説明

燃料噴射弁

【課題】簡素な構成でアクチュエータの変位に対する弁部材の変位の変換率切換えが可能、かつエネルギロス低減に優れる燃料噴射弁を提供。
【解決手段】通電により変位を発生するアクチュエータ3と、弁部材とアクチュエータとの間に設けられ、筒状を呈し、軸方向一端部がアクチュエータに付き当てられ、軸方向他端部が内部に弁部材を摺動移動可能に収容する可動部材10と、弁部材とアクチュエータの両者の変位に対して変位不能に規制され、可動部材の内壁を相対的に摺動移動可能、かつ弁部材の外径D0より大きい大径部31を有するストッパ部材30と、上記大径部の弁部材側の端部と可動部材の内壁と弁部材とで形成される油密室70と、大径部の端部側に設けられ、大径部内を軸方向に摺動移動可能な円柱状を呈し弁部材の外径よりも小さく形成され、かつ弁部材の所定のリフトH1時に、弁部材に付き当てられる軸端部を有するステップピストン60とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料噴射弁に関し、例えば内燃機関に燃料を噴射供給する燃料噴射弁に適用して好適である。
【背景技術】
【0002】
従来、駆動体の駆動により噴孔を開閉する弁部材を直接的に操作することにより、弁部材を離座させ、噴孔から燃料を噴射する燃料噴射弁が知られている(特許文献1参照)。駆動体としては、燃料噴射圧を高圧化するために、圧電素子や磁歪素子のように駆動力の大きな素子が伸縮するアクチュエータを利用する技術が提案されている。
【0003】
この種の上記アクチュエータを備えた燃料噴射弁は、アクチュエータの変位を直接的に弁部材に伝達するための「油圧連結要素」が、アクチュエータと弁部材との間に介在して設けられている。この「油圧連結要素」は、二つの「可動部材」としてのピストン間に、両ピストンの互いに向かい合う端面とで形成される「油密室」を備えている。
【0004】
このような燃料噴射弁の一種として特許文献1に開示の装置では、二組の「油圧連結要素」を備え、二つの「油密室」を、互いに異なる受圧面積の端面を有する「可動部材」で形成することにより、アクチュエータの変位に対して弁部材の変位の変換率を、予め設定されたプレストロークhvを境界に切換えるようにしている。
【0005】
この技術では、一方の「油圧連結要素」は、その一方の「可動部材」として第1ピストンと第2ピストンとを有し、第1ピストンと第2ピストンとの各第1端面で形成される、一方の「油密室」としてのカップリング室を有している。また、他方の「油圧連結要素」は、その他方の「可動部材」として、内部に第1ピストン及び第2ピストンを摺動移動可能に支持するプリストロークスリーブを有している。このプリストロークスリーブは、第2ピストンの変位量がプレストロークhvに到達すると、第2ピストンと一体となるように構成されており、上記カップリング室と異なる他方の「油密室」が、第2ピストンが一体となったプリストロークスリーブの第2端面で形成されるようになっているのである。
【0006】
他方の「油密室」は、第1端面より受圧面積が拡大された上記第2端面によって、アクチュエータの変位に対する弁部材の変位の変換率が拡大される。
【0007】
なお、アクチュエータは、燃料噴射弁の噴射停止時に、通電されて伸長し、噴射時には、通電停止されて収縮する。
【特許文献1】特表2007−505255号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1による従来技術では、上記二組の「油圧連結要素」を設けることにより、アクチュエータの変位に対する弁部材の変位の変換率を2段階に切換えることが可能となる。しかしながら、「油密室」が二つあるので、「油密室」内の作動油(燃料)の圧縮性により、燃料噴射弁の噴射時において噴射開始遅れが大きくなるおそれがあり、弁部材を直接的に操作するために通電により伸長、収縮等変位するアクチュエータのエネルギロスに繋がるという懸念がある。
【0009】
本発明は、このような事情を考慮してなされたものであり、その目的は、簡素な構成でアクチュエータの変位に対する弁部材の変位の変換率切換えが可能であるとともに、アクチュエータのエネルギロス低減に優れる燃料噴射弁を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記目的を達成するために以下の技術的手段を備える。
【0011】
即ち、請求項1乃至10に記載の発明では、弁座に着座および離座する弁部材を駆動することにより燃料を噴射する燃料噴射弁において、弁部材を直接的に操作するアクチュエータであって、通電により変位を発生するアクチュエータと、弁部材とアクチュエータとの間に設けられ、筒状を呈する可動部材であって、軸方向一端部がアクチュエータに付き当てられ、軸方向他端部が、内部に弁部材を摺動移動可能に収容する可動部材と、弁部材とアクチュエータとの間に設けられ、弁部材とアクチュエータの両者の変位に対して変位不能に規制されているストッパ部材であって、可動部材の内壁を相対的に摺動移動可能、かつ弁部材の外径より大きい大径部を有し、大径部が弁部材に対して軸方向に間隔を置いて配置されているストッパ部材と、ストッパ部材において大径部の弁部材側の端部と、可動部材の前記内壁と、弁部材とで形成される油密室と、大径部の前記端部側に設けられ、大径部内を軸方向に摺動移動可能な円柱状を呈するステップピストンであって、弁部材の前記外径よりも小さく形成され、かつ弁部材が弁座より上昇した所定のリフト時において弁部材に付き当てられる軸端部を有するステップピストンと、
を備えていることを特徴とする。
【0012】
このような構成によると、軸方向一端部がアクチュエータに付き当てられている筒状の可動部材はアクチュエータと協働することになるので、アクチュエータが伸縮すると、この伸縮に伴い、上記筒状の可動部材の軸方向他端部側が、変位するのである。そして、この軸方向他端部は、内部に弁部材を摺動移動可能に収容するというものである。
【0013】
また、弁部材とアクチュエータとの間には、上記筒状の可動部材と、弁部材とアクチュエータの両者の変位に対して変位不能に規制されているストッパ部材とが配置されている。このストッパ部材は、アクチュエータと協働する可動部材の内壁を、相対的に摺動移動可能、かつ弁部材の外径より大きい大径部を有している。この大径部は弁部材に対して軸方向に間隔を置いて配置されている。その結果、可動部材の内壁の内周形状が、軸方向他端部側の内壁面が弁部材に向かって先細り形状を呈するのである。
【0014】
このような可動部材の内壁と、ストッパ部材の大径部における弁部材側の端部と、弁部材とで形成される油密室は、アクチュエータと協働する可動部材の変位によって、内部の容積が変化することになるのだが、「油圧連結要素」である油密室内に発生する油圧力は、弁部材に対して、油密室内の容積が変化しない方向に弁部材を変位させる駆動力として作用する。
【0015】
上記油密室内において上記弁部材の受圧面積は、弁部材の弁座への着座時及び所定のリフトに達するまでは油密室に露出する弁部材の断面積で規定されるのに対し、弁部材のリフトが所定のリフト以上になると、ステップピストンにおいて弁部材に付き当てられる軸端部の断面積を減じられた断面積で規定される。ステップピストンは、大径部内を軸方向に摺動移動可能に設けられており、弁部材の外径よりも小さく形成される上記軸端部を有しているからである。
【0016】
これによると、アクチュエータの変位に対する弁部材の変位の変位変換率を、弁部材の所定のリフトを境界として2段階に切換えることができる。従って、上記変位変換率の切換えが、一つの「油圧連結要素」という簡素な構成で実現できる。しかも、「油圧連結要素」を構成する油密室は一つであるので、アクチュエータのエネルギロス低減が効果的に図れる。
【0017】
以上の請求項1に記載の発明によれば、簡素な構成でアクチュエータの変位に対する弁部材の変位の変換率切換えが可能であるとともに、アクチュエータのエネルギロス低減に優れる燃料噴射弁を得ることができるのである。
【0018】
また、請求項2に記載の発明では、請求項1に記載の燃料噴射弁において、ストッパ部材において弁部材の外径D0より大きい大径部の第1外径をD1、ステップピストンにおいて弁部材の外径D0より小さい軸端部の第2外径をD2、弁部材のリフトHにおいて所定のリフトをH1、で表し、アクチュエータの変位量Lpに対する、弁部材において弁座より上昇する変位量Lbの変位変換率RL(RL=Lb/Lp)は、
【0019】
(数3)H<H1の範囲において、RL=(D1−D0)/D0
【0020】
(数4)H1≦Hの範囲において、RL=(D1−D0)/(D0−D2
に設定されていることを特徴とする
かかる発明では、弁座に着座及び離座する弁部材において着座から離座へ以降時(以下、「開弁開始時」という)において、上記変位変換率RLを小さく設定することができるので、アクチュエータの駆動力のエネルギを低エネルギで開弁開始が実現できる。そして、開弁後は、弁部材のリフトHのH1≦Hの範囲において、上記変位変換率RLを拡大できるので、弁部材の十分なリフト量の確保ができる。したがって、アクチュエータの低エネルギで高燃料圧下の開弁開始と、十分な弁部材のリフト量確保とを両立させることができる。
【0021】
また、請求項3に記載の発明では、筒状の可動部材において断面形状は、弁部材側に向かって先細り形状としていることを特徴とする。
【0022】
かかる発明では、アクチュエータに協働する可動部材は、筒状に形成されているので内側が中空であり、慣性力増加に繋がる可動部材の可動マスを低減できるので、可動部材の移動に生じる慣性力(慣性抵抗ともいう)の増加によるアクチュエータのエネルギロスを回避することができる。
【0023】
しかも、請求項3に記載の発明によれば、筒状の可動部材において断面形状を、弁部材側に向かって先細り形状とする構成としているので、筒状の可動部材の体格を小型化でき、上記可動マスを効果的に低減することができるのである。
【0024】
また、請求項4に記載の発明では、ステップピストンにおいて軸端部とは反対側の他軸端部は、軸端部より大きい第3外径を有し、ステップピストンの他軸端部は、ストッパ部材の大径部においてステップピストンを摺動移動可能に収容する内周面に対して係止する端面を有していることを特徴とする。
【0025】
かかる発明では、弁座に着座及び離座する弁部材は、弁座側の先端部が、燃料圧によって弁部材を離座方向に作用させる受圧部となるだが、弁部材において着座時(以下、「閉弁時」という)には、弁座に当接するシート部より内側の面積区分は燃料圧が作用しないのである。また、弁部材の油密室側の端部は、弁部材を離座方向に作用させる受圧部として機能し、これによって閉弁時において弁部材の弁座へ着座を維持されるのである。よって開弁開始時には、アクチュエータと協働する可動部材の変位により、油密室の作動油圧が一時的に減圧される必要があるのである。このような開弁開始時において、大径部内を軸方向に摺動移動可能に設けられているステップピストンが、油密室に脱落するという懸念がある。
【0026】
請求項4に記載の発明によれば、大径部においてステップピストンを摺動移動可能に収容する内周面に対して係止する端面を、ステップピストンの他軸端に設けるという構成としているので、上記開弁開始時においてステップピストンが、油密室に脱落するのを防止することができる。
【0027】
ここで、かかる発明では、弁部材、変位不能なスットパ部材の大径部、可動部材、及び油密室で「油圧連結要素」を構成しており、アクチュエータの変位に対して、弁部材及び可動部材の慣性マスと、油密室内の作動油(燃料)の体積弾性率と、アクチュエータ自身の弾性係数とにより、燃料噴射弁において少なくとも「油圧連結要素」が共振するという懸念がある。
【0028】
これに対して、請求項5乃至7に記載の発明によれば、ストッパ部材の大径部の弁部材側の端部内に摺動移送可能に、かつ油密室内に挿通されているステップピストンは、ステップピストンの移動を抑止する構成要素を有するので、上記「油圧連結要素」の共振の抑制が図れる。
【0029】
即ち、請求項5に記載の発明では、ステップピストンの他軸端部側には、ステップピストンを弁部材側に付勢する第1付勢部材を備えていることを特徴とする。
【0030】
これによると、上記構成要素として、ステップピストンを弁部材側に付勢する第1付勢部材を設けているので、弁部材のリフトが所定のリフト以上の範囲にあるとき、弁部材に付き当てられるステップピストンは実質的に弁部材と連結でき、油密室内の作動油の圧縮性に繋がる容積変化を回避できる。
【0031】
また、請求項6に記載の発明によれば、噴孔、弁座、および噴孔に連絡する燃料通路を有するハウジングを備え、ハウジングの燃料通路内に、少なくともストッパ部材、ステップピストン、および弁部材を収容するという構成としているので、ステップピストンの両軸端部が接する各燃料圧を、燃料通路内に供給されている燃料の系圧に設定することが可能となる。これにより、ステップピストンの両軸端部に作用する各燃料圧間の差圧量を抑制できるので、ステップピストンの移動抑止が図れる。
【0032】
さらにまた、請求項7に記載の発明によれば、スットパ部材の大径部に対するステップピストンの相対移動速度を抑止する抵抗力発生手段を備え、抵抗力発生手段は、大径部の内周面と、ステップピストンの他軸端部の外周面との間に形成される隙間通路の一部を絞る絞り部という構成、および、ステップピストンの他軸端部に設けられ、大径部の内周面に係止する前記端面に対して軸方向に貫通する連通路という構成、のうちの少なくともいずれか一方の構成要素からなる。
【0033】
これによると、弁部材のリフトが所定のリフト以上の範囲にあるとき、ステップピストンが付き当てらえている弁部材が一定のリフト状態を維持して制御される場合において、上記構成要素からなる抵抗力発生手段によって、「油圧連結要素」の共振の抑止が図れるのである。
【0034】
また、請求項8に記載の発明では、可動部材の軸方向他端部側には、可動部材の軸方向一端部をアクチュエータに突き当てるように、可動部材を付勢する第2付勢部材を備えていることを特徴とする。
【0035】
また、請求項9に記載の発明では、アクチュエータはピエゾアクチュエータであって、ピエゾアクチュエータに非通電、及び通電することにより、弁部材を弁座に着座および離座することを特徴とする。
【0036】
これによれば、ピエゾアクチュエータへの非通電により弁部材を閉弁でき、また通電により弁部材を開弁できるので、燃料噴射弁を、非通電時に閉弁する常閉構造に設定することができる。
【0037】
また、請求項10に記載の発明では、請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の燃料噴射弁において、弁部材は、内外二重に同軸的に配置された第1ニードル、および第2ニードルを有し、弁座は、第1ニードルおよび第2ニードルの各ニードルが独立的に着座および離座する第1シート部、および第2シート部を有し、噴孔は、第1シート部および第2シート部のうちの特定シート部を挟んで配置される第1噴孔、および第2噴孔を有し、かつ第1噴孔および第2噴孔の両者は第1シート部および第2シート部のいずれかの下流部に設けられていることを特徴とする。
【0038】
これによれば、弁部材、弁座、及び噴孔の構成は、内外二重に同軸的に配置された第1ニードル及び第2ニードルと、各ニードルが着座及び離座する各シート部の下流部に第1噴孔及び第2噴孔とを備え、第1ニードル及び第2ニードルのうちの特定ニードルのリフト動作により、第1噴孔及び第2噴孔の特定噴孔を開閉するといういわゆる可変噴孔の燃料噴射弁が得られるのである。このような可変噴孔の燃料噴射弁に、請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の特徴的構成を適用する場合であっても、アクチュエータの変位に対する、弁部材を構成する第1ニードル及び第2ニードルの変位の変位変換率を、切換えることが可能となるのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
以下、本発明の複数の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、各実施形態において対応する構成要素には同一の符合を付すことにより、重複する説明を省略する。
【0040】
(第1実施形態)
図1は、本実施形態による燃料噴射弁を示している。本発明の燃料噴射弁1は、例えばディーゼルエンジンまたは筒内噴射式火花点火内燃機関の気筒内へ直接的に燃料を噴射するものであり、図示しない各気筒共通の蓄圧容器としてのコモンレールから分配供給される高圧燃料を噴射する。なお、本実施形態による燃料噴射弁は、上記気筒内以外の例えば吸気ポートへ燃料を噴射するものにも使用可能である。
【0041】
図1に示すように、燃料噴射弁1は、ハウジング2と、ハウジング2内に収容される燃料噴射弁の構成要素としてのアクチュエータ3、アクチュエータ3に協働する可動部材10、ストッパ部材30、噴孔25を開閉する「弁部材」としてのニードル50、「油密室」としての制御室70、ステップピストン60とを備えている。なお、ハウジング2は、有底筒状の第1ハウジング区分2a及び第2ハウジング区分2bと、締結部材としてのリテーニングナット2cとを有しており、内部に上記構成要素3、10、30、50、60、70を収容する両ハウジング区分2a、2bがリテーニングナット2cによって気密にねじ締結される周知構造のものである。
【0042】
ハウジング2は筒状を呈しており、軸方向一方端部の先端には略円筒状のサック部24、噴孔25、及び弁座23が形成されている。噴孔25はサック部24を連通するように、ハウジング2の内壁と外壁とを貫通している。噴孔25の入口側には燃料溜り室41が形成されている。ハウジング2の内壁には、噴孔25の入口と燃料溜り室41との間に弁座23が形成されており、弁座23にニードル50が着座及び離座する。
【0043】
ハウジング2には、図示しないコモンレールに連通する流入口21が形成され、内部には燃料通路40が形成されている。燃料通路40には、コモンレールの内部と概ね同じ圧力の燃料が供給される。上記燃料溜り室41はこの燃料通路40の一部を構成する。

ハウジング2の内部には、ニードル50、可動部材10、ストッパ部材30、ステップピストン60、及びアクチュエータ3などが設けられ、燃料溜り室41、第1燃料室42、第2燃料室43、及び制御室70などが形成されている。
【0044】
ニードル50は略棒状に形成され、ハウジング2の内部に往復移動可能に収容されている。ニードル50は、軸部53と、軸部53の両軸端部において弁座23側の軸端部54と、反弁座23側の軸端部、即ち制御室70側の軸端部55との間に形成され、径方向外側に延びるフランジ部52を有している。
【0045】
ニードル50の軸端部54は、弁座23に着座及び離座するシート部51を有している。シート部51が弁座23から離座すると、燃料溜り室41と噴孔25、つまり燃料通路40と噴孔25は連通し、噴孔25からの燃料噴射が許容される。一方、シート部51が弁座23に着座すると、燃料通路40と噴孔25とは遮断され、噴孔25からの燃料噴射が停止される。
【0046】
可動部材10は、概ね円筒状に形成され、アクチュエータ3とニードル50の間に配設されている。この円筒状の可動部材10は軸方向一端部10aがアクチュエータ3側の支持台部3aに接しており、軸方向他端部10bがニードル50を内部に収容すると共にニードル50のフランジ部52側に延びている。軸方向他端部10bとニードル50のフランジ部52の間には、「第2付勢部材」としてのアクチュエータスプリング91が挟み込まれており、アクチュエータスプリング91の付勢力が可動部材10をアクチュエータ3側に付勢されるので、可動部材10の軸方向一端部10aがアクチュエータ3側に付き当てられている。
【0047】
また、軸方向他端部10bは、内部に収容する上記ニードル50の外壁に沿って摺動移動可能に形成されている。また、可動部材10の軸方向一端部10a側の内部には、ストッパ部材30の大径部31が収容され、大径部31の外壁に沿って摺動移動可能に形成されている。これによって、可動部材10の内壁と、大径部31のニードル50側の端部と、ニードル50とで制御室70が形成されている。
【0048】
なお、可動部材10及び制御室70の詳細については後述する。
【0049】
ストッパ部材30は、概ね円柱状に形成され、アクチュエータ3とニードル50の間に配設されている。ストッパ部材30は、可動部材10の内壁に対して相対的に摺動移動可能な大径部31と、大径部31において反ニードル50側の端部に設けられ、径方向外側に延びるアーム部32とを備えており、アーム部32は、可動部材10の開口窓19を挿通し、ハウジング2の内壁に架橋されている。そして、アーム部32には、付勢部材93の付勢力によってハウジング2の内壁に係止されている。
【0050】
これによって、ストッパ部材30は、アクチュエータ3、アクチュエータ3に協働する可動部材10、及びニードル50の各変位に対して変位不能に規制されてハウジング2に固定されるのである。
【0051】
ハウジング2において流入口21と噴孔25とを連通する燃料通路40は、以下の燃料系統の通路要素から構成されている。即ち、第2ハウジング区分2bにおいてアクチュエータを内部に収容する内壁で囲まれた第2燃料室43と、第1ハウジング区分2aにおいてニードル50及び可動部材10を内部に収容する内壁で囲まれる第1燃料室42及び燃料溜り室41との各通路要素で構成されている。なお、第1燃料室42と燃料溜り室41はニードル50のフランジ部52で区分けされ、図示しないフランジ部52の外壁に形成される平面部とハウジング2の内壁との隙間通路を通じて両室41、42が連通している。
【0052】
アクチュエータ3は、略円柱状に形成され、一方の端部3bがハウジング2の反弁座23側の端部、即ちハウジング2の軸方向他端部に収容されて配置されている。
【0053】
アクチュエータ3は、ピエゾスタック3cと、ピエゾスタック3cの出力端部側に設けられた支持台部3aとを有している。ピエゾスタック3cは、例えばPZT等の圧電セラミック層と電極層とを交互に積層したものであり、電気的なエネルギが充填されることにより積層方向、即ち軸方向に伸長する。一方、ピエゾスタック3cから電気的なエネルギが放電されることにより軸方向に収縮する。
【0054】
また、収容部材3dは支持台部3aとハウジング2の上記軸方向他端部とを伸縮可能に架橋してピエゾスタック3cの周囲を気密に覆っている。この収容部材3dはピエゾスタック3cを燃料侵入から保護するものである。アクチュエータ3は、図示しない駆動回路にて充放電されることにより軸方向一端部側に伸縮する。上記電極層にはリード線が接続され、上記駆動回路に電気的に接続されている。リード線はハウジング2の外部に気密に取り出されている。
【0055】
以上、燃料噴射弁1の基本構成について説明した。以下、燃料噴射弁1の特徴的構成について説明する。
【0056】
(特徴的構成)
図1に示すように、円筒状の可動部材10は、軸方向一端部10aがアクチュエータ3に突き当てられているのでアクチュエータ3と協働する。アクチュエータ3が伸縮すると、これに伴い、可動部材10の軸方向他端部10b側がアクチュエータ3の変位量と同一の変位をする。
【0057】
上記可動部材10内の中空断面形状は、軸方向他端部10b側に先細り形状に形成されている。可動部材10の内壁11はその内周が段付き円状に形成され、軸方向他端部10b側の内壁11bが、ニードル50の軸端部55の外径D0と相対的に摺動可能な内径に形成されている。一方、軸方向一端部10a側の内壁11aが、ストッパ部材30の大径部31の外径D1に摺動可能な内径に形成されている。
【0058】
また、その円筒状の可動部材10の内壁11及び外壁12の断面形状は、軸方向他端部10b側に先細り形状に形成されている。これにより、可動部材10の体格が小型化され、その慣性マスを低減するように軽量化されるのである。
【0059】
ニードル50とアクチュエータ3との間には、上記可動部材10と、ニードル50とアクチェエータ3及び可動部材10との両者のいずれの変位に対しても変位不能に規制されているストッパ部材30とが配置されている。
【0060】
ストッパ部材30において大径部31は、リフトするニードル50に対して軸方向に常に間隔を置いて配置されている。その大径部31においてニードル50側の端部には、概ね円柱状を呈するステップピストン60が、ニードル50の軸端部55に対して所定の軸方向の間隔H1を置いて配置されている。
【0061】
ステップピストン60は段付き円柱状に形成され、外径D2を有するピストン本体61と、外径D2より大きい係止ピストン部62とを有している。ピストン本体61は、大径部31の内壁33においてニードル50側の内周33aに摺動自在な外径D2を有するものであり、また、係止ピストン部62は、反ニードル50側の内周33b内に移動可能であると共に、内壁33に対して係止可能な端面(以下、係止端面)63を有している。
【0062】
係止ピストン部62のアクチュエータ3側の端部には、「第1付勢部材」としてのスプリング92が設けられており、スプリング92は、係止ピストン部62の端面63を内壁33に係止するように、係止ピストン部62を付勢している。
【0063】
制御室70は、アクチュエータ3に協働する段付き筒状の可動部材10、この可動部材10内で相対的に摺動移動可能なストッパ部材30の大径部31、及びニードル50とで形成される油密室を形成しており、これら制御室70、可動部材10、及びニードル50は「油圧連結要素」を構成している。
【0064】
上記制御室70は、その内部の容積が、アクチュエータ3と協働する可動部材10の変位によって、変化することになるのだが、「油圧連結要素」である故に、その変化に伴い制御室70内に発生する油圧力は、ニードル50に対して、制御室70内の容積が変化しない方向にニードル50を変位させる駆動力として作用するのである。
【0065】
上記制御室70内においてニードル50の受圧面積は、ニードル50の弁座23からの上昇量(以下、リフト)HがH1に達するまでは、ニードル50の軸端部55の断面積で規定される。ニードル50のリフトHがH1以上になると、上記軸端部55にステップピストン60が付き当たるので、上記ニードル50の受圧面積は、ニードル50の軸端部55の断面積から、ステップピストン60の断面積を減じた断面積で規定される。
【0066】
これにより、ニードル50の閉弁時からリフトHがH1に達するまでのリフト範囲においては、ニードル50のリフトHの変位量Lbとアクチュエータ3の変位量Lpは、
【0067】
(数5)Lb=(D1−D0)/D0×Lp
に設定され、
また、ニードル50のリフトHがH1以上のリフト範囲においては、
【0068】
(数6)Lb=(D1−D0)/(D0−D2)×Lp
に設定されるのである。
【0069】
言い換えると、変位量Lpに対する変位量Lbの変位変換率RL(RL=Lb/Lp)が、
【0070】
(数7)リフトHがH<H1の範囲において、RL=(D1−D0)/D0
【0071】
(数8)リフトHがH1≦Hの範囲において、RL=(D1−D0)/(D0−D

に設定されるのである。
【0072】
次に、上述した燃料噴射弁1の作動を、図2に基づいて説明する。図2は、横軸に時間T、縦軸の図2中の上から順に、燃料噴射信号であるパルス特性、アクチュエータ3のピエゾスタック3cへの電圧特性、アクチュエータ3の変位特性、油密室である制御室70内の圧力特性、ニードル50のリフト特性、単位時間ΔT当たりの噴射量ΔQを示す噴射率(ΔQ/ΔT)特性を示している。図2(b)は本実施形態を示し、図2(a)は比較例としてステップピストンを有しない場合を示している。また図2(b)中のニードル50のリフト特性においては、ステップピストン60の挙動特性を破線で示している。パルス特性は制御回路から駆動回路へ出力する指令信号であり、制御回路にてエンジンの運転状態に応じて最適な噴射期間及び噴射開始時期に決定され、当該噴射期間及び噴射開始時期に対応した噴射開始指令信号及び噴射終了指令信号を表している。また、アクチュエータ3への電圧特性は、アクチュエータを駆動する駆動回路の駆動信号特性を示している。
【0073】
図2(b)に示すように、パルス特性がONになると、アクチュエータ3に通電され、アクチュエータ3が伸長方向に変位する。アクチュエータ3へ通電制御される電圧特性は、所定の過渡特性速度で電圧が昇圧し、一定の電圧で制御される。
【0074】
上記電圧特性における過渡特性によって、アクチュエータ3の伸長が変位量Lp1になると、制御室70内の圧力Pが基準圧力P0に対して圧力差ΔP分減圧される圧力(以下開弁圧力)に達する。この油密室である制御室70の開弁圧力は、ニードル50が閉弁状態を維持したまま、上記変位量Lp1のアクチュエータの伸長による制御室70の容積変化によって形成される。
【0075】
弁座23に着座及び離座するニードル50は、弁座23側の先端部(軸端部)54が、燃料通路40から供給される燃料の燃料圧によってニードル50を離座方向に作用させる受圧部となるが、ニードル50の閉弁時において、弁座23に着座するニードル50のシート部51の内側の面積区分には燃料圧が作用しないのである。それ故に、開弁開始時には、アクチュエータ3と協働する可動部材10の上記変位量Lp1によって、制御室70内の圧力Pを一時的に減圧させる必要があるからである。
【0076】
次に、アクチュエータ3の伸長が変位量Lp1を超え、制御室70内の圧力Pが開弁圧力以下になると、ニードル50が弁座23より離座し、燃料が噴孔25より噴射される。ニードル50が開弁すると、ニードル50の先端部54の受圧面積が制御室70側の軸端部55の受圧面積と同一になるため、制御室70の圧力は上昇し、燃料溜まり室41内の燃料圧、即ち燃料通路40のコモンレール圧である基準圧力P0へ復元されるようになる。
【0077】
ニードル50のリフトHがH1に達するまでの範囲では、制御室70の圧力の上記復元特性が、図2(b)の本実施例と図2(a)の比較例とはほぼ同じとなる。ニードル50のリフトHがH1に達すると、ステップピストン60がニードル50の軸端部55に付き当たり、ステップピストン60がニードル50と協働してリフトを開始する。言い換えると、リフトH<H1の範囲におけるアクチュエータ3の変位に対するニードル50のリフトHの変位変換率RL1((数7)中のRL
に相当)より、リフトH≧H1の範囲における変位変換率RL2((数8)中のRLに相
当)が大きくなり、同一設定のアクチュエータ3の変位量で比較したときの上記比較例に対する本実施形態でのニードル50のリフトHがアップでき、ひいては噴射率もアップが図れるのである。
【0078】
一方、パルス特性がOFFになると、アクチュエータ3への通電が停止され、アクチュエータ3が伸長方向に変位する。そして制御室70の容積が縮小方向に変化するので、制御室70の圧力Pが基準圧力P0より加圧されながら、その制御室70の油圧力によりニードル50を弁座23方向に移動させる。ニードル50が弁座23に着座すると、噴孔25からの燃料噴射が停止する。
【0079】
以上説明した本実施形態では、アクチュエータ3の変位に対するニードル50の変位変換率を切換える構成を、制御室70、可動部材10、及びニードル50とからなる一つの「油圧連結要素」という簡素な構成で実現できる。しかも、「油圧連結要素」を構成する油密室である制御室70は一つであるので、アクチュエータ3のエネルギロスの低減が効果的に図れる。
【0080】
また、以上説明した本実施形態では、開弁開始時において、上記変位変換率RLをRL1に小さく設定できるので、アクチュエータ3の駆動力エネルギを低エネルギで開弁開始できる。そして、開弁後は、リフトH≧H1の範囲において、上記変位変換率RLをRL2と拡大できるので、ニードル50の十分なリフト量の確保ができる。したがって、アクチュエータ3の低エネルギで高燃料圧下の開弁開始と、ニードル50の十分なリフト量の確保とが両立できる。
【0081】
また、以上説明した本実施形態では、アクチュエータ3に協働する可動部材10は、筒状に形成されているので内側が中空であり、慣性力増加に繋がる可動部材10の可動マスを低減できるので、可動部材10の移動により生じ慣性力増加によるアクチュエータ3のエネルギロスを回避することができる。しかも、可動部材10の断面形状をニードル側に向かって先細り形状としているので、上記筒状の可動部材10の体格を小型化でき、上記可動マスが更に効果的に低減されるのである。
【0082】
また、以上説明した本実施形態では、ストッパ部材30において大径部31の内壁33に、摺動移動可能なステップピストン60は、大径部31の内壁33の内周33a、33bに係止する端面63を有しているので、開弁開始時においてステップピストン60が、制御室70の減圧により制御室70に脱落するのを防止している。
【0083】
また、以上説明した本実施形態では、上記ステップピストン60をニードル50側に付勢するスプリング92を備えているので、ニードル50のリフトHがH1以上の範囲にあるとき、ニードル50に突き当てられるステップピストン60は実質的にニードル50と連結でき、制御室70内の作動油(燃料)の圧縮性に繋がる容積変化を回避することができる。
【0084】
また、ハウジング2の燃料通路40内に、少なくともストッパ部材30、ステップピストン60、及びニードル50を収容するという構成としているので、ステップピストン60の両軸端部が接する燃料圧を、燃料通路40内に供給されている燃料の系圧に設定することが可能となる。これにより、ステップピストン60の両軸端部に作用する各燃料圧間の差圧量を抑制できるので、ステップピストン60の移動抑止が図れる。
【0085】
また、以上説明した本実施形態では、アクチュエータ3はピエゾスタック33からなるピエゾアクチュエータであり、アクチュエータ3に非通電、及び通電することにより、ニードル50を弁座23に着座及び離座するという構成としている。これによれば、アクチュエータ3への非通電によりニードル50の閉弁ができ、また通電によりニードル50の開弁ができるので、燃料噴射弁1を、非通電時に常に閉弁する常閉構造に設定することができる。
【0086】
(第2実施形態)
第2実施形態を図3に示す。第2実施形態は第1実施形態の変形例である。第2実施形態では、ストッパ部材30の大径部31の内壁33内を相対摺動移動するステップピストン60において、ステップピストン60の相対移動速度を抑止する抵抗力発生手段を設けた一例を示すものである。図3(a)〜(c)は各態様の一例を示している。
【0087】
上記抵抗力発生手段の一例としては、図3(a)に示すように、ステップピストン60の係止ピストン部62の外周と、大径部31の内壁33の内周33bとの間の隙間δに形成される隙間通路44の一部を絞る絞り部45を設ける構成としている。
【0088】
また、上記抵抗力発生手段の他の一例としては、図3(b)に示すように、ステップピストン60において係止ピストン部62に設けられ、大径部31の内壁33に係止する係止端面63に対して軸方向に貫通する連通路65を設ける構成としている。
【0089】
また、上記抵抗力発生手段の他の一例としては、図3(c)に示すように、上記隙間通路44の隙間δを所定隙間に絞る構成としている。
【0090】
これら構成のいずれかによれば、リフトH≧H1の範囲にあるとき、ステップピストン60が突き当てられているニードル50が一定のリフト状態を維持するように制御される場合において、上記構成からなる抵抗力発生手段によって上記「油圧連結要素」の共振の抑止が図れる。
【0091】
(第3実施形態)
第3実施形態を図4に示す。第3実施形態は第1実施形態の変形例である。第3実施形態では、弁部材150、弁座23、及び噴孔125の構成を、内外二重に同軸的に配置された第1ニードル250及び第2ニードル350と、各ニードルが着座及び離座する各シート部251、351の下流部に第1噴孔225及び第2噴孔335とを備え、第1ニードル及び第2ニードルのうちの特定ニードルのリフト動作により、第1噴孔及び第2噴孔のうちの特定噴孔を開閉するといういわゆる可変噴孔の燃料噴射弁に適用した一例を示すものである。
【0092】
図4に示すように、弁部材150は、中空円筒状を呈する第1ニードル250と、第1ニードル250の内側に同軸的に配置された第2ニードル350を有している。第1ニードル250は、弁座23に着座及び離座する先端部254にシート部251と、制御室70側の軸端部255と、先端部254及び軸端部255間を繋ぎ、フランジ部252を有する軸部253とを備えている。第2ニードル350は、弁座23に着座及び離座する先端部354にシート部351と、制御室70側の軸端部355と、先端部354及び軸端部355間を繋ぐ軸部253とを備えている。なお、第2ニードル350の軸部353の外径D3は、第1ニードル250の軸端部255及び軸部253の外径D0より小さい。
【0093】
第1ニードル250は、外径D0を有する軸端部255内に、第2ニードル350の軸端部355を相対移動可能に収容するとともに、軸端部255及び軸端部355が軸方向間隔H2を置いて係止可能に配置されている。ここで、所定間隔H2は所定間隔H1より小さく形成されている(H2<H1)。
【0094】
第2ニードル350において軸端部355は、ステップピストン60に対して軸方向間隔H1を置いて配置されている。また、上記軸端部355とステップピストン60の間には、第2ニードル350を弁座23側に付勢する付勢部材94が挟み込まれている。
【0095】
第1ニードル250の先端部254及び第2ニードル350の先端部354において、燃料通路40の燃料は、ます、外側に配置されている第1ニードル250の先端部254側に導かれ、第2ニードル250が開弁すると、第2ニードル350の先端部254側にも導かれるようになっている。
【0096】
また、第1ニードル250が開弁し、第1ニードル250のリフトHがH2に達すると、第2ニードル350の軸端部355が第1ニードル250の軸端部255に係止するので、第1ニードル250と第2ニードル350が一体となる。
【0097】
一体となった第1ニードル250及び第2ニードル350のリフトHがH1に達すると、ステップピストン60に付き当てられる。
【0098】
このような構成においても、第1実施形態と同様な効果を得ることができる。
【0099】
(他の実施形態)
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、かかる実施形態に限定して解釈されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内において種々の実施形態に適用可能である。
【0100】
(1)以上説明した本実施形態では、可動部材10を円筒状としたが、これに限らず、断面形状が円状、四角状、あるいは楕円状などいずれの筒状であってもよい。
【0101】
(2)以上説明した本実施形態では、可動部材10を一つの筒状部材としたが、複数の筒状区分に分割される構成としてもよい。この場合、可動部材はアクチュエータ3とアクチュエータスプリング91の間に挟み込まれているので、アクチュエータスプリング91の付勢力によって複数の筒状区分間を気密にシールすることができ、ひいては制御室70の油密を確保することができるからである。
【0102】
(3)以上説明した本実施形態では、ストッパ部材30をアクチュエータ3及びニードル50の変位に対して変位不能に規制する構成として、大径部31に径方向外側に延びるアーム部32を設け、アーム部32を可動部材の開口窓19に挿通するようにした。これに限らず、アクチュエータ3及びニードル50の変位に対して変位不能に規制する構成であればいずれの構成であってもよい。
【0103】
(4)以上説明した本実施形態では、上記ストッパ部材30においてアーム部32をハウジング2の内壁に固定する方法として、アーム部32を内壁に付勢する付勢部材93を設けた。これに限らず、アーム部32をハウジングの内壁に接合する方法、第1ハウジング区分2aと第2ハウジング区分2bの両区分間に挟み込むなどの方法であってもよい。
【0104】
(5)以上説明した第2実施形態では、ステップピストン60の相対移動速度を抑止する抵抗力発生手段の一例として、図3(a)、図3(b)、及び図3(c)の各態様を説明したが、各態様の特徴的構成のうち、特定の特徴的構成を有するものに限らず、これらの特徴的構成を組合せたものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】本発明の第1実施形態による燃料噴射弁を示す断面図である。
【図2】図1の燃料噴射弁の作動を説明する模式図であって、図2(a)は比較例の作動を示すタイムチャート、図2(b)は本実施形態による特徴的構成に係わる作動を示すタイムチャートである。
【図3】第2実施形態に係わる燃料噴射弁の特徴的部分を示す図であって、図3(a)〜(c)は各態様の一例を示す部分断面図である。
【図4】第3実施形態に係わる燃料噴射弁を示す断面図である。
【符号の説明】
【0106】
1 燃料噴射弁
2 ハウジング
2a 第1ハウジング区分
2b 第2ハウジング区分
2c リテーニングナット
3 アクチュエータ
3a 支持台部
3b 一方の端部
3c ピエゾスタック
3d 収容部材
10 可動部材
10a 軸方向一端部
10b 軸方向他端部
11 内壁
12 外壁
19 開口窓
21 流入口
23 弁座
24 サック部
25 噴孔
30 ストッパ部材
31 大径部
32 アーム部
33 内壁
33a、33b 内周
40 燃料通路
41 燃料溜まり室
42 第1燃料室
43 第2燃料室
50 ニードル(弁部材)
51 シート部
52 フランジ部
53 軸部
54 先端部(軸端部)
55 軸端部
60 ステップピストン
61 ピストン本体
62 係止ピストン部
63 係止端面(端面)
70 制御室(油密室)
91 アクチュエータスプリング(第2付勢部材)
92 スプリング(第1付勢部材)
93 付勢部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弁座に着座および離座する弁部材を駆動することにより燃料を噴射する燃料噴射弁において、
前記弁部材を直接的に操作するアクチュエータであって、通電により変位を発生するアクチュエータと、
前記弁部材と前記アクチュエータとの間に設けられ、筒状を呈する可動部材であって、軸方向一端部が前記アクチュエータに付き当てられ、軸方向他端部が、内部に前記弁部材を摺動移動可能に収容する可動部材と、
前記弁部材と前記アクチュエータとの間に設けられ、前記弁部材と前記アクチュエータの両者の変位に対して変位不能に規制されているストッパ部材であって、前記可動部材の内壁を相対的に摺動移動可能、かつ前記弁部材の外径より大きい大径部を有し、前記大径部が前記弁部材に対して軸方向に間隔を置いて配置されているストッパ部材と、
前記ストッパ部材において前記大径部の前記弁部材側の端部と、前記可動部材の前記内壁と、前記弁部材とで形成される油密室と、
前記大径部の前記端部側に設けられ、前記大径部内を軸方向に摺動移動可能な円柱状を呈するステップピストンであって、前記弁部材の前記外径よりも小さく形成され、かつ前記弁部材が前記弁座より上昇した所定のリフト時において前記弁部材に付き当てられる軸端部を有するステップピストンと、
を備えていることを特徴とする燃料噴射弁。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料噴射弁において、
前記ストッパ部材において前記弁部材の外径D0より大きい前記大径部の第1外径をD1、
前記ステップピストンにおいて前記弁部材の外径D0より小さい前記軸端部の第2外径をD2、
前記弁部材のリフトHにおいて所定のリフトをH1、
で表し、
前記アクチュエータの変位量Lpに対する、前記弁部材において前記弁座より上昇する変位量Lbの変位変換率RL(RL=Lb/Lp)は、
(数1)
H<H1の範囲において、
RL=(D1−D0)/D0
(数2)
H1≦Hの範囲において、
RL=(D1−D0)/(D0−D2
に設定されていることを特徴とする燃料噴射弁。
【請求項3】
前記筒状の可動部材において断面形状は、前記弁部材側に向かって先細り形状としていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の燃料噴射弁。
【請求項4】
前記ステップピストンにおいて前記軸端部とは反対側の他軸端部は、前記軸端部より大きい第3外径を有し、
前記ステップピストンの前記他軸端部は、前記ストッパ部材の前記大径部において前記ステップピストンを摺動移動可能に収容する内周面に対して係止する端面を有していることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の燃料噴射弁。
【請求項5】
前記ステップピストンの前記他軸端部側には、前記ステップピストンを前記弁部材側に付勢する第1付勢部材を備えていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の燃料噴射弁。
【請求項6】
前記噴孔、前記弁座、および前記噴孔に連絡する燃料通路を有するハウジングを備え、
前記ハウジングの前記燃料通路内に、少なくとも前記ストッパ部材、前記ステップピストン、および前記弁部材が収容されていることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の燃料噴射弁。
【請求項7】
前記ストッパ部材の前記大径部の前記内周面内を相対摺動移動する前記ステップピストンに対して、前記ステップピストンの相対移動速度を抑止する抵抗力発生手段を備え、
前記抵抗力発生手段は、
前記大径部の前記内周面と、前記他軸端部の外周面との間に形成される隙間通路の一部を絞る絞り部、
および、前記他軸端部に設けられ、前記大径部の前記内周面に係止する前記端面に対して軸方向に貫通する連通路、
のうちの、少なくともいずれか一方で構成されていることを特徴とする請求項4から請求項6のいずれか一項に記載の燃料噴射弁。
【請求項8】
前記可動部材の前記軸方向他端部側には、前記可動部材の前記軸方向一端部を前記アクチュエータに突き当てるように、前記可動部材を付勢する第2付勢部材を備えていることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の燃料噴射弁。
【請求項9】
前記アクチュエータはピエゾアクチュエータであって、前記ピエゾアクチュエータに非通電、及び通電することにより、前記弁部材を前記弁座に着座および離座することを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の燃料噴射弁。
【請求項10】
請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の燃料噴射弁において、
前記弁部材は、内外二重に同軸的に配置された第1ニードル、および第2ニードルを有し、
前記弁座は、前記第1ニードルおよび前記第2ニードルの各ニードルが独立的に着座および離座する第1シート部、および第2シート部を有し、
前記噴孔は、前記第1シート部および前記第2シート部のうちの特定シート部を挟んで配置される第1噴孔、および第2噴孔を有し、かつ前記第1噴孔および前記第2噴孔の両者は前記第1シート部および前記第2シート部のいずれかの下流部に設けられていることを特徴とする燃料噴射弁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−19147(P2010−19147A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−179401(P2008−179401)
【出願日】平成20年7月9日(2008.7.9)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】