説明

無機質微細パターン形成体および無機質微細パターンの形成方法

【課題】基板上に断面形状が安定で意図どおりな無機質微細パターンを有する無機質微細パターン形成体を提供すること、およびそのような無機質微細パターンの形成方法を提供することを課題とするものである。
【解決手段】所定の幅、深さの成形用パターン15を有する成形用型14と、基板12上にフェニル基含有量が40〜90%であるポリシロキサンを含有する放射線硬化性樹脂組成物の硬化物からなる成形用層13が積層された成形用基板11を準備し、成形用層13に成形用パターン15を当てて成形を行ない、成形用型14側から電離放射線17を照射して成形用層を硬化させ、脱型することにより、無機質微細パターンを形成することができた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機質微細パターン形成体および無機質微細パターンの形成方法に関するものである。好ましくは無機質微細パターンは幅が1μm以下で、かつアスペクト比が1以上のガラスライクなものであり、このような無機質微細パターンが形成されたパターン形成体は、記録デバイス、液晶デバイス、光学レンズ用ガラススタンパー、液晶デバイス、光デバイス、もしくは光学レンズ等に利用可能であり、例えば、光導波路に適する。
【背景技術】
【0002】
光導波路や微細な光学部品、もしくはそれらを製造するための複製用型として、無機質で形成された微細パターンが要望されている。光導波路を例にとると、従来は、基板上の薄膜を反応性イオンエッチング法によって形成していたのに替えて、ポリシロキサン系の塗膜をパターン露光し、未硬化部を溶解除去することにより、パターン化することが提案されている。(文献1)。
【特許文献1】特開2004−85646号公報。
【0003】
特許文献1に記載された方法によれば、無機質の微細なパターンの形成そのものは可能であるが、塗膜の厚さが制限される上、溶解除去によって得られるパターンの断面を見ると頂部と側面との接合部、側面と基板との接合部等が丸みを帯びてしまい、意図した精密な形状が得られないことがある。特に、得られたパターンを焼成して、無機質のみの微細パターンを得たいときには、もともと、断面が丸みを帯びたパターンがさらに変形する傾向を有するから、意図した精密な形状を得ることは一層難しくなる。光学用途においては断面形状が意図どおりに、しかも安定的に再現されることや、得られるパターンの表面粗さがごく小さいことが望まれている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明においては、基板上に意図どおりの安定な形状を有し、表面粗さの点でも優れた無機質微細パターンを有する無機質微細パターン形成体を提供すること、およびそのような無機質微細パターンの形成方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
発明者の検討によれば、塗膜の形成、パターン露光、および溶剤による溶解現像によってパターンを形成するのに替えて、細な型形状を有する成形用型を用いて、塗膜を成形したのち、硬化させることにより、あるいはさらに焼成することにより、上記の課題を解決し得ることを見い出し、本発明に到達することができた。
【0006】
第1の発明は、型面に所定の幅および深さの溝で形成された成形用パターンを有する成形用型と、基板上に積層された、フェニル基含有量が40〜90%であるポリシロキサンを含有する放射線硬化性樹脂組成物の硬化物からなり、シラノール濃度が10mmol/g以下である成形用層とを準備し、前記成形用層に前記成形用型の型面を当てて成形を行ない、成形を行なった後に前記成形用層を硬化させることからなる無機質微細パターンの形成方法に関するものである。
【0007】
第2の発明は、第1の発明において、前記成形用層を準備するのを、前記無機質成分および硬化性有機成分に加えて溶剤を含む組成物を用いて、前記成形用層の形成を行ない、その後、溶剤を除去することにより行なうことを特徴とする無機質微細パターンの形成方法に関するものである。
【0008】
第3の発明は、第1または第2の発明において、前記成形用層の層に前記成形用型の型面を当てる前に、前記成形用層を半硬化させることを含み、前記成形を行なった後に前記成形用層を完全硬化させることを特徴とする無機質微細パターンの形成方法に関するものである。
【0009】
第4の発明は、第1〜第3いずれかの発明において、前記成形を行なった後に前記成形用層を硬化させるのを、前記成形用型を前記成形用層に当てたまま行なうことを特徴とする無機質微細パターンの形成方法に関するものである。
【0010】
第5の発明は、基板上に、フェニル基含有量が40〜90%であるポリシロキサンを含有する放射線硬化性樹脂組成物の硬化物であって、シラノール濃度が10mmol/g以下であるものから構成され、所定の幅および高さを有する凸条で構成された、無機質微細パターンが積層されており、かつ、前記凸条の前記基板に近い裾部の断面の曲率半径が0.02μm以下であることを特徴とする無機質微細パターン形成体に関するものである。
【0011】
第6の発明は、第5の発明において、前記凸条の断面が四角形であり、前記凸条の頂面と側面のなす角の曲率半径が0.5μm以下であることを特徴とする請求項1記載の無機質微細パターン形成体に関するものである。
【発明の効果】
【0012】
第1の発明によれば、基板上に積層された、フェニル基含有量が40〜90%であるポリシロキサンを含有する放射線硬化性樹脂組成物の硬化物からなり、シラノール濃度が10mmol/g以下である成形用層に、所定の幅および深さの溝で形成された成形用パターンを有する成形用型を当てて成形し、その後、硬化させることにより、凸条で形成された微細なパターンを、その断面形状を再現性よく形成することが可能な無機質微細パターンの形成方法を提供することができる。
【0013】
第2の発明によれば、第1の発明の効果に加えて、成形用層を準備するのを溶剤を含む組成物を用い、適用後に溶剤を除去するので、溶剤の蒸発により得られるパターンが変形もしくは収縮することが無い無機質微細パターンの形成方法を提供することができる。
【0014】
第3の発明によれば、第1または第2いずれかの発明の効果に加えて、成形用型を用いて成形する前に成形用層を半硬化させ、成形後に完全硬化させるので、成形の際の層の取り扱いが容易である上、硬化に伴なう収縮を少なくすることが可能な無機質微細パターンの形成方法を提供することができる。
【0015】
第4の発明によれば、第1〜第3いずれかの発明の効果に加えて、成形用層に成形用型を当てたまま硬化させるので、硬化の際の変形を抑制することが可能な無機質微細パターンの形成方法を提供することができる。
【0016】
第5の発明によれば、基板上に、フェニル基含有量が40〜90%であるポリシロキサンを含有する放射線硬化性樹脂組成物の硬化物であって、シラノール濃度が10mmol/g以下であるものから構成され、所定の幅および高さを有する凸条で構成された、無機質微細パターンが積層されており、かつ、凸条で形成された無機質微細パターンの裾部の断面の曲率半径が小さい、即ち、底面の形状が精密に再現された無機質微細パターン形成体を提供することができる。
【0017】
第6の発明によれば、第5の発明の効果に加えて、凸条の頂部と側面とのなす曲率半径が小さい、即ち、上面の形状が精密に再現された無機質微細パターン形成体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図1は本発明のパターン形成体の断面形状を模式的に示す図であり、図2は本発明の無機質パターンの形成方法の概略を示す図である。
【0019】
本発明の無機質微細パターン形成体1は、基本的には図1(a)に断面を例示するように、基板2上に凸条3が積層した積層構造を有するものである。ここで凸条3とは、幅Wに対し、高さHが比較的大きく、基板2より突起したもので、かつ図面の手前側から奥側に向かう方向に長さを有するものであり、好ましくはW/Hで表される比(=アスペクト比)が1もしくは1以上のものである。なお、図面の手前側から奥側に向かう方向に長さを有するとは、直線状でなく、曲線状のものも含む。
【0020】
本発明の無機質微細パターン形成体1においては、凸条の側面3bと基板2の上面とがなす角(かど)(図1(a)および図1(b)中のAの円で囲んだ中に示され、図1(b)中の曲率半径Raを示す矢印が指す先の部分である。)、言い換えれば裾部の丸みの発生が抑制されており、凸条3の裾部における曲率半径Raが0.02μm以下であり、より好ましくは0.015μm以下である。このRaの実際的な下限は0.01μm程度である。
【0021】
本発明の無機質パターン形成体1においては、凸条3の頂部3aは、必ずしも平面でなくてもよく、円弧状や三角形の二辺をなすようなものであってもよい。
【0022】
凸条3の頂部3aが平面であるとき、頂面3aと側面3bのなす角(かど)(図1(a)および図1(c)におけるBの円で囲んだ中に示され、図1(c)中の曲率半径Rbを示す矢印が指す先の部分である。)の丸みの発生が抑制されており、即ち、この部分における曲率半径Rbが0.5μm以下であり、より好ましくは0.1μm以下である。このRbの実際的な下限は0.015μm程度である。
【0023】
本発明の無機質微細パターン形成体1における凸条3のパターンは、塗膜をフォトリソグラフィー的にパターン化したり、印刷法によってパターン化を行なうのではなく、基本的に型を用いて成形することによって形成され、例えば次のようにして形成される。
【0024】
図2(a)に示すように、まず、基板12上に成形用層13が積層された、言わば成形用基板11と、所定の成形用パターンを有する成形用型14を準備する。
【0025】
基板12は、最終的に得られる無機質微細パターン形成体1の基板である(図1中符号2で示すものと同じである。)。成形用層13は、成形用型14を用いて行なう成形の対象となる層で、無機質微細パターン形成体1の用途に合わせた素材で構成されており、好ましくは無機質を主体として、より好ましくは無機質で構成された、ガラス状のものであり、光学的な用途向けであれば、透明、より好ましくは無色透明のものである。後に述べるように、例えば、フェニル基含有量が40〜90%であるポリシロキサンを含有する放射線硬化性樹脂組成物の硬化物からなる。
【0026】
成形用型14は、無機質微細パターン形成体1の凸条3の所望のパターンに対応する成形用パターン15を有するものであり、成形用パターンは、所定の幅と深さを有する溝がパターン状に形成されたもので、溝の幅および深さは、得られるパターン形成体1の凸条の幅および高さにそれぞれ対応する。
【0027】
成形用型14は、その成形用パターン15側が成形用層13側を向くよう、成形用基板上に重ねられ、図2(b)に示すように、ローラ16を用いる等により加圧を行なうか、または必要に応じて加圧および加熱を行なって、成形用パターン15による成形用層13への成形を行なう。加圧、または加圧および加熱の手段としては、平板状のプレスを用いてもよい。
【0028】
成形後、例えば、図2(c)に示すように電離放射線17を成形用型14側から照射して、成形された成形用層13を硬化させる。硬化は電離放射線の照射によるほか、加熱によってもよい。本発明の方法によれば、成形用層13を成形した後、硬化させるので、この段階での凸条の断面形状は、成形用型14の成形用パターンの断面形状を型取りした所定の形状を有する。なお、電離放射線を照射する前もしくは後に、脱型を行ない、即ち、成形用型14を成形用層13から分離して、図2(d)に示すように、基板12上に成形用層13が賦型され、硬化したことにより生じた凸条18を有する無機質微細パターンを得る。
【0029】
無機質微細パターン形成体1における凸条3が有機成分を有していてもよい場合には、上記におけるように電離放射線が照射され、成形用型14が分離されれば、最終製品とすることができるが、最終製品の凸条3として、より硬いものが望まれる場合には、さらに加熱等を行なってもよい。
【0030】
以上は、基本的な無機質微細パターンの形成方法であるが、さらに幾つかの工程を追加する等の変形態様があり得る。
【0031】
第1に、基板上12に成形用層13を積層したものを準備する際に、溶剤を含む組成物を用いて塗布等により適用して成形用層13を形成することがあり得る。この場合、適用された直後の成形用層13中には溶剤が含まれており、そのまま扱うと、粘着性を帯びているために取り扱いが不便である上、成形が行なえても、溶剤が蒸発することによる成形用層13の収縮が避けられないから、成形用型14の成形用パターン15の再現性が低下する。
【0032】
そこで、溶剤を含む組成物を用いて成形用層13を形成する場合には、塗布等により組成物の膜を形成した後に、乾燥手段を講じて、溶剤を除去することが好ましく、溶剤の除去は、冷風乾燥、もしくは温風乾燥等によって行なえばよい。
【0033】
第2に、成形用層の電離放射線の照射による硬化を、成形後のみではなく成形前にも行なうことである。成形用層13は、電離放射線に感度を有する成分を含むため、全く未硬化の成形用層を硬化させると、硬化する際の収縮が避けられないから、成形用型14の成形用パターン15の再現性が低下するからである。しかしながら、成形前に完全に硬化させると成形が行なえないので、いわゆる半硬化を行なって、未硬化の際の欠点を解消しながらも、成形が可能な余地を残しておくことが好ましい。
【0034】
成形用層の硬化を電離放射線17の照射によって行なう場合であって、上記の半硬化を行なうときには、完全硬化に必用な照射線量の1%〜50%程度が好ましい。
【0035】
第3に、成形を行なった後に成形用層を硬化させるのを、例えば、図2(c)に示すように、成形用型14を成形用層13に当てたまま行なうことが好ましい。成形用層が未硬化であるか、もしくは半硬化しているかにかかわらず、成形後に成形用型14を成形用層13から離す脱型を行なうと、脱型の際に成形された形状が崩れる恐れがあること、硬化の際に変形が起こり得ること、もしくは空気中の酸素が硬化を阻害することがあること等による。また、完全に硬化していれば、脱型の際に、成形されて硬化した成形用層14と成形用型14との間の接着性が失われるので、脱型が容易になる利点も生じるからである。
【0036】
従って、本発明の無機質微細パターンの形成方法においては、基本的な形成方法に加えて、成形用層が溶剤を含んでいるときは、予め溶剤を除去し、かつ成形前に半硬化させてから成形を行なうこと、および、成形を行なった後、成形用型が成形用層に当てられているうちに硬化を行なわせることがより好ましい。
【0037】
本発明の無機質微細パターンの形成方法において、成形用層13の厚み、成形用型14の成形用パターン15の溝の深さや幅等を調節することにより、得られる無機質微細パターンの凸条18どうしの間にある、成形用層13が硬化した厚みの薄い部分を無くすか、もしくは厚みをごく薄くすることができる。無機質微細パターンを光導波路として用いる場合等においては、凸条18どうしの間にある部分をより確実に無くすことが望ましい。凸条18の頂面および側面をマスクで覆い、プラズマ処理等を施すことにより、凸条18どうしの間にある部分を確実に無くすことができる。
【0038】
本発明における基板2(もしくは12)は、ガラス、石英ガラス、もしくはシリコンウェハー等の無機質板、プラスチック板、もしくはプラスチックフィルムであり、透明であっても不透明であってもよいが、基板2側から電離放射線を照射する場合には、透明であることが好ましい。
【0039】
好ましい成形用層13は、好ましいフェニル基含有量を有するポリシロキサンを含有する放射線硬化性樹脂組成物で構成され、凸条3は、この放射線硬化性樹脂組成物の硬化物であり、より好ましくは、フェニル基含有量が40〜90mol%であるポリシロキサン成分(A)を含有する放射線硬化性樹脂組成物である。この放射線硬化性樹脂組成物は、例えば、特開2004−85646号に記載されているが、基板に適用後、パターン露光して現像することにより光導波路を作成するとしているものであるが、本発明においては、この放射線硬化性樹脂組成物の感光性を硬化に利用するものの、パターン化に関しては全く利用せず、パターン化自体は、光を用いないプレス加工により行なうものである。
【0040】
上記のフェニル基含有量が40〜90mol%であるポリシロキサン成分(A)は、下記一般式(1)で表される加水分解性シラン化合物、その加水分解物、またはそれらの混合物を縮合させて得られる。
(化1)R1mSi(X)4-m ……(1)
ここで、一般式(1)中、R1の添え字m、および(X)の添え字である4−mにおけるmは0〜3であり、R1は、それぞれ独立に、炭素数1〜12の非加水分解性の環状、分岐状、直鎖状のアルキル基、アリール基、アラルキル基から選ばれ、置換基上の水素原子の一部もしくは総てが重水素、フッ素、塩素置換されていてもよい。
【0041】
1のアルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、ブチル、オクチル、もしくはドデシル、またはこれらの重水素置換体を、アリール基としては、フェニル、ビフェニル、もしくはナフチル、またはこれらの重水素、フッ素、もしくは塩素の各置換体を、またアラルキル基としてはトリル、キシリル、もしくはメシチル、またはこれらの重水素、フッ素、もしくは塩素の各置換体を挙げることができ、好ましいアルキル基としてはメチル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基、もしくはトリジューテリオメチル基を、好ましいアリール基としては、フェニル基、ペンタフルオロフェニル基、もしくはペンタジューテリオフェニル基礎を挙げることができ、特に好ましくは、アリール基としてフェニルを挙げることができる。また、好ましいアラルキル基としては、トリフルオロメチルフェニル基、ビス(トリフルオロメチル)フェニル基を挙げることができる。
【0042】
加水分解性基Xとしては、水素原子、炭素数1〜12のアルコキシ基、ハロゲン原子、アミノ基、もしくはアルキルカルボキシレート基を挙げることができる。アルコキシ基としてはメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、オクチロキシ基、もしくはドデシロキシ基等が挙げられ、ハロゲン原子としてはフッ素、もしくは塩素を、アミノ基としては、アミノ基、ジメチルアミノ基、もしくはジエチルアミノ基を、アルキルカルボキシレート基としては、アセトキシ基、もしくはプロピオレート基を挙げることができ、これらのうち好ましいXはアルコキシ基であり、より好ましくは、メトキシ基、もしくはエトキシ基である。
【0043】
一般式(1)で表される加水分解性シラン化合物を、フェニル基含有加水分解性シラン化合物(a)とフェニル基を含有しない加水分解性シラン化合物(b)にわけて、その具体例を挙げる。なお、成分(A)のフェニル基含有量を所定の値とするよう、(a)と(b)を混合して用いられる。さらに、(a)、(b)それぞれ複数種を混合して用いてもよい。
【0044】
フェニル基含有加水分解性シラン化合物(a)としては、ベンジルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルシラン、フェニルトリアセトキシシラン、フェニルトリアミノシラン、フェニルトリクロロシラン、フェニルトリエトキシシラン、ペンタフルオロフェニルトリメトキシシラン、ペンタフルオロフェニルトリクロロシラン、ペンタジューテリオフェニルトリメトキシシラン、ペンタジューテリオフェニルトリアセトキシシラン、ペンタジューテリオフェニルトリクロロシラン、ペンタジューテリオフェニルトリエトキシシシラン、キシリルトリメトキシシラン、トリフルオロメチルフェニルトチメトキシシラン、ビフェニルトリメトキシシラン、ビフェニルトリクロロシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジクロロシランなどを挙げることができる。これらの中で好ましい具体例としては、フェニルトリメトキシシランを挙げることができる。
【0045】
フェニル基を含有しない加水分解性シラン化合物(b)としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラブトキシシラン、テトラ(2−メタクリロキシエトキシ)シラン、テトラ(2−アクリロキシエトキシ)シラン、テトラクロロシラン、テトラアセトキシシラン、テトラアミノシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリクロロシラン、メチルジクロロシラン、メチルジメトキシシラン、メチルトリアセトキシシラン、トリジューテリオメチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリブトキシシラン、3,3,3−トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、3,3,3−トリフルオロプロピルトリエトキシシラン、ビス(トリジューテリオメチル)ジメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン、トリメチルメトキシシラン、トリエチルシラン、もしくはトリエチルクロロシラン等を挙げることができる。これらの中で、好ましい具体例としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラアセトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、3,3,3−トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、もしくはジメチルジメトキシシランを挙げることができる。
【0046】
ポリシロキサンの製造原料となる加水分解性シラン化合物の加水分解、もしくは縮合は、加水分解性基がアルコキシ基である場合、加水分解、縮合の工程において溶剤を添加することなく実施することができる。
一方、加水分解性基がハロゲン基などの希釈溶剤となる副生成物を生成せず、かつ、自己触媒となる酸を副生する原料の場合、後述する有機溶剤を予め添加して希釈した後に加水分解、縮合反応を実施することが望ましい。その場合、生成する酸は反応後も残存し、硬化性組成物としての安定性を損なうことから、例えば、塩基性物質による中和、水での洗浄、イオン交換樹脂の添加などの工程を加えることにより安定な硬化性組成物にすることが好ましい。
【0047】
加水分解性基がアルコキシ基である場合のシラン化合物の加水分解、縮合工程は、1)
加水分解性シラン化合物を容器に収容し、2)次いで、所定量の水及び触媒を攪拌しながら滴下し、3)ついで、所定温度で所定時間加熱攪拌することにより行なわれ、4)必要に応じ、所定の溶剤を加え希釈する。
【0048】
希釈溶剤としてはメチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルイソアミルケトン、シクロヘキサノン、アセチルアセトン、ジアセトンアルコール、などのケトン系、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテルなどのエーテル系、トルエン、キシレンなどの炭化水素系、メタノール、エタノール、ブタノール、オクタノール、フルフリルアルコールなどのアルコール系、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテルなどのエーテル含有アルコール系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸アミル、酢酸オクチル、乳酸エチル、乳酸ブチルなどのエステル系溶剤から単一もしくは2種以上組み合わせて選ばれる。好ましい溶剤はケトン系、アルコール系、エーテル含有アルコール系及びエステル系溶剤であり、さらに好ましくは、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、ジアセトンアルコール、ブチルアルコール、プロピレングリコールモノメチルエーテ
ル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、乳酸エチル、乳酸ブチルを挙げることができ、希釈溶剤は加水分解性シラン化合物の仕込量100に対して、0〜1000、好ましくは40〜250の割合(質量基準)で用いられる。
【0049】
(A)ポリシロキサン中のフェニル基含有量は、40〜90mol%であることが必要であるが、好ましくは50〜80mol%である。フェニル基含有量が40mol%未満である場合は、波長1.55μmでの光学特性が低下するため好ましくない。一方、90mol%を越える場合、パターン形成時の解像度が低下するため、好ましくない。なお、成分(A)のフェニル基含有量の値は、縮合反応前の各加水分解性シラン化合物の混合物についてのフェニル基含有量(仕込量)である。成分(A)の分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下GPCと略記)で求めたポリスチレン換算の重量平均分子量で500〜50000、好ましくは1000〜20000の範囲とすることが好ましい。500未満では得られる無機質微細パターンの耐久性が低下し、50000を超えると保存安定性が低下する。
成分(A)以外にも、必要に応じて、後述する成分(B)〜(H)、あるいはその他の成分を含有することができる。即ち、(B)光酸発生剤、(C)酸拡散制御剤、(D)表面張力低下剤、(E)光増感剤、(F)架橋性有機化合物、(G)無機微粒子、(H)金属アルコキシドである。
【0050】
上記の範囲のフェニル基含有量を有するポリシロキサンを含有する放射線硬化性樹脂組成物を用いる場合、基板への塗布は、公知の方法で行なえ、例えば、スピンコーティングによって行なう。塗布後、乾燥もしくはプリベークさせることが好ましい。必要に応じ、さらに、加熱もしくは、電離放射性照射により半硬化させてもよい。乾燥もしくはプリベークは、例えば、50℃〜300℃の温度範囲で1分〜24時間の条件で行ない、電離放射線照射は、例えば、波長365nmの紫外線を用い、照度;1〜1000mW/cm2、照射量;0.01〜5000mJ/cm2、好ましくは0.1〜1000mJ/cm2程度になるよう照射して、露光する。なお、電離放射線の照射を半硬化、および完全硬化の両方の目的で、2回に分けて行なうときは、成形前の状態における取り扱い、および成形性を考慮して半硬化の条件を、また得られる製品の物理的および科学的性状、並びに脱型の作業性を考慮して完全硬化の条件を決めることが好ましい。
【0051】
以上のようにして形成された放射線硬化性樹脂組成物の層の成形は、成形用型を重ねて加圧することにより行ない、ロールプレスもしくは平板プレスを用いて行なう。これにより、放射線硬化性樹脂組成物の層に成形用型の成形用パターンが賦型されるが、この段階では、放射線硬化性樹脂組成物の層は未硬化か、もしくは半硬化の状態で、変形し得る状態であるので、好ましくは成形用型を脱型せずに、重ねたままの状態で放射線硬化性樹脂組成物の層にさらに放射線を照射し、成形用パターンの型の形状が正確に再現されたままの状態で硬化させることが好ましい。
【0052】
本発明における成形用層中のシラノール濃度は10mmol/g以下であり、好ましくは、5mmol/g以下である。シラノール濃度が10mmol/gを超える場合、波長1.55μmにおける光伝送損失は1.0dB/cmを超えた値となるためで、特に本発明の無機質微細パターンを光導波路として用いる場合、波長1.55μmでの伝送損失を下げるため、コア層中のシラノール濃度は10mmol/g以下であることが好ましいからである。また、コア層の形成をポリシロキサン成分(A)と光酸発生剤(B)を含む電離放射線硬化性樹脂組成物を用いることにより優れた生産性とパターン精度を得ることができる。
なお、シラノール濃度(mol/g)は、固体29Si−NMR法により求められシラノール濃度(mol/全Si mole)と全Si濃度(mol/g)を乗じて求めた値として定義される。
【実施例1】
【0053】
微細凹凸原版の作成
150mm×150mmの正方形で、厚さが9mmの石英基板の片方の面の全面に、幅;0.2μm、深さ;0.5μm、ピッチ;0.4μmの溝をドライエッチング法により形成して型面とし、微細凹凸原版Aを作成した。また、同様にして、幅;0.3μm、深さ;0.5μm、ピッチ;0.6μmの溝をドライエッチング法により形成して型面とし、微細凹凸原版Bを作成した。
【0054】
樹脂スタンパーの作成
上記の微細凹凸原版AおよびBの各々の型面に、次段落に示す組成の紫外線硬化型樹脂組成物を滴下し、その上に厚さが0.4mmのポリカーボネートシートを重ねあわせた後、紫外線光源(フュージョンUVシステムズ社製、Hバルブ)を用い、170mJ/cm2(365nm)の条件で紫外線を照射し、紫外線硬化型樹脂組成物を硬化させた。その後、硬化した紫外線硬化型樹脂組成物をポリカーボネートシートごと、型面の溝と平行な方向に剥離したところ、硬化した紫外線硬化型樹脂組成物の表面に、各々の微細凹凸原版の型面の凹凸が再現され、ポリカーボネートシートで裏打ちされた複製物を得た。この複製物の凹凸を有する面側から、さらに3000mJ/cm2(365nm)の紫外線を照射し、樹脂スタンパーを得た。
【0055】
紫外線硬化型樹脂組成物
・ウレタンアクリレート…………………………………………………………………35部
(日本合成化学工業(株)、ゴーセラックUV−7500B)
・1,6−ヘキサンジオールジアクリレート(日本化薬(株)製)………………35部
・ペンタエリスリトールトリアクリレート(東亞合成(株)製)…………………10部
・ビニルピロリドン(東亞合成(株))………………………………………………15部
・1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン………………………………………2部
(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製、「イルガキュア184」を使用)
・ベンゾフェノン(日本化薬(株)製)…………………………………………………2部
・ポリエーテル変性シリコーン……………………………………………………………1部
(GE東芝シリコーン(株)製、TSF4440)
【0056】
樹脂スタンパーを用いた複製
150mm×150mmの正方形で、厚さ;0.7mmの無アルカリガラス板の基板の片面に、フェニル基含有加水分解性シラン化合物を含む塗料(JSR(株)製、「オプスターPJ5029」を滴下し、スピンナーにより、300rpmで10秒、続いて1000rpmで30秒の条件で回転させ、厚さ;10μmで欠陥のない均一な塗布膜を形成し、この塗布膜を基板ごと、温度;120℃の雰囲気中で5分間加熱し、塗膜内の溶剤を除去した。
【0057】
上記の加熱後、基板上の塗布膜の表面上に、上記で得た樹脂スタンパーを、型面側が塗布膜に接するようにして重ね、重ねたものを、搬送用テーブル上にプレス用のローラが設置されたロールプレス装置の搬送用テーブル上に置き、硬度80度のゴムローラで、速度;15mm/s、ローラ圧力;5Kg/cm2の条件でロールプレスを行った。
【0058】
ロールプレス後、重ねた状態のまま樹脂スタンパー側から、紫外線光源(フュージョンUVシステムズ社製、Hバルブ)を用い、40mJ/cm2(365nm)の条件で紫外線を照射した後、樹脂スタンパーを型面の溝と平行な方向に剥離し、硬化した塗布膜の表面の微細凹凸を露出させ、その後、露出された微細凹凸側から、同じ紫外線光源を用いて、さらに1500mJ/cm2(365nm)の条件で紫外線を照射し、微細凹凸が形成された塗布膜を完全硬化させ、成形物を得た。
【0059】
完全硬化させて得られた成形物を、温度;300℃のクリーンオーブン中で30分加熱し、無機成分のみを残して有機成分を除去したところ、最初の微細凹凸原版Aの幅;0.2μm、深さ;0.5μm、ピッチ;0.4μmの溝、および微細凹凸原版の幅;0.3μm、深さ;0.5μm、ピッチ;0.6μmの溝が忠実に再現されていた。また、パターンの表面は平滑性が高く、光学用途に向く製品が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】無機質パターン形成体を示す図である。
【図2】無機質微細パターン形成体の形成方法を例示する図である。
【符号の説明】
【0061】
1……無機質微細パターン形成体
2、12……基板
3……凸条
13……成形用層
14……成形用型
15……成形用パターン
16……ローラ
17……電離放射線


【特許請求の範囲】
【請求項1】
型面に所定の幅および深さの溝で形成された成形用パターンを有する成形用型と、基板上に積層された、フェニル基含有量が40〜90%であるポリシロキサンを含有する放射線硬化性樹脂組成物の硬化物からなり、シラノール濃度が10mmol/g以下である成形用層とを準備し、前記成形用層に前記成形用型の型面を当てて成形を行ない、成形を行なった後に前記成形用層を硬化させることからなる無機質微細パターンの形成方法。
【請求項2】
前記成形用層を準備するのを、前記無機質成分および硬化性有機成分に加えて溶剤を含む組成物を用いて、前記成形用層の形成を行ない、その後、溶剤を除去することにより行なうことを特徴とする請求項1記載の無機質微細パターンの形成方法。
【請求項3】
前記成形用層の層に前記成形用型の型面を当てる前に、前記成形用層を半硬化させることを含み、前記成形を行なった後に前記成形用層を完全硬化させることを特徴とする請求項1または請求項2記載の無機質微細パターンの形成方法。
【請求項4】
前記成形を行なった後に前記成形用層を硬化させるのを、前記成形用型を前記成形用層に当てたまま行なうことを特徴とする請求項1〜請求項3いずれか記載の無機質微細パターンの形成方法。
【請求項5】
基板上に、フェニル基含有量が40〜90%であるポリシロキサンを含有する放射線硬化性樹脂組成物の硬化物であって、シラノール濃度が10mmol/g以下であるものから構成され、所定の幅および高さを有する凸条で構成された、無機質微細パターンが積層されており、かつ、前記凸条の前記基板に近い裾部の断面の曲率半径が0.02μm以下であることを特徴とする無機質微細パターン形成体。
【請求項6】
前記凸条の断面が四角形であり、前記凸条の頂面と側面のなす角の曲率半径が0.5μm以下であることを特徴とする請求項5記載の無機質微細パターン形成体。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−106449(P2006−106449A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−294404(P2004−294404)
【出願日】平成16年10月7日(2004.10.7)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】