説明

燃料電池のドライアップ回復装置、及び燃料電池システム

【課題】燃料電池の電解質膜がドライアップ状態にあり、且つ蓄電手段の蓄電量が最大蓄電容量に達している場合でも燃料電池の発電を継続でき、これによりドライアップ状態を常に正常な状態に回復させることができる技術の提供を課題とする。
【解決手段】燃料電池11と、蓄電手段12と、燃料電池11の発電電力を蓄電手段12側又は商用電力系13側に切り替えて流す切替手段14と、電解質膜がドライアップ状態にあると判断し、且つ蓄電手段12の蓄電量が最大蓄電容量に達していると判断した場合には、切替手段14を商用電力系13側に切り替える制御手段15と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池のドライアップ回復装置、及び燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、内部の電解質膜の含水量が不足した場合(ドライアップ状態)には、電解質膜の導電率が低下して電気抵抗が増大し出力が低下する。従来、電解質膜がドライアップ状態の場合には、燃料電池の発電量を増加して電解質の水分を内部から増加させることにより、ドライアップ状態を正常な状態に回復させる技術が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2004−265862号公報
【特許文献2】特開2002−237319号公報
【特許文献3】特開2006−345621号公報
【特許文献4】特開2007−228685号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来の技術では、燃料電池の発電電力を蓄電手段に蓄電し蓄電手段の蓄電電力によってモータを駆動する車両等では、燃料電池の電解質膜がドライアップ状態にあり、且つ蓄電手段の蓄電量が最大蓄電容量に達している場合には燃料電池の運転を継続できず、電解質膜のドライアップ状態を正常な状態に回復させることができないという問題があった。これは、電解質膜の含水量は燃料電池の発電によって内部から増加させる必要があり、蓄電手段の蓄電量が最大蓄電容量に達している場合には、燃料電池の発電を継続できないからである。なお、電解質膜のドライアップ状態は、燃料電池の温度が低下しても回復しない。
【0004】
本発明は、このような問題に鑑みなされたもので、燃料電池の発電電力を蓄電する蓄電手段の蓄電量が最大蓄電容量に達している場合でも、燃料電池の発電を継続でき、これにより電解質膜のドライアップ状態を常に正常な状態に回復させることができる技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は前記課題を解決するために、以下の手段を採用した。
すなわち、本発明の燃料電池のドライアップ回復装置は、燃料電池の発電電力を蓄積する蓄電手段と、前記燃料電池の発電電力を前記蓄電手段側又は商用電力系側に切り替えて流す切替手段と、前記燃料電池の電解質膜がドライアップ状態か否かを判断すると共に、前記蓄電手段の蓄電量が最大蓄電容量に達しているか否かを判断し、前記電解質膜がドライアップ状態であると判断し、且つ前記蓄電手段の蓄電量が最大蓄電容量に達していると判断した場合には、前記切替手段を前記商用電力系側に切り替え、前記蓄電手段が最大蓄電容量量に達していないと判断した場合には、前記切替手段を前記蓄電手段側に切り替える制御手段と、を備える。
【0006】
本発明によれば、燃料電池の起動時に燃料電池の電解質膜がドライアップ状態にあり、且つ蓄電手段の蓄電量が最大蓄電容量に達している場合には、制御手段は切替手段を商用電力系側に切り替える。これにより、燃料電池の発電を継続できるので、電解質膜のドライアップ状態を正常な状態に回復させることができる。
【0007】
また、燃料電池の起動時に、燃料電池の電解質膜がドライアップ状態にあり、且つ蓄電
手段の蓄電量が最大蓄電容量に達していない場合には、制御手段は切替手段を蓄電手段側に切り替える。この場合も、燃料電池の発電を継続できるので、電解質膜のドライアップ状態を正常な状態に回復させることができる。なお、燃料電池の運転中に、電解質膜のドライアップ状態が回復する前に蓄電手段の蓄電量が最大蓄電容量に達した場合は、制御手段は切替手段を商用電力系側に切り替える。これにより、燃料電池の発電を継続できるので、ドライアップ状態を正常な状態に回復させることができる。
【0008】
また、本発明の燃料電池システムは、燃料電池と、上記燃料電池のドライアップ回復装置と、を備える
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、燃料電池の起動時に電解質膜がドライアップ状態にあり、且つ蓄電手段の蓄電量が最大蓄電容量に達している場合でも、燃料電池の発電を継続できるので、燃料電池における電解質膜のドライアップ状態を常に正常な状態に回復させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明を実施するための最良の形態(以下、実施形態という)に係る燃料電池システムについて説明する。なお、以下の実施形態の構成は例示であり、本発明は実施形態の構成には限定されない。
【0011】
図1は、本発明の実施形態に係る燃料電池システム10を適用した車両1を示す。燃料電池システム10は、燃料電池11と、燃料電池のドライアップ回復装置20と、を備える。
【0012】
ドライアップ回復装置20は、燃料電池11の発電電力を蓄電する蓄電手段12と、燃料電池11の発電電力を蓄電手段12側又は商用電力系13側に切り替えて流す切替手段14と、を備えている。
【0013】
また、このドライアップ回復装置20は、燃料電池11の電解質膜がドライアップ状態か否かを判断すると共に、蓄電手段12の蓄電量が最大蓄電容量に達しているか否かを判断し、電解質膜がドライアップ状態であると判断し、且つ蓄電手段12の蓄電量が最大蓄電容量に達していると判断した場合は、切替手段14を商用電力系13側に切り替え、蓄電手段12の蓄電量が最大蓄電容量に達していないと判断した場合は、切替手段14を蓄電手段12側に切り替える制御手段15を備えている。
【0014】
更に、このドライアップ回復装置20は、切替手段14と商用電力系13との間に配置され、燃料電池11の発電電力を直流から交流に変換する直流/交流変換手段16と、燃料電池11の発電電圧を計測する電圧計17と、蓄電手段12の蓄電量を検出する蓄電計18とを備える。なお、図1中の符号19は、蓄電手段12から出力される電力によって駆動される車両駆動用モータである。
【0015】
次に、上記各構成要素について説明する。燃料電池11は、固体高分子型燃料電池(PEFC)を例示できる。この燃料電池11は、一般的な構成を使用できるので、ここではその概略について説明する。
【0016】
燃料電池11は、少なくとも1つのセルから構成されている。セルは、固体高分子電解質膜と、固体高分子電解質膜を両側から挟む燃料極(アノード)及び空気極(酸化剤極:カソード)と、これらの燃料極及び空気極を挟む燃料極側セパレータ及び空気極側セパレータとから構成されている。
【0017】
燃料極は、拡散層と触媒層とを有している。水素ガスや水素リッチガスなどの水素を含む燃料が、燃料供給系により燃料極に供給される。燃料極に供給された燃料は、拡散層で拡散され触媒層に到達する。触媒層では、水素がプロトン(水素イオン)と電子とに分離される。水素イオンは固体高分子電解質膜を通って空気極に移動し、電子は外部回路(図示せず)を通って空気極に移動する。
【0018】
一方、空気極は、拡散層と触媒層とを有する。空気等の酸化剤ガスが、酸化剤供給系により空気極に供給される。空気極に供給された酸化剤ガスは、拡散層で拡散され触媒層に到達する。触媒層では、酸化剤ガスと、固体高分子電解質膜を通って空気極に到達した水素イオンと、外部回路を通って空気極に到達した電子とによる反応を通じて水が生成される。
【0019】
燃料極及び空気極における反応の際に外部回路を通る電子が、燃料電池11の両端子間に接続される負荷に対する電力として使用される。また、燃料電池11には、燃料を供給及び排出するための燃料供給/排出系と、酸化剤を供給及び排出するための酸化剤供給/排出系とが接続される。なお、図1においては、燃料供給/排出系、酸化剤供給/排出系の構成を省略したが、これらの構成は一般的なものを使用できる。
【0020】
蓄電手段12は、燃料電池11の発電電力を蓄電する。この蓄電手段12の放充電は制御手段15によって制御される。蓄電手段12としては、二次電池(バッテリー)、キャパシタ等を例示できる。
【0021】
商用電力系13は、電力会社から電力の供給を受け、又は電力会社に電力を供給するための経路である。直流/交流変換手段16は、例えば家庭用の太陽発電装置などに付属している一般的なコンバータ等を例示できる。蓄電計18は、蓄電手段12への電力の出入りを計測して積算する等の一般的な構成を使用できる。また、切替手段14は一般的な電源切替器等を使用でき、電圧計17も一般的なものを使用できる。
【0022】
次に、この燃料電池システム1の作用を説明する。燃料電池11を起動する際に、燃料電池11の固定高分子電解質膜がドライアップ状態にある場合は、そのままでは燃料電池11の発電量が低下するので、ドライアップ状態を正常な状態に回復させる必要がある。
【0023】
固定高分子電解質膜のドライアップによって、燃料電池11内のプロトンの移動が抑制され、燃料電池11の内部抵抗が増加する。従って、ドライアップの程度は、燃料電池11の電流と電圧の特性(いわゆるIV特性)から推定できる。なお、燃料電池11の内部抵抗の測定方法としては、他に、燃料電池11の出力端子に、交流電圧を加えそのときに流れる交流電流から測定する方法が知られている。
【0024】
燃料電池11の固体高分子電解質膜がドライアップ状態にある場合は、制御手段15は、まず蓄電手段12の蓄電量を検出し、当該蓄電量が蓄電手段12の最大蓄電容量に達しているか否かを判断する。ここで、制御手段15が蓄電手段12の蓄電量が最大蓄電容量に達していないと判断した場合には、制御手段15は切替手段14を蓄電手段12側に切り替え、燃料電池11の発電電力を蓄電手段12に蓄電する。これにより、燃料電池11の発電が継続され、燃料電池11における固体高分子電解質膜のドライアップ状態を正常な状態に回復させることができる。
【0025】
燃料電池11の発電電力を蓄電手段12に蓄電している最中に、蓄電手段12の蓄電量が最大蓄電容量に達し、且つ固体高分子電解質膜のドライアップ状態が正常な状態に回復していない場合は、制御手段15は切替手段14を商用電力系13側に切り替える。これ
により、燃料電池11の発電電力が商用電力系13に供給されるので、燃料電池11の発電が継続される。そして、燃料電池11の発電電力(直流)が直流/交流変換手段16によって交流に変換されて、商用電力系13に流される。これによって、燃料電池11の発電を継続できるので、固体高分子電解質膜のドライアップ状態を正常な状態に回復させることができる。
【0026】
また、燃料電池11の起動時に、燃料電池11の固体高分子電解質膜がドライアップ状態にあり、且つ蓄電手段12の蓄電量が最大蓄電容量に達している場合には、制御手段15は切替手段14を商用電力系13側に切り替える。これにより、燃料電池11の発電電力は直流/交流変換手段16を介して商用電力系13に流される。この場合は、蓄電手段12の蓄電量が最大蓄電容量に達していても、燃料電池11の発電を継続できるので、固定高分子電解質膜のドライアップ状態を正常な状態に回復させることができる。
【0027】
なお、ドライアップ状態を正常な状態に回復するのに必要な燃料電池11の発電継続時間は、ドライアップ状態の時における固体高分子電解質膜の含水量によって変わる。すなわち、固体高分子電解質膜の含水量が非常に少ない場合は燃料電池11の発電継続時間を比較的長くし、含水量が比較的多い場合には発電継続時間を比較的短くできる。従って、制御手段15は、電圧計17が示す電圧に基づいて、電解質膜のドライアップ状態が正常な状態に回復したと判断した場合に、燃料電池11の発電を停止させることができる。
【0028】
なお、上記実施形態では、蓄電手段12の蓄電電力を車両駆動用モータ19に供給する構成としたが、車両1の移動中には燃料電池11の発電電力を車両駆動用モータ19に直接供給し、余剰の発電電力を蓄電手段12に供給するようにできる。
【0029】
図2は、燃料電池システム10の起動処理を示すフローチャートである。ここでは、まず、燃料電池11を起動する(S1)。次に、制御手段15は、燃料電池11の固定高分子電解質膜がドライアップ状態にあるか否かを判断する(S2)。
【0030】
ステップ(S2)で、制御手段15が固体高分子電解質膜はドライアップ状態であると判断した場合は、次に、制御手段15は、蓄電手段12の蓄電量が最大蓄電容量に達しているか否かを判断する(S3)。ステップ(S3)で、制御手段15が蓄電手段12の蓄電量は最大蓄電容量に達していると判断した場合は、次に、制御手段15は切り替え手段14を商用電力系13側に切り替える(S4)。
【0031】
次に、制御手段15は、燃料電池11の発電を継続させる(S5)。これにより、燃料電池11における固定高分子電解質膜のドライアップ状態が正常な状態に回復する(S6)。
【0032】
また、ステップ(S2)で、制御手段15が燃料電池11の固体高分子電解質幕はドライアップ状態ではないと判断した場合は、この処理を終了する。ステップ(S3)で、制御手段15が蓄電手段12の蓄電量は最大蓄電容量に達していないと判断した場合は、次に、制御手段は15切替手段14を蓄電手段12側に切り替える(S7)。次に、ステップ(S5)以降の処理を行う。
【0033】
本発明によれば、燃料電池11の起動時に固定高分子電解質膜がドライアップ状態にあり、且つ蓄電手段12の蓄電量が最大蓄電容量に達している場合は、燃料電池11の発電電力を商用電力系13に流すので、燃料電池11の発電を継続できる。従って、燃料電池11の固体高分子電解質膜のドライアップ状態を正常な状態に回復させることができる。
【0034】
また、燃料電池11の起動時に固体高分子電解質膜がドライアップ状態にあり、且つ蓄
電手段12の蓄電量が最大蓄電容量に達していない場合は、燃料電池11の発電電力を蓄電手段12で蓄電することにより、燃料電池11の発電を継続でき、燃料電池11の固体高分子電解質膜のドライアップ状態を正常な状態に回復させることができる。
【0035】
このように、本発明によれば、蓄電手段12の蓄電量が最大蓄電容量に達している場合でも、常に燃料電池11の固体高分子電解質膜のドライアップ状態を正常な状態に回復させることができる。
【0036】
なお、従来、商用電力系側に車両の燃料電池を管理する管理手段を備え、車両の燃料電池を商用電力系に接続して、管理手段が車両から供給された車両情報に基づいて燃料電池の発電電力を商用電力系に流すように要求することにより、燃料電池の発電電力を商用電力系に供給する技術が知られている(例えば、特許文献3参照)。
【0037】
しかし、この技術では、商用電力系側の管理手段の要求がない場合には、燃料電池がドライアップ゜状態にある場合であっても、燃料電池による発電が行われないためドライアップ状態を回復できない。
【0038】
これに対して、本発明では、燃料電池11がドライアップ状態にある場合は、燃料電池システム1のドライアップ状態回復装置20によって常にドライアップ状態を回復できる。なお、車両一台程度の燃料電池の発電電力(100kW程度)を商用電力系13に流したとしても商用電力系13側には殆ど影響がないので、燃料電池11の発電電力を任意のタイミングで商用電力系13に流すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】実施形態に係る燃料電池システムを適用した車両を示す図である。
【図2】実施形態の燃料電池の起動処理を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0040】
1 車両
10 燃料電池システム
11 燃料電池
12 蓄電手段
13 商用電力系
14 切替手段
15 制御手段
16 直流/交流交換手段
17 電圧計
18 蓄電残量計
19 車両駆動モータ
20 ドライアップ状態回復装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池の発電電力を蓄積する蓄電手段と、
前記燃料電池の発電電力を前記蓄電手段側又は商用電力系側に切り替えて流す切替手段と、
前記燃料電池の電解質膜がドライアップ状態か否かを判断すると共に、前記蓄電手段の蓄電量が最大蓄電容量に達しているか否かを判断し、前記電解質膜がドライアップ状態であると判断し、且つ前記蓄電手段の蓄電量が最大蓄電容量に達していると判断した場合は、前記切替手段を前記商用電力系側に切り替え、前記蓄電手段の蓄電量が最大蓄電容量に達していないと判断した場合は、前記切替手段を前記蓄電手段側に切り替える制御手段と、
を備える燃料電池のドライアップ回復装置。
【請求項2】
前記切替手段を前記商用電力系側に切り替えた際に、前記燃料電池に供給する燃料及び酸化剤ガスを通常時に比べて増加させる燃料等供給増加手段を、更に備える請求項1に記載の燃料電池のドライアップ回復装置。
【請求項3】
燃料電池と、
請求項1または2に記載の燃料電池のドライアップ回復装置と、
を備える燃料電池システム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−21000(P2010−21000A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−179973(P2008−179973)
【出願日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【Fターム(参考)】