説明

熱履歴センサー

【課題】 従来の熱履歴センサーは、焼成条件によっては反ってしまって正確に寸法を測定することができず、被焼成体の熱履歴の検知に支障が出るという課題があった。
【解決手段】 セラミック粉末とガラス粉末との未焼成の成形体からなり、載置面に平行に配置される板状の本体部11と、本体部11の下面より小さい面積で載置面に当接して本体部11を支持する支持部12と、本体部11の上面から頂点にかけて断面積が漸次減少している隆起部13とが一体的に形成されている熱履歴センサー10である。棚板から支持部12を通して本体部11へ伝わる伝熱量を抑え、焼成炉内の対流熱や発熱体からの輻射熱を隆起部13からより多く受けることで熱履歴センサー10全体が一様に収縮するため、対流熱,輻射熱と伝熱量とに偏りのある焼成条件であっても反りが発生しにくく、より正確な熱履歴の検知が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミック製品や金属製品等の焼成工程における熱履歴を検知するための熱履歴センサーに関し、対流や輻射による伝熱量と棚板等からの熱伝導による伝熱量とに差を生じる焼成条件での焼成において、被焼成体の熱履歴を高精度に測定することができる熱履歴センサーに関する。
【背景技術】
【0002】
セラミック製品や金属製品の製造における焼成工程は、品質特性を管理する上で重要な工程であり、焼成温度のみならず、焼成パターン,焼成炉内の位置,焼成炉の種類等による被焼成体の熱履歴の管理が必要である。
【0003】
一般に焼成工程では、焼成炉内の温度を熱電対や光温度計による測定および電気計器による温度管理によって定常状態を維持する方法が用いられていた。しかしながら、この温度管理を厳密にしても常に同じ焼成条件を維持することができていなかった。
【0004】
そのために、従来から温度や時間だけでなく、雰囲気ガスの対流による対流熱や発熱体から直接の輻射あるいは炉心管からの輻射による輻射熱や棚板および焼成治具等との接触による伝導熱まで含めた熱履歴を検知する熱履歴センサーが用いられてきた。この熱履歴センサーは、アルミナなどのセラミック粉末を例えば図7に斜視図で示す形状(寸法:長さが25mm,幅が11mm,厚みが5mm)に成形したものであり、これを予め所定の条件下で焼成温度を変化させて焼成し、焼成後の寸法をマイクロメータで測定し、寸法と焼成温度との関係を表した換算表を用いることによって熱履歴を知るものである。
【0005】
このように熱履歴センサーは、一般のセラミックスと同様に、昇温に伴って収縮緻密化が進行していく収縮現象を利用していることから、焼成工程の熱履歴を簡単で正確に再現性よく管理できるので熱履歴センサーとして多用されている。
【0006】
このような熱履歴センサーとしては、特許文献1に、Alが99.7重量%以上、SiOが0.2重量%以下のセラミックス未焼成成形体からなり、円板体に平行な弦部を形成し、残された円弧部は優れた真円度の測定面とした熱履歴検知用成形体が開示されている。これによれば、熱履歴検知用成形体のAlを99.7重量%以上として不純物量を少なくすることによって検知した指示温度の精度を向上し、SiOを0.2重量%以下として熱履歴検知用成形体が1750℃以下の温度で完全に焼結し緻密化して熱履歴が検知できなくなるのを防止している。
【0007】
そして、円板体に平行な弦部を形成し、残された円弧部は優れた真円度の測定面としたことによって寸法測定時に測定位置がずれても同じ直径を正確に測定できるようにし、さらにはある程度の肉厚を持たせて反りの発生を防止して高精度な寸法測定ができるようにしている。
【0008】
また、特許文献2には、アルミナなどのセラミック粉末が5〜90重量%と、結合材としてのガラス粉末が10〜95重量%との混合物の未焼成成形体からなり、特許文献1の熱履歴検知用成形体と同じ形状の熱履歴検知用成形体が開示されている。これによれば、550〜1200℃の低温温度領域においても指示温度の検知精度を±2℃以下と高精度にできることから、焼成条件が変わっても焼成工程を厳密に管理することができ、優れた焼結体が得られるというものである。
【特許文献1】特開平4−65369号公報
【特許文献2】特開平6−74835号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、このような熱履歴センサーは焼成条件によっては反ってしまい、円弧部間の寸法を測定することができず、被焼成体の熱履歴の検知に支障が出るという課題があった。例えば、対流,輻射による伝熱量が棚板からの伝熱量より大きい場合は、熱履歴センサーの上部側の収縮が棚板の載置面側の収縮より大きいので、熱履歴センサーの両端が持ち上がるように反るという問題があった。このように対流,輻射による伝熱量の方が大きくなるのは、たとえば焼成炉内の昇温が急速で最高温度保持時間が短い場合に起こる。逆に、対流,輻射による伝熱量が棚板からの伝熱量より小さい場合は、熱履歴センサーの上部側の収縮よりも棚板の載置面側の収縮が大きいので、熱履歴センサーの真ん中が浮くように反ってしまうという問題があった。つまり、対流,輻射による伝熱量が小さくなる、すなわち棚板からの伝熱量が大きくなるのは、熱伝導のよい棚板(例えば金属や金属網等の棚板)に載置したとき、棚板から受ける伝熱量が雰囲気ガスの対流による対流熱や発熱体から直接の輻射あるいは炉心管からの輻射による輻射熱より相対的に大きくなったときに起こる。
【0010】
本発明は、上記課題を解決すべく案出されたものであり、セラミック製品や金属製品の対流や輻射の伝熱量と棚板等からの伝熱量とに差を生じる焼成条件での焼成において反りが発生しにくく、より正確な熱履歴の検知が可能な熱履歴センサーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の熱履歴センサーは、セラミック粉末とガラス粉末との未焼成の成形体からなり、載置面に平行に配置される板状の本体部と、該本体部の下面より小さい面積で前記載置面に当接して前記本体部を支持する支持部と、前記本体部の上面から頂点にかけて断面積が漸次減少している隆起部とが一体的に形成されていることを特徴とするものである。
【0012】
また、本発明の熱履歴センサーは、上記構成において、前記本体部が長方形状であり、前記支持部が前記本体部の短辺側にそれぞれ配置されており、前記隆起部が前記本体部の長辺側の側面から見て半円形状であることを特徴とするものである。
【0013】
また、本発明の熱履歴センサーは、上記構成において、前記本体部が円形状であり、前記支持部が前記本体部の中央に配置されており、前記隆起部が半球状であることを特徴とするものである。
【0014】
さらにまた、本発明の熱履歴センサーは、上記構成において、前記セラミック粉末がアルミナ,ジルコニア,ムライト,マグネシア,カルシア,炭化珪素,窒化珪素の少なくとも一つであり、前記ガラス粉末がシリカ,ホウ酸の少なくとも一つを主成分として含むことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の熱履歴センサーによれば、セラミック粉末とガラス粉末との未焼成の成形体からなり、載置面に平行に配置される板状の本体部と、該本体部の下面より小さい面積で前記載置面に当接して前記本体部を支持する支持部と、前記本体部の上面から頂点にかけて断面積が漸次減少している隆起部とが一体的に形成されていることから、棚板や焼成治具から支持部を通して本体部へ伝わる熱量を抑え、さらに焼成炉内の対流熱や発熱体からの輻射熱を隆起部からより多く受けることで熱履歴センサー全体が一様に収縮するため、セラミック製品や金属製品の対流や輻射による伝熱量と棚板等からの熱伝導による伝熱量とに差を生じる焼成条件での焼成において反りが発生しにくく、より正確な熱履歴の検知が可能となる。
【0016】
また、本発明の熱履歴センサーによれば、前記本体部が長方形状であり、前記支持部が前記本体部の短辺側にそれぞれ配置されており、前記隆起部が前記本体部の長辺側の側面から見て半円形状であるときには、隆起部の短辺側の側面で対流熱や輻射熱を均等に受けることとなるので、反りをさらに小さくすることができる。
【0017】
また、本発明の熱履歴センサーによれば、前記本体部が円形状であり、前記支持部が前記本体部の中央に配置されており、前記隆起部が半球状であるときには、隆起部の表面で対流熱や輻射熱を均等に受けることとなるので、反りを最小限に小さくすることができ、より正確な熱履歴の検知が可能となる。そして、本体部が円形状のため、測定位置が円周方向でずれても、正確に焼成により収縮した寸法を測定することが可能である。
【0018】
さらにまた、本発明の熱履歴センサーは、前記セラミック粉末がアルミナ,ジルコニア,ムライト,マグネシア,カルシア,炭化珪素,窒化珪素の少なくとも一つであり、前記ガラス粉末がシリカ,ホウ酸の少なくとも一つを主成分として含むときには、被焼成体の焼成雰囲気に合わせて化学的に安定なセラミック粉末を選択することができ、それにガラス粉末を添加することで熱履歴センサーが被焼成体の焼成温度域で完全に緻密化せず収縮するように被焼成体の種類に応じて調整できるため、より正確な熱履歴の検知が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0020】
本発明の熱履歴センサーは、セラミック粉末とガラス粉末との未焼成の成形体からなり、載置面に平行に配置される板状の本体部と、該本体部の下面より小さい面積で前記載置面に当接して前記本体部を支持する支持部と、前記本体部の上面から頂点にかけて断面積が漸次減少している隆起部とが一体的に形成されていることが重要である。
【0021】
本発明の熱履歴センサーは、被焼成体と共に焼成炉に入炉され、焼成後の寸法を測定することにより、被焼成体の熱履歴を検知するものであるが、焼成中に熱履歴センサーは焼成炉内の雰囲気ガスの対流による対流熱や、発熱体から直接の輻射あるいは炉芯管を通して発熱体からの輻射による輻射熱や、被焼成体や熱履歴センサーを載置するための棚板や焼成治具等の載置面との接触部からの伝熱を受ける。
【0022】
一般に金属は熱伝導がよく、比較的短時間で昇温しても、被焼成体である金属製品内の温度差は生じにくい。そのため、金属製品は、焼成するときには昇温速度を速くすることが可能であり、最高温度保持時間の短い高速焼成が行なわれる。例えば350℃/時間以上の昇温速度,最高温度1200℃,保持時間1時間にて金属製品の高速焼成を行なった場合、昇温速度が速く最高温度保持時間が短いために、対流,輻射による伝熱量が棚板からの伝熱量より大きくなり、熱履歴センサーの上部側の収縮が棚板との載置面側の収縮より大きいので、熱履歴センサーの両端が持ち上がるように反るという問題があった。
【0023】
また、例えば金属や金属網等の熱伝導のよい棚板に熱履歴センサーを載置し、棚板から受ける伝熱量が雰囲気ガスの対流による対流熱や発熱体から直接の輻射あるいは炉心管からの輻射による輻射熱より相対的に大きくなったときには、載置面との接触部側で熱履歴センサーの収縮が大きくなり、従来の熱履歴センサーであると載置面との接触部側で熱履歴センサーの真ん中が浮くように反りが発生し易くなるのである。
【0024】
したがって、本発明の熱履歴センサーは、板状の本体部の下面の面積より小さい面積で載置面に当接して本体部を支持する支持部を有することにより、棚板や焼成治具等の載置面との接触部からの伝熱量が抑制され、熱履歴センサーの反りが発生するのを低減することが可能となる。
【0025】
また、本発明の熱履歴センサーは、本体部の上面から頂点にかけて断面積が漸次減少している隆起部を有することにより、表面積を大きくし、焼成炉内の対流熱や発熱体からの輻射熱を隆起部にてより多く取り入れることで、対流熱,輻射熱および載置面からの伝熱量の偏りを低減することができるため、熱履歴センサー全体が一様に収縮し、セラミック製品や金属製品の種々の焼成条件においても反りが発生しにくく、より正確な熱履歴の検知が可能となる。
【0026】
本発明の熱履歴センサーは、熱履歴センサーの本体部が上方から見て長方形状であり、支持部が長方形状の本体部の短辺側にそれぞれ配置されており、隆起部が長方形状の本体部の長辺側の側面から見て半円形状であることが、反りを抑えるのにより好適である。
【0027】
図1は本発明の熱履歴センサーの実施の形態の一例を示す斜視図である。また、図2(a)は図1に示す本発明の熱履歴センサーの正面図(本体部の長辺側の側面から見た図)であり、図2(b)は側面図(本体部の短辺側の側面から見た図)である。
【0028】
図1,2に示す本発明の熱履歴センサー10は、板状の本体部11と、本体部11の下側の支持部12と、本体部11の上側の隆起部13とで構成されている。この板状の本体部11は上方から見て長方形状としてあり、焼成後に図2(a)に示すA部(A面)とB部(B面)との距離を測定して熱履歴を知ることができる。
【0029】
また、隆起部13は本体部11の上面を覆い本体部11の上面から頂点にかけて断面積が漸次減少するように形成されており、図1に示す例では、より好ましい形状として、正面(本体部11の長辺側の側面)から見て半円形状としてある。
【0030】
このように隆起部13を断面積が漸次減少するように半円形状とすると、本体部11の短辺側の隆起部13の側面で対流熱や輻射熱を均等に受けるので収縮が均一となり、より好ましい。
【0031】
さらに、支持部12は本体部11を棚板や焼成治具等の載置面上に支持するために設けてあるが、できる限り載置面から伝わる伝熱量を抑えるためには、板状の本体部11の下面の面積よりも小さい面積、すなわち本体部11を載置面に直に載置するとしたときに載置面に接する面積よりも小さい面積で載置面に接することが肝要である。
【0032】
すなわち、熱履歴センサー10は、本体部11上に設けた半円形状の隆起部13によって、表面積を大きくして対流熱や輻射熱をより多く受けるとともに、隆起部13の短辺側の側面で対流熱や輻射熱を均等に受け、さらに支持部12により載置面に接する面積を小さくすることによって伝熱量を少なくできるので、熱履歴センサー10全体を一様に収縮させることができ、反りを小さくできる。
【0033】
また、図3は、図1の例に対して支持部12の形状を変えた、本発明の熱履歴センサーの実施の形態の他の例を示す斜視図である。また、図4(a)は図3に示す本発明の熱履歴センサーの正面図(本体部の長辺側の側面から見た図)であり、図4(b)は側面図(本体部の短辺側の側面から見た図)である。
【0034】
図1,2に示す熱履歴センサー10では本体部11は長方形状で上下方向に同じ寸法とし、長辺側の側面から見ても長方形状として直方体状としてあるが、図3,4に示す熱履歴センサー20のように、本体部21の短辺側の側面を隆起部23と本体部21との境界部から本体部21と支持部22との境界部に向けて内側に傾斜させると、すなわち上方から見て長方形状の本体部21を長辺側の側面から見て下底が上底より短い台形状とすると、図1,2に示す例では焼成後に熱履歴センサー10の本体部11の寸法を測定するときにA面とB面との測定箇所によって測定した寸法に差が生じる場合があるのに対して、図3,4に示す例の場合には測定箇所がC部,D部に限定されるため、人による測定誤差が生じることが少なくなり、より好ましい。
【0035】
また、本発明の熱履歴センサーは、本体部が上方から見て円形状であり、支持部が本体部の中央に配置されており、隆起部が側面から見て半球状であることが好適である。
【0036】
図5は本発明の熱履歴センサーの実施の形態のさらに他の例を示す斜視図である。また、図6(a)は図5に示す本発明の熱履歴センサーの正面図(側面から見た図)であり、図6(b)は上面図であり、図6(c)は底面図である。
【0037】
図5,6に示す本発明の熱履歴センサー30は、上方から見て円形状の本体部31と、本体部31の中央に配置された支持部32と、半球状の隆起部33とで構成されている。
【0038】
板状の本体部31は上から見て円形状であり、焼成後に図5に示すE部とF部との間の距離すなわち円形状の本体部31の円の直径を測定して被焼成体の熱履歴を知ることができる。このように本体部31が円形状のときは、測定位置であるE部,F部が円周方向でずれても、正確に本体部31の寸法を測定することが可能である点で好ましい。
【0039】
また、隆起部33は半球状であると、隆起部33の表面全体で対流熱や輻射熱を均等に受けることとなるので、反りを最小限に小さくすることができ、より正確な熱履歴の検知ができて好適である。
【0040】
本発明の熱履歴センサーは、セラミック粉末がアルミナ,ジルコニア,ムライト,マグネシア,カルシア,炭化珪素,窒化珪素の少なくとも一つであり、ガラス粉末がシリカ,ホウ酸の少なくとも一つを主成分として含むものであることが、被焼成体の焼成雰囲気に合わせて化学的に安定なセラミック粉末の選択ができ、それにガラス粉末を加えることで熱履歴センサーが被焼成体の焼成温度域で完全に緻密化せず収縮するように被焼成体の種類に応じて調整できるため、より正確な熱履歴の検知が可能となり、好ましい。
【0041】
セラミック製品には酸化物,窒化物,炭化物,硼化物等の化合物からなるものがあり、その化合物の種類に応じて、大気,酸素ガス等の酸化雰囲気や窒素ガス,Arガス等の不活性ガス雰囲気で焼成される。また、金属製品は酸化雰囲気では金属が酸化するため、通常は還元雰囲気または不活性雰囲気にて焼成が行なわれる。そこで、それぞれの製品に合わせた雰囲気にて焼成が行なわれるため、熱履歴を検知する熱履歴センサー10,20,30についても焼成雰囲気に合わせたセラミック粉末の選択が必要となる。これに対し、熱履歴センサー10,20,30は、セラミック粉末がアルミナ,ジルコニア,ムライト,マグネシア,カルシア,炭化珪素,窒化珪素の少なくとも一つであることにより、さまざまなセラミック製品や金属製品の焼成雰囲気に対応した熱履歴センサーとすることができ、この熱履歴センサー10,20,30のいずれかを被焼成体と共に焼成することにより、化学的に安定した状態で収縮し、熱履歴を検知することができるので、好適である。
【0042】
また、熱履歴を正しく検知するには、セラミック製品および金属製品の焼成条件における最高温度により熱履歴センサー10,20,30が完全に緻密化しないように調整することが必要である。そのためには、セラミック粉末にシリカ,ホウ酸の少なくとも一つを主成分として含むガラス粉末を加えることが有効であり、そのようなガラス粉末を加えるとその添加量により完全に緻密化する温度を調整できるため、好ましい。ここで、シリカ,ホウ酸の少なくとも一つを主成分として含むとは、ガラスを形成するのに不可欠な成分であるからであり、さらにガラス成分の中に酸化ナトリウム,酸化カリウム,アルミナ等を含むことにより、化学的安定や結晶化抑制が図られ、さまざまな焼成雰囲気に対応することができ、熱履歴センサーは焼成中に安定した収縮挙動を示すことができるので、好適である。
【0043】
なお、熱履歴センサー10,20,30を用いるには、予め所定の焼成条件の下で焼成温度を変化させて熱履歴センサー10,20,30の焼成前後の寸法を測定し、寸法の変化と焼成温度との関係を換算表として用意しておく。その後、異なる条件で焼成を行なう際に、被焼成体と共にこの熱履歴センサー10,20,30のいずれかを焼成し、焼成後の寸法を測定して上記換算表より指示温度を求めることができる。なお、この指示温度とは、実際の温度ではなく、熱履歴を便宜的に表したものである。すなわち、熱履歴センサー10,20,30を用いれば、焼成条件が異なる場合でも、指示温度を求めることによって、熱履歴を管理することが可能となる。
【0044】
次に、本発明の熱履歴センサーの製造方法について説明する。
【0045】
本発明の熱履歴センサー10,20,30を得るには、まずセラミック粉末を5〜95質量%およびガラス粉末を5〜95質量%の範囲内で秤量し、混合して混合原料粉末とする。セラミック粉末は被焼成体であるセラミック製品または金属製品の焼成雰囲気に合わせて、アルミナ,ジルコニア,ムライト,マグネシア,カルシア,炭化珪素,窒化珪素の少なくとも一つから選択し、ガラス粉末は製品の焼成温度に合わせてシリカ,ホウ酸の少なくとも一つからなるガラスから選択して、両者の添加量により混合原料の組成比を調整する。例えば、アルミナ製品の熱履歴を検知するためには、セラミック粉末としてアルミナ原料を70質量%と、ガラス粉末としてシリカ83.5質量%,ホウ酸13.1質量%,アルミナ2.4質量%,および酸化ナトリウム1.0質量%からなるガラス原料を30質量%としたものを用いればよい。また、窒化珪素製品の熱履歴を検知するためには、セラミック粉末として窒化珪素原料を70質量%と、ガラス粉末として上記と同じ組成のガラス原料を30質量%としたものを用いればよい。
【0046】
次いで、混合原料粉末とアルミナボールと水とをボールミルに入れて所望の平均粒径となるまで湿式粉砕し、スラリーを得る。混合原料粉末の平均粒径としては、例えば、前述したアルミナ製品の熱履歴を検知する混合原料粉末の平均粒径は1.5〜2.5±0.1μmとすればよく、窒化珪素製品の熱履歴を検知する混合原料粉末の平均粒径は0.4〜0.8±0.1μmとすればよい。
【0047】
次いで、このスラリーに、混合原料粉末に対し1〜10質量%のワックス系バインダを加えて混合して、噴霧乾燥することによって、成形用顆粒を得る。この顆粒を粉末プレス成形方法により、例えば図1〜図6に示すような形状に成形し、熱履歴センサー10,20,30を作製する。なお、成形体の生密度はセラミック粉末やガラス粉末の種類および量ならびにバインダの量により変化するが、所定の生密度に対し、±0.01g/cmのばらつき範囲内に収めるようにすることで、熱履歴センサー間の収縮率のばらつきが小さくなり、常に正確な熱履歴の検知が可能となる。また、成形体の生密度としては、例えば、前述したアルミナ製品の熱履歴を検知する成形体の生密度は2.0〜2.4±0.01g/cmとすればよいく、窒化珪素製品の熱履歴を検知する成形体の生密度は1.8〜2.1±0.01g/cmとすればよい。
【0048】
ところで、本発明の熱履歴センサーの実施の形態の例を図1〜6で示したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲であれば、形状の改良や変更を加えることができることは言うまでもない。
【0049】
例えば、図1〜6に示す熱履歴センサー10,20,30を安定して支持できるのであれば、棚板からの伝熱量をさらに抑えるために、支持部12,22,32の棚板への載置面に当接する箇所の数を増やし面積を小さくするように改良してもよい。
【実施例】
【0050】
以下、本発明の熱履歴センサーの実施例を具体的に説明する。
【0051】
まず純度99.9%以上のアルミナ原料からなるセラミック粉末70gと、シリカ83.5質量%,ホウ酸13.1質量%,アルミナ2.4質量%,および酸化ナトリウム1.0質量%からなるガラス原料30gとを秤量し混合した後に、この混合原料粉末とアルミナボールと水とをボールミルに入れ、平均粒径が2.0±0.1μmになるまで湿式粉砕して、スラリーを得た。このスラリーに混合原料粉末に対し8質量%のワックス系バインダを加えて混合して噴霧乾燥することによって、成形用顆粒を得た。
【0052】
次に、この成形用顆粒を用いて粉末プレス成形方法により、図1〜6に示す本発明の熱履歴センサー10,20,30の形状に成形し、生密度が2.2±0.01g/cmの成形体である本発明の熱履歴センサー10,20,30を得た。
【0053】
また、上記と同じ原料を用いて図7に示す従来の形状をした熱履歴センサー50を作製し、本発明の熱履歴センサー10,20,30と共に表1に示す条件で大気雰囲気にて焼成を行ない、冷却後に焼成炉内から取り出し、それぞれの反り状態を比較した。その結果を表1に示す。なお、図1に示す例を形状1,図3に示す例を形状2,図5に示す例を形状3,図7に示す例を従来と表記した。
【表1】

【0054】
その結果、アルミナ製の棚板を用いて、昇温速度が200℃/時間と比較的遅く、最高温度が1200℃とやや低くし、保持時間が2時間であった条件1においては、従来のものも含めて反りは見られなかったものの、昇温速度が400℃/時間と速い条件2,熱伝導のよい金属を棚板とした条件3においては、従来の熱履歴センサー50では反りが発生した。しかし、本発明の熱履歴センサー10,20,30は、このような条件2,3の焼成条件であっても反りの発生がなく、正確な寸法測定ができ熱履歴を検知することができることから、厳密な焼成管理により優れた製品を安定して供給できることが確認できた。
【0055】
また、上記実施例では、熱履歴センサー10,20,30を得るのに用いた混合原料粉末の平均粒径を2.0±0.1μmとし、成形体の生密度を2.2±0.01g/cmとしたが、いずれもこの値に限定されるものではない。熱履歴の管理を永続的に正確に行なえるように、原料組成,混合原料粉末の平均粒径,成形体の生密度を厳密に管理して作製された熱履歴センサーであり、管理構成された焼成炉や熱電対を用いて作成された換算表を備えることができれば、本実施例の値にはこだわらない。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の熱履歴センサーの実施の形態の一例を示す斜視図である。
【図2】(a)は図1に示す本発明の熱履歴センサーの正面図であり、(b)は側面図である。
【図3】本発明の熱履歴センサーの実施の形態の他の例を示す斜視図である。
【図4】(a)は図3に示す本発明の熱履歴センサーの正面図であり、(b)は側面図である。
【図5】本発明の熱履歴センサーの実施の形態のさらに他の例を示す斜視図である。
【図6】(a)は図5に示す本発明の熱履歴センサーの正面図であり、(b)は上面図であり、(c)は底面図である。
【図7】従来の熱履歴センサーの例を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0057】
10,20,30:熱履歴センサー
11,21,31:本体部
12,22,32:支持部
13,23,33:隆起部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミック粉末とガラス粉末との未焼成の成形体からなり、載置面に平行に配置される板状の本体部と、該本体部の下面より小さい面積で前記載置面に当接して前記本体部を支持する支持部と、前記本体部の上面から頂点にかけて断面積が漸次減少している隆起部とが一体的に形成されていることを特徴とする熱履歴センサー。
【請求項2】
前記本体部が長方形状であり、前記支持部が前記本体部の短辺側にそれぞれ配置されており、前記隆起部が前記本体部の長辺側の側面から見て半円形状であることを特徴とする請求項1記載の熱履歴センサー。
【請求項3】
前記本体部が円形状であり、前記支持部が前記本体部の中央に配置されており、前記隆起部が半球状であることを特徴とする請求項1記載の熱履歴センサー。
【請求項4】
前記セラミック粉末がアルミナ,ジルコニア,ムライト,マグネシア,カルシア,炭化珪素,窒化珪素の少なくとも一つであり、前記ガラス粉末がシリカ,ホウ酸の少なくとも一つを主成分として含むことを特徴とする請求項1記載の熱履歴センサー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−64627(P2008−64627A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−243261(P2006−243261)
【出願日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】