むことができる。接着剤の厚みは特に限定されないが、100nm以下であることが好ましい。
使用できるガラスの組成、製造方法などは特に限定されない。ソーダガラス、クリスタルガラス、硼ケイ酸(ほうけいさん)ガラス、石英ガラス、アルミノケイ酸ガラス、ホウ酸塩ガラス、リン酸塩ガラス、無アルカリガラス、セラミックスとの複合ガラスなどが使用できる。
【0074】
無機粒子複合体をガラス前駆体でコーティングした後、該ガラス前駆体をガラス化する方法は、特に限定されない。オーブンなどによる加熱、電磁波照射などによるガラス前駆体の局所加熱などが挙げられる。ガラス前駆体としては、シラン化合物、金属アルコキシド、水ガラス、ガラスペーストなどが使用できる。シラン化合物の例としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシランが挙げられる。金属アルコキシドの例としては、チタンのアルコキシド(テトライソプロポキシチタン等)、ジルコニウムのアルコキシド(テトラ−n−ブトキシジルコニウム等)、アルミニウムのアルコキシド(トリ−s−ブトキシアルミニウム等)、並びにこれらの縮合体が挙げられる。縮合体は、単一の化合物の縮合体でも、複数の化合物の複合縮合体でもよい。シラン化合物や金属アルコキシドは、溶液にして使用してもよい。ガラス前駆体で無機粒子複合体をコーティングする方法は、特に限定されない。リバースコート法、ダイコート法、ディップコート法、グラビアコート法、フレキソコート法、インクジェットコート法、スクリーン印刷法などのウエットコーティング法が好ましく用いられる。
無機粒子複合体に溶融ガラスを押出ラミネートする方法は、特に限定されない。
【0075】
本発明の方法で製造される無機粒子複合体の空隙率に限定はないが、90体積%以下が、好ましくは50体積%以下であり、さらには30体積%以下、特に10体積%以下、もっとも好ましくは5体積%以下、あるいは1体積%以下である。
空隙率が90体積%よりも大きいと無機粒子複合体としての強度が不足する傾向にある。
空隙率が小さいほど無機粒子複合体としての強度は強くなり、理想的には空隙がないことが好ましい。本発明の無機粒子複合体の無機粒子の形状が球状の場合には、空隙率として、30体積%以下が、好ましくは10体積%以下であり、さらには5体積%以下、特に1体積%以下である。本発明の無機粒子複合体の無機粒子の形状が層状の場合には、空隙率として、50体積%以下が、好ましくは30体積%以下であり、さらには10体積%以下、特に5体積%以下、もっとも好ましくは1体積%以下である。
【0076】
また、空隙率に変えて、無機粒子が存在する領域の体積を100としたときに空隙に金属を充填した部分の体積分率をV(%)とし、空隙率の尺度とする。Vが大きいほど無機粒子層の空隙が少なく、小さいほど空隙は多くなる。Vの範囲は0<V<100であり、好ましくは1<V<99、さらには10<V<95、特に50<V<90である。Vの求め方に限定はないが、塑性を有する板状の金属と無機粒子層とが積層された無機粒子構造体を複合化して、図24のような無機粒子複合体を形成した場合、以下の方法でVを算出できる。
XPS(X線プローブスペクトロスコピー)を用い、無機粒子複合体の、無機粒子が存在する領域14(厚みD)を無機粒子が存在する表面dsから、金属のみとなる部分deまで順次エッチングしつつ、無機粒子由来の元素Aの量A(d)と金属由来の元素Bの量B(d)を数点(深さ方向に、たとえばds、d1、d2、d3、deの5点)定量する。d1、d2、d3を横軸に、縦軸にB(d)/A(d)をとり、B(d)/A(d)がゼロとなる深さd0を外挿により求める。d0とDを用いてVは式(1)で表せる。
V=100×(D−d0)/D 式(1)
【0077】
金属を塑性変形させる手段に限定はない。たとえば、無機粒子構造体を加圧する方法や加熱する方法が挙げられ、これらを併用してもよい。例えば、無機粒子構造体を加熱して金属を塑性変形させた後、加圧して金属をさらに塑性変形させる方法、無機粒子構造体を加圧して金属を塑性変形させた後、加熱して金属をさらに塑性変形させる方法、加熱と加圧を同時に行い、無機粒子構造体の金属を塑性変形させる方法が挙げられる。金属を塑性変形させる方法としては、無機粒子構造体を少なくとも加圧する方法が好ましい。加圧方法としては、無機粒子構造体を板の間で挟んで加圧するプレス法、ロール間に挟んで連続的に加圧できるロールプレス法、液体中に入れ静圧をかける方法などが挙げられる。
また、その圧力についても大気圧より大きければ限定はなく、金属の塑性の程度による。すなわち、軟化が進み、低い応力で大きい永久ひずみを生じる場合には低い圧力でよく、高い応力が必要な場合には高い圧力が必要となる。その圧力はたとえば、0.1kgf/cm2以上、好ましくは1kgf/cm2以上、さらには10kgf/cm2以上、特に100kgf/cm2以上が好ましい。加圧の回数は任意であり、複数の条件による加圧操作を組み合わせてもよい。
【0078】
無機粒子構造体を加熱して金属を塑性変形させる方法としては、無機粒子構造体全体を加熱する方法、無機粒子構造体の中の金属を局所的に加熱する方法、が挙げられる。全体を加熱する方法としてはオーブンやヒーターなどによる加熱雰囲気中に構造体を投入する方法、熱した金属板などの熱媒に構造体を接触させる方法、構造体を熱ロールに接触させた後に加圧する方法、熱ロールに接触させる方法などが挙げられ、金属を局所的に加熱する方法としては、赤外線、レーザー、マイクロ波、極短時間での高い光量の照射(フラッシュアニール法)、電子線等の放射線などの電磁波照射で加熱する方法、無機粒子構造体の任意の部分のみ熱媒に接触させながら、他の部分を冷却する方法などが挙げられる。金属には、磁力線を用いた誘導加熱や上述の電磁波照射が好ましく用いられる。プレスの温度、圧力、時間については金属の性質により異なるため、特に限定されず、空隙部分に金属が篏入されるのに適した条件が用いられる。加圧条件についても限定はなく、金属の性質によって決められる。すなわち、無機粒子が実質的に塑性変形せず、金属が塑性変形し、無機粒子構造体または無機粒子層を積層した無機粒子構造体の空隙を埋めることができる、加圧時間、加圧温度、圧力の条件と加圧の手段をとることが好ましい。無機粒子構造体の加熱温度については、金属の性質により異なるため、特に限定されず、金属が空隙部分に充填されるのに適した条件が用いられる。
金属をより容易に塑性変形させるために、補助的手段を加えてもよい。ここで補助的手段とは、塑性を有する金属の塑性を増大させる方法を指す。塑性を有する金属の塑性を増大させる方法として、化学物質を作用させ金属を軟化する方法、金属と空隙界面の親和性やすべり性を増す方法などが挙げられる。
【0079】
本発明の方法で製造される無機粒子複合体の形状に特に限定はなく、要求される機能、使用される用途に応じた形状が用いられる。たとえば、フィルムやシートなどの板状、棒状、繊維状、球状、三次元構造体状などである。用途がフラットパネルディスプレイやフレキシブルディスプレイなどの場合には、本発明の無機粒子複合体の形状もフィルム状であることが好ましい。この場合、無機粒子複合体の厚みは、特に限定されないが、100μm以下、好ましくは10μm以下、さらには5μm以下、特に1μm以下であることが好ましい。さらに柔軟性などが求められる場合には、無機粒子複合体の厚みは、5μm以下、好ましくは1μm以下、さらには0.5μm以下、特に0.2μm以下であることが好ましい。無機粒子複合体の厚みが、100μmより大きいと脆くなる傾向があり、0.01μm以下では硬度が発現しにくい傾向にある。また、本発明の方法で製造される無機粒子複合体の上に、さらに樹脂層や金属薄膜を積層して使用してもよい。本発明の無機粒子複合体は、無機粒子や金属の種類に応じて、種々の特性を発現できる。また金属が無機粒子構造体の空隙を極めて高い充填率で充填した場合、物質遮断性に優れた無機粒子複合体を形成することが可能となる。
【実施例】
【0080】
以下、本発明を実施例によってさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
使用した主な材料は以下のとおりである。
【0081】
[無機粒子]
スノーテックス(登録商標)ST−XS(日産化学工業株式会社製のコロイダルシリカ;平均粒径4〜6nm;固形分濃度20重量%) 以下、「ST−XS」と記す。
クニピアG(登録商標)(クニミネ工業株式会社の無機層状化合物;平均粒径300nm)
スノーテックス(登録商標)20(日産化学工業株式会社製のコロイダルシリカ;平均粒径20nm;固形分濃度20重量%)
アルミナゾル(登録商標)520(日産化学工業株式会社製のコロイダルアルミナ;平均粒径20nm;固形分濃度20重量%)
スメクトンSA(登録商標)(クニミネ工業株式会社の無機層状化合物;平均粒径20nm)
[金属]
銀粒子(石原産業株式会社製の銀コロイド「MG−101」;平均粒径10nm、固形分濃度50wt%)
[基材]
テオネックス(登録商標)(帝人デュポン株式会社製のポリエチレンナフタレートフィルム;厚み125μm)
【0082】
[塗工液A]
クニピアGの3重量%水溶液(12g)にMG−101を(3.6g)混合攪拌し、調製した塗工液。
[塗工液B]
クニピアGの3重量%水溶液(4g)にMG−101を(0.6g)混合攪拌し、調製した塗工液。
[塗工液C]
イオン交換水(79.584g)、スメクトンSA1重量%溶液(9.0g)、アルミナゾル520(9.000g)、スノーテックス20 (2.4g、カプリル酸ナトリウム(0.014g、p−トルエンスルホン酸ナトリウム(0.002g)を混合攪拌し、調製した塗工液。
[塗工液D]
MG101 (4,0g)、およびST−XS(4.0g)、純水(2.0g)を混合攪拌し、調製した塗工液。
[塗工液E]
純水(15g)、およびグリセリン(5.0g)を混合攪拌し、調製した塗工液。
[塗工液F]
防汚コーティング剤(ダイキン工業株式会社製;オプツール(登録商標)DSX)(1.0g)、およびフッ素オイル(ダイキン工業株式会社製;デムナム(登録商標)ソルベント)(199.0g)を混合攪拌し、調製した塗工液。
【0083】
物性などの評価方法は次のとおりである。
[耐擦傷性強度]
日本スチールウール株式会社製#0000のスチールウールを用いて、無機粒子複合体の表面を荷重125〜500gf/cm2で10往復擦り、傷の有無を目視観察して行った。傷が10本以下の場合をレベル1、傷が10本より多く20本以下の場合をレベル2、傷が20本より多い場合をレベル3と判定した。
[電子顕微鏡観察]
試料をFIB切削加工し透過電子顕微鏡(株式会社日立製作所製、型番:H900)による観察を実施例1、2、比較例1について実施した。
[酸素透過度]
MOCON社製の酸素透過率測定装置 OX−TRANにて酸素透過度を測定した(測定条件:23℃、0%RH)。
【0084】
[実施例1]
基材上に塗工液Aをバーコーター(第一理化株式会社製、番線番号:#8)を用いて塗布し、23℃で乾燥して無機粒子構造体(1)を得た。前記構造体を誘電加熱処理機と鉄板の間に挟み1kgの加重をのせ、MG101の部分を局所加熱処理(誘導加熱条件1000W、15分)しつつ加圧処理し無機粒子複合体(1)を得た。無機粒子構造体(1)の酸素透過度は4cc/m2/Day、無機粒子複合体の酸素透過度は0.5cc/m2/Day以下であり、複合化により粒子膜に酸素遮断性が発現した。TEMで膜断面を観察したところ、無機粒子構造体の中に無機粒子部分と金属粒子が存在し、金属部が局所加熱と加圧により溶融し塑性変形して空隙を埋める構造となっていることを確認した。無機粒子複合体(1)をワイピングクロス(商品名:キムタオル;日本製紙クレシア株式会社製)で10往復擦ったところ複合体の崩壊は見られなかった。無機粒子複合体(1)の断面を図25に示す。
【0085】
[比較例1]
無機粒子構造体体(1)をキムタオルで10往復擦ったところ構造体の一部が崩壊し、基材表面が露出した。無機粒子構造体(1)の断面TEM写真を図26に示す。
【0086】
[実施例2]
基材上に塗工液Bをバーコーター(第一理化株式会社製、番線番号:#4)を用いて塗布し、23℃で乾燥して無機粒子構造体(2)を得た。無機粒子構造体の厚みは0.2μmである。前記無機粒子構造体(2)を、圧縮成型機を用いて160℃で予熱を3分施した後、一次圧縮:160℃、370kgf/cm2にて3分間、二次圧縮:30℃、370kgf/cm2にて3分間の条件でプレスし無機粒子複合体(2)を得た。無機粒子構造体(2)の酸素透過度は4cc/m2/Day、無機粒子複合体(2)の酸素透過度は0.9cc/m2/Dayであり、複合化により粒子膜に酸素遮断性が発現した。TEMで膜断面を観察したところ、無機層状化合物の中に無機粒子部分と金属粒子が存在し、金属部が塑性変形し空隙を埋める構造となっていることを確認した。実施例2の無機粒子複合体(2)の断面TEM写真を図27に示す。
【0087】
[実施例3]
無機粒子構造体(1)を実施例1と同様に銀の部分を局所加熱処理(誘導加熱条件1400W、9分)しつつ加圧処理し無機粒子複合体(3)を得た。無機粒子複合体(3)の酸素透過度は0.3cc/m2/Dayであり、複合化により粒子膜に酸素遮断性が発現した。無機粒子複合体(3)をキムタオルで10往復擦ったところ複合体の崩壊は見られなかった。
【0088】
[実施例4]
支持体上に、塗工液Cをバーコーター(第一理化株式会社製、番線番号:#4)を用いて塗布し、23℃で乾燥して、無機粒子構造体(3)を得た。
無機粒子構造体(3)上に、塗工液Dをバーコーター(第一理科株式会社製、#1)を用いて塗布し、23℃で乾燥して、無機粒子構造体(4)を得た。
前記で得た無機粒子構造体(4)を圧縮成型機(神藤金属工業所(株)製)を用いて一次圧縮:200℃、70kgf/cm2にて5分間、二次圧縮:30℃、70kgf/cm2にて5分間の条件でプレス無機粒子複合体(4)を得た。当該無機粒子複合体(4)の荷重30gの耐擦傷性強度はレベル1であり、水の接触角は29°であった。
【0089】
[比較例2]
無機粒子構造体(4)の荷重30gの耐擦傷性強度はレベル3であり、水の接触角は20°であった
【0090】
[実施例5]
無機粒子複合体(4)にコロナ処理を施した後、塗工液Eをバーコーター(第一理科株式会社製、#1)を用いて塗布し無機粒子複合体(5)を得た。該無機粒子複合体(5)の荷重30gの耐擦傷性強度はレベル1であり、水の接触角は4°であった。
【0091】
[実施例6]
無機粒子複合体(4)を塗工液Fに浸漬し、23℃で乾燥して無機粒子複合体(6)を得た。前記で得た無機粒子複合体(6)の荷重30gの耐擦傷性強度はレベル1であり、水の接触角は103°であった。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明の方法は、塑性を有する金属を空隙部分に封入された強度と硬度に優れた金属−無機粒子複合体の製造方法として、きわめて優れている。無機粒子や金属の種類に応じて、種々の特性を発現できる。たとえば、塑性を有する金属が金属の場合には、導電性、常磁性、強磁性、光線反射性、プラズモン共鳴による光線吸収性、剛性、低線膨張、延性、耐熱性、熱伝導性、化学活性およびまたは触媒活性などの効果を奏する。このため、無機粒子複合体がフィルム状基材に形成されるかあるいはフィルム状に形成された場合、帯電防止フィルム、導電フィルム、透明導電フィルム、電磁波シールドフィルム、磁性フィルム、反射フィルム、紫外線遮断フィルム、光拡散フィルム、反射防止フィルム、防眩フィルム、ハードコートフィルム、偏光フィルム、位相差フィルム、光拡散フィルム、フラットパネルディスプレイの前面板、携帯用ディスプレイ(携帯電話など)の窓、フレキシブル透明基板用フィルム、ガスバリアフィルム、熱伝導フィルム、放熱性フィルム、抗菌フィルム、触媒担体フィルム、キャパシター電極膜、二次電池の電極膜、燃料電池の電極膜などに適用の可能性がある。また、無機粒子が粘土鉱物の場合には、粘土鉱物の高いアスペクト比による迷路効果により、その物質遮断性がとりわけ優れたものとなる。このため、無機粒子複合体がフィルム状基材に形成されるかあるいはフィルム状に形成された場合、透明金属箔ともいえる性質を有することが期待され、フレキシブル透明基板用フィルム、ガスバリアフィルム、透明導電フィルムなどに特に有用である。また、本発明の方法で製造される無機粒子複合体は硬度に優れるため、表面の傷付き防止の目的で、再生専用光ディスク、光記録ディスク、光磁気記録ディスクなど光情報媒体、パソコンの表示画面、フレキシブルディスプレイ、電子ペーパー、コンタクトレンズなどの表示媒体部材、光学部材に用いられる。
【符号の説明】
【0093】
1,1a,1b,1c,1d: 無機粒子
2: 金属
3a,3b,3c,3d,3e: 無機粒子構造体
4a,4b,4c,4d,4e: 無機粒子複合体
5a,5b: 親水性無機粒子複合体
6: 親水処理層
7a,7b: 撥水性無機粒子複合体
8: 撥水処理層
9a,9b: 反射防止性無機粒子複合体
10: 反射防止処理層
11a,11b: ガラス層を有する無機粒子複合体
12: ガラス層
13: プレス金型
14: 無機粒子存在領域
【特許請求の範囲】
【請求項1】
塑性変形可能な金属と、該金属が塑性変形する条件では塑性変形しない無機粒子との混合物からなる無機粒子複合体を製造する方法であって、
前記金属と前記無機粒子との混合物からなり、内部に空隙を有する無機粒子構造体を用意する工程、及び
該構造体に含まれる金属を塑性変形させる工程
を含む方法。
【請求項2】
前記無機粒子構造体において、前記無機粒子の体積が前記金属の体積よりも大きい請求項1に記載の方法。
【請求項3】
金属を塑性変形させる前記工程において、前記無機粒子構造体を加圧することにより前記金属を塑性変形させる請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
金属を塑性変形させる前記工程において、前記無機粒子構造体に電磁波を照射することにより前記金属を塑性変形させる請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
金属を塑性変形させる前記工程を実施して得られた構造体の表面を親水化処理する工程を更に含む請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記無機粒子構造体の表面を親水化処理する工程であって、金属を塑性変形させる前記工程を実施する前に行われる工程を更に含む請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
金属を塑性変形させる前記工程を実施して得られた構造体の表面を撥水化処理する工程を更に含む請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記無機粒子構造体の表面を撥水化処理する工程であって、金属を塑性変形させる前記工程を実施する前に行われる工程を更に含む請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
金属を塑性変形させる前記工程を実施して得られた構造体の表面を反射防止処理する工程を更に含む請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記無機粒子構造体の表面を反射防止処理する工程であって、金属を塑性変形させる前記工程を実施する前に行われる工程を更に含む請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
金属を塑性変形させる前記工程を実施して得られた構造体の表面にガラス層を付与する工程を更に含む請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記無機粒子構造体の表面にガラス層を付与する工程であって、金属を塑性変形させる前記工程を実施する前に行われる工程を更に含む請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項1】
塑性変形可能な金属と、該金属が塑性変形する条件では塑性変形しない無機粒子との混合物からなる無機粒子複合体を製造する方法であって、
前記金属と前記無機粒子との混合物からなり、内部に空隙を有する無機粒子構造体を用意する工程、及び
該構造体に含まれる金属を塑性変形させる工程
を含む方法。
【請求項2】
前記無機粒子構造体において、前記無機粒子の体積が前記金属の体積よりも大きい請求項1に記載の方法。
【請求項3】
金属を塑性変形させる前記工程において、前記無機粒子構造体を加圧することにより前記金属を塑性変形させる請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
金属を塑性変形させる前記工程において、前記無機粒子構造体に電磁波を照射することにより前記金属を塑性変形させる請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
金属を塑性変形させる前記工程を実施して得られた構造体の表面を親水化処理する工程を更に含む請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記無機粒子構造体の表面を親水化処理する工程であって、金属を塑性変形させる前記工程を実施する前に行われる工程を更に含む請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
金属を塑性変形させる前記工程を実施して得られた構造体の表面を撥水化処理する工程を更に含む請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記無機粒子構造体の表面を撥水化処理する工程であって、金属を塑性変形させる前記工程を実施する前に行われる工程を更に含む請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
金属を塑性変形させる前記工程を実施して得られた構造体の表面を反射防止処理する工程を更に含む請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記無機粒子構造体の表面を反射防止処理する工程であって、金属を塑性変形させる前記工程を実施する前に行われる工程を更に含む請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
金属を塑性変形させる前記工程を実施して得られた構造体の表面にガラス層を付与する工程を更に含む請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記無機粒子構造体の表面にガラス層を付与する工程であって、金属を塑性変形させる前記工程を実施する前に行われる工程を更に含む請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図2】
【図3】
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【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【公開番号】特開2011−68982(P2011−68982A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−128731(P2010−128731)
【出願日】平成22年6月4日(2010.6.4)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年6月4日(2010.6.4)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】
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