説明

照明装置

【課題】放熱面に外部熱源から熱輻射を受けている場合においても、外部からの熱を遮断して内部の熱のみを外部に向かって放射することによって高い放熱効果を得ることができる照明装置を提供すること。
【解決手段】発熱源である光源と、該光源を収容する筐体1を備えた照明装置において、前記筐体1の表面に赤外線領域の放射率を高める放射率向上手段(機械加工、化成処理又は塗装の少なくとも1つ)を施し、その上に、分光反射率が筐体1から発せられる輻射スペクトルが最大となる波長よりも短波長側の電磁波成分を反射するよう制御する材料(多層誘電体光学薄膜2)を一面に亘って設けることによって、外部発熱体(外部熱源)5からの輻射を遮り、内部発熱源からの熱を選択的に外部に放射するよう構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光源からの熱を効率良く逃がして放熱効果を高めるようにした照明装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電球を光源とする照明装置においては、投入電力の大部分が赤外線、即ち、輻射熱として放出されるため、筐体の温度上昇が不可避的に発生し、この問題を解決することが技術的課題の1つであった。
【0003】
そこで、特許文献1には筐体に多数の通気孔を設ける構成が提案され、特許文献2には筐体に放熱性の高い皮膜を付着させる構成が提案されている。又、特許文献3には口金部分にリング状のヒートシンクを設ける構成が提案され、特許文献4には筐体の周囲にヒートパイプを巻き付ける構成が提案されている。
【0004】
ところで、近年、LEDの高出力化に伴って照明用途としての応用製品も開発されているが、LEDにおいては投入電力の半分以上が半導体自体の熱となるために放熱の問題は一層重要な技術的課題となる。
【0005】
照明用途のLEDの放熱技術に関して、特許文献5にはヒートシンクを備えた構成が提案され、特許文献6には樹脂ケースも放熱手段として用いる技術が提案され、特許文献7にはヒートシンクに空冷ファンを付加した構成が提案されている。
【0006】
一方、効率良く放熱するための技術開発も盛んに行われてきた。特に100℃以上の温度領域においては伝熱の3形態のうちの放射が大半を占めるようになるため、放射率を高めることが放熱手段として有効である。従来からアルミヒートシンクの黒アルマイト処理や塗るだけで放熱効果が得られるつや消し黒塗料等が開発されてきた。
【0007】
又、住宅の屋根においては日中の太陽光線が屋根材を介して室内の気温を上げる要因となり、特に夏場は冷房効率に影響を及ぼす。このため、特許文献8には優れた遮熱効果を有する遮熱塗料が提案されている。
【0008】
更に、光源の発熱による問題を機能性薄膜で解決する技術も開発され、特許文献9にはコールドミラーが提案されている。このコールドミラーは、光源からの赤外線を選択的に透過して外部へ逃がし、必要な可視光線だけを反射するものであって、専ら投影用途に用いられる。
【0009】
ところで、光の反射に関する技術は道路標識の夜間の視認性向上に応用されており、特許文献10には微小なガラスビーズを用いた構造が提案され、特許文献11にはテクスチャ構造によって得られる再帰反射に関する技術が開示されており、それらにおいては可視光線に対して粒径及び屈折率が最適化されている。
【特許文献1】特開平9−139111号公報
【特許文献2】特開平11−111037号公報
【特許文献3】特開2002−175721号公報
【特許文献4】特開2003−288806号公報
【特許文献5】特開2000−031546号公報
【特許文献6】特開2002−299700号公報
【特許文献7】特開2008−103195号公報
【特許文献8】特開2003−261828号公報
【特許文献9】特開2007−322891号公報
【特許文献10】特開平5−263015号公報
【特許文献11】特開2006−322313号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
光源としてLEDを用いる場合、LEDは電球に比べて長寿命であることから、メンテナンス頻度の低い環境に好適に用いられるが、特に屋外用途においては日中に太陽光線を浴びることになり、熱的にも過酷な環境に晒されることが容易に想像される。
【0011】
ところで、従来の照明装置の構造では、放熱経路の最終段階である筐体から外部空気への放熱経路において、筐体の表面温度よりも外部空気の温度の方が高い場合、或いは筐体表面が他の外部熱源から輻射熱を受けている場合には、熱力学の第2法則に従って低温側である筐体から高温側である外部空気に放熱することはできない。従って、単に筐体表面の放射率を向上させることは、外部熱源からの輻射熱に対する吸収率をも同時に高めてしまうことになり、根本的な解決にはならない。
【0012】
本発明は上記問題に鑑みてなされたもので、その目的とする処は、放熱面に外部熱源から熱輻射を受けている場合においても、外部からの熱を遮断して内部の熱のみを外部に向かって放射することによって高い放熱効果を得ることができる照明装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、請求項1記載の発明は、発熱源である光源と、該光源を収容する筐体を備えた照明装置において、前記筐体の表面に赤外線領域の放射率を高める放射率向上手段を施し、その上に、分光反射率が筐体から発せられる輻射スペクトルが最大となる波長よりも短波長側の電磁波成分を反射するよう制御する材料を一面に亘って設けることによって、外部熱源からの輻射を遮り、内部発熱源からの熱を選択的に外部に放射することを特徴とする。
【0014】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記放射率向上手段として、筐体表面に機械加工、化成処理又は塗装の少なくとも1つを施すことによって筐体表面の放射率を0.8以上とすることを特徴とする。
【0015】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載の発明において、筐体表面に多層誘電体光学薄膜を接着し、該多層誘電体光学薄膜の分光透過率においてカットオフ波長を筐体から発せられる輻射スペクトルが最大となる波長よりも短波長側に合わせることによって、筐体から発せられる輻射スペクトルが最大となる波長よりも短波長側の電磁波成分を反射することを特徴とする。
【0016】
請求項4記載の発明は、請求項1又は2記載の発明において、筐体表面を再帰反射性を有する材料で覆い、且つ、再帰反射の過程における粒径及び屈折率を筐体から発せられる輻射スペクトルが最大となる波長よりも短波長側の電磁波成分を反射するよう制御することを特徴とする。
【0017】
請求項5記載の発明は、請求項1〜4の何れかに記載の発明において、前記光源をLEDで構成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、筐体表面に機械加工によって凹凸を形成して表面積を拡大する技術、黒アルマイト処理に代表される化成処理やつや消し黒塗料に代表される高放射率化技術を用いることによって、筐体表面からの熱輻射が高められる。
【0019】
本発明は、筐体表面が外部熱源から輻射熱を受け、筐体表面と外部熱源との間に温度差がある場合、その温度差に起因する各々の輻射スペクトルのピーク波長が異なることに着目した。
【0020】
そこで、本発明は、高放射率化手段が施された筐体表面に、分光反射率が筐体から発せられる輻射スペクトルが最大となる波長よりも短波長側の電磁波成分を反射するよう制御する材料、例えば光源から発せられる赤外線から他の部材を保護する多層誘電体光学薄膜や可視光線を反射することによって視認性を高める再帰反射材料等を一面に亘って塗布又は接着することによって、外部熱源からの輻射を遮り、内部発熱源からの熱を選択的に外部に放射するようにした。尚、筐体表面に多層誘電体薄膜を接着する場合、シリコンやエポキシ等の接着剤を用いると接着剤自体の光学特性が波長選択性に影響を及ぼす可能性があるため、接着剤による接着よりも蒸着の方が望ましい。
【0021】
外部熱源からの熱輻射が多層誘電体薄膜のカットオフ波長よりも短波長側に位置し、筐体からの熱輻射がカットオフ波長よりも長波長側に位置するように、当該多層誘電体薄膜の膜厚を調節することによって、筐体から発せられる輻射スペクトルが最大となる波長よりも短波長側の電磁波成分を反射することができる。
【0022】
又、本発明によれば、筐体表面を再起反射性を有する材料で覆い、再帰反射材料の粒径を筐体の輻射スペクトルの最大値となる波長よりも短く、且つ、外部発熱源の輻射スペクトルの最大値となる波長よりも長くするとともに、外部熱源の輻射スペクトルが最大値となる波長帯において広角度に亘って再起反射が得られるような屈折率を有する材料を選択することによって、筐体から発せられる輻射スペクトルが最大となる波長よりも短波長側の電磁波成分を反射することができる。
【0023】
以上の結果、本発明によれば、照明装置の放熱面に外部熱源から熱輻射を受けている場合においても、外部からの熱を遮断して内部の熱のみを外部に向かって放射することによって高い放熱効果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下に本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0025】
先ず、従来の照明装置の筐体表面の放熱構造を図1に基づいて説明する。
【0026】
図1に示す従来の照明装置の筐体表面の放熱構造において、単に筐体101の表面放射率を向上させることは、内部熱源からの伝熱102を効率良く外部への熱輻射103とすることができるが、同時に外部熱源104からの熱輻射105に対する吸収率をも同時に高めてしまうことになり、筐体101内部への入熱106を招く。その結果として、筐体101表面からの熱輻射103と外部熱源104からの熱輻射105との差し引きはマイナスとなり、根本的な解決には至らない。
【0027】
そこで、本発明は、筐体表面が外部熱源から輻射熱を受け、筐体表面と外部熱源との間に温度差がある場合、その温度差に起因する各々の輻射スペクトルのピーク波長が異なることに着目し、以下のような放熱構造を採用した。
【0028】
即ち、発熱源である光源と、該光源を収容する筐体を備えた照明装置において、前記筐体の表面に赤外線領域の放射率を高める放射率向上手段を施し、その上に、分光反射率が筐体から発せられる輻射スペクトルが最大となる波長よりも短波長側の電磁波成分を反射するよう制御する材料を一面に亘って設けることによって、外部熱源からの輻射を遮り、内部発熱源からの熱を選択的に外部に放射するようにした。
【0029】
ここで、上記放射率向上手段は、筐体表面に機械加工、化成処理又は塗装の少なくとも1つであって、これを施すことによって筐体表面の放射率を0.8以上とする。
【0030】
又、高放射率化手段が施された筐体表面に、多層誘電体光学薄膜を接着し、該多層誘電体光学薄膜の分光透過率においてカットオフ波長を筐体から発せられる輻射スペクトルが最大となる波長よりも短波長側に合わせることによって、筐体から発せられる輻射スペクトルが最大となる波長よりも短波長側の電磁波成分を反射するようにした。
【0031】
或いは、筐体表面を再帰反射性を有する材料で覆い、且つ、再帰反射の過程における粒径及び屈折率を筐体から発せられる輻射スペクトルが最大となる波長よりも短波長側の電磁波成分を反射するよう制御するようにした。
【0032】
そして、本発明では、光源をLEDで構成した。
【0033】
次に、高放射率化手段が施された筐体表面に多層誘電体光学薄膜を接着する場合と、再帰反射性を有する材料で覆う場合についてそれぞれ説明する。
(1)多層誘電体光学薄膜を用いる場合:
この場合の筐体表面の放熱構造を図2に模式的に示す。
【0034】
図2に示すように、筐体1と多層誘電体光学薄膜2の2層構造において、当該多層誘電体光学薄膜2を制御することによって、内部熱源からの伝熱3による筐体1の表面からの輻射熱4は当該多層誘電体光学薄膜2のカットオフ波長よりも長波長側に位置するために透過する。一方で、外部熱源5からの輻射熱6は多層誘電体光学薄膜2のカットオフ波長よりも短波長側に位置するため、多層誘電体光学薄膜2による熱反射7が起こる。その結果、筐体1から発せられる輻射スペクトルが最大となる波長よりも短波長側の電磁波成分のみが選択的に反射される。
(2)再帰反射性材料を用いる場合:
この場合の筐体表面の放熱構造を図3に模式的に示す。
【0035】
図3に示すように、筐体1と再帰反射性部材8の2層構造において、再帰反射性部材8の粒径を制御することによって、内部熱源からの伝熱3による筐体1の表面からの輻射熱4の波長は再帰反射性部材8の粒径よりも長いために透過する。一方で、外部熱源5からの輻射熱6の波長は再帰反射性部材8の粒径よりも短いため、再帰反射9が起こる。その結果、筐体1から発せられる輻射スペクトルが最大となる波長よりも短波長側の電磁波成分のみが選択的に反射される。
【0036】
上記(1)と(2)の場合において、図4に選択反射のスペクトルイメージを示す。適用する条件下において、筐体表面と外部熱源の輻射スペクトルが丁度クロスオーバーする波長に選択反射の閾値を設定することが望ましい。尚、両者の温度差が大きい程(例えば、外部熱源が6000Kの太陽の場合)、本発明の効果も大きくなる。
【0037】
以下にテストピースによる基本的な実施例について説明する。
【0038】
テストピースは筐体壁面を模して以下の要領で作製した。
【0039】
即ち、大きさ50mm×50mmで1mm厚のアルミニウム(Al1050)基板にそれぞれ放射率向上・選択反射手段を施したものである。尚、裏面は何も処理しないアルミ素地のままである。
【実施例1】
【0040】
テストピースの表面に、放射率向上手段として放射率0.98のつや消し黒塗料を塗布した。塗料の特性により表面は微小な凹凸があり、機械研磨によって粗面化したと同等の状態となった。更にその上から、選択反射手段として平均粒径7〜8μm・屈折率1.5程度のガラスビーズをアクリル塗料を結合材として塗布した。選択反射領域における反射率は0.75であった。
【実施例2】
【0041】
実施例1において、選択反射手段のガラスビーズに代えて平均粒径7〜8μmの微小なアクリル片を含有するパール塗料をスプレーによって塗布した。選択反射領域における反射率は0.7であった。
【実施例3】
【0042】
実施例1において、選択反射手段のガラスビーズに代えてカットオフ波長7〜8μmに制御した多層誘電体光学薄膜を蒸着した。選択反射領域における反射率は0.8であった。
【実施例4】
【0043】
実施例1において、放射率向上手段のつや消し黒塗料に代えて放射率0.95の黒アルマイト処理を施した。選択反射手段はガラスビーズで実施例1と同じである。
【実施例5】
【0044】
実施例4において、選択反射手段のガラスビーズに代えて平均粒径7〜8μmの微小なアクリル片を含有するパール塗料をスプレーにより塗布した。
【実施例6】
【0045】
実施例4において、選択反射手段のガラスビーズに代えてカットオフ波長7〜8μmに制御した多層誘電体光学薄膜を蒸着した。
【実施例7】
【0046】
実施例1において、放射率向上手段のつや消し黒塗料に代えて放射率0.9のつや有り黒塗料を塗布した。選択反射手段はガラスビーズで実施例1と同じである。
【実施例8】
【0047】
実施例7において、選択反射手段のガラスビーズに代えて平均粒径7〜8μmの微小なアクリル片を含有するパール塗料をスプレーにより塗布した。
【実施例9】
【0048】
実施例7において、選択反射手段のガラスビーズに代えてカットオフ波長7〜8μmに制御した多層誘電体光学薄膜を蒸着した。
【0049】
<比較例1>
実施例1において、選択反射手段を施さず、つや消し黒塗料のみを塗布した。
【0050】
<比較例2>
実施例1において、つや消し黒塗料を塗布せず、アルミ基板の上に選択反射手段としてガラスビーズのみを直接塗布した。尚、ガラスビーズの結合材であるアクリル塗料の影響により放射率は0.5となった。
【0051】
<比較例3>
何も塗布・蒸着せず、表面・裏面共にアルミ素地のままとした。放射率は0.1であった。
【0052】
以上のテストピースの放熱性能を次に述べる方法で検証した。
【0053】
図5に示すように、各テストピース10はアルミ板11の表面に高放射率化+選択反射手段12が施されており、その裏面中央にK型熱電対13をアルミテープ14で貼り付け、更に熱伝導性の高いシリコーンシート(以下、TIMと称する)15を挟んでセラミックヒータ16を取り付けた。このセラミックヒータ16を筐体内部の熱源に見立てた。
【0054】
又、図6に示すように、図5に示すテストピース10と同じアルミ板21の表面に放射率0.98のつや消し黒塗料22を塗布したものの裏面に、同様に熱電対23をアルミテープ24で貼り付け、熱伝導性の高いシリコーンシート(TIM)25を挟んでセラミックヒータ26を取り付け、これを外部熱源20とした。
【0055】
図7に測定装置の構成を示す。
【0056】
テストピース10と外部熱源20以外の部材は全て断熱材であるコルクシートを用い、熱輻射以外の伝熱経路は極力排除する構成とした。ベースコルクシート31を敷いた上にテストピース10を置き、セラミックヒータ16,26に通電して加熱した。投入電力は2Wとした。この状態でしばらく置き、セラミックヒータ16の発熱量をテストピース10からの熱輻射が熱平衡状態となったところで、テストピース10の温度を測定した。これが「外部熱源なし」の結果である。
【0057】
次に、コルクシートを積層して支持部材32とした上に外部熱源20を、つや消し黒塗料の面を下にして、2cmの距離を隔ててテストピース10と正対するように設置した。外部熱源20の上にもコルクシート33を積層し、熱輻射以外の伝熱経路は極力排除する構成とした。外部熱源20のセラミックヒータ26に4Wの電力を投入し、同様に熱平衡状態となったところでテストピース10の温度を測定した。これが「外部熱源あり」の結果である。尚、このとき外部熱源20の温度は100〜110℃程度であった。
【0058】
以上の測定条件一覧を表1に、結果の一覧を表2にそれぞれまとめた。
【0059】
【表1】

【0060】
【表2】

表1及び表2の結果に示されるように、実施例1〜9においては、程度の差はあるものの、外部熱源なしの状態で63〜64℃程度、外部熱源ありの状態で70〜71℃程度と、外部熱源によるテストピースの温度への影響は全て7℃程度となった。これに対して、比較例1では実施例1〜9よりも正味の放射率が高いため、外部熱源なしの状態では放射伝熱量が多く、実施例1〜9よりも低い温度を示したが、一方で外部熱源ありの状態では、反射する手段がないために外部熱源からの熱輻射による影響を大きく受けてしまい、20℃以上も温度が上昇してしまった。
【0061】
続いて比較例2では、反射の手段を備えているために外部熱源による影響は実施例1〜9とほぼ同等となったが、表面の高放射率化手段がないために内部熱源からの伝熱を効率良く放射することができず、実施例1〜9に比べて10℃程度温度が上昇してしまった。
【0062】
最後に比較例3では、アルミ素地の放射率は0.1(反射率は0.9)であるため、外部熱源からの影響は殆ど受けなかったが、比較例2よりも放射率が低いため、内部熱源からの伝熱を効率良く外部に放射することができず、全テストピース中最も高い温度となってしまった。
【0063】
以上より、高放射率化の手段と選択反射の手段はどちらが欠けても十分な放熱性能が得られず、両方を兼ね備えた実施例1〜9が内部熱源に対する放熱性能と外部熱源からの輻射熱による影響の受け難さの双方において有効であるということが検証された。
【0064】
ここで、本検証でのテストピースと外部熱源の輻射スペクトル及び再帰反射部材・多層誘電体光学薄膜による選択反射のイメージを図8に示す。図8は筐体表面温度が70℃、外部熱源温度が110℃として黒体近似スペクトルが作図されている。図8より、両者の輻射スペクトルにおいて、選択反射の閾値がピーク波長の中間付近に位置しており、外部熱源からの輻射を積極的に反射しているのを確認することができる。
【0065】
尚,本検証では、高放射率化の手段としてつや消し黒塗料と黒アルマイト処理及びつやあり黒塗料の3種を選択し、選択反射の手段としてガラスビーズとパール塗料及び多層誘電体光学薄膜の3種を選択したが、これらに限定されるものではないことは勿論である。高放射率化の手段としては、放射率0.8以上を有する白色系塗料、他のアルマイト処理等の表面処理を選択することができ、選択反射の手段としては、他の微粒子系塗料や光学フィルター等を選択することができる。又、筐体材料に樹脂を用いる場合には、素材自体が0.8〜0.9他高い放射率を有しているため、更に表面を機械加工等によって粗面化すると一層効果的である。
【実施例10】
【0066】
次に、本発明に係る照明装置を車両用前照灯として使用した実施例について説明する。 図9は車両用前照灯の模式的断面図であり、本実施例では筐体53の前面に多層誘電体光学薄膜44を接着している。
【0067】
筐体43の前面はポリカーボネートで構成され、見栄えや意匠性の観点から筐体43の前面から放熱することはできない。しかし、筐体43の背面には100℃を超える熱輻射が照射されており、従来構造では効率良く放熱することはできない。
【0068】
そこで、本実施例では、本発明に係る照明装置を車両用前照灯として使用した。この車両用前照灯においては、LEDユニット41で発生した熱は、アルミ熱伝導材42を伝わってポリプロピレン製の筐体43へ移動し、多層誘電体光学薄膜44を透過して外部空気へと放熱される。尚、筐体43の材料には、熱伝導性向上のために金属フィラーを添加し、放射率向上のために筐体43の表面を研磨剤で粗面化して表面の放射率を0.92としている。
【0069】
図10に筐体と外部発熱体からの輻射スペクトルを示し、図11に筐体表面の反射スペクトルを示す。尚、筐体と外部発熱源の温度はそれぞれ50℃、200℃とした。
【0070】
図10及び図11より明らかなように、筐体からの輻射スペクトルは光学薄膜のカットオフ波長よりも長波長側に位置し、外部発熱体からの輻射スペクトルは短波長側に位置するため、図9において外部発熱体45からの熱輻射46は反射され、筐体43からの熱輻射47のみが選択的に外部へ放射される。図12に筐体内側と外側での輻射スペクトルをそれぞれ示す。
【0071】
又、筐体の概形サイズを幅50cm×高さ20cm×奥行き20cm、筐体の放熱面の面積を1000cm2程度とした場合、本実施例の条件下では高放射率化+選択反射構造のあり/なしで20℃程度の温度低減効果を期待することができる。
【実施例11】
【0072】
次に、本発明に係る照明装置を屋外街路灯として使用した実施例について説明する。
【0073】
図13は屋外街路灯の模式的断面図であり、本実施例は筐体53の表面を再帰反射材料54で覆った例を示す。
【0074】
図示の屋外街路灯においては、実施例10と同様に、LEDユニット51で発生した熱は、アルミ熱伝導材52を伝わってアルミ筐体53へ移動し、再帰反射材料54を透過して外部空気へと放熱される。尚、アルミ筐体53には、放射率向上のために表面に黒アルマイト処理が施され、表面の放射率は0.95とされている。
【0075】
太陽の表面温度は6000Kであり、筐体53の温度は50℃とした場合の各輻射スペクトルを図14にそれぞれ示す。再帰反射材料54は、太陽光線を良く反射するように粒径を3μm、屈折率を2程度に制御した。
【0076】
太陽からの輻射スペクトルのピークは再帰反射材料の粒径よりも短波長側に位置するため、太陽からの熱は再帰反射され、筐体からの輻射スペクトルのピークは再帰反射材料の粒径よりも長波長側に位置するため、筐体からの熱は反射されないで透過する。従って、図13に示す屋外街路灯において、太陽55からの熱輻射56は再帰反射され、筐体53からの熱輻射57のみが選択的に外部へ放射される。
【0077】
図15に筐体内側と外側での輻射スペクトルをそれぞれ示す。外部熱源が6000Kと非常に高温であるため、輻射スペクトルの分離度も大きく、太陽からの放射エネルギー(1366W/m2)の実に95%以上を反射することができ、非常に効率が良い。
【0078】
又、筐体ユニットを複数個並べ、全体の概形サイズを幅30cm×長さ1m×奥行き10cm、放熱面の面積を0.3m2の屋外街路灯とした場合、本実施例の条件下では高放射率化+選択反射構造のあり/なしで50℃以上の温度低減効果を期待することができる。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】従来の照明装置における筐体表面の放熱構造を示す図である。
【図2】本発明に係る照明装置において多層誘電体光学薄膜を用いた場合の放熱構造を示す図である。
【図3】本発明に係る照明装置において再帰反射材料を用いた場合の放熱構造を示す図である。
【図4】図2に示す放熱構造における選択反射のスペクトルイメージ図である。
【図5】実施例1〜9及び比較例1〜3に用いたテストピースの構成図である。
【図6】テストピースの検証に用いた外部熱源の構成図である。
【図7】テストピースの検証を行った装置の全体構成図である。
【図8】実施例1〜9における選択反射のスペクトルイメージ図である。
【図9】車両用前照灯の模式的断面図である。
【図10】実施例10における筐体と外部発熱源の輻射スペクトルを示す図である。
【図11】実施例10における筐体表面の反射スペクトルを示す図である。
【図12】実施例10における筐体内側と外側での輻射スペクトルを示す図である。
【図13】屋外街路灯の模式的断面図である。
【図14】実施例11における筐体と太陽の輻射スペクトルを示す図である。
【図15】実施例11における筐体内側と外側での輻射スペクトルを示す図である。
【符号の説明】
【0080】
1 筐体
2 多層誘電体光学薄膜
3 内部熱源からの伝熱
4 筐体表面からの熱輻射
5 外部熱源
6 外部熱源からの熱輻射
7 多層誘電体光学薄膜による熱反射
8 再帰反射性部材
9 再帰反射
10 テストピース
11 アルミ板
12 高放射率化+選択反射手段
13 熱電対
14 アルミテープ
15 シリコーンシート(TIM)
16 セラミックヒータ
20 外部熱源
21 アルミ板
22 つや消し黒塗料
23 熱電対
24 アルミテープ
25 シリコーンシート(TIM)
26 セラミックヒータ
31 ベースコルクシート
32 支持部材
33 コルクシート
41 LEDユニット
42 アルミ熱伝導材
43 筐体
44 多層誘電体光学薄膜
45 外部発熱体
46 外部発熱体からの熱輻射
47 筐体からの熱輻射
51 LEDユニット
52 アルミ熱伝導材
53 筐体
54 再帰反射材料
55 太陽
56 太陽からの熱輻射
57 筐体からの熱輻射

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発熱源である光源と、該光源を収容する筐体を備えた照明装置において、
前記筐体の表面に赤外線領域の放射率を高める放射率向上手段を施し、その上に、分光反射率が筐体から発せられる輻射スペクトルが最大となる波長よりも短波長側の電磁波成分を反射するよう制御する材料を一面に亘って設けることによって、外部熱源からの輻射を遮り、内部発熱源からの熱を選択的に外部に放射することを特徴とする照明装置。
【請求項2】
前記放射率向上手段として、筐体表面に機械加工、化成処理又は塗装の少なくとも1つを施すことによって筐体表面の放射率を0.8以上とすることを特徴とする請求項1記載の照明装置。
【請求項3】
筐体表面に多層誘電体光学薄膜を接着し、該多層誘電体光学薄膜の分光透過率においてカットオフ波長を筐体から発せられる輻射スペクトルが最大となる波長よりも短波長側に合わせることによって、筐体から発せられる輻射スペクトルが最大となる波長よりも短波長側の電磁波成分を反射することを特徴とする請求項1又は2記載の照明装置。
【請求項4】
筐体表面を再帰反射性を有する材料で覆い、且つ、再帰反射の過程における粒径及び屈折率を筐体から発せられる輻射スペクトルが最大となる波長よりも短波長側の電磁波成分を反射するよう制御することを特徴とする請求項1又は2記載の照明装置。
【請求項5】
前記光源をLEDで構成したことを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の照明装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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